シンオウの冬は寒い。  
寒さ極まる一月ももう終りに近づく頃。  
熱い男で通っている俺も、世の人々と同じく、日本伝統の暖房器具―コタツの恩恵を受けていた。  
 
『珍しいな。』  
「元はと言えばお前のせいだろうが」  
 
垂れる鼻水をすすりつつ、幼いころからのダチに不平を言えば、そうなのか?と悪びれずにかえってくる返答に溜め息をもらす。  
シンオウ地方は連日の大雪で過去10年間での最低気温を更新した。  
この地域の人々は寒さに強いが、今年の冷え込みは厳しく例年の2倍近くの暖房器具が売れたらしい。  
特にシンオウ地方に少ない炎ポケモンを象った電気ストーブの売れ行きは半端じゃなく、その相乗効果もあってか電気式の暖房器具はもう売れに売れたらしい。  
故に、古いストーブなどのゴミ処理など色々な問題が増えたらしいが、まぁ、そんなことはどうでもいい。  
「デンジ」  
『何だ?』  
「風邪をひいた。」  
『ああ。あのDVDいいだろ?でも、お前、ケツくらいしまって寝たほうがいいぞ』  
「違うわ!!てめえのせいだろうがっ!!!」  
ナギサシティジムリーダー、かがやきしびれさせるロックスターであるこの男、デンジが、オール電化も主流になりつつあるこの時期に、あろうことか停電をおこしやがったのだ。  
普段なら住民も慣れっこだっただろう。  
が、しかし、今は寒さ極まる一月ももう終りに近づく頃。  
更に例年の比では無い冷え込み。  
大惨事になる前に、シンオウ地方では数少ない炎使いの俺は、街にかりだされアチコチをフォローするべく走り回り………  
 
ぶぇっくしゅ!!!!  
 
風邪をひいた。  
おかげでここしばらくは四天王の仕事も滞り、チャンピオンの年増からはどやされたり……と散々だ。  
「全部、てめぇのせいじゃねえかっ!!!!」  
『あー、ごめん、ごめん、ごめんなさい。』  
「ごめんですむなら警察はいらねぅえっくしょん!!!」  
ぁあ、もう、しまった。  
鼻水でポケッチがベトベとだ。  
 
『本格的に風邪だなぁ』  
 
ティッシュはどこだと手探りすれば、ダチの脳天気な声。  
途端に怒るのもバカらしくなって、鼻水をぬぐい、ポケッチをはずしコタツの上に置く。鼻水まみれのティッシュや借りたDVDやらでコタツの上は酷い有り様だ。  
 
「はぁ、もう、何の用か知らんが切るぞ。俺はもう寝る。」  
『あー、そうそう。忘れてた。』  
不毛な会話に終止符を打つべく、借りたエロDVDのそばに転がるポケッチの電源に手を伸ばし、  
 
『お前が手を出してくれないから心配したヒカリが、俺に相談しに来ていて。あいつ最近元気ないから、無理矢理迫って押し倒せ?って、適当に言ったら、本気にしたみたいで。』  
 
ピンポーン♪  
 
『そっち向かってるかも。まぁ、がんばってくれ。』  
 
そのまま固まった。  
 
 
 
紹介が遅れたが、俺はシンオウ地方四天王のオーバ。  
アフロだがドナルドではない。  
後ろ指さされる悲劇の炎使いだ。  
そして、  
 
「オーバ、これ何?」  
 
コタツに入り、涙目で俺を見上げる少女はヒカリ。  
去年の12月殿堂入りを果たしたポケモントレーナーであり、俺は彼女に17回負けた。  
そして、あー、まぁ、色々あって俺と彼女は付き合っている。  
とはいえ、俺は彼女に一切手を出していない。  
っつーか、出せない。  
実に年の差10歳以上。出せる訳がない。  
 
「ねぇ、答えて!!これは何?」  
 
縄で縛られた裸体の女性のパッケージをじっと見つめて、ヒカリが再度問う。  
いつもならスラスラと出てくる冗談と言い訳で、彼女を煙にまけるのだが、風邪っぴきの爆発頭(今日はセットしてない)では口をモゴモゴさせるのが精一杯だった。  
 
「私じゃだめなのぉ〜…」  
 
とうとう彼女は泣き出して、俺の頭はフリーズした。  
 
実は、俺と彼女が付き合って半年  
俺は彼女からのキスを17回断っている。  
その事に関しては、デンジからもリョウからもゴヨウからもシロナからも、あまつさえキクノの婆ちゃんにもヘタレと言われた。  
彼女の友人と弟からは怒られた。  
わかってる。俺が悪い。  
ドヘタレにも程がある。  
手を繋ぐのも、デートに誘うのも、会いに行くのもヒカリから。  
俺からやったことと言えば、初めて会った時に話しかけたことくらいだ。  
 
 
「あ、えっと、ちがう。ちがうんだ。」  
「わ、わたし、子供だし、色気ないし、こんなに………胸ないし」どうにかこうにか正気を取り戻し、誤解を解こうとする。  
が、エロDVD+ティッシュ、おまけに迫っても迫ってもかわされたときちゃ、傷が深いのも当然で、なかなかヒカリは泣きやまない。  
 
「ヒカリ…」  
「…っ……私ね……思っ、たの。  
オー、バ、は優しいから………断れっ、…っ……なくて、私と付き合った……っん、じゃないかって」  
「………」  
「だかっ…ら、ね。  
………いいよ……っ…もうむりしな、くて。  
………ごめ……っオーバ?」  
 
気付いたら、俺はヒカリを抱きしめていた。  
相変わらず頭はフリーズ中だったし、鼻はつまって口呼吸でハアハア言っていて、最悪だ。  
歳派も行かぬ少女に抱きつく成人男性、人が見たら電光石火でお縄だろう。  
でも、今はどうでもいい。  
思った以上に細くて小さくて、暖かい彼女は、ボンヤリとした顔で俺を見上げる。  
 
「すまなかった。俺は、回りの目を気にしすぎてた。  
言い訳だけど大切にしたいくせに  
そんなに心配させて  
みんな………ん?  
あー!もう  
えっと………何がいいたいんだ」  
 
こんらんしていると、柔らかな弾力が体に伝わった。  
視線を落とせば顔を赤くした彼女が、真っ直ぐに俺を見ている。  
白い腕が首へと伸びる。  
瞳と瞳で通じ合う二人の心。  
俺と彼女の営みに言葉はいらなかった。  
………って、かっこつけられりゃいいもんだが、俺はと言えば、  
ヒカリの細い腰も、小ぶりの胸もばっちりしっかり感じてたんだが。  
 
「……あ、えっと」  
 
キスしおえて彼女を見れば、真っ赤な顔でうつ向いている。  
相当恥ずかしいらしく、首に絡んでいた腕も解いて、離れようとしていた。  
だが、俺は彼女の顎を手に乗せて上へ向かせる。  
 
「…ぁ、えっと、オー」  
 
そうして、またキスをした。  
誘うのもするのも全て彼女からじゃ、男が廃る。  
先程より長めに口付けて、少し吸えばビクリと反応。かわいい。  
涙目のヒカリの額に、俺の額をコツンとあて、顔をそらしようがない至近距離に彼女の視線が泳ぐ。  
「不安にさせてごめん。好きだよ」  
 
と呟けば、照れは頂点に達したようでしおらしくなってしまった。  
…かわいい。かわいすぎる。  
少々暴走しそうな本能を、必死でなだめつつ、ヒカリの帽子を取って頭を撫でる。  
服の袖をギュッと握って、彼女もまた小さく  
 
「私も」  
 
と囁いた。  
 
 
 
それからしばらく大人しい彼女を抱っこしていると、コタツの上のポケッチに電話が入った。  
居留守を決めこみ、そのままにしておくと、留守電にダチのデンジの声が吹き込まれる。  
 
 
『あー…オーバ?  
俺お前に謝らなきゃいけないことがある。』  
 
こいつが謝るなんて珍しい。  
まさか、また停電おこしたんじゃ…もう、手伝わねえぞ。これ以上風邪悪化させてたまるかよ……そういや、ヒカリに風邪うつっちまったかな……やたら大人しいけど。大丈夫か?  
 
と、呑気なことを考えつつ、顔を覗き込むと…いつもとは違う雰囲気。  
紅潮した頬。  
うるんだ瞳。  
艶やかな唇。  
 
 
『ヒカリにあのDVDについてたHになる飴玉あげちゃった。そろそろ効く頃だから、がんばってくれ。』  
 
 
プチッ  
 
伝言が録音されました。  
という、ポケッチの無機質なアナウンスを聞きながら、オーバは目の前が真っ暗になった。  
 
 
 
つづく?  
 

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