「んん……ん……」
目の前にぼんやりと天井が見える。
しかしその天井はいつもの見慣れたアジトのものでは無い。
「ここは……、そうか……」
オレは朦朧とする意識の中、自分が捕虜としてここへ連れて来られていた事を思い出す。
ナツメへの憎悪から散々床に八つ当たりをした後
疲れ果ててベッドで眠ってしまったらしい。
「――今……、何時だ?」
部屋に備え付けのシックな振り子時計で確認すると、午後8時を回ったところだった。
この部屋に案内されたのが昼の12時頃だったから、8時間は眠っていた事になる。
どうりで部屋が暗いワケだ。オレは壁にある照明のスイッチを入れる。
しばらく間を置いた後、部屋の中がほのかなオレンジ色の光に包まれた。
「腹減ったなぁ……」
ベッドに腰を下ろしたところで、自分が夕食はおろか昼食すら取っていないことに気づく。
オレには食事が出ないのだろうか? いや、いくらなんでもそれは有るまい。
飢え死にさせてしまうのであれば初めから捕虜になどする必要は無いのだから。
「おい、夕食だぞ」
そんなことに思考を巡らせていると、予想通り扉をノックする音が聞こえてきた。
「待ってました!」
廊下から扉が開錠される音が聞こえ、盆を持ったナツメが部屋に入って来る。
「ここに置いておくぞ」
ぶっきらぼうに言い放ちテーブルの上に盆を置くナツメ。
空腹の状態である為か、ナツメの態度はそれほど気にならず、
オレは嬉々としてテーブルの上に置かれた盆に近づいて行く。
「さぁて、ここの飯はどんな――」
――そこでオレの思考が一旦停止する。
……あれ? 飯……だよな?
盆の上の食器に入っている物にオレの目は釘付けになる。
いくつかある食器に盛られているのは全て茶色く濁った水……。
そう泥水にしか見えないのだ。いや、『泥水にしか見えない』ではなく、
これは『全て泥水』と言った方が正しい。
「おい! ちょっと待てよ、ナツメ!」
オレが呼び止めると、部屋から立ち去ろうとしていたナツメが振り向き、
こちらを睨みつけてきた。
「あ……いえ、ナツメさま……」
うう……、情けない……。
「何かあったのか?」
「何かありましたよ! ホラ、見て下さいコレ!」
オレはナツメの眼前に泥水の入った食器をズイッと差し出す。
ナツメはしばらく食器の中に目を落とした後、無表情のままオレの顔に視線を戻した。
「どうかしたか?」
「ど……どうかしましたよ! コレ、泥水じゃないすか!」
ふざけるなこの女! 自分で持ってきといて気づかないわけねーだろ!
オレは怒鳴りつけたくなるのを必死で堪え、あくまでも冷静さを保とうとする。
「さぁな……。私は給仕長に渡された物を運んできただけだ。
おまえの食事の献立など興味は無い」
そう言うとオレに背を向け再び部屋から立ち去ろうとする。
「な……何だその――」
「そうそう」
ナツメはオレに背を向けたままピタリと足を止める。
「今回のテロの被害者の中に給仕長の孫たちも居たそうだ」
「は……?」
「まだ年端もいかない小さな兄妹だったらしいぞ」
その言葉でオレはすべてを悟る。この仕打ちは給仕長からの……オレに対する復讐だと!
「――こ……こんなところで……」
オレは握り拳を小刻みに震わせる。
「こんなところで飢え死にしてたまるかァァァァッ!!」
オレは盆の上にあるナイフを疾風の如く掴むと
すかさずナツメの背中に向かって切りかかった。
「うぉぉぉぉッ!!」
「学習能力も無いのかこのエイパムは」
「ぐぅッ!」
ナツメの背中まであと数センチというところでオレの体はピクリとも動かなくなる。
間違いない、ヤツの能力だ。
「ぐおッ!」
身動きの取れなくなったオレの腹に向かって容赦なくナツメの蹴りが叩き込まれた。
その勢いでオレは後方のベッドの上に仰向けに倒れる。
「――い……いてぇ……、ひぃッ!」
次の瞬間オレの喉元に冷たい刃が突きつけられる。
しかも突きつけている張本人は他ならぬオレの右手だ。か……体の自由が利かない。
「そのまま自らの手で……」
ナツメが仰向けになって身動きの取れないオレの上に覆い被さって来た。
「喉をかき切り、おまえが殺してきた者たちに死をもって償うのもいいんじゃないか?」
ナツメはオレの顔を覗きこみながら、ゆっくりと頬に指を這わせてくる。
「バ……バカッ! やめろッ! や……やめて下さいッ!」
ちくしょう、死にたくねぇ。必死にナイフを投げ捨てようと、もがいてはみるものの、
オレの右手は喉元に刃をあてがったまま小刻みに震えるばかり。
やがてそれに耐え切れなくなった自分の目に熱いものが溜まってくるのを感じる。
それを見たナツメが嘲るように含み笑いを漏らした。
「フフフ……、これは意外だな。
てっきりロケット団には血も涙も無いものと思っていたが……」
オレを嘲笑するナツメの顔は今までに見たことが無いほど嬉々としている。
「涙があるのならば人間としての本能もあるはずだな?」
そう言ってナツメはオレの下半身に指を滑らせ、
人体で最も男を意識させるであろう場所へと指を這わせてきた。
そのまま乱暴な手つきで弄んでくる。
「ちょ、やめろ! 痛っ!」
「おまえの様なベトベター同然の男にはこれくらいが丁度いい。
それとも直に触ってほしいのか?」
「だ……誰がそんな事言った! とっととオレの上から降りろ! うぐ……」
「――おまえはまだ自分の立場を分かっていないようだな」
先程から徐々に力の抜けていたナイフを持つ右手に再び力が込められ、
首筋にひんやりとした感覚が蘇る。今のオレはコイツに逆らえる状態では無い。
コイツの気まぐれ1つであっさりとオレの人生に終局をもたらす事が可能なのだ。
「口では何を言おうと体の反応は正直なものだ」
ナツメは乱暴に扱っていたオレのキノココからそっと手を離す。
そこで初めて自分の体の変化に気がついた。
ズボンの上からでもはっきりと確認出来るほど形を変えたキノココ。
こんな女に言い様にされ、悔しさに涙さえ流した自分の感情とは裏腹に
しっかりキノガッサへと進化してしまっていたのだ。
「まったくもってお笑いだな。
どんなに私を憎み、殺したくなるほどの憎悪を募らせようともこれが真実だ」
言いながらナツメはオレのズボンを下ろしてゆく。もう抵抗する気力すら失せた。
オレの言葉はすべて強がりから発せられたものであると
目の前の真実に暴露されてしまった。
下着まで脱がされ、ナツメの眼前にいきり立ったキノガッサが曝け出される。
「醜悪だな……。まるでおまえの心そのものだ」
ナツメはソレをまじまじと観察し、軽く指を這わせ、
そのまま片手で握り締め上下に扱き出す。
「あ……ぐ……」
もはや快感の呻き声を押し殺す事もままならない。
オレは素直にナツメの責めに順ずる事しか出来なかった。
しばらくしてナツメも自分の下着を下ろし始める。
「殺したいほど憎い相手に体を曝け出し、心の内さえも暴かれる。
下賎で猥雑で卑劣なロケット団の男の末路としてこれ以上相応しいものは無いな」
オレのキノガッサを握り締め、軽く自分の秘部にあてがうナツメ。
そのまま亀頭が軽く秘部に触れるようにクチュクチュと擦り付ける。
「あ……うあ!」
その焦らすような行いに堪らず裏声が出てしまう。
「何だ、そんなに入れたいのか?」
ナツメは軽く頬を紅潮させているが、それでもなお意地の悪い笑みを崩さずに尋ねてくる。
我慢の限界だった。今のオレの理性など吹けば飛ぶような軽さだろう。
「い……入れたい……」
そう小さく呟いた。
「聞こえないぞ?」
「お、お願いします! ナツメさまの中に入れさせて下さい!」
今度は大声で叫んだ。意地も、プライドもかなぐり捨てて……。
「――よく言った。ホラ、褒美をやるぞ!」
そう言ってナツメは勢いよくオレのキノガッサに向かって腰を落とした。
その瞬間オレの脳内にピカチュウに撃たれたような衝撃が走る。
同時にオレの右手から突然力が抜け、持っていたナイフがベッドの下に落ちていった。
「ああぁぁぁぁッ!!」
体中を駆け巡る未知の快感に、オレは堪らず身悶えする。
しかしそれ以上に驚くべき事があった。
「ひああぁぁぁぁッ!! ス……スゴ……い……、こんなに硬くて……はぁッ!」
ナツメが……今まで見せたことも無いような無防備な顔で、
先程までとは明らかに高さの違うソプラノボイスで快感の声を上げている。
初めて見るナツメのその表情は、まさにオンナの顔そのものだった。
腰を動かすたびに棚引くナツメの長い黒髪も息を呑むほど美しい。
そんなナツメの様子がますますオレを高揚させ、腰を動かす作業に没頭させた。
「ひぁッ! はひっ! そんなに下から突き上げられたら……、ああんッ!」
ひと突きごとに襲ってくる大きな快感でオレの脳髄はオーバーヒートしそうになる。
しかしもう止められそうに無い。歯止めの利かない射精感はすぐそこまで訪れているのだ。
オレは上体を起こし、ナツメの手を強く握り締める。
「く……、もう我慢できねぇ、ナツメ!」
「あ……、い……いいぞ……、私の中……に……好きなだけ……、はひぃっ!」
その瞬間、キノガッサが先程以上に大きく膨張するのを感じ、
熱くたぎるモノがオレの下半身を駆け巡った。
「で……出る! ナツメ! 出すぞ! ナツメぇぇぇぇッ!!」
「わ……、わたしも、ひああぁぁぁぁんッ!!」
オレは自分の欲望のすべてをナツメの中にぶちまけた。
激しく痙攣する互いの体を抱きしめ合いながら、
出しても、出しても止め処なく溢れてくる熱い欲望をナツメの中に注ぎ込み続ける。
そのままオレはナツメの唇に吸い付いた。ナツメもそれに応え自分の唇を押し付けてくる。
唾液に濡れる舌を絡ませ合い、貪るように互いを求め合った。
やがてゆっくりとナツメの方から唇を離す……。
「――ナツメ……」
そう呟き、もう一度唇を重ねようとしたその時――。
「ぶほぁっ!」
突然、顔面にナツメの鉄拳がクリーンヒットした。
オレはワケも分からずベッドの上に倒れ込み鼻を押さえながら身悶える。
「な、何しやがる!?」
「……いや……、相手がおまえだということを思い出したら気持ち悪くなった」
悪びれる様子も無くサラッと答えた。そのままそそくさと着替えを始める。
「な……!?」
――おのれ……、いつか目にモノ見せてやるからな……。
そう固く心に誓い、
マイペースに身なりを整えるナツメを恨めしく睨みつけるオレであった。