「もう逃げられませんよ」目前にはあの最強隊士、沖田総司が立っている。背後は壁。
「まさか貴方が"こちら"の情報を尊皇派の浪士達に流していたなんて、残念ですよ」
そう言いながら俊速にして小刀が首に向けられる。裏刃が首筋にあたる。
「証拠も目撃談も揃ってるんです。素直に吐いてくれると嬉しいなあ」
「……」
首筋に当てられた小刀が数寸上へ上げられた。
顎に小刀があたり、冷たい殺気が伝わってくる。小刀の上の顎とその顔は無理矢理上――沖田総司の方――へと向けられている。
「喋れないんですか、この口は」
足が震える。
情けないけど立っているのすら、この剣豪の殺気を前にしては不可能だ。
「……ゃ」
「何かいいましたか?」
「……」
小刀が更に上へ同時に顔が上へ傾く。
「本当無駄な口だなあ、これは」
小刀の刃が傾いた。
裏刃が上へ上がり、
切れ味の良さそうな白い殺気を放つ刃がせまってくる。
途中で小刀の回転をやめた沖田総司は
その瞳を嬉しそうに輝かせ
「なら身体のほうなら喋ってくれるかな」
呟いた
喋れるものか…
たとえこの身体朽ちようと
うちはそう簡単に吐いてやるような女と違う
「じゃ行きますか」
そう沖田の声が聞こえた刹那、沖田は足払いかけた。
もともと震えて立っているのが一杯だった細い足はいとも簡単に払われた。
体勢を崩し床に仰向けに崩れた女に起き上がる転機すら与えず、
沖田は馬乗りに彼女を押さえ込んだ。
「……う…っ」
気がついたら目前の景色は一変していた。
島原の遊廓の一室にいた筈が…
いつの間にか気絶していたらしい。
「…何…処」
「新撰組、屯所ですよ」
「!!」
涼しげでこの場にそぐわない声が聞こえてきた。
手首に冷たい感触がある。
鎖だ、鎖を巻かれていた。
動けない。
動かない。
足は床に届いてはいるものの、その足にも鎖が巻かれ、両手は大きく開かれた姿勢で吊られていた。天井の梁とつながった手首の鎖は、あがいても無情に小さな音をたてるだけであった。
動かない身体に感覚だけが敏感に残り、手首に巻かれた鎖が食い込むのが全身に響きひどく痛んだ。
「丁寧に扱いますから、大丈夫ですよ」
背筋がぞっとする程、
近くに沖田の顔がある。
「ぃ…い…嫌…」
怖い。
怖い。
怖い。
「何が嫌なんですか?」
沖田の顔が離れた。
しかし心の臓の鼓動は高鳴るばかりである。
「そういえば…」
底の見えない意地悪な笑みを沖田は彼女へ向ける。
「遊廓から貴方を連れ帰る時大変だったんですよ、女将さんは青い顔して貴方を見るし、もうあのお店には行けませんよ〜
残念だなぁ…貴方と違って出来の良い可愛い子沢山いたのになぁ」
軽く甘い声色で話しかける沖田は彼女の体を静かに見やった。