「神代くん、バイク通学は禁止って言ったはずだけど?」
バイクから降り、エンジンキーを抜いたところで背後からかかった声に俺は
びくりと体を震わせた。
「せ、先輩・・・」
振り返ると、にこやかな笑みを浮かべている先輩、織部椿の姿があった。
「結構何度も注意されてるけど、相変わらずね」
「いや・・・すんません。寝坊することが多くてどうしても」
「あら、ひょっとしてあの子達に眠らせてもらえなかったのかしら」
「ど、どういうことですか!?」
俺は思わず顔を赤くしていた。『あの子達』というのが、今俺と一緒に同居
している『宮藤深衣奈』『小野寺樺恋』であることは明白だった。そして、
どういう訳だか、あの2人を先輩が目の敵にしていることも。
「冗談よ、冗談。ところで・・見逃す代わりに・・お願いがあるんだけどな」
やっぱりきたか、と俺は内心ため息をついた。これまたどういう訳だか、先輩
は俺に生徒会の仕事を手伝わせたがる。というよりも生徒会に入れたがって
いるらしい。もっともその見返りとして、俺も色々世話にはなっている訳だが。
「で、今度はどういう仕事です?」
俺が尋ねると、先輩はふふっと謎めいた笑みを浮かべた。
「まぁ、たいしたことじゃないんだけどね。放課後、生徒会室まで来てくれない?」
「はぁ・・一体何なんですか?」
「だから大したことじゃないってば。それじゃよろしくね」
そう言うと、先輩は身を翻して校舎の中に入っていった。
「なんか妙だな?」
いつもと少し違う先輩の様子を俺はいぶかしんだが、
キーンコーンカーンコーン
「やべっ!」
聞こえてきたチャイムの音と共にそれはすっかりと消え去っていった。