すべての生ある者たちに深き絶望と黒き憎悪を  
 
                 ダークライ  
 
 
「本当に取り返しの付かない事をしてくれたものだな」  
今しがたオレが連れて来られたヤマブキシティの外れに位置する古びた洋館。  
その薄暗い廊下を歩きながら、前を行くロングヘアーの女が  
忌々しいといった様子でオレを睨む。  
「まぁ、今回の事はオレたちロケット団を甘く見ていた  
おまえらの責任でもあるんじゃねーのか?」  
オレはワザと女を挑発するような言葉を選び、不敵に笑ってみせた。  
 
事の発端は2日前にヤマブキシティで決行されたオレたちロケット団の爆破テロ。  
ボスであるサカキ様が、その実行班の1人にオレを任命して下さったのだ。  
今まではオツキミ山で化石堀りの重労働に徹する事しか許されていなかった。  
しかしようやく出世のチャンスを得たのだ。  
当然この機会を逃すような愚かな真似はしなかった。  
 
「ロケット団は初めから自爆テロのつもりだったのか?」  
「――いんや、ホントならマルマインを所定の位置に配備した後、  
全ての団員は爆発に巻き込まれねぇように退避するハズだった。  
それなのに同僚のミスのせいでよ……」  
オレ以外の団員は、マルマインの爆破時間を  
早めにセットしやがった間抜けな同僚のせいで爆発に巻き込まれ全滅。  
その最中、何故かオレ1人だけが奇跡的に生還する事が出来たのだ。理由は分からない。  
あの爆発を喰らって生き延びるなど間違いなく不可能だと断言できる。  
にも関わらず生き延びることが出来たのは、  
もはや人知を超えた力が存在するとしか考えられないだろう。  
何はともあれ、爆破テロ実行班唯一の生き残りであるオレは  
病院で検査を受けた後、この古びた洋館へと連れて来られたのだ。  
 
「なぁ、オレはこれからどうなるんだよ?」  
オレはあくびをしながら女に尋ねる。  
「……おまえたちのテロの影響でこの街の首都機能は完全に麻痺。  
政府の重鎮もほとんどが爆発に巻き込まれ死亡した」  
「そりゃあ、そこまで計算に入れてテロの決行日を決めたからなぁ、へっへっへ……」  
「く……」  
まったく反省の色が感じられないオレの受け答えに、女は大層ご不満な様子だ。  
「この洋館は生き残ったヤマブキの自治体が拠点として使用する事になった場所だ。  
おまえには捕虜としてしばらくの間ここで生活してもらう」  
「なーるほどねぇ……」  
さっきから慌しく人が行き交っているのはそういうことか。  
 
 
「着いたぞ、ここがおまえの部屋だ」  
とある1室の前で立ち止まった女が、ゆっくりと部屋の扉を開ける。  
オレは促されるままに部屋の入り口から内部を見回した。  
「意外と悪くねぇな……」  
どんな酷い部屋に通されるのかと正直不安を感じていたが、それは杞憂だったようだ。  
長い間使用されていなかったらしく、ところどころ埃が溜まっているが、  
部屋の中にはベッドもあればソファーもある。  
捕虜にあてがわれる部屋としては異例の住み心地だ。  
恐らく他に部屋を用意出来無かった為だろう。  
「この部屋ならオレも――」  
「さっさと入れ」  
「うおッ!?」  
突然背後から背中を蹴飛ばされたオレは、埃っぽい絨毯に向かって前のめりに転倒した。  
おかげで埃が口の中に入り軽く咳き込む。  
「ゴホッ……てめぇ……、なにしやがるッ!」  
オレは怒りのあまり自分が捕虜の身であるということも忘れ、  
いきり立って女に掴みかかろうとした。  
その瞬間、女の目が不気味な真紅の輝きを放つ。  
 
「――!?……な……?」  
 
オレの身に……何が起こった……? 気がつけばオレは自分の喉元を両手で押さえ、  
床に転がりながら言葉にならない呻き声を上げていた。  
女の目が赤く輝いた次の瞬間、突然原因不明の息苦しさに襲われたのだ。一体何故……?  
 
「息が出来ないだろう?   
おまえの様な害虫はそのように這いつくばっているのがお似合いだな」  
そう言って女は汚いものでも見るかのような目でオレのことを見下ろす。  
その目は今だに不気味な輝きを放っていた。  
 
「が……あが……!」  
「これは私の能力の1つ、手を触れずとも近くにある物体に力を加えることが出来るのだ。  
おまえはヤマブキのジムリーダー、  
エスパーレディの肩書きを持つナツメを知らないか?」  
ナツメ……? 超能力を使えると噂されるあのナツメのことか!? もしやこの女が……。  
「その通りだ。私に逆らうことがどれだけ愚かな事か、身を持って知るがいい」  
「――ぐ……!? があぁ……!!」  
次の瞬間、さらに強力な圧迫感がオレの体を襲った、  
その苦しさに耐え切れず埃まみれの床を転げ回る。  
「今までおまえが殺してきた人間やポケモンたちを……。悔いて……死ね!」  
「うぐおぉぉッ!」  
オレの体を襲う圧迫感はますます強くなるばかり、もはや一刻の猶予も無い。  
「……は……が……、お……オレ……が……悪かっ……、許し……ナツメ……」  
床を這いずりながら女に命乞いをするオレの姿はさぞ無様なものだろう。  
しかし背に腹は代えられない。そのままオレはナツメの足首を掴む。  
「たの……む……、助け――」  
「触るな、汚らわしい!」  
「うぐッ!」  
ナツメに勢いよく頭を踏み付けられ、オレは無理やり床に顔を擦り付けられる形になる。  
「薄汚いロケット団の男に触れられ、名前を呼ばれるなど腹立たしい事この上ない!」  
そのままオレを踏み付けている足に力が込められ為、側頭部に激痛が走る。  
「――ナツメ様と呼び直せ」  
頭上からナツメの冷たい声が浴びせられ、オレの人間としての尊厳をことごとく奪い去って行く。  
しかし、もう……限界だ……。  
 
「――オ……オレが……間違って……いました……。お許し下さい……、ナ……、うう……」  
「聞こえないぞ?」  
「ナツメ……さま……」  
 
――言ってしまった――  
 
「はぁッ……! ――ぜぇ……ぜぇ……」  
オレの体から圧迫感が消え、ようやくまともに呼吸をする機会が訪れた。  
「フン、下賎なロケット団風情が……」  
そう吐き捨てたナツメはゆっくりと部屋を後にする。その後、廊下から扉を施錠する音が聞こえた。  
 
「ぜぇ……ぜぇ……、――ち……ちくしょう……」  
オレは床に這いつくばったままワナワナと拳を震わせる。  
こんなに惨めな気持ちを味わったのは初めてだ。  
オレは下っ端とはいえ誰もが恐れるロケット団の一員だぞ!   
それが自分とほとんど年齢も変わらない小娘に言い様にされた挙句、命乞いまでしてしまった。  
「ちくしょう……、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょオォォオォォォオォォォッ!!」  
悔しさのあまり床を何度も拳で打ち付ける。  
「あの女ァァ。絶対に許さねェからなァァ……」  
オレは深き絶望と黒き憎悪に身を任せ、気が遠くなる程の時間を  
床に拳を振り下ろす作業に費やしたのであった。  
 
 

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