暫くの沈黙のあと、二郎は口火を切った。  
「へえ?それは詳しく聞きたいねえ。」  
 
二郎の問い掛けに、るちあは目を開いた。  
「(え?泡にならない?)」  
手足を見てみたが、全然泡になる様子もない。  
「どうして?」  
 
呆然とするるちあに二郎は問い掛ける。  
「『どうして?』じゃねえよ。おまえが人魚だというならその証拠を見せてもらおうか。」  
 
少し考えたあと、るちあはその問いに答えた。  
「わたしの体に水をかけてみればいいわ。」  
もしかしたら、変身そのものを見られなくては駄目なのかもしれない。  
 
「へーえ。じゃ試してみるか。」  
 
二郎は、三郎にバケツで水を汲んでこさせた。  
そして、るちあに頭から水をかぶせた  
るちあは、今度こそ泡になること覚悟した。  
 
髪は金色に輝き出し長く伸び始めた。  
同時にリボンは貝がらの髪飾りに変化し、両脚はひとつに重なり魚のように変化していく。  
そして腰のあたりまで鱗に覆われ、下半身は完全に尾ひれに変貌を遂げた。  
それを見た三人は驚嘆の声を上げた。  
 
変身そのものさえも人に見せた。にもかかわらず、体が泡になる様子はない。  
るちあの覚悟は完全に裏切られてしまった。  
両手を見つめながら、るちあは愕然とする。  
 
「(また、こんな・・。なぜ?どうして?)」  
 
自分の正体を明かせないもどかしさに、どれだけつらい思いをしただろう?  
何度、海斗への想いをあきらめようとしただろうか?  
それというのもすべて、この戒めのためだったのだ。  
 
「(こんなことって…。一体今まで何のために…。)」  
 
落胆するるちあに、二郎は嬉々として言った。  
「おもしれえ!!人間になるところも見せろよ。」  
 
二郎は、るちあの顎に手をやり、くいっと引き寄せて言った。  
「人間になってみせろよ!」  
「嫌よ!!」  
「じゃ、おしおきだぜ?」  
「好きにすればいいわ!!どんなことをされても、もうあなたたちの思い通りにはならないわ!!」  
 
泡になることも叶わず、逃げることもできない。  
なす術を失ったるちあだがこの悪漢の言いなりにはなりたくなかった。  
 
「じゃ、お言葉どおりさせてもらおうか。」  
二郎は近くにあった縄を取り出した。  
 
まず、るちあの両手を後ろ手に縛った。  
そして、胸の膨らみを上下から挟み込むように、るちあの上半身を縛り上げてしまった。  
さらに、三人がかりで天井にあるフックに縄をかけるちあを吊り下げた。  
るちあは完全に自由を奪われ、尾ひれをだらんと垂らした状態で、宙吊りにされてしまった。  
 
 
第7章 観察  
 
「いい格好だな。」  
二郎は、るちあの尾ひれをまじまじと見回すと、撫で回しながら、にやけた顔をして言った。  
「ところで、人魚のケツの穴ってどうなってるんだ?」  
「なっ!?」  
「いや、人間の時にしっかりあったのが見当たらないんでな。」  
「あなたという人は!!どこまでわたしを侮辱すれば気が済むの!!」  
尾ひれを左右に振りながらるちあは怒った。  
 
「いいんだぜ、別に教えてくれなくても。」  
二郎は、そばに持ってきていたタオルで、るちあの濡れた尾ひれを拭き始めた。  
「何をする気?」  
「水に濡れて人魚になるなら、乾かせば人間になるんじゃないかと思ってな。」  
図星だった。  
 
「やめて!!」  
二郎は無視して拭き続ける。るちあも尾を左右に揺らして邪魔をするが、  
結局、防ぐことはできなかった。  
 
だんだん下半身を覆った鱗の色が薄くなってきた。  
そして尾ひれの先端が二本に分かれ、次第に脚に変化する。  
そしてついに完全な人間の姿へと変化を遂げた。  
 
「ほうら、やっぱり人間の姿に戻った。」  
 
るちあは、自らを泡にする覚悟が逆に秘密を明かし、  
さらには、相手を増長させてしまったことの無念に、身を打ち震わせた。  
そんなるちあをよそに、二郎はまたよからぬことを企んでいた。  
 
二郎は、るちあのうしろに回り、片方の尻に手をやって、尻の間が開くように脇へ寄せた。  
るちあの二孔は、度を超した陵辱により、ぽっかりと開いたままになっていた。  
「今度は一体何をするつもり!?」  
二郎は、無言で人差し指を尻の孔に深々と押し込んだ。  
「あああああっ?」  
そして、親指をもう一つの孔に突っ込んだ。  
「あくうっ!」  
そして、二本の指どうしを、るちあの体内で粘膜を挟み込むようにしっかりとあわせた。  
もはや、るちあの秘部は、痛みを通り越して痛みを感じていない。  
しかし、何かが入り込んできた異物感は感じていた。  
 
「おっと、暴れるんじゃないぞ。中が破れても知らないぜ。」  
「あなたはどこまでこのわたしを…?」  
るちあは、涙声で問い掛ける。  
 
「よーし。いいぜ。」  
 
合図に、三郎が汲んできていた水をるちあにかけた。  
るちあは再度人魚の姿に変化し始めた。  
 
男の指が二孔に深々とささったままだったが、るちあの身体の変化は止まることはなかった。  
両脚がくっつき魚のように変化する。二郎の手は股間に位置していたのが、  
次第に表面にせりあがり、臀部が変化したあたりの少し下に来ていた。  
そして、一筋の切れ目に指の根元が挟まれた状態になっていた。  
指で切れ目の内側を確認したところ、やはり、二つの孔があるのは変わっていなかった。  
「ほおーっ。こんなところにあったのか!」  
指を抜くと、その切れ目はぴったりと閉じ、見た目には全然目立たなくなった。  
二郎は、切れ目の両脇を押さえて開いたり閉じたりしながら言う。  
「ふーん。なるほどねぇ。」  
 
るちあは、唇を噛み涙をこらえた。  
 
 
第8章 人魚の味  
 
「じゃ、この状態でも味見させてもらうとするか。」  
「味見ですって!?まさか?」  
「そう。そのまさかさ。」  
「あなたという人は…。それでも人間なの!?」  
「ああ、結構結構。何とでも言ってくれ。」  
 
二郎は肉棒を立てた状態で、吊り下げられたるちあの背後に立った。  
先ほど見つけた切れ目を両手で拡げて、二郎自身を中に押し込んだ。  
「くっ。」  
るちあは、人間の姿のみならず、人魚の姿でさえも犯されてしまった。  
度重なる恥辱に唇を噛み身を震わせていた。  
 
二郎は腰を使うが、どうもしっくりこない。どうやら形状が合わないようだ。  
それに、切れ目を拡げていない状態では、締め付けはよいものの、  
固いものでしごかれているようであまり気持ちよくない。  
人魚と性交できるのは一体どういう生物なのだろうか?  
そんなことを考えると次第に萎えてきた。  
るちあの切れ目から、肉棒を抜き去ると言い放った。  
 
「やっぱ人間の方がいいや。」  
 
二郎はほっと落ち着くと、腹の虫が鳴いているのに気づいた。  
「今はこれくらいにして、とりあえず飯にするか。」  
 
「おお、そうだな。三郎、飯の用意だ。」  
「わかった。」  
一郎は三郎に命じ、三郎は応えた。  
 
そして、るちあを吊り下げたまま、三人は物置を後にした。  
 
この船の食事は、グルメを自認する三郎が主に取り仕切っていた。  
そんな三郎は物置から出たところで、二人に意外な提案をした。  
「なあ兄貴達。あの人魚、ほんとに味見してみないか?」  
 
「それって食うってことか!?」  
一郎と二郎は驚きながら言った。  
 
「グルメとしては、興味あるんだよ。」  
「それに、不老長寿の妙薬だと言われているのを聞いたことがあるし。」  
 
「へぇ。不老長寿か。」  
一郎と二郎は顔を見合わせた。  
 
るちあは、我が身を襲った不幸の数々に身も心も傷ついていた。  
そこで思い出すのは、海斗のことばかり。  
楽しかった想い出や、切なかった想い出が浮かんでは消える。  
「海斗、たすけて。」  
るちあは、ただ海斗の助けを祈るしかなかった。  
 
再びドアが開き、三人が入ってきた。だが、三郎の手には包丁が握られていた。  
それを見たるちあは恐れおののいた。  
「まさか!?わたしのことを…?」  
「ちょっとだけさ、人魚のお姫様。少しだけならいいだろ?」  
るちあの背後に三郎が立ち、片手を尾ひれに当てた。  
 
「は、放して!!」「そんなひどいこと・・。そんなひどいことは止めて!!」  
るちあは、叫びながら尾ひれをばたつかせた。  
「こら!暴れると手元が狂うじゃないか。」  
三郎は怒鳴った。  
それに応えて二郎が、不気味にやさしく声をかけた。  
「ちょっと味見するだけだからさ。おとなしくしろよな。」  
そして、尾ひれを抱え込み押さえつけた。  
るちあの体は大きく震えていた。  
 
「さ、三郎、早く。」  
 
三郎は、るちあの臀部と思われる肉の多そうな部分に包丁の刃を当て、鱗をこそげ落とした。  
ピンク色の奇麗な鱗が、床に散らばる。  
るちあは、身をのけぞらせた。  
「ひいいいいぃ。」  
 
三郎は、おもむろに刃を突き立てた。  
激しい痛みにるちあの体は硬直し、今までにないほどの大きな叫び声を上げた。  
「きゃあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」  
不思議なことに血はほとんど流れ出なかったが、るちあは苦しみ、のた打ち回った。  
そんなるちあから、三郎はなんとか透き通るようなピンク色に輝く肉を切り出した。  
「ほら、動くから余分に切り取ってしまったじゃないか。」  
 
「ふむ。刺身も良さそうだが、とりあえず、火で炙って食べてみるか。」  
そう言うと、三人は物置を後にした。  
 
「あああああああああ…。」  
失神しそうなほどの痛みがるちあを襲う。  
「(わたしのことを食べるなんて!食べてしまうなんて!)」  
 
マーメイドの国では魚が主食である。人間界にいるときのるちあも人間と同じものを口にしていた。  
人間と同じように生活し、学校にも行き、人間の知り合いもたくさんいる。  
そんな自分が魚と同じように食べられてしまうなど、想像すらしたことはなかった、  
それも人間によって。  
いままで戦ってきた敵の水妖でさえ、ここまで残酷ではなかった。  
 
その頃、三人は、七輪で焼いた網の上に肉をのせようとしていた。  
網の上にのせた肉は脂が滴り落ち、あたりは魚とも肉ともつかない不思議な、  
しかも芳しい香りに包まれた。  
肉を裏返し、皮の部分を下にすると、皮は熱で縮みさらに違う香りを放った。  
三人は、香りに誘われるかのように、熱さも気にせず手掴みで、何もつけずに貪り食べた。  
そして、同じ言葉を口にするのだった。  
 
「うまい!!!」  
 
 
最終章 願い  
 
るちあは、無残な姿で仰向けに横たえられていた。  
もはや、体を動かす力もなく、その瞳は虚ろに宙を仰いでいた。  
その味の虜になった男達が幾度となく、るちあを切り刻んでいったのだった。  
すべてが食べ尽くされてしまうのは、時間の問題だった。  
 
きっと昔にもこんなことがあったのだろう。  
るちあは、戒めの真の意味を理解するのだった。  
 
「さよなら。海斗…。」  
自らの運命を悟ったるちあは、別れの言葉を口にした。  
このような目に遭うのは、自分で最後にして欲しいと願いながら静かに目を閉じた。  
そして、醒めることのない深い眠りへと落ちていった。  
 
完  
 

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