闇夜に雨ぞ降りしきる。  
久しぶりにきた夕立と思われた雨は、そのまま勢いをとめることなく降り続いていた。  
夕立ではなかったか。あまりに激しかったのだが。  
歳三はふと筆を休め、顔を上げた。  
障子の向こうにかすかな気配を感じたためである。  
書きかけていた書をいまいましげに丸めると、筆を置く。  
「・・・入れ」  
音もなく障子が開いて、歩が顔を上げた。  
歩の背後に、降りしきる雨の音がする。  
歩が部屋に身を滑らせたのは、雨音が遠くなったことでわかった。  
歳三は歩に向き直り、居住まいを正した。  
乱れた部屋の空気が静まるのを互いに見極めようとするかのようである。  
張り詰めた沈黙を破ったのは歳三であった。  
立ち上がると、どすどすと足音を響かせて行灯に歩み寄りふっと明かりを消した。  
あたりは闇につつまれた。  
 
いきなり歩の顎がぐいと持ち上げられた。  
息がかかるほどに顔を近づけられているのがわかる。  
射るような目が覗き込んでいるのが、歩にはわかった。  
顎を持ち上げられたままあらがわなかった。  
静かに目をあげ、歳三を見つめ返す。  
闇の中で瞳に互いの顔を認めるかのように。  
 
ナゼソンナカオヲ・・・?  
 
歩の問いは歳三の唇に飲み込まれた。  
歳三の口付けは意外なほど静かだった。  
これまで歩はそんな風に歳三に口付けられたことはない。  
歩の唇を、包むように歳三の唇が覆った。  
闇を透かして歩には、歳三の表情が見える気がした。  
だから歩は、普段歳三が歩にする時のように歳三の唇を貪った。  
歳三の顎に両手をかけると、歳三の唇に舌を滑り込ませて歳三の舌を探す。  
探し当てると、互いの舌を絡ませるように時折顔の向きを変えながら  
歩は歳三の唇を求めた。  
 
しばらく、歩の気のすむように唇を与えていた歳三であったが、  
その強引さを手放したわけでは決してなかった。  
ふいに、唇を貪る歩の髪をぐいとつかんで顎をあげさせ、歩を引き離した。  
そして歩の背後から、首筋にむしゃぶりつく。すぐに唇は耳にはいあがってくる。  
暗闇を凝視したままそれを感じて歩は、ゆっくりとまぶたを閉じた。  
とじめ闇、あけめ闇。  
この暗闇の中ではどのみち、体で感じるしかないのだ。  
 
歳三は歩の首筋を唇でなぞりながら、次第に歩を御していく。  
歩の体は歳三の重みを背後から受け、やがて四つんばいに組み敷かれる。  
歳三の手が歩の脚を這い、性急に膝を割った。  
まだ温まりきっていない秘所を冷たい指がいきなり押し開く。  
冷たいままの指が歩の真珠をぐいと押した。  
「・・・っ!」  
押し殺した息が歩の口から漏れる。  
その刹那。  
歩の口が歳三の腰ひもで猿轡される。  
それは合図に似ていた。  
交わる時いつも、歩はこうして声を封じられる。  
そうしておいて、歳三は歩を責めたてるのだ。  
声を押し殺し、闇の中で取り交わされる激しい息遣いをたよりに互いの体をまさぐる。  
声を出せなくても、言葉にしなくても、乱れる息が何かを伝える。  
それがあたりまえだと思っていた。  
 
ぴしゃり。  
音が響いた。歳三の指が歩のぬかるみに滑り込んだのである。  
歩はもう、濡れていた。  
「っ・・・」  
体の芯に向かい、歳三の指の冷たさがぐぐぐと押し入ってくるのを感じる。  
歩の体がのけぞる。  
同時にもう片方の歳三の手が身八つ口から侵入し歩の乳房は乱暴にまさぐられ形を変えた。  
背後から歩の乳房を掴み、指の間に小さくとがった乳首を挟んでつねるようになぶりながら  
歳三は歩の耳から首へ鎖骨へと隙間なく舌を滑らせていく。  
その間も歩のぬかるみを、蜜で温まり始めた指が休むことなく出入りしていた。  
歩からあふれ出した滴りが溝を流れはじめている。  
歩は眉根を寄せて押し寄せてくる快感に耐えていた。  
 
猿轡から吐息が漏れて闇夜に響き渡る。  
歩の体から、歩の香りが立ち上る。  
障子の向こうからぼんやりと漏れてくるほの白いあかりが歩の輪郭を浮き上がらせる。  
帯が緩められ、着物は乱れて乳房がのぞき、裾はとうにはだけられ白い脚が伸びている。  
闇の中足袋の白さが歳三の目についた。  
ばさり。  
空気を切り裂くようにして歩の着物の裾が大きく打ち上げられた。  
ひやりと湿った夜気が、むき出しにさらされた歩の尻にまとわりつく。  
歩のぬかるみを執拗にかき回していた指がひきぬかれた。  
乳房が解放される。  
息を整える間も与えられなかった。  
むき出された尻が両手でつかまれ高く持ち上げられた。  
蕾からぬかるみまでを探っているのは、歳三の熱い先端。  
「・・・っ・・・・っ・・・」  
激しい動悸が歩の胸におしよせていた。  
歳三の先端が滑るように動くのは、歩の蜜だけのせいではない。  
多くの言葉を語らぬ歳三の、その体が語るものを推し量ると歩の奥が絞り込まれる気がする。  
ぬかるみを先端が探し当てた。  
 
いきなりだった。  
ずぶりと音がして、歳三の猛り狂ったもので歩はひといきに貫ぬかれた。  
「っ・・・っっ」  
勢いにおされ、前のめりになる歩の体を歳三の手が抱きとめぐいと引き寄せる。  
己がしっかりと奥まで歩に突き刺さったのを確かめると、  
左手を歩の前にまわして大きく開き、秘所をわしづかみにする。  
指を伸ばして女芯にあて、律動でこすれる位置に当てる。  
 
猿轡の隙間から、苦しげに歩はあえいだ。  
歳三の荒々しい動きは快感だけでなく、わずかに恐怖に似た別の興奮を呼ぶのだった。  
そうして律動を支えてやると、自由になった歳三の右の手は  
歩の体にまとわりついた帯や着物をはらいおとしながら体の前を乳房に向かっていく。  
背後から激しく歩に打ちつける音が闇に響き渡る。  
しかし、歳三の右手は不思議なほどに優しく歩の体をなぞった。  
歩は突きに揺さぶられながら、かすむ目をぼんやりとひらく。  
いつのまに暗闇になじんだか、目の先に障子がぼうっとほの白く浮きだって見える。  
突かれて体が揺れる音、こすれる淫靡な音、肌を打つ音、歳三の息、己の息。  
闇の中でしかこうして、交わることはない。  
しかしだからこそ、体中が歳三の心すらも、感じとれるのかもしれない。  
 
歩の肌に歳三の手が触れると、その場所から著わしようもない痺れがくる。  
歳三の肌と歩の肌の、ひとつひとつの目に見えない凹凸があわさり  
他の誰にも与えられないこの痺れを生み出すのが歩には不思議だった。  
歳三の左手は今、歩の芯をいとおしげに優しくなでさすっている。  
その優しい摩擦は歩の中から蜜をあふれさせる。  
なのに、律動と、乳房をつかむ歳三の右手はかすかな痛みを伴うほど荒々しく激しい。  
痛みと摩擦が同時に歩を責める。  
これが、土方歳三の闇なのだ。  
この矛盾こそが、新選組の鬼が自分でどうにもできないものなのだ。  
この鬼は、声をたてずに血の泪を流す。  
 
声の代わりに歩の体は、激しく歳三の律動にあわせて動いた。  
もっと歳三が欲しい。もっとこの痺れが欲しい。ずっと、もっと。  
 
ふいに。  
 
歳三の動きが止まった。  
達したわけではない。猛ったものは相変わらず歩の中にいてじりじりと中から  
歩を押し広げようとしている。  
それなのにどうしたというのか。このようなことは今まで一度もない。  
秘所を抑えていた歳三の左手が下腹にあてられた。  
歩がいぶかしく思った瞬間だった。  
歳三はゆっくりと体勢を変えた。  
あぐらをかくように座す。  
歩はうろたえた。  
しかし貫かれたままでは、歩は歳三の上にそのまま座すより他なかった。  
背後から歳三の腕が歩の肩をつつみ、強く抱きすくめられる。  
耳にあたるは歳三の頬。短く吐く息が歩の頬を掠めていく。  
 
そのまま歳三は動かなかった。  
歩の中にある歳三の猛りは少しもその勢いを失わずにいたが、  
それは歩の一部ででもあるかのように歩の中で息づいていた。  
乱れる息と早打ちする歳三の鼓動が歩にははっきりと聞き取れる。  
鍛えぬいた歳三の腕に胸にすっぽりと包まれる。  
 
ぬくもりと一緒に何かが歩をくるんでいた。  
小さなくちづけが歩の肩に、首筋にと、いくつもいくつも降ってくる。  
それは官能を呼ぶ唇の責めとは違う。  
小さきものを、愛しきものを唇でなぞらずにいられない、そんな愛撫。  
歩の目に、温かい泪が溢れ出視界がゆれてかすんだ。  
 
なぜ自分を抱くのか。  
もう問う必要はない。  
歩の目から溢れた雫は、頬を伝った。  
雫が顎を伝い、今きらめきながら落ちていきそうだ。  
歩は唇をかみしめると、  
自分を抱きしめている歳三の右手を無理やり取り上げ、自らの秘所にいざなう。  
抱きすくめられたままでいたならば、その腕にきっと泪が落ちてしまう。  
歳三の手に秘所を預けると、歩は動き始めた。  
貫いた歳三から逃げるように腰を浮かせると、歳三の手が歩を抱きとめようとするから  
そこにおのずと律動が生まれる。  
壊して欲しかった。このままここで死ねるほどに突いて欲しかった。  
軒を滴る雨音に似た音が、闇に響きわたる。  
歩の背に、ひやりとした濡れた感触があった。  
唇か。・・・それとも。  
 
それを確かめるよりも早く、歳三はぐいと歩の腰をつかむと、座していた腰を浮かせ  
再び歩を、投げ出すように畳にはいつくばらせた。  
乳房が両手でつかみ御される。  
歩の中にいた歳三の猛りは、沈黙を破り激しく動きはじめた。  
突きにあわせて荒々しく乳房は握るように揉みしだかれ、  
指の間でいたぶるように乳首はこすられ、背骨に沿ってを温かい舌が蠢いた。  
「・・・っ、・・・っ、・・・・っ」  
押し殺そうとしても、荒く短く吐息が歩の口から漏れる。  
うなじをかんで歩を取り押さえ、歳三はふいに歩の猿轡を取り払った。  
「声を出せ」  
「・・・っ!?」  
冷たい空気が湿った唇にながれこんできて、歩はあえいだ。  
「いいから啼け」  
歳三の手は乳房をがしりとつかみ、もう片方は歩の突起を荒々しくなぶり始めていた。  
「っと・・・歳・・三・・・さま・・・?」  
突きながら歳三の指は歩の突起を圧し、蜜をまとわせさすりあげる。  
舌は歩の耳の中を音をたててなぞる。  
尻の両頬に、歳三の筋肉を感じる。  
「っ・・・、・・・っぁあっ!」  
耐え切れず歩は声をあげた。  
唇は耳をはさみ、うなじを這い、背骨をたどる。しかし噛むことは決してない。  
今宵歩の体の見えるところに痕跡を残してはならないのだ。  
 
「・・・ぁあぁっ・・、はあぁっ、っ・・ぁあっ・・・あっ」  
声を殺すことは、理性を保つことであった。  
声を解放するともに歩の中から蜜が噴き出し激しい鼓動が甘く胸を貫く。  
突きながら、歳三の両手の長い指は三味線をつまびくかのように細やかに  
交互に動きまわり歩の芯を圧し続ける。  
歩の秘所は中心を猛りに貫かれたまま歳三の全ての指で無理やりに開かれ、なぞられていた。  
蜜もひだも、予想もしない指の動きにさらされ思うままなぶられる。  
あふれ出す蜜が滴り指をぬらし、その滑りが新たな蜜を呼ぶ。  
声にならない悲鳴が歩の喉の奥から漏れはじめたのを歳三は聞き逃さなかった。  
律動をとめて堪える。  
「・・・まだだ」  
ふいに歩の中から猛りを引き抜くと、力のぬけた歩の腕を取り身を横たえて自らの上に歩を導く。  
歳三の手につかまれた歩の腰は、そのまま横たわった歳三の目の前までさかしまに  
引きずりあげられた。  
「・・・っぁっ、・・な・・・にを・・・!」  
「いい。黙れ」  
歩の秘所は歳三の目の前にさらされた。  
そして歩の目の前には、歳三のものが吠えるように屹立していた。  
 
見つめられているのは分かっていた。  
身をくねらせても、歳三の前にむき出しにされたそこを隠すことができない。  
 
ふいに。  
「・・・っぅっ」  
歩の秘所と尻の間のわずかな隙間に、熱い吸い付きが襲った。  
蠢く舌が、律動で充血した歩の芯を捕らえる。  
降りしきる雨にも似た水音と共に、荒々しい舌が歩の秘所を動き回り始める。  
「ぁっ、はっ、ぁあぁっ!」  
歩は声を殺そうとするがごとく夢中で猛った歳三の屹立を口に含む。  
喉の奥までつきささるかと思うほどに張り詰めたそれを、必死に舌で、唇で責め返す。  
「ぅっ・・・んっっ・・・」  
歳三の舌の蠢きに反応して漏れる声は、歳三の屹立がせきとめる。  
歩は夢中で歳三をしゃぶりつづけた。  
歩の口には大きすぎるそれを、はみ出した部分は手で補い、唇で  
全てを包もうとし、筋を舌で舐めおろす。歳三の玉も棒も、あまさずに愛撫した。  
「んっ・・っふっ・・・っふ・・・っふ・・・っふ・・・っふ・・・」  
歩の鼻腔から、狂ったように息が漏れ落ちる。  
開いた脚のももは歳三の両手でしっかり抑えられ、蕾からぬかるみへと  
くらいついた歳三の唇が行き来する。  
ぬかるみの奥に、蠢く舌が時折触手のようにのばされる  
水面を打ち付ける雨のように水音は激しさを増し、歩の真珠が流れに逆らってなめつくされる。  
すいつかれる。やわらかく蠢く舌がめちゃくちゃに舐めまわす。  
ぬかるみにとがった舌が差し込まれる。  
歩の脚が小刻みに震える。  
唇が吸い付いて離れない。歩の秘所は激しく執拗に責められていた。  
 
「ふっ・・っぅ・・・っ!」  
責められながら、責めている。  
歩の口の中で時折歳三の棒はいよいよ膨張した。  
歳三が、歩の蕾や秘所をなぶる手がふと止まる一瞬間がある。  
愛撫を受け入れているのか。  
歳三の反応が何よりも歩を高ぶらせる。  
いかせたい・・・!  
歩は、唇にかかる髪を抑えると、すぼめた口で歳三をつつみ直し、  
舌で筋をなぞり歳三を吸い上げ始めた。  
両手でそっと玉を包み時に指先で押す。  
一度でいいから、私よりも先に・・・。  
なのに、歳三には歩の動きが激しくなる理由が分かっていたに相違ない。  
唇が歩の秘所全体を包むと、吸い付きながら押し当てられた舌が真珠を激しく舐めまわした。  
歩の真珠はこれまでの愛撫でもう既に張り詰めてこらえている。  
「んっ・・・んっ!!」  
だめ、だめです、そんな・・・!  
歳三の猛りを口いっぱいに含んだままではそれを声にすることはできなかった。  
呻きだけで歳三が止まる筈もなかった。  
とっさに腰を引いて逃れようとするが、歳三の手ががっしりと歩をつかんでそれを許さなかった。  
逃れようともがく歩の真珠を圧し続けていた舌が離れたと思ったとたん、歳三の  
歯が甘くそれに噛みつき擦りあげた。  
「・・・・っっ・・・っぅぅっ!!」  
びりりと走った痺れが、瀬戸際で耐えていた絶頂に歩を突き落とした。  
 
びくりとのけぞると同時に、ついに耐え切れず歩の口から歳三の屹立が飛び出した。  
「っあぁっ!ぁぁっ・・・っぁああああ!!!」  
激しい絶頂がきた。歳三の屹立を取り落とさぬようにするのが精一杯だった。  
歳三は歩に握られたままむくりと上半身を起こすと、歩の尻の間に舌を差し込む。  
「・・っはっ・・!ぁっ!」  
あまりの快感にもだえた歩が屹立から手を離すと、その隙をついて歳三は  
歩の背後から容赦なく猛り狂ったそれを突きたてた。  
「はっ・・・ぁぁあ!!」  
びしょびしょになったそこは、押し入ってくる屹立にあらがえない。  
両の乳房をつかんで歩を引き寄せながら歳三は余韻も消えぬままあえぐ歩を激しく揺さぶる。  
「ぁぁっ、ぁっ、はぁっ、・・・ん、ぁあっ、ぁぁぁっ」  
歩の蜜が飛沫となり、打ちつけるたび歳三に飛び散る。  
屹立の先端にあるくびれが歩の中をかき分ける。  
蜜をかきだし、入り口にてかろうじてとめられまた中をかき回す。  
歳三の律動が次第に早くなっていった。  
「・・・っ・・・・」  
かすかな息が歳三の口からもれた。  
その手は極まったように歩の腰をなぞり、力を込めてつかみなおす。  
そうしたかと思った刹那、歩のひくつく中で歳三の屹立が瞬間膨らむ気がした。  
どん、と歩の腰が乱暴に歳三にひきつけられ、小刻みにゆれながら歳三の腰骨が  
歩の尻に押し付けられるのがわかった。  
強張りは瞬間だった。  
大きな波と同時に歳三の手は離すまいとするかのように  
歩の腰を力いっぱいにひきつけて耐え、やがて堰を切ったように激しく己の腰を  
激しく歩に打ちつけ震えた。  
「ぁぁっ!! いやぁっ・・・歳・・・三さまぁっ・・・・!」  
 
今まさに果てようとしているのは歳三なのに、泣きながら呼んだのは歩だった。  
お願い離れないで・・・!離れないで!  
歳三の腰が細かく震えている間に必死で歩は祈る。  
震えが止まるまでのわずかの間、歳三の手は歩の腹を通って無意識にか乳房に伸ばされた。  
やさしい手が乳房をつつみ、乳首を長い指先が圧したと思った時、歳三の震えがとまった。  
手のひらが歩の乳房をやさしくさすり、そして潮が引くようにまた乳房から離れていく。  
それにあわせて、歩を埋めていた歳三の屹立が引き抜かれていく。  
歩の中からどろりとした滴りが流れ出して腿を伝った。  
 
ふたりのの荒い息が、暗闇に響く。静寂がやがてもどってくる。  
はいつくばったままで歩は、小さく震えていた。  
歳三はそっと歩をひき起こすと、胸の中に抱きいれた。  
歩の頭に頬をつけ、優しく髪を撫ではじめる。  
歩は初めてそんなふうに歳三に抱きしめられた。  
歳三の鼓動を聞くことのできる位置に、顔を埋めるのは初めてのことだった。  
どのくらいこうして、このぬくもりを感じていられるのか。  
 
雨はまだ、激しく降り続いていた。  

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