川が流れている。
しかしその川は夜のせいもあり、黒く見えた。
だが例え黒くても、流れる音とわずかな揺らぎが風物を醸しだしている。
その川の近くでは、子供が何回か連続で息継ぎをしている声が聞こえた。
その少年は息を荒げ、必死に女性の名前を言い続ける。
「くっ、いい、いいぞカスミ」
少年は竿を握り、上下に動かしている。時には力を入れ、時には力を緩め、リズム良く竿を扱っていた。
その動作は少年の感情を高ぶらせ、より一層その動作を速く動かしてしまう。
「くっ、うっ、カスミ。もう、もう俺、我慢できねぇ!」
限界を感じた少年はその動作にスパートをかけた。
「んっ、くっ、あっ・・・くああああああああああああああああっ!!」
「釣れたぞ、『テッポウオ』だ」
マサラタウンから旅立った少年―――サトシは『いいつりざお』を使って見事にテッポウオを釣り上げたのだ。
「結構てこずったけどな。でも良かったぜ、この『カスミスペシャル』のおかげで一発目でテッポウオが釣れたもんな」
隣で見守っていたピカチュウはもう付き合っていられなかったのか、体を丸めて寝ていた。
サトシはハハハ、と冷や汗を流し、もう一度カスミスペシャルを見た。
「・・・ありがとな、カスミ」
数年の付き合い、それは、タケシの次に長い付き合いだった。今どうしてるんだろう、とサトシは思い、雲ひとつないきれいな星空を眺めたのだった。
おあとがよろしいようで。