「なあ」
あいつは振り向かない。
すでに日は暮れていた。
夜空に秋の鳴き声と風の音と―。
金網にボールがぶつかる音が響いていた。
ここは帝王大学第二グラウンド。
「寒空でいつまでもやっていると、肩壊すぞ?」
忠告。
それは捕手として、チームメイトとして、そして友人として。
俺、猫神優の言葉だった。
「…」
返答の代わりにボールを投げ、カシャンという音を立てる。
でもあいつはまだ振り向かない。
「そんなに監督の言葉、気にしているのか?」
「―うるさいな」
ようやく視線をもらえた。
ただし、怒りに満ちた険しい目つきで。
「そんなに僕を蔑むことが楽しいのかい?猫神」
犬河和音は自虐的な笑いを浮かべて、質問を返してくる。
そういえば、こいつは昔から自嘲癖があったなと今更ながらに思い出した。
「…そんなわけじゃない」
それはもちろん本心からの言葉だけれど。
否定の言葉に犬河が過敏に反応する。
常にトップを走り続け、弱い部分を見せなかったこいつだからこそなんだろう。
「何がだよ!監督に力を認めてもらって嬉しいんだろ?余計な同情なんかいらないよ!」
そう言ったあいつの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「皆さんの成長には目を見張るものがありますね」
今日の練習後、そう監督が切り出した。
帝王大学では恒例になっている練習後のミーティング。
いつもは「次の大会では必ずや…」というお決まりの文句だけなので、正直うんざりしていたけれど。
この時ばかりは耳を疑った。
結果にしか興味がないはずのうちの監督が、俺たちの成長云々の話をするなんて。
誰もがそのことに(たとえお世辞だろうとしても)、嬉しさを感じたことだろう。
次の言葉を聞くまでは。
「…しかしダメな者もいます。そう、例えば犬河君のように」
皆の顔が青ざめていく。当の犬河は冷や汗を堪えるために震えているようにすら見えた。
普段は滅多に褒めの言葉を言わない監督だが、名指しで非難するなんてこともなかった。
ましてや、四天王と呼ばれ、エースである犬河を。
ざわざわと騒ぎ出した俺たちに構わず監督は続ける。
「ボールが軽く、精神的にも不安定ですぐに落ち着きをなくす…。
四年生が引退し、中心となるべき四天王の一人がそんなことでは困ります。
皆さんもこうならないよう、さらに努力を重ねてください」
そして結局、最後は、栄光ある帝王のためにという決め台詞だった。
「…あの後、君は監督に呼ばれて笑顔を浮かべていた。
あれはレギュラーを約束されたということだろう?」
犬河はまた自嘲ぎみに、目に涙を溜めながら言った。
「違う…」
「違う?何が違うんだ?今まで女の僕と同等に見られていたことが悔しかったんじゃないのか?」
「…くっ」
そう。
犬河は―。犬河和音は女なんだ。
本人が周りから好奇の目で見られることを恐れ、隠し続けていた。
そして自らを戒めるかのように努力を重ね、勉強はもちろん野球でもトップを走り続けてきた。
このことを大学で知っているのは、俺だけだった。
…そのことに対して引け目を感じていなかった、と言えば嘘になる。
でも、それを差し引いても俺は犬河を認めているし、尊敬している。
いや、あの美しいフォームから繰り出される数々のボールを見れば誰もが一流と認めてくれるだろう。
「…帝王において、監督の評価は絶対だ。もう僕に構わないでくれ…」
言い聞かせるようにして呟くと、また投球モーションに入る。
「おい、そのくらいにしとけって!」
慌てて止めに入る。
悔しいが監督の言う通り、こいつは精神的に不安定なところがある。
無理して体にまで負担を掛けてしまったら―。
しかし、犬河は拒絶する。
「やめてくれ!いつまでも保護者ぶるなよ!」
…。
誰がいつ保護者になった?
「僕が女だからか?余計な同情はいらないって言ってるだろ!」
女だからじゃない。
親友だからだ。
「勝者は勝者らしく勝ち誇ればいいだろう?レギュラーさん」
こいつはっ…!
一瞬だけ。
なぜか冷静にこの状況を見つめることができる自分が居た。
こんなんじゃ、精神面に努力が必要なのは俺のほうだな…。
次の瞬間、俺は犬河を押し倒していた。
「なっ…、ちょっと猫神!」
バタバタしている犬河を押さえつける。
いくら俺が非力とは言っても、単なる力勝負で犬河に負けるわけが無い。
腕を押さえつけ、次は体重を乗せて動きを封じる。
それでも犬河は抵抗して、もがいていたがようやく大人しくなった。
「ね、猫神…、どうしたんだよ…っ」
今更、何言ってんだか。
怒りと垣間見えたこいつの女性としての顔が俺のドス黒い気持ちを高めていく。
ただ無表情で機械的に、内面を悟られないように。
犬河の首筋を舐め、ユニフォームに手を掛ける。
「んん…!え、う、うそでしょ?ねこがみ…っ!」
聞こえない、聞くつもりもない。
嫌がる犬河を尻目に力任せにユニフォームを開いた。
「い、いやぁぁぁぁぁっ!」
例え、悲鳴を上げてもここには誰も来やしない。
お前が頼りにしている先輩も、慕ってくれている後輩も来ない。
ただ、俺に弱い部分を晒けだすだけ。
「ちっ…」
胸に巻いてあるサラシが癇に障る。
何もかもが気に入らない。
きつく締め付けるようにして、犬河の背中に手を回しサラシをほどいた。
「うあぁぁぁっ…」
羞恥心かそれとも恐怖心か。
顔を赤くし、繭を顰める。
普段とのギャップが俺のサディスティックな快感につながる。
再び、首筋に舌を滑らせ、そのまま胸のほうに下ろしていく。
右手で片方を弄び、もう片方を舌先で責めていく。
「はっ、はっ…。やっ、やめっ…!んむぅぅぅ…」
声だけでも抵抗していた犬河だったが、少なからず甘い声が混じってきている。
涎を出来る限り口に溜め、わざと音を立てながら胸全体を蹂躙していった。
「あっ、いやらしい音をたてないでぇ…。くっ、ふあっ…」
嫌悪の言葉を口にするが、その目は焦点が合っていない。
俺は笑みを零すと、股間へ手を伸ばしていく。
「! そ、そこはぁ…」
じゅ。
…濡れている。
嬉しさと親友を犯しているという背徳感が全身を駆け巡る。
犬河はなんとか体を捩ったりして、手を払いのけようとしたが、弛緩していて思うように動けない。
指を中に入り込ませる。
「ひぃあっ!」
犬河が大きな声を上げて、体を震わせる。
どうやら、すっかり出来上がっているようだ。
「な…?おまえ、やっぱり処女だよな?」
「はぁはぁ…え…?」
今更な質問だったが、俺がコトに及んでから初めて口にした言葉に気を囚われたのだろう。
トロンとした表情をこちらに向ける。
もっとも、俺のモノを見た瞬間にその顔は引きつっていったが。
「ね、ねこがみっ、うそでしょっ…!? ねぇ…?」
いくらか理性を取り戻し、瞳に涙を溜め訴えかけてくる。
…おまえは本当に泣き虫だな。
俺は少し嘲笑すると、一気に犬河を貫いてやった。
「ひっ、やぁぁぁぁ!」
血と液が中から出てきて、水音をどんどん大きくしていく。
大きく脈動し、絡みついてくる感触が堪らない。
俺はお構いなく、ストロークを激しくする。
「ひっ…ぐっ…やあ!いやああ!」
頭を、体を振り、犬河が痛みから逃げようとする。
そうはさせない。
腰を支える手に力を込め、しっかりと体を固める。
「い…いたいっ…ぬいてぇ…ぬいてぇっ!」
「ああ、思う存分ヌいてやる」
我ながらバカらしいセリフだが、強気の犬河が完全に俺に下っているのがなんとも言えない快感だった。
「ふああっ…あ、ああっ…」
「くっ…」
お互いに限界が近い。
そう悟った俺は犬河を思い切り引き寄せた。
「ひぐっ!」
「膣中に出してやるからな…」
「だめっ…膣中はぁ…それだけはぁ…」
懇願してくるがもう遅い。
とどめとばかり突き上げて、俺は全身を震わせた。
「でる…っ!」
「…っ!やだやだ、いやぁぁぁぁっ!!」
犬河が涙を流しながら、俺の精を受け入れていく。
…もう何も聞こえない。