嗚呼。我が居城の屋根から望む空は、今日も青い。
清々しい朝だ。
腕に嵌った自慢の時計によると11時をとうに回っているので、昼と言った方が適切かもしれないが。
首を鳴らして自分が何をしていたかを思い出す。
……ああ、そうだった。
俺は、深夜アニメを久々にリアルタイムで見た後、
眠い中自慢のジムの屋根の塗り替えをやって、そのまま眠ったんだった。
アニメが終わったのが2時を過ぎていたから、
眠りに入ったのは4時頃だろうと素晴らしき俺の頭脳がはじき出す。
どうりでこれまた自慢のコートに白いペンキがベッタリこびり付いている訳だ。
……どうしようかこれ。
中々落ちないんだよなペンキって。
結構高かったのに。挑戦者五人位から賞金奪ってやっと通販で手に入れたのにな。
ああ、今月も財政は素敵な事になりそうだ。
下の門下生から電気代何とかして下さいなんて声が聞こえる気がするが幻聴だ。
「リーダー!客人です!」
誰だろうか。門下生の着ぐるみ幼女の声がする。
挑戦者ならそう呼ぶ筈なので、そうでは無い事が分かる。
……ああ、またあいつか。
白く染まったコートは諦めて脱ぎ捨てて、下に向かうとしよう。
「本日は、お招き頂き有り難う御座います」
招いて無いから。うん。招いてないよ絶対。
また来やがったよデコ女。
何でも半月程前から修行の為にわざわざジョウトからだそうだが、俺に言わせればただのアホだ。
こんな北の端っこの街まで来て、得る物なんて無いだろ常識的に考えて。
にしても、どうやらこいつには自分の頭の中の記憶を自分に都合の良い様に捏造する特殊能力があるらしい。
このデコ女曰わく、
『デンジさんが昨日何回もメールでジムに来る様誘ったんじゃないですかぁ!』
だそうだ。こいつの言ってる送信時間には、俺はニコニコにうpする為のMAD作ってたからまず有り得ない。
今日は何の様だ。
「実は……デンジさんに見てもらいたい物があるんです」
見せたい物?……こいつの事だから大した物じゃないんだろうが……。
「いいぜ。見せてみろ」
やっぱ気にはなるわな。
「はいこれ。私からデンジさんへ心を込めて綴ったお手紙!
「いらん」
なんだそりゃ。一瞬でも期待した俺の馬鹿め。
「ほ、他にもあるんですよっ!
じゃーん!『ねぎま!明日菜ぽっかぽか添い寝シーツ』!」
何故これをこいつが持っている。
俺のジム名義で頼んだヤツは、例の『箱に思いっ切り書いてあるやん騒動』によって
受け取った門下生の塾帰りが「私という者が有りながらっ……」とか何とか涙を流して抱きついて来たので、捨てるハメになったと言うのに。
「……ど、どどど何処でこれを……?」
「下宿の前に置いてあったんです。欲しいんですか?」
俺のだ。俺のもんだ。俺は毎日これで明日菜と添い寝するのだ。
結構高かったのだ。俺の物に違いない間違いない。
――と決まれば取るべき行動は一つ。
「寄越せェ!つーかむしろ返せェェェエ!」
「キャッ!」
テーブルがどんがらがっしゃーん。
灰皿とコップは割れちまったか。
にしても、相変わらずまな板だなデコポンめ。
俺はもっと大きいのが好きなのだ。スズナとかメリッサとかスズナとか。
昔、例の塾帰りに俺の好みを聞かれ、今と同じ事を答えたら
愕然とした顔で走り去って行ったのを思い出す。
ごめんな。乳は男のロマンなのだよ分かってくれ。
あと5年までなら待ってやるぞ。
……現実逃避失敗。何で顔を赤らめるんだデコポンめ俺はロリコンじゃない上広いデコ愛好者でも無いぞデコポンめ。
何で目逸らして「優しく……お願いします」なんて言っちゃってるのだデコポンめ。
以下の思考に要した時間約5秒。
さて、とっとと明日菜を返して貰って訳の分からん期待を抱いてるデコを追い出すか。
「ういーっす。デンジー、いるかー?」
頭の中で、最強○×計画の歌い出しのメロディでこの不愉快な客の名前が流れた。
お・ぱ・ぱ・ぱ・ぱぱっぱ♪と。