「釣れないなあ…」
ヒカリははあ、とため息をついた。ざざん、と足元すれすれまで波がせまってくる。
ヒカリはわずかに後退してそれをやり過ごすと、釣竿をくいっと持ち直した。
この頃新調したばかりで、彼女の細腕にはすこし長すぎる感もあるその釣竿には、
どういうわけかさっぱりポケモンが食いつかない。
「…すごい釣竿じゃなかったの?」
騙されたのかも…とぼやき始めたヒカリをよそに、浮きはぷかぷかと揺れているばかりだ。
釣りを始めたころには高いところにあった太陽も、次第に低くなってきている。
「釣りは根気、釣りは根気…」
いつか聞いた「釣りの極意」を自分に言い聞かせながら、ヒカリはぼうっと糸をたらし続けた。
のどかだなあ――とヒカリは思った。ここ、ナギサシティは三方を海に囲まれている。
海の向こうにはポケモンリーグがあり、腕に自信のあるトレーナーが集まる活気のある街だ。
「ポケモンリーグかあ…」
海の向こう、チャンピオンロードを抜け、大きな滝の上にそびえるリーグ本部の姿を思い出す。
「私…リーグチャンピオンなんだなあ」
そう――ヒカリはポケモンリーグを制覇し、新たにチャンピオンの座を得ているのだ。
それでとりたてて何が変わったわけでもなかったが、やはりなにか一種の感慨のようなものがある。
いろんなことがあったもんね、とヒカリはふっと初めてポケモンをもらった時のことを思い出す。
エンペルトも昔は小さかったなあ、やけにおっきくなったなあ、と――
「――わ、わあっ!?」
物思いにふけっていたヒカリは突然ぐいと釣竿を引かれ、文字通り現実に引き戻された。
随分な大物がかかったらしく、ぐいぐいと今までにないような力で引かれる。
使い慣れない大きな釣竿のせいもあって、ヒカリはずるずると海のほうへ近づいていった。
「きゃあっ…!」
バシャン、と大きな水音を立てて倒れこむ。きつい塩味の水が口と鼻に入ってきた。
(あっ…釣竿が…)
思わず手を離した釣竿を探してもがくが、なかなか起き上がれない――
「ひゃあっ?」
ぐい、とまた違う力に手を引かれてヒカリはようやく水面に顔を出した。
膝を突くと先ほどまで思っていた以上に浅く、普通ならばまったく溺れるようなものではない。
「…大丈夫か」
けほけほとむせ返っているヒカリの頭上から、ぞんざいな調子の男の声がかけられた。
「あ、ありがとう、ございます………デンジさん?」
「ああ…ひさしぶり」
溺れていたヒカリへの心配だとか、そんなものを一切感じられない無表情で、デンジはそう言った。
へくしゅ、とヒカリは小さく抑えたくしゃみをひとつした。慌ててバスタオルで身体と髪をを拭く。
「着替え、着替え……あれ?」
手を伸ばして着替えを探す手が、思わず止まった。
――あの後、全身ずぶ濡れになったヒカリは、デンジの家(ジムの裏手にあった)に案内されていた。
デンジも釣竿を拾うためにズボンを濡らしていたのだが、「拭くだけで十分」とヒカリにシャワーを譲った。
悪いことしちゃったなあ…お礼しなくちゃ、とヒカリはひとり自分の浅はかさにため息をつく。
「…まだ入ってるのか」
こんこん、とすりガラスのはいったドアの向こうからデンジの声がする。
「あっ…ちょ、ちょっと待ってください」
ヒカリはあわてて、脱衣所に置かれていたTシャツを頭から被った。
「大丈夫…です、けど」
ごにょ、と言いよどんだヒカリを気にかける様子もなく、ためらいなくデンジが脱衣所にはいってくる。
外にいたときよりもラフなTシャツとジーンズに着替えたデンジは、タオルを洗濯かごに放り込んだ。
「あの…デンジさん?」
ヒカリは恐る恐る、男の背中に声をかけた。何、とふり向きもせずデンジが応じる。
「これ…デンジさんの服なんですか…?」
ああ、とデンジは億劫そうにふり向いて言った。
「残念だが、俺は10才の女の子じゃないから」
そうですよね、とヒカリはため息をついた。だぶだぶの長い黒のTシャツをワンピースのように着た
ヒカリは、心もとなさそうに首元をかき合わせて、素足をすりあわせる。
「…その…あの…下着もないんですけど」
デンジは依然、何を考えているのかわからない無表情で、回っている洗濯機を指差した。
うう、とヒカリはくぐもった声をあげる。替えの下着はないし、さすがにデンジのものを借りるわけにもいかない。
「…えっと、ポケモンセンターに荷物が…」
「その格好で出歩くのか」
「いえ…いいです」
どうやら何かしてくれる気もないらしいデンジに、ヒカリは内心頭を抱えてしまった。
こうなると海岸で助けてくれたことのほうが奇跡に近いのかも…と思ってしまうほどだ。
「…まあ、服が乾くまでは泊まっていい」
はあ、ありがとうございます、とヒカリはかさかさに乾いた声で返事をした。
デンジに通された部屋はどうやら寝室のようだったが、まさに「寝るための部屋」と言った雰囲気で、
妙に大きいベッドの他にはほとんど本の入っていない本棚、あまり入らなさそうなクロゼットしかない。
最低限の道具以外を置いてきてしまったヒカリはすることも思いつかず、ベッドに腰掛けた。
がちゃりとドアを開けてデンジが入ってくる。やはりその手には何も持っておらず、ヒカリはすこし落胆させられた。
「…あの、さっきはありがとうございました」
無言ですこし離れたところに腰掛けたデンジに、ヒカリはおずおずと声をかける。
デンジはちらりとヒカリを見ると、なんでもないふうに肩をすくめて、「足は閉じたほうがいい」と言った。
「えっ…ひゃあっ」
ヒカリは慌ててぶらぶらと揺らしていた足を閉じた。かあっと顔に熱が集まる。
「ス…スケベ!」
ヒカリのいかにも子供っぽい言い草にデンジはちょいと首をかしげた。
「別に」
別に――十の小娘に欲情するほど飢えちゃいない、と言いかけてデンジは口をつぐんだ。
ヒカリは顔を真っ赤に染めて、見上げるようにデンジを睨んでいる。
「……………」
デンジは無言で腕を伸ばすと、ヒカリの片腕をぐいと引き寄せた。わっ、と色気のない悲鳴があがる。
「なっ…ん、んんっ…」
小さな顔を片方の手で捕まえてキスをする。驚いたように声をあげようとした口に、するりと舌をいれた。
ばたばた、と両足がベッドの横を蹴る。閉じていろと言ったのになあ――とデンジは頭の片隅で思った。
「ふ、ぅんっ…」
苦しそうに喘ぐヒカリをぱっと解放すると、ぷは、と大げさに息をつかれた――やはり色気がない。
「な、なにするんです、か!」
瞳にうっすらと涙を浮かべて抗議するヒカリの声を意に介するふうもなく、デンジは素早くヒカリの両腕を捕まえると、
「…気が変わった」
と囁いた。あまりに勝手な言い分に、かっとヒカリの頬に朱が走る。
ばたばたと手足を動かそうとするが、幼いヒカリの力では、そう力のあるほうでないデンジの腕さえ振り払えない。
「やっ…やん!」
しゅるんとTシャツの中に片手を滑り込ませたデンジに、ヒカリは短い悲鳴をあげた。
そのままぽすんと背中からベッドに押し付けられ、ヒカリの未熟な胸元を長い指がさぐる。
「ひゃうっ…」
やわやわと薄い胸をもむと、ヒカリは身をよじって逃げようとする。
薄いピンク色の乳首の周りを重点的にいじってみると、意外にもヒカリの吐息に熱いものが混じり始める。
「やぁん…デンジ、さん…」
ぐすぐすと涙交じりの嬌声をあげるヒカリに、デンジは応えず手を下へ持っていった。
「――やっ…!そこは…」
ヒカリが再び悲鳴をあげた。デンジの指が彼女の「一番大事な場所」に触れたのだ。
くちゃり、とほんのわずかに湿り気を帯びたそこに人さし指を用心深くいれると、ヒカリがひゅう、と息を呑む。
「あぅ…」
結構早熟なもんなんだな、と場違いに冷静なことをデンジが考えるのをよそに、ヒカリの息は荒くなっていく。
「ひぅ、う…」
ゆっくりと指を動かして、中を探る。上部のざらり、とした部分を指がかすめるとびくと小さな体がはねた。
そのあたりをくりくりと撫でてやりつつ、あいた指でぷっくりとした秘芯にふれる。
「ひゃあん!」
いままでで一番強い反応を見せたヒカリに気をよくしたのかどうか、デンジは執拗に同じ部分へふれた。
「あ、あぁ…んんっ」
たまらずヒカリの声が大きくなる。紅潮した頬に乾きかけた涙があとを残してべたついている。
「う、ふぅ…もっ…やぁっ…!」
びくり、と電気を流されたように大きく身体をけいれんさせて、ヒカリは意識を手放した。
「…やれやれ」
失神し、くたりとしてしまったヒカリの身体をベッドに下ろすと、デンジは片手でベッドサイドを探った。
ベッドの下を覗き込んでようやくボックスティッシュを探し出すと、自分の手とヒカリの体をおざなりに拭う。
「………暇だ」
さすがにヒカリを起こして続きをしようという気にもなれず、デンジはため息をひとつつくと、
ヒカリの体に毛布をかけ、洗濯物を干すことを思いだして部屋を出て行った。
明日は「チャンピオン」にポケモンバトルでも申し込もうか、なんてことを思いながら。
おしまい。