「あとどのくらいだ!?」  
「うん、もうすぐ着く!」  
「シロナさんとジュンはシロガネに着いたらしい。  
 ヒョウタさんとは話をつけてあって、協力してくれるらしいから心強いな!」  
「ええ、5人もいれば、ギンガ団だって…  
 あ、おーい!」  
 
航行高度をどんどん下げ、着陸する。  
ポケモンセンターの前で待ち合わせしていたシロナ、ジュン、ヒョウタが既に車に乗ってスタンバイしている。  
 
「それじゃあ行きましょう!  
 コウキくん、指示を出して!」  
「…ええ?俺!?」  
「なんだってんだよ、あったりめえだろうが!  
 ギンガ団が相手なら、お前が指示出すのが一番に決まってるだろうが!」  
 
前にギンガ団に敢然と立ち向かった姿を、ジュンはよく知っている。  
今回のギンガ団との戦いも、コウキが中心となるのが一番、というのはなるほど納得がいく。  
 
「僕たちは、コウキくんの指示通りに動くからね。」  
「…は、はあ…  
 それじゃ、とにかくテンガン山へむかってください!」  
 
バギーを飛ばし、クロガネシティを後にするヒョウタ。  
朝食のサンドイッチを用意してくれたらしく、口に詰め込んだ。  
 
 
「…すでにギンガ団がテンガン山の入口に見張りをつけているわね。」  
「いくらギンガ団の科学力でも、あかいくさりの複製品はまだできていないはず。  
 …複製品がテンガン山に到着し、中に運ばれ始めたら、俺たちも侵入を開始する。」  
「ラジャー。」  
 
ヒカリがクスクスと笑いながら了解した。  
こんな時に、よく笑っていられるな、そういいながら軽く頭をチョップしてやった。  
 
「もう、痛いよ。コウキ…くん。」  
(え?あ、そうか。ジュンは俺たちの関係を知らないもんな。)  
「なんだってんだよ、ヒカリ。どうして君付けする必要があるんだ?」  
「…へ?」  
「はあーあ、俺もなめられたもんだぜ。  
 コウキがずっと寄せていた思いが報われたことくらい、とっくの昔に知ってるぜ。」  
 
顔を真っ赤にする2人。  
シロナがクスクスと笑う一方で、ヒョウタはなんともいえないような顔をしている。  
自分もそろそろ彼女が欲しいな、とでも思っているのだろう。  
 
(たった今、トバリのアジトの研究室であかいくさりの複製品が完成したと、連絡が入りました!  
 サンプルとともに、複製品がこちらに運ばれてくるとの事です!)  
(了解した。引き続き連絡をとれ。)  
(はっ!)  
 
「あかいくさりが来るか…  
 コウキ!俺が先陣を切って、その輸送機を爆破してくるぜ!」  
「…ダメだ、ジュン。」  
「なんだってんだよー!指示を出してくれよ!  
 おまえの命令なしじゃ、俺たち動けないんだぜ!?」  
「…アカギの目的である、ディアルガとパルキアは、呼び出させる。」  
 
全員仰天した。  
ディアルガとパルキアの降臨は食い止めるものだと思っていたからである。  
 
「どうしてかしら?理由を聞いていい?」  
「たとえ呼び出せたとしても、所詮やつには異次元を支配するなど無理な話です。  
 以前は、異次元の扉すら開けなかった。だから、異次元を手に入れようとした結果があまりにも納得いかず、  
 結果を受け入れられずにアカギはあきらめることができなかった。  
 …だから、徹底的にやらせて、それでも無理だという事を、分からせる。」  
「世界は誰にも支配できない、というのは確かにそう思う。  
 でも、万が一ディアルガやパルキア達と共に暴走する、という可能性はなくはないんじゃないのか?」  
「仮にそうなったら、俺が責任を取って、奴らの暴走を食い止めます。」  
「そんなの、無理よ!」  
 
珍しくシロナが感情的になる。  
だが、コウキは首を横に振った。  
 
「でも、もしあかいくさりの輸送機を爆破していったん奴らのたくらみを食い止めたとしても、  
 懲りずにまたあかいくさりを作るために湖の3匹のポケモンを捕まえて苦しませてしまいますよ。  
 あいつらは、目的のためなら何度でも何度でも這い上がる連中。徹底的に無理だという事を分からせないと。」  
「…コウキくん、まさか、死ぬ気じゃないでしょうね。」  
 
ヒカリがビクッとする。半分その通りだからだ。  
だが、コウキはそれを軽く受け流す。  
 
「まさか。  
 いざとなれば、エムリットだって俺を助けてくれますよ。  
 …さて、そろそろあかいくさりが到着するころだ、行きましょう。」  
 
コウキが立ち上がり、気付かれないようにテンガン山の入口に近づく。  
シロナは、コウキに対して密かに持っている違和感を、拭い切れないでいた。  
 
「ふわあ…見張りも暇だな…ぐほっ!?」  
「ど、どうした相棒…ぐはっ!?」  
 
バタバタと入口のギンガ団の見張りが倒れる。  
後ろからコウキとジュンが不意打ちを仕掛け、気絶させた。  
ジュンは元々相当格闘が強かったが、コウキは悪魔のエネルギーで身体能力を大幅に上昇させることが出来る。  
 
「ポケモンを使わずに、2人ともやるわねー。」  
「見つかったら厄介だ、慎重に進もう。  
 間違っても、あかいくさりが到着する前にやりの柱に着いちゃいけないよ。」  
「ラジャー。」  
 
小回りを利かすためにヒョウタとシロナとジュン、コウキとヒカリのグループに分かれて進む。  
もちろん離れ離れになってはいけないから、お互いの位置を確認できる程度に離れて行動する。  
 
「…あの車は?」  
「何かの運搬車両のようだが…」  
 
(あかいくさりの運搬、ご苦労。)  
(D−5地点、こちら異常なし。D−5地点をいまから通過する。)  
 
「…あの中にあかいくさりがあるのか。よし、ついていくぞ。」  
 
ゆっくりと進んでいく。  
だが、そのD−5地点には、引き続き見張りが守っている。  
 
(いつあのコウキというブラックリストの少年がやってくるか分からないから、気をつけるぞ。)  
(俺、怖いよ…あいつ、チャンピオンだろ?勝てるかなあ…)  
(叩きのめせば、特別ボーナスが出るんだぞ!?もしここに来たら、絶対にポケモンバトルで倒すんだ!)  
 
「どーやら、俺たちの進撃を食い止めようってか。  
 …しかし、ポケモンバトルで倒すのは楽勝だが、通信機で俺たちの事を仲間に伝えられたら、厄介だな…」  
「さっきと同じ手で行く?」  
「うーん、かくれながらあいつのところに近付くには、岩場の数的に流石にちょっと厳しいな…  
 ヒカリ、アチャモを出してくれ。」  
「?」  
 
ルネシティの事件が一段落した直後に、アチャモを手持ちに加えていた。  
まさかその後にギンガ団と戦うなどとは思ってもおらず、手持ちを再び入れ替える余裕もなかった。  
 
「アチャモで戦う気!?無茶よ、流石にまだちょっと弱いし…」  
「どんなポケモンでも、かならず役に立つ。アチャモ、耳を貸して。  
 …。」  
「…チャモ?チャモチャモ!」  
 
とことこと歩いてく。  
 
「あ、アチャモ!」  
「隠れておけ、声が高い、気付かれる!」  
「モゴ…モゴモゴ…な、なんて言ったの?アチャモに。」  
「何にも。俺はただ、あいつの手に持っている通信機を焼いて来い、って言っただけだ。  
 まあ見ておけ。」  
 
アチャモは言われたとおりに見張りに近付いていく。  
2人のうち、通信機を持っている片方に近付いていく。  
 
「チャモチャモチャモチャモ…」  
「な、なんだ?」  
「こんな洞窟にアチャモなんて住んでいたか?」  
「チャモー!」  
「あ、あちあち…つ、通信機が!」  
 
通信機が焼け焦げる。  
それをみてしめたとばかりに、コウキの登場。  
 
「あ、お、お前は!」  
「通信機が壊れたようだな、もうこっちのもんだ!」  
「で、出て来い、ゴルバ…」  
「てめえらなんか、ポケモンを出すまでもねえ!」  
 
モンスターボールを投げる前に、腹に拳を一発お見舞い。  
もう片方の団員が殴りにかかるが、余裕でかわした後回し蹴り。  
 
「いっちょあがりい!」  
「コ、コウキ、強い…」  
「あいつ、昔は俺に喧嘩でさんざんやられてたのに…」  
 
 
…。  
 
「さっきから、アチャモに通信機を焼かせて、コウキが見張りをボコボコにしてばっかりね。」  
「アチャモは見た目が可愛いから、見張りが見ても警戒しないんだよ。  
 もし俺のドダイトスとかジュンのゴウカザルにやらせたら、姿を見た瞬間に警戒して通信機で連絡されてしまう。」  
「そういう意味じゃなくて!  
 なんでポケモンバトルじゃなくてコウキが戦ってるの?」  
「こうやって俺自身がパワーを使えば、少しでも悪魔のパワーを消費できるからな。  
 …少しは、な。」  
「やっぱり、100%放出するには…」  
「地球を壊す事を念頭に置かないとな。」  
 
途中にいるギンガ団は少なく、苦もなく気付かれずに進み続ける。  
以前の時はたくさんいる中を真っ正面から突破したため、相当へばってしまった。  
やりの柱では限界寸前で、ジュンが薬でポケモンを全回復してくれなければ、アカギに勝てなかったかもしれない。  
 
「さて、もうそろそろ頂上だ。  
 …さすがにちょっと見張りが多いな。ま、もうアカギのところに着くんだ、  
 もう見つかろうが見つかるまいが一切関係ないな。  
「でも、アカギに気付かれたら、すぐにディアルガとパルキアを呼び出すんじゃ…」  
「なあに、あかいくさりは届いた、俺たちがいようがいまいが、すぐに呼び出す。」  
「どっちにしろやられちゃうじゃない!」  
「だったら、呼び出される前に、一瞬でカタをつける!ジュン、シロナさん、ヒョウタさん、行くぜ!」  
 
もう、一瞬でカタがつかなかったら、おしまいよ!  
…ま、それもコウキらしいわね、よーし、コウキ、あたしも楽しませて!行けエンペルト!  
 
 
「さあ、さあ舞い降りろ、ディアルガ、パルキアよ!  
 2つのあかいくさりのもとに!時間と空間が、新たな次元を作り出す!  
 そこで私は理想の世界を作り上げたのち、この不完全な世界を滅亡させるのだ!ははははは!」  
 
ドカーン!  
 
「ん?」  
「あ、アカギ様!いつの間にか、あの子供が!  
 なぜかポケモンチャンピオンも一緒です!」  
「…マーズ、ジュピター、私がディアルガとパルキアを降臨させるまで、食い止めるのだ。」  
「はっ!いくわよ、スカタンク!」  
「ブニャット、あいつらを蹴散らしに行くわよ!」  
 
下っ端十数人とコウキ達が、激突していた。  
ユキメノコが、エンペルトが、ゴウカザルが、ラムパルドが、そしてガブリアスがギンガ団を蹴散らしていく。だが、  
 
「ヘドロ爆弾!」  
「悪の波動!」  
 
2つの強力な技に、一瞬怯む。  
 
「ちっ…流石にあの2匹は簡単には倒せそうにないな…」  
「なんだってんだよ!ちっ、コウキ、ヒカリ、雑魚は俺たちに任せて、あの2人を倒して来い!」  
「ええっ!?」  
「あの時と同じように、今度はヒカリとタッグを組めよ、コウキ!  
 あいつらを倒すのは、お前らが一番ふさわしいんだぜ!」  
「…言ってくれる。行くぞヒカリ!出て来いドダイトス!」  
「よーし、行きますか!お願い、トゲキッス!」  
 
ユキメノコとエンペルトにザコどもを任せ、マーズとジュピターと対峙した。  
2人の幹部に対して、怒りをあらわにし、覚醒する。  
 
「てめえら、なんにもわかってねえなあ…  
 アカギのやっていることがどれだけ愚かかも知らずに、何も考えずについていくなんてよお…」  
「あ、アカギ様の事をそんなに悪く言う奴は…」  
「許さない?…勝手にしろ、許してもらおうなんて思っちゃいないさ。  
 だが、その馬鹿さ加減には、流石にもう堪忍袋の緒がぶち切れたぜ!」  
「こ、コウキ!?」  
「ドダイトス、リーフストーム!」  
 
一瞬だった。  
いつの間にか装着していたコウキのバトルアーマーから、とんでもない威力の火炎放射。  
そしてリーフストームとのダブル攻撃で、一瞬で撃沈した。  
 
「…どけ。」  
「く、あ、アカギ様の邪魔は…うっ!」  
「ま、マーズ!?っ!?」  
 
2人の腹部に一発拳を入れる。  
そして、ジュン達も雑魚どもを全員蹴散らし、コウキの元に駆け寄ってくる。  
 
「やったな、さあ、急いでアカギを…」  
「…ジュン、シロナさん、ヒョウタさん、あとは俺たちに任せてくれ。…それが指令だ。」  
「なんだってんだよ、速く止めないと…」  
「言ったろ、あいつには、ディアルガとパルキアを呼び出させる。…そして、自分の愚かさを分からせる。」  
「で、でもやっぱり食い止めた方が…」  
「…ジュン。それ以上口答えしたら、いくらお前でもただじゃおかねえぞ。」  
 
赤く染まった瞳、渦巻くオーラ。外見を除き、ジュンが知っているコウキの姿はなかった。  
 
「…わ、わかった、行って来い…」  
「こ、コウキくん、ジュン君の言うとおり…」  
「そ、そうだよ、ぼくもジムリーダーとしてそう思う…」  
「やめておいてください、2人とも。…あいつはもう、コウキじゃない。」  
「え!?」  
 
ジュンが2人を腕を横に伸ばして制す。昔からの仲。コウキのことを一番よく知っているからこそ、  
ジムリーダーとチャンピオンをその一言で止めた。  
ジュンが自分の今の状態を理解したことを悟ると、ゆっくりとアカギのところに向かう。  
 
「…もう遅い、ディアルガとパルキアを呼ぶための布石は、すべて整った!  
 人間どもに、そしてコウキ、私にはむかう愚かなお前に、鉄槌を下してやるぞ!」  
「…勝手にしろ。  
 俺は、お前を止める気は、さらさらない。」  
「なんだと!?」  
「意外だったか?そうだろうな。  
 俺は、あんたのやることを、見届けに来ただけだ。」  
(コウキ…どう言うつもりなの…?)  
 
何か小さくて黒い影が近付いてくる。  
そして、2つの次元がねじれた渦が現れた。  
 
「時間の化身ディアルガ、空間の化身パルキア。  
 伝説の力を私自身の力とし、異次元の扉を開いてやる。  
 そこに生まれた次元空間で理想の世界を作り、この不完全な世界を…?」  
 
ディアルガとパルキアが次元の渦から現れる。パルキアとは久しぶりの再会。…ここまではいい。  
…その2体の間から、なにかどす黒い影が現れる。  
二つの黄色い光に、赤い逆三角。目と口に見えるが…  
 
「…これは…なんだ?恐ろしく強い力を感じる…  
 …ふは、フハハハハハ!いい度胸だ、伝説の力を我が物とするこの私に逆ららららららららら」  
「何、これ!?アカギ様!?」  
「あ、アカギ様を助けなきゃ!あの中に行くわよ、マーz…ぐほっ!?」  
「ジュ、ジュピ…がはっ!?」  
 
2人の幹部の腹に再びコウキの拳が入る。  
当分は気絶していることだろう。  
 
「お前らが言ったところで、どーなるもんでもねーだろ、行くぞヒカリ!決戦だ!」  
「え…?あたしも!?」  
「俺のそばにいるって言ってたろ、…たとえ命の危険を犯してでも。  
 まあ、無理強いはしない、こうなることはある程度予測できてたが、帰ってこれる保証はないしな。」  
「…たとえ死んでも、コウキと一緒に死ぬのなら、それでいいの。」  
 
2人とも覚悟を決めた、その時。  
 
「なんだってんだよ!2人だけ面白そうな事をよ!俺も行くぜ!」  
「ダメだ、ジュン。…これは、俺とヒカリで、肩をつける。  
 …これ、預かってくれ。俺がもし帰ってこなかったら…もらってくれ。」  
「こ、これ…モンスターボールのベルト!?ついでに荷物もか!?」  
「ジュン君、あたしのも、お願い!」  
「ちょ、ちょっと、なんだってんだよ!」  
「…いってくる、ありがとうな、10年間お前と居れて、楽しかった。」  
 
コウキがヒカリの手を引っ張って、異次元の世界に飛び込んでいった。  
シロナとヒョウタは、ただその様子を黙って見ていた。  
 
「なんだってんだよ!  
 シロナさんヒョウタさん、なんでとめなかったんだよ!」  
「止められそうにないのは、あなたが一番よく分かってたんじゃないの?」  
「…もう、彼らに任せるしか無いよ。僕らがあの世界に入ってしまったら…コウキくんの思いが、全て無駄になる。」  
「くそ…やっぱり俺も行く!」  
 
ジュンが全速力で次元の渦に飛び込む…が、その体は地面に激突。  
寸前のところで次元の渦が消えてしまった。  
 
「くそ…なんだってんだよ!  
 この世界と向こうの世界をつなぐ唯一の出入り口がふさがれちまっちゃ、戻ってこれるわけないだろ!」  
「…だから、彼の意志、彼のポケモンを頼む、って言われたこと。  
 その意志をあなたは、受け入れるべきじゃないの?」  
「なん…だってんだよ…」  
 
ディアルガとパルキアは、その様子を淡々と見つめ、そして…  
 
 
 
「ここは…なんだ?」  
「植物が逆さに植えられてて…地面が横にもあって…」  
 
何もかもが、今まで住んでた世界の常識を覆していた。  
横に地面があり、おかしな滝が見え、全ての地面が浮かび、そして、方向感覚を失いそうな雰囲気。  
もと来た世界との出入り口は、どこにも見当たらない。  
 
「横に地面っぽいのがあるなんて…変よねー、コウ」  
「ヒカリ、近づくな!」  
「へ?…きゃあっ!」  
 
横になっている地面に吸いつけられ、尻もちをつく。  
 
「あ、あれ!?どうなってるの!?」  
「個々の地面がそれぞれ重力を持っているんだ、うかつに行動すると、下手したらどこかに飛ばされてしまうぞ!  
 とにかく、このロープを腰に縛りつけろ、これで俺と離れ離れになることはない!」  
「あ、うん…」  
 
浮いている地面を渡っていく。  
不安定な空間、時が止まるような感覚、いつまでも明ける気配のない夜空。  
 
「ここ…植物で行き止まり?」  
「いや…」  
 
植物のある場所に足を踏み入れる。  
すると、植物がみるみるうちに地面に埋まっていく。  
 
「跡形もなく、消えちゃった…」  
「天然の迷路、と言ったところかな。とりあえずこれで進める。  
 こんな、俺たちの常識を覆した空間が存在したとはな…」  
 
(驚きましたか?)  
 
「い、今の声、何!?どこかで聞いたような…」  
「…ルネで、カイオーガの体を乗っ取っていたやつだ…  
 俺の悪のパワーを利用しこの世を滅ぼそうとする、『虚無』と名乗るヤツ…」  
 
(ふふふ、人聞きの悪いですね。私はただ、あなた方の世界を混沌の闇に陥れたいだけですよ。)  
 
「そうかい。  
 …そんなら、あんたの力でこの地面を動かして、あんたの目の前まで案内してくれねえか?」  
 
(…あなた自身の力でたどり着いてください。では、お待ちしています。)  
 
「なによー!ムカつくヤツ!」  
「…どーやら、自力で行くしかないようだな。  
 まさか、この世界にあいつがいるとは思わなかったが…なおさら好都合だ、行くぞヒカリ!」  
「うん!死ぬ前に、あいつをぶっ倒してから死にましょ!」  
「死ぬ気満々だな。」  
「そ、そういうわけじゃ…」  
 
ぴょんぴょん地面を飛び越えながら、先へと進む。  
…すると、いきなり地面ががコン、と揺れた。  
 
「なな、なんだなんだ?」  
「こ、これってエレベーター!?」  
 
途中の怪力岩、波乗りでないといけない場所。  
ポケモンを2人とも持っていなかったが、なぜか怪力岩は軽く、水面にはカッターボートが置かれていた。  
怪力岩の意味もしばらくしたらわかり、  
 
「…よし、これでいけるはずだ!」  
 
エレベーターの地面が降りて行く。…すると、そこにはアカギの姿が。  
 
「…コウキとやら。これはいったいどう言う事だ?」  
「これがあんたの理想郷、ってことだ。」  
「違う、私は」  
「これが、あんたの考えた方法で生み出された、空間なんだよ!」  
「…おのれ…許せん!私は再び、新たな世界をつくる!そのためにまた研究を再開する!」  
「まだ寝ぼけた事を…ちっ!  
 この世界を見せたらあきらめがつくと思ってあえて妨害しなかったが、全くの無駄だったようだな!」  
「ふん、言っておけ!  
 だが、ここで貴様らだけは潰しておく!」  
「きゃっ!」  
 
モンスターボールを構えるアカギ。コウキは今はポケモンを持っていない。  
 
「コ、コウキ、腹に一発パンチを入れてよ!」  
「流石にこの間愛からじゃ無理だ!…くそ、狂ってやがる、あいつ…!?」  
「ぐ、ぐおおおおおおっ!」  
 
突然アカギの体がぼんやり光りはじめ、宙を待った。  
アカギが苦しそうになる中、アカギの体から放たれる光はさらに強さを増し、そして…  
 
「き、消えやがった…」  
「テレポート!?」  
 
(…私が消したんですよ。  
 元の世界、元の次元にね。さあ、私はここです。この、地面で作った階段を、登ってきてください。)  
 
「…いいだろう。いくぞ。」  
「うん。…ねえ、コウキ。」  
「なんだ?」  
「…すごく怖い…抱きついて、いい?あたしを抱きつかせたまま、進んでくれない?」  
 
コウキは黙って首を縦に振る。  
コウキの胸囲を両腕で囲み、しがみつく。そして進んでいく。  
 
 
階段を2段、3段進んでいくと、そこで途切れていた。  
 
「ちょ、ちょっと、これ以上は進めないよ。」  
「…後ろを見てみろ、ヒカリ。」  
「き、消えてる!?今まで進んだ道とか…全部の地面が消えてる!」  
 
今この空間に存在する地面は、コウキとヒカリが経っている2m四方の正方形のみ。  
 
「どうでもいい事だろ。  
 …ギンガ団がやらかした事、その後始末。それが終われば、あとはどうなったっていいんだから。」  
「うう…覚悟は出来てても、怖いよ…」  
「…本当に、ごめん。」  
「それじゃあ、気のすむまで、泣いていい?コウキに抱きついて、泣いていい?」  
「ああ。  
 …さて、出て来いよ!この異次元世界の主さんよお!」  
 
目の前に何か黒いもやもやが現れ始めた。  
…そしてその中から出てきたのは、  
 
「…こ、こいつは!?  
 まさか、ポケモン…なのか?」  
「怖い…怖い…」  
 
姿が現れる。  
「虚無」という存在として、コウキを苦しませ続けたもの。  
「…こ、こいつは!?  
 まさか、ポケモン…なのか?」  
「怖い…怖い…」  
 
姿が現れる。  
「虚無」という存在として、コウキを苦しませ続けたもの。  
その正体は、…見た事のない存在、に他ならなかった。  
 
「ポケモン図鑑に…の、乗っている!  
 ギラティナ、はんこつポケモン…伝説上のポケモンだが、その存在を知っている人間がいたのか!」  
(おや、人間が呼んでいる私の名前を、知っていましたか。  
 私自身も悪くは思っていませんよ、その名前を。ギラティナ…いい名前ではありませんか。)  
「…で?なんで俺を利用しようとするんだ、あんたは?」  
(決まってるではありませんか。  
 …この反転世界から、あなた方人間の世界が混沌に渦巻くのを見たいからですよ。)  
「あんた、混沌が好きなのか?  
 だったら、俺たちの世界に迷惑をかけずに、この世界に混沌を作ればいいじゃねえか。」  
(この世界の空間は不安定。  
 それに、苦しみや憎しみが渦巻く混沌の世界にいる事なんて、私は嫌いです。)  
「…。」  
 
自分が嫌な事を他人にしていることを分かっていての事のようである。  
もはや怒りを通して、呆れかえっていた。  
 
(なので、今からあなた自身が抑えられなくなるくらいまであなたの悪魔のパワーを増幅させ、  
 あなたが抑えられなくなる寸前にここから人間の世界まで瞬間移動させます。)  
「…ヒカリは?」  
(その子は、悪魔のパワーを抑え込める可能性を秘めている。  
 送り返してしまったら、意味がなくなるではありませんか。せっかくの混沌が消え去ってしまうかもしれない。  
 …だから、この世界で私自らの手で、確実に処分します。)  
「…俺の、俺のヒカリに…」  
「コ、コウキ?」  
 
コウキが覚醒し、今まで抑えて続けていた自分の力を、  
 
「俺のヒカリを…許さねえ!」  
 
解放した。  
 
突風、波動、エネルギー。  
全てが解放され、ギラティナに直撃し、不安定な次元に影響を及ぼす。  
 
(な!?い、今解放されたら…)  
「俺は最初から、これが狙いだった!  
 ギンガ団に別次元への空間への入り口を作らせ、そこで俺のパワーをすべて吐き出す!  
 そうすれば、地球には何の影響もねえ!」  
(やめるのです!この次元は不安定、そんなパワーを解放したら、この次元はすぐに崩壊し…)  
「そうすりゃ、あんたも消え去ってしまう…それでいいじゃねえか。」  
 
ギラティナの言う通り、周りがぐにゃぐにゃになっている。  
地球でなら人類に影響は及んでも空間そのものに影響はなかっただろうが。  
 
(い、いいのですか!?その女の子も一緒にこの崩れゆく次元空間とともに、消え去ってしまいますよ!?)  
「ヒカリか?とうに死ぬ覚悟は出来ている。いまさら、この女に、何も気にする必要はない。」  
 
ヒカリは少しショックだった。  
だが、今のコウキの状態を考えれば、しょうがない。泣きながらコウキにしがみ続ける。  
 
(く…だ、だが、このパワーは私が望んでいたもの…この状態であなたを瞬間移動させれば…)  
「脅しのつもりか?出来るなら当然やっている事だろ。  
 俺のこのパワーは、伝説のポケモンですら抑える事が出来ないものなんだろ?」  
(…お、おのれ…  
 前の時、パルキアの力を利用して私の次元にちょっかいをかけかけたというのに…  
 先に手を出して、わたしのこの世界の平和を乱してきたのはそっちだ…)  
「ああ、前のパルキアとの出来事の事か。確かに、アカギが異次元の扉を開きかけてたな。  
 …だが、そのお返しにしては、やりすぎだ。」  
 
自分の体を巣食おうとしていた悪魔のパワー。  
苦しめられ続けたそれをすべて出しつくすべく、コウキはギラティナにフルパワーをぶつけた。  
 
 
…。  
 
「…ん?」  
 
目の前にはギラティナはいない。おそらく本当の意味で「虚無」になったのだろう。  
だが、今コウキがいる場所は、明るい。さっきの、ギラティナの世界は、夜みたいに割と暗かったのに。  
 
「こ…こは?」  
 
先ほど立っていた、2m四方の地面にいる、それは変わらない。  
そして、そばには、ヒカリが倒れている。  
…周りは見渡す限り白で埋め尽くされ、本当に何もない。何かにつながっていそうな道もない。  
 
もっとも、あまりにも眩しすぎる、という事はなく、適度に明るいおちついた白さ。  
視界に異常が起こり、気が狂ってしまいそう、なんてことはない。  
 
「おい…ヒカリ?大丈夫?」  
「…ん…」  
「お、起きた!ヒカリ、僕だよ、コウキだよ!」  
「ん…コウキ…た、助かったの?」  
「そうだよ!あの潰れゆく次元に巻き込まれずに済んだんだ!」  
「…コウキの、計算のうち、だったの…?」  
「あ、いや…本当は、ギラティナをやっつけた後、もしかしたら元の世界戻る次元の裂け目から出られる、なーんて…  
 少しだけそう思っていたから『生きながらえるかも』って言ったんだけど…  
 ここに来た後すぐに、次元の裂け目がなくなって、『あ、こりゃ死んだな』って…」  
 
ヒカリがクスクス笑う。  
実は、奇跡的に助かったのは、ヒカリのおかげなのだが。  
 
「…優しいコウキに、戻ったね。  
 優しい目つきに、優しい口調に、優しい雰囲気に、…優しい、体温に。」  
「ごめんね、ヒカリに、ずっと優しくできなかった…本当に、ごめん。」  
 
コウキを、助けたい。その想いが、ヒカリの内に秘めるパワーを解放させた。  
次元の潰れを食い止め、そして暗かった世界をヒカリで満ち溢れさせた。  
故に次元そのものはさっきと同じものだが…いずれにせよ、彼らがそれを知ることは、永遠にないだろう。  
 
「いいんだよ、…これからは、優しくしてね?」  
「うん…でも。」  
 
周りを見渡す。何もない。  
どう見ても、元の地球という次元に戻れそうな手段は、見当たらない。  
 
「死ぬのが、少し先延ばしになっただけ、だったりして。  
 とりあえず空間とともに消え去ることはなくなったけど、…それ以前に問題がある。」  
「え?」  
「僕たち、食べ物がないと、生きていけない。  
 ここには、そんなものはない、それに、荷物もモンスターボールと一緒に、ジュンに預けた。  
 …数日は持つだろうけど、じきに栄養失調で、死んじゃう。」  
「そ、そんな…」  
「ごめん。」  
「…いいのよ、コウキと一緒に死ぬって、最初から覚悟してたから。  
 それに何より、こうやって、コウキと一緒に落ちつける時間が残された…すごく嬉しい。  
 コウキと一緒に、空間の潰れに巻き込まれながら死ぬんだなって、思ってたもん。」  
 
…コウキは、ヒカリが何を言いたいのか、すぐにわかった。  
もうすぐその命を終える2人に、神様が残してくれた、2人のための、2人だけの、最後の時間。  
 
…お互いを想う2人がやることは、1つだけだった。  
 
 
服をすべて脱ぎすてる。  
周りには…いや、この次元には2人しかいない。2人だけの世界。  
 
「はむう…」  
 
故にエッチし放題。  
もっとも、それをしていられるのもあとわずかなのだが。  
 
「ちゅ…んく…」  
「おいしい?食べ物とかないから、コウキの唯一の栄養源なんだよね。」  
 
もちろん母乳なんて出ない。冗談である。  
それでもそんな冗談まで、すごくいとおしいと思える。  
 
「きゃ…つ、強すぎだよお!」  
「最後の晩餐、ってことだよ。」  
「あ、味わって、ね、コウ…あんっ!」  
 
軽くイってしまう。  
それを見たコウキが、自分のモノをヒカリの前に突き出す。  
 
「ヒカリと違っておっぱいは出ないけど…」  
「白い液、ってことには変わりないもんね、ありがと。」  
「でも、ヒカリと違って僕のは…」  
「はむ…おいしい。」  
「ほんと?」  
「コウキのは、なんでも、おいしいよ。」  
 
膝立ちしているコウキのモノを、上目づかいでしゃべりながらおいしそうにしゃぶっている。  
 
「う、嬉しいな、ヒカリ…  
 ヒカリのだって、すごくおいしいよ。おっぱいも…アソコも。」  
 
そういうと、ヒカリを押し倒し体を半回転させ、ヒカリの陰唇をしゃぶる。  
お互いがお互いの大事なところを、夢中でしゃぶっている。  
お互いにとっての最後の晩餐は、お互い自身なのである。  
 
「あたしを、た・べ・て。」  
「もう食べてまーす。」  
「そういう突っ込みはなし!もう、コウキがおっぱいを飲み始める前に言うべきだったかな…」  
「いままでの、どの料理より、おいしいよ。」  
「あたしも。今までコウキが作ってくれた料理の中で、一番おいしい。」  
 
半分冗談、半分本当。本当にお互いがおいしいのである。  
食べるものがお互いしか無いとはいえ、それが最高においしいのである。  
 
…いつの間にか、本当にこの次元にはお互いしか存在していなかった。  
お互いがいったんフェラを中止して、起き上がる。  
 
「…あ、あれ?荷物も服も、消えてる…」  
「あ、ホントだ…地面から落ちちゃったのかな?」  
「このおかしな空間に、そもそも重力という概念があるかどうも怪しいとは思うけどね…  
 …でも、嬉しいな。」  
「へ?」  
「服も何もないって事は、ヒカリには身をまとうものがない。  
 …だから、ヒカリは、大事なところを、その、隠すことが…」  
「コ、コウキ!」  
 
お互いが顔を真っ赤にして下を向く。  
やがてヒカリがコウキに抱きついてくる。  
 
「…その、あたし、嬉しい。」  
「抱きつくときも、絶対に素肌が触れあうから、すごく気持ちいいな。」  
「…馬鹿。それに、抱きつかれたら裸が見れないでしょ?」  
「それだったら。」  
 
ゆっくりとコウキは自らの体を前に倒し、ヒカリの体を地面に寝かせた。  
地面はなぜかふわふわで感触が良く、寝心地もいい。  
コウキは抱きついているヒカリの腕を外すと、自分のものをヒカリにあてがい、  
 
「…えっと、コンドーム、はないか…また、直前でヒカリから抜いて射精するか…」  
「そんな必要、ないと思うよ。」  
「いや、でも、万が一の事を考えると、お互いが不幸になっちゃいけないし…」  
「もうすぐこの命を終えるあたし達に、そんな事気にする必要はないでしょ?  
 …たとえ赤ちゃんが出来たとしても、生まれる前に死んじゃうよ。  
 最後くらい、避妊の用意無しでセックスしてよ。」  
「…うん。」  
「生まれては来ないけど、コウキの赤ちゃんを、…宿したい。」  
「…ヒカリぃ!」  
 
嬉しさのあまり、ヒカリを貫きながら抱きついた。  
 
「ああんっ!もう、コウキったら…」  
「ねえ、ヒカリ。」  
 
だが、すぐには腰を動かさない。  
このたった2人だけの世界。1つきになっていたことがあった。  
 
「ヒカリ、前に言ってたよね。  
 僕のいない世界は、世界とは呼べないんて。」  
「う、うん。  
 …繋がった状態でそんな事言われると、すごく恥ずかしいな。」  
「ごめんね、ヒカリ。  
 そして、別の次元世界に送られてしまったけど、僕とヒカリのいる世界は、滅ぼさなかった。  
 …そして僕はヒカリのそばにいる。僕は、ヒカリと、ヒカリにとっての世界を、守れたのかな?」  
 
ヒカリにとっては、コウキが世界そのもの。コウキにとっては、ヒカリが世界そのもの。  
だから、お互いを守り、そばに居続けることは、世界を守ること。ルネシティでお互いがそう言った。  
 
「…守れたと思う。でも、もうすぐコウキは、あたしの世界を守れなくなるかもしれない。  
 死んでも、そばに入れるとは限らないから。」  
「うん、そうかもしれない。でも、僕が聞きたい事は、別にあるんだ。」  
「なあに?」  
「確かに、ヒカリにとっての世界は、僕そのもの。その意味では、ヒカリの世界を守れたかもしれない。  
 …でも、その僕しかいない世界が、ヒカリにとっての世界、と言えるのかな?」  
「え…」  
「僕以外にも、ヒカリが大好きな人はたくさんいる。  
 博士やジュン、シロナさん、そしてヒカリちゃんのパパにママ。…いろんな人。  
 ヒカリにとっての世界が僕、と言ってくれたのは嬉しかったけど、  
 今言った人たちがいない状態、なんて考えて言っちゃいなかっただろ?」  
 
お世話になった人、仲の良かった人。  
コウキ以外の、それらの人すべて失っても、ヒカリにとってそれが世界と呼べるのか。  
…もし呼べないのなら、ヒカリと自分を守りきりそばにいても、ヒカリの世界を守ったとはいえない。  
 
「…確かにさびしいよ。  
 こうなってしまう前から死ぬのを覚悟したとはいえ、死んだらみんなとも会えなくなるとはいえ、  
 コウキしかいない世界は、確かにさびしい。」  
「…そっか…」  
「でもね、コウキだけがいない方が、もっと寂しいな。」  
「え?」  
「コウキだけがいないと、ぽっかり穴が開いた感じになってたと思う。  
 たとえいろんな人が周りにいても、コウキの存在と比べると、かすんで見えてたと思うの。  
 ホウエンにいた時の、ユウキさんだって、そんな風に見えていたと思う。全てがかすんでたと思う。  
 でも、どんな状況でも、コウキがいてくれさえすれば、あたしは笑っていられるの。コウキが眩しく見えるから。」  
 
繋がった部分から、愛液がにじみ出ている。  
それに伴い、お互いの体温も少し上がる。  
 
「それに、天国に行ったら、数年たったらナナカマド博士にも会えるだろうし。  
 数十年したら、ジュンにもシロナさんにも、また再開できるよ。」  
「博士が聞いたら、何と言われるだろうね。」  
「あ…ど、どうしよ、もしばれたら…ああ、言えない…」  
「大丈夫だって、内緒にしておくから。…でも、1つだけ条件。」  
「な、なに?脅し!?」  
「ははは。そんなことしないさ。ヒカリ…」  
 
ヒカリと改めて向かい合う。  
 
「僕を、永遠に愛してくれるなら。」  
「…喜んでっ!」  
 
その瞬間、ヒカリが腰を動かし始める。  
 
「ああんっ!…だから、あっ、コウキも、あたしを、愛して!」  
「う、うん!たくさん、出してあげるからね!くうっ!」  
 
腰を振り続ける。  
挿入したままずっと堪えていたため、限界はすぐに訪れた。  
 
「あああああっ!」  
「く、くうっ!…で、出てる…」  
「中出し、って、きもち、いい…コウキのがどんどん、入ってる…」  
 
ヒカリが、コウキの精液を絞り取っている。  
中出しは2度目だが、避妊せずにしたのは初めてなので、それも手伝って気分を高揚させる。  
 
「…ねえ、コウキ。あたしが満足するまで、してくれない?」  
「あ…も、もちろん!」  
「まだ子供なのに死ぬのは、なんか残念なんだ。もっといろんなことが出来るのに、  
 あたしの人生は、なすべき使命を貫くためなんじゃないかって思うと…」  
「えっと…ごめん」  
「ああ!コウキを責めてるわけじゃないって!  
 …ていうか、人間は、みんなそんな使命持ってるんだよね、ははは…」  
 
意識を乗っ取られかけていたとはいえ、コウキはヒカリに半ば死ぬように命令したのである。  
ヒカリだって、自分と結婚した後、もっといろんなことをやりたかったはず、そう思うと…  
 
「だから、あたし思ったんだ!  
 あたしは、コウキと恋人になって、コウキと結ばれて、コウキとたくさんエッチするために生まれてきたんだって!」  
「ヒカリ…」  
「だから…コウキとエッチをするためって言うあたしの人生を達成するために…  
 あたしに人生を全うした、って思えるくらい、悔いの残らないようにあたしを犯しきって!」  
「…うん!  
 体が動かなくなるまで、ヒカリを気持ち良くするから!」  
 
 
食べ物がない、という事は、エネルギーを消費すればするほど栄養欠乏状態に陥るのはが早くなる。  
ましてや、動けなくなるくらいエッチしてエネルギーを消費してしまえば、  
ぶっ倒れてしまったらもう起き上がることはできずに、じきに意識を失ってしまうだろう。  
 
もちろんエッチが終わっても少しは生きているだろうが、何もできずにただ死を待つだけに等しい。  
そんな状態を、生きている、とは言えないだろう。  
…つまり、エッチが終わった時が、2人の死ぬ時。  
それでも、2人に残された最後の命のエネルギー全てを、お互いを求めあうために使う事を選んだ。  
 
「はあ…はあ…」  
「はあ…はあ…」  
 
数十分、いや、数時間か。2人は休むことなく、本当に動けなくなるまで激しい性行為をやり切った。  
2人には、満足感があった、達成感があった。もう悔いはない、そんな感じだろう。  
 
「…ヒカリッシュ、僕、すごく眠いや。」  
「あたしもだワン…って、なんかすごく古いアニメね。」  
「ははは…だめだ、笑う力もないや。」  
「まだ寝ないで…寝たら、もう2度と起きあがえれないよ。」  
 
お互いが仰向け状態で、顔を見合わせている。  
荒い息をしながら、凄まじい眠気と戦いながら、大好きなお互いの姿を必死で見つめている。  
 
「ヒ…ヒカリ…う、動けるかい?」  
「悔いのないように…エッチしたくてもできなくなるくらい…動けなくなるまで…やったのよ?  
 …もし動く力があったら…怒るよ?」  
「…たとえ怒られてもいい。最後の力を振り絞って、…ヒカリを抱きしめたいんだ。」  
「…うん。」  
 
手も、体も、かろうじて動く。  
乳酸漬けの体に、感覚はほとんど残っていない、第一、意識すらもうろうとしている。  
それでもお互い体を横に向け、何とか体を向かい合わせ…背中に手を回す…  
 
「せめて…繋がったまま、死にたいな。」  
「…セックスの後、何も考えずにぶっ倒れて、ペニスが抜けてしまったのは、迂闊だったね。」  
「い…入れるよ…」  
 
そして、本当に、わずかに残った力でペニスを手で持って、動かす。  
不思議と、ペニスは固さを維持していた。  
ヒカリも挿入しやすいように少し体を動かし、コウキが震える手であてがい、  
 
…ゆっくりと、体ごと腰を動かし、差し込む。  
 
「お、奥まで、お、お願い…」  
「もうちょっとだ…もうちょっと動いてくれ、僕の体…」  
 
差し込んだところで、コウキの体の感覚はなくなった。どんなに頑張っても、動けない。  
 
「畜生…動けよ、俺の体、この、ポンコツがぁ…んむう!?」  
(コウキ…がんばって!)  
 
ヒカリの、最後の力を振り絞っての、キス。コウキの体が、熱くなる。  
興奮からか、それとも、本当にヒカリからエネルギーを注入されたのか。再び体が動き始める。そして、  
 
「は、入った…やった…」  
「コウキ…うれしい…きもちいい…」  
 
最後の望み、挿入が出来た…その安心感で、完全にお互いが体の感覚を失った。もう完全に動けない。  
抱き合った状態で体が固まっている。意識も飛びそうになり、目の前もぼやける。  
でも、もう思い残すことはない。  
 
 
ヒカリを、コウキを、好きになってよかった、好きな相手と繋がって、そのままで最期を迎えてよかった、  
…それが、何よりもうれしかった。  
 
「…ん…」  
 
目の前にはヒカリ。自分と口づけをしているヒカリ。何よりも愛しいヒカリ。  
 
「そうか、一応まだ死んでないのか…俺は。  
 まあ、人間簡単には死なないからな…でも…」  
 
ヒカリはぴくりとも動く様子はない。  
コウキの意識も眠気で完全には戻って無く、ヒカリが生きているかどうかは分からない。  
コウキはヒカリの様子を見て、死んでいると感じた。  
 
「ヒカリ…ごめんね、一人天国で寂しい思いをさせて…  
 大丈夫、すぐに僕も行くからね、ヒカリを一人には、させないから…」  
 
そして、眠るために目を閉じる。  
腕の中で眠っているヒカリのもとへ行くために。  
 
ピクリ…  
 
「ん?」  
「…ん…んぅ…」  
 
ヒカリが身をよじる。  
コウキが驚くが、コウキの言った通り、人間は簡単には死なない。  
 
「ヒカリ?」  
「コ…ウキ…?」  
 
相当弱っているに違いない、でも生きている。  
そう思うと、なんだか嬉しかった。いずれ死ぬ運命にあるのだが、それでもうれしかった。  
 
「ヒカリ…生きてたんだね…」  
「コウキ…あたし、どれくらい眠ってたんだろ。」  
「え?さあ…でも、ポケッチでもないと、分からないなあ。」  
 
服も荷物もすべてどこかに行ってしまった。  
そう思いながら、体を起して手首を見ると、…あった。ポケッチが。  
 
「あれ…なんか、時計がギラティナの世界に入った時の時間で止まってるよ。」  
「え!?…ほんとだ…」  
「ここにきてから、数時間は絶対にたったよね…」  
「うん…これって、もしかして…  
 ここは、ギラティナのいた世界と、同じ性質を持った空間…?」  
「ど、どう言う事?」  
 
コウキはぼやけた頭で推測を続ける。  
 
「ギラティナのいた世界は、時間も、空間も、不安定なものだった。  
 もしかしたら、ここも、そんな場所なのかもしれない。」  
「…まさか、ここには時間という概念が、存在しないの!?」  
「うん。…そして、時間が止まっているという事は、僕らの常識が一切通用しないという事になる。  
 …もし、僕の希望的観測が正しいのなら、僕たちは…生き続ける事が出来る。」  
「え?…た、食べ物が手に入る、という事?」  
「…どう考えたらそういう結論にたどりつくんだ…」  
 
コウキが呆れる顔をすると、ヒカリが膨れた。  
それをなだめるために微笑みながら頭をなでてあげる。  
 
「例えば、速さ×時間=距離だ。  
 いくら速くても、時間が経ってなければ、物は進まない。  
 つまり、時間というものがなければ、物に変化は起こらないんだ。」  
「もしかして…」  
「そう。命をつなぐために必要な体内のエネルギーの量に変化が起こらないから、  
 何も食べなくても生きていける、…そうは考えられないかな?」  
「じゃあ…」  
「そして、時間がたたないという事は年をとらない。」  
「永遠の、命?」  
「うん。」  
 
ヒカリが唖然とする。  
永遠の若さが欲しい、なんて人はよく聞くが、まさかそれが現実になるとは思ってもいなかった。  
…だが、すぐに別の感情に切り替わる。もちろん、嬉しいという感情に。  
 
「コ、コウキ…」  
「ヒカリ、僕たち、死なずに済むよ!」  
「…うん、コウキと、ずっと一緒だあ!」  
 
生きる事が出来る。  
それ以上に、コウキと一緒に生きる事が出来る、その方が嬉しかった。  
…しかし、この事実は、もう1つの事を現していた。  
 
 
「…ねえ、さっきも聞いたけど、あたし達、ずっとこの年のまま永遠の命を得たってことよね?」  
「うん。  
 病気にかかれば別だけど、体に変化が起こらない以上病気になるとは思えない。」  
「そして、この空間から出る方法も、無い。」  
「そうだね。」  
「…それじゃあ、コウキと、何年も、何十年も、何百年も、…何億年も、永遠に一緒?」  
「ごめん、そんなの、ヒカリは、嫌だよね…」  
「そんなことない!」  
 
急に大きな声を出す。  
目を丸くすると、ヒカリが自分の声の大きさに後悔した。  
 
「ヒカリ…?」  
「えっと、えっとね…う、嬉しいもん。  
 誰にも邪魔されずに、コウキを1人占めできるからさ…でも、コウキこそ、あたしとずっと一緒なんかじゃ」  
「馬鹿言わないでくれ、ヒカリ。信じられないくらい可愛くて、優しい。  
 おまけに、年をとらないから、ずっと可愛いヒカリを、愛し続けられる。」  
「…あたしが年をとったら、コウキはあたしを見捨てるのね…」  
「いやいやいや!そ、そんなことは…」  
「クスクス…冗談よ。  
 あたしの事を可愛いと思ってくれて、すごく嬉しいもん。」  
 
上目づかいでコウキを見つめる。本当に可愛い。  
5歳の時シンジこで会ったときから、その可愛さにずっと心を奪われていた。  
 
「…なんかさ、アダムとイヴの話に似てるよね。」  
「え?」  
「アダムとイヴってさ、すべての人間のご先祖様で、最初の人間なんでしょ?」  
「ああ、そうだったね。」  
「世界の最初の人間で、食べちゃいけない木の実食べて、裸んぼ。  
 いろいろ似てない?今のあたし達も、服は1枚もない、裸んぼ。」  
「あはは…確かにね。  
 この空間はほかに誰もいないから、この空間世界では最初の人間かもしれないな。」  
「コウキと2人の、世界。なんか、わくわくする。」  
「そう?」  
 
無言でうなずく。  
コウキと2人で、というフレーズに、言ってる本人が恥ずかしがっているようだ。  
 
「あたし達で、この世界を作っていくのかな…」  
「体に変化が起こらないから、妊娠はしないと思うけどね。子孫は作れないよ。」  
「ううん。あたしがこの世界で作りたい、理想の世界はね…」  
 
理想の世界、アカギがよく言っていた言葉。  
昔はその言葉に対して怒りすら感じていたが、今は、ただひたすら、愛くるしく感じた。  
…こんな事を言われたら、そう感じずにはいられないだろう。  
 
「コウキの愛で満たされた、幸せな世界。  
 これから、永遠に、コウキと愛をはぐくんでいくの!」  
「ヒカリ…可愛いなあ!」  
「キャッ!…えへっ♪」  
 
コウキが思わず抱き締める。  
自分の大好きな女の子が、恥ずかしがりながらこんな事を言ってくれる。幸せ。  
 
「…博士やジュン達がいない分、僕がヒカリにできる限り愛を注いで、寂しがらせないようにするからね。」  
「そりゃ、博士たちがいないのはちょっとさびしいけど、でも、ほとんど寂しくないよ。」  
「どうして?」  
「だって、コウキだけがいる、って事は、他の人の事は考えなくていいもん。  
 ずっと、コウキと、永遠に、コウキのことだけを考えて、コウキに愛を注ぐことだけを考えればいいもん。  
 永遠に、コウキを独り占めにできるもん。」  
「…うん、僕の愛は、永遠にヒカリだけのものだよ。」  
「ポケモンとの旅も楽しいけど、いろいろ悩んだり、辛いこともあった。でも…」  
 
ヒカリが気分を高揚させながら、コウキを見つめる。  
 
「この世界には、何もない。だから、悩むことも、苦しむことも、コウキ以外の事を考えなくってもいい。  
 何も考えなくていい、コウキを愛するだけでいい、すごく楽で、楽しくて、幸せ…」  
「ヒカリ?」  
 
少しヒカリの様子がおかしい。  
でも、ヒカリが自分の事をここまで愛してくれる。  
その嬉しさがあまりにも勝っており、ヒカリの様子の異変に、コウキは気付いてはいなかった。  
 
「…あたしは、コウキとエッチをするために生まれてきたんだから…それが生きがいだから…  
 あたしと、ずっと、永遠に…」  
「うん…」  
 
ゆっくりと、体を重ねる。  
唇と優しくついばむ。  
そして、コウキのペニスを、ヒカリの中に挿入する…  
 
 
ヒカリを愛する言葉を語りかけ、ヒカリを愛でるようにやさしくなで、愛するヒカリとセックスする。  
眠りにつく時以外は、ずっとヒカリを愛し続ける。  
眠るときも、ヒカリを抱き寄せ、ヒカリとつながったまま、唇を重ねて眠る。  
 
…ずっと、永遠に、お互いを愛し続けた2人。  
永遠に、永遠に、何年にも思える時間、ただひたすらにお互いを愛し続けた…  
 
「なんだってんだよー!早くしてくれよ、ディアルガ、パルキア!」  
「ドリュキュゥン!」  
「グギャグバァッ!」  
 
次元の扉、などというのはそう簡単に開けるものではない。  
いかに伝説のポケモンの力をもってしても、普通の安定した空間では無理がある。  
 
「ちょっと、ジュンくん。ディアルガもパルキアも、懸命に頑張ってるんだから…」  
「急がないと、コウキも、ヒカリも、死んじまうんだぜ!」  
 
彼のせっかちさが、コウキとヒカリを一刻も早く助けるたいという思いとなっている。  
そんな彼らが今いるのは、おくりのいずみの中にある洞窟。  
もし唯一次元の扉が開けるとしたら、空間の不安定な場所として有名ならこの場所しかない、と考えた。  
 
ディアルガとパルキアもジュンの熱意にこたえ、ありったけのパワーをとりわけ空間の不安定な場所にぶつけている。  
ちなみにその場所とは最深部の事である。3つの柱を抜けるのには少々手間取った。  
 
「…ん?なんだ?」  
「ジュ、ジュンくん、見て!」  
「…あ!なにか、空間が裂けてやがる!」  
 
裂け始めた空間を、ジュンは覗いてみた。  
 
 
 
「…もう、どれほどの時間が、経つんだろうな…」  
 
もう何百回…いや、何千回だろうか、何万回だろうか。  
中出しを終えたコウキの胸に顔を寄せるヒカリ。  
 
「ここに来てもう何年が経つんだろ、ヒカリ。  
 ま、最も時間の概念がないから、そんなの気にする必要ないか。」  
「そうだよ、コウキ。  
 たとえ何年たっていようと、あたし達は永遠に一緒なんだから、さ…」  
「そだね。  
 でも、ジュンなんか、もうすっかり大人になってるのかな。」  
 
ジュンやナナカマド博士たちは、どうしているだろうか。  
そんな事を思っていたコウキの耳に、衝撃の一言。  
 
「…だあれ、それ?」  
「な!?ヒカリ!?  
 お、おい、冗談だろ?」  
「だって、コウキさえいれば、それでいいもん。そんな人覚えてないし。」  
 
ずっと、コウキだけのいる世界で、コウキだけを見てきて、コウキだけを愛し続けた。  
彼女の精神はコウキへの愛で満たされていて、ほかのすべてが頭から消え去っていた。  
 
(そんな…だが、こんな特異な世界じゃ、精神的に異常が来るのは、当然の話か…  
 まあ、もう2度とジュン達にも会えないし、…それでも問題はないか…今更、関係なんかないよな。)  
 
コウキも半ばあきらめていた。  
ヒカリが自分を愛してくれさえすれば、それでよかった。…でも、どこか寂しく感じた。  
 
「ねえ、もう一度セックスしてくれる?」  
「ああ…ん?」  
 
突然、目の前の空間の一部が、黒くなり始めた。  
その向こうから誰かの姿が見える。…その姿は紛れもなく、ジュン。  
 
「ジュ…ジュン!?何故!?」  
「も…もう少しだ…もう少しで…」  
 
必死になって手を伸ばしてくる、だが、まだこちらの空間まで届いていない。  
必死に叫ぶ。  
 
「コウキ!俺は、そっちに手を伸ばすだけでやっとだ!  
 すごい力で元の空間に引き戻されそうなんだよ!」  
「!」  
「だ、誰…?」  
 
今が裸という事など、どうでもいい。  
何年…いや、人生と同じくらい永く2人だったこと場所にジュンが現れた事への驚きが、全てだった。  
 
「だから、そっちの世界に手が届いても、何秒も持ちこたえられねえ!  
 いいか、スタンバイしておけ、そっちの次元に俺の手が届いたら、すぐに俺の手を握るんだ!」  
「ああ、わかった!  
 ヒカリをしっかり抱きしめて、ジュンの手を握る!」  
「OK!…ぐ…ぐぬぬぬぬ…」  
 
ジュンが必死になってコウキのいる次元へを手を伸ばす。  
だが、ヒカリは、おびえている。  
 
「だ…だあれ、あれ…  
 あたし達を、どこかへ連れて行ってしまうの…?」  
「ヒカリ。  
 僕らは、元にいた世界へ帰るんだよ。」  
 
コウキは、ヒカリの記憶喪失をしっかりと受け止めていた。  
だが、ヒカリは、そのせいでコウキの言う事実を全く受け止められない。  
 
「ちがう!あたしは、この世界で生まれ、この世界の人間!  
 コウキと2人で、この世界で、永遠に、愛し続けたいの!」  
「ヒカリ…くっ…」  
「な…なんだってんだよー!ヒカリ!」  
「ジュン!気にせずに、手を伸ばしてくれ!ヒカリは俺が説得する!」  
「嫌だ、嫌だあっ!  
 あたしは、この世界で生まれて、」  
 
コウキから逃げ出そうとするヒカリ。だが、コウキはヒカリをがっちりと抱き締める。  
繋がったままだった故、逃げ出そうとした反動でお互いに快感が走る。  
 
「んああっ!」  
 
ヒカリの体からは力が抜けるが、コウキは何とか踏ん張り、次元の裂け目の方に体を動かす。  
そして…  
 
「いやあああああっ!コウキ、あたし、ずっとコウキとここにいたい!」  
(だめだ、だめなんだヒカリ、僕たちは、戻れる限り、元の世界に戻るべきなんだ!  
 ヒカリと一緒に生き続けると言ったのも、やっぱり元の世界にいるというのが大前提なんだよ!)  
「やだ…やだやだ…いやだあああっ!」  
 
…。  
 
 
「ん…」  
 
体が、重い。  
体全体にのしかかるこの違和感。何十年間忘れていた、この感触。  
 
「…服?なんで服を着てるんだ、僕は?」  
「何言ってんだよ!」  
 
横にはジュンが、そして目の前でコウキ自らが抱きしめている、ヒカリが。  
そうだ、シンオウに、戻ってきたんだ。  
 
「お前たち性別違うのに、服脱ぐわけないだろ?  
 さっきだって、普通に服着てたしよ。頭大丈夫か?」  
(…多分、ジュンには僕たちが服を着ている姿が見えていたんだな。その方が都合がいいか。)  
「…とにかく、こんだけ無茶と心配掛けたんだから、罰金な!」  
「(向こうの世界とこっちの時間軸外れているはずだが…一応聞いてみるか。)  
 なあ、僕が向こうの空間に吸い込まれてから、どれだけ立つ?」  
「へっへー、お前ら、俺に感謝しろよ!  
 たった1時間半ちょっとでお前たちを連れ戻してやったんだぜ!?」  
 
間違いない。あれだけ長い時間いた。人生が1つ過ぎるくらい。  
1分で人間の感覚で1年分向こうで過ごした、と考えるのが自然だろう。  
実際には100分しかたってなくても、100年もの年月をかけて、ヒカリとの愛を育み続けたのだ。  
 
 
「…100年、か。」  
「なんだってんだよー!100年も向こうにいたら、お前らとっくに死んでるだろーが!  
 てか、いつまでくっついてるんだ、2人とも、いい加減はなれろ!」  
「ん?ああ…」  
 
ヒカリを抱きしめたままだった。  
抱擁を解き、ヒカリを離そうとして…  
 
…すぐにまたぎゅっと抱きしめた。  
自分の下半身に生じた違和感、…いや、快感が反射的にそうさせた。  
 
「なっ!?コ、コウキ、なんだってんだよー!こっちが恥ずかしくなっちまうじゃねえか!  
 そんなにヒカリが好きなのかよ!」  
「あ、いや、これは、その…」  
「あーあー、勝手にやっとけ。実際ファイトエリア…いや、それよりずっと前から好きだったんだもんな。  
 おふたりさん、好きなだけラブラブでやってな!俺は戻るから、心行くまでヒカリとラブラブでいなよ!  
 シロナさんに2人の無事を伝えておくからよ!」  
「お、おい…」  
 
猛ダッシュで去っていったジュン。  
昔っから足が速いな、ほんと。  
 
で、なんでヒカリをずっと抱きしめたままかって?  
…決まってるじゃん、ズボンのチャックから飛び出たものが、  
ヒカリのショーツがずれてできた隙間から見える割れ目に差し込まれてる。  
 
…服を着たままのセックス状態。  
幸いヒカリのスカートが隠しており、必要最低限の部分しか晒していないのでジュンには気づかれなかったが。  
 
…でも、この100年、ヒカリの膣にコウキの陰茎が差し込まれるのはもう当たり前だった。  
1年間、ずっと抜かずに差し込み続けた時期もあった。その1年は、絶えることなく快感に酔いしれ続けていた。  
今差し込んでいるこの状態だって、3日前からずっとこの状態である。  
 
…ヒカリは、もはや少しでもコウキが陰茎を差し込まない状態すら、嫌がる状態だった。  
自分の中にコウキがいない時間の方が長いという状況は、ヒカリは絶対に許さなかった。  
 
 
気絶したままのヒカリを(不自然な状態で)抱えながらシロナの車に乗り込む。  
以前Jの事件の時のあの車だった。後部座席に布団が敷いてある個室。  
あの時もヒカリの色仕掛けにたじたじだったが、今回は乗り込む前から繋がっている2人。  
 
「く…あ、くう…」  
「ん…んぅ…」  
 
車の振動で体が揺らされ、そのままつながっている部分に影響を及ぼす。  
眠っているヒカリも、コウキも、快楽に酔いしれている。  
もっとも、(シロナはともかく)ジュンはその事には気づいていない。  
 
結局マサゴタウンに丸1日かけて到着するまでに、100回以上射精してしまった。  
途中でヒカリが起き上がり、激しく腰を振ってきたため何度も何度も中に出してしまった。  
(それでもジュンは幸いにも眠っていたため気付くことはなかったが。)  
 
 
 
博士の研究所で、眠っているヒカリを抱きしめたまま3人だけの部屋の中ですべてをシロナに話した。  
 
「…そんな事が…」  
「長い時間でした。…100年、と僕は思っています。  
 その間に、彼女の中から僕以外のすべての記憶が消え、僕への、そして僕からの愛以外をすべて否定する事に…」  
「なんとかして、彼女の心を取り戻してあげないと…  
 それより、また雰囲気が変わった…いや、元に戻ったわね。」  
「もう話してもいいでしょう。実は…」  
 
シロナに、自分にとりついていた悪魔のパワーの事を話す。  
もしそのパワーを使えば世界が破滅する事、かといって使わなければコウキ自身が死に至ること。  
そして、異次元世界でギラティナを滅ぼすためにそのパワーをぶつけ、  
 
いまは、悪魔のパワーがコウキの中で暴れるような事はなくなったこと。  
 
「…死ぬつもりだったって、あの時私が言ったけど、本当の事だったみたいね。」  
「ええ。でも、僕は無事に帰ってきました。  
 その代償として、ヒカリは僕以外のすべてのものを拒絶し、僕に依存する状態になってしまった…」  
「何とかしないとね…  
 アロマテラピーの先生とか、ポケモンとかを紹介しようか?」  
「まず会う事すら拒むでしょう。  
 とにかく、ずっと異次元という地球とまったく違う環境で生きてきた、100年間何も見てないし、何も食べていない。  
 まずは、この元の世界になれる事から始めますよ。とにかくそれからです。」  
 
コウキがシロナにとあるお願いをした。  
 
「どこか田舎の別荘を用意していただけませんか?  
 カンナギに住んでいた、チャンピオンでもあるシロナさんなら用意できるはずです。」  
「ええ、わかったわ。」  
「ヒカリと一緒に、しばらく2人の時間をゆっくり過ごしていきます。  
 異次元世界と同じ2人だけの場所で、この元の世界の生活に早く慣れていきます。」  
「まかせて。カンナギのはずれなんだけど、  
 極端な過疎地帯だから、人はほとんどいないわ。生活用品も送っといてあげるから。」  
「そしてもう1つお願いが。」  
 
シロナがなあに、と聞くと、コウキが答えた。  
 
「俺のポケモンの事、博士とジュンとシロナさんに、当分お願いしたいんです。」  
「持って行かないの?」  
「ヒカリは、おそらくポケモンにすらおびえてしまうでしょう。」  
「当分はポケモンとの旅も…引退か。」  
「…はい。」  
 
ヒカリに目を向け、そっとキスをする。  
その後、シロナがいろいろと手を回してくれて、大きなトラブルもなくカンナギに向けて出発した。  
 
後日聞いた話では、ジュンは相当ショックを受けていたらしい。  
ナナカマド博士も内心相当怒りを感じていた。  
 
「ふざけんな!…なんだよ、なんだってんだよおお!  
 ちくしょう、あいつ、ポケモン達を見捨てやがって!もうあいつの事なんか信じるもんか!」  
「ふむう…コウキ、お前はいったい何を考えているのか…」  
 
ばれると厄介だからシロナには2人には何も話さないように言っておいたが、  
少なくとも、それが信頼を失う結果になったことは確かだった。  
それでもコウキはヒカリを選んだ。ヒカリを永遠に愛し続ける、そう約束したから。  
 
 
こうして、さまざまなものを失ったコウキとヒカリは、それを取り戻すための日々に向かっていった。  
 

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