『俺は大きくなったら、ポケモンマスターになるんだ!』
『ポケモンマスター?』
『そう! チャンピオンに勝って、【でんどういり】して……そしたら、そしたら』
続きが言いたくてうずうずしてた。
だけど素直になんて言えなくて。
『お前をチャンピオンのお嫁さんにしてやっても良いよ』
そんな風にひねくれた言葉を口にした。
だけどあの子は笑ってた。俺の杞憂とかを知ってか知らずか。
『うん 待ってるね』
そう言って微笑んだのだ。
その瞬間からただの憎まれ口は、もう1つの俺の夢へと変わった。
チャンピオンは俺が幼い頃から抱いていた夢だった。
それを叶えるために、ポケモンを手にする前から沢山学んできた。
初めてのポケモンであるポッチャマを手にしてからだってそうだ。バトルを重ね、今や彼はエンペルトにまで進化した。
のに。
それなのに。
「なんだってんだよーッ! まだ勝てないのかよー!!」
バトルタワー前に響く俺の絶叫。
ボロボロになった俺の向こうで、涼しげな顔をした幼馴染みがいた。
「皆お疲れ様」
そう言って彼女はボールにポケモンを戻す。なんて奴だまったく。どこまで強いんだよ。
彼女は今やポケモンリーグを制したチャンピオンだった。チャンピオンになるという俺の夢は先に彼女に叶えられてしまったのだ。
理不尽だ。
「ちきしょーッ」
「あ、あのさ。そっちも凄い強かったよ。私も危なかったし……」
「慰めの言葉なんていらねー!」
俺は知ってるんだ。そんな事を言うアイツの手もちには、今のバトルでは出されかったポケモンが2匹も居るって!
何が危なかっただこんにゃろー。
「どーやったらお前に勝てるんだよ」
「そんな事言われても……」
「どーせ俺が弱いだけだよ悪かったな」
「ちょっと、何いじけてんのよ」
全くその通りだ。俺が勝手にへこんで沈んでるだけで、アイツに八つ当たりしてるだけなのは解ってる。だけど本当にやってられないんだ!
「俺だって頑張ってんのに……」
「うん、それは伝わってきてるよ」
「……ったら良いんだよ」
「え?」
いつになったら、
「いつになったら俺、お前をお嫁さんに出来るんだよ……」
チャンピオンになれるんだよ!
直後、沈黙が走った。
「……」
「あの、えーと……」
あれ、今心の声と口から出た言葉が逆に……
………逆に!?
「あああああああ! 忘れろ! 早く忘れろ!!」
「そ、そんな事言われても……」
「いいから忘れろー!! 何でもない、何でもないんだよーッ!」
顔が熱い。お互いに真っ赤だった。周りに居たマダムやら何やらが俺達をじっと見てるけど、構ってられる暇もない。
今は誤解を解くのが先決なんだ。いや誤解じゃないけど……あああああ訳解らなくなってきた!
「良いから忘れろ!」
「やだ」
「だから……って、は?」
幼馴染みはうつむいて、拒否の言葉だけを述べる。
やだ、って何だよ。そんなんじゃ俺、
「絶対忘れない。だから早くここまで来てよ」
期待して──…
「ずっと待ってるんだから」
そして彼女は俺に背を向けて歩き出した。振り返りはしなかったけど、後ろ姿が見えなくなるのは早かった。
なんだってんだよ。
期待するぞ良いんだな期待するからな?
彼女は覚えてるのかもしれない。幼い頃にしたあの約束の事を。
俺は変な期待と6つのボールを抱えて、ポケモンセンターまでの道のりを歩き出した。
足取りは妙に軽かった。