樺恋  
 
   
 
小野寺 樺恋には身寄りがいない。  
樺恋はそのことについて、とりたてて悩むことはなかった。優しい友達と大好きな友達。男の人は正直苦手だったがとても幸せな毎日だった。  
叔父が事業を失敗するまでは…。  
 
樺恋はバック一つで夏のUFO事件…。それ自体興味も無かった。ただ、その背景に映った風景は赤子の時、たった一つの持ち物に映った風景と同じだった場所に惹かれてしまった。  
肉親への強い憧れ、どこかにあるはずだった幸せ。  
樺恋は家を出た。  
 
 そして今…  
 
 樺恋は深い眠りからようやく目が醒めて、はっきりしない頭をやっとの事で起こすと、力無く周り見渡した。  
「うにゅぅ」  
 アンモニアの匂いのする毛布をベットの上においた。まだ、頭がガンガンした。  
 天井が高く証明には丁寧に鉄格子が嵌めてあった。それが少し影になるんだろう薄暗かった。  
 壁には窓一つ無い、壁をぐるっと一週見回しても、白い壁には茶色い筋が幾つかあるだけで黒ずんだ白い壁は何も騙らなかった。  
 調度品すらなく、ベットと毛布だけだった。  
 そして気づいた、この部屋に出入り口がなく、唯一のドアらしき四角い線にはノブにあたる場所がセメントで塗り固められているのだ。  
 樺恋はあわててドアの前に立って両手でドアを叩いた。  
「誰か! 誰かいませんか!! ここから出してください!!」  
 樺恋は必死で叫び続けた。  
 
 樺恋はこれまでのことを振り返ろうとした。  
 朝一番の電車で写真の風景のある場所に向かって、電車の外で同じ色の瞳をした男の人がいた。  
 学校の制服でヘルメットをして、バイクにのっていた。  
 車が田んぼに落ちていた。  
 それで写真の場所を探して見つからなくて、降りた駅に戻ってきてしまったから寝ちゃたんだっけ…・  
 
「なんで?」  
 どうしてあたしは『ココ』にいるの?  
「写真!」  
 唯一の手がかりの写真を思い出して荷物を探す。  
「無い、無い」  
 極端に家具の無い部屋には、確かにあったバックが無い。  
「写真が無いよ」  
 スカートのポケットに感触。  
「あったぁ…」  
 樺恋は写真を大切に抱きしめてその場に涙をうっすら浮かべながらすわりこんだ。  
 
 緑色の髪と蒼い瞳の少女はそうすることしかできなかった。  
 
 
 どれくらい時間が経ったのだろう。腕時計すら盗られているし、部屋に時間を知らせる家具など無い。もちろん窓すらないから今何時など樺恋が知る事は出来ないでいる。  
 諦めて部屋の壁によりかかっていると、ドアノブの無い扉が開いた。  
 
 黒いスーツの男と派手な皮製の窮屈な衣装を身に着けた女だ。  
 樺恋にはわからないが、女はボンテージと呼ばれるSMプレイで使われる卑猥な服だった。目のやり場に困った樺恋は頬を染めてうつむいてしまった。  
「おいおい。今時随分とウブな娘じゃないか」  
「はい」  
 女は男に深々と頭を下げた。  
 この怪しい男女の二人組みから一方的に宣告された言葉は、樺恋にとって何一つ有益なことはなかった。  
 調教して売り飛ばされる。  
 馬に代表される家畜を教育することだ。少なくとも調教なんて言葉を人間に向けて使うものじゃないことぐらいわかった。  
 奴隷市。厳しい訓練。罰。従順。  
 これから、厳しい訓練を受けて奴隷として売られる。  
 冗談ではないのは嫌でもわかった。  
 
「いやぁ。ダメです」  
 樺恋は身体を丸めて抵抗しようとしても、女はプロの調教師なんだろう。  
 関節を自在に捻り上げ、新しい獲物を後ろ手に縛り上げて転がしてやる。  
 スカートのホックを簡単に外し、すべる様に足首から抜き取る。おとなしい柄の下着を指の力だけで引きちぎって捨てておく。  
 わけが解らないうちに裸にされて樺恋はベットの上で丸くなるしかなかった。  
 女は樺恋の腕を容赦なくねじり上げ、男に向かって胸を突き出させた。  
「いたぃ…やめてください」  
 女は関節を自在に操って樺恋を無視して立ち上がらせる。  
 太股よじりあわせ、背中を少しでも丸めるようにして秘所を隠そうと無駄な抵抗を試みても効果はまったくない。見ず知らずの男に、素肌を見せるのは、内気な樺恋は気が遠くなるくらい恥ずかしかった。  
 女は足元にあった麻縄を使って樺恋の腕を縛り上げる。  
 まず、後ろ手に交差した腕を幾重にも縛り上げて、最初に両腕の自由を奪った。  
 それから、小さい胸を強調するように胸を引き絞った。  
 
「いやぁ…」  
 自分でもびっくりするくらい大きな声を出した。  
 女の動きは一切の容赦なく続いたし、男のほうは、事務的に樺恋の身体を見ていた。家畜や家具と同じ、哀れな少女の人権など考える様子はなかった。  
 上半身を息が詰まるくらいきつく縛り上げられ、女は最後にほとんど無い胸の谷間に麻縄を通して一つにまとめ上げられた腕と結んだ。  
 樺恋はうつむくことすら出来ないで胸を張った状態でベットに仰向けで転がされた。  
 柔らかい髪の毛をつかんで頭を上げさせてから、ボールギャグという開口具を無理やり咥えさせた。SMで使うようなプラスチックの玩具ではなく、ゴム製の本物の拷問具。  
 口の中から顎を固定させ声すら出せなくなる代物だ。  
 穴だらけのゴムから延びた鋼線入りの皮ベルトをセミロングの髪を持ち上げて後頭部でしっかり止めてやる。  
「んんんんっふぅぅん」  
 うなり声しか出せない。  
「これから奴隷として調教されるの。・・・ここへ連れてこられたらもう二度と普通の生活には戻れないし、戻ろうとも思わなくなるわ。最初にあきらめることを覚えなさい。  
 そして肉奴隷にしろ性奴隷にしろ、玩具奴隷や家具奴隷になっても、奴隷としての歓びもあるんだからしっかり勉強なさい」  
 女は樺恋を慰めたつもりだった。かつての自分と比べたのかもしれない。もっとも樺恋にとって何の慰めにもなっていない。  
 女の手にごつい黒い首輪があった。  
 鋼線入りで、女の手で持てばずっしりと重く、砂袋のような感じだった。樺恋も最初、それが何かを理解できなかった。おそるおそる目で追うと、ネックレスのように首から回して、三本の細いベルトを止めるとしっかりと固定して装着した。  
 女は最後に樺恋の首輪に鎖を繋げた。  
 自由を奪われた樺恋の首から伸びた鎖を引っ張って立ち上がるように命令する。  
 
 よたよたと鎖につながれながら裸のまま引き歩かされた。  
 下半身を覆うものを無く、足元には無残に引きちぎられた衣類が落ちている。嫌でも自分だけが裸でいるのがわかったが、恥ずかしいと思う前に恐怖で考える余裕すらない。  
 立ち上がれば、小さな含まりを麻縄で強調され、絞られた胸はコンプレックスを感じるぐらい小さい樺恋の胸を若干だが大きく見せていた。その胸に涎が一筋落ちた。開口具によって強制的に顎を固定させられている樺恋の口は、閉じることがない。  
 立たされた拍子にたまった涎が落ちたのだ。  
 素肌に落ちた水滴が身体を舐めて蒸発して、ゾクゾクと肌を刺激する。  
 男女は樺恋が立ち上がるのを確認してさっさと背中を向けた。商品に欲情を覚えるわけでもなく、肉体にはまるで興味が無いようだ。  
 開口具と麻縄でギチギチ固定されているので、満足に歩くことも出来ない。  
 いくら、背中を向けたからといって全裸で歩くのは抵抗があった。  
 細い腰ラインをまるめて、少しでも股間の茂みを見せないようにヨタヨタとついて歩く、くびれた胴に細い腰、女らしい体つきだが、成長が遅いのか、全体的に贅肉がすくなく、細すぎた。  
 ふとももぜんぜん細いし、股間の茂みも薄く可憐の身体はまだまだ未発達だった。  
 それが、よけいに貧弱な身体を見られるのを恥ずかしく感じさせていた。  
 
 歩きながら樺恋はこれからのことを少し考えた。  
 奴隷調教…。  
 たしかにそう説明された。  
 自分は誘拐された。  
 だが、捨て子である自分を心配してくれる人が世の中にいるのかを考えると絶望的になった。  
 今まで、面倒を見てくれた叔父は事業を失敗して、私の生活まで見ることができなくなった。もともと、血のつながりは無い。今までのことを考えれば感謝する気持ちの方が大きい、恨む気にはなれなかった。  
 肉親。兄弟。  
 わたしにはお兄ちゃんかおとうとの人がいる…。  
 だから、ココに来てこうなった。  
 自分の人生について考えてみた。  
 あの写真の男の子に会いたい…。  
 
 樺恋は絶望の中にわずかな希望にすがっていた。  
 
 かび臭く、薄暗い通路を首輪につながれ、鎖で引き歩かされる全裸の樺恋。  
 窓一つ無い通路は、薄暗く時間を連想することが出来ない。拉致されてどれくらいの時間がすぎたのか…。  
 革靴は脱がされることはなかったが、全裸に靴下と靴だけの姿は卑猥で非日常をかもし出させていた。  
 監禁された部屋から幾つかの扉の前を通り過ぎる。先行していた男が立ち止まって、腰にぶら下げていた一抱えもある鍵束をとりだして鍵を開けた。  
 鉄製の重い扉を開けて聞こえたのは、猫の声…。樺恋にはそういうふうに聞こえた。  
「うごぉぉぉぉぎぃうぉおおう」  
「んんん・・・・んーんー」  
 樺恋は、うずくまって腰を引けて逃げようとしても、首輪から伸びる鎖を引いて廊下にしゃがんだまま引きずりいれた。  
 部屋の中は地下駐車場を改造したのだろうか?  
 コンクリートむき出しの壁と床。高い天井。広い部屋に太い柱が幾つか並んでいる。ずっと向こうに薄汚れたシャッターが下りていた。  
 昔は地下駐車場だった場所らしい。  
 駐車場と違うのは、幾重にも連なっている鉄格子で何十にも区切られており、区画の扉には見たことも無い大きな南京錠がしてあった。  
 さらってきた女を逃がさないための鉄格子が壁となっている。  
 天井からは太い鉄の梁から何本もの鎖と鉄環がぶらさがっていた。  
 樺恋が見たことも無い巨大なジャングルジムのような鉄の塊や、腰ぐらいまでの鉄柱の上に鎮座している三角の塊。  
 床には幾つかの染みがまだらにあった。ここで何が行われたのか、これから何をされるのか、樺恋はすくみあがった。  
 鉄格子を幾つか越えて、部屋の真ん中にくると、一メートル四方しかない犬小屋みたいな檻がたくさん並んでいた。その中の一つに黒い塊がぴくぴくと蠢いていた。  
 
『コレ』から声がしていたのだ。  
 声を出すのは全身を黒いラバースーツで覆われ、頭すら全頭マスクで覆われ髪の長さすら知る事は出来ない。胸のふくらみで、女性であることがわかる。  
 体格からでは、ある程度の年齢までしか知る事は出来なかった。  
 両手をアームバインダーという器具でひじを伸ばした状態で拘束され、拳はボールのような手袋をされ指の自由すら奪われていた。  
 よく見れば股間からしっぽの様に伸びたコードが檻の外にある小型発電機に繋がれていた。  
 樺恋の頬が真っ赤にそまった。  
 この女性は、かなり長い時間、股間の中に責め具を押し込まれ、機械的に責められていることを察したのだ。  
 女は、樺恋の変化に敏感に気づいて、鎖を引いて顔を覗き込んだ。  
「んぐぅ…んんー」  
 首を振っていやいやする樺恋の顎を上げて表情を観察する。涙目になって膝を震わせて女の顔をみあげた。  
 涎が雫となって女の指先についた。  
 女は、樺恋の顎先から指をはずして、セミロングの髪で涎を拭いた。  
 それから、女は肉の塊になっている女の檻から一つ開けた檻の中に樺恋の鎖を引いて入るように促した。  
 樺恋は麻縄で拘束されているので身体を丸めることが出来ない。狭い入り口に文字通りに、女のハイヒールで押し込められた。  
 いくら樺恋が小柄でも、一メートルの立方形の中では背筋を伸ばすことは適わない。さらに拘束されているのでかなり窮屈な体制で檻の中で座り込んだ。  
 女は樺恋の首から鎖を外してやると幾つか伸びているフックにぶら下げ、そして檻の扉を閉めてから南京錠で鍵を閉めた。  
「早速、明日から調教を始めます。窮屈だけどしっかり眠っておきなさい。明日からきついですよ」  
 女はそれだけ言い捨てると立ち上がって男のそばに寄った。  
 男の手が女の頬打った。  
 
「売り物に傷をつけるな!」  
「ひぃ! お許しを」  
 男は、女が樺恋を檻の中に押し込める時にハイヒールで押し込んだ時に傷ついたことに腹を立てているようだ。  
 たしかに、樺恋のお尻やふとももといった柔らかい部分は筋のような赤紫色の後がてんてんとついていた。  
 女は男の足元にひざまずいて、腰を出来るだけ高く、額を擦り付けるようにして男の靴にキスをしていた。  
「お許しを…」  
 男は履き捨てるように女を見るとまるで相手をしないように歩き出し、女はすがるように四つん這いで後に続いた。  
 樺恋は、その異常な光景をずっとみていた。  
 一瞬女のと目が合って、ものすごい目つきで睨まれると、ずっと床ばかり見ていた。  
 
 
 それから、暫くして女のうめき声しか聞こえなくなった。  
 女は、時々全身を痙攣させて声を止める以外変化は無く、ずっと潰れた猫のような声を上げ続けている。  
 落ち着くと裸なので、寒気を覚えた。寄りかかった檻の鉄棒や冷たいコンクリートにぬくもりは無く、寒さに凍えるしかなかった。  
 眠ろうとも拘束され、窮屈な檻の中で寒さに震えるばかりで眠れそうになかった。  
 それに、さっきからずっとオシッコを我慢しているのだ。  
 状況を考えるとトイレなどいけそうも無いし、朝までといってもどれくらいの時間を待つかも知る由も無い。  
「んふーんふぅんんーんんー」  
 トイレに行きたいと叫びたいが開口具によって言葉にならない。  
 このままじゃ高校生にもなっておもらしをしなければならない。拭くものもないのだから、  
 

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