小用を済ませタマムシのアジトにもどるといつもと空気が違うことに気が付いた。
いや、最近ではむしろこれがいつも通りの空気になりつつある。
まず入り口での出迎えがなく、要所にいるはずの見張りがいない。
さらに各所に点在し仕事をしているであろう部下達も姿を消しているのだ。
こういうことがたびたび起こるから困る。
「またあのコか…」
R団のボス、サカキは深くため息をつき呟いた。
そう、『彼女』が来ているのだ。
覚悟を決めてサカキは自室へ向かった。
いつものことだが、自室に近づくにつれポケモンバトルで倒された部下達が気絶状態で発見される。
「あっサカキさま〜!」
そこでマフィアのアジトに似つかわしくない高い声が室内から聞こえてくる。
どうやら自分の姿を確認したのだろう、ドアを押し広げ駆け寄ってくるその姿。
灰に近い茶髪を腰までのばし、その髪を白いハットで覆っている。
しかしそのハットの下からでも明るい表情はうかがい知る事ができた。
「サカキさまっお帰りなさい!! せっかく会いに来たのに留守だったから暇つぶしにバトルしちゃったv」
自分の腰のあたりに腕をまわし、くるくると表情を変えながら話しかけてくる彼女の名はジュリ。
以前シルフカンパニーなどの件で事あるごとに我らの計画を阻止してきた少女だ。
さらにポケモンリーグの新チャンピオンであるというから始末に終えない。
自分も一応ジムリーダーという任についてはいたが相手がチャンピオンとなると実力の差は歴然だ。
こちらからすれば憎たらしいことこの上ない娘なのだが…
「ねえサカキさま!今日はどこにでかけてたの?今度は私も連れてってー!」
…なぜか懐かれている。
R団のすることを悪とし、邪魔をしてきた彼女が何故自分を慕ってくるのか…
以前質問したこともあったが「カッコいいんだもん」の一言で済まされた。
始末に終えないことに彼女から自分への好意は『恋愛感情』を含んでいるようなのだ。
自分はとうに30を超え、実は息子すらいるというのに
10代そこそこの少女が自分に猛烈なアタックを繰り返してくるのだ。
…正直、迷惑きわまりない。
だが何故か冷たくあしらうこともできず彼女の自由にさせている状態が長く続いている。
結果、R団が彼女が来るたびに壊滅の危機に脅かされているのだ。
「ジュリ…とりあえず遊びに来て俺が留守ならおとなしく待っていろ」
腰にまわるてをほどきながら諭してみる。
「え〜…」
どうやら不満のようだ。
ほどかれた手は今度は腕にまわされぴょこぴょこと室内まで着いて来る。
チャンピオンである彼女の闘争本能というのは凄まじいものらしく、
トレーナーとみるとどうしてもバトルをしたくなるらしい。
だがだからといってそれを許すわけにもいかない。
「来るたびに部下たちを傷つけられたら迷惑だ。」
少しいらだった口調で言い放つとジュリの表情が一瞬変わったようだった。
やはり今まで甘やかしすぎていたのか。
彼女より強い大人がいないという現実はつまり彼女を律する者がいないということと同じだ。
ここは一つ自分がその役目を買って出てもいいかもしれない。
現に仕事(といっても悪事だが)に支障を来しているし彼女の恋愛ごっこにいつまでも付き合ってはいられない。
「お前がしていることは立派な職務妨害だ。
一組織のリーダーに会うときはアポをとる、目上の者には敬語を使う。
これぐらいは社会の常識だろう。」
ジュリは俺の言葉を静かに聞いている。
ここまで静かなのはめずらしい。
大抵俺の言うことには「えー」だの「でもぉ」だの反論の言葉が述べられ、
あとは彼女のペースにひっぱっていくのだ。
様子をうかがいながら言葉を付け加えた。
「これだから子供は…」
その時だった。
うつむいていたジュリがきっとコチラを睨み何か言いたそうに見つめてくるのだ。
「…なんだ、その目は」
俺は少しばかり動揺した本心をぐっと抑え、できるだけ平静を装って睨み返した。
しばらくの沈黙…
いつまでもこんなことをしていられないと視線をそらし、
デスクに詰まれた部下達からの報告書類に目を通し始めた。
またしばらく、十数分たったころだろうか。
ジュリのいた方向からジィーーーーっという何かがひっかかるような音が聞こえる。
ふと目線をそちらへやって驚いた。
なんとそこには自らのスカートのジッパーを降ろし、下着姿になろうとしているジュリの姿があった。