ある日目が覚めると、俺は人間じゃなくなっていた。  
「・・・・・・え?」  
まず最初に黒い鼻が先端に付いた自分の口吻が見えて、  
目をこすろうと手を上げたら、そこには大きな爪を持った前脚があって、  
手のひらを返したらぷにぷにした肉球があって  
「・・・・・・え?」  
自分の身体を見回してみる。炎を思わせるような赤と白の体毛が全身を覆い、  
犬のような体つきでありながら、虎のような黒い縞模様がところどころに入っている。  
見慣れた・・・とても見慣れたポケモンの姿。ずっと一緒に旅を続けてきて、  
セキエイの大会で殿堂入りまで果たした、俺の一番のパートナー。  
「なんだ・・・ウィンディか・・・」  
寝惚け眼でそう呟いて、二度寝しようとして、ふと気付く。  
(俺ってウィンディだったっけ?・・・つーかそもそもポケモンだったっけ?)  
まだ眠りから完全に覚めず、混乱している脳がだんだんとマトモに動き出すようになって、別の意味で混乱してきて  
「・・・・・・っなッにいいいいぃ〜〜!!?」  
元々自分が人間だったことを思い出して、そう絶叫したのは、しばらくたってからだった。  
 
「えーとちょっと待て落ち着け落ち着こう。いったいそもそも何故なんでどうして何があってこんなことになったのか?」  
周りを見回してみると、怪しげな器具や機械が所狭しと並ぶ、実験室らしき所。  
見覚えがある。そうだ、ここはあの人の家だ。  
そうそう、いろいろお世話になってるあの人にまた研究成果を教えてもらおうと思って、  
遊びに行って談笑しながら出されたお茶を飲んでたら急に眠くなって・・・  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
「おや、目ぇ覚めたんかい」  
がちゃりとドアが開く音がして、男の人の声が聞こえた。  
「・・・マサキさん・・・」  
俺は怒りに肩を震わせながらゆっくりと振り向く。その人は俺の姿に別段驚いた雰囲気も無く、ただニヤニヤとこちらを眺めていた。  
「・・・また人を実験台にしましたね!?」  
「あー、新しい実験が上手くいきそうやったから、ちょい驚かせたろ思て」  
こっちは怒ってるのに、全く悪びれずに言い返してくる。  
ポケモン研究家のマサキさんは、常日頃から怪しげな実験を繰り返している。  
俺もそれに付き合わされたりするんだけど、貴重な研究データを分けてもらったり、パソコンを通じて預けたポケモンを管理してもらったり、  
世話になることも多いので、無下に断るわけにもいかないのがなんとも・・・  
 
「や、ほら、アレやアレ。はじめて会った時に失敗した奴。アレにヒントを得てな、転送装置を利用した合成実験」  
「はぁ、それでこんな・・・って合成!?ちょっとマサキさん、俺だけでなくウィンディも勝手に!?」  
「いやー、ほれ、気持ちの通じ合ったパートナーと身も心も一つに!ってやっちゃ」  
「・・・マサキさん・・・」  
怒って、がるる、と威嚇してみる。ちょっと脅かすだけのつもりだったが、サイズの関係もあり、マサキさんも結構本気でビビってた。  
「うわぁ、堪忍、カンニン!いや・・・けんど、ほら、やっぱり何処のどいつか知らんポケモンより、気心の知れたやつの方が安心やろ!?」  
「そりゃ・・・まあ、そうですけど」  
言って、改めて自分の姿を見る。合成と言ってたけど、人間とウィンディの中間とかじゃなくて、外見はほぼウィンディのままだった。  
ふわふわの体毛は予想以上にあったかくて、でも通気性は良く、蒸し暑くない。試しにしっぽをぱたぱたと振ってみる。うーむ、新鮮な感覚。  
「・・・当然、元には戻れるんですよね」  
「そりゃあもちろん。ただ、機械のセットアップにちょっと時間がかかるけどな。その間、辺りを散歩とかしてきたらどうや?」  
「・・・そうですね・・・じゃ、そうします」  
マサキさんに対する怒りもおさまって、俺の頭はもう、この新しい身体に対する好奇心で一杯だった。  
 
(御主人様・・・)  
「・・・? 誰だ?」  
四つ足で草原を走ってると、声が聞こえたような気がした。透き通るような小さな少年の声。でも、周りを見回しても誰も居ない。  
(・・・ボクです。御主人様)  
頭の中に直接響くような声、コレはもしかして・・・  
「もしかして・・・ウィンディ?ウィンディなのか?」  
(はい、そうです。御主人様)  
嬉しそうな声が頭の中でこだまする。体が一つになってるからか、ポケモンの言葉がわかるなんて・・・  
「あー・・・悪い。こんな事になっちゃって・・・ちょっと体、借りてる」  
(いえ、いいですよ。ボクの体、御主人様に使ってもらえるなら本望です)  
そう返されて・・・思わず、俺は笑ってしまった。  
「・・・ははっ、なんか、初めて話すのに、イメージ通りだな」  
(え・・・そう・・・ですか?)  
「炎タイプは普通気性が荒いのに、オマエははじめて会ったガーディの時からおとなしくて、素直で・・・逆に心配したくらいだ」  
(そ、そうだったんですか・・・すみません)  
「ははは、あやまるなよ・・・そこであやまるのもイメージ通りだけどさ」  
犬の形をしているからか、性格も犬に似て、従順で賢く、そして人懐っこかったそのイメージと、今のウィンディの言葉はまるで寸分も違わないものだった。  
ずっと一緒に旅してきたパートナー。もう心が通じ合って、言葉なんかいらないと思ってたけれど、こうやって、言葉で互いの思いを伝いあえるのは、すごく・・・  
「・・・すごく、嬉しいよ。話せて」  
(・・・ボクもです。御主人様)  
 
目の前に、花が、一面に広がっていた。  
「ここが・・・」  
(はい。この前遊んでた時に見つけた、ボクの、秘密の場所です・・・御主人様にだけ、教えるんですよ?)  
急な斜面に囲まれた森、その片隅に、大きな花畑があった。人の足ではここまでは来られないだろう。まさにポケモンだけの、ウィンディだけの秘密の場所だ。  
そんな中に、唯一人間の俺が立っている(今は人間じゃないけど)そのことが、何か、「特別」という優越感を与えてくれる。  
俺は、突然、以前からやりたかったことをやろうと思った。以前ポケモン達がやってて、とても楽しそうだったこと。  
「よっ」  
花の絨毯の中に、思いっきりダイブ。そして、体の下敷きになってる花たちに心の中でゴメンを言いながら、仰向けになってゴロゴロ転がる。  
風にばっと花が散る。太陽の光が気持ちいい。思わずしっぽを嬉しそうにぱたぱた振ったりなんかして。こんな気持ち、人間じゃそうそう味わえないだろう。  
「・・・羨ましいなぁ、ポケモンは」  
(ボクたちも、人間が羨ましいことだってあるんですよ?)  
「うーん、それじゃあ、おあいこかな。ははは」  
などととても楽しく笑ってるときだった  
『だれっ!?』  
声が響いた。  
 
声が聞こえた方向を振り返る。見えたのは金色の炎。いや、違う。あれは炎のような黄金の体毛に覆われた・・・  
「・・・キュウコン?」  
『何してるの!?花が折れちゃうでしょ!』  
キュウコンがこちらに歩きながら怒った口調で・・・口調?  
「・・・うわぁ、キュウコンの言葉もわかる・・・」  
俺が呟くと、キュウコンは怪訝な顔をした。  
『・・・人の言葉を話す・・・ウィンディ!?』  
「ああ、いや、その、いろいろあって・・・まぁ、気にしないで。広い世の中、喋るニャースもいるって言うし」  
『・・・そう、でも、いくら人と話せるほど頭が良くなっても、花を大事にするくらいのことが出来なければ意味が無いわよ?』  
「あ・・・うん。ゴメン・・・」  
『わかったら早くここから・・・!』  
と、言いかけて、俺の顔を見てキュウコンが硬直する。頬が赤くなって、目が潤んで・・・俺がどうしたのか聞こうとすると  
(御主人様・・・あの・・・離れた方がいいです)  
「え?なんで?」  
(それは・・・その・・・)  
脳内での会話に気付くはずも無く、キュウコンが顔を近づけてきた。  
『・・・あなた・・・なかなか強そうね・・・毛並みもいいし・・・』  
「あ?ああ、そりゃ、セキエイで殿堂入りしたくらいだし体調とか気を使ってるし・・・」  
『そう・・・じゃあ、あなたでいい・・・ううん、あなたがいいわ。お願い・・・』  
「え?ええと、その・・・」  
さっきとはうって変わった甘えるような声で、キュウコンは言った。  
『相手・・・して』  
バトルのお誘いでないことはなんとなくわかった。・・・俺も、体が熱くうずき始めてたから。  
(・・・発情期、なんです・・・)  
頭の中で、ウィンディが呟いた時には、もう、手遅れだった。  
 
ぺろ、ぺろ・・・  
「うああ・・・あっ!」  
キュウコンの、雌の匂いを嗅いだだけで、触ってもいないのにはちきれんばかりに膨れ上がってしまった、  
その部分を、俺の前脚の間から体の下に、頭から潜りこんで、キュウコンが舐めている。  
人間の時に一人でいじってた時の数倍、数十倍・・・いや、比較にならないくらい・・・気持ちいい。  
ポケモンだからなのか、発情期だからなのかわからないけれど、こんなに気持ちいいなんて・・・さっきとは違った意味で、ポケモンが羨ましくなってしまう。  
思わず腰を振ってキュウコンの顔になすりつけると、彼女はそれを咥えて、時には優しく愛撫するように、時には激しく責め立てるように、舌を動かす。  
(あっ、ああ・・・んっ!ご、御主人様ぁ・・・ダメですよ、こんな、こんなのぉ・・・)  
「んな・・・こと言ったって・・・俺にも、もう、止められ・・・っ!」  
思わず、彼女にのしかかって、そのふさふさの9本の尻尾に顔をうずめて、匂いを嗅ぐ。  
『んっ!ちょっ、やだ、重・・・ひゃあっ!』  
お返しとばかりに、彼女の秘所に舌を走らせる。この体を動かしてるのが、ウィンディの本能なのか、それとも俺自身の欲求なのか、自分でももうわからない。  
柔らかい体毛に触れ、雌の匂いを吸い込み、秘所からあふれる液体をすするたびに、どんどん、彼女がいとおしくなっていく。  
 
・・・もう、ガマンできない・・・  
そう呟いたのは、ウィンディだったか、それとも俺だったのだろうか。  
キュウコンの上からどき、俺は彼女の後ろに回った。  
彼女は自分より一回りも二回りも大きい俺の姿を見て震えたが、それが恐怖からなのか歓喜からなのかはわからなかった。  
『ゆ・・・ゆっくり、してね・・・?壊れちゃうから・・・』  
そうできるかどうか、自信が無かった。もう理性で抑えられないほど、本能が大きくなっていたから。  
ず・・・っ  
できるだけゆっくり、腰を沈めたつもりだった。  
『・・・っあああ!ぐ・・・ひゃああ!!!』  
それでも彼女は嬌声交じりの悲鳴を大声で上げた。俺をくわえ込んだ秘所は、ぎしぎしと軋むくらいに。  
俺にとっても、痛いくらいにきつかった。だが、快感がそれを上回るほどにどんどん大きくなっていって・・・  
最初はゆっくりと、そして、だんだん速く、激しく、お互いに腰を振り始める。  
(あ・・・っ!あああっ!御主人様、ごしゅじんさまぁ!きっ・・・気持ち、気持ちいいですぅ!)  
「う・・・くうっ!俺も・・・もう・・・っ!」  
俺は人間であることを忘れて、もう完全に獣のように腰を振りつづけ、そして・・・  
・・・う・・・あああああああっ!!!  
キュウコンと、頭の中のウィンディの声と、そして俺の・・・二匹と一人の、いや、三匹の嬌声が重なって聴こえて・・・  
 
「・・・・・・あの・・・それ・・・ホント?」  
あれから一週間、元に戻った俺とウィンディは、ポケモンセンターのベンチで、表情を凍りつかせていた。  
『ええ、本当よ』  
目の前にいるのは・・・あのキュウコン。あれ以来懐かれてしまったので、あの後ゲットしたのだ。  
あの時ほどはっきりと判る訳でもないが、あんなことがあって・・・なんとなく、ポケモンの言葉がわかるようになってしまったらしい。  
それはそれで嬉しいのだが、今聞かされた言葉は、わからないほうが良かったような・・・  
「そ・・・「それ」が・・・そうなのか?」  
『ええ』  
彼女は風呂敷包みをくわえていた。それをそっと、まるで最高級のガラス細工でも扱うかのように優しく地面に置く。  
俺が恐る恐る風呂敷を開いてみるとそこには、衝撃吸収のクッションと一緒に・・・  
『ね?立派な卵でしょ?』  
「・・・・・・・・・・・・・・」  
絶句する俺とウィンディ。  
『それで、ウィンディの方を「パパ」、あなたの方を「お父さん」って呼ばせるようにしようと思うんだけど・・・どう?』  
ひとり嬉しそうに未来像を語るキュウコンを無視して、頭を抱えるように丸まってしまったウィンディ。  
俺はしばらく呆然としていたが・・・何か、無性に笑えてきた。別に、悲しいわけでも後悔してるわけでもない。  
「・・・ま、こういうのもアリかもな」  
 
おわり  
 

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