「…ハァ…なんで僕がこんな目に」  
コウキはコンクリート張りの廃ビルの一室で一人呟いた。  
ここは数ヶ月も前から廃ビルとなったハクタイシティのギンガビル。  
室内には、あまり綺麗ではない毛布が一枚と潰れたダンボールがいくらかがあるのみで、他には何もない…  
「せめて…ポケモン達が回復してから調査しにくればよかったなぁ…」  
後悔先に立たず…今、コウキの手持ちのポケモンはひでん技を満載したビーダルのみである。  
ビーダルはさっきからずうっと、表情ひとつ変えずにその独特の顔で窓から外を見つめている。  
コウキはビーダルに目をやりつつ、愚痴をこぼす。  
「あの時、しっかり確認しておけばよかったんだよなぁ…ったく…」  
 
 
 
…数時間前。  
コウキはギンガ団の野望を阻止し、息抜きのために久々にハクタイシティへ訪れていた。  
「そーいえばあのギンガ団のビル、もう無人の廃ビルになってるんだったっけ…」  
コウキの目の前に移るのは主を失った大きなビル。  
人一倍好奇心が強く冒険好きなコウキにとって、その廃ビルは恰好の施設だった。  
このビルはギンガ団絡みの騒動で一度訪れているのみで、そのときはろくに探索も行っていない。  
何もなかったよーな気もするけどしかし気になる…彼がビルを探索しない理由は何もなかった。  
ギンガ団との戦いで傷ついたコウキの主力メンバーは今ポケモンセンターで傷を癒している。  
なのでコウキの手持ちのポケモンはひでん技要因のビーダルのみとなっている。  
コウキが命じると、ビーダルはビルの前に生い茂る細い木々を少し手間取りながらも切り倒した。  
「手持ち、こいつだけで大丈夫かなぁ……まぁ、ここ野生のポケモンいないはずだし…」  
木を一本切り倒しただけで息切れするも、表情だけはそのままのビーダル。  
そんなビーダルを見て眉をひそめつつ、コウキはビーダルをボールに戻しビルの中へ進んでいった。  
 
ビルの内部はどの部屋も人が住まなくなってから時間が経っており、荒れ始めている。  
こういう廃墟の探索を趣味とする人もいるようだが…コウキもそれに近い感覚を持っているのかもしれない。  
「はぁ〜…ホンット何もないんだなぁ。こーいう所ってのは何か道具が落ちててもよさそーなモノだけど…」  
足元に気をつけながら部屋を一つ一つ調べていく。  
いくら探検が好きとは言っても、全く同じ無機質なコンクリート張りの部屋ばかりが続くと流石に飽きてくる。  
コウキも例外ではなく、最初はワクワクしながら扉を開けていたのだが、  
次第にドアを開け探索する行為を作業のように感じ始めていた。  
そして、最上階のひとつ下の階層…北側の部屋で事件は起きた。  
先ほどまでと全く同じペースでドアを開け、室内に入るコウキ。鋼鉄のドアがガチャン!と重い音を立てて閉まる。  
「…毛布がある。…って言っても毛布なんか別にいらないしなぁ。せめてきず薬とかないかなぁー」  
と詰まんなさそうな顔をして部屋を出ようとする。  
「…あれ?」  
ドアノブをつかもうとした手は空をつかんでいた。何度か手探りでドアノブを探すも見つからない。  
コウキは嫌な予感を感じながら目を手元に向ける。  
「…………ノブが……無い…!?」  
ドアノブが外れている…コウキは思わず必死になって別のノブを探す。  
しかしそんなものは見つからず…ノブが付いてたと思われる所はなぜかコンクリートで固められていた。  
何のために…そう思うより先にコウキは別の脱出ルートを探し始めた。その顔には少し焦りが見える。  
部屋中を見渡す。…人が入れるほどの大きさの通風孔などは見当たらない。  
窓から外を見渡す。…最上階近くなだけあってとてもじゃないが降りられない。空を飛べるポケモンが居れば脱出できたかもしれないが…  
窓から助けを呼んでみる。…窓は町側でなく森側についており、ビルも町から少し離れているため声が届かない。  
ドアに体当たりしてみる。…10歳そこらの少年の力では当然びくともしない。  
「…どうしよう」  
コウキの顔に映る焦りの色は、さっきよりも濃くなっている。  
「あ、そうだ!ビーダルにやらせてみよう!」  
ボールからやる気なさげに飛び出したビーダルは、おもむろに床に転がるコンクリート片を拾い齧り始める。  
その様子をみてため息をつきつつ、コウキはビーダルに扉を何とかしてもらうために技を繰り出させた。  
「ビーダル!かいりき!」…コウキが体当たりしたときと手ごたえがさほど変わらない。  
「ビーダル、いわくだき!」…ドアが砕けるどころか傷も付かない。  
「ビーダル、いあいぎり!」 …ビーダルの爪が切れた。  
「ビーダル、ロッククライム…」…ビーダルは天井に頭をぶつけた。  
「…どうしよ…ってかビーダル、お前ってヤツは…」  
ビーダルは頭にタンコブを作りながらも、相変わらず表情ひとつ変えずにコンクリート片を齧っている。  
呆れながらも、どうにも憎めない…こんなヤツでも一緒に苦楽を共にした仲間なのだから…  
そんなこんなで、コウキは今コンクリート張りの空き部屋に閉じ込められていた。  
 
そして再び現在…  
「くっそー…お腹すいたなぁ…」  
部屋の隅に座り込みながら、コウキが力なく呟く。  
食べ物は道具入れにポフィン箱があるのみ。ビーダルは当分食事に困らない…  
そうやってさらに数時間が経過した。もう日も暮れ始めている。  
「うわぁ、もうすぐ夜じゃん…腹減った…誰か…」  
遠い目でだんだん暗くなる外を見つめながら一人呟くコウキ。  
すると、ビーダルが何かに気が付いたのか窓の方へノソノソと歩いていく。  
「…どしたの?ビーダル」  
コウキが尋ねると、ビーダルは前足をクイックイッと動かしコウキを呼んだ。  
その所作にイラッとしつつもコウキは窓際へ足を運んだ…  
ビーダルは窓から顔を出し、コウキに下を見るように促した。  
「下?…もしかして人が!?…って言ってもこっち側って人が通れるよーな場所じゃぁ……あ!!」  
窓から下を向いたときに彼の目に映った人。茶色の髪に緑のポンチョ。そう、ハクタイジムのジムリーダー、ナタネだ。  
コウキは思わず表情が和らぎ、「助かった…」と小さく呟いた後、窓から下に向かって思いっきり叫んだ。  
「ナタネさぁーーーーーんッ!!!!! たーーーーすけてくださーーーーいッ!!!!」  
先ほどまでの衰弱した様子とは打って変わって、ありったけの力を振り絞った大声で叫んだ。  
下で散策していたナタネは突然の大声に肩をビクつかせ、  
「おわッ!?…あ、この声は……コウキ君?…何処だろ?」  
辺りをきょろきょろ見回して声の主を探すナタネ。  
「上でーーーーす!出られないんですよーーーーぅ!!たっけてくださーーーぃ……ゲッホゲッホッ!」  
「…上?…あ、コウキ君!なんでまたそんな所に…」  
「いやちょっとコレにはワケが…ってかそんなことは兎も角助けてくださいよーーーー…」  
無理して大声を出したせいかだんだん声がカスれていくコウキ。それに対しナタネは動揺しながらも頷き、  
「わっ、わかった!今からそっちへ向かうよ!」といい終えるとビルの入り口へ向かって走って行った。  
この時点でコウキは完全に安心しきっていた。そのまま窓際で座り込み、ビーダルを褒めていた…  
「よくやったよお前…ホントよくやった!今日はうまいもん食べさせてやるからな…!」  
ビーダルは(うまいもん)の部分に反応して鼻息を荒くした。しかし表情は変わらない。  
その有様にイラッとしつつも、だんだんと大きくなるナタネのものと思われる足音を聞き、安堵の表情を浮かべていた。  
ガタンッ!と勢いよく鋼鉄のドアが開く。待ってました!とばかりに笑顔で出迎えるコウキ。コンクリートを齧るビーダル。  
「大丈夫!?コウキ君!…なんでこんな所にいるのっ?」  
彼女はそう言いながらコウキに歩み寄る。閉まりつつあるドアには気づかずに…  
「いやー、実は…」コウキが話し始めようとした時、再びガチャンッ!とドアが閉まる重い音が部屋に響いた。  
「実は…どうしたの?」ナタネは尋ねる。 しかしコウキは事態に気が付き返事をするどころではなくなった。  
「…ああぁ!」コウキは思わず顔が真っ青になる。だが、ハッと気を取り直し、  
「…ナタネさん、ポケモン持ってますよね?」と尋ねる。  
彼女のロズレイドならあるいはこの状況を打開してくれるかもしれない…コウキはそんな期待を抱いた。  
「ポケモン達?あぁ、さっきジム戦したばっかりだから…皆ポケモンセンターに預けちゃったよ?」  
「……お、オオゥ…そんな…」最後の希望も潰え、思わず崩れ落ちるコウキ。  
その様子を不思議そうに見つめるナタネ。コンクリートを齧るビーダル。  
 
ここから、三日間に及ぶ2人と一匹の密室サバイバルが始まった…  
 
 
 
「…すみませんナタネさん、貴女まで巻き込んでしまって」  
事の顛末をナタネに話した後、ナタネに深々と頭を下げるコウキ。  
だがナタネは少し戸惑いつつも笑みを絶やさず、コウキに語りかける。  
「ううん、別に気にしないよ!あたしも子供の頃はこうやって色んな所冒険してたし!」  
なんて人のできた女性なんだ…とコウキは仏を見るような目でナタネを見つめていた。  
…どうやらナタネも廃ビルになったギンガ団ビルの調査に来ていたらしい。  
今日はビルの周辺の調査だけで済ます予定だったらしいのだが、ちょうどよくビーダルがそれに気づいたようだ。  
 
ナタネが部屋に入ってきてから3時間…二人は取り留めのない雑談をして時間をつぶした。  
ハクタイでのジム戦のこと…ポケモンリーグのこと…ギンガ団のこと…  
そうこうしている内に日は沈み、照明すら取り外されて久しいその部屋は不気味なほど暗い空間になっていく…  
流石にまだ眠れるような時間でもない…コウキは、バッグの中に入っていた懐中電灯を使って灯りとして使いうことにした。  
部屋が暗くなるにつれて、元気に話していたナタネの様子に少し変化が見られ始めた。  
「コ…コウキ君!…その…」  
いつもの明るい様子から比べるとどうも様子が変だ。  
「どーしたんですか?ナタネさん」  
「も、もーちょっと近くに寄ってもいいかなっ?…そ、そのぉ…キミのビーダルの毛並みを見たくってさ」  
少し不思議に思いつつも、「どうぞ」とコウキは快く承諾した。  
するとナタネはビーダルではなくコウキの右隣に移動してきた…しかも何となくコウキに寄り添うような形で。  
隣に座り込むナタネを見るとコウキは苦笑いしながら、  
「アハハ…僕はビーダルじゃありませんよ?ビーダルはあっちです」  
とポフィンを貪るビーダルを指差して言った。  
「へっ!?…あ、そっ、そーだよねっ! あたしったらつい…あははっ」  
そうは言うもののナタネは動こうとしない。コウキはますます不思議に思いつつ、とりあえず気を利かせてビーダルを呼んでみた。  
「おーいビーダル!ナタネさんがお前の毛並み見てみたいんだってさ!何時までも食ってないでこっちに来いよ!」  
ビーダルは「ブッ!」と屁で返事をしてノソノソと近づいてくる。  
その有様にイラッとしながらも、コウキは近づいてきたビーダルにナタネの近くに行くよう促した。  
ビーダルの屁が臭う…その何とも言えない臭気に顔をしかめながらも、  
コウキはナタネにビーダルと自分の出会いのきっかけやビーダルの特徴、ビーダルがらみの事件などを話した。  
ナタネはビーダルを撫でながら楽しそうにその話に聞き入っている。ビーダルは撫でられてる間も終始コンクリートを齧っていた。  
…そんな中、コウキは自分の右手に何かが触れていることに気づいた。  
その何かは、ぎこちない動きでコウキの右手を探っている。…しばらくすると、その何かはギュッとコウキの手を掴んだ。  
それほど怖がりではないにしろ、こんな灯りは懐中電灯のみの廃ビルの一室で何かに手を握られれば、  
どんな人間でも多少は驚く…コウキは恐る恐る自分の右手の辺りに目をおろした。  
コウキの目に映ったものは、自分の右手をギュッと握る白く綺麗な手。…その手は、自分の隣に座る女性の物だった。  
「えっ!?…あっ、あのぉ、ナタネさんっ?これは…」  
予想していなかった展開に動揺し赤面しつつ、コウキは思わずナタネの顔を見る。  
「あ…これは、その… …そっ、それよりそのときビーダル君はどうなったのっ?」  
ナタネは少し俯きながらも、世間話を続けようとする。…心なしか、座り込んでいるナタネの肩が震えているようにも見えた。  
何となく事情を理解したコウキは、右手のことを聞くのを止め世間話を再開させた。  
「…そうなんですよ、コイツったらギンガ団の下っ端に追われてるってのにですね…」  
 
コウキは始め、特によからぬことは考えていなかった。  
ナタネに対して憧れは持っていたものの、こんな状況ではそんなことを考えようなどとは思わなかった。  
…がしかし。ナタネがズボンを下ろす音が耳に入るとコウキの理性は揺らいだ。  
(今、前を見ればナタネさんのお尻が見えるんだよな…で、でもなぁ…)  
しかも、今はナタネが電灯を持っている。  
暗くて見えないから…という理由で用を足しに行く時にコウキから受け取っていたのだ。  
だから見ようと思えば見える。むしろナタネの周辺だけが明るくなるので目を向ければ鮮明にナタネが用を足す姿が確認できる。  
液体の滴り落ちる音が聞こえ始める。コウキの理性はますます揺らぐ。  
(いけないぞコウキ!ここで見てしまったら僕はただのスケベ野郎だ! …だが見たい…!見たくてしょうがない…嗚呼…!)  
既にコウキのズボンにはテントが張られていた。腹は減ってもまだまだ息子は元気なようだ。  
そして液体が滴り落ちる音も小さくなり始めた頃…コウキは我慢できず、ついに目を開いてしまった。  
「…あぁ…」  
思わず声を漏らすコウキ。目を開けたのは一瞬だったものの、その脳裏にしっかりと彼女の白い桃尻を焼き付けてしまった。  
この経験がその後コウキを大いに苦しめることになるとは…  
 
丑三つ時…コウキはまだ眠れない。  
床にダンボールを敷き、壁を背にし一枚の毛布に二人で包まり寝ることにしたのだが…  
隣でスヤスヤ眠るナタネの寝顔を見るたび、コウキの煩悩は何度も沸き上がる。  
やってはいけない事だ、やってはいけない事なんだ…と自分に言い聞かせ耐える、耐え続ける。  
しかし寝息を立てるナタネの体から漂ってくる何とも言えない良い香りは、彼の胸を締め付ける。  
「ぜ、全然眠れない…! さっきから何度もあのことを思い出しちゃうんだよなぁ…はぁ」  
あのこと、とはもちろん先ほど彼が脳裏に焼き付けてしまったモノの事である。  
「寝ている女性に手を出すなんて最低なことだ…! …だけど…」  
コウキの苦悩を知ってか知らずか、ビーダルも流石に眠いのか丸くなって寝ている。  
「ん…」ナタネは何となく色っぽい寝息を立てながら寝返りを打つ。  
その声色にますます刺激され動揺するコウキ。  
するとナタネは少し体勢を崩し、ナタネの頭がコウキの肩に乗るという形になった。  
ナタネはコウキの肩に身を任せ寝息を立てている…コウキは動くこともできず悶々とし続けた。  
コウキの息子は、コウキが寝付く朝6時ごろまで終始元気なままだった…  
 
ニ日目…コウキはよほど疲れていたのか、日も暮れ始める午後3時ごろになるまでずっと寝ていた。  
目ヤニで目が開かない…気だるそうに起き上がり、目を擦るコウキ。  
その隣には彼を悩ませ、寝不足にしせしめた張本人の姿はなかった。  
「…あれっ? …ナタネさんはぁ〜…?」  
充血した目で辺りを見回す。  
「あっ、やっと起きたっ?ずーっと寝てたからさ、もしかしてこのまま起きないんじゃないかなぁ、なんて思ってたよっ!」  
ナタネは元気よくコウキに話しかける。どうやらビーダルと遊んでいたようだ。  
その様子を見て、コウキはナタネがいつもの調子に戻っていることを確認した。  
その後ゆっくり起き上がり、ナタネに話しかけようとしたとき…ふいにコウキの腹の音が鳴り、その音は部屋中に響いた。  
クスッ、と笑うナタネ。照れて後ろ頭を掻くコウキ。「ブッ!」と屁で反応するビーダル。  
屁で反応するビーダルにイラッとしつつ、コウキは力なく座りこみ情けない声をあげる。  
「お腹空いたなぁ…もう1日何も食べてないよ…喉も渇いた…」  
そんなコウキを見てナタネは、励ますように語りかける。  
「大丈夫!明日にはきっと助けが来るよ!」  
気休めであったとしても、そう言ってもらえるだけでコウキは少し希望をつなぐことができた。  
でも、今日はまだ日が暮れたわけでもないのに何故明日…?  
ふと疑問に思ったコウキはそのことをナタネに尋ねようとするが、コウキが口を開けるよりも早くナタネはコウキにこう言った。  
「今日はたまたまジムが休みなんだけどさ…  
 明日以降なら、ジム戦の挑戦者がジムリーダーの不在に気づくはずだし、ジムのトレーナーさん達もあたしを探し始めると思うの。  
 だから…多分明日には助けが来るかな、ってあたしは考えてるの。まぁ…多分、だけどね!…えへへ」  
なるほど、コウキはあくまで旅の途中であって親への連絡も月に一度入れる程度だ。  
ポケモンセンターにポケモンを預けているとは言っても、彼は一応手持ちのポケモンがいるので心配されることもない。  
が、ジムリーダーが不在となれば探そうとする人は出てくる…コウキはそれなりに納得して、明日へ望みをつなぐことにした。  
 
 
二日目の夜…ナタネとビーダルは既に寝付いており、起きているのはコウキだけ。  
ナタネとコウキが、壁を背にするのでなはなく横になっている、という点を除けば一日目と同じ状態になる。  
ナタネはポンチョと靴を脱ぎ、コウキの傍ですやすやと寝息を立てて眠っている。  
前日と同じく右手を握られているため、コウキとナタネは自然と向かい合う形になっている。  
あまりの空腹で思考能力も散漫になり始めていたコウキの脳内では、だんだん理性が煩悩に負け始めていた…  
窓から漏れる月明かりなどのおかげで暗いとは言っても真っ暗というほどではなく、目が慣れれば薄らとモノが見える。  
コウキの目の前にはスヤスヤ眠るナタネの寝顔…手を少し動かせば容易に彼女の体に触れることができる。  
(相変わらず良い匂いだなぁ、ナタネさん…あ、いやいや!寝てる女性に手を出すなんて最低だ!最低だけど…でも…)  
(ちょっと…お腹を触るぐらいなら…)  
(そうだよ…ちょっと、だけなら…それに、お腹触るぐらいならもしバレても大丈夫さ…)  
 
コウキの理性はそろそろ限界を迎えていた…ナタネに向かって聞こえないような小声で「ごめんなさいっ」と呟いた後、  
彼はそーっとナタネのお腹に手を伸ばした…そして、恐る恐る人差し指で彼女のお腹をツンと突付く。  
…ナタネは相変わらず安らかに寝息を立てて眠っている。…このぐらいなら気づかないようだ。  
(柔らかい…じゃ、じゃあちょっと失礼して…)  
コウキはナタネのお腹の感触を手で確かめる。次第にその手は段々胸の方へと動いていく…  
(…む、胸…ナタネさんの胸…ちょっと小ぶりだけど…ど、どうしよう)  
どうしよう…などと言いながら、彼の人差し指は既にツンツンとナタネの胸を優しく突付いていた。  
だんだん調子に乗ってきたコウキは、優しくナタネの胸の上に手を乗せ、しばらく触り続けた。  
それでもナタネはまだ気づいていないようだ…  
(気づかないんだ、ここまでしても………よしっ)  
コウキの行為は少しずつエスカレートしていく。  
今度はナタネの黒いシャツを少しずつ捲くり始め…彼女の白いブラジャーが露出するまで捲くり続けた。  
(うっすら見えるけど…白かぁ…こ、この辺で止めとかないとまずいよな…まずい、よなぁ…ハハ)  
そう思いつつもコウキはブラジャーの上から優しくナタネの胸を揉みしだく…気付かれないように、細心の注意を払いながら。  
(何やってるんだろ僕…あぁ、でも手が止まらない…)  
コウキはブラジャーも捲くり、ナタネの乳房を露出させる。薄らと見える、小ぶりではあるが形のいい乳房。  
先ずその感触を手で確かめる。優しく、丁寧にその感触を手で味わう。  
(初めて触る女の人の胸…しかも、ナタネさんの…や、やわらかくて…温かくて…)  
そうしているうちにコウキの手は少し硬くなった突起に触れる。  
(これ…乳首かな?何だか知らないけどちょっと硬くなってる…つまんでみよう)  
コウキはキュッ、と控えめにナタネの乳首をつまんでみる。  
するとナタネは「んっ…」と、か細い声を上げピクッと体を震わせた。  
ナタネが初めて自分の行為に反応したものだからコウキは大いに驚き、すぐさま行為を中断した。…そして、恐る恐るナタネの様子を確かめる。  
(やばっ!…おっ、起きた!?…どーしよ、ブラジャーまで捲ってるし言い訳なんて…)  
「コウキ…君?」ナタネはか細い声で彼の名を呼ぶ。  
不味い、起こしてしまった―――コウキの体から血の気がどんどん引いていく。  
そしてそれと同時に罪悪感と自己嫌悪感がふつふつと湧き上がってくる…  
「あれ、あたし…?」ナタネが自分の着衣が乱れていることに気が付いた、もう遅い…  
そう思ったコウキは言い訳などせず、はっきり謝ろうと腹をくくった。  
「…すみませんでした、ナタネさん…僕、その…」  
なんとか謝ろうと言葉を捜しているうちに、先にナタネが口を開いた。  
「もっと触っても…いいよ?」  
コウキはその言葉に耳を疑った。触っても、いい…?  
「…いっ、いいんですか…?僕、実はさっきから色々やってしまってて…」  
「うん、知ってた。…だって起きてたもん、お腹を触られた辺りから…えへへ」  
つまりほとんど最初の方から起きていたことになる…だがナタネからはあまり嫌がってる感じは見受けられない。  
「それじゃ…ど、どこまでなら触っていいんですか?」  
理性が負け、押さえが利かなくなり始めていたコウキはナタネに思い切った質問をしてしまった。  
「…キミの気の済むまで、好きなだけ。ただし、今日のことは内緒だからねっ?」  
「はっ、はい…もちろん!…それじゃあ…きっ、キキ…!」  
「…ん?何かな?」  
「…キス、しませんか…?」  
そうコウキが言い終えると、ナタネは空いた手でコウキを抱き寄せるとスッと目を瞑り、何も言わずにコウキに向かい顔を近づける。  
それにあわせるようにコウキも目を瞑り、二人は唇を合わせた。  
 

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