「はぁ…のどかですわね…」
カントー地方の中心部、タマムシシティ最南端に位置するタマムシジム。
ジム前に置かれた腰掛で、一人の少女が麗らかな陽光下のもと寛いでいた。
艶のある長い黒髪と緑基調のモンスターボール柄を施した着物に身を包み、まさに大和撫子という風貌だった。
彼女こそが、このジムのジムリーダーの任を受けているエリカその人である。
今は休憩中なのか、エリカ以外の皆が出払っており静かなひと時を過ごしていた。
と、そこに…。
がさがさっ!
不意に、眼前の茂みが揺れ始める。
エリカはそれに逸早く気付くと寝ぼけ眼だった顔を擦りつつそちらを見やる。
暫し、そこを注意深く見張っていると…。
がさっ!ばっ!
「きゃっ?………モ、モンジャラ…?」
茂みから飛び出てきたのは、明るい緑の蔓を体を隠し顔だけ覗かせている…というモンジャラ。
モンジャラは、その蔓を巧みに扱い攻撃や防御に役立てているポケモンである。
勿論エリカの専門である草ポケモンの一種であり、またそのモンジャラもエリカのポケモンだった。
モンジャラは飛び出したもののその勢いが余り、腰掛ていたエリカごと吹っ飛ばしてしまう。
「きゃあぁっ!?」
ドシャッ!ガタンッ!
そのまま腰掛と共に横倒れになってしまい、地面に投げ出されるが何とか受け身を取る。
モンジャラの方は、と言うと同じ方向に飛ばされるとエリカのお腹の強く激突してしまった。
「あ…ぅ…」
当たり所が悪かったらしく…鳩尾への衝撃に小さく呻き、気を失い上半身と共に首を擡げる。
その声にモンジャラは、急ぎ近寄るが当のエリカは気絶したままで反応はない。
「ジャラ…?」
体を僅か傾けながら蔓を伸ばすとエリカの頭を撫でてみる…が無反応のまま。
手入れの行き通った柔らかな髪の感触はモンジャラの蔓にも伝わっていたが、それ所ではなかったようである。
続けて、今度は両頬を撫でてみると…。
「ん……っ…」
微かにだけ反応があったものの、やはり完全には目を覚まさず。
気持ち顔を上げ、囁きにも聞こえる声を漏らしただけだった。
モンジャラは困った風な雰囲気で、手持ち無沙汰な蔓をうねうねと漂わせる。
端から見れば、モンジャラがエリカを襲おうとしている図が成り立つかもしれない。
しかしながらモンジャラにその気がある訳もなく純粋にエリカの事を思って、の事だった。
「ジャーラ…」
このままでは埒があかない、と言いたげにヒュッと蔓を素早く伸ばすと首筋に密着させる。
すっ…すっ…とゆっくり蔓を擦り付け、その刺激で起こそうとするが…。
「ん…ふぁ…ぁ…ん…っ…」
エリカは起きるどころか、体を震わせ顔をぴくっと上げ艶が混じった声を漏らしていた。
蔓が擦り付けられる度にその声が漏れ、徐々にエリカの頬に赤みが差していく。