どうにかこうにか三人とも高校を卒業して、  
早くも7年が経った。  
 樺恋は演劇科の専門学校に進学し、在学中か  
ら売り出し。今や売れっ子の声優になった。  
 深衣奈もナレーションの専門学校に進学し、  
やはり声優として売れっ子だ。  
 二人とも経歴も本名も明かしていないようだ  
が、共演する機会も多かったらしい。一番驚い  
たのは、先輩声優さんたちと、アニメの監督や  
スタッフのみんなと一緒に木崎湖までバス旅行  
に来ていたことだ。縁川商店で一行と出会った  
時なんか、俺のことは、皆さんの手前シカトし  
やがって…  
 この前は、久しぶりに帰省して来て、うちに  
二泊していったが、何でも、このあいだ、二人  
が共演したアニメでは、女の子どおしで仲良く  
する役柄だったそうだ。歌もレコーディングす  
るし、プロモーションビデオのようなやつの演  
技を練習するんだって、せっかく帰省している  
のに、二人だけで部屋で何かやってる。プロ根  
性だか、「役者だから」だか知らないけど、何  
だか妖しい物音がするように思うのは気のせい  
か。気になって、プログラムの仕事手に付かな  
いって、これは二人がうちに来てからずっとだ  
けど。  
 
 はじめて、二人が、それも同じ日にうちに来  
た時は、本当に面食らった。でもずっと欲しか  
ったもの、家族ってものに、だんだん、なって  
いった。深衣奈は、自分の才能を見いだしてく  
れた人に引き取られた。しかし、その才能が事  
故で発揮できなくなったことで悩んでいた。し  
かも親友と思っていたその家の子の気持ちを考  
えるといたたまれなくなってしまった。  
 なあ、家族って、無条件で、ここにいてもい  
いよって関係だよな。深衣奈は、たったの15  
歳で、才能がなければ居場所を確保できない過  
酷な人生を生きてきたんだ。…俺もだけど。  
 樺恋はピアノのコンクールに出るくらいのお  
嬢さまとして育てられていた。「おじさま」は  
事業に行き詰まって、樺恋を旅に出してくれた。  
肉親だったらどうなんだろう。苦労しても惨め  
な思いをしても、一緒にがんばろうってものじ  
ゃないのだろうか。本当のところ、世間一般の  
家族がどうなのか、あの夏まで、家族がいなか  
った俺にはわからないけど。  
 樺恋の「おじさま」元気でいるといいな。も  
う今までの生活は続けられないから、ここを頼  
って行くといいよって別れ方。おい、まだこど  
もの俺たちは、こどもで居させてくれよ。どこ  
かでみている神様とやらよっ。  
 
 あれから七年が経った。あの夏は本当にいろ  
いろなことがあった。夏は終わらない。あの頃  
のことを思い出す度に、この言葉を、思い出す。  
 椿先輩が仕事できるように配慮してくれたの  
にいつの間にか、生徒会の合宿なってしまって  
いたキャンプ場でのテント生活。高校生で同い  
年の女の子二人と同居なんだから、実は、いろ  
いろな面で、不便だったり、面倒だったり、す  
るよな。今でこそ、あんな役得ないんだから、  
楽しめば良かったのに>当時の俺、なんて、思  
えるけど、「さびしいさびしい童貞君((c)  
跨先輩)」だったんだぞ。女の子の気持ちなん  
かわからないし。…それに、せっかくできた家  
族ってものをつまらない一時の感情で失うよう  
な失敗したくなかったし。臆病になってたとし  
ても、しかたないだろ。  
 
 なのに、あいつらったら、好き勝手しやがっ  
て……と、あの頃は思ったものさ。縁川先輩が  
配慮してくれて、避妊用のあれ、ゴム製品を差  
し入れしてくれたときは、目を剥いたよ。勝手  
に何相談してんだよっ、深衣奈。  
 それがこの間なんか、樺恋と二人で、何が、  
「いけーないっわっ、奪ーわれっるっ」だよ、  
今さら何奪われるんだよっ、ほんとに。  
 

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