「遠すぎて見えない、未来を信じてみる〜♪」  
 気分良く歌なんか歌っちゃいながら、学校の授業でとったノートや参考書をまとめます。  
「これでよしっ、と!」  
 準備は万端。これで、難しい場所があってもすぐにわかりやすく解説してある参考書を  
引くことができます。  
「……ふふっ」  
 ついつい頬が緩んでしまうのを止められません。ノートや本を机の上に置くと、ベッドの  
上に仰向けに身を投げ出します。手に何か柔らかいものが触れたので顔の上に持ち上げると、  
お気に入りのぬいぐるみのゴン太さんでした。  
「あはっ……ゴン太さんには特別に教えてあげます。実はですねー、明日から、羽和さんが  
私の家に来て、一緒にお勉強するんですよ♪」  
 誰かに聞いて欲しくてたまらないので、ゴン太さんに向かって話しかけます。  
「えへへ〜……」  
 ぎゅーっ。触り心地の良いゴン太さんを力一杯抱きしめて、ベッドの上をごろごろ。  
 これ以上ないくらい舞い上がってしまっていますが、仕方ありません。だって、羽和さんが  
私個人に招待されて、私の家に来てくれるのですから。  
 今までにお食事に招待したのは、お父様がことあるごとに羽和さんを呼びなさいと言うからです。  
少なくとも、羽和さんは私ではなく、お父様に呼ばれたのだと思っているでしょう。  
 けれど、今度は違います。私が誘って、羽和さんが受けてくれて。しかもお父様抜きで、  
ふたりっきり。  
 それだけでも心臓がドキドキして仕方ないほど嬉しくて楽しみで、ちょっとだけ不安なのに。  
 羽和さんが"私とふたりで勉強することを承諾してくれた"ということも見逃せません。  
 気に入らない相手にそんなことを提案されたら、まず断るでしょう。でも、羽和さんは  
こころよく受けてくれました。  
 つまり、羽和さんは私のことを悪い印象は持っていない…… 少なくとも、一緒にいて  
嫌な女の子だとは思っていないということです。  
 ひょっとすると、『はるかちゃんと一緒に勉強か、ちょっと楽しみかも』なんて期待して  
くれているかもしれません。  
 いやいや、ひょっとしてひょっとすると、私と同じように、あわよくばこれを機に私と  
もっと仲良くなろうなんて、考えてるのかも……。  
 …………(都合の良いことを次々に妄想中)。  
 はっ、またアッチの世界に行ってました。反省反省。  
 こんな調子じゃあ、明日羽和さんが来ても醜態を晒してしまう可能性が高いです。もっと  
冷静にならないと。  
 それに、明日はあくまでも試験の勉強をするんです。それを真剣に努めることが、羽和さんに  
良い印象を持って貰えることにも繋がるでしょう。  
 そう思い直し、私は部屋の中でひとりガッツポーズをとり、決意を新たにしました。  
 
 
「ふーっ……おっけ、合ってる。はるかちゃん、言われた分できたよ」  
「お疲れ様です。じゃあ、ちょっと休憩にしましょうか」  
 羽和さんが数学の問題を解いている間に、私はお茶の用意をしていました。もう随分勉強  
しているので、そろそろ休憩を入れた方がいいでしょう。  
「あー、学校の授業以外でこんなに一気に勉強したの、ひさびさかも」  
「ふふ……もうすぐお茶が入りますから、そこに座ってて下さいね」  
 羽和さんは肩をトントン叩きながら勉強していた机を立って、私がティーセットを並べた  
テーブルの前のソファに腰を下ろしました。  
「うわ、随分と高そーなチョコレート」  
 お茶うけにと思って私が用意しておいたチョコレートを見て、羽和さんが感心した声を  
上げます。私は、ちょっとだけぎくっとして。  
「えっと、お父様の知り合いの方がたくさん送ってくれたんです。ベルギーに本家がある  
有名なお店のショコラティエさんが作ったものらしくて、とっても美味しかったから。  
それに、頭を使うときは甘い物をとるといいんですよ」  
「そうなんだ。なんか食べるの勿体ないくらい凝ったデザインだね……」  
 慌てて料理番組のごとく解説してしまいましたが、それは、少し後ろめたい点があったから。  
 実はこのチョコ、確かに有名なお店のもので美味しいのですが、それだけではないのです。  
お父様に聞いたところによると、どうもコレは、恋の助けになるチョコレートなのだとか。  
 チョコレートは元々中世ヨーロッパで媚薬として珍重されており、人が恋愛感情を持った  
ときに脳に分泌される成分と同じものが含まれているのだそうです。  
 
 そして、このチョコレートには特にその性質が強いらしくて、贈り物として女性が男性に  
渡し、恋を成就させた例が何件もあるという、いわくつきの代物です。  
 もちろん、本気で信じてるわけじゃありませんよ?たまたま……たまたまうちにコレが  
あって、普通のチョコとしても抜群に美味しいから、羽和さんにもお裾分けしようかな…  
なんて思っただけです。  
 ……誰にいい訳してるんでしょうか、私。最近一人で空想してしまうことが多いです。  
「どうぞ、羽和さん」  
「ありがと。この紅茶も美味しそうだね」  
 羽和さんの前にカップと、いくつか取り分けてお皿に並べた例のチョコを置きます。  
効果なんて期待してませんけど、でも、やっぱりどうしても気になってしまうもので……。  
 じ〜っ…。  
「あの……どうかした?あんまり見つめられても飲みにくいんだけど」  
「えっ!?すいません、いえいえ、どうぞ、遠慮せずどんどん飲んで食べてください」  
「あはは、そんな宴会みたいに言われても困るな」  
 私も、カップを取って口元に運びます。それを見て、羽和さんも紅茶に口をつけてくれました。  
「ふー、ここでご馳走になるときに出るのも美味しいけど、はるかちゃんに目の前で入れて  
もらうと、さらに美味しいような気がするよ」  
「ふふ……お世辞でも嬉しいです」  
 お料理やお茶の入れ方なんかも随分勉強したので、羽和さんに褒められると感無量です。  
「それであの、羽和さん。チョコの方も……」  
「何だか妙にこのチョコプッシュするね。そんなに美味しいの?」  
「え、ええ。すっごく美味しいですよ!」  
 うう……。気にしてないつもりなのに。ついチョコレートに気が行ってしまいます。  
何も言わなくたっていつかは食べてくれることはわかってるですが。  
「じゃ、いただきます……これ一個いくらくらいするんだろうな……」  
 後半の方は小声で言って、羽和さんはチョコを摘み上げ、一口大なのに美術品みたいに  
細かくデコレートされているそれを遠慮がちに口に運びます。  
「うわ……ホントに美味しい。これは確かにそんじょそこらのチョコとは次元が違うね」  
「そうでしょう?羽和さんにも気に入ってもらえて嬉しいです」  
 感嘆の声を上げる羽和さん。ひとつ食べてもらったら、その後は自然にティータイムを  
過ごすことができました。  
 
 お茶の時間を終えて、再び勉強に戻ります。はじめのうちは、チョコのこともすっかり忘れて  
教科書に集中していたのですが。  
「………?」  
 何だかちょっと、暑くなってきた気がします。まだ11月の終わりなので、暖房は控えめに  
しているはずなのに。  
「ん……はるかちゃん、ちょっとこの部屋、暑くなってない?」  
「あ、羽和さんもそう思いましたか?」  
 見ると、羽和さんも少し汗をかいてるみたいです。空調の温度を確かめましたが、室温は  
ちょっと肌寒いくらいになっていました。  
 首をかしげながら机に戻り、再びノートにペンを走らせますが、どうにも体が火照って  
落ち着きません。  
 そのうち、体が熱く感じる法則性に気付きました。どうも、向かいに座っている羽和さんの、  
表情とか、動作とか、吐息とかを感じたり、ちょっとした会話をしたり。そういうことを  
する度に、なんだかドキドキして熱くなるようなのです。  
「あ……あの、ちょっと……」  
 このままじゃ顔が赤くなったりして、様子がおかしいのがばれてしまいます。お手洗いにでも  
行くフリをして気を静めようと思い、急いで席を立って部屋を出ようとした所で。  
「あっ……!」  
 立ちくらみでしょうか。机の脇に腰をぶつけてしまい、そのまま倒れそうになって――。  
「危ない!」  
 腕を掴まれて軽く引き寄せられる感覚と、そのまま暖かいものに受け止められる感覚。  
「えっ……?」  
 自分のものではない、体温。ちょっとだけ、汗のにおい。服の下の、がっちりした体。  
 羽和さんに、抱き留めてもらった……?  
「あ………ごめんなさい、ごめんなさいっ!!」  
 ぼんっ、と音がしそうなくらい一気に頭に血が上ります。はやく、離れないと……!  
 
「すぐに離れます……か……ら……」  
 なのに。なぜか、体に力が入りません。……いえ、違います。離れようと思えば離れられる  
のに、このまま羽和さんの胸の中に収まっていたいなんていう気持ちが、離れることを嫌がって  
いるみたいなのです。  
 どくんどくんどくんどくん。  
 自分の心臓の音?それとも、すぐそばにある羽和さんの胸から聞こえてくる音?  
 頭がとろんとしてきて。ずっとこのままでいたいなんて思ってしまって。もともと熱かった  
体はさらに興奮してきて。やっぱり、おかしいです。今の私……。  
「あの……羽和、さん……?」  
 顔を上げて羽和さんの表情を伺おうとしたら、羽和さんが私の体に回した手の力がもっと  
強くなって、私の頭は羽和さんの胸に押しつけられるくらいになってしまいました。  
「あ………」  
「…………」  
 それを、少しも不快に感じられません。むしろ、不思議な安心感があって。そのまま  
何十秒か、何分かの時間が経ちます。どうして、こんなことになっているんでしょうか。  
 でも、羽和さんの体。羽和さんのにおい。羽和さんの体温。どうせなら、このまま  
もっと感じていたい。そう思って、こちらからも羽和さんに寄りかかります。  
 羽和さんの胸に体を預けて、その少し早まった鼓動を聞きながら、のぼせてうまく回らなく  
なった頭で夢見心地になっていると。  
「はるかちゃん……ごめん」  
「え……きゃっ!?」  
 羽和さんは、不意に私を軽々と抱え上げてしまいました。そのまま先程お茶を頂いた  
ソファまで運ばれて、その上にちょっと乱暴に下ろされます。  
 私に覆い被さるようになった、羽和さんの顔。その顔が……何だか、普段よりも……  
ずっと、私の心を惹きつけるように見えます。  
 どくん、と心臓が高鳴る。羽和さんの体から離れた自分の体がものすごく寂しく感じて、  
また、羽和さんに触れて欲しいなんて思ってしまう。  
 ――ひょっとして、羽和さんも、私と同じように感じてる?  
 まさか、あのチョコレートのせいでしょうか?そんな、普通にお店でも売ってるものなのに。  
いくらなんでもこんな、まるで軽い麻薬か何かみたいな効果なんてあり得ません。  
 なのに。今の私は、すぐにでも羽和さんに抱きついて、さっきみたいにぎゅってして欲しい  
という衝動を抑えるのに精一杯でした。  
「はるかちゃん……」  
「あ……羽和、さん……」  
 羽和さんは、そのままソファに乗って。私を組み敷くみたいな体勢になりました。  
 そうした羽和さんが、どんなことを望んでいるのかくらい、私にもわかります。  
 本当は、こんなことされたら、拒否しないといけません。私は羽和さんのことを好き  
ですけど、気持ちも伝えていないのにこんなこと、不純だし……不貞です。  
 なのに、私は、逃げることも、声をあげることもできない……ううん、しないままでいます。  
 だって、想像できてしまうから。このまま羽和さんに抱きしめてもらって、触れてもらって、  
その先のことまでしてもらったら……どんなに嬉しくて、満たされて、気持ちよくなれるか…。  
それが手に取るようにわかってしまうから。  
 だけど、私からそんなことを望んだら、羽和さんにはしたない女の子だと思われて、軽蔑  
されてしまわないでしょうか。嫌われてしまわないでしょうか。私は……"七瀬はるか"は、  
貞淑な女の子だって、きっと思われているから。  
「………羽和さん、ごめんなさい……」  
 私は、興奮しきってかすれた声で、羽和さんに謝ります。  
「え……?」  
「さっき、一緒にいただいたチョコレート……あれ、普通のチョコレートじゃないんです…」  
 だから、卑怯な手。嘘でもいいから、私以外の何かに責任を押しつけて、羽和さんに  
いい訳しようとしています。『私は、本当はこんなこと望んではいないんです』って。  
「ごめんなさい…こんな効果があると思わなくて……私の責任です……」  
 私の責任。だから、羽和さんには、"私に責任をとってもらう権利がある"。  
 私は、自分から求めているって羽和さんに思われたくないから、羽和さんを誘導して  
自分の願望を満たそうとしてる。自分のことしか考えていない、最低の人間です。  
「あの……つらい、ですよね……がまんしないで……ください」  
 羞恥と自己嫌悪から両手で顔を覆ってしまいたくなるのを耐えて、そう言いました。  
 
「はるか、ちゃん……?」  
 そう、きっと私より、羽和さんの方がたくさん"我慢"してるんだと思います。でないと、  
私を発作的に抱きしめてこんな所まで運んだりしないし……それに、あのチョコレートは、  
女性が男性の心を射止めるために送るものだから。  
「…………」  
 私は小さく息を吸うと、目を瞑って、全身の力を抜きました。羽和さんが遠慮しないように。  
そして、自分がして欲しいと思うことをしてもらうために。  
 それを合図にしたみたいに、私の上に覆い被さった羽和さんが動くのがわかって。  
 唇に、柔らかくて湿った感触。私が初めてキスされたんだってわかるまでに、数瞬。それは、  
少しだけ、甘いチョコレートの味が残っていました。  
「……っは、はぁ……ふ……はぁ……ごめん…はるかちゃん……」  
 何秒もしないで離れた羽和さんの口から、荒い吐息と一緒に再び謝罪の言葉が漏れます。  
よほど、体が熱くなっているんでしょう。それこそ、理性で抑えがきかないくらいに。  
「謝らないで……ください……」  
 そんな羽和さんを、怖いという気持ちは少しも生まれなくて。むしろ……可愛い、なんて  
思ってしまいます。羽和さんが、我慢できないくらいに私を求めてくれてる……。  
「え……?」  
「羽和さんに、だったら……いやじゃないですから……」  
 気絶しそうなくらいに高鳴っている自分の鼓動を聞きながら、精一杯の告白。  
「はるかちゃんっ……!」  
「あ……!」  
 私の言葉を聞いた羽和さんは、それこそ襲いかかるみたいにその手が私の腰元に伸ばして、  
上着のチュニックブラウスとその下のシャツを、一緒に首のあたりまで捲り上げてしまいました。  
 服の中から外界に露出させられたはずなのに、肌がさらに火照ったように感じます。  
 今、私、羽和さんに……肌を、見られてしまってる?どんなブラ、つけてましたっけ。  
やせっぽちだから、私の体を見て幻滅したんじゃないでしょうか。胸も、自慢できるほどは  
大きく無いし……。  
 とっさのことに混乱してそんなことを考えてしまいましたが、そうじゃなくて。  
 服まで脱がされかけてしまったってことは……このままだと、その……最後まで、されて  
しまうってことで……いや、それは覚悟していたつもりなのですが、でも、ここまで来ると  
急に現実感が出てきます。  
 どうせなら、私がためらう余地もないくらい、強くしてくれればいいのに。  
「……取るよ、はるかちゃん」  
 もどかしそうな、羽和さんの声。少し震えています。それだけ、私に興奮してくれているって  
いうこと。遠慮なんてする必要ないのに。羽和さんの望むように、乱暴にしたっていいのに。  
 目を瞑ったまま頷き返した途端、涼しくなった胸元がさらに何かから解放される感覚。  
羽和さんの手で、私のブラが外された……。こんな時に限ってフロントホックのものをつけて  
いたのですから、運が良いのか悪いのかわかりません。  
「ふぅ……ぁ……」  
 見られてしまいました。私の胸、ぜんぶ。自分では、体が細いわりにそこまで小さくは  
ないと思うのですが、男の人は、週刊誌に載ってるアイドルみたいにもっと大きい方が好き  
なのではないでしょうか。  
「……すごい、綺麗だ……はるかちゃん」  
 そんな私の不安を打ち消すように、羽和さんは感嘆した声をかけてくれました。  
「本当、ですか……?」  
 恥ずかしいのと嬉しいのとでいっぱいいっぱいになってしまい、震える声でそう聞き返すと。  
 羽和さんは答えの代わりに、私の乳房に、その大きい手を当てて――。  
「――あっ……!」  
「あっ……ごめん、痛かった?」  
「え……いえっ……違います……」  
 羽和さんは私の反応に驚いたみたいですが、それは胸を掴まれて痛かったからではなくて。  
 この前の部室での球磨きの時に。その前日にとっさに握ってしまった時に。それよりずっと  
前からも、意識してしまっていて……惹かれていた、羽和さんの大きくて固い手で触られた途端、  
電流みたいに強い、甘い痺れがそこから襲いかかってきたから。  
「……もっと、触ってください。羽和さんの手で……」  
 それを、もっと味わいたくて、ねだってしまいました。  
 羽和さんはほっとした顔で小さく笑って、また私の唇に唇を重ねて。そのまま、さっきよりも  
強く、私の乳房を手で覆うように触れて。  
 
「んっ……ぁ、ぅん……ふ………ぁんっ……!」  
 口を柔らかい感触で閉ざされたまま、恐る恐る……もっと衝動のままに動かしたいのに、私を  
気遣って努めて優しくしているといった強さで、羽和さんに胸をまさぐられます。  
 羽和さんの長い指の、重なった固いマメが私の肌を擦るたびに。痛いような、甘痒いような、  
私の体の奥に溜まっていたものを引き上げるような刺激が広がっていきます。  
 気持ちいい。羽和さんの指がすごく愛おしく感じます。もっと。もっとしてください。ずっと、  
こんな風に。羽和さんの手で、私に触れて欲しいって思い続けていたんです。  
「んんぅっ……!」  
 羽和さんの親指が、私の胸の先端を弾くようにして。ビリビリと四肢にまで伝わるほど強い  
感覚が走り抜けます。今度は、羽和さんは私に躊躇して止めたりしませんでした。そのまま、  
もっと強く。私がして欲しいことがわかっているみたいに、私のそこをきゅっと摘み上げて。  
「ぷはっ……あっ……ふ、あぁっ……!」  
 キスから解放された口から、荒い息が漏れます。口元にだらしなく涎が流れ落ちましたが、  
それを気にする余裕もありません。ただ胸を弄られてるだけなのに、全身を羽和さんに支配  
されたみたいになってしまっています。  
「あっ……はぁ……ふぁっ……ん……ぁあ……羽和さん……羽和さんっ……!」  
 体が跳ねてしまいそうになるのを、ソファのクッションを両手で握って押さえつける。なのに、  
羽和さんの指は、追い打ちをかけるみたいに私の快楽を容赦なく引き出します。  
 身をよじった太股の間に、水音が聞こえてきそうなくらいに湿った感触。たぶん、下着だけ  
じゃなくて、その下のスカートまで、お漏らしでもしたみたいに濡れています。  
 こんなの。いくら羽和さんにキスされて、胸を弄られたからって。直接触ってもいないのに、  
こんなにはしたなくぐしょぐしょになるなんて。羽和さんに知られたら――!  
「あっ……やぁっ、羽和さんっ……!?」  
 そう思った途端、羽和さんの片手が、私のスカートの中へ潜りました。その手が、太股まで  
伝わった湿り気を感じ取って。  
 羽和さんは、少しだけ、呆気にとられた顔をしました。  
「や……そこはっ………」  
 ごめんなさい。ごめんなさい。違うんです。男の人とこんなことするなんて初めてなのに、  
まるで淫乱みたいに。男の人を渇望してるみたいに。こんなになるはず、ないのに。  
 泣き出しそうになってしまった私に、羽和さんは、可笑しそうに微笑みかけて。  
 そのまま、私の下着の中に、指を差し入れてきました。  
 今度こそ、両手で顔を覆ってしまうほどの羞恥。羽和さんの指が、私の下腹部から"その場所"  
に向かって伸びていって。  
 くちゅっ……。  
「あっ!」  
 触れてる。羽和さんの指が、私の一番大事なところに。ぞくぞくと怖気にも似た感触が背筋を  
這い上がってきましたが、これ、嫌じゃありません。むしろ、溢れそうになった感覚にとどめを  
刺して欲しいなんて、そんな思いが湧いてきます。  
 手探りで、羽和さんの手のひらが私のそこ全体を覆うみたいに。中指が、私の割れ目をなぞる  
ようにぴったり張り付きます。それは、その部分がみっともないくらいに濡れそぼっているのが  
これ以上無いほどわかってしまう格好で。  
「ふ……ぅ……」  
 そんな、まるで引き金に指がかかった拳銃をつきつけられたみたいな状態で、少し。  
 もしかしたら羽和さん、私のそこのかたちを手で確かめてるんじゃないでしょうか……。  
「凄く、熱いよ……はるかちゃんの、ここ……」  
「やぁ……言わないでください、そんなこと……」  
 耳元でそんないやらしいことを囁かれて、羞恥で死んでしまいそうになります。  
 羽和さんの手が、私のその部分に邪魔するものもなく直接触れていて、羽和さんの指の形も  
細かな震えも、怖いほどに伝わってくる。  
 触っただけでも、私のそこがほとんど子供みたいなのが羽和さんにわかってしまうでしょう。  
私、体が弱かったから背が伸びるのも初潮が来るのも遅かったし、一番大事なところも外からは  
ただの切れ目みたいにしか見えませんし……。  
 ちゃんと、その……"できる"ように、なっているんでしょうか。   
 ちゅっ……。  
「ひゃぅっ!!」  
 不意打ちみたいに、私のそこに当てられたままだった羽和さんの指が、折り曲げられました。  
私のものよりずっと太くて長い指がその部分を割って、中に小さく潜り込みます。  
 
「あっ……あっ、あっ……あぁっ……!!」  
 異物感と、不安と、期待。その敏感で、柔らかくて、ぬるぬるになっている場所を、初めて  
自分以外の人の指が弄ってくる。腰を引いて逃げたいという衝動と、そのまま受け入れたい  
という衝動のせめぎ合いに、体がふるふる震えます。  
「もう、トロトロになってる……」  
 羽和さんの囁くような声。ダメです。そんないやらしいこと言わないでください。そんなこと  
言われたら、私、もっと……!  
 少しだけ中に潜り込んだ指が、私の入り口を探り当てる。溢れるように染み出してくる液体を  
絡めて、周りの肉をマッサージするように擦ってきます。  
「ひぅっ……あっ、ふぅっ………あぁっ、ふぁあっ……!」  
 だめ、抑えられません。喉からかすれた声が漏れて、その部分の感覚しか感じられなくなる。  
柔らかいソファに寝転がった体から、意識だけが飛んで行ってしまいそう。  
 だって、そこを掻き回してるのは、羽和さんの指で。自分でするのより、もっと荒々しくて。  
なのに、何倍も、何十倍も、気持ちよくて。幸せで。  
「こんなになってたら……もう、大丈夫?」  
「ぁ……んっ……ふぁ……え……?」  
 不意に、羽和さんはその手を動かすのを止めて、聞いてきました。その言葉の内容が頭に入ってくるより、与えられていた刺激が無くなったことに寂しさを感じるのが早かったのですが。  
 私が否定しなかったのを、肯定と受け取ったのか。羽和さんはいったん手を引き抜き、身を  
引いて、スカートのサイドホックを器用に外し、私の両脚から引き抜いてしまいました。  
 腰を持ち上げて、脱がせる手助けをしている自分が、何だか他人事に思えます。ぱさりと音を  
立てて、スカートがソファの脇に落とされました。  
 どうしようもないくらいぐちゃぐちゃに湿って、肌に張り付いた下着が、晒されてる。  
羽和さんが生唾を飲み込むのが聞こえた気がして、その指が下着に引っかけられる。  
 湿った布が巻き取るみたいにするすると下ろされて、つま先を通り抜けて……  
今度はソファの上に、"水分を吸って重くなったもの"が落とされる音。  
 もう、隠すものが何もありません。びちゃびちゃに濡れた私の一番恥ずかしいところが、  
羽和さんに直接見られている。  
 私のにも、ちゃんとできるんでしょうか。何か不具合があって失敗したりしないでしょうか。  
自分の指だって怖くて入れたことがないのに、男性の……羽和さんのものなんて――。  
「ぁ……」  
 そくっと体が震える。その部分に、柔らかいような、固いようなものが触れています。  
それが、何か。直感的に……本能的に?……わかってしまいました。  
「はるかちゃん、行くよ……!」  
「えっ……んむっ……!」  
 そう言われてから、何か答える前にまたキスされる。羽和さんの左手が私の頭に回されて、  
右手は私の腰に。そのまま、羽和さんの方に引き寄せられます。  
「ん……んんぅぅぅっ……!!!」  
 びくびく体が痙攣する。触れられたことが無い場所まで、大きなものが侵入してくる。  
今までに経験がない感覚と、痛みへの不安で身がすくんで……。  
「んっ……く、ふ、ぁあ……っ……」  
 あ……れ?あんまり、痛くありません。お腹の中にものが詰まって、苦しい感じはするけど、  
話に聞いていたほどの痛みは襲ってきませんでした。  
「……っく……はぁ……はるかちゃん、大丈夫……?」  
「あ……はい……大丈夫、みたいです……」  
 少し息を切らした、何かを耐えているような声で羽和さんに聞かれて、素直に答えます。  
羽和さんは、どうなのでしょう。私の中に入って、気持ちいいって、感じてくれているので  
しょうか。  
 ……私の、中に。  
 それを考えたら、今の状況を改めて認識してしまって、頭が沸騰しそうになりました。  
「はるかちゃん、動くよ……」  
「あっ………はい……」  
 気持ちに整理がつかないまま、羽和さんは先の段階に進んでしまいます。腰を引いて、今度は  
私の中からそれを抜きとる動作。  
「ひっ……あ、んぅっ……ああぁっ……!?」  
 途端に降りかかってきた刺激に、四肢と……指先に、舌までが痺れる。例えようが無い、  
それこそ未知の感覚。体の内側の、弱くて敏感で、自分では触れることができない部分を  
他人のもので侵されて、擦られる。  
 何か、致命的な禁忌を破ってしまったみたいな不安と、それを破ったのは、私が誰より好きな  
男の人だという悦び。  
 
「ひゃ……ん……あっ…ふ……く……っ……!」  
 私の体の中から、それが出て行って、抜けそうになる。途端に襲ってくる、驚くほどの  
喪失感。嫌。もっと、私の中にいて欲しい。失いたくない……。  
 ぐちゅっ!  
「んあぁっ!!」  
 私が望んだことを、そのまま満たしてくれるかのように、羽和さんが私の最奥まで再び  
突き入れてくる。全身がびくんと跳ねて、羽和さんに組み敷かれていなかったら、ソファから  
落っこちてしまっていたでしょう。  
「く…ぁ……はるかちゃんっ……すごい……信じられないほど、気持ちいい……!」  
 羽和さんの、せっぱ詰まったような、色っぽい声。私の体で、喜んでくれているという声。  
私も、同じです。羽和さんに抱かれて。突き入れられて、こんなに気持ちいいなんて……。  
 奥まで入ってきて、引き抜かれて。その度に、全身の快楽を感じ取れる神経をむき出しに  
されて、甘い官能の痺れを流し込まれたみたいな愉悦が走り抜ける。  
 それを繰り返すにつれて、私の中に、ふわふわした……暖かいような、切ないような不思議な  
焦燥感が膨らんでいって、今にも弾けてしまいそう。  
「は……あっ……はぁっ……ふ……はるかちゃん、はるかっ……ちゃん……!」  
「あっ……あっ、あ……んぁっ……あぁっ……羽和さん……羽和さん…はわ、さん……っっ!!」  
 体を激しく揺らして、揺らされながら、意味もなく名前を呼び合います。すぐ目の前で。  
遮るものも無く肌で触れ合っていて。その相手が与えてくれる快楽以外、何もわからなく  
なっているのに。それなのに、あなたの存在を、もっとはっきり感じたいから。このまま、  
意識がどこかへ飛んでしまいそうになっても、あなたにずっとつかまえていてほしいから……。  
 ぽた、ぽた……と私の肌の上に、断続的に熱いものがたれ落ちる。私の体を貪ることに必死で、  
流れるほどに湧き出た羽和さんの汗。私の胸に。首筋に。頬に。空中で外気に晒されても  
まだ熱いままの液体が落ちて、小さく跳ねる。  
 羽和さんの汗。羽和さんのにおい。野球部の練習や試合で、その鍛えられたからいつも感じる  
スポーツ選手の空気。首筋に浮かんだ光る水滴を、腕を伝って落ちる汗の筋を、水気を吸って  
張り付いたアンダーシャツを……いつも、素敵だなって思って見ていたんです。ううん、  
それだけじゃなくて、私には無い"男性"のにおいに、時々……欲情さえ、していました。  
 そして、今感じる、羽和さんの男性のにおいは。汗は。野球ではなく、私のために。私で  
感じてくれて、私をもっと味わうために出されたもの。それを思うと、幸せで。夢みたいで。  
泣いてしまいそうなくらい、嬉しいです。  
 口元にもうひとつ、ぽたりと垂れた羽和さんの汗が、唇を伝って舌に触れる。潮みたいな味。  
羽和さんの味。それを、もっと得たくて……。  
「んっ…んむっ……ちゅ……!」  
 羽和さんの背中に両手を回して、顔を上げてキス。熱い体同士が、もっと近くなって。羽和  
さんの吐息も体温も、私とひとつになって混ざり合ってしまったような錯覚さえ起こします。  
 体のなかにふくらんでいたものが、四肢に広まって。もう、一息で登り詰めてしまいます。  
このまま、ずっと羽和さんを感じていたいのに。羽和さんに感じてもらいたいのに。もう、  
耐えられません。突かれるたびに。抜かれるたびに。全身が痺れて、壊れてしまいそうなくらい  
気持ちよくて……。  
「…ぷはっ……あ……もう、だめです羽和さんっ…ん、ぁ……私……わたしっ……!」  
「うん……っく……いいよ、はるかちゃん……オレも、もうっ……!」  
 もう……?羽和さんも、ですか?羽和さんが、私と同じように、限界を迎えそうになっている。私で。私の体で。私と一緒に。  
「………っっ!!」  
 そう、思ったら。羽和さんの苦しそうな、切なそうな、そして、陶酔したような声を聞いたら。  
 必死に我慢して、膨らみきっていたものがあっけないほど簡単に弾けて、決壊して――。  
「…あっ、ああ、ああぁ……ああぁぁーっ!!」  
 とても声なんて抑えられない。それくらいに圧倒的で、大きい絶頂が私の中に走り抜けて、  
もうこのまま死んでしまってもいいっていうくらい、体が、頭が、感覚が、とろけて、快楽  
以外の何も感じられなくなって……。  
 羽和さんは……?羽和さんも、感じてくれましたか?羽和さんも、私と同じように。  
 濃い霧か、あるいは水のなかにいるみたいに鈍った頭の隅で、羽和さんの体の感覚を  
探します。羽和さんの大きな体。羽和さんの温かさ。羽和さんのにおい……。  
 ………。  
 
 ………。  
 あれ……?どうして?つい今まで求め合って、繋がっていた羽和さんがいません。  
どこに行ってしまったのでしょうか。もっと、ずっと抱きしめていて欲しいのに。  
 快楽の余韻と痺れた手足の感覚がまだ引かないまま、目を開けて辺りを見回すと。  
 
 
「……私の部屋?」  
 そこは、"羽和さんとお勉強して、お茶をいただいた"応接間のソファではなく、私の部屋の  
ベッドの上。体を起こして部屋の隅から隅までを見回しても、もちろん、羽和さんの姿どころか、  
残り香さえありません。  
 時計を見ると、11月25日の夜遅く。羽和さんが私の家に来て勉強する土曜日の、前日です。  
 これは、要するに……。  
「夢、ってことですか……」  
 凄まじい落胆と脱力感。思わず、持ち上げた上半身を再びベッドに投げ出してしまいました。  
 あらためて考えてみれば、夢なのも当然なくらい、不自然なことばかりでした。羽和さんの  
足はケガしてなかったし、チョコレートにそのまま媚薬みたいな効果があったり、それに、  
その……初めてなのに、痛くなかったり。  
 不自然というより、単に私に都合が良い内容の夢だっただけです。激しく自己嫌悪。  
 自分の体を見てみると、上着とスカートがはだけていて、下着がずれて湿っています。  
さらに、私の手にも濡れた痕跡が。つまり、ただの夢でもなくて。  
 ……自分で慰めている最中に、寝てしまったということです。半分が妄想で、半分が夢。  
「あぁ……私、最低……」  
 先刻とは全く違う理由でベッドの上をごろごろ。穴があったら入りたいです。さっきと同じ  
表情で私を見ているゴン太さんを、思わず後ろ向きにしました。  
 しかも、なんですか、あの夢の中の私は。羽和さんの汗だとかにおいだとかに興奮して、  
あまつさえ普段から、よ…欲情、してたとか。そんなの淫乱どころか変態じゃないですか。  
 私は……確かに、綺麗なフォームでピッチングをして、溌剌とグラウンドを走る羽和さんの  
汗なら嫌じゃないし、格好良いとも思いますけど……それに欲情なんて……。  
 ……してるんでしょうか。深層意識では。  
「あああぁぁぁ………」  
 じたばたじたばた。あり得ないとは言い切れない自分の性癖が怖いです。  
 それに、せめて羽和さんと私が恋人になっていて、その上で……ああいうことする  
夢ならまだしも、ヘンな効果があるチョコレートのせいにしてその場の勢いでだなんて。  
 私、無理矢理されたいなんていう願望なんかも持っているのでしょうか……なんていうの  
でしたっけ……被虐趣味?  
 でもでも、確かに…もしもの話ですよ。羽和さんがそんなことするなんてあり得ませんけど、  
万が一羽和さんに強引に、迫られたりしたら……私、拒否できるのでしょうか。  
 明日は私と羽和さんがふたりっきりになるわけですから、0.00(中略)001%くらい  
は、そんなことになってしまう可能性もあるかも……。  
 …………(いらぬ心配を妄想中)。  
 はっ、またやってしまいました。あんな夢見たあとのせいか、完全に色ボケしちゃって  
ます、私。  
 いけません。ついさっき、羽和さんのお勉強を真剣にお手伝いするっていう決意をした  
ばかりじゃないですか。のぼせてる場合じゃないですよ、はるか。  
 そう思い直して、またも気合のガッツポーツ。それから……。  
 今の自分の格好を思い出して赤面。はだけた服を直して、汚してしまった下着を非常に  
情けない気持ちで取り替えました。  
 
 ……ちなみに、夢の中にでてきたチョコレートは本当にうちに置いてあるのですが、  
うしろめたいのでお茶請けに出すのは止しておくことにします……。  
 

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル