そのジムは、不気味さを醸し出していた。  
ヤマブキシティという全国屈指の大都会にありながら、周囲にあるのは格闘道場のみ。  
外観はどこか薄暗く、四方無機質なコンクリート壁には蔦が生い茂っている。  
複雑かつ難解なワープシステムは、トレーナー達を精神的にも肉体的にも追い詰めて挫かせ、よしんば目的の部屋-----ジムリーダーのもと-----に辿りつけても、そこに待つのは、冷徹なエスパー使い。  
完膚なきまで叩きのめされるのが関の山なのだ。  
そんな訳で、ポケモンリーグを目指す者たちの間では「鬼門」と恐れられている。  
・・・の、だが。  
「たのもー!」  
威勢の良い声が響いた。  
ジム内に張り巡らされたワープを最短記録で制覇した少年---レッドは、外の世界を遮断するかのように仕切られた鉄扉の前に立っていた。  
待つこと、数分。  
---------ゴゴゴゴゴ・・・ッ。  
重々しい音を立てて扉が開かれる。しかし、現れたのは漆黒に包まれた空間だった。  
「・・・・また、お前か」  
同時に聞こえる、ハスキーな声。  
「うん、『また』僕だよ。勝負を申し込みに来たんだ。いいよね?」  
レッドの会話相手の正体をその辺のトレーナー達が知れば、それこそ震え上がるだろう。  
挑戦者という立場を全くわきまえていない少年の口調に、未だ暗闇から姿を見せない少女----ナツメは眉を微かに顰める。  
・・・彼女のこんな表情の変化は、非常に珍しいことである。  
「お前は既にゴールドバッジを手に入れた。今更、何の用がある」  
「んー・・・、なんとなく」  
「帰れ」  
「なんでさ。ちゃんとジムの人とも戦って勝ってきたんだよっ」  
「・・・・・」  
「ジムリーダーに、挑戦を断ることは出来ないよね」  
幼稚で無鉄砲なくせに、こんな知識だけはどこからか仕入れている。  
協会で定められた規則を持ち出されては、ナツメもおいそれと追い出せなかった。  
ナツメは切れ長の美しい瞳を更に細めて、レッドをぎろりと睨みつけた。自分に刃向かう者を凍り付かせる様な鋭い視線。  
これで大概の者は震え上がり去っていく。  
 
だがレッドはというと、そんな凄みも意に介さず、無邪気に微笑むだけ。子供は時として命知らずだ。  
暫くして、小さなため息がひとつ。  
「・・・・・・・・来い」  
「え?」  
「さっさと来い。始めるぞ」  
「いいの?」  
これ以上は時間の無駄だ。とっとと終わらせて満足させて、そして叩き出そう。  
レッドの問いに対する答えとして、ナツメはモンスターボールを放った。  
飛び出してきたのは、ナツメの切り札的存在のフーディン。超能力に目覚めた時からずっと一緒で、最も信頼しているパートナーでもある。  
スイ、と音もなくフィールドに降り立つナツメ。同時に照明もつき、彼女の美貌も明らかになる。  
幽鬼のような青白くすら感じる肌に、腰まで伸びる黒髪。冷ややかな切れ長の瞳に、柳のようにすらりと美しい眉。  
これで愛想(と性格も)がよければ・・・、と誰もが悔やむ程の美女だ。  
「よーし、いけ!リザードン!」  
意気揚々とした声と共にフィールドに現れたのは、少年の相棒、リザードン。轟く雄たけびとその尾に宿る豪火は、レッドへの忠誠の現れである。  
両者が向かい合う。  
ナツメは呆れも混じった無表情、対するレッドは戦いへの興奮と好奇心に溢れた表情で--------------  
 
記念すべき十回目のジムリーダー戦が、幕を切った。  
 
 
 
 
「でね、そこの園長さんが面白いんだ。ポケモンで言うならねー・・・んーヤドンかな。  
 ほんとにそっくりなんだよ」  
「・・・・・・・」  
「んで、サファリパークで入れ歯探してあげたんだ。でもご褒美に秘伝マシンなんか貰えちゃったからラッキーって」  
「・・・・・おい」  
心底不機嫌な声。勿論、声の主はナツメだ。  
「ん?」  
「・・・勝負が終わったらさっさと帰れ。ここはお前の休憩所ではない」  
結局、戦いはレッドの勝利で幕を閉じた。  
今回もナツメの負け。  
十戦全敗、というジムリーダーとして不名誉な記録を更新してしまったのだが、  
今重要なのはそんなことではない。  
 
この少年はいつまで居座るのか。  
とっとと追い出そうと考えたナツメの意に反して、疲れた様子も見せないまま突然旅の土産話を始めだしたレッド。  
彼の本題は、勝負よりもコチラらしい。  
話し始めてかれこれ三十分にはなる。ナツメはその間何度も口を挟もうと試みたが、全く取り合おうとはしないのだ。  
「いいじゃんか。初めてでもないんだし」  
「そういう問題ではない」  
「話、面白くない?」  
「・・・・・・・・」  
 
あまりの会話の噛み合わなさに、思わずこめかみを押さえる。  
そう、レッドが戦いの後居座るのはこれが初めてではない。十回目。つまり毎回のことだった。  
最初こそ念力を使ってでも叩き返そうとしたナツメだったが、結局その無邪気な笑顔に中てられて、寸前のところで自制してしまった。  
そして二回目、三回目、四回目・・・と重なるにつれて、何故か何度も訪れるレッドを拒めなくなっていった。  
先ほどのようにどれだけ構えていても、最終的にはこうやって押し切られて居座らせてしまう。・・・レッドも恐らく、ソレを分かっているのだろう。  
「あ、今度サファリでポケモン取ってきてあげる。何がいい?」  
まるで、弟が姉に向けるような視線。いや、子供が母親に、にもとれる。  
ナツメ自身、自分に幼子が懐く様な母性があるとは思っていない。もしもレッドが母親恋しさに、年上のナツメのもとを頻繁に訪れるのであれば・・・、  
そう、タマムシのエリカ辺りを頼るべきだろう。  
「お前」  
「レッド、だよ」  
「・・・どうでもいい。何故、何度もやってくる。一度目以降の挑戦に、何の意味も無いぞ」  
ジム戦に至っては、一般のトレーナー戦と違って賞金も出ない。得られるのは経験地位だ。  
それなら、少年のレベルであればセキエイリーグ辺りをうろちょろしていればいい。  
「うーん・・・」  
腕組をして、大げさに考える振りをするレッド。  
(・・・やはり、『なんとなく』か?)  
戦う前の会話を思い出す。もし本当ならば、相当の暇人だ。  
「ナツメさんが、好きだから」  
不意打ちの一言。  
「なっ・・・」  
突然の愛の告白ともとれる言葉に、ナツメの心臓が高鳴った。  
頬がカッと熱くなっていき、その白い美貌に僅かに朱がさした。  
子供子供だと思っていた少年の『男』を感じさせる目が、この冷たい美女を動揺させた。  
「な、にを・・・」  
「へへへっ」  
「・・・は?」  
だがレッドはすぐにその顔を無邪気な子供のものに戻して、悪戯っぽく笑った。  
「なーんてね!びっくりした?」  
つまり、レッドはナツメをからかったのだ。  
「・・・・!・・・・お前っ!!」  
「ぅわわわ!?ちょ、ちょっ、ナ、ナツメさん!!?」  
激昂したナツメの声と同時に、レッドの体が宙に浮いた。  
顔がまだ朱に染まった----半分は怒りによって----ままのナツメの細く白い指が、レッドに向けられた。  
ナツメの得意技、強力な『念力』である。  
「ご、ごめん!ごめんなさい!!ねぇ、降ろしてっ・・・」  
「・・・・あまり調子に乗るな。悪ふざけも大概にしろ」  
「だ、だって、ナツメさんが可愛かったから、つい・・・わーーーっ!たっ高いって!!」  
「まだ言うか!」  
ギュン、と少年の体が天井近くまで押し上げられた。地面との距離は約十メートル。  
つまり、このまま落とされたら確実に、死ぬ。  
だがナツメの邪気すら滲む様な睨みも、頬の赤さがその効果を半減させている。  
「ほ、ほんとだってば!信じてよぉ!」  
どうやら本当にナツメを怒らせてしまったらしい。レッドは空中で必死に誤りながら、遅すぎる後悔をした。  
 
(・・・これがカスミやエリカさんだったら、こんな風にならないのに・・・)  
もしも同じことを二人に言ったなら。  
エリカは、「まぁまぁ、お上手ですこと」と優雅に微笑んで終わるだろう。  
カスミなら、「アリガト。でもこの私と付き合いたいなら、もっとイイ男になりなさいよ」とか言って切り返す余裕も見せるだろう。  
でも地上でこちらを睨みつけながら、尚もその指を下ろす気配も見せない美女は違ったみたいだ。  
(でも、ホントなのになぁ)  
確かにからかいもちょっとあったけど、ナツメが好きなのも可愛いと思ったのも全部本当のことだった。同時に、少年がわざわざこのジムに足を運ぶ理由でもあった。  
いつもは天真爛漫で自己中心な少年は、宙吊りの様な格好で浮かびながらシュンとなる。  
 
それを見上げるナツメ。  
何故自分がココまで腹を立てるかは分からない。高いプライドが、年下の少年からからかわれたことによって傷つけられたからだろうか。  
沈黙が流れる。  
「・・・からかって、ごめんなさい」  
レッドの本心からの謝罪。  
「フン・・・」  
どこか複雑な思いを抱きながら、ソレを聞いたナツメはゆっくりとレッドを降ろそうとした。だが。  
グラッ。  
「えっ?」  
「ん・・・?」  
あと四メートル、というところにきて少年の体が宙で大きく揺れた。  
ナツメの普段冷静な心が大きく乱され、精神統一が完全でなかったせいだ。そして、最悪の事態が起きた。  
「わーーーーーーーーーーーーっ!!」  
突然金縛りが解けたかのように自由になったレッドの体は、そのまま重力に従って垂直に落下していく。手足をバタつかせるがどうにもならない。  
「・・・・・・・っ!!」  
ドサッッ・・・!  
「むぎゃっ!」  
「っつ・・・!」  
レッドの体は、いつまでたっても地面に接触しなかった。  
恐る恐る目を開けると・・・視界には、大きな丘が二つ。  
「あれ・・・?」  
なんか柔らかい。そして、良い匂いがした。  
「・・・どけ。お、重い・・・」  
「あっ・・・」  
レッドの体は、彼女に抱きとめられていた。  
いや、正確には『抱きとめようとしたがレッドの体の重さと衝撃が予想以上に大きく、そのまま二人重なるように倒れこんでいた』。  
「ご、ごめん!」  
さっきから謝ってばかりの少年は、下敷きにしていたナツメを気遣った。  
そもそも普段から超能力に頼った生活を送り滅多に運動しないナツメに、人間の体を抱きとめるなんて無理だ。  
でも、頭よりも先に体が動いてしまっていたのだ。  
「いい。どこも、怪我などしていない」  
レッドの手を払い、立ち上がろうとする。  
「でも思いっきりぶつかったし・・・どっか強く打ってるよ、絶対」  
レッドがその手を、この場合はなんの悪意も無く、ナツメの体に伸ばして・・・。  
むにゅ。  
-----ナツメの胸に触れた。  
 
「--------あっ!?」  
いつもより一オクターブ程高い声。  
電流を流したような、痛みを伴う快感。  
「えっ?」  
突然身体を震わせ反応したナツメに、レッドが声を上げる。  
「ここ、痛いの?えっと、ココ、おっぱい?」  
「ち、違っ・・・!」  
「でも、ホラ」  
むにっ。  
「んんっ!!」  
「やっぱり痛そうじゃないか。・・・マッサージしてみるから、痛かったら言って」  
さっきよりも、更に強く揉まれ-----少年にしてみれば『怪我をしていないか確かめる』行為だが-----、冷徹なはずの美女は力なく座り込んでしまった。  
「おっお前、いい加減に離せ!」  
「痛いの?」  
「そうじゃないっ!」  
「じゃあ、嫌だ」  
「なに!?」  
「だって、僕が上に落ちたからおっぱい怪我したんでしょ?なら、僕が介抱しなきゃ。  
 あと他に痛いとこ、ない?」  
「どこも、い、痛くなんか、ぁっ・・・、ない!離せ!」  
「じゃあ、何でそんな声出すんだよっ」  
ナツメの胸に触れたまま、というのが何ともマヌケに見えなくも無いが、レッドの目は真剣だった。  
もとはといえば自分の軽口のせいだという少年なりの罪悪感の中、本当に彼女を心配しているのだ。  
-----弱冠十二歳のレッドに、痛みによる叫びと快感による嬌声の区別などつかない。  
馬乗りになってナツメの返事を待つレッド。  
その下で彼の身体を押しどけようとするのも敵わず、されるがままのナツメ。  
(分かって、くれたのかな?)  
やがて自分の言い分が受け入れられたと勘違いしたレッドは、動きを再開した。  
「はっ、やめ・・・っ、ぁあ!んっ・・・」  
その手に収まりきれないパンパンに張った乳房を、力を調節しながらこねる様に揉みしだく。  
レッドの動きに従い、淫らに形を変えていくナツメの双丘。  
技巧など知る由も無い少年の、力任せな愛撫。  
「くぅっ、んっ、んんっ・・・」  
真摯な(例え方法が間違っていても)思いに押されて反論できなかったコトを悔やみながら、年上のジムリーダーは一抹のプライドで声を抑えようと食いしばる。  
だが、予想以上の快感が口から息と共に声を漏らせた。  
ジムトレーナー達がこんな有様を見たら、どう思うだろうか。  
最悪、ジムを畳んで放浪する他ないだろうな。  
念力でしくじるなんて、まだまだ修行が足りないな。  
そんなことを考えて、快感に押し流されそうな身体に抗おうとするかのように、意識を逃そうとする。  
 
男に触れられたことなど、今までなかった。  
幼いころから人とは違う異質な能力を発揮し、果ては若くしてジムリーダーに迄登りつめた彼女に言い寄る男は、少数だった。  
少数というのも、その美しさに中てられた者たちばかりだったが。  
そんな信念も持たない、美貌や快楽への憧れしか頭に無い連中なんか相手にするはずも無い。  
時にはその鋭い眼光で退け、超能力で恐怖を植え付け・・・彼らが唯一ナツメと渡り合えると信じて疑わなかったポケモン勝負で完膚なきまで叩きのめしてやった。  
 
「腰は・・・打ってない?」  
「はぁ、ん・・・打ってなんか、ないっ。そもそも・・・っん!」  
気付けばジムに付いた、「鬼門」の名。  
いつの間にか、張り巡らせたワープシステムは、ナツメの心を-----超能力に対する心無い言動により傷ついた心を-----表すようになった。  
-----では、何故?  
「ひっ・・・!?お前、なにしてっ、る!」  
「あ、ほんとだ。痣はついてないね。良かった」  
服をたくしあげて、彼女の言うことが本当か確かめるレッド。本当に命知らずである。  
外の空気に晒された、陶磁器のような白い肌。  
腰のくびれは美しい、文句のつけようが無いほど綺麗な曲線を描いていた。  
レッドの手が、擦るように触れた。  
それに反応する下半身。徐々に熱を帯び始めたソコが、ナニかを求めて疼き始めていた。  
「さっ、触るなぁ・・・っ」  
「あ、ゴメン!」  
語尾の弱々しい、掠れた声。  
-----こんな子供に、好き放題させているのだろう。  
-----怪我をさせることも承知で、また念力で跳ね飛ばせばいいのに。  
-----他の、奴なら。  
全国を駆け巡り、冒険を重ねてきた少年の手は、ゴツゴツしていた。  
ナツメの細く白い手とは、明らかに違う。力強い『男』のモノ。  
その手が、ナツメの身体を這っていく。  
首、鎖骨、胸、腹、腰。レッドは自称マッサージを隅々にまで行った。  
ナツメは触れられる場所が熱を持っていくのを感じながら、微かな声をあげることしかできなかった。  
 
そして。  
「----うん。もう大丈夫かな」  
何を根拠にか、ふう、と汗を拭うレッド。  
「・・・・・・っ」  
大丈夫なものか・・・・!!  
胸を押さえ未だ呼吸の整わないナツメは、ようやく終わった快感に安堵しつつ、馬乗り状態のレッドを上目に睨みつけた。  
(あのまま、落とすべきだった・・・!)  
そんな不穏な考えすら頭をよぎる。  
(それにしても、こんな・・・ことが)  
愛撫のみを延々受け続けた身体は、彼女の意思に反して熱くなっていた。  
自分にもあった、オンナの本能。男に愛撫されれば濡れる、生理現象。  
無縁だと思い込み、軽蔑すらしていたものが、自分に訪れるなんて・・・。しかも、この少年の手によって。  
軽いショックと自己嫌悪状態に陥ったナツメは、ふと気付く。  
「・・・・・・・・」  
 
レッドの様子が、変だ。いや、もともと変ではあるが。  
「ナツメ、さん」  
レッドがさっきとうってかわった、熱に浮かされたような瞳で見つめてくる。  
「な、なんだ。・・・早くどけ」  
もう怒鳴る気力もなかった。  
「なんかさ、変なんだ」  
「・・・知らん。いいから早」  
「腰が、変」  
言葉を遮って、レッドが腰をグイと突き出した。  
「熱くなって、その。こんな風に・・・」  
「---------!!」  
ジーパン越しにもはっきり分かるような、勃起した股間。  
幼いとはいえ、男。  
やましい思いはなかったものの、やはり異性の乱れ姿に知らず身体が興奮していたのだ。  
 
上気した肌に、はだけた服。荒い息に、潤みながらも弱々しく睨んでくる切れ長の瞳。  
興奮しない男のほうが、稀とも言えるだろう。  
(これが、男の・・・)  
---------ちぐはぐな行為の中、お互いの本能はしっかりと反応し、交わりへの準備をきちんと整えていた。  
二人の、特にナツメの意思とは裏腹に。  
 
 

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