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『次の任務を失敗したら、こんなものでは済まさないがな。』  
 
 
あの夜、もう2週間が経とうとしている。  
あれ以来というものマーズは、彼のことが無性に気になって仕方が無い。  
それがどういった感情なのかは、わかっていないようだが。  
サターンはというと、いたって態度は普通で、今まで通りにしか見えない。  
 
――なんでこのアタシが、あいつのことなんかでモヤモヤと……  
  せっかく早めに仕事終わったってのに、こんなんじゃ疲れる一方じゃない。  
 
そんなことを考えつつも、気がつくと体は勝手に彼の部屋へと向かっていた。  
「サターンはまだ仕事中よね。……今頃、どこで任務してるのかな。」  
自分自身のその無意識な行動と言動に気付き顔をしかめつつ、  
マーズはそこで足を止めた。  
 
部屋の中へ入ったマーズを出迎えたのは、あの日と同じままの、綺麗に  
整頓された風景だった。  
「だれもいなーい。……なんて、あたりまえか。何してんだろアタシ。」  
まるで子供の独り言のようなことを口にしながら歩を進め、辺りを見渡す。  
彼女の視線は天井、本棚、デスク、積み重ねられた書類などを転々として、  
最後にゆっくりとベッドへ向けられた。  
「ここで、アタシたち……。」  
マーズは変に高まる鼓動を抑えつつ、ベッドにふわりと腰かける。  
ギシ、と軋む音が耳に届いた。  
「あのあと結局、本当に腰が悲鳴を上げるまでやめてもらえなかったのよね。」  
そう言ってベッドシーツを手でひと撫でするマーズ。  
そのまま軽く横になってみると、仄かに彼の匂いがした。  
すると、あの一夜のことが鮮明に蘇り始めた。  
あの時、この場所で、朝まで繰り広げられたその行為が、  
じわじわと脳内を占めていく。  
「アイツ、なんであんなことしたんだろ……。」  
気を確かに保とうとひとり言を続けるも、その支配は体中を駆け回り、  
彼女を妙な気分に陥らせた。  
「ど、どうしよ……誰もいないし、少しだけ、なら……。」  
風の音すら聞こえない密室で、ただ一人そう言うと、  
マーズは目を閉じ、そっと手を自分の秘所へ滑り込ませた。  
 
その白く細い指で、触れ、やさしく撫ぜるように、繰り返しゆっくりと弄る。  
静けさの中を、潤んできたそこを指がまさぐる粘液質な音。  
「あ……んっ」  
自分がしていることに呆れたが、それでも始めたその行為を止めることはできなかった。  
最初はためらいがちに動いていた指が、いつしかスムーズに動くようになると、  
漏れる声も、甘い息遣いも大きくなっていった。  
「はぁ……んっ、やだ、アタシ……あぁっ!」  
マーズが快楽の頂点に達しようとしたその時、無意識に、彼の名前を呼んでしまった。  
「ふ……っぁあん…! や、サターンん……ッ!」  
「なんだ。」  
「へっ?」  
「お前、わたしをネタにするとはいい度胸だな。」  
一瞬、時が止まったように空気が凍りつき、思わず間抜けな声を上げてしまった。  
 
マーズがベッドから飛び上がって声の方向に目を向けると、  
そこには先ほど彼女が口にしたその人が、腕を組み立っていた。  
「やっ……うそっ! なんでっ」  
「残念だがわたしは本物だ。早めに切り上げて帰ってきてみればいきなりのサプライズだな。」  
彼がいつからいたのかはわからないが、見られてしまったのは確実である。  
自分の、自慰行為を。それもこんなに近くで。恥ずかしいなどというレベルではない。  
「こんな昼間から、それもわたしの部屋で。何を考えているのか。」  
呆れたように笑う彼を見て、マーズは言い返すこともできず、  
ただ自分の顔が熱くなるのだけがわかった。  
「で? どうする? 淫乱幹部のマーズさまは。続けてくれてもわたしは一向に構わないが。」  
「――ッ!」  
彼女はその空気に耐えられず今すぐこの場を逃げ出したくなったが、先ほどまで絶頂一歩手前だったほぼ  
半裸状態の身体で、そんなことができるはずもない。  
そんな彼女の様子を見てサターンは意地悪く笑うと、彼女の隣へ腰をかけ口を開いた。  
「それとも、わたしに面倒を見て欲しいのか?」  
「冗談じゃないわよ! 誰がっ!」  
「遠慮はいらない。お前は特別だ。」  
「は!? あっ、ちょっと!」  
そう言うと彼は閉じられた彼女の脚を開き、  
指の腹で敏感なところを軽く押すようになぞりあげた。  
「あっ……ぁ」  
もう言い訳が出来ない状態になっていたその場所に触れられ、声を上げる。  
しまったと思い手で口を押さえたが隙間から漏れてしまい、意味を成さなかった。  
 
 
「……さて、またないてもらおうか。」  
「やっ! こ、来ないで! だめ……だめだめだめっ!」  
そんな彼女を無視し、彼はマーズがいやがるところへ顔を近づけると、舌をねじらせながら舐め上げた。  
下から上へ、まるで生き物のようにうごめく舌が容赦なく襲い掛かる。  
「あぁんっ! あっ、だめって、ば……やめ、…っ!」  
「やめて、いいのか?」  
「!!」  
今にも泣き出しそうなマーズのその表情に満足し、彼の舌が再び触れられる。  
「ぁあっ! ……やっ ぁん!」  
彼の舌が、徐々に淫らな螺旋を描き始める。  
くちゅくちゅと耳に響くその音が、更なる高みへと誘う。  
眉根をよせシーツを掴み、顔を赤く染めて甘美な衝撃に苦しむマーズ。  
そんな彼女を逃がすまいと、サターンは太腿の付け根を両腕で包みこみ、  
指と舌を使ってひたすら責め続けた。  
「ひぁっ やっ…ぁ…っ! あっ! いや! いやぁっ……!」  
「……。」  
マーズは絶え間なく襲いかかる刺激にビクつきながらも、いやらしい水音と共に  
確実に頂点へと追い詰められていく。  
 
――も、だめぇ……ッ!  
 
 
 
マーズは、ベッドのシーツを掴んで顔を隠し、荒い息をつく。  
「おや、お気に召しませんでしたかマーズさま。」  
「……その口調、やめてくれない? 余計に腹がたつわ。」  
「わかってるからやっている。」  
マーズは一呼吸おいてフラフラと立ち上がると、溜め息をつきながら  
そのおぼつかない足取りで部屋を出ていこうとした。  
「待てマーズ、お前その格好で外に出……」  
彼が言い掛けたその時、彼の部下と思わしき者が数人、部屋へと入ってきた。  
「あれ、誰もいないぞ? おい、今日打ち合わせってサターンさま言ったんだろ?」  
「ああ。明日の任務は難易度が高いらしい。全員集まればそのうちくるだろ、待っていよう。」  
サターンは急いでマーズの腕を掴み、奥のバスルームへ連れ込むとカギを掛けた。  
幸い、部下達には気づかれなかったようだ。  
「これから会議?! なんで早く言わなかったのさ!」  
「……。」  
「なんとか言いなさいよ!」  
「わたしを誘ってきたお前が悪い。」  
「べ、別に誘ってなんか……んっ……ぁ、……」  
彼はマーズが言葉を終えるまえに、噛み付くように唇を奪い、  
そして首へ、胸へと舌を這わせ始めた。  
「んん……っはぁ、だめ! 今はだめ、声がっ …あぁっ」  
「そんなもの知ったことか。」  
サターンはそう言い返して行為を続けた。  
 
 
あの時と同じ感覚が、またしても彼女の頭の中を駆け抜ける。  
「あ、ぁんっ……だめぇっバレちゃうッ…! サターンってば!」  
小声で抵抗してみたものの、身体は誘惑に抗えず抵抗しない。  
それを認めようとしないマーズに、さらに言葉を付け加える。  
「したっぱが噂好きなのを知っているか。」  
「っん……なに、を ぁんっ、あっ」  
「幹部同士の最中など、恰好の餌だな。」  
そして彼の指が乳房から下半身に移動していき、2本の指でそこをなぞる。  
「ん……ッ!」  
そこは、先ほど自分が責め倒したおかげで十分に濡れていた。  
それを指で絡み取り、わざと糸を引かせながらマーズの唇に近づけると、  
彼女はサターンの指を軽く噛むように咥え、小さな舌を不器用に使って舐めた。  
「……お前、興奮しすぎ。」  
「んむ……んっ、ぅ」  
いつ部下達に気づかれるかも判らない。  
だがそんな焦燥感が、逆に快感となって押し寄せる。  
(――噂か。面白い。)  
そんなことを考えながら、サターンは彼女の唇から指を抜き取り、  
息を尽かす間も与えずキスをした。  
口を離し、彼は彼女を見ながら沈黙する。  
「な、なに? なんなの?」  
「……お前は、嫌いじゃない。」  
「?!」  
一瞬高鳴る鼓動。自分の彼に対する気持ちにようやく気付いた。  
 
「今、なん、て……んっ」  
真意を確かめようと口を開いたが、彼はそれを続けさせまいともう一度唇を塞ぐ。  
そのままマーズの片膝を自分の腕にかけさせ、壁に押し付けた。  
「えっ、ちょっと……!」  
「……腕、肩に回しておけ。」  
そして彼女へ、彼自身を深く埋めていった。  
「あぁっん! ……ねぇっ…この、体勢、……ッあぁぁ!」  
さすがにこんな状況下で、しかも立ったまま繋がるのは初めてだった。  
しかしそれがまた彼女の意思に反して余計に感じてしまう。  
マーズは言われたとおりに彼の肩にその細い両腕を回す。  
すると密着度が増して、彼がさらに深くもぐりこんだ。  
「ぅ……あ、熱い……」  
そう耳元で訴える彼女に意地悪く笑みを浮かべると、サターンは規則的に責め始めた。  
「あっ ……んっんっ ああぁっ……っや!」  
隣に部下達がいることなんて一瞬にして吹っ飛び、  
気がつけば艶めかしい声がバスルームに響きわたる。  
彼はその声にこたえるように腰の動きを激しくしていく。  
激しく掻き回すその音を楽しむかのように彼女の上半身を手繰り寄せ、  
片手に抱えていた彼女の脚をさらに広げ、もう一方の手で顔をこちら側に振り向かせ、唇を重ねた。  
「んんっ! んっ、あ、あんっ、やっ……あぁっ、ぁあっ! ……アタシもうっ! っ!」  
「……。」  
「は、ぁっ! サターン!」  
 
スラリとのびた美しい脚がブルブルと震え、快楽の電流が全身を駆け巡り全く力が入らない。  
自力で立っていることすら敵わなくなり、マーズは彼にしなだれかかる。  
サターンは何も言わずに肩を貸した。耳元で彼女の荒い息遣いが絡まる。  
しばらくの間二人は立ったまま、腿を熱い愛液が伝うのを感じていた。  
 
「ねぇサターン。途中でアンタ、なんか……大事なこと言わなかった?」  
「覚えていない。」  
「なによそれ!」  
彼はそんなマーズを見ながら自らを静かに引き抜き、軽く乱れを直すと、  
彼女の耳元で笑いながら囁いた。  
「まぁお前なら、また遊び相手になってやってもいい。」  
そう言い終わる前に、今度はマーズから唇をふさがれた。  
サターンの呆気にとられた顔に少し満足し、蚊の鳴くような声で彼女は言う。  
「でも、やられてばっかりはイヤ……」  
「……ほぅ。」  
 
この後の打ち合わせ開始時間が遅れたことは、言うまでもない。  
 
 
---------------------------------------------了  
 
 
 
 
 
――おまけ――  
 
「はぁ、アタシまた喰われちゃった……。」  
「一番最初に喰われたのはわたしの方なんだがな。」  
「?! 今……な、なんて?」  
「その顔、やはりお前は覚えていなかったか。」  
 
マーズは一瞬、何のことだかわからず黙り込む。  
実は、彼と行為に及んだのは二週間前と今回だけではなかった。  
彼らがしたっぱだった頃に一度だけ、そうなった事があったのだ。  
その時は、彼女自身が「一回だけ!」と酔った勢いで彼を押し倒したのだが、  
マーズの飲んだ量が凄まじかったため、彼女の記憶には  
ほとんど残っていなかった。  
 
「あーっあの時! 朝起きたら一人で裸だったから変だと思ったけどまさか……最後まで?」  
「……その後謝罪の一言もないと思ったら忘れてやがったんだな。」  
「アンタまさかそれを根に持ってこの間?!」  
「さぁな。」  
「な、なによぉ、あの時はつい酔った勢いで、その、仕方なかったのよ!」  
「よく言う……お前はあの時何があったか覚えてないくせに。」  
「え? な、何? アタシなんかした……?」  
「黙れ……思い出したくもない。」  
「なんかその、よくはわかんないんだけど……ご、ごめん。」  
 
少し顔を青くした気のする彼に、マーズは自分が何をしたか思い出せなかったが謝罪をしたのだった。  
彼女が彼に何をしたのか。それはまた別のお話。  
 
 
---------------------------------------------了  
 
 
 

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