その頃のハードマウンテン入り口の広場―――
噴火がひどくなり、既に警備の人間以外が離れている。
「ご、ご覧ください、長年噴火をしていなかったハードマウンテンが、激しい地震を伴い
巨大なマグマの柱を吹き上げています!
このままでは……周囲一帯にマグマが流れ、ポケモン達や住人の生活圏に甚大な被害が
及ぶことも考えられます!しかし、大自然相手に手立ては―――」
顔色を青くして、カメラに向かって叫ぶように喋るレポーター達。が、その騒ぎを他所
に、三名がハードマウンテンへと駆け出していく。
「チッキショー!ここには居ないのかよ!?」
「くそっ、コウキの奴、居ないとなると……やっぱり……」
「彼のことだから―――もしかしたら、封鎖されてても中に居るのかもしれないわね。
第一……ギンガ団?それがどうこうって途中のトレーナーやレンジャー達が話してたし。
彼、あの人たちと因縁があるんでしょう?だったら、頭に血が上っても不思議じゃない。
やさしそうだけど、それだけに怒ったら怖そうだし……かなり思い切った行動に出てる
のかも」
「ああ、その通りだよ……ええい、だけど一人じゃよ……」
その声の主は、ジュンとバクと、もう一人―――俗に言うゴスロリ姿の少女。静水のご
とき落ち着いた雰囲気を漂わせている。
少女もまた、コウキと面識があるトレーナーで、名前をマイと言う。口数が少ないもの
の、ポケモンに対しては人一倍情が深く、また、その腕も確かだ。今も、彼女のよきパー
トナーであるウインディを連れている。
ちなみに、コウキがハードマウンテンに向かったため、それをサポートしようと一日遅
れで出発したバクとジュンを、マイがサバイバルエリアで捕まえて行動を共にしているの
だ。もっとも、ジュンとバクがコウキの名前を出したのを耳ざとく聞きつけたマイが、半
ば強引にチームに入ったのだが。
マイの言葉に、焦ったような声を出すジュン。彼らも、ハードマウンテン麓でギンガ団
が騒ぎを起こして、その結果ハードマウンテンが封鎖されたという情報は得ている。だが、
コウキがギンガ団を発見したことや、その後内部へ潜り込み、今まさに今回の騒動の元凶
となった者達と対峙していることは知らない。加えて言えば、ヒカリと共に行動している
ことも。
「あいつなら心配ない……とも言い切れねえよな……何せ一人なんだしよ。中に居るとし
たら、この噴火の状況じゃやばいことになってるかも知れねえし。
しかし、ギンガ団がどうしていまだにのさばってやがる!?」
「首領のアカギが槍の柱から消えて、何も言っていないからよ。
カントーのロケット団は、首領のサカキが解散宣言を出してから姿を消しているけど、
こっちは本当に幹部ごと一言もなしに消えてるから。
だから、残党が変な気を起こして暴走したって何もおかしくないわ」
ジュンが怪訝そうに声を出すが、それに対してマイが自分の考えを述べる。彼女の見解
に対して、バクもジュンも納得の表情を示した。
「それはとにかく、コウキの姿が見えないってことは多分ハードマウンテンの中に居ると
思うし―――それに」
「それ……火山の置石?もしかして」
「ああ。俺がほうっておいたことも原因の一端かもしれないし、何とかしてこれを元の場
所にもどさねえと」
バクがリュックから取り出した、一抱えもある石に、マイが反応を示す。
白い一見何の変哲も無い岩だが、時折中に赤い輝きが見える石―――火山の置石だ。
バクは置石とハードマウンテンを見比べながら、焦った様子で呟く。そうしている間に
も、数度火口部からマグマが吹き上がっている。しかも、徐々に吹き上がる量が増えてい
るのだ。
「そうね……多分このままだと、大噴火が来ると思う。
何かするんだったら、それまでに」
「でも、潜りこむったって……」
「入り口もだいぶ混乱してるから、チャンスはあると思うぜ。
隙を見て潜り込むしかない。崩落してるったって、入り口は人が通れるぐらいの隙間は
ありそうだしな」
三者共に頷き、入り口の隙をうかがう。
混乱の状況にあるからこそ、ガードは固そうであり、もぐりこむのは難しそうだ。が、
少し経過すると、ジュン達の背後が大きくざわめき始めた。
「何だ?」
ジュンはそう思いながら、騒いでいる声の方向を向き―――
「ムクホーク、ツバメ返しでクロバットを叩き落とせ!」
「こちらのほうが速い!クロバット―――あやしいひかりをムクホークへ放て!」
ハードマウンテン中心部、戦いの口火を切ったのは、ギンガ団残党リーダー。
高速で飛び回るクロバットの瞳が輝き、螺旋を描く光がムクホークの眼前を飛び回る。
ムクホークは攻撃をクロバットへ仕掛けようとしたが、光に意識を混乱させられ、己の
顔を翼で打ってしまう。
「く……!?」
「悪いが、このクロバット、伊達ではないぞ。
メタグロス、コメットパンチでムクホークを攻撃しろ!!」
ふらつくムクホークへ向けて、メタグロスが動く―――ムウマージよりも早く。見ると、
脚部の一本に、こだわりスカーフが巻いてある。
そして、無防備なムクホークへと、メタグロスの鉄爪が勢いよく振り下ろされ、まとも
にムクホークが吹き飛ぶ。
「く……ムクホーク、戻れ!ムウマージ、クロバットへ10万ボルトだ!」
予想外に鍛えられている男のポケモンの力に出鼻をくじかれ、コウキが焦る。
ムウマージが電撃をクロバットへと放つものの、クロバットは耐える。かろうじて。ム
ウマージも信じがたいと言うような顔をする。クロバットの予想外のしぶとさに。
コウキは頭の中で戦法を組みなおすと、次のポケモンを出す。
「ドダイトス、出て来い!」
コウキの声と共に、巨体を震わせてドダイトスが姿を現した。雄たけびと共に背中の葉
が舞い落ちる。
「ふん、その鈍重なやつで何をすると?まあいい―――メタグロス、今度はムウマージに
コメットパンチを叩き込め!クロバット、お前はドダイトスを眠らせろ!!」
だが、男の言うとおり、すばやさはコウキ側のポケモンが負けている。鈍重なドダイト
スの相手をクロバットに任せ、無傷のムウマージを今度は沈める腹積もりだ。
こだわりスカーフを巻いている所為でメタグロスは同じ技しか出せないが、破壊力で押
せば十二分にムウマージをしとめられるとふんだのだろう。一気に勝負を決めに動く。
再びメタグロスの鉄爪がうなり、鋼の一撃がムウマージを打ち据える。が―――ムウマ
ージは耐える。
「ぬ!?」
男の表情がわずかに動く。ムウマージが巻いていた気合の鉢巻が発動し、かろうじて倒
れることを防いだのだ。同時に、クロバットの攻撃も、ミスしていた。双方の視線が交わ
りあったことで催眠術が決まったのだが、眠りに落ちる瞬間、口の中にためていたラムの
実をドダイトスが噛み砕き、意識を覚醒させた。
「ムウマージ!もう一度、クロバットに十万ボルト!!」
力を振り絞り、ムウマージは電撃を放つ。電撃がクロバットを絡めとり、今度はクロバ
ットは地面に落下し、ひくひくと動くだけになる。
次に、ドダイトスが地震を放つ。ムウマージはふわふわふと浮いているゆえに攻撃を受
けないが、メタグロスはまともに受ける。しかも―――当たり所が悪かったか、一撃で動
きを止め、その場に崩れ落ちる。
立て続けに二匹を失い、男の表情が一瞬歪む。だが、すぐに平静を取り戻し、コウキと
彼のポケモンを威嚇するような視線を向ける。
「……!!いいだろう―――戻れ!そして出て来い、マンムー、カイリュー!!」
男も表情を厳しくし、懐から取り出したモンスターボールを放り投げると、新しいポケ
モンを出す。
そして、ヒカリも戦いの真っ最中であった。2VS3というかなり変則的、そしてヒカ
リとっては単純に数の上で不利な戦いだったが、彼女もうまく立ち回る。
エンペルトがフライゴンの放った地震をかろうじて耐え、冷凍ビームを叩き込んで一撃
でフライゴンを沈める。そのお返しとばかりにギャラドスとドラピオンが集中攻撃でエン
ペルトを叩き伏せるものの、サーナイトが10万ボルトを放ちギャラドスをも沈める。
ギンガ団側は、沈んだポケモンの代わりに、今度はドサイドンとジバコイルを出してく
る。やはり例に漏れず双方ともかなり鍛えられているようである。
が、ヒカリも決して弱いわけでもなく、経験も少なくは無い。冷静に呼吸を整えると、
エンペルトを引っ込めてピクシーを呼び出す。
ギンガ団の一人がドサイドンへと指示を下す。
「ドサイドン、砂嵐を起こしてしまうのです!」
「そしてジバコイル、ピクシーへラスターカノンです!!」
砂嵐にも平然としながら、今度はジバコイルが動く、三つのユニットを回転させながら
エネルギーを溜め、銀色の閃光をピクシーに向けて放つ。が―――ピクシーはジバコイル
の一撃をしのぎ、ジバコイルをにらみつける。
「ピクシー、大文字をジバコイルへ!サーナイト、きあいだまでドラピオンを!!」
ピクシーは大分ダメージは大きいものの、両手にエネルギーをため、巨大な炎を放つ。
同時に、ピクシーの身に着けているいのちのたまが光り輝き、その炎は勢いを増した。
まともに炎に包まれ、ジバコイルが苦しげにユニットを動かす。が、ジバコイルもその
一撃で沈むほどやわではなかった。何とか耐える。
しかし―――サーナイトのきあいだまがドラピオンを直撃し、背中からひっくり返って
そのまま意識を失う。これで、ヒカリは手札を一枚、ギンガ団三名は手札を三枚失った。
「ぬ、ぬうっ!?こいつ強いぞ!」
「なぜだ!?マーズ様の足元にも及ばなかった奴が!」
「コウキの背中を守るには―――あたしだって強くならなくちゃいけないんだから!
あんたたちにやられて泣きべそかいてる暇は無いのよ!」
「やかましい!ワレワレの崇高なる目的を理解できぬ奴め!これからが本番です!」
ヒカリの思いがけない強さに戸惑う残党達。それに対し、シンジ湖で足手まといとなっ
たつらい思い出をばねとして今此処に立っているヒカリが啖呵を切る。が、三名も気迫は
衰えておらず、次の作戦を練りはじめる。
が―――その時、今までを越える揺れがハードマウンテン全体を襲い始める。
場の人間とポケモン全員が動きを止め、中央部のこの部屋にも亀裂が走る。
(不味い……この揺れのひどさじゃ、僕達全員が出られなくなる可能性が―――)
コウキの危惧を示すように激しさを増す揺れ。そして大空洞には、各所から溶岩が噴出
し始めている。このままでは、傍目にもその場の全員が崩落に巻き込まれるなり、マグマ
に飲み込まれるなり、出られなくなる可能性が高い。
コウキはポケモン達への指示を考えながら周囲を見渡し……一点を見て、動きが止まる。
彼の向いている視線は、火口部へとつながっているであろう天井近くの横穴。そこに、
いつの間にか、何かが張り付いており、コウキ達を鋭い目で睨んでいる。
4つ足の、マグマのような肌に、4本の手足。トカゲのような体つき。体表表面は高熱
なのか、周りの空気が陽炎のようににじんでいるようにも見える。
ハードマウンテンの主、そして炎と煉獄の王、ヒードランだ。見かけによらぬ器用な動
きで壁を降りてくる。四肢の爪が岩に食い込むような形で、垂直に近い壁でも平然と動け
るのだろう。
ある程度まで近づくと、突如ヒードランが壁を蹴り、落下してくる。
重い音を響かせて、コウキたちの前に降り立つと、低いうなり声を上げて全員を威嚇す
る。ヒードランが呼吸をするたびに熱気が部屋の中に渦巻き、肌がちりちりと焼けるよう
な熱気に襲われる。
が、ギンガ団残党達は、ここで出てくることは想定の範囲内だったらしい。リーダー格
の長髪は、不敵な笑みを浮かべてヒードランを見つめる。彼やコウキのポケモンは、ヒー
ドランの出現に驚き茫然自失といった状況であり、一時休戦となっている。無論、ヒカリ
達もだ。
長髪男は懐から不気味な色のボールを取り出す。モンスターボールではないらしい。大
きさはハンドボールほどもあり、突起部分をつかんでいる。
「さあ、炎の王よ!我等が力となれ!!」
男はボールをかざすと、ヒードランの頭上に投げる。ボールが割れ、中から電磁ネット
が飛び出し、ヒードランを電気の檻で拘束する。
全身を電撃が這い回り、ヒードランが怒りの声を上げる。
「ふん、そう簡単に戒めは解かれはしない!我等ギンガ団の科学力を甘く見ては―――」
が、ヒードランを拘束するネットはそう簡単には外れない。その様子に、男が勝ち誇っ
た声を出し―――
一同の頭上から、冷たい風がいきなり吹き付けてくる。
「え……!?」
風にヒカリは頭上に視線を転じて―――言葉を失った。
悠然と降り立つ、青き冷たき翼―――そう、カントーからシンオウへと向かった、伝説
の三匹の鳥ポケモンの一匹、フリーザーだ。
冷たく澄んだ鳴き声を響かせ、ヒードランとコウキたちに視線を交互に向けると、その
まま手近な岩場に降り立つ。
「リ、リーダー!!あれは……」
「カントーの氷の支配者……なぜそれが此処に!?」
ギンガ団もこれには肝を冷やしたらしく、長髪男も目を丸くする。しかし、その間に更
に事態が動く。フリーザーに続き、この部屋に更に二つの翼が降り立つ。
無論、カントーからフリーザーと共に飛び立った、サンダーとファイヤーだ。それぞれ
力漲る視線を一同に向けている。
ヒードランが咆哮し、全身を真紅に染める。体内を駆け巡るマグマの熱を、勢いよく放
射し始めたのだ。その結果、ヒードランを拘束する機械が熱で機能を停止し、あっさりと
拘束を打ち砕く。
予想よりも遥かに容易く拘束を解かれたことに、ギンガ団全員が混乱する。
「こ、こうもあっさり!?」
「く……伝説を制するには、やはり同様に伝説より生まれたものでなければ無理と言う事
なのか……いや、単純に我等だけの設備で作れるものでは限界があったか……
お前達、撤退するぞ!」
が、リーダー格の男はすばやい決断を下し、すぐさま己のポケモンを戻し、他の三名に
も指示を出す。彼の声に他三名もすぐに冷静さを取り戻したか、ポケモンを戻すと長髪男
同様にその場から逃げていく。
「待て!!」
「―――今回は我等の敗北だ、だが次はこうは行かぬ!
伝説に生きる者達の強さも見ることができた……今度は同じ轍は踏まぬ。
覚えておくがいい、怨敵よ!我々はまだ、牙を失ってはいない!」
コウキが鋭い叫び声をあげて制止しようとするが、長髪男は言葉と共に懐から複数の煙
玉を取り出すと、勢いよく地面に叩きつける。
不快な臭いと煙が勢いよく噴出し、コウキとヒカリ、そして彼らのポケモン達が苦しげ
に咳き込む。
「げほげほっ……く、苦し……何これ……!?」
「煙玉に何か化学物質でも仕込んでたのか……畜生……!
だが、今はヒードラン達の方を……」
コウキはヒカリに声をかけつつ、ヒードランの方に向き直る。
拘束具であった破片が、ヒードランの足元で焼け焦げ、あるいは煮沸したようにどろど
ろに溶解している。おそらくは、ヒードランの放射した高熱だ。部屋の温度もすさまじく
上昇しており、ギンガ団との対峙やファイヤー達の出現による極度の緊張状態で今まで意
識していなかったが、気を抜くと意識を失いそうなまでの高熱が部屋に渦巻いていること
にコウキは気づく。
汗が滝のように流れ、顔の端の汗が蒸発して塩の欠片が肌に張り付いている。
コウキは自分達の生命の危険を感じ、すぐさま外に出ようとするが―――その時、ヒー
ドランが徐々にコウキ達へと近づいていくる。強烈なプレッシャーを発しており、比喩な
しに一歩ヒードランがコウキへ近づくたびに、身体に感じる熱が高まる。
息をするのも苦しいほどに温度が上昇し、視界がぼやけ始める。が、コウキはヒードラ
ンが敵意や殺気を発していないことにその時初めて気づく。また、ファイヤー達の視線も、
コウキに向けられていた。まるで―――何かを推し量るかのような、そんな視線だ。
(……まさか、試されているのか……?)
根拠も何も無いが、コウキはそう感じ、同時に己の直感を信じ、力を抜いてヒードラン
に顔を向けると、そのまま近づいてくるヒードランの視線を受け止める。
「コウキ……!?な、何やってるの、逃げないと―――」
「……大丈夫だよ」
「だ、大丈夫、って……」
「解らない。けど、なんだか―――あの時に似ているんだ。
パルキアと向かいあった、あの時の感じと……
そして、最後にパルキアは納得してくれた。だから今度も―――大丈夫なはずだ」
「でも!」
「僕を信じてくれ―――ヒカリ」
コウキの言葉に、ヒカリも確かに槍の柱の時と同じ気持ちを味わっていた。
何かを求め、試すようなパルキアの、コウキを見ていた視線―――それを、ヒードラン
やファイヤー達から感じていた。しかし、コウキはこうしている間にも、ヒードランの熱
を至近距離で浴びて、肌が赤くなってきている。肌が露出した部分が炎症を起こし、産毛
の焼ける嫌なにおいが鼻に絡み付いてくる。だから、コウキを大切に思うがゆえに、ヒカ
リは苦しげな声を出す。
が、それでもコウキは、ヒカリに軽く微笑みかけると、再びヒードランを見つめる。
そして、一分ほど視線が絡み合い―――突如、ヒードランが踵を返し、ゆっくりとコウ
キから遠ざかる。
ヒードランの視線から解放されたコウキが、緊張が抜けたことで一気に疲労が出たのか、
後ろに倒れ掛かる。それをヒカリと彼らのポケモン達が抱きかかえる。
「コウキ!」
「あ……ごめん、ちょっと力が抜けて……」
「もう……心配させないでよ……」
とりあえず命には別状は無いが、相当体が熱くなっており、塩分でざらついた肌のコウ
キを、涙目で睨むヒカリ。信じてはいたが、やはり心配な気持ちのほうが強かったのだろ
う。コウキもヒカリの気持ちを感じ素直に謝り―――
その時、急激に部屋の温度が低下し、コウキとヒカリの熱と汗が引いていく。フリーザ
ーが突如羽ばたき、冷気で部屋を満たし始めたのだ。
同時に、フリーザーの羽が、鈴のような音色を発し始め―――コウキの火傷が治ってい
く。癒しの鈴の音色だ。
ただし、カントーに住まうというフリーザーは、この力は手にしていないはずだ。遥か
離れたオーレ地方にも存在すると言うフリーザーが使う特別な力であると。
コウキもヒカリも驚き―――だが、動いているのはフリーザーだけではない。サンダー
とファイヤーも突如羽ばたき、ファイヤーは大空洞へ、そしてサンダーはハードマウンテ
ン上空に向かう。
ファイヤーが大声で鳴き、マグマの溢れる大空洞を一瞥する。すると、みるみるうちに
マグマが勢いを弱めていく。
上空のサンダーは、ハードマウンテン上空を旋回しながら、低い声で長い鳴き声を発す
る。声が響くたびに、上空に雷雲が導かれ、すぐさまスコールのように激しい雨がハード
マウンテン一帯を襲い、火山灰で覆われた大地を洗い流す。
そして、ヒードランも動く。火山の置石があった場所に陣取ると、全身を真紅に染め上
げ、地面に四肢をめり込ませると、腹の底からの雄たけびを上げる。
すさまじい迫力と力の脈動に、コウキもヒカリも思わず縮み上がる。そこに、別の人間
の声が響く。
「コウキ、大丈夫か……って、あれ、ヒカリ」
「ジュンくんにバクくん!?それに……」
部屋に入り込んできたジュンとバク、そしてマイにヒカリが声をあげる。ただ、ヒカリ
はマイのことは知らなかったので、戸惑いの色を見せる。そこに、コウキが今度は声を出
し、ジュン達とマイを交互に見やる。
「マイ―――どうしてここに!?」
「……この二人があなたのことを話してたから気になったの。
でも……ヒードランが居るとは思わなかったわ。それに……フリーザーも。
表でこっちに来たのは解ったけど、まさか対面するとは思わなかったわ」
「それに、大空洞でマグマに阻まれてどうしようと思ったら、いきなり飛んできて火口に
入ったファイヤーが出てきてマグマを鎮めちまったからな……びっくりしたよ。加えて、
亀裂からマグマが染み出てきて、亀裂をふさいで行くし……」
マイとバクの説明に、コウキもヒカリも顔を見合わせて、改めてヒードランとフリーザ
ーを見つめる。
ちなみに、彼らはファイヤー達にレンジャーが驚いた隙を突いて入り込んでしまってい
る。多分後で怒られるだろう。
「まさか……ファイヤー達って……」
「ハードマウンテンの異変を察知して、此処に来たってことなのか?」
コウキとヒカリの問いかけには、ヒードランもフリーザーも無反応だ。だが、否定する
ような気配を漂わせては居ない。
そして、彼らの発言を、マイが肯定する。
「……おそらくは、ね。
ヒードランのあの行動も、おそらくはハードマウンテンを修復するために、己の力を山
に注いでいる故……多分だけど。
でも、もう終わったみたい」
「え……」
マイの言葉に、他がヒードランの方向を見て―――既に元通りの金属とマグマの部分が
混じり合ったような体表に戻っている事に気づく。そして、サンダーとファイヤーも、フ
リーザーと共に手ごろな岩の上に陣取ると、一同を見据える。
「う、す、すげえ……伝説が4匹並んでるなんて、早々見れるモンじゃねえぜ……」
「全てが荒ぶる自然を体現する伝説達だからねー……なんかかしこまっちゃうって言うか、
圧倒されるって言うか……
で、どうするの?コウキ―――ゲットに挑戦する?」
バクが熱に浮かされたような目つきで4匹を見つめる。無論、他も同様だ。冷静なマイ
ですら、頬がわずかに紅潮し、目を潤ませている。その時、当初の予定を思い出したヒカ
リが、おもむろに聞いてくる。だが―――コウキは首を横に振る。そしてヒカリもそう思
って居たのか、「やっぱり」と言いながら肩をすくめて苦笑する。他三名もそれで納得し
たのか、短く頷いた。
「まあ、正直僕にはまだ……無理だろうからね。目の前のポケモンと共に戦うには、未熟
だよ。それに、今回は迷惑もかけたし。
だから―――今度また出会うような時があったら、そのときは挑ませてもらうよ、ヒー
ドラン」
コウキのその言葉に満足したか、ヒードランは彼らに背を向けて、ゆっくりと壁を登り、
横穴に入っていく。
ファイヤー、サンダー、フリーザーも一度だけ互いに視線を交わし、そして悠々とハー
ドマウンテンを飛び立ち、空の彼方へと消えていった。その姿を、全員呆然としながら見
つめ―――
「そういやヒカリ、コウキと一緒に行動してたのか?」
が、最初に我に返ったらしいジュンが、ヒカリのことを口に出し―――不意を突かれて
コウキとヒカリが共々顔を赤くする。が、ジュンもバクも、フリーザーが冷やしたとはい
えまだまだ熱気が篭るこの部屋の温度ゆえと思っており、気にしては居なかった。
ただ、マイは意味深な視線をコウキとヒカリ双方に向け―――
「……ふうん」
「な、何?」
ヒカリに向けて小さく呟くマイに、ヒカリはちょっとだけ鼻白むが―――
「……コウキが好きなの、なんとなく解るわ。彼も優しい人だけど、あなたも」
「え……?」
「ポケモンは、その人の映し鏡。
あなたのポケモンは、嫉妬するほど―――素敵だもの」
マイに思いもよらない形で褒められ、ヒカリはまた頬を紅潮させる。
「そ、そう……あ、ありがと。そういえば自己紹介がまだだったよね、ゴメン。
あたしヒカリ―――そ、その、今はコウキとチーム組んでる」
「私はマイ。チャンピオンロードで助けてもらったことがあったの、彼に。
……別に、彼は変なことしていないから、安心して」
「あ、い、いやその……うん、解ってる。ちょっとだけびっくりしたけど、コウキはそん
な人じゃないよね……」
「そうね」
それと共に緊張がほぐれたか、ヒカリはマイへ改めて自己紹介をし、マイも自分とコウ
キの関係を説明し―――僅かに微笑む。
ヒカリも話し方や表情に最初こそ気圧されたものの、目の前の少女もまた、コウキやジ
ュン、バク同様に強く深い愛情を有するトレーナーと言うことを理解し、マイに好感を抱
き始めていた。
その様子に、コウキもほっとするが―――とりあえずハードマウンテンから出ようと提
案し、一同は入り口に戻る。
案の定、入り口もきちんと修復されており、中をレンジャー達が何が起こったのかわか
らず、こわごわと覗いている姿が、一同の目に映った。
そして、一同が中で起こったことを報告し―――ついでに一同も絞られたとまでは言わ
ないが無茶をしすぎと注意は受け―――その上で、ギンガ団への手配などが行われた。
一通りレンジャーや警官に説明を終えてから、待っていましたとばかりに入れ替わりに
テレビクルーが一同を取材を求めに来たが、それには短く断りを入れると、さっさとバト
ルゾーンへ向けて飛び立ってしまう。何よりも疲れたから、とにかく休みたいという気持
ちがあったのだ。ジュンはムクホーク、バクはエアームドに、マイはプテラで空を舞って
いる。
「でも、よかったのか?逃げてさ」
「……目立つの嫌いだから」
「僕達も、疲れてるのになんやかや言われるのも面倒だし」
「それに、博士にも報告しなくちゃ」
「だよなあ。俺もコウキ達が無事ってわかったら途端に疲れちまったしさ……
今日は早く眠りたいぜ」
「ははっ、まーそうだよなー。
なんにせよ、これでめでたしめでたしってことだぜ」
「……でも、あなたが置石を持ち帰ったのがそもそも……」
ポケモンの背に乗りながら話す一同だったが、最後にのうのうとそう言ってのけたバク
を、ジュンとマイが冷たい視線を送り、ヒカリとコウキも呆れ顔になる。ついでに言えば、
もちろんバクは置石を戻していない。そこまで言って置石を置いてくることをしていない
のに気づいたぐらいである。
言ってからしまったと思った後には遅かった。バクはごまかし笑いをするが、マイにじ
ーっと睨まれる。かなり怖い。ゆえに最後はバクが降参する。
「わかったよ!今度こそ戻してくるよ!!一人で!!
ちくしょー、こんなことならあれを持ち出すんじゃ無かったよ」
「……僕まで頼って、手に入れたら僕を差し置いて帰ったのはどこの誰だよ」
「あきれたわ」
「ったく、どーしよーもねえ奴だぜ」
「今回だけはジュン君に同意せざるを得ないわ……」
が、またもバクは最後に墓穴を掘ってしまい、バクの乗るエアームドも心なしかあきれ
たような顔をしている。
こうして、一連のハードマウンテンの騒動は、ギンガ団残党は行方知れずではあるが、
それ以外は元通りに戻り、とりあえずは大円団と言うべきだろうか。
で、その夜。
バトルゾーンのポケモンセンターにて―――
『そうか……ハードマウンテンを、ヒードランとファイヤー、サンダー、フリーザーが修
復したというのか』
「ええ。少なくとも、僕もヒカリも、あの場に居合わせたジュン達も同様に感じていまし
たから」
『荒ぶる自然の化身である存在が……いや、自然はすべてそういうものだな。
豊穣と破壊……ううむ、興味深い話だ、さっそく今回の話は論文にさせて提出するつも
りだ。そのときは、場合によってはお前達にも手伝ってもらうかもしれんから、その時は
都合が付いたら頼みたい』
「それはもう、こちらこそ」
『うむ、すまない。では、ヒカリにもよろしく言っておいてくれ。こちらは大丈夫だから、
これからも旅を続けて欲しい、とな。
それでは、疲れているのにすまなかった、またな』
「はい、博士」
コウキはそう言って、画面のスイッチを切り、ナナカマドの顔が消える。
ハードマウンテンの出来事を早速ナナカマドに報告していたのだ。そして、報告が終わ
ると、大きく伸びをする。
ヒカリは今はコウキの傍には居ない。あの後、ジュン達と別れ、まず二人は宿泊施設で
部屋を取り、荷物を置き、食事を取り―――で、ヒカリは先に戻り、コウキが報告という
形なのだ。
報告も終わり、ヒカリの待つ部屋に向かおうとする……はずだったが、何かを思いつい
て、そそくさとポケモンセンターを出て、バトルゾーンの町を歩く。バトルタワーに集う
つわもの達同士の試合を見ようと、多くの観光客が訪れている。加えて、ヒードランがお
目当てであったと思しき人も。その人ごみを掻き分けて、コウキはバトルゾーンの裏路地
をきょろきょろと辺りをうかがいながら進む。
そして―――目当てのものを見つけ、周囲に人が居ないことを確認すると、すばやい動
きでお金を入れ、品物を自動販売機から取り出し―――
「なんだ、ずいぶんと色気づいたものだなあ」
が、コウキが安堵した瞬間、後ろから間延びした声が掛かり、思わずコウキは前のめり
に倒れる。そして、混乱した表情で声のしたほうを見ると―――そこには、クロツグの姿。
バトルゾーンタワータイクーンにして、ジュンの父親であり、コウキもかろうじてバト
ルタワーで勝ちを拾えた一度しかまだ彼には勝ったことが無い。
それほどの凄腕のトレーナーなのだ。
「クロツグさん!?な、なんで!?」
「何でも何も、私は今はタイクーンなんだからこの島のこの街にいることはおかしくない
だろうに。しかしまあなんだ、コンドームか……ついに色気づく年になったか」
混乱するコウキに、クロツグはしみじみと呟く。
コウキが買っていたのは、コンドームであった。それも、自動販売機の。
バトルゾーンに何故こんなものがと思う人も少なくないだろうが、ここは前述どおり、
多くの凄腕のトレーナー達が集い腕を競い合う場所だ。そして、それらを見に来る者も
少なくない。その中には、もちろん若い男女も少なくないのだ。
また、戦いに赴く中には、恋人同士でチームを組んだりしてバトルタワーに挑む者と
て少なくないのだ。
そういった人間の集う宿泊施設に、こういうものを取り扱う自販機は、表立っては置
けないが、ちょっと人目に付きづらい場所であれば決して少なくないのだ。
まあ、その辺りの事情をクロツグは理解しているらしく、別段変に騒ぎ立てたりする
こともなく、普通にコウキに接する。
「まあなんだ、チャンピオンを破ったと言うことで顔も売れているが、こういうことに
気を配るんならば、まあ君は女性を大切にする性格ということだな、うむ」
「え、ええ、その……」
「ま、野暮な詮索はしないさ。私も気晴らしの暇つぶしとはいえここをうろついている
時点であんまり大きなことも言えないしな。ここで猛者どもを相手に毎日を送ってると、
時折女房の顔が見たくなってしまったりするよ。
それはいいとして、とりあえず、相手が誰かは知らないが、相手を悲しませないよう
にな」
そして、戸惑うコウキに、クロツグは朗らかに笑いながら、再びバトルタワーへと戻
っていった。コウキは呆然としつつも、決して少なくない量を買い込んでいるので、そ
れを別の人間に見咎められないうちにリュックに入れると、一目散にポケモンセンター
の宿泊施設へと戻る。
「お帰りなさい、コウキ」
「うん、待たせてゴメン」
「いいよ。私もちょっと散歩したり買い物しながらゆっくり帰ってきたんだし」
部屋に戻ったコウキを、既に先に戻ったヒカリが出迎える。
コウキもリュックを手近な場所に置くと、疲れ切ったように溜息を吐く。
「しかし、ハードな一日だったねえ……」
「まさかギンガ団が出てくるとは思わなかったなあ……でも、ヒードラン以外の伝説の
ポケモンを見ることができたし、新しい友達もできたしね。
もっとも、あんな可愛い子と知り合いだったってのは、ちょっと気になるけどね〜」
ちょっと意地悪な視線と共に呟くヒカリに、コウキが苦笑いを見せる。
「ま、まあその……」
「ふふ、冗談。コウキがいろんな人に好かれてるのは、あたし嬉しいから気にしてない」
が、ヒカリはすぐに表情を戻すと、朗らかに笑う。ちょっとしたコウキへの意地悪を
してみたかっただけのようだ。コウキは胸を撫で下ろし―――
「それにしても、ホント今日は疲れた……だけじゃなくて、汗だらけでさすがに辛かっ
たわ……。蒸し風呂かサウナに強制的に放り込まれるんだから……」
「火山灰と汗と熱まみれだったしねー……
ヒカリ、シャワー先に使う?僕は荷物の整理とかするから後でいいよ」
が、ヒカリの言葉に、コウキも同意する。何せ火山灰の降り積もるハードマウンテン
を歩き回り、その後は結果的にとはいえヒードランの熱攻めだ。しかもコウキの場合は
フリーザーに火傷は治してもらったとはいえ、高熱を浴びせられている。蒸発した汗や
焼けた産毛の嫌なにおいが全身に漂っている。
ただそれでも、ヒカリも相当苦しいゆえ、コウキはレディファーストと言うことで先
に汗を流すように薦めるが―――ヒカリはちらりとコウキを見て不満げな顔になる。
「……一緒にって言わないの?」
「え?あ、い、その……さすがにそれは厚かましいかなって」
「そういうものなのかなあ……まあ、そこら辺もコウキのいいところかもしれないけど。
じゃあ……一緒に入ろ、コウキ」
ヒカリの言葉にコウキが顔を赤らめ首をぶんぶんと振る。
その様子にヒカリは微笑みつつ―――頬を紅潮させ、そう切り出した。
狭いシャワールーム、水垢だらけの姿見に、ひび割れたタイル。
排水溝にシャンプーの泡と、出しっぱなしのシャワーの水が吸い込まれていく。
「ん……く、うん……」
シャワーの音に混じり、ヒカリの切なそうな、くぐもった声が狭いシャワールームに
反響する。
コウキとヒカリは抱き合ったまま唇を重ね、その上でコウキの右手がヒカリの秘部を
指で愛撫する。
流石にヒカリが触れて欲しい部分が感覚でわかってきたか、コウキは迷い無く指を動
かす。肉襞を優しく撫で、クリトリスを指の先で摘むと、ヒカリの身体ががくがくと震
え、コウキの背中に回した手に痛いほどの力が入る。
「あひ……コ、コウキ……激しっ……!」
「……ハードマウンテンでのお返し」
「で、でもこんな―――」
前二回よりも速いペースでの攻めに、ヒカリが意識を白濁させながらうめくが、コウ
キは短く意地悪く呟くと、再びキスで口をふさぐ。舌を伸ばし、喉に近い部分や奥歯の
辺りを舌でなぞり、人差し指と中指を割れ目に差し込んで軽くかき回す。
口と性器を蹂躙され、激しい快感が襲い、思考が停止する。
コウキが唇を離すと、苦しげにヒカリが息をしながら、そのまま床にへたり込んでし
まう。達した時のショックで腰が抜けたのだろう。
「う……ふぇ……」
そして、コウキにちょっと怒ったような視線を涙目になりながら向けるヒカリに、流
石に意地悪をしすぎたとコウキが謝る。
「も、もう……いきなり……コウキの馬鹿ぁ……!」
「あ、ご、ごめん……」
「……むー……謝るだけじゃ許さない。誠意で示してよ」
「え?で、でも……どうやって」
ヒカリの言葉にコウキが困った顔になり―――ようやくそこでヒカリが視線を和らげ
る。もっとも、今度はかなり顔を赤くした上で、何かを期待しているような瞳だ。
「……そりゃもちろん、今日はあたしがその……満足するまで……」
恥ずかしそうに呟くヒカリに、コウキも顔を赤くし―――
「う、うん……がんばってみる」
戸惑いながらそう呟くと、二人ともそそくさとシャワーを済ませる。
身体を拭いてから、ヒカリもコウキもそのままベッドに向かう。既にシャワールーム
で一度達しているため、ヒカリは熱っぽい視線をコウキに送りながら、ベッドに仰向け
に寝転がると、恥じらいながらゆっくりと足を開き、自分の愛液で濡れそぼった秘部を
我慢できないように愛撫し始める。
コウキはコウキで、その様子に我慢できなくなりそうになるが、自分のリュックから
コンドームを取り出して、ヒカリの傍に来る。
「……いつの間に買ってたの?」
「さ、さっき……。その……なんか下手すると、我慢できそうも無いから……
前だって正直限界だったし」
「ふぅん……わかった、このまま待ってるから、準備できたら言ってね……」
そう呟いて微笑むと、ヒカリはコウキのペニスを横目で見つめながら、早く始めたい
という気持ちを抑えるために、自分を慰めながら我慢する。
コウキもその様子を理性を抑えつつ何とか自分のペニスに装着する。
無論、どっちが表か裏かを間違えて、一つ無駄にしてしまったのはご愛嬌だが。それ
でも割とすんなりと装着すると、ヒカリの傍に改めて近づく。
「ご、ゴメン、待たせちゃって」
「う、ううん……大丈夫。それよりも、今日は一度じゃ許してあげないからね……」
恐縮しながらコウキが呟くと、ヒカリは首を振り、そして妖艶に微笑む。コウキは見
たことが無いヒカリの表情に理性をかき乱され、そのままヒカリと繋がる。
潤滑剤と愛液ですんなりと進入し、そのままコウキはゆっくりと腰を動かす。ヒカリ
も入るときは多少構えてはいたが、感触に違和感は無く、すぐに快感が身体を支配し、
息を荒くする。
「大丈夫そう?」
「ん……変な感じはしないよ……大丈夫。
それよりもコウキ……動いて……我慢できないよぉ……」
ヒカリの言葉と表情に、我慢をしている様子は見られない。コウキはそう感じて安堵
し、同時に自分もいい加減理性がどうにもならなくなっていたので、遠慮なくヒカリを
攻め立てる。
コウキが腰を使い、時折膨らんだクリトリスに指を這わせる。コウキが身体を貫き、
性器を愛撫するたびに、ヒカリの口から声が漏れる。
「ん……ううっ……くあぁっ……!」
ヒカリの手に力が入り、掴んだシーツに爪を立て、乾いた音が響く。
コウキはヒカリの動作や声を聞くたびに下腹部が熱くなるが、できるだけ長くヒカリ
を悦ばせようと、自分の唇を噛み締めて達するのをこらえる。
そうしているうちにヒカリが達し、声を出す暇も無く脱力する。結合部から愛液が迸
り、シーツに粘ついた染みを作る。が、コウキのペニスに膣内をかき回され、そのまま
快楽の中に引き戻される。
「ぐぅっ……ああっ!!コ、コウひぃ……熱いよぉ……!
や、ああ、激しい……駄目ぇ……!」
「満足するまで、じゃ無かったの?」
「そ、そうだけ―――んんっ!」
苦しそうなあえぎ声を出すヒカリに、コウキは意地悪く呟く。
ヒカリはそれに何か言おうとするが、すぐに鳴き声に変わる。硬くなった乳首を弄り、
うっすらと熱で赤みがかった乳房を揉み解すたびに、ヒカリの声が大きくなる。
「んぐぅっ!!あああ……コウキ、コウキぃっ……!!」
「そろそろ―――僕も……ぐ、ぐぁっ……!」
ヒカリの声が大きくなり、そのままベッドの上での二度目の絶頂を迎える。コウキも
その声が引き金になり、下腹部に溜まった重いものを解き放つ。コンドームを付けてい
るとはいえど、ヒカリの中で解き放つという行為に強烈な征服感と興奮を覚え、何度も
中で射精する。
出し切ったと判断してからコウキがペニスを引き抜くと、思っていたよりも遥かに重
たいコンドームが出てくる。愛液でべっとりと濡れており、とりあえず外して自分のも
のをティッシュで拭き、更にティッシュで包んで使用済みのコンドームをゴミ箱に捨て、
そしてヒカリの方を見る。
胸を上下させながら、ぼんやりとした瞳でヒカリはコウキを見つめている。
「……どうする?満足した?」
「う……うん。コウキは……?」
「ん……まあ、ヒカリと一緒に気持ちよくなれたし、我慢しなくても良かったから、満
足できたけどね」
「そっかぁ……よかった。……ねえ、コウキ」
二人とも満足しているのか、惚けたような表情で呟き―――その時、不意にヒカリは
コウキを真剣な目で見据える。
「ん?」
「……大好きだよ」
「僕も―――ヒカリのこと、大好きだよ」
お互い見つめあいながらそう呟くと、唇を重ね―――
「流石に疲れちゃった……眠ろう」
「うん。……お休み、ヒカリ」
「お休み……コウキ」
そして、明かりを消して、二人とも寄り添って眠りに付く。
コウキとヒカリ、二人の手が、しっかりと触れ合い、絡まったままに。
そして再び目を覚ました後には、また―――二人の旅路は始まるのだろう。大切な者
の手を、互いに握り締めながら……