〜3年前の記憶・22番道路での邂逅〜
「あれほど、レッドにはタウンマップを貸すなって言ったのに。姉さんめ……」
陽光照りつける真昼の静寂。そよ風が梢を揺らしている。
そんな中、1人佇み、優雅にタウンマップのページをめくるレッド。
その様子を眺めながら、オレは大きく舌打ちをした。
それに気付いたレッドが、ゆっくりと顔を上げる。
「どうしたんだい? グリーン」
どうしたのか、だと? 白々しい。心底、不愉快だ。
だが、ここでタウンマップについて言及しても不毛な言い争いになるだけだろう。
オレは静かに深呼吸をしたのち、モンスターボールを取り出す。
「1勝負付き合えよ。研究所での借りを返させてもらうぜ」
あくまでも平静を装い、雪辱戦へと踏み切った。
◆
「ただいま」
玄関のドアを開け、ぶっきらぼうに言い放つ。
その直後、家の奥からスリッパの音が聞こえてきた。
「おかえり、グリーン」
ナナミ姉さんが柔らかい笑顔を浮かべながら、オレの持っていた鞄を手に取る。
春の日差しのような暖かさを湛えた目元……。慈愛に満ちた心安らぐ声……。
それらは、姉さんがポケモンたちから好かれているという事実を、
存分に認識させてくれるものだった。
「今日のお仕事、どうだった?」
「別に……。いつもと同じだよ」
毎回、オレと姉さんとの間で交わされるお馴染みのやりとり。
トキワジムに足を運び、ポケモンたちとトレーニングに励み、挑戦者の相手をする。
オレが数年前から変わることなく続けている生業だ。
しかし今日は、元四天王のキクコがジムを訪ねてくるという珍しい出来事があった。
日頃からオレやじいさんの悪口を言っている、あのキクコが、
自分のほうからオレの元を訪ねてくるなんて、考えられないことだった。
グレンがどうとか、幻のポケモンがどうとか、少し気になる発言をしていたが、
それを姉さんに伝えることもおっくうに感じる。
姉さんは、オレに話しかけられるのを期待しているような素振りを見せたが、
それに応えることなく、オレは家の奥へと歩みを進めた。
◆
〜3年前の記憶・ゴールデンボールブリッジでの邂逅〜
『春のポケモンコンテスト、総合優勝はマサラタウンのナナミちゃん!
おめでとうございます!』
青空の下、橋の手すりに体を預けながらラジオに耳を傾けるレッド。
ポケモンジャーナルでは、姉さんへのインタビューが行われている。
その模様を耳にしたオレは、表向きは平静を装いつつ、内心ほくそ笑んでいた。
もちろん、レッドには気付かれぬよう細心の注意を払いながら。
「さすがはナナミさんだ。
――ポケモンコンテストとポケモンリーグ――。
目指す分野は違えど、こちらまでがんばろうという気持ちにさせてくれるよ。
君もそう思うだろう? グリーン」
そう言って、レッドがニッコリと笑いかけてくる。
赤の他人からすれば、コイツの笑顔はとても魅力的なものに見えるのだろう。
だが、オレにとっては不愉快な気分を煽り立てるだけのモノ――。
じいさんに、ひいきされていることはもちろんだが、
何よりも姉さんの優しさを簡単に味わっていることが許せなかった。
コイツより、オレのほうがずっと、姉さんと長い時間をともにしている……。
それなのに……、途中からひょっこり現れたコイツが……。
「――無駄話しに付き合ってる暇はねぇよ……。オレは今度こそおまえに勝つ」
含みを込めて宣言しつつ、オレはレッドに向かって力強く人差し指を突きつけた。
「3度目の正直ってな……」
◆
「はい。温かいうちに飲んでね!」
「ああ……」
キッチンへと足を踏み入れ、姉さんの淹れてくれた紅茶のカップを受け取る。
香り際立つストレートティーを、ゆっくりと口に含んだ。
その瞬間、口いっぱいに広がる程よい甘み。
姉さんの紅茶に対するこだわりは半端ではなく、
わざわざタマムシシティにまで足を運ぶほどである。
「晩御飯ができるまで、もう少し掛かりそうだから、先にお風呂に入っちゃってね」
「ああ……」
明るく会話を進める姉さんとは対照的に、オレの返事には覇気がない。
それは自分自身が痛いほど判っている。
――レッドの死亡が3年前――
その頃からだろうか。
オレが何かに目標を見出せず、ポケモンリーグ本部に盲目的に従い、
事務的にポケモンバトルをこなすようになったのは……。
◆
〜3年前の記憶・サントアンヌ号での邂逅〜
「風が気持ちいいねぇ……」
レッドが船の手すりから僅かに身を乗り出し、潮風を体に受けている。
片手で帽子を押さえつつ、目を細めながら。
その余裕を感じさせる態度は、オレの神経を逆なでさせる。
図鑑の完成もバッジ集めもオレより遅れているハズ……。
なのに、この余裕を絵に描いたような態度はなんだ? 湧き上がる苛立ちが抑えられない。
「早く準備しろ。わかってんだろ?」
すでにモンスターボールを取り出しているオレは、
腕を組み、靴底で小刻みに床を叩きながらポケモンバトルを促す。
――4度目の戦い――。今度こそオレは負けない……。
◆
「――グリーン?」
「あ……」
「どうしたの? ボーっとしちゃって」
気がつくとオレは、カップを持ったままの状態で虚空を見上げていた。
「悪い。少し呆けてた」
カップを持っていないほうの手で姉さんからバスタオルを受け取り、そのまま立ち上がる。
「ねぇ、グリーン」
「ん?」
「たまには、お姉ちゃんと一緒にお風呂入ろっか?」
「ごほッ!」
突然の提案に、紅茶を口にしていたオレは激しくむせ返る。
「げほっ、ごほっ!」
「だ、大丈夫?」
幼い頃、姉さんと入浴した記憶はあるが、この歳になってまでそれはないだろう。
いったい何を考えているのだろうか、この姉は。
「い、いきなりなに言い出すんだよ!」
「恥ずかしがらなくてもいいじゃない。姉弟なんだし」
「恥ずかしがってるとか、そういうのじゃねーよ!
もう、一緒に風呂とかいう歳じゃないだろ!」
オレは取り落としたバスタオルを拾い、足早に浴室へと向かおうとした。
しかし、その直後、背後から両手で体を包まれる。
「うわっ!」
その瞬間、姉さんの肌触りの良いストレートヘアーが首筋に触れたため、
思わず心臓が跳ねた。
――鼻をくすぐる甘い香り……。姉さんの体温が背中から伝わってくる……。
オレはトリップしそうになる意識を、なんとか保とうと努力する。
「つれないなー。グリーンはお姉ちゃんのことキライなんだー?」
「なんでだよ! そんなこと言ってないだろ!?」
「じゃあ、お姉ちゃんのこと好き?」
ストレート過ぎる質問だ。困惑せずにはいられない。
しかし質問に答えず、しどろもどろになっていては、余計、話しがややこしくなる。
「ねぇ、どうなの?」
「――す、好きだよ……」
「ん?」
「好きだってば! 姉さんのコト!」
思わず大声で叫んでいた。――なにをムキになっているんだオレは。
しょせん姉弟間での会話。ここまで熱くならなくてもいいだろうに……。
「じゃあ一緒にお風呂だね!」
「え?」
オレが気付いたときには、すでに背中をぐいぐいと押され、
浴室のほうへと導かれていた。
「ちょ、ちょっと姉さん!?」
「グリーンとお風呂入るの久しぶりだね。お姉ちゃん楽しみだなー」
楽しそうな笑顔を浮かべる姉さんの姿を見ていると、
抵抗しようという気すら失せてしまう。
「お、押すなって!」
オレは促されるまま、姉さんと共に浴室へと足を踏み入れた。
◆
〜3年前の記憶・ポケモンタワーでの邂逅〜
「君の考えていることは分かるよ。僕とバトルがしたいんだろう?」
「今までの流れから考えて、得意げに言うような台詞じゃねーよ」
――ポケモンタワー――
ヒンヤリとした冷たい空気に、うっすらと周囲を包む霧。
その不気味さには正直なところ辟易していたが、レッドに会ったとなれば話しは別だ。
「まぁ、何はともあれ、話しが早いのは助かるぜ。とっととポケモンバトルを――」
「もう1つ。――分かったことがある」
オレの言葉を遮り、レッドが力強く人差し指を立てる。
「な、なんだよ。おまえのゴタクに付き合ってる暇は――」
「君はナナミさんにもっと甘えたいと思っている」
「な!?」
刹那、自分の顔が一瞬にして熱を帯びる。
――と、突然なにを言い出すんだコイツは!
いきなり、なんの脈絡もなく核心を突かれたおかげで、
オレの心臓はさえ際なく鳴り続け、握り拳がじっとりと汗ばんできた。
レッドのヤツ。いったいなんのつもりだ?
考えれば考えるほどに思考はかき乱され、頬の熱気は加速する。
「――と、いう夢を見たんだよ」
「は?」
「人生っていうのは短い。その短い期間の中で知識を得ようと思ったら、
絶えず情報を取り込み続けなければならないんだ。
だから僕は、夢で体験した出来事もメモ帳に書き留めている。
それが夢であるという保証は無いからね」
そう言って足元にいるフシギソウの頭を優しく撫でた。
フシギソウは目を瞑り、恍惚の表情でその身をレッドに委ねている。
「夢と現実の境界っていうのは、なかなか判り辛いもの。
でも、今の君の反応を見たことで確信に変わったよ。
君はムリをしている。本当はナナミさんに甘えたくて仕方がないんだ。なのに――」
「黙れ!」
オレの怒号に反応し、墓参りに来ていた他の連中がこちらに注目してきた。
皆一様に、オレたちの動向を気にしている。
「さっきからワケの分からない台詞をつらつらと並べ立てやがって……。
今すぐおまえのポケモンを瀕死にしてやるぜ!」
オレは、いきり立ってモンスターボールを取り出した。
「大切な人に気持ちを伝えらないまま、この世を去っていった人は数多くいる。
それはポケモンも同じこと――。
ここで眠るポケモンたちにも少なからず当てはまるんだ。君はその轍を踏もうとして――」
「黙れっつってんだろ、ゴミクズがぁッ!!」
憤怒の雄叫びと共にオレのボールは開かれ、閃光を放ちながらリザードが飛び出した。
◆
「グリーンも背が伸びたね。お姉ちゃん、もうすぐ追い越されちゃうなー」
オレは浴室で椅子に腰掛け、背中をスポンジで洗ってくれている姉さんに身を任せる。
時折り笑い声を含ませながら会話を進める姉さんとは違い、オレは常に緊張しっぱなしだ。
自分でも疑問に感じる。実の姉と入浴しているだけだというのに、
何故ここまでリラックス出来ないのだろうか……。
「こんなに優秀な弟を持ったお姉ちゃんは幸せだなー」
「それ、絶対に外で言うなよ」
「どうして?」
「恥ずかしいだろ!」
「そんなことないよ。本当のことだもん」
ほがらかに笑う姉さんの様子を見て、オレは1つため息をついた。やれやれ……。
「グリーン、最近元気ないよね……」
――突然、姉さんの声色が変わったような気がした――
それに対して少しばかり違和感を覚えたオレは、俯けていた顔をゆっくりと上げる。
「いつもと同じだよ、オレは」
「ううん。変わったよ……。レッドくんが居なくなったあの日から……」
レッド――。オレの最大のライバルであり、親友でもあった男……。
その比類なき強さゆえに、レッドは各地で持てはやされていた。
そして、3年前のヤマブキシティで繰り広げられたロケット団との戦い。
そこであいつは伝説となった――。
「グリーンは……、居なくなったりしないよね?」
姉さんが背後からオレの肩に両手を置いた。続けざま、背中に額を預けてくる。
――なんで……、こんなに鼓動が早くなっているんだろう……。
オレの中に、答えの出ない疑問が再び湧き上がる。
「――たぶん……な……」
曖昧な答えしか出せなかった。
姉さんが恐れを抱いていることに、なんとなくではあるが気付く。
ここで姉さんを安心させる言葉をハッキリと口にすればいいハズ。
なのに、どうして……。
「――グリーン」
「え?――ッ!?」
突如として全身に、雷に打ち抜かれたかのような衝撃が走る。
反射的に体が跳ね、驚きのあまり目を見開いた。理由は姉さんの行動――。
どんなに考えようと頭の中に浮かんでくることの無い、
突飛な行動を姉さんが取ったことに原因がある。
――背後から回された白魚のように美しい姉さんの手――。
それがタオル越しに、オレの敏感な部分をまさぐっている。
「ね、姉さん!?」
「お姉ちゃん。グリーンのこっちの成長も知りたくなっちゃった」
姉さんは狼狽するオレを尻目に、手のひら全体で包み込むように愛撫を始める。
「は、放せよ! なんでこんな――ああッ!」
拒絶の言葉を投げかけようにも、
未知の刺激によって、台詞を最後まで言い切ることが出来ない。
「グリーンもやっぱり男の子なんだね。だんだん硬くなってきたよ」
「……ッ!」
顔から火が出るような思いに囚われ、慌てて姉さんの腕を掴む。
そのまま力を込めて引き離そうと――したハズだった……。
「姉……さん……」
手に力が入らない……。
オレの力なら、無理やり姉さんの手を引き剥がすコトだって可能なハズ――。
それにも関わらず、オレの手は痺れを湛えたかのごとく自由を失っている。
「ホントはやめて欲しくないんでしょ?」
突然、耳元で囁かれ、オレはビクッと体を震わす。
姉さんのその声は、優しく心を溶かす深い囁き……。
頭の中で木霊して、オレの心を狂わせる。
しかも、背中に姉さんの豊満なムネがしっかりと押し付けられ、
その柔らかな感触が、残った理性を吹き飛ばそうと追い討ちを掛けてきた。
「お姉ちゃんの手を振り払えば済むことなのに……。
それをしないっていうことは、お姉ちゃんにもっとさわって欲しいっていうことだよね?」
「ち、違う!」
「違わないよ。だってホラ……。グリーンの、こんなになってる……」
「うっ……!」
姉さんが敏感な部分をタオルの上から握り締めてきたため、
オレは思わず呻き声を漏らす。
自分の下腹部に目を落とすと、タオルはしっかりとオレの形を湛えていた。
小刻みに動く怒張がタオル越しでもハッキリと判る。
「ね、姉さん、放し――ぐぅっ!」
「こっちのほうは元気なんだね。お姉ちゃんの手の中で動いてるよ……」
優しく、それでいて淫靡な声音で囁き続ける姉さんを前にして、
オレの体は興奮を覚え始めていた。
頭の中では必死に否定しようとするものの、
全身を走る細かな快感が脳に伝わり、それが自然と体を震わせる結果となる。
――これだけじゃあ足りない……。
オレがそう思い始めるのに、さほど時間は掛からなかった。
「そろそろ直にさわってほしいんじゃないかな?」
「ッ……!」
その言葉に、オレは判りやすいほどの動揺を示す。
まるで心の奥底を見透かされているようで、とても平静を保てる状況ではない。
「そ、そんなことあるハズが――」
「我慢しなくてもいいんだよ。お姉ちゃんが気持ちよくしてあげる」
「うあぁッ!」
タオルの中に滑り込んできた姉さんの手が、直接、根本を握り締めてきたため、
オレは思わず前かがみになった。
柔らかな手の中で、硬くなった肉棒がビンビンに脈打ってしまい、
それを止められない恥ずかしさに身悶える。
「逃げちゃダメだよ」
そう言って姉さんは空いているほうの手で胸板をつかみ、そのまま後ろに引き戻してきた。直後、無理やりオレのタオルが引き剥がされる。
一糸纏わぬ姿になったオレは、下肢を思いっきりさらけ出す形となった。
「すごーい! 上向いてるー!」
肩越しに股間を覗き込んできた姉さんが驚嘆の声を上げた。
オレのモノが予想以上に形を変えていたためか、
先程とは違い、その声色からは明らかな興奮が窺える。
まだ包皮が剥け切っていない肉棒の先端からは、すでに透明の液体が滲み出ていた。
それに気付いたのか、姉さんはクスリと忍び笑いを漏らす。
「おちんちんの先っぽから何か出てるよ。グリーン」
耳に息を吹きかけられたオレは、あまりの快感に鳥肌を立てる。
姉さんの言葉ひとつひとつがオレの海綿体に響き、体が喜びに打ち震える。
肩越しに感じる姉さんの視線――。それは姉さんに視姦されているという事実。
いきり立った肉棒を実姉の眼前に晒し、それに興奮を感じている自分がいる。
そんな自分の異常性を目の当たりにして、動揺せずにはいられない。
「グリーンは見られて感じちゃうタイプなんだねー」
「そ、そんなこと――」
「だって、グリーンのおちんちん、さっきより大きくなってるよ?
お姉ちゃんに見られて興奮してるんだよね?」
リザードンの傍らにいるときのような頬の熱さ――。
破裂しそうなほどに高鳴る心臓――。
どうして姉さんといい、レッドといい、オレの心を見透かしたような発言をするんだ……。
「ジッとしてて……。お姉ちゃんが剥いてあげる」
姉さんはオレの肉棒を人差し指と親指で挟み込むと、
そのままゆっくりと包皮を引き下げた。
「く……」
少しばかり抵抗を感じたが、思ったほどの痛みはなく、
真っ赤に膨らんだ亀頭が、姉さんの視線に晒されるのを期待していたかのように弾け出た。
それを見た姉さんの忍び笑いが再び浴室に響き、オレの羞恥心を加速させる。
――大好きな姉さんにオレのすべてを見られている……。
それだけで天にも昇るような幸福感がオレを包み込む……。
「グリーンのおちんちん、キレイだね……」
姉さんがオレの先端を優しくまさぐり、指の腹で先走りをすくい取る。
ねっとりと糸を引くそれは、姉さんの細く美しい指に絡み、
怪しげな淫靡さを醸し出していた。
「姉さん……。オレ、もう……。――ああッ!」
突き抜けるような感覚に襲われ、オレは体をのけぞらせる。
下腹部に目を落とすと、姉さんがオレの怒張を上下に扱いていた。
不意打ちを喰らったオレは情けない声を上げ、太ももを擦り合わせる。
「大丈夫。お姉ちゃんに全部まかせて……」
口で言わずともすべてを悟ってくれたのだろう。オレは抵抗をやめ、姉さんに身を任せる。
「ああぁッ! ね、姉さん! すごいッ!」
姉さんの柔らかい手に包まれ、オレの充血したものが愛撫に身悶える。
その激しい責めに、たまらず歓喜の声を上げた。
「うああッ! あッ!」
「我慢できなかったら出しちゃってもいいんだよ。お姉ちゃんが見ててあげる」
右手で肉棒を扱き、左手で胸板をまさぐってくる姉さんのテクニックに、
オレの意識は水泡のごとく、弾けて飛びそうになる。
すでにオレの臨界点は直前まで迫っていた。到達まで間もないことを瞬時に悟る。
「姉さん! もうダメだ! くるッ!」
「いいよ! グリーン! お姉ちゃんの手の中にいっぱい出して!」
「くッ――! 姉さん! 姉さぁん! 出ッ――うあぁあぁああぁあぁぁッ!!」
刹那、体の底に激震が走り、オレの怒張から勢いよく白色の液体が噴出した。
断続的に迫り来る射精の快感が、オレの体を幾度も震わせ、
その度に脳髄を貫かれるような感覚に襲われる。
「あ、く……。あぁ……」
やがて、先端から溢れる液体も勢いを止め、
オレは射精の余韻に身を浸しながら荒い息をつく。
白色に汚れたオレの肉棒を、姉さんが優しく撫でてくれた。
「はぁ……はぁ……」
「――グリーン……」
姉さんがオレの耳元でそっと囁く。
「辛いことがあったら、いつでもお姉ちゃんに言って……。
お姉ちゃんには、こんなことしかしてあげられないけど……。
レッドくんみたいに本気で競い合える相手にはなってあげられないけど……。
だけど……、だけどグリーンのこと、大好きだから……。」
「姉……さん……」
オレは背後から抱きついてきた姉さんの手に、そっと触れる。
「グリーン……」
「姉さん……」
オレの背中に顔を押し付け、すすり泣く姉さんを前にして、オレは気持ちを固める。
――レッドに面と向かって『友』と言ってやれなかった自分を捨てろ……。
自分の気持ちに素直になれなかった自分を捨てるんだ。
「ありがとう……」
そのひとことが……、今の自分を変える。
「大好きだよ。姉さん……」
◆
〜3年前の記憶・ヤマブキシティ・最後の邂逅〜
「なんだよレッド。男がぬいぐるみかぁ?」
目の前でピッピ人形を小脇に抱えるレッドを目の当たりにし、オレは軽い脱力感を覚える。
「タマムシデパートの抽選クジで当たったんだよ。
僕は使わないし、ナナミさんにどうかな?」
「へっ! 冗談――。姉さんがそんなガキっぽいモン欲しがるかっつーの」
オレは両手を広げ鼻で笑ってやる。
実際は喜ぶだろうが、これ以上コイツの好感度を上げてたまるか。
「そうか……。残念だなぁ」
ポリポリと頬を掻くレッドの姿が一瞬、儚げに見えた。
「ん……? なんだ……?
――まぁいい。今日こそおまえをポケモンバトルで――って、おい! 逃げるのか!?」
オレの台詞を無視して、レッドがあさっての方向へ歩き出した。
「すぐに戻るから待ってて。このピッピ人形をあそこの子にあげてくる」
レッドが指し示したのは、
オモチャ屋のショーウィンドウに張り付く、ポニーテールの1人の少女。
「――たく……。とっとと済ませろよ……」
「うん!」
そう言ってレッドは少女の元へ向かって駆け出す。
その瞬間、オレは再び先程の感覚に襲われた。
――レッドが……、遠い……?
走りゆくレッドの背中……。それがとてつもなく遠くにあるように感じた。
「さっきから、なんだってんだ!」
オレは服の袖でゴシゴシと目元を拭い、改めて視線をレッドに戻す。
その瞬間、オレは更なる異変に遭遇した。
「――レッドが……、見えない……?」
オモチャ屋の前で向き合うレッドと1人の少女。
少女は差し出されたピッピ人形を前に困惑の表情を見せていたが、
しばらくするとレッドの手からピッピ人形を受け取り、やがて満面の笑みを浮かべた。
――それなのに、オレにはレッドの姿が見えない……。
――見えるのに……、見えない……。
「くっ!」
オレは咄嗟に向きを変え、全力で走り出した。
――見えない。見えない。見えない――
目頭が熱くなるのをヒシヒシと感じる。どうして見えないんだ……。
答えの出ない問答を心の中で繰り返し、
流れる落ちる涙を拭いながら、オレは夕暮れ時の雑踏を強引に駆け抜ける……。
――ロケット団がヤマブキシティを襲撃する、前日のことだった――。
END