俺はカウンセラー室にいた。
近頃の著しい体力の低下がのことで、という口実で。
カウンセリングが始まり、頃合を見計らって実行に移した。
「看護婦さん……!!」
「や、やめて下―…っっ!!?んんん―!!!
俺は京子さんを抱き寄せ、その唇を無理矢理奪う。呼吸もさせないほど深く濃いディープキスに、彼女はもだえた。
離れようとするが、やはり日ごろから鍛えている野球選手と女性との力の差は歴然としていた。
「んんんんー!!! かはっ!!! たすっ!! あむ!!んんん―!!!!」
「……!!………!!………………!!!」
―――…。
自分自身も初めてのキスに夢中だった。
足をバタバタさせているが全く意味は無く、体力の消費につながるだけだ。
「んんん……!!………やっ…!……………くふぅ…あっ!……」
「ちゅ………!…………ちゅく…!…」
―――…。
苦しくなってきたのか、暴れて疲れたのか、だんだんと大人しくなってきた。
「……ん………ちゅく………!………はっ…ゃめてぇ…んむっ!……!…ちゅく…」
「…ちゅくちゅく…(そろそろ離してあげても良いかな…?)…ちゅ…」
俺はゆっくりと唇を離してあげた。唾液が糸を引き、シーツの上に落ちた。
京子さんはぐったりとしている。
「…はぁっ…はぁっ…はぁっ……ぅ…ぅぅ…ぅはぁっ…」
涙していた。息が乱れて苦しそうに泣いていた。
「ごめんね、看護婦さん。でも、こうでもしないとあなたは振り向いてくれない」
「ぅぅぅ…すん…はぁ…はぁ…ぅ……ぅ…ぅぁ…はぁっ…」
俺の腕の中で涙をこらえるように、息を整えるように、彼女はぐったりと黙っていた。
俺の言葉は耳に入っていないのだろうか。目が虚ろだった。
―――…。
「あなたを手に入れるには、あなたを支配してしまえば簡単だ」
「…はぁ……ぅぅ…はぁ……ぅ…はぁ…ぅ……はぁ……」
だいぶ呼吸の整ってきた彼女は少しずつ泣き止んだ。俺の話を聞いているような姿勢を見せる。
軽く抱き寄せてキスした。
優しく、本当に軽く触れるだけのキスを2、3度。
「昨日、あなたがあのダイジョーブ博士の助手をしていることを知ったんだ」
「!!」
ハッと顔を上げ、何故知られてしまったのか、どうやってそれを知ったのか、自分がこれからどうなるのか、それら全てが合わさった微妙な疑問の表情を向けた。
「どうして…」
「街に変な占い屋があってね…。
ある日を境に俺のスタミナが激減した。スタミナだけじゃない。
コントロールだって、最近は思ったように投げられない。
直球の速度なんて10キロも落ちた。
そんなこんなで調子の出ない俺はスタメン、一軍と離され、二軍に…。
だから占い師に聞いたんだ。これは何故なんだ、何故俺の身体がこんなことに…って」
「……………さぃ…」
か細く耳を澄ませないと聞こえないような声で、京子さんが何か言った。
俺は構わず話を続けた。
「占い師はこう言った。あなたは記憶を無くしている」
「…………さぃ…………なさぃ……」
「最初は信じられなかった。でもよくよく考えてみると、公園で倒れてるなんて有りえないんだ」
そう、確かに公園には行った。でも、何もしていないのに、何もされていないのに倒れてた。
「…ご………さぃ………ご……なさぃ……」
「俺は占い師にその日の出来事を占ってもらった。
するとどうだ、頭の薄い白衣を着た老人と赤いピアスをしている緑髪の女が見える、そう言ったんだ。瞬間、全ての記憶が俺の中に舞い戻った」
「……ぅぅ…ゆる…て………なさぃぃ……」
また、京子さんは目に涙を浮かべ始めた。
その緑髪の看護婦さんこそ、加藤京子、この人だからだ。
恐らく、罪悪感に駆られたのだろう。
「でも不思議と怒りは無かった。それを理由に京子さんは俺の言うことを聞いてくれる、そう思ったんだ」
「………」
「もしあなたが警察に通報するならすればいい。ただし、裁判では俺が勝つ。
博士にサインしてくれと言われたとき、しなくて良かった。
あれは麻酔の為のサインなんかじゃない。
本人了承確認の為のサインだったんだ。
当然、本人の了承が無い肉体改造手術なんて認められるはずが無い。
俺を強制わいせつ罪で訴えることはできる。
でも、博士やあなたも、それ相応の罰は与えられる」
「――もう良いですっっ!」
「看護婦さん?」
「もう良いです…解ってます……犯してください…それであなたの気が済むなら…」
「……………違う…」
俺は彼女を抱きしめた。
「…違うんだ」
「ぇ……?」
「あなたを犯したいんじゃない。あなたにお願いがあるんだ。もう一度、まともに野球をしていたときの身体に戻してくれ」
「ぇ…ぇぇ……??」
そう。別に身体が目当てで来たわけではない。
元の野球のできる身体に戻りたいだけ。物分りの悪い年寄りに頼むよりも、若い女性に頼む方が分かってくれる。
「さっき無理矢理キスしたのは、また記憶を消されかねないから。大人しくなってもらわないとまた変な注射されかねないからね。まあ、看護婦さんに罪悪感があっただけ安心した」
「私を……犯さないんですか………?」
顔を上げて、僅かな希望を掴み取るかのような問いかけをする。
「あはは…そりゃまあ、看護婦さんとエッチしたいのは山々だけど…それだと看護婦さんが可哀想だしね」
京子さんに優しく微笑んだ。
彼女は驚いているのか嬉しいのか、固まってしまっている。
「看護婦さん…お願いできるかな?もう一度一軍に…スタメン出場したいんだ」
「…あのぅ……」
「何?」
「そのぉ……やっぱり…主人公さんは優しい方でした…」
…返事に困る俺。彼女の顔を見る。
「怖かったんじゃない…?」
「はい……でも…優しいです…」
「そ、そうかな…??…そう言われると照れるけど…」
俺に顔を見られないように胸板に顔を埋め、モゴモゴと話す京子さん。
どうしたのだろうか?
「して…良いですよ……?」
「…ぇ?」
「エッチ…」
「………///」
京子さんは俺の腕から離れ、頭につけているナースキャップを取り、ナース服のボタンを外し始めた。
「あ、あわわわわわっっ、ダメですよっ、看護婦さんっっ」
「もうっ! さっきエッチしたいって言ったじゃないですかぁっっ!」
「い、言ったには言ったけど、別に今したいわけじゃ…」
ナース服がはだけ、下着があらわになった京子さんが俺に抱きついた。
(ぅ…胸に胸が当たってむにゅむにゅで……何言ってんだ俺)
「か、看護婦さん!!」
「好きにして良いですからね」
押し倒された。