もう空は群青から漆黒へと色が変わろうとしていた。  
あおいは特に目的の番組も無いが習慣的にテレビのスイッチを入れた。  
 高校時代に比べると今の生活はどこか新鮮味が足りないと感じていた。  
あの頃は一日一日が楽しかった。他愛の無い話も泉のように湧き出た。  
それもきっと彼の存在があったからかもしれない、とさえ思う日々。  
彼というのは今もプロで現役を続けている狩野健作の事だ。  
プロの時はまだ会う事はあったが大学で教え始めてからはなくなった。  
また会いたい。あおいの想いは日に日に大きくなっていった。  
 
「せんせーい。今日は新しい講師の方が来る日じゃないんですかー?」  
みずきが子供のように言った。講師が遅刻するなど開校以来初めてだった。  
「う、うん。まだみたいだね。」  
あおいは緊張を隠しきれなかった。理由は一つ。  
今日来る講師はあおいが一番会いたい人だったからだ。  
その時、今回の講師があおい達の方へ走ってきた。  
「遅れてごめん、あおいちゃん。久しぶり。」  
以前あった時と同じ、高校時代よりも大人びた笑顔。  
あおいの口からは何も発せられない。視線は健作から動かない。  
「え、あ、えーと今回の講師の狩野選手です。」  
他の講師の時と変わらない紹介。明らかに違うあおいの表情。  
生徒の殆どはあおいの表情の違いに気付いていた。  
健作を見た瞬間のあおいの瞳はいつもとは違う、女としてのあおいだった。  
 
 
「もっと腰の回転で・・・。そう、体の軸を崩さずに・・・。」  
健作は自分の持っている技術をひたすら生徒達に教えた。  
自分の言った事をそのまま吸収してくれる生徒達の成長に驚いた。  
いつか自分を越してしまうのではないかという不安も抱いた。  
 あおいは練習中自然と健作を見てしまう。意識してもまた視線が動く。  
あの頃と変わらない純粋な目に吸いこまれそうになるほどだった。  
 
 あおいは家に帰っても考えるのは健作の事ばかりだった。  
今日はどんな会話をしたか。どんな様子だったか。  
思い出すのはそんな事しかなく、頭の中は健作に支配されていた。  
あおいは何故か今日は体が重く感じたので、ベッドに横たわった。  
頭の中に健作が浮かんでは消えて、また浮かんで消える。  
あおいは下半身の疼きを感じた。日頃あまり感じない感覚だった。  
いけないと思いつつ手はそこへ伸びていった。  
「狩野・・・君・・・。」  
一日中外にいると体は汗が纏わりついて心地悪い。  
しかしそこは違う体液で湿っていて、しだいに汗と混ざっていく。  
「あはぁ、あん・・・狩野・・・君!」  
下着は意味を持たず、手の動きと共に変形する。  
甘い女性の声があおいの部屋に静かに響く。その声は部屋の主のもの。  
「ん、あ!ああぁ!ん、ん、はあん!」  
手の動きは徐々に早くなっていき、最早止められない。  
「あああ!あん!あ!んああ!」  
あおいの夜は久しぶりに長かった  
 
 
あおいは自己嫌悪に陥っていた。  
久しぶりに会った友人を想い一人遊びしてしまった事に。  
朝日がまだ昇りきらない空を見て、またベッドへ吸いこまれる。  
健作が帰るのは今日。これを逃せばいつ会えるか分からない。  
もう自分は子供ではないと勇気付け、あおいはドアを開けた。  
 
 
「おお。あおいちゃんおはよう。」  
 
「うん。おはよう・・・。」  
 
あおいは不自然な笑顔で健作に挨拶を返した。  
健作はそれ以上何も言わずにグラウンドへ向かった。  
今日が最後。分かっていても一歩踏み出せない。  
自分の気持ちを伝えるだけと何度もあおいは自分に言った。  
 
 練習が終わると健作の別れの言葉があった。  
普段と変わらず熱い拍手で見送られる講師。  
普段と違うのは講師があおいの意中の人というだけのこと。  
健作は職員全員に軽く挨拶して、アカデミーの施設を出ていった。  
これで良いのかと思い、あおいは走り出した。  
 
「狩野君!待って!」  
 
門を出ようとする健作はその声に反応して立ち止まった。  
 
「ごめん。最後に言いたい事があって。それで・・・。」  
 
あおいの胸は張り裂けそうなくらい脈打っていた。  
人生で初めての、愛の告白に心は耐え切れなさそうだった。  
不安で、言い様の無い気持ちにおあいは襲われた。  
 
「ボク、今まで人を好きになった事なんてなくて・・・。ただ野球ができるだけで  
 満足だった。」  
 
あおいは気持ちを精一杯言葉に変えて、伝えた。  
 
「でもそのうち心の中に狩野君が入ってきて、狩野君でいっぱいになって。」  
 
あおいの目には涙が溜まり、溢れ出しそうだった。  
そして、無い勇気を振り絞り、想いを伝えた。  
 
「ボクは・・・狩野君が好き!何よりも狩野君が好きなの!」  
 
抑えきれなくなり、あおいは目に溜めたそれを頬に流した。  
健作はそれを真剣に、一言も漏らさず聞いた。  
 
「俺もあおいちゃんがずっと好きだった!でも俺臆病者だから言えなかったん  
だ!」  
 
「狩野君、大好き!」  
 
あおいは健作に飛びこんで、健作はあおいを力強く抱き締めた。  
空は欠けたところのない月と、無数の星が光っていた。  
 
 

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