「え〜っ!! なんだよ、それぇ!」
とある宿泊施設受付で、バクは苦虫を噛んだように顔をしかめると、
机越しに見えるきれいな女の人の顔が申し訳なさそうにゆがめた。
「申し訳ありませんが、等宿泊施設は満室となっております」
先ほどからもう何度も聴いた言葉、それまで食い下がっていたバクだったが、
これ以上自分のわがままでおねぇさんたちを困らせるワケにはいかないと判断し、
とりあえず名前とトレーナーカードだけおねぇさんに教えると、ごめんなさいとばかりに頭を下げ、
建物から外に出た。
……バクは今、バトルタワーの最後の宿泊施設にいた。
今日もマイと組んでマルチバトルに挑戦したのだが、
なぜか今日は、いつも以上にマイが気になってしょうがなかった。
最初は先日の自分がしてしまった行為に対する罪悪感と、それでおきた後ろめたさのせいで
かもしれないと思っていたのだが、何かが違う。
「(マイって、近くで見ると結構、“あれ”あるんだなー……)」
気づけば罪悪感、試合などそっちのけでマイを見つめている自分がいた。
そしてそのせいで俺は技の指示が遅れ、連日連勝外道を驀進していた俺たちは負けてしまった。
控え室に戻ったマイは、いつもとは違う様子で、俺に一言もしゃべらずに出口に向かう。
「あ、マ……マイっ!!」
慌てたせいか、反射的に名前を呼ぶとマイは足を止めてくれたけど、
俺のほうを振り向いてくれはしなかった。
「あ、あのよっ、その……悪かった、ごめん、俺のせいで負けちまって」
「…………」
俯きながら言うバクだったが、マイは無言のままだった。
しゃべり終わるとまた足取りを進め、バクの前から去っていったのであった。
そんなわけで、バクは半ば放心状態のまま控え室に立ちすくみ、
気がついたときには夜で、とっくに家に帰れる時間帯ではなくなっていた。
「し、しまった!?」
大慌てで外に出て宿泊施設を駆け回るが、やはり時間が時間。
連日多くの人が出入りするバトルタワー近くの宿泊施設は殆どが満室になっており、
仕方なくバトルタワーから最も離れている場所に立つ、最後の建物に賭けてみることにした。
が、しかし……
「ええ〜っ!! こ、ここも満室かよー!!」
現実は甘くなかった。
結果的には満室で、空き部屋は一つとしてないのだ。こうなれば最終手段、野宿しか手はない。
しかし、バクは思いとどまる。別に野宿は嫌ではない。むしろポケモンと冒険するために必要なスキルであるし、
特別苦手なわけでもない。ただ、日帰りのつもりだったためお金はあっても道具がない。
たった一日だけやり過ごせばいいのだが、寒空の中、かけるもの無しの半そで半ズボンで夜をすごせば風を引きかねない。
バクは、なんとしてでもちゃんとした部屋にとまりたかったのだ。
「相部屋でもかまいません! ないですか!?」
あがきとわかっていても、可能性ある限りそれに賭ける。
それがバクのバトルスタイルであり、生活の根本でもある。
受付の、少し歳のいった女性が書類をぱらぱらとめくる、やがて、最後のほうで紙をめくる指が止まった。
「あ! 相部屋ならありますが……よろしいでしょうか?」
「ぜ、ぜひ! お願いします!!」
希望に満ちた目でそう言うと、女性は受話器を片手にどこかに電話を始めた。
おそらく、相部屋になる相手に連絡を取っているのだろう。
女性が、受話器を置いた。
「よろしいそうです。では、あなたのトレーナーカードをお預かりします」
飛び跳ねたいほどの大喜びを隠しながら、受付の女性にトレーナーカードを渡す。
今、バクの気持ちは最高に近かった。
「(やった、野宿は避けられたぜ。あとで相部屋の人にお礼言わなくちゃな)」
部屋の鍵を受け取ったバクははしゃいでいたが、部屋に入った瞬間一気に気まずい空気に浸されてしまった。
「な、なんで……?」
部屋のドアを開けた直後、信じられないものを見ているようにバクの表情が引きつった。
部屋の真ん中で申し訳なさげに座って。半開きに近い目でこちらを見ている少女は誰であろう。
バクが不思議な感情を抱いている異性――――――マイの姿がそこにはあった。
ごろん、と体勢を入れ替える。……眠れない。
その体制でいることに苛立ちのようなものが生まれ、またごろんと体を返すが、しかし……
「(くっそ〜! ね、眠れねぇよ〜!!!)」
かけてある布団を払うわけにもいかず、バクは小さく、静かに問答する。
なぜかけてある布団を払うわけにはいかないかといえば、マイが同じ布団で、
しかも鼻と鼻がぶつかるくらい、というかなり眼前で安らかに寝ているからだ。
あのあと、時間帯的に特に晩飯を食べる必要が無かった2人は風呂に入ってさっさと寝ることになったのだが、
なんでも最悪(最高?)なことに、この部屋のいくつかの布団はすでに別の相部屋しているところに
使っているらしく、一組の、それも小さな布団しかなかったのだ。
バクは顔を真っ赤にし、当然のごとく変えてくれと言おうとしたが、マイがすでに寝入ってしまったため、
いまさら起こして返させるわけにも行かなくなり、現在に至ったのである。
「(く、くっそ〜! 意識するな意識するな意識するなぁ〜っ!)」
頭でそう思い続けるバクだったが、不意に漏らす喘ぎ声や、寝息、
果てには腰まわりを抱きしめてくるマイに、もう体が反応し始めている。
抱きしめる腕に力が込められた。
「(うっ、マイって言い香りするな。ってや、やばい! このままじゃ……)」
もう理性は限界近い。
いよいよ最後の喘ぎ声が聞こえたとき、理性の綱がブチリと切れ掛かりそうになった、そのときだった、
「今日は……ごめん」
マイの、完全に覚醒しているであろう声が聞こえたのは。
「マイ? ごめんって、どういうことだ?」
聞き返すバクには心当たりが無かった。在るとすれば今日負けてしまったことぐらいだが、
それも全ては自分のせい。あやまることなど、する覚えはあってもされる覚えはない。
マイは彼女らしく、淡々と語りだした。
「今日……負けてしまったのは私のせい……私が、あなたに見とれてた……せい」
「!? えっ、今なんて……!!」
驚きに振り返った瞬間、バクの言葉がさえぎられた。
マイの唇という、バクがもっとも求めていたものによって……。
「ぷ、はぁっ!! い、いきなりな――「わからない」――えっ?」
唇が離れても、獏の言葉にマイは言葉を挟む。
見詰め合う2人は儚く、可愛らしい恋人に見える。
「……初めてあった時から、目が離せなかった……気がつけば、いつもあなたのことを考えてる……私がいて」
マイの顔が少し俯く、口調が何時も以上にぼそぼそと小さくなり、
うす暗い闇のせいで目の錯覚かもしれないが、頬がほんのりと赤くなっているような気もする。
次に気がついたときには、俺はマイをやさしく抱きしめていた。
「実は、俺もなんだ」
直接耳元でささやいてやる。普段なら恥ずかしいと思うかもしれない行為も、
今の俺は何のためらいも無くやってのけられそうだ。
「俺も、おまえの……マイのことを考えてばかりいて、どうしようもない自分がいるんだ。
今日だって、俺はおまえに見とれてたんだぜ」
そう言って少しだけ抱きしめる力を弱め、お互いの瞳をハッキリと覗く。
見詰め合う2人に、もう『友情』など存在しなかった。そこに映っていたのは――――
2人は、唇を重ねる。
――――相手を愛しいと思う、『愛』だけだった。
「んっ……っ」
重ねた唇から声が漏れる、それはバクが発したものでもあり、マイが発したものでもあった。
長い長いキス。
体勢を全く変えることなく、唇と唇を重ねるだけの、甘い甘いモノ。
しかし、生まれて初めて心から人を『愛した』両者だけに、――たとえお互いが望んでいたとしても――それ以上の行為に
踏み切ろうとする、こみ上げてくる欲にまだ理性が打ち勝っていた。
唇が離れた時、また顔は鼻が掠れる位に近づき、瞳には相手しか映っていない。
「マイ、俺、おれっ……」
「……くすっ……可愛い……人」
“青”少年特有の純粋さからか、今さらになってけ恥ずかしそうに頬を真っ赤に染めるバクは
ろれつのうまく回らない舌で必死に何かを訴えようとする。
そんな恋人の可愛い姿に、マイは愛しいとしみじみ思いながらくすりと笑うと、
驚きに俯くバクの首に手を回し、再び口付けを交わした。
しかも、今度は当てるだけのものではなく、マイはバクの舌を自らの舌に絡めたのだった。
「!!」
はじめはその概観と違いすぎる積極性に、驚くことしかできなかったバクだったが、
次第に愛しい人との行為の快楽に気持ちを溶かして行き、ついにはバク自身からマイの咥内を犯し始めた。
舌を積極的に動かし、絡ませ、唾液を交わす。
その甘酸っぱさに酔いしれながら、マイただひたすら、行為に没頭する。
夢の中の出来事など、所詮は夢。
想像していたものより遥かに強く、甘美な刺激にバクはただただ夢中になっていた。
ちゅっ……ぴちゃっ、ちゅぶっ……
隙間ができるたびに生まれる絡み合っているという確かな証拠が、
バクの、マイの中からふつふつと湧き上がっていた熱をさらに上げる。
気がつけばバクもマイの腰に手を回し、その華奢な体が離れないようにとしっかり抱きしめていた。
行為は、とまらない。
2人は唇を放すことなく、次の行動に移り出す。
「ゃっ……」
らしくなく、小さな悲鳴を上げたのはマイだった。
それも唇が離れたほんの隙間から漏れた声だったが、すぐさまバクによって塞がれる。
――彼女の、まだ申し訳程度にしか発達していない膨らみの一つを、
バクが包み込むようにしてゆっくりと揉み始めたのだ。
「あ……んっ…………」
まだ誰にも、自分でさえロクに触ったことがない突起を他人に、
それも好意を持った相手に触られ、包み込まれている。
事実は知らず知らずのうちにマイの感情を高ぶらせ、脳を溶かす悦びを体全体に運ぶ。
そして、吐き出される甘くて暖かな吐息がそのままバクに高揚感を与え、彼の欲望を肥大させた。
「ひゃっ……だ、ダメ……」
快楽におぼれている声色なのだが、やはりどこかに何時もの癖がある。
バクは唇を離し、もうすでに……実は行為が始まってからすぐにそそり起っていた分身を
マイの体に軽く押し付ける。
普通なら、ここで無表情にけりの一つでもくれるのやるのだろうが、
『相手がバクである』という真実を心で受け取っているマイは決して不快感を覚えない。
むしろ、さらなる愛しさにまして喜びすらあふれていた。
ズボン越しに彼に触れる……硬い。
触れる瞬間にバクがうめいた気がするが、今の彼女は彼の分身に集中していて気付かない。
いったん手を放すと、胸をなでおろすようにほっとした反応を見せるバクだったが、
マイにはそれがどことなくムッときたらしく、さっきから疼いて仕方がない自らの秘所に手を伸ばしつつ――
バクのモノを、今度は生で握った。
「うわ!! ぁ……っ」
瞬間、バクは全身に電流が流れたような感覚に襲われた。
まだ声変わりしていない、女のような少年独特の声を上げ、
たまらずに身を捩りそうになるのを決死の思いでじっとこらえる。
マイは、そんなバクの思いを知ってか知らずか、握った手でバクのものを丁寧にしごき始めた。
「あ……んっ……」
だが、一方で自らの性感帯をしっかりと刺激しており、快楽に身をゆだねているのはお互い様のようだ。
「うっ! ま……マイっ! や、やばい……で、出ちま――」
自身の体にある警告が鳴り響く。
しかし、あと一歩で絶頂に達すると言うところでマイは手を止め、突然バクの胸に飛びついた。
「お、オイ!?」
「――……して」
「! え!? 今なんて……」
快楽を取り逃がしたためか、どこか名残惜しそうに表情が曇ったバクだったが、
その小さくて可愛い口から紡ぎ出された言葉には、さすがにのどを鳴らして息を呑んだ。
『――――セックス……して』
理性が逆流して戸惑いが生まれているバクを無視し、マイは布団の中にもぐると
ごそごそと体を動かし始めた。
ヒタッ……
布団の中に隠れている、いきり立つバクの分身の先に暖かいモノが触れた。
それも、今までにない感覚であったが、バクはもう体を震わせることをしない。
――『覚悟』を、決めたからだ。
マイの腰をグッと掴む。壊れないように、離さないように、さながら割れ物の芸術品を取り扱うがごとく、
バクは絶妙な力加減を無意識的に覚えていた。
マイの腰が落ちるのと、バクが自らの腰を打ち揚げるのは、ほぼ同じタイミングであった。
「うっつ……くっ……」
初めてであるはずの未成熟の小さな膣に、バクのモノはするするとすべる様に沈んでいく。
歳が歳だけのせいか、この2人の相性がよかったのか、それともこれも2人の愛ゆえなのか、
マイはバクを抵抗なく受け入れ、バクはマイに遠慮無く突きこんだ。
「(刺激が、半端ねぇ……!)」
率直な感想はそれに尽きた。
全てを中に委ねたときから、予想外過ぎる衝撃が脳をめちゃくちゃに揺らしている。
暖かく、底なしに柔らかいものに包み込まれた、と同時に、それが幾分か奥に進んだとき、
不意に、背筋をなでるような寒気と違和感が襲ってきた。
「気にしないで……」
バクの心配そうな表情に気づいたマイが、若干苦しそうに顔をゆがめている。
だが、顔を見せたことで、逆に半ば混乱しているバクの良心を傷つけた。
「やはり、抜いたほうがいいのでは?」、そう思ったバクが腰を引いた瞬間、
マイは飛びつくように抱きつくと、ほぼ強引に唇を奪った。
「動く……よ」
耳元でささやいた後、言葉どおりにマイは腰を動かし始めた。
知らず知らずのうちに、バクもリズムに合わせて腰を動かす……
『性』に関する情報が著しく乏しい少年は、今まさに本能に忠実に従っていた。
接合部分からは妖美な音が響き、ほのかな甘い香りが2人の性をさらにつつく。
「あ、あ、あっ、ひやああっ……んっ」
淫靡な音色がさすがのマイの何時ものポーカーフェイスをぼろぼろに崩しかけている。
突き上げられる、好意を持つものに犯される喜びを味わい、いつの間にか重ねた手を強く握り締め、感覚を共通する。
断続的に体の芯を突き抜ける電流が、徐々にその感覚を縮めていった。
「はぁっ、はぁ、っ! マイ、気持ちいいか?」
程よい甘さと熱を孕んだ『彼』の荒い息を間近で感じた瞬間、
マイの体に外見上ではわからない何かが押し寄せた。
「バク……バクっ……」
彼女は彼の名を呼びながら、最後の口付けを交わし――――
「……いいよ、きて……」
――――最後のささやきは言い終わる前に、腹部に生じた熱い感情によってさえぎられてしまった。
「くぁ〜っ……よく寝たぜ」
うっすらと開いたまぶたの間から差し込む朝の日差しに気付いたバクは、
体に、思い出せない気だるさを覚えて、首をかしげた。
「あれ? なんでこんなに体が重いんだ? ……って!?」
起き上がったために持ち上がった掛け布団が下に引っ張られ、
その原因を見てやろうと目線をおろした直後、バクは大きくのけぞりながら、
そのまま勢いで布団から吹っ飛んだ(ダジャレに非ず)。
「……あ、おはよう……」
その衝撃で、バクが吹っ飛んだ原因――マイは、片目を擦りながらバクよりもより
さらに気だるげに、朝の挨拶をした。
「あ、そうか! 俺は止まる宿が無かったからマイと同室に泊めてもらってそれから……!!」
独り言をつぶやくバクの顔が、噴火したように爆発を起こした。
目をめまぐるしくぐるぐる回したり、何かを叫びながら抱えた頭を壁に打ち付けたりと、
1人で勝手に大混乱状態に陥ったバクの姿を、マイは布団の中で座ったままじっと見つめる。
「……バク……」
不意に名前を漏らすと、それはバクにとって『なんでもなおし』並みの即効性を実証した。
壁に向かって一心不乱に頭を打ち付けるバクの動きがピタリと止まり、
年代モノのからくり人形のように、今にも折れそうなくらいぎこちない動作でマイを見る。
「責任……とってね」
恥ずかしさゆえか、目をそらしたままポツリとつぶやくと、
きれいにまっかっかに染まったままの顔で一気に俯いた。
その日、バトルタワーにおいて半日で百連勝したという『無敵のタッグチーム』が誕生したとのことだが、
それが彼らなのか、はたまた全く別のカップル(コンビなのか)、真相はまた別のお話である。
バクxマイ 完