『あ……あの、はじめまして。新しいジ、ジムリーダーの方……ですよね?』
就任したての頃だったな、初めて会ったのは。そのときのお前は
先輩のリーダーのくせして、俺を見るなりまるでお化けに出くわした子供のように震えてたんだよな。
『……ああ、俺はエンジュのマツバ。よろしく頼むぜ』
思えばそのときからかもしれない。ミナキの言葉を借りるなら、いわゆる―――― “一目ぼれ”って奴だったんだな。
マツバxミカン
エンジュジムの最奥にあるリーダーの間で、当の本人であるマツバはしずかに瞑想を行っていた。
瞑想とは心を落ち着かせるにはもってこいの修行だが、では、なぜ彼は瞑想を行っているか、
それは昨夜――夢の中に『彼女』が現われたせいで、今日、マツバの心は朝からわずかに高鳴りを覚えていた。
「(いや――)」
マツバは、そこではっとした。
「(今日だけじゃあない……か)」
そうなのである。思えば彼女が修行のためと言い、ジムに休業届けを出してどこか遠いところに行ったとき、
名残惜しそうな笑顔を浮かべた彼女を見送った時からずっと、彼女はマツバの潜在意識に現われていた。
しかし、今日のは違った。
何時もよりはっきりと彼女の姿が映り、その屈託の無いきれいな笑顔が俺の目に栄えた。
間違いない! と俺は確信を持った。彼女は今日、帰ってくると。
我ながら卑しいことに、彼女を迎えに行く準備はすでに万端整っている。
後は自らの脳奥にイメージが流れるのを待つだけだが、果たしてそれは本当なのかと今更ながらに自らに問う。
確かに自分には千里眼という人様から見れば便利なものがある。
何せ数キロはなれてようが、数十キロ離れていようが探したいものを見つけ出せる能力。
(それゆえに人から嫉まれたり奇異の目を投げかけられた事もあったが今となってはどうでもいい)
ただ問題が一つ、それが“他人が望むもの”に限られていたことだ。
その証拠に、どれだけ強くホウオウとの面会を望んでも、
イメージとして脳裏に現われるのは、思いをあざ笑うかのように流れるノイズと真っ暗な闇だけだった。
皮肉なことに、己が為に鍛え上げたはずの力は、自分にとってなんの意味の無いものであった。
だから不安になった。
もしかしたら、彼女が帰ってくるというのは俺のくだらない妄想で、自己満足なのかもしれない。
集中できない。落ち着かせるようにと暗闇の風景に身を投じたことによって、逆に心がばらつき始めている。
感じたことの無い焦りに、額から流れた一滴のしずくが地に落ちた――――
「!……見えた!」
マツバは思わず目を見開いた。殆ど、反射的に。
ほんの一瞬、だが確かなイメージが通った。もうすぐアサギの港に船が着く、それに彼女は乗っている……
アサギに向かうために飛び出した手足は、実に軽快に進んだ。
我ながら卑しいことに、彼女を迎えに行く準備はすでに万端整っている。
後は自らの脳奥にイメージが流れるのを待つだけだが、果たしてそれは本当なのかと今更ながらに自らに問う。
確かに自分には千里眼という人様から見れば便利なものがある。
何せ数キロはなれてようが、数十キロ離れていようが探したいものを見つけ出せる能力。
(それゆえに人から嫉まれたり奇異の目を投げかけられた事もあったが今となってはどうでもいい)
ただ問題が一つ、それが“他人が望むもの”に限られていたことだ。
その証拠に、どれだけ強くホウオウとの面会を望んでも、
イメージとして脳裏に現われるのは、思いをあざ笑うかのように流れるノイズと真っ暗な闇だけだった。
皮肉なことに、己が為に鍛え上げたはずの力は、自分にとってなんの意味の無いものであった。
だから不安になった。
もしかしたら、彼女が帰ってくるというのは俺のくだらない妄想で、自己満足なのかもしれない。
集中できない。落ち着かせるようにと暗闇の風景に身を投じたことによって、逆に心がばらつき始めている。
感じたことの無い焦りに、額から流れた一滴のしずくが地に落ちた――――
「!……見えた!」
マツバは思わず目を見開いた。殆ど、反射的に。
ほんの一瞬、だが確かなイメージが通った。もうすぐアサギの港に船が着く、それに彼女は乗っている……
アサギに向かうために飛び出した手足は、実に軽快に進んだ。
マツバがアサギについたのと、船が港に止まるのはほぼ同時だった。
「(間に合った――――)」
息を切らす中、心に安堵の息が漏れる。
彼は決めていた。彼女を知るものの中で、自分こそ最も早く彼女に会おう、一番に話そうと
普段の彼からしてみれば、かなりむちゃくちゃな事だと思えたのだろう、
しかし幸いなのか、今の彼にはそれすらもできるんじゃないのかと思うほどの目に見えない自信があった。
それからマツバが走った場所は、港ではなかった。駆け寄ったのは、その隣に聳え立つ灯台。
彼女はまずここに来るだろう、なぜなら、ここは彼女にとって、大切な場所だから。
「あっ、見えた見えた。よかった、何も変わらないままで……」
足音と、やや遠慮気味な声が近づくのがわかった。
それが彼女のものだということも、マツバは即座にわかった。
期待に震える体を、足を、彼は言い聞かせるように静まれと願う。
「あれ? 誰かいるのかな?」
やがて一つの影が姿を現した。
マツバは両目を閉じていたが、影が彼女であることに何の疑いも持たなかった。
影が口元に手をやった“驚き顔”で自分を見ているのが手に取るようにわかる。
「ミカン……久しぶり」
うっすらと目を見開いたすぐ先に、夕焼けに染められた髪を持つ可憐な少女がマツバの顔を
びっくりした顔でありながらも、見つめていた。