「……いってぇ……」
コウキは、茂みの中から身を起こす。かなり転落したが、奇跡的というか、命に別状はな
いらしい。
深い茂みがクッションになったのである。が、モンスターボールや荷物を手放してしまっ
た上に、随伴してもらっていたユキメノコとムウマージともはぐれてしまっている。
命は助かっても、自分自身もミイラ取りがミイラの様な状況になってしまったようで、苦
笑しながらも歩き出す。
あちこちは痛いものの、骨が折れているわけでもなく、動くことはできる。もっとも、全
身を強かに打ってしまい、痛みはかなりのものだ。少なくとも、斜面を登るようなことは
できない。
しかし、じっとしていても事態が好転するわけでもない。とりあえず荷物やはぐれたポケ
モン達も探さねばならない、大きな声でヒカリやポケモンの名前を呼び、周囲を歩き回る。
風は弱まっているものの、依然として雨は強い。気温も深夜の為変わらず寒い。その上に
頼りになるのは携帯している小さな非常用の明かりだけだ。
打撲の痛みと冷えの苦痛、そして何より闇の恐怖が彼を襲ってくるが、それに耐えながら、喉を涸らして雨音に負けないように叫び続け―――どの程度時間が経過した頃だろうか。
喉から声が出なくなりそうになった時、僅かに、人の声らしきものが返ってくる。最初は
雨音とも思ったが、耳を済ませて見ると、人の声であった。
コウキは十中八九ヒカリと判断し、声のする方向をさぐりつつ、慎重に慎重に歩みを進め
る。
暫らく歩き続け―――その時、大木の陰に、人が蹲っているのが視界に飛び込む。
傍まで近寄って見ると―――ヒカリだ。コウキは駆け寄ると、脈や意識はあるかを確かめ
ようとする。
「ヒカリちゃん!大丈夫!?」
大きく揺さぶりたい衝動に駆られるが、どこをどう怪我して居るかも解らない。コウキは
慎重に脈を先ず測り、とりあえず脈はあることは確認する。
だが、身体はずぶ濡れのコウキよりでさえも冷たいと感じるほどに冷えている。凍死とま
では行かずとも、体が弱っている状態でこの雨にさらされ続けては、肺炎などの危険もあ
るだろう。
ともかく一刻もぐずぐずはしていられないと考え、まずは意識を覚醒させようとする。
ただ、意識を失っているとなると、先ほどの声は誰の仕業だったのだろうか……コウキは
不意にそのことが頭に思い浮かぶものの、それよりも目の前のヒカリの方を優先するべく
その考えを頭から振り払った。
慎重に耳元に顔を近づけ、声を掛ける。同時に頬を軽くはたく。
程なくして、ヒカリが身体を震わせ、目を開く。
「う……だ、誰……?」
「僕だよ、コウキだよ、ヒカリちゃん。大丈夫?」
意識を取り戻したヒカリの視界に、コウキの安堵した表情が浮かぶ。
ほっとしながらも、ヒカリは僅かにばつの悪そうな顔をするが、すぐに表情が痛みで歪む。
「ヒカリちゃん……怪我してるの?」
「う、うん……その、崖の下に落っこちちゃって……その時、モンスターボールも荷物も
どこかにいっちゃって……多分そんなに遠くにはないと思うんだけど……でも、足を思い
っきり挫いちゃって……折れてはないけど、動けなくて……で、ここでうとうとしてたり
したら、雨が降ってきて……眠ったらダメだって思ったんだけど、動けないし疲れて……」
「そっか……。ということは、此処にずっと居たの?」
「うん、夕方頃かな……一雨きそうって解ってたんだけど……どうしても諦められなくて。
でもゴメン……博士に言われて探しに来たんでしょ?ホント……ごめん」
「いいよ、ヒカリちゃんが無事なんだから……それよりも、ここじゃ雨が落ちてくるから
せめて雨宿りできるところを探そうよ。ここじゃ、風邪じゃすまなくなっちゃう」
ヒカリがしょんぼりとした顔で俯くが、コウキはゆっくりと首を振ると、元気付けるよう
に笑顔を見せる。
そして、「ごめんね」と一声かけてから、コウキはおもむろに自分のカッパをヒカリに羽
織らせて、それから彼女ををおんぶする。
「ちょ……コウキくん!?」
「大丈夫、僕はまだ元気だし。さ、進もう」
「……ありがとう」
顔を赤くしてヒカリは声を上げるが、コウキは構わずに微笑むと、歩みを進める。
無論彼とてあちこち打っている、痛くないわけではない。が、怪我をしていることを悟ら
せるとまたヒカリに心配を掛けると思い、何とか唇を噛んで耐える。
消え入りそうな声でヒカリが礼を述べ―――土砂降りの森の中を歩き始める。
そこかしこの茂みには、ポケモンの気配はするものの、土砂降りゆえかじっと身を潜めて
いるらしく、コウキたちが足を踏み入れても気配はない。
もっとも、二人とも今はポケモンを連れていない為に、この辺りはありがたかった。
満足に動けない二人では、敵意をむき出しにしたポケモンに襲われたら、大怪我どころで
済まない可能性もある。
が、ポケモンたちの動きをも抑える程の勢いの雨が、二人の体力と体温を容赦なく奪う。
特に、カッパを渡してしまったコウキは今まで以上に雨が堪える。
不味いな……とコウキも、口には出さないが内心焦りが出始める。それに、ヒカリもこの
雨じゃカッパなどは役に立たない。焼け石に水で、体温が更に下がっていく。
そのうち、疲れと寒さで意識がぶれてきたコウキが、歩みを止め―――その時だった。
目の前に、大きな光が突如現れ―――それは一つの形を作る。
「え……」
「エム……リット……?」
そう。光は、エムリットの形に変化し、淡い桜色の輝きを放ちながら、彼らをじっと見つ
めている。
テンガン山は槍の柱に於いて、ギンガ団首領アカギの戒めにより暴走しかけたパルキアを
止めた時以来の邂逅だ。
不思議な光を纏い、エムリットは暫しコウキとヒカリに目をやっていたが、突如背中を向
けると、ゆっくりと進み始める。
「どうしたんだろ……僕達に、ついて来い、って……ことなのかな」
「かも……しれない。……とりあえず、行ってみよう……悪いことをしようとしているわ
けじゃないみたいだし……」
「うん……どうせ当てなく歩いていてもどうしようもないし……」
エムリットの進む方向に、二人はついて行くことを決めると、コウキはなんとか歯を食い
しばり意識を失う事に耐え、エムリットの進む先へ足を進めていく。
かなりのろい歩みではあるのだが、エムリットは少し進むと、コウキたちがおいつくのを
待つようにじっと彼らを見据え、傍まで近づいてくるとまた先へ進む。
(もしかして、さっきの声も……)
コウキはそんなことを考えながら、エムリットに追いつき、案内に従い……そのやり取り
を何十度と繰り返し―――突如開けた場所に出る。
「小屋……だ」
コウキが呟く。かなり年代ものではあるが、丸太作りのしっかりとした小屋。
明かりはなく人の気配はないが、軒下に多くの薪が並べられている事から、火をおこすよ
うな設備があるかもしれない。
そうでなくとも、大きくせり出した屋根は雨だけでも凌げる。地獄に仏とはこのことだ。
「ここにエムリットが、案内してくれたのかな―――って、エムリット、居ない……?」
「案内以外は自分でやれってことかもね……とにかく、屋根の下に移らないと」
コウキもヒカリも、何時の間にか影も形もなく、気配もしないエムリットに気付く。
しかし、此処まで案内してくれただけでも、彼らにとっては千の言葉を尽くしても感謝し
きれない思いだった。
心の中でエムリットへ感謝を共に述べ、先ずは雨の届かない場所にヒカリを一旦下ろし、
小屋の入り口を探す。
ほどなくして見つけた扉には、うっすらと取っ手にホコリが積もっている。
どうやら所有者どころか、誰一人足を踏み入れないようになり久しいらしい。鍵のかかっ
て居ない扉を緊張しながら開けると、がらんとした空間が広がっている。
中央には火をおこすための囲炉裏のような場所がある。
周囲の棚にはロープや草刈鎌、軍手などに混じり、火を熾すための道具も揃っている。
部屋の隅には綺麗にたたまれた厚手の毛布も見当たる。
「……誰も、居ないのかな……」
コウキは道具や設備を確認しつつ、人の気配を探る。が―――本当に気配がない。
「誰か、いらっしゃいませんか!?此処を使わせて欲しいんですが!」
今度は大声で叫ぶが―――雨音だけが響く。反応はない。
コウキは小声で「すいません」と呟くと、ヒカリに中で火を熾せる事を述べ、緊急時だか
ら使わせてもらうことを提案する。
ヒカリも勝手に使うことに抵抗があったが、芯まで冷えた体を温めないと本格的に参って
しまいそうなのもまた事実だった為、背に腹は代えられないと、コウキに肩を貸してもら
い、小屋の中に入る。
ひんやりとした小屋の中に入り、先ずコウキはヒカリを囲炉裏の傍に座らせると、手際よ
く火を熾す。
扉は閉じていた為、火を熾す道具は湿っていない為に簡単に火が点く。そして、外の薪を
数本拝借し、大きな火にする。
「あー……生き返る……」
「ホント……死んじゃうんじゃないかって思った……くしゅんっ!」
炎の暖かさに、とりあえず二人の顔に精気が戻るが、不意にヒカリがくしゃみをする。濡
れた服が身体に張り付いている為に、まだ寒いのだ。
本来ならば服を脱いで乾かしたほうが、後々にもいいのは当然だが……まだ少年少女の年
齢とは言え、既に性的には大人になり始めている男と女である。
二人とも同時に服を脱いだほうがいいとは考えたが、目の前の異性にどうしても躊躇し、
行動を起こせない。
だが、そのまま意地を張って風邪を引いてもよくない。コウキが意を決して立ち上がると、
部屋の隅の毛布を手にし、ヒカリに手渡す。
「こ、これ使えば……そ、その―――大丈夫、ぜ、絶対に見ないから」
「あ……う、うん」
コウキは耳まで顔を真っ赤にし毛布を手渡すと、そのまま背中を向ける。
ヒカリも顔を赤く染めながら、コウキの気遣いを無駄にするのは良くないと、手際よく帽
子と衣服、そして下着も脱ぎ捨てると、毛布で身体をくるんだ。
その後コウキも身につけているものを全て脱ぎ捨てると、ロープを洗濯竿がわりにし、お
互いが自分の衣類を干す。
作業を終えると、二人とも無言で毛布に包まって火の傍に身を寄せる。じんわりと体が温
かくなっていくが、今度は緊張がコウキを襲う。
まあ、無理もない。ジュンやバクにあることないことを言われはしたものの、やはり恋を
した相手が傍に居るのだ。
しかも、事情があるとは言え、毛布一枚の下は裸の状態で一つ屋根の下に居るのだ。落ち
着いていられるわけがない。
が、コウキは変な気を起こさないように、別の話題を振る。自分の煩悩をかき消したいと
いう考えもあったが、何より沈黙も辛かったからだ。
「……それにしても、ヒカリちゃん、珍しいね」
「え?」
「この島に来るなんて、初めてじゃない?」
「……うん」
コウキの言葉に、しかしヒカリは不意に悲しげな顔になる。
「……どうしたの?何か……あったの?」
「……コウキくん、ゴメン。あたし……此処に来たのは―――」
「さっきのエムリットを調べに来たんだよね?それは博士から聞いたよ。結局……何処か
へ行っちゃったけど」
コウキはヒカリの言葉に、苦笑しながら頭を掻くが、ヒカリは必死な表情で首を振った。
「そうじゃないの……博士ね、本当は……コウキくんに頼むって最初は言ってたの。
それを、無理して……あたしが、調査に……来たの」
「え……?」
コウキは、予想しなかったヒカリの告白に、虚を突かれたように目を丸くする。
自分の役目を、ヒカリが買って出た?何の為に……?そんなことがコウキの脳裏を駆け回る。
「どうして……?」
「……コウキくんに、追いつきたかったから」
「……僕に?」
ますます解らない、と言った風に首を傾げるコウキ。
ヒカリはコウキを見たくないのか、じっと燃え盛る炎を見つめ、口を動かし続ける。
「うん……だって、なんだか……怖かったの。コウキくん、あの日……シンジこで出会っ
てから、すごく強くなって、沢山のポケモンを見つけて……私はそれよりも前にポケモン
を調べたりしてるのに……あたしよりも、ずっとずっと早く、強くなって行って……羨ま
しくてしょうがなかったんだ……そして今……コウキくんは、シンオウリーグを制覇した
チャンピオン……だから、コウキくんに、追いつきたくて……それで、エムリットを見つ
けたりできれば、ちょっとは……って」
「―――それで、こんな無茶を……?」
「……うん」
ヒカリの言葉を聞いたコウキは、複雑だった。
確かに彼女の言うとおり、彼は瞬く間に才能を開花させ、ついにはリーグの頂点にまで上
り詰めた。
他者から見れば、まさしく羨望や嫉妬の的となるのは間違いないほどに、常識外れた存在
だった。カントーやジョウト、ホウエンなどでも、同様にこの時期に前後して現れた、若
きチャンピオン達同様に。
だが……
「でも……僕は多分、一人じゃそんなことはできなかったよ」
「え」
「ヒカリちゃんはどう思ってるのか、正直僕には判らない。でも、僕は……一人だけじゃ
きっと此処に来るまでに挫折してた。ポケモンと一緒でも、辛かったり苦しいことがあっ
たり、博士に謝って、旅を辞めようと考えたことだって……でも、その度に、一緒にスタ
ートしたジュンに負けたくないって想い、博士や母さんが応援してくれてる事、それに何
より―――」
コウキはそこで言葉を切り、生唾を飲み込む。
そして、紅潮した顔でヒカリをじっと見つめ、意を決して述べる。
「ヒカリちゃんがもしかしたら、振り向いてくれるんじゃないか、って」
「あ……あたし―――が……?」
「うん―――僕は、君に認めて欲しかったんだ……本当は。それで一生懸命走り続けてた
ら、いつの間にか……そんな感じだったんだ。その所為か今でも、チャンピオンって呼ば
れても……実感がわかないんだ。なんて言えばいいんだろ……僕はヒカリちゃんのお陰で、
今こうなった、って感じなんだ。だからさ……」
真っ赤な顔で、途切れ途切れに呟くコウキに、ヒカリが今度は目を丸くする。
彼女から見れば羨望の的であった目の前の少年が、まさか自分に認めて欲しいから、結果
を出してきたなどとは思わなかったからだ。
ヒカリは顔を上げ、問い掛ける。
「……なんで、あたしなんかに……?わたし―――」
が、コウキは、不思議そうなヒカリの瞳をはっきり見つめて、即答する。
「ヒカリちゃんが―――好きだから」
「……!」
「こんな時に言われても、もしかしたら迷惑かもしれない。けど、今言えなかったら、き
っと永遠に言えない。だから、言わせて欲しいんだ。初めて出会ったときから、ずっと気
になってたんだ。信じられないぐらいに可愛くて、とても明るくて、僕に持ってないもの
を沢山持ってる、素敵な女の子。そして……一番、僕に元気をくれた……大好きな、大切
な人。―――他の誰かが、君の心の中に居るかも知れないけど……でも、もしかしたら、
それでも僕を見てくれると思ったから。大好きな君が……僕を見てくれるんじゃ、ないか
って……」
必死の思いでそこまでいい終わると、コウキは真っ赤になってヒカリから目を逸らした。
心臓が高鳴り、恥ずかしさで顔が火照る。言うんじゃなかったという思いに耐え、沈黙の
まま唇を噛んで顔を伏せ続ける。
が―――暫らくして、雨音に混じり、ヒカリのすすり泣く声が響く。
コウキはヒカリの予想外の反応に、思わず顔を上げ―――
「え……ど、どうしたの?ぼ、僕―――不味い事言った?」
「ち、違う……違うの……あたし……その……どういっていいのか……判らない……んだ
……。だって、あたし、あなたの想いに気付かずに、自分だけで意地張って……それで迷
惑かけて……馬鹿みたい……だから……嬉しいのに、情けない……こんなに嬉しいのに、
あたしの好きな人に、あたしを好きだって言ってもらえたのに……!」
「え、ヒ、ヒカリちゃん……?」
泣きじゃくりながらのヒカリの言葉に、コウキは一瞬自分の耳を疑った。
聞き間違いでなければ、ヒカリは確かに、自分のことを好きだと述べたのだ。
呆然とするコウキだったが、ヒカリは一度泣き出して自分の溢れる感情を抑えられず、涙
をこぼしながらさらに話を続ける。
「あたしは……本当は、羨ましいんじゃない……コウキくんが、自分の手の届かない場所
に行っちゃうのが、怖かった……だから、コウキくんにつりあいの取れるようにって……
なのに……結局迷惑かけちゃって……本当にあたし、馬鹿みたい……」
「ヒカリちゃん……」
「あたしも、同じ……みるみるうちに強くなっていって、でも、変わらず優しくて。あた
しが困ってた時、いつも助けてくれた……それに、ポケモン達が、本当に嬉しそうにコウ
キくんと一緒に居て……素敵だって……あたしも思ってたんだよ。いつか……憧れの人に
なってたんだ。コウキくんは、あたしにとっては……誰よりも素敵で、強くて優しい……
大好きな、人だよ……でも、あたしは―――コウキくんに……」
その時、コウキは、自分でも意識するよりも早く、ヒカリを抱き寄せていた。
自分を責める言葉を吐こうとしていたヒカリは、咄嗟の事に呆然となる。
「……迷惑掛けたなんて言わないでよ。僕は、ヒカリちゃんが無事だった、それだけでい
いんだ。無茶したことは困るけど……でも、だからって自分を責めないで。その方が……
僕は辛いから」
「コウキくん……」
「……だからさ、もう今回のことは、いいよ。それにその……怪我の功名っていうか……
その、お互い、正直になれて……」
「うん……わかった。ありがとう、コウキくん―――」
コウキの言葉と、腕の温もりに、ヒカリは漸く笑顔になり、涙を拭いてコウキに笑顔を見
せる。
その笑顔に、コウキも安心するが―――不意に、ヒカリが顔を近づけ、唇を重ねる。
暫し互いの唇が重なったまま時間が過ぎ……そして、ゆっくりと、名残惜しそうにヒカリ
が顔を離す。
キスが終わるまでコウキは呆然としていたが、何が起きたかを理解するまで数秒を費やし、そして今度は首まで真っ赤になって固まる。
「ちょ……ヒカリちゃん!?あ、あの……」
「だって……だってだって、嬉しかったんだもん……コウキくんが……あたしのこと、好
きだって……大好きだって……そう思ったら……」
「……そ、そう?」
「う、うん……で、でも、ちょっとやっぱりは、はしたなかったかな……」
慌てるコウキに、はにかんだ様な、恥ずかしげな、しかし―――心底嬉しそうな笑顔を見
せるヒカリ。
その輝くような表情に、コウキの全身が熱くなる。気分が高揚し、理性の楔が、僅かずつ
だが揺れ始める。
コウキはヒカリへ顔を近づけ、互いの吐息と匂いを感じることの出来る距離まで来ると、
口を開く。
「僕も……嬉しいよ、ヒカリちゃん」
それだけ囁くと、コウキはヒカリの背中に手を回す。纏っていた毛布が緩んで、むき出し
になっていたヒカリの背中にコウキの手が触れる。
柔らかな肌の暖かな感触に、コウキは心臓が脈打ちながらも、その背中をしっかりと抱き
締め、そのまま今度は自分からヒカリの唇を奪いにかかる。
「コウキくっ……ん、んっ……」
不意打ちを受けて、ヒカリは一瞬頭が白くなるが、彼女も無意識のうちに、コウキの感触
を腕に感じたいと思い、彼の背中に手を回す。
想像していたよりも大きな背中に、ヒカリの心臓もまた、強く脈打つ。
そして―――今度はコウキは、自分から唇を重ねたことで多少は余裕があったのか、ヒカ
リの唇の感触を確かめたくなり、無意識に舌を伸ばす。
舌先が僅かにヒカリの唇に触れると、ヒカリの背中が快感で泡立つ。
感触と、それに対する自分の肉体の反応に戸惑うが―――若さと、想いが通じたという高
揚感により、戸惑いよりも快感を求める心が勝つ。
ヒカリもコウキに呼応するように舌を伸ばすと、互いの舌をくすぐるように触れ合わせる。
互いの舌を通して伝わる、くすぐったいような恥ずかしいような感触と背徳感。
気持ちよくても、いけないことをしているという想いが、互いの体の芯を熱くしていき、
行為をエスカレートさせていく。
一分近く経過し、行為に夢中のあまり息苦しくなった二人が漸く唇を離す。離した唇から
は共に舌が半分ほどだらしなく垂れ下がり、先端からねばついた唾液が糸を引き、お互い
の肌に落ちた。
互いの手を背中に回したまま、ヒカリが熱に浮かされたような表情で、コウキの名を呼ぶ。
「コウキくん……」
「な、何?」
「……あのね、コウキくんのこと……コウキ、って呼びたいな、あたし……。ねえ、呼ん
で……いい?」
ヒカリにそう問われ、コウキは別段断わる理由もなかったので、首を縦に振り―――つい
でにそれならば、と自分も同じことを告げる。
「いいよ……そ、それならさ、僕も……ヒカリちゃんのこと、ヒカリ、って呼んでいい?」
「うん……いいよ。ヒカリ、って呼んで……コウキ」
コウキの言葉を、ヒカリは寧ろ待ち望んでいたか、快く承諾し、コウキの名前を呼ぶ。
「な、なんかくすぐったいな、ヒカリちゃ……じゃない、ヒカリ……」
「えへへ……恥ずかしいな……。でも、嬉しい……コウキ……」
「うん……僕も、同じ……嬉しい、ヒカリ……」
恥ずかしそうに、いとおしそうに互いが互いの名を呟き、再び唇が重なる。
今度は最初から舌を柔らかく互いの口の中に絡ませ、そして、お互いに形のいい歯茎をな
ぞりあい、舌の裏側をくすぐる。
何度も、何度も唇を重ねて互いの感触を確かめあっていくうちに―――互いの理性の箍が
激しく緩み始める。
唇を離すと―――ヒカリはコウキの耳元に顔を近づけると、恥ずかしいのか目をきゅっと
瞑り、緊張し掠れた声で囁いた。
「ね、え……コウキ……も、もっと……べつのことも、してほしい……」
「へ……」
「ん、んとね……ほ、ほら、その……だ、だめ、やっぱり恥ずかしい……ね、そ、その、
解るでしょ、コウキ……」
ヒカリはそれでも口に出すのは恥ずかしいのか、具体的な言葉を言おうとしては飲み込み、
よくわからない呟きを繰り返し、最後は涙声でコウキに縋る。
まあ勿論、コウキとてヒカリの言いたいことぐらいは解るし、彼とてそういうことは人並
み以上に興味がある。
だが、理解した故にコウキもまた、慌てふためいて焦る。
「ちょ……ちょっと、ヒカリ……!?で、でも僕あの……そういうの、し、したくないわ
けじゃないけど、痛くしちゃうかもしれないし、その……」
「そ、それでもいい……いいの……コウキとこうなりたいって、思ってたんだから……お
願い……今じゃないと……もしかしたらまた怖くなっちゃうかもしれないから……あたし
……コ、コウキと、結ばれたい……」
コウキは勿論経験などないし、何をするかはわかってはいるが、実際の女性のリードの仕
方など全くわからない。
だから、流石に止めようとするが―――その時、ヒカリは懇願するような視線を向け、そ
して何とか言葉を搾り出す。
彼女の視線に絡め取られ、彼女の「本気」を感じ―――そして何より、コウキは改めて彼
女に対し、強い欲望を抱く。
憧れの少女が、自分を好きと延べ、そして抱いてくれと懇願している。その想いに応えた
いと思う気持ちと共に、そう願うこの目の前の少女を乱し、己の欲望を満たしたいと。
勿論、この辺りを明確にコウキが心の中で自覚したわけではない。が、そんな感情が色々
混ざり合っていた。
ゆえに、コウキも覚悟を決める。
「……わかった。でも、痛かったらちゃんと言ってね」
「う、うん」
コウキの言葉に、ヒカリは相変わらず顔を紅潮させつつも、歓喜と期待で顔が綻ぶ。
そして、コウキはゆっくりとヒカリの体を覆う毛布を剥ぎ取った。
最初はヒカリは白い胸元を手で覆い、足を硬く閉じている格好だったが、すぐに恐る恐る
足を開き、手を床に付く。
膨らみかけの、けれどもしっかりとそのふくらみが確認できる乳房と、歓喜と欲情で硬く
なった桜色の乳首。
だが、それよりもコウキは、ヒカリの下腹部に視線を釘付けにしてしまっていた。
僅かに産毛が覆う秘所を覆う、ぬらぬらとした透明の液体。愛液とはっきりとは解らなか
ったものの、ヒカリが興奮していることは本能で理解していた。
割れ目の上部には、申し訳程度に顔を出したようなクリトリス。
「あ……あんまりじっと見られると、恥ずかしいよ……コウキ」
「あ、その、ゴメン……綺麗だったから」
「そ、そう……だったら、う、嬉しいな」
一度全てを曝け出し、ヒカリは多少は肝が据わったのか、慌ててヒカリの裸体から目を逸
らすコウキに、妖艶さをわずかに含んだ無邪気な笑みを見せる。
その声に、表情に、コウキの理性がひび割れ、自分の股間がどうしようもなく熱くなって
いる事に気付く。
(じ、自分でオナニーしてる時、こんなに痛いほど膨らんだ事ないのに……)
「……ねえ、私だけじゃ、不公平だよ」
「え?」
「コウキのも、み、見たいな……」
「あ……う、うん……」
コウキはそう言われると、確かに自分だけまじまじと、それこそ傍から見ていれば視姦し
ていると思えるほど食い入るように見ていたことに気付き、謝りながら自分も毛布を取り、
傍らに置く。
引き締まった胸部や腕、腰など―――常に野や山海をポケモン達と共に駆け回っているこ
とで、自然と鍛えられた均整の取れた肉体。
そして―――ヒカリが思っていたよりもグロテスクで大きな、しかしそれ以上に女性とし
ての疼きをかきたてられる肉棒。
それらを目にし、ヒカリの下腹部の疼きが激しくなり、自分の秘所からまた愛液が激しく
分泌されている事に気付き、動揺する。
「あ……う、コ、コウキの見たら……な、何でかな……わたし……お腹が熱い……」
興奮を抑える為にそう呟くヒカリに、コウキはゆっくりと体を近づける。
「ぼ、僕も……興奮してるよ。だから、怖がらなくていいからさ……」
「う、うん」
「……触るよ、ヒカリ」
「うん、お、お願い……コウキ。そ、その、やさしく……してくれると、嬉しいな……」
コウキはまず、ゆっくりとヒカリの胸に手を伸ばす。そして、軽く揉み解す。
マシュマロのような手触りに、きめ細かい肌の感触が、コウキの手に伝わる。
(う……す、凄い……)
初めての女性の感触に、ショックを受け、同時に興奮が益々高まるコウキ。
頭の片隅に、むくむくと暴走して心のままにヒカリを貪りたいという悪魔の囁きが響くが、
すぐに消し去る。
優しくというヒカリの言葉に頷いた以上、それを無視することは出来なかったという気持
ちもあるし、何より自分を強く慕っている少女を、大切に思う気持ちの方が勝っていたか
らだ。
コウキは出遭ったばかりのポケモンとのコミュニケーションを取るように、恐る恐る、し
かし心を込めてヒカリの体を愛撫する。
双丘の膨らみに手を這わせ、力が入らないように、優しく揉み解す。同時に掌で、硬くな
った乳首をすりすりと擦る。
「ひ……ふう……あ、はあ……」
コウキのぎこちないながらも、優しい感触の愛撫に、ヒカリの緊張が解れていき、喉の奥
で堪えていた声が自然と漏れる。
数えるほどしかないが、コウキを思い描きながら自分を慰めていた時とは違う、その想い
人に触れられているという感触が、ヒカリの理性を呆気なく崩していく。
「う、んっ……コ、コウキ……」
ヒカリが喘ぎ、体をよじらせる。その彼女の声や仕草に、コウキはおっかなびっくりしな
がらも、少しずつ愛撫を強め、ヒカリの心身をほぐしていくように心がける。
その脳裏に浮かんでいたのが、トバリで世話になっているポケモンマッサージ師のマッサ
ージの手つきとかだったりするのが、まあ彼らしいと言えば彼らしいのだが。
そんなやり取りを続けて……一時間ほど。ヒカリは秘部の裂け目が広がり、殆んど触れら
れた事のない陰核と陰唇が開き、分泌された愛液が表面を覆っている。既にコウキに裸で
向き合っていることの緊張感はほぼ消えている。
コウキもコウキで、時折キスをしたりしながら愛撫を続けていることで、同様に緊張は見
られない。
「……ね、ヒカリ」
「ふぁ、ふぁに……?」
緊張はしていなくても、快感に酔い意識が朦朧としてきたか、舌足らずの返答をする。
そのヒカリの耳元に、コウキが今度は囁く。
「そ、そろそろ……いい?下も……」
「あ……い、いいよ……」
コウキの言葉にヒカリが頷くと、コウキはヒカリの緊張をほぐすように首筋と頬、そして
唇にキスをする。
知識は伴っていなくとも、何だかんだ言ってこうして目の前のヒカリの表情を注意深く見
てコミュニケーションをとっていくことで、相手の求める事が理解できつつあるのだろう。
ポケモントレーナーとして、ポケモンたちと心を通じ合わせるための観察力や気遣いを応
用しているのかもしれない。
ヒカリの頷きは、コウキへの気遣いではなく、むしろ待ち望んでいたものが訪れたことに
対する歓喜を伴っていたゆえに、コウキも素直にそれに応じる。
裂け目に小指をあてがうと、先ずは反応を伺うために全体的に擦るように動かす。小指に
纏わりつく、白く泡立つ粘ついた愛液と共に指を動かすと、かすかな水音とヒカリの震え
が伝わる。
「やぁ……コ、コウキ……」
初めて自分以外の人間に触れられることへの恥ずかしさと期待感に、ヒカリが思わず上ず
った声を上げる。
その声に、自分の下腹部が疼くが、とりあえずは自分よりヒカリ優先を心に決めている為
に、ヒカリに見えないように自分の体をきつく抓り、何とか性欲を抑える。
そして、遂に自分の肉体を、ヒカリの中へと侵入させる。小指をゆっくりと秘部へと沈め
ると、つぷりっ……と音が響き、とたんにヒカリの体が雷に打たれたように震える。
「ふぅんっ……あ、ああ……!?」
(う……す、凄い反応……)
先ほどまでよりも大きな声を上げるヒカリの反応にどぎまぎしながらも、ゆっくりと指を
動かす。
中にまだ隠れ気味の小陰唇を擦り、そしてぷっくりと脹れあがったクリトリスを刺激する。
「ひぁんっ!ああ、そ、そこ……だ、だめだよぉっ……コウキ……」
「え?い、痛い?」
「そ、そうじゃ……いうっ……ああんっ!」
嬌声とも悲鳴ともつかぬ叫び。それと共に、ヒカリの瞳がぼやけ、妖しげな色に包まれ、
突然声が途切れる。
秘部から愛液がごぼり、と吐き出され、コウキの目にもヒカリが達したことがわかった。
白い肌は興奮と快感で桜色に染まり、肩で息をするヒカリを、コウキは愛撫を一旦止めて
かるく抱き締める。
「大丈夫だった?」
「ん……気持ちよかった。自分でコウキのこと考えながらしてるときより……」
ヒカリに声を掛けるコウキ。だが、呆然とヒカリがとんでもないことを言い出し、流石に
顔を赤くするコウキ。
が、ヒカリもヒカリで、どうやら無意識で言ってしまったらしく、慌ててコウキから顔を
背ける。
「あ、え……ち、違うの、今のは!ね、ねっ!?」
「う、うん……き、聞かなかった事にする……」
ヒカリの必死の声の迫力に押され、コウキは思わずぶんぶんと首を縦に振る。
「……な、ならいいけど。……ダメだよ、誰かに喋ったら」
「い、言わないよ!そ、そんな……第一話してどうするのさ」
コウキも真面目な顔でヒカリの言葉を否定し、それでヒカリも安心したか、それとも単に
コウキの顔や仕草がおかしかったか、顔をほころばせる。
「うふふ、なら……いいよ。……軽蔑とかしない?」
「しないしない!そ―――それよりも、どうするの?続き……」
「ん……こ、これじゃ足りない……それに、コウキは全然自分のことしてないじゃない」
「あ……そ、そういえば。わかった……じゃ、続き……」
コウキは指摘を受けて苦笑し―――そして、再びヒカリの秘部を愛撫を始め、すぐにまた
ヒカリの息が荒くなる。
その様子に、次に行っても大丈夫かと感じたコウキは、今度は小指と一緒に薬指を愛液に
埋もれた秘部の中へと侵入させ―――途端、ヒカリの顔が僅かに歪む。
「んあぁっ……!?」
困惑と、苦痛の声に、思わずコウキが手を引っ込め、ヒカリの顔を覗きこみ、心配そうな
顔をする。
指を抜くとすぐにヒカリの表情が元に戻るが、僅かに緊張している。
「あ……ご、ごめん、コウキ……」
「い、いや……ごめんね、僕も焦っちゃった。
少しずつにするから、力を抜いて……」
「うん、大丈夫……」
コウキは僅かに目に涙を見せながらも微笑むヒカリに僅かな罪悪感を覚え、故にそれを振
り切る為と、ヒカリの為に気持ちを切り替える。
再度ヨスガのマッサージ師の手つきを脳裏に思い描きながら、右手で指を入れ、クリトリ
スなどを弄る。
同時にヒカリをリラックスさせるように首筋や肩に舌と唇を這わせ、左手は興奮と快感で
熱を帯びた乳房を何度も愛撫する。
「あ、んうん……コ、コウキ……やぁっ……!う、ふぅえぇっ……」
痛みはないが、同時に複数の場所を責められたことで、ヒカリの意識はあっけなく快感に
支配される。
知識は乏しくとも、ポケモンに接するようにあせらず、真摯に、優しく触れてくる、そし
てポケモン以上に強い想いで愛するコウキに、ヒカリは恍惚にも似た状況だった。
羽化登仙とまではいかなくとも、ぎこちないながらも真摯なコウキの責めに、ヒカリの心
身が完全に蕩けていく。
そして、コウキもそのヒカリの感情を感じて、少しずつ秘部に入れている指を太くしてい
く。
薬指、中指、人差し指、親指―――最終的には、人差し指と中指、そして薬指を挿入して
動かしても、痛みを感じる声はしない。
コウキはクリトリスを左手で愛撫しながら右手を動かし―――既に仰向けに倒れこんでし
まっているヒカリの口から、歓喜の叫びが迸る。
「んううっ!ああ、コウキ……コウキぃっ!」
コウキの名を叫び、ヒカリが何度目かの絶頂に達する。既に床に大きな染みができている。
だが、それでも後から溢れる愛液と、桜色に染まった肌、なによりもコウキを見つめる瞳
の輝きは、ヒカリがまだ満足していないことを示している。
無論コウキも……いい加減自分の欲望を抑えるのに限界だった。ヒカリの表情が落ち着く
のを見てから、おもむろに口を開く。
「……ねえ、ヒカリ。そろそろ―――いい?」
コウキの言葉の意味することを理解するのに多少の時間を要し―――しかし、緊張する様
子もなく、嬉しそうにヒカリは頷く。
彼女の笑顔にコウキも意を決し、軽く頷くと、ヒカリの足の間に自分の体をもぐりこませ
る。
大きくヒカリの足を開かせ、ひくひくと蠢く陰核と小陰唇に、自分の陰茎の先端をあてが
う。先端が我慢汁でじっとりと湿っており、ヒカリの秘部と触れ合うとにちゃにちゃと淫
靡な音を響かせる。
すぐにでも突き入れたい欲望を何とか押さえ、今度は徐々に徐々に先端でヒカリの割れ目
やクリトリスを愛撫する。
互いの性器が擦れる感触に、双方共に顔を真っ赤にしつつも、今まで以上の興奮を抑えき
れず、互いの性器に視線を注いでいる。
そして、暫らくして―――先端がゆっくりとヒカリの秘部の中に入り込んでいく。
しっかりとコウキがヒカリを濡らしたお陰で途中まではスムーズに入ったが、一定の部分
まで貫いた時、ヒカリを痛みが襲う。
「う……ああうっ……」
声を必死に押し殺してはいるものの、額に脂汗が浮かび、痛みを堪えるように必死に耐え
るヒカリ。思わずコウキが腰を引こうとするが、ヒカリの腕がそれを押しとどめる。
「や、やだ……離れちゃ……」
「で、でも……」
「は、初めてだったら……こういうものって聞いたし……だ、大丈夫……本当にダメそう
だったら言うから……」
結合部から流れ出している愛液に血が混じるものの、ヒカリの懇願にコウキも折れ、ゆっ
くりと腰を動かす。
水音と、濡れた肉が擦れ合う重い音、そしてヒカリとコウキの荒い息づかいだけが小屋を
支配する。
表と、そこから見える空が僅かに白み始め、既に雨はやんでいた。行為が始まってから優
に3時間は経過していた。
そして、ヒカリが処女を失った瞬間から暫らくして、結合部に混じっていた血が殆んどな
くなり、ヒカリの表情から苦痛が消え始める。
「大丈夫?」
「う、うん……ありがと、コウキが優しくしてくれたから、あんまり痛くない……また気
持ちよくなってきたよ。それよりもコウキ……もっと……」
「あ、わ、わかった」
嘘ではなく、本当に苦痛の消えた表情と声のヒカリに、コウキは安心し―――そうすると、
その反動で性欲がむくむくと頭をもたげる。
ヒカリもそれを望んでいたか、さらにコウキのペニスがヒカリの中に沈んでいくと、ヒカ
リが嬌声を上げる。
「ふぅんっ……あ、熱いよぉ……コウキ……!」
「ぼ、僕も……気持ちいい……ヒカリ……」
互いに息を荒くし、喘ぎ声を上げる。コウキはヒカリの苦痛が消えたことで箍が外れたか、
ヒカリの足を開いてペニスを根元まで突き入れる。
そして、コウキもヒカリも、腰を動かして快感を貪り始める。
「んっ、ううんっ、コウキ、はあっ、ああっ……」
痛みは以前残っているが、コウキと結ばれた事による達成感や歓喜、そして痛みを上回る
快感が痛みを気にしなくさせている。
「ヒカリ、ヒカリッ……ぼ、僕も……」
「いいよ、コウキ……もっと、もっと強くして……!」
喘ぎながらヒカリは床に爪を立て、乾いた音を響かせる。
コウキも自身の性器を包み込むぬめりと熱、不規則に加えられる圧力に意識が朦朧とする。
まだ互いに幼いゆえ、限界はすぐに訪れ―――
「コッ、コウキ―――あああああっ!」
「う、うう……うあああっ!」
共に叫びを上げ、コウキの下腹部に強烈な射精感が襲い、ヒカリの中から自分の陰茎を引
き抜く。その瞬間に精液が迸り、ヒカリの全身を汚す。
三度、四度とコウキのペニスからの精液がぶちまけられたヒカリは、その生暖かいシャワ
ーを恍惚とした表情で浴びながら絶頂に達した。
無防備に開かれた足の間から、ヒカリの精液が溢れ、自分の性器からあふれだす蜜と、自
分の乳房や顔を汚し流れ落ちるコウキの精液を、不思議そうな、そしてどこか楽しげな顔
で眺めていた。
数分ほど、コウキは無言で呼吸を整え―――その時、二人の顔に朝日の光が当たる。
丁度、夜が明けたのだ。
遠くからポッポやオニスズメ達の鳴き声が響き渡る。既に雨もやんでいたことで、精一杯
羽根を伸ばそうとしているのだろう。
(あー……何時の間にか朝になっちゃってたんだ)
コウキはその鳴き声や朝の光を感じながら、自分達が行為に夢中になり、眠る事を忘れて
しまっていたことに漸く気付く。
もう火も消えており、灰のつもる囲炉裏には、わずかに赤い点のような火が残るのみ。
が、コウキは暫らく心地良い脱力感に包まれていたが、流石にヒカリをこのままにしてお
くわけにもいかない。
「ヒカリ、ちょっと待ってて、何か拭くもの探してくるから」
「そ、そうだね……ゴメン、お願い。……腰が抜けちゃって、暫らく立ち上がれそうにな
いから」
ヒカリはまだ焦点の定まらない表情でそう呟き、コウキは急ぎ立ち上がる。
窓の外から、小屋の周囲には大雨で息を潜めていたらしいポケモン達が一斉に姿を見せは
じめるのが視界に入る。
コウキもそれをのんびり見ているわけにも行かず、タオルの類が無いか部屋をくまなく探
す。
光が差し込んでモノを探しやすくなっており、すぐに顔や体を拭くためのタオルが見つか
る。
コウキは数枚を手にすると、思い切り汚した床と、ヒカリの体を丁寧に拭いていく。
「ゴメンね」
「い、いや……大丈夫だよ。気にしないで」
済まなそうな顔のヒカリに、コウキは笑顔で応じ―――だが、無防備な状態のヒカリの体
を拭いていると、コウキの股間がすぐにむくむくと膨らむ。
が、流石に立て続けに行為に及ぶのもいかがなものかと自分に言い聞かせ、我慢する。第
一、ナナカマドにヒカリが無事であった事も報せなければならない。捜索を頼むとも言っ
ていた。
その辺りの事情から、のんびりと二人きりでいちゃつき続ける事も出来ないので、ヒカリ
を綺麗にすることを終えると、すぐに衣類に袖を通す。
まだひんやりとしてはいるが、びっしょりと濡れているわけではなく、生乾き程度だ。
そそくさと袖を通すと、ヒカリにも視線を向ける。
「さ、ヒカリも服を着て。足はそういえば大丈夫?」
「ん……足はなんとか大丈夫。大分痛みは引いたかな。でも……そっか、あたしもコウキ
も荷物どっかいってるし、ポケモン達も居ないから、のんびりしてられないんだった……
もっとコウキとエッチなことしたいかな、なんて……」
「そ……それはまた、今度……」
照れくさそうに、出発することを名残惜しいと、頬を染めながら漏らすヒカリに、またコ
ウキの理性が揺らぐが、コウキは苦笑して軽く受け流すにとどめる。そうしないと本当に
またヒカリを押し倒してしまいそうだったからだ。
とりあえず二人とも衣服に袖を通し、使った毛布を片付け、タオルは外にある井戸の水で
ゆすいで軒に干す。
そのあたりの後始末を追え、いよいよ小屋をあとにしようとしたその時―――木々の奥か
ら、ふよふよと黒と白の影が近づいてくる。
「コウキ、あれって……」
「もしかして……僕のユキメノコと、ムウマージ?確かに崖から下りる時に出してたけど
……おーい!」
コウキはヒカリの言葉に、自分のユキメノコとムウマージと思い、大声で叫ぶ。
向こうもコウキの声に気付いたか、スピードを上げて近づいてくる。やはり、コウキのユ
キメノコとムウマージだったらしく、怒った様な心配そうな声を出してコウキに擦り寄る。
「ゴメンゴメン、でも、ヒカリも無事だったし……ん?それって……」
「コウキとあたしのカバン……もしかして、持ってきてくれたの?」
コウキとヒカリが、揃って二匹の背中に漂うバッグに気付く。見ると、モンスターボール
などを入れた二人の荷物入れだ。
ユキメノコとムウマージは、コウキを探す一方で、バッグなどを回収してくれていたらし
い。
二人とも何度もお礼を言いながら、荷物の中身を確認する。びしょぬれではあるが紛失し
ているものはなく、モンスターボールも全部揃っていた。
「これなら、とりあえずファイトエリアまでは帰れそうだ……助かった、本当にありがと
うな、ユキメノコ、ムウマージ」
「ホント……ありがとう」
ユキメノコもムウマージも照れくさそうに体をくねらせ、笑顔を見せる。
そして―――コウキはムクホークを、ヒカリはトゲキッスをモンスターボールから取り出
すと、そのまま背中に飛び乗って空に舞い上がる。雨が酷くないので、二匹ともたやすく
木々を掻い潜ると、上空へと飛び出した。
225番道路には晴れた事によりちらほらとトレーナーの姿があり、それらを見下ろしな
がら二人ともファイトエリアのポケモンセンターに降り立つ。
が、彼らは、その背中を、エムリットが見守っていたのには気付かなかった。
二人が遠ざかって行くのを満足そうに見送ると、エムリットは光の粒子と共に姿を消して
しまった。
こうして、一晩の出来事は終わりを告げた。
その後、ヒカリはポケモンセンターからナナカマドへ連絡を取り、ナナカマドもヒカリの
安否がわかり、胸を撫で下ろした。
ヒカリは雷が落ちることを覚悟していたが、ナナカマドも自分が許可した事などの理由で
あまり強く言わず、もう無茶はあまりしないでくれと述べる程度で終わった。
その時にヒカリはナナカマドからの指示で一旦研究所に戻り―――コウキはそれを見送る。
で……数日後。
サバイバルエリアのフレンドリーショップに、コウキは足を運んでいた。
バクと共に一度足を踏み入れたハードマウンテンに向かうためだ。
先日バクは、コウキと共に山に向かった時に持ち帰った火山の置石を、何だかんだ言いな
がら漸くハードマウンテンに戻しに向かった。
持ち帰ってからハードマウンテン周辺で小規模な地震が頻発しており、火山の噴火がまこ
としやかに囁かれていたのだ。
故に、手にした張本人が重い腰を上げ、偶然傍にいたジュンと二人で戻しに行ったのだが
―――バクとジュンはそこで、とんでもないものに遭遇したという。
伝説のハードマウンテンの主、ヒードランだ。
彼らは置石を戻すどころではなく、準備も万端と言えなかったため、慌ててハードマウン
テンを脱出した。
そしてその話は、あっという間に島に足を運ぶトレーナー達どころか、シンオウのみなら
ずカントー、ジョウト、ホウエンなどにも響き渡る噂になり―――そして、多くの人間は
ヒードランを目に焼き付ける、またはゲットすると意気込んだのだ。
足を運んだ人間の中には各地方で顔の知れた者たちも何人もおり、サバイバルエリアはま
るで合戦の前夜とも言うべき、高揚感と気迫に溢れた雰囲気が漂っている。
コウキも、その空気を醸成する一人だった。その為に、フレンドリーショップで山ほどア
イテム、自分やポケモンの食料を買い込んでいた。
周囲もハードマウンテンを目指すグループが物凄い勢いで品物を購入しているし、外には
ヒードラン取材のテレビスタッフも多数駆けつけていた。
「しかし、物凄い人だな……一人で大丈夫かな」
会計を済ませて、荷物を整理しながら、ふとそんなことを思う。無論コウキもいっぱしの
トレーナーではあるので情熱や意志は負けない自負はある。
だが、難所であるハードマウンテンを一人で踏破し、その上でヒードランと対峙となると、
恐ろしく厳しいことにはなるだろう。
以前バクと共に最奥部まで到達した時は、二人も、二人のポケモンも満身創痍だったのだ。
今回は一人、しかも、最深部のヒードランや、途中で勝負を申し込んできかねないライバ
ルとなる競争相手多数との戦いも待っている。
けれども、ここであれこれ考えていても始まらない。第一、既にかなりの人数がサバイバ
ルエリアからハードマウンテンに向かっているのだ。
よし、と自分を鼓舞し、サバイバルエリアを出ようとしたその時―――
「一人で行くの?コウキ」
背中に、声がかかる。彼が振り向くと―――そこには、ヒカリの姿があった。
傍にはトゲキッスを従えている所を見ると、どうやらファイトエリアから今飛んできたと
言ったところか。
コウキは連絡も特に受けておらず、ここ数日も忙しくて連絡がつかなかったため、ヒカリ
が目の前に居ることにただただ驚いていた。
そのコウキの思考を読んだか、ヒカリはコウキが何故と言う前に、自分から口を開いた。
「あのね、博士やお父さん達と相談して、コウキと一緒に行動したらどうだ、って」
「え!?ほ、本当に!?」
「うん。あたし、今回の事でまだまだ未熟だし、もっと経験を積まないといけないと思っ
たから、自分でも。そのことを、博士と話してて……それで、コウキならよく知ってるし
……多分私の知ってるトレーナーの中で一番頼りになるから、もしコウキがいいって言う
なら、そうしろ、って。でね……」
ヒカリは、コウキに自分が此処に居る理由を述べ―――その上で、頬を染めて、言った。
「コウキが嫌じゃなかったら、お願いしたいんだけど……いい?あたし―――ずっと一緒
にコウキと居たい。
たくさんコウキと色んな所に行って、色んなポケモンに出会って……そして、大好きな人
と、一緒に居たい」
何と言うか、傍から見ればプロポーズの様な言葉ではある。
そして、その告白を受けたコウキは―――
「も、もちろん!ヒカリと一緒なら―――どこにだって行けるよ!
僕から、お願いしたい位だよ!断わったらその……ば、罰が当たる」
即答した。考えるより早く、ヒカリの言葉に頷いていた。
その様子に、ヒカリがおかしそうに、しかしとても嬉しそうにころころと笑う。もうその
表情には翳りは無い。
「……もう、大げさなんだから、コウキってば。でも、嬉しい……これから、たくさんコ
ウキと一緒に居られるのって」
「僕も嬉しいさ、すごく。―――じゃあさ、早速悪いけど……」
「解ってる。ハードマウンテンに行くんでしょ?博士にも、見てきて欲しいって頼まれて
るし。頑張ろう、コウキ」
そう言って、ヒカリは右手を差し出す。
コウキも差し出された手を握り締め、そして歩き出す。
新しい―――二人の旅路を。