暑さが盛りを過ぎ、新学期が始まった。
それでも、夏はまだ続いている。
昼休み。
木漏れ日の下、草薙桂は校舎の陰にある体育用具庫までやってきた。
中はひんやりとして、入るなり肌寒さを感じるほどだ。
外を振りかえり、辺りに誰もいないのを確かめると、草薙桂は重々しい鉄扉を閉じた。
手を胸に当てずとも分かるくらい鼓動が高まっている。
(なんだか『停滞』するときみたいだ……)
しかし、息詰まるこの感覚は『停滞』とは全く非なるものだと、桂は分かっている。
そのことを教えてくれた相手は、すぐにあらわれた。
なにもない空間にふと発した輝きが、ベールをまとったかのようにゆらめいて、
次の瞬間、パンプスの爪先が軽やかに地へと降り立った。
「おまたせ、草薙クン……ううん、桂クン」
それはまぎれもなく、クラスの担任教師、風見みずほだった。
湿った埃の匂いが充満する用具庫に、甘くやさしい香りが広がっていく。
愛しい香りに誘われるかのように、桂はみずほに抱きついた。
風見みずほは、先ほどまで教壇に立っていたそのままの姿だ。
純白のブラウスにリボンタイを締め、
その上にバストラインを強調するようなベストを着ている。
膝丈のタイトスカートはベストと揃いの物で、下半身の丸みが一目瞭然だった。
女教師らしい純潔さを象徴するような装いながら、
それが図らずして、成熟に差し掛かった身体の魅力を溢れんばかりに引き立たせている。
「もうっ、桂クンたら。すぐにエッチな目で私を見るんだから」
すねたような素振りのみずほに、桂は悪びれた風もなく、
「仕方ないよ。先生を見れば、男なら誰だってそうなっちゃう」
「けど桂クンが一番エッチな目をしてるんだもの。
他の男の子たちよりも、先生たちよりもずっとよ」
「ずっと?」
「ええ、ずっとずーっとずうぅーっとよ。桂クンのエッチ」
みずほは身をくねらせ、胸元を桂の目線から隠すようにする。
そんな愛らしい仕草が桂の欲望に火をつけたらしい。
「それは、先生がいけないんだ」
口調こそ気安いものだったが、抱き寄せる腕の力にひ弱な少年らしからぬ
たくましさを感じて、みずほはうっとりと身を委ねる。
「好きだ、先生」
何度聞かされても嬉しさ恥ずかしさで心がいっぱいになる台詞とともに、
桂がブラウスの胸元へと鼻先をうずめてきた。
ふたりが並ぶと、ちょうどみずほの口元の高さに桂の頭のてっぺんが来る。
いかんともしがたい身長差ゆえ、抱き合うと自然にこうなってしまうのだ。
桂にしてみればそれもむしろ好都合らしく、肌触りのよい布地の内側にある
はちきれんばかりのバストの感触を左右の頬で愉しんでいる。
もちろん、みずほとしても甘えられて悪い気はしない。
なにしろ目の前の少年は愛しい旦那さま。
どんなことでも許しちゃいたい。
もっといっぱい甘えて欲しい。
それがたとえ、教師と生徒の関係を装わなくてはならない今だとしても。
「わたしも大好きよ、桂クン」
愛しい想いにかられて、みずほもまた桂の背中に腕をまわしていた。
その抱擁に応じて、桂が顔をあげる。
「先生……」
踵を地面から浮かせて背伸びをすると、みずほはそっと目を閉じた。
小首を傾げるようにして、桂を待つ。
ふたりが要領を知らない間こそ、無粋にもメガネををぶつけあって
痛い思いをすることもしばしばだったが、毎朝毎晩、あまつさえこうして昼休みにまで
逢瀬を重ねているのだから、成長のほどはめざましい。
それでもなお、みずほには唇が触れあうまでの時間が一瞬にも永遠にも感じられた。
亜光速ドライブが限界速度に達するときの感覚によく似ている。
「んンッ……」
重なった唇の合間からみずほの甘い吐息が漏れた。
ほどなくして、互いの存在を求める舌先が、どちらからともなく絡み合う。
唾液をこねあうはしたない音が耳朶に響く。
みずほがポッチーを咥えるときのように唇をすぼめると、桂の舌はするりと迎え入れられる。
そのことが性行為における抜き挿しを露骨に連想させ、少年の気持ちを急かせたようだ。
桂の膝がタイトスカートに包まれた両腿を割り広げてきた。
バランスを崩しかけたみずほが、背後にあった跳び箱に体重をあずけると、
そのわずかな衝撃で、ほころんだ花びらを思わせる唇の端から、ブレンドされた唾液が
ひと筋、頬をつたって首筋へと跡を残していく。
みずほの太腿に、熱をはらんだ少年の股間がぐいぐいと押しつけられる。
桂クン、こんなに硬くしてるだなんて……
唇を重ねたまま、みずほは心の中でつぶやいた。
『エッチは偶数日』というのが夫婦の約束なのだが、あり余る若さゆえ、
なにかと溜まりがちな年頃の「旦那さま」には、それでは到底物足りないらしい。
今朝もお目覚めのキスのついでに、股間の分身にも口づけをおねだりされてしまった。
食道を落ちていく感触がはっきりわかるほどにこってりと凝ったモーニングミルク。
その濃い味と香りがたちまち記憶によみがえり、みずほの奥底がさざ波立つ。
ほどなくして、名残惜しげな唾液の糸を引きながら、ふたりの顔が離れた。
見上げてくる桂の瞳は、布団の中と同じように、せつなく潤んでいる。
みずほは「わかってるわよ」とばかりにうなずくと、互いの位置を入れ替え、跳び箱に
背中をあずけるよう桂を立たせる。そして、みずからはその正面にしゃがみこんだ。
あきれるほどに膨らんだ学生ズボンの股間を目の当たりにして、一刻も早くなんとか
してあげたい気持ちにかられたみずほは、ためらうことなく湾曲したファスナーをつまんで引き下ろす。
張りつめたブリーフの前合わせからは、硬くなった桂の分身が覗いているが、
大きく成長すぎたせいで、みずから外に出るには出口が窮屈なようだ。
合わせ目からフリーフの中に指をこじ入れ取り出すこともできなくはないが、
それでもし桂の大切な場所に痛い思いをさせてしまってはと考えると、気が気でない。
みずほの中に芽生えつつある妻としてのプライドが、それではいけないと待ったをかける。
みずほはファスナーからいったん指を離すと、桂のベルトを弛め、ホックを外した。
学生ズボンがぱさりと音をたてて地面に落ちる。
ブリーフの腰回り手をかけ、引き下ろしていくと、姿をあらわした肉の反り身が、
まるで狙いを定めているかのように、その先端をみずほの鼻先に向けた。
「それじゃあ、先生」
桂が腰を軽く突き出すと、それに合わせて、こわばりが縦に振幅する。
みずほには、それがまるで「おねがいします」とお辞儀をしているように見えたらしい。
「ええ、こちらこそ」
微妙に噛み合わない返事をすると、みずほは桂の分身に指をからめていく。
持ち主と同じように色白のせいで、表面に浮かんだ血管の青さが目立つシャフトは、
指がそのまま張りついてしまいそうなほどに熱を帯びていた。
その熱さに少年の想いの丈を感じながら、みずほは添える程度の力加減を保ったまま、
絡めた指をこわばりに沿ってスライドさせる。
「んンッ」
喉の奥から小さなうめきを漏らす桂。上目遣いに見つめるみずほの視線に気づくと、
たちまち頬を染め、
「気持ちいいよ、すごく……」
「桂くんったら、こんなときだけ素直で良い子なんだから」
愛しい少年の見せる初な反応に、内心小躍りしそうなほどの喜びを噛みしめながらも、
みずほはつとめて「大人の余裕」を演じてみせる。
「だって、先生があんまり上手だから……んぁっ」
桂の言葉が不意に途切れる。今まで肉棒の表面をさするように行き来していたみずほの指が、
先端の切れ込みに触れたのだった。
かつて桂の意識が三年も<停滞>していた間、その身体もまた成長を止めたままだった。
それゆえなのか、はたまた単なる身体的欠陥なのか、ついこの間まで女を知らなかった
桂のペニスは、膨らんだ先端部が七割ほど薄皮に包まれている。
生々しい肉色はわずかにしか覗いておらず、見るからに初々しい。
みずほはそこに指をあてがうと、慎重な手つきで剥きおろした。
あらわになったこばわりの先端部は、その色とも相まって、丸々としたイチゴの実を
思わせる。文字通り目鼻の先にあるそれを、みずほは惚れ惚れと見つつ、
「桂くんの匂いがするわ」
仮性包茎特有の蒸れた有機臭を、小鼻をひくつかせるほどに吸い込んだ。
ありていに言ってしまえば「おしっこの匂い」でしかないのだが、今のみずほには、
たまらなく性欲をそそるものらしい。
尿臭を自分の身体の匂いにされてしまった桂にとっては微妙な心境だ。
もっとも、みずほはそんな夫の思いなど知らぬげに、
「んー、素敵な香りよ」
唇を寄せると、姿をあらわしたばかりの肉の実をためらうことなく口に含んだ。