ここは静かな森。
その森の中を、ひと組の男女が歩いている。
「今このあたりかな?」
「あたしはコウキを信じて進むだけだから。」
ポケモンチャンピオン経験者の男の子、コウキ。パートナーのヒカリ。
説明が長くなるので、とりあえず一線を超えたラブラブのカップルとだけ説明しておく。
「入院してたから体力が多少落ちてると思ったけど、流石コウキね…
あたしの方がバテ始めちゃった…」
「ははは…僕の数少ない取り柄だよ。」
以前ポケモンハンターJと戦って大ダメージを受けたが、驚異的な勢いで全快した。
道の整っていない森も、平気で歩けるようになった。
「それじゃ、もう夕方だし、今日はここにテントを張ろう。ある程度の平坦なスペースはある。」
「え…あたしは、もう少し歩けるけど…」
「無理しない。時間はたっぷりあるからさ、
今日無理しすぎて、明日影響が出てもいけないからさ。」
「コウキ…優しいね。」
そして、ヒカリはコウキに甘えて、今日は休む事に…しなかった。
ヒカリがすたすた歩き、コウキの5m程前を歩いて振り返る。
「まだまだ歩けまーす!歩きたいもん!」
「…やれやれ。」
コウキも苦笑い。
それでも、ヒカリが歩きたいというのなら、と何も言わずにヒカリについていく。そして、
「わあ…」
「ヒカリの暴走も役に立つときはあるんだな。」
「どう言う意味よー!」
目の前に、きれいな湖。夕日に照らされて、非常に綺麗である。
「ま、せっかくヒカリが見つけてくれたんだ。今日はここでのんびりしよう。」
「さんせーい!」
さっそく今晩のための支度に移る。
2人でテントを立てた後、ヒカリは水くみ、コウキは焚き木、薪集め。
「出て来いマグマラシ!」
「お願いアチャモ!」
Jから取り返したヒノアラシは、進化していた。
マグマラシは火炎放射、アチャモは火の粉で薪に火をつける。
周りに大きな石を囲むように置けば、コンロの完成である。
「ふう、こんなもんか。」
「毎度毎度お見事!」
鍋に切った野菜に調味料などを入れて、おいしそうなシチューを作る。
ポケモンたちを出して、ポケモンフーズを用意する。
「おーいしーい!
ホントになんで、ずっとコウキとパートナー組んでなかったんだろ。
コウキがマサゴに来た時に最初から一緒に旅すればよかったー!」
「ははは…
まあ、僕たちの旅は始まったばかりなんだしさ。」
コウキがチャンピオンになって、ハードマウンテンでチームを組むまでは別々に旅をしていた。
ただ、旅の先輩にもかかわらずヒカリはコウキより異常に苦労していたらしい。
料理が特に苦手で、仕方なくコンビニで携帯食料を買い込むしかなくかなり効率が悪かったらしい。
ハードマウンテンでは水不足が懸念され携帯食料で腹を満たしたが、
今回は湧き水が豊富にある、気候も穏やかな森なので料理もできるというわけだ。
ハードマウンテンの時と違い目的地がはっきりと定まってないので、
何日かかるか分からないので携帯食料より自分たちで作った方が長く食料が持つのである。
さて、彼らの今の状況を説明しておこう。
ポケモンハンターJとの戦いを終えてしばらくして、
シンオウのポケモン研究の権威でコウキ達が研究を手伝っているナナカマド博士から、
また新しい指令が入ったのである。
ハクタイの少し北の森林の調査である。
ここは人間にとってはほとんど未踏の地で、木が生い茂っていて空からの森の中の撮影が困難。
なのでコウキにここの生態系を調査するように言われ、今ここにきている。
というのも、この森にエムリットが入って行ったという目撃情報があったのがきっかけなのだが。
ただ、未踏の地ゆえにハードマウンテンと違い詳しい地図は無く、
万が一遭難する可能性もあるので食料を大量に買い込み連れていくポケモンも最小限にとどめた。
そうなると戦力不足が当然懸念されるので、
「やっぱりヒカリも持ってきてたんだな。」
「ポケモンたちだけじゃなく、あたしたちも戦わないと。」
人間が腕に装着することによって技マシンの技を繰り出すことが出来るバトル・アーマー。
これを装備し、万が一の時はコウキたちも戦う事になる。
森には今日入ったばかりなので、コウキとヒカリは今後の予定を立てることにする。
今の所持ポケモンの確認や、食料はどれだけ持つか、とか。
ハードマウンテンの時より水を持っていかなくて済んで助かる、と言う話などをしている。
なお、かなり長い間調査がかかる可能性が高いので、先ほど言った通りポケモンは最小限にとどめる。
ヒカリはエンペルト、トゲキッス、アチャモの3体。
コウキはムウマージ、ユキメノコ、ムクホーク、マグマラシの4体のみである。
「しっかし、この地図いい加減だなー、湖も載っていないよ。」
「しょうがないって。」
ほとんど等高線しか書かれていないのである。
方位磁針でかなりアバウトに自分たちが今いるであろう場所を指差す。
「今いるのはたぶんここ。森はこの範囲だから、
食料から考えると1日にすすむ距離はこれくらいだから、このくらいの範囲をメドにしよう。」
「はーい、リーダー!」
ポケモンたちをボールに戻す。そしてヒカリはテントの中での情事を期待し、
「それじゃ、ちょっと泳いでくるね!!」
「…へ?ちょっと待て、今は夜だぞ?」
「これからしばらく野宿生活なんだから、せっかく湖があるときはさっぱりしないと!
と言うわけで行ってきまーすっ!」
「って、おい!
はあ…やれやれ、しょうがないか。今は夏だから風邪はそうそうひかないだろう。
…ん?」
シンオウ地方の水は驚くほどきれいである。
旅の途中で湖があったら水浴びをするのはポケモントレーナーの常識。
と言うわけでヒカリはテントの中に入っていき、驚くべき速さで着替え終わり出てくる。
「…どうかな?あれ、ちょっとコウキ見てよ!」
コウキはヒカリのいる方向と反対側を見ている。
「ちょっと、恥ずかしがらずに見てよ!あたしともう何度もセックスしたでしょ!?」
「今気付いたんだが、今日は満月だぞ。
…俺が壊れてもいいのか?」
「あ…。」
ヨスガシティで、月の光をあびたヒカリを見て、そのあまりの可愛さにおかしくなりかけた事があった。
コウキはそれを懸念し、一切その水着姿を見ない。
「んもう…」
「俺は体をふくだけにとどめるから、泳いできなよ。」
「しょうがないなあ…」
不満をあらわにしながら、ヒカリが泳いでいった。
コウキは水の中にタオルを浸し、服を脱いで体を拭き、新しい着替えに着替える。
「ふう、これで十分さっぱりするのにな。
まったく、ヒカリは…?」
テントから出てきたと同時に、湖の中央が光り出した。
何事かと思い、モンスターボールのベルトを急いで装着し、再び湖に目を向けると、
「な、なんだあれは!?」
桃色の光とともに、半透明な何かが出てきた。
「あの形、…ま、まさか、エムリット!?」
目撃情報があった故、今回の調査の最大の目的となっていたポケモンである。
コウキたちと何度か会っており、コウキたちにとって特別な存在。
いままでは余裕がなくて無理だったが、今回は捕まえようという心積もりでいた。
岸から少し離れたところから、ヒカリが顔を出した。
「コウキ、大変!エムリットが!」
「分かってる!そこにいてくれ、ヒカリ!」
コウキが素早くヒカリのモンスターボールベルトをつかみ、その中から1つを取り出して投げる。
「エンペルト、波乗りだ!」
エンペルトを素早く繰り出し波乗りを指令。
素早くエンペルトは水に飛び込み、背中を少しだけ浮かせてコウキが乗るのを待つ。
「よし、まずはヒカリのところに向かえ!」
ヒカリのところに向かって爆進する。
ヒカリのところに到着するとスピードをとめ、ヒカリを乗せる。
エムリットは、すでに湖から森の方へ逃げだしかけていた。
エンペルトが必死に追う、が、追いつく前にエムリットは森の奥に消えていった。
…森の奥に消える直前に、こっちを向いて笑っているようにも見えた。
「…以前博士が言ってたんだけど、
エムリットは、僕たちとの追いかけっこを楽しんでるって…」
「だからさっき、こっち振り向いて笑ってたのかな?」
2人ともテントの中に帰っている。
あのまま追っても追いつく可能性もあったが、荷物を置いてきたので装備が手薄で、
そもそもヒカリは水着姿かつ裸足なので、森の中に入れるわけがない。
で、そのヒカリはと言うと、水着姿のままである。
歩いてかいた汗もすっかり流れて、体も顔もさっぱりとしている。
コウキも体を拭いているのでこちらもさっぱりしている。
こうなると、この2人ならやることは決まってるのだが、
「ん…」
コウキがいきなりヒカリの唇を奪う。
体をきれいにし、テントと言う2人だけの空間。
そしてヒカリにいたっては水着姿。ヒカリを襲おうとしないはずがない。
「ぷは…もう、いきなり…」
「ごめんごめん。その…水着姿が、すごく可愛くて…」
膨らみかけの胸を、優しく包み、大事なところが見えそうで見えないくらい小さい水色のビキニ。
しかし、今回の調査に必要なものではないはずなのだが。
「でも、だーめ!」
「え?」
「さっき、今日無理して、明日に影響が出たらいけないって言ったのは、だーれだ?」
「うっ…」
さっきのコウキの言葉をそのままお返しした。
これには言葉を返すことは…できるのが、流石はコウキ、と言うべきか。
「まだまだエッチできまーす!セックスしたいもん!」
「!」
さっきのヒカリの言葉をそのままお返しした。
これには言葉を返すことは…させないのが、流石コウキ、と言うべきか。
「まったくもう、こうさーん。
…好きにして。」
ヒカリは仰向けに倒れこみ、腕を体の横に置いて力を抜いた。
コウキが手を胸の上においても、何も言わなかった。
「…あ、あれ?」
だが、それ以上何もしようとしないコウキ。
胸をさするだけである。水着をはがそうとしない。
…ていうか、さするというより、ゆすっている感じである。
(コックリ…コックリ…)
そのまま寝てしまった。ヒカリがコウキの名前を呼んでも、反応がない。
やはりまだ病院のリハビリから体力が全快したわけではなかった。
「あの時、まだ夕方なのに休もうって言ってたのは、コウキの方が疲れてたのね…
そういうのをあたしに見せないんだから…もう、馬鹿。
でも、気付かないあたしもあたしか。」
やれやれという表情で、コウキを見つめる。
「…しょうがないなあ…」
いったん胸から手を離して、敷布団代わりの寝袋を2枚敷く。
そこにコウキを起こさないよう慎重に寝かせ、ヒカリも横になる。
そして、何を思ったのか、ビキニを外し、胸をあらわにする。
「コウキは、甘えん坊だからね。」
コウキの左手首を持って、自分の右胸に当てさせ、
コウキの顔に左胸を持っていき、口に乳首を当てる。
「…あん、もう。」
その瞬間、唇で乳首を甘噛みする。
「…こんなに強く吸っちゃって。」
コウキの本能が、ヒカリのおっぱいを吸わせた。
甘えん坊で、人恋しい性格。
「…ヒカリ…ちゃん…むにゃ…」
(…あれ、コウキのお母さんとかじゃないの?
ていうか、夢の中でもあたしに甘えてるの!?…ん?ちゃん?)
甘えている相手は、まだ2人の想いが通じる前のヒカリ、
コウキがまだ自分の片思いだと思っていたころのヒカリである。
(…夢の中では彼女でもない、あたしのおっぱいを吸ってるの?コウキ…
ま、あたしもコウキを想いながらオナニーしてた事もあったからから人の事言えないか。)
夢より現実の方が事態が好転しているというのもかなり珍しい。
「コウキくん、えっちぃ。」
「…おっぱい…」
「あれれ、コウキくん、そんなにあたしが好きなの?」
「…。」
「…!!?」
コウキが小刻みにゆっくり腰を動かしている。
どー考えても、ヒカリとセックスしている夢である。
(は、恥ずかし〜…もう、コウキったら!)
2日目。
珍しくヒカリの方が早く起き、昨日の夜、さも何もなかったように振る舞おうと心の中で決めた。
コウキが起きる前にきっちりと服を着て、髪を整える。
「あれ…ヒカリ?」
「あ、おはよう。珍しいね、こんな遅くまで寝てるなんて。」
と言っても、現在午前8時。そこまで遅いわけではない。
「ご、ごめん!すぐに朝食の支度をするよ。」
「うん、ありがと。」
テントから出て、コウキはさらに驚かされた。
ポケモン達はポケモンフーズを食べており、石のコンロにはすでに火が焚かれていた。
コンロには鍋が乗っており、ぐつぐつと湯が沸いている。
「ごめん、料理しようとも思ったけど、料理の腕には自信ないから。
下手に無理してまずい料理作って貴重な食料無駄にしたくないし。」
「いやいや、ありがとう!ここまでしてくれたら、大助かりだよ!」
湯が沸いているだけでも、ずいぶん調理時間は短縮できる。
コウキが包丁を持ってしばらくしないうちに、あっという間に料理が出来た。
「おーいしー!」
「…もぐ。」
コウキは起きたばかりで、まだ喋る元気がない。
ヒカリが心配そうに見つめるが、コウキは笑顔で返す。
「ごちそーさまー!」
「お粗末さま。」
コウキもコウキで物静かだが、ヒカリはヒカリでハイテンション。
ただ、しばらくすれば、コウキのテンションも普段と同じように戻って行った。
「おっと、チェリンボ発見!」
地図にマーキングした後、メモ帳にポケモンの名前を書き記していく。
どうやらポケモンを捕まえる気はないらしい。…エムリットを除いて。
「ふう、コウキ、元気だねー。」
「あれ、ヒカリばててきた?そう言えば今何時?」
「3時だけど。」
「あれ、もうそんな時間か。つい夢中になっててさ。」
「コウキはそうでないと!」
とはいえ、無理をしてはいけない。
ひとまず休憩を入れることにする。
「…ぷはあ、おいしい!」
「のどが渇くと、ただの水も大御馳走だね。」
水筒の水をごくごくと飲む。
幸い周囲に水は豊富にあるので、たくさん飲んでも問題はない。
「ほんと、ハードマウンテンでは水を無駄にできなかったからねー。」
「あの時以来だよな、本格的なポケモンの生態調査をするのは。」
「…そう言えばそっか。」
ハードマウンテンの後コウキとヒカリがしたことと言えば、
ヨスガでのんびりした後、Jと戦い、入院した事ぐらいである。
(待てー!)
(逃げるなー!)
「…ん?」
「コ、コウキ。今の声、なに?」
「人の声!?未踏の地じゃなかったのか?
ていうか、なぜかわからないけど黙っていられないような状況の様が気がする!」
「と、とりあえず行こうよ!」
突然の男2人の声。
未踏の地で人間の声がすることに驚いたが、とにかく声のした方に走って行った。
「はあ…はあ…やっと追い詰めたぞ…」
「観念して、われわれに捕ま…ついてきなさい!」
「うう…や、やめて…」
1人の女の子が、崖を背にして追い詰められている。
男2人が、じりじりとその女の子に詰め寄る。が、
「何をしている…ギ、ギンガ団!?」
「ていうかあいつら、あの時の!?」
「な、き、貴様らはあのときヒードランの捕獲の邪魔をした!」
「われわれの理想の世界を理解しないお子様ではありませんか!」
「ぐだぐだ言うな、何をしている!」
ハードマウンテンで悪さをしていたギンガ団と同一人物である。
ピンク色の髪に、左右のポニーテールが特徴の女の子を襲っている。
「…の野郎…」
コウキが怒り心頭。
とにかくコウキはギンガ団を目の敵にしている。
「わ、われわれの邪魔をするなら、叩きのめすまでです!ドクケイル!」
「チェリム、あなたも行きなさい!」
ボールから2体のポケモンが出てくる。
「よーし、そっちがその気ならあたし達だって!」
「待て、ヒカリ!…こいつらは僕に任せてくれ。…僕が仕留めたい。」
「う、うん、わかった…
むー!コウキのおいしいとこ取り!」
わかったといいつつも文句を言う。
もちろんヒカリは怒ってなんかいないし、コウキをしっかりと理解している。
「でてこい、マグマラシ!火炎放射!」
マグマラシが火を吐く、ギンガ団2りとチェリム、ドクケイルがかわす。
そのすきに道が開け、コウキとヒカリは、女の子の元に駆け寄る。
「お前たち…ポケモンばかりじゃなく、かよわい子供まで!もう許さないぞ!
マグマラシ、かえんぐるま!」
マグマラシが炎を身にまとい、突進する。
かわすよう指示を出すが、マグマラシのスピードは速く、避け切れない。
「ああっ、チェリム!」
「ド、ドクケイル!毒針だ!」
技をマグマラシに向かって放つ。
だがマグマラシはひらりとかわし、
「かえんぐるま!」
かえんぐるまが命中。あえなくチェリムも戦闘不能。
「くそう、またもや邪魔されるとは!」
「やむをえません、ここは一度撤退です!」
ギンガ団2名が去っていく。
「ふう、ありがとう、マグマラシ!」
「あの短期間で、よくここまで育てたよね!さすがコウキ!」
「あはは、マグマラシ、よく頑張ったぞ…?」
コウキが頭をなでようとした瞬間、ぼんやりとマグマラシの体が光る。そして、
「わわっ!」
「これ、もしかして、進化!?」
マグマラシの体が激しく光、形を変えていく。
そしてぐんぐん大きくなり、そして1,7mほどの大きさになった。
背中の炎が激しく燃え上がり、大きく吠える。
かっこよく、たくましく見える、見事なバクフーンに進化した。
「やったー!進化したぞ!」
「わあ、すごいすごーい!
…ああ、あたしのアチャモも、早くバシャーモに進化しないかなあ…」
バクフーンが笑っている。
しかし、バクフーンの進化に見とれているうちに、
「…あれ?女の子が消えた…」
「あ、そういえば…おーい!」
(おーい、ぉーぃ…)
声が反射してくるだけで、女の子の姿は見えない。
「…おっかしいなあ…まあ、いいか。」
「うん、そだね。それじゃ、バクフーンを戻して、そろそろいこ?」
「そうだな、ヒカリ。戻れ、バクフーン!」
バクフーンをボールに戻す。
「それじゃ、しゅっぱー…あ、あれ?」
ヒカリが右脚からバランスを崩し、倒れかかる。コウキが慌ててそれを支える。
「ど、どうした、ヒカリ?」
「あ、足の力が抜けて…つっ!?」
「どうした!?」
「た、たいしたことじゃ…ぐっ!」
「ヒ、ヒカリ!?」
「ご、ごめん、ちょっと、痛む、かな。」
コウキが慌てて足の方を見る。
すると、右足に、紫色の細い何かが1本くっついている。
「こ、これ、毒針じゃないか!
まさか、さっきのドクケイルの毒針が刺さってたのか…」
コウキが慌ててそれを抜く。
「あはは、気付かなかったなあ。
おっかしいなあ。多分、時間がたって、毒がまわったのかな、あはは…」
「笑い事じゃないだろ!
まずいなあ…最低限のポケモン用の傷薬しか持ってきてないよ…」
「だ、大丈夫大丈夫、歩けるから…」
「とりあえず、治療用に大量の水が欲しいな…
さっきほとんど飲んじゃったから、湖を探さないと…」
「じゃ、そこまで、歩こ?」
「…しかないな。とりあえず、ヒカリ。」
コウキがしゃがんでヒカリに背を向ける。
「そ、そんな、悪いよ…」
「いいから!
ヒカリの足が悪化したりしたら、僕が困る!」
「…ごめん。」
コウキの背中に乗っかるヒカリ。
「そういうときはさ、ありがとう、って言ってほしいな。」
「コウキ、本当にやさしいね。…ありがと。」
再び森の中を歩きはじめた。
「…なんか、225番道路を思い出すね。
あたしが崖から転げ落ちて、コウキがあたしを探しに来てくれて、動けないあたしを背負って…」
「あの時は僕も転げ落ちでかなりダメージを負ってたけど、
今回は全然元気だから心配しないでね。」
「え、あの時、コウキも…体を痛めてたの?」
「あ、あはは。あの時は心配掛けまいと隠してたんだけどね。」
「…はあ、コウキは強いなあ。自分の体力もほとんど残ってないのに、あたしを助けてくれた。」
「だって、ヒカリの事がずっと好きだっただもん♪」
大きな声でそう言った。
…ものすごく恥ずかしくなる。恥ずかしくなって、コウキの肩に顔をうずめる。
「いつか、コウキが大怪我したときに、あたしが背負ってあげるね。」
「男としての面目が立たないんだが…」
「いいの!コウキは、あたしだけのものなんだから!」
「ははは、楽しみにしておくよ。」
「むー、絶対にありえないって思ってるんでしょ!」
「ははは、どうだろうね。」
「ひどーい!絶対にコウキをおんぶしてあげるんだから!この甘えん坊!」
完全にコウキの手のひらで踊らされている。
が、ヒカリは怒りつつもそれを楽しんでいた。
2時間ほど経っただろうか。
コウキも自分と体重のほとんど変わらないヒカリを背負っているので、
2人分の体重を支えている以上少し疲れてくる。
そしてあたりは暗くなり始めた。もっとも元から薄暗い森なのだが。
「…暗くなり始めたか。まずいな。」
「ごめんね…あたしの事は、気にしなくていいよ。
痛みは増してないし、コウキが毒針を抜いてくれたおかげで他の場所に毒は回ってないし。」
「…でも、なるだけ早く治療をしないと…」
コウキは焦り出した。
ヒカリは本当の事を言っているのだが、それでも焦っている。
ヒカリもそんなコウキに対して、何も言えなかった。
「…ん?」
「どうしたの?」
「いや、あのあたりがなんか明るく見えてさ…」
暗くなりかけているからこそ、明るい物はより目立って見える。
「ほんとだ…なんとなく、ピンクっぽく光ってる…」
「まさか…とりあえず、行ってみよう!」
コウキが猛ダッシュする。
ヒカリを背負っているので、そこまで速くはないのだが。
そして、そこにはコウキの予想したものと同じ光景が映っていた。
透明なピンク色の光、その光は、確かにエムリットをかたどった光だった。
「エ…エムリット…」
出会うのは225番道路以来である。
その時エムリットに救ってもらい、それ以来である。
「つ、捕まえなきゃ…」
ヒカリがコウキの背中に乗ったまま、あわててモンスターボールを出す。
…だが、
「あ、ボールが!」
ヒカリの手からボールが離れ、空中にふわふわ浮いている。エムリットのサイコキネシスである。
エムリットは何を思ったか、後ろを振り向いて、ゆっくりと進みだした。
「…これって、どこかで…」
「…あの時と、おんなじような…」
エムリットは、コウキ達をどこかに案内するようにゆっくり進み続ける。
(225番道路で、僕たちを助けてくれたときとおんなじだ…)
あの時、凍えかけていたコウキ達に、エムリットは暖炉のある丸太小屋へと案内した。
今回も、どこか助かる場所に連れて行ってくれるのだろうか。
それに期待して、コウキも進み始めた。
エムリットはしばらく進んではコウキが来るのを待つために止まり、
コウキが追いついてきたらまた進む。あの時と同じである。
(…エムリットは、僕たちの事をどう思っているんだろう…)
そう思いつつ、ついていった。
どれくらいたっただろうか。
歩き続けると、遠くから明かりが見えてきた。
「…明かり!?一体、どうして…」
「ここ、本当に未踏の地なの?」
「博士はそう言っていたけどなあ…」
疑問を浮かべながら、エムリットについていく。
段々と明かりが近くなる。明かりが明るく見えてくる。そして、
「……。」
「あの時と、まるで一緒ね…」
少し古そうだが、丸太造りの頑丈な家。225番道路でエムリットに案内してもらった家にそっくり。
なんか、馬鹿の1つ覚えのようなエムリットである。…伝説のポケモンに対し、それは失礼か。
「…すげえ、助かったよ、ありがとうエムリ…ット?」
丸太ハウスに気を取られているうちに、またエムリットの姿は見えなくなっていた。
「…ま、いいか。エムリットがそう言うポケモンなのは知ってるし。」
「とりあえず中の人に今晩泊めさせてもらお?」
ドアをノックする。
エムリットが案内したハウス。今回も無人だろう、とも思った。
そもそもここは未踏の地である。…はずなのだが、
「はーい。」
中から、可愛らしい声が聞こえてくる。
「!?」
「こ、声がしたよ、コウキ!」
「す、すみませーん!連れが怪我をしてしまったんですけど、
今晩一晩だけ泊めていただけますかー?」
「…ええ、待ってましたよ。」
「!!?」
いいですよ、とか、どうぞ、という答えを予想していたのだが、
その家の主は、コウキたちが来るのを予感していた様な言い方である。違和感を感じた。
そのやり取りに驚かされるが、とにかく今はヒカリの足を治すのが最優先なので、ドアを開ける。
「お、おじゃましまー…す?」
「あ、あなたは!」
「いらっしゃいです。えへへ。」
その女の子は、昼間ギンガ団に襲われているところコウキが助けてあげた、あの女の子だった。
「ありがとう!
泊めてくれるだけじゃなく、足の治療まで…」
「えへへ、こういうの得意なんですよ!喜んでもらえてうれしいです。」
昼間はまったく口をきかずにどこか去ってしまったが、
コウキ達が思っていたのとは裏腹にかなり明るい少女である。
その妹系キャラにコウキもすこしそそられていたが、
「…。」
「ど、どうした?ヒカリ。」
「なんでもありませーん。」
「…;」
とりあえず自重する。でないとひどい目に会うからだ。
「それじゃ、まだ名前を言ってなかったので、改めて。
わたしの名前は、エリですっ!」
「あたしはヒカリ、エリちゃん、よろしく!」
「…ここって、人はまだ足を踏み入れていないって聞いたんだけど、エリはずっとここに住んでたのか?」
「…え?」
エリは少し動揺する。
コウキはおかしいと思いつつ、問い直す。
「いや、ここに住んでることに、ちょっと違和感を感じてね。
そもそも、君のような子供が1人でよくこんな森の中で過ごせるねって、思ってさ。」
「あ、あはは。わたし、いつからここに住むようになったのかなあ〜?」
目線をそらす。
なにか事情があるらしいが、傷口をえぐることにもなりかねないので控える。
「でも、ポケモン達が果物とか届けてくれるから、毎日グルメライフを楽しめるんですぅ!」
「…はあ。」
聞きたいことはそう言う事ではないのだがと思いつつ、
これ以上聞いても何の意味もないだろうという事を悟り、話を別方向に移す。
「これを見てくれないか?」
「…これ、この森の地図ですかあ?ずいぶんとアバウトですねえ。」
「僕たちは今、この森の生態系の調査をしているんだ。
この未踏の森の生態系を調べて、シンオウのポケモンの分布の調査に役立てたいんだけど…
…どの辺に何がいるか、教えてくれないかな?」
エリは頭を横に傾ける。
うーん、どーしよっかなー?…といった感じである。
「うん、いいですよ!
コウキさんとヒカリさんはわたしを助けてくれたいい人です!
この森は人はほとんど入らないのですが、あなたたちがこの森のデータを悪用して
この森を滅ぼすような事をしないと信じれます!」
「も、もちろん、僕らはそんな事はしないよ!」
多少苦笑いする。
エリの言っていることに違和感を感じるのは当然であろう。
「ここがねー、一つも遊びに行くとパチリスがいる場所ー!」
「ここは、ケムッソが遊んでるところ!」
いろいろメモしていく。
どうやら、ここの生態系は、ハクタイに近いゆえ、ハクタイの森とそう変わらないみたいである。
「ありがとうね、いろいろ聞けて助かったよ。」
「でも、これどうするの?調査と言われたって、こっちからしたらかなりあいまいな説明だけど…」
「うーん、僕も詳しい事までは分からない。
僕がお世話になっている、シンオウで有名な博士がいてね、その研究のお手伝いをしてるんだけど、
今回その博士に頼まれて、データの収集をしているんだ。
いろんなデータを集めて、ポケモンの謎を解明しているんだよ。」
「へえ…。」
「その謎の解明のための1つとして、君から聞いたこのデータが役に立つと思う。
具体的な説明って言われると、僕は説明できて困っちゃうけどね…」
コウキが苦笑いする。
「…だから、もし僕の事を不審に思うなら、そのデータを渡さなくて構わない。
ヒカリの傷の手当てをしてくれただけで、十分ありがたいよ。」
「ちょっと、コウキ?」
「いいんだよ、理解をもらっていない相手に、無理をさせることはできない。
僕たちは、即刻この森を出ていく覚悟もしているつもりだ。」
コウキがヒカリに笑ってそう言う。
確かに、コウキの言う通りである。ヒカリは何も言えない。
「まあ、せっかく力を貸してくれている上にけがまでさせてしまって、
その成果がゼロ、だったら、ヒカリに申し訳は立たないけど…」
「そ、それは別に構わないけどさ!でも…」
「お二人さん、わたしは無視ですか?」
笑いながらヒカリとコウキに割り込むエリ。
「そんな風に言わないでください、わたし言ったでしょ?
あなたたちはいい人ですって!わたしはあなたたちを信じてます!」
「あ、ああ、ありがとう…」
「それじゃ、そろそろご飯にしましょ!」
「ああ、それは僕たちが作る…って、どこ行くの?」
「果物の貯蔵庫です!せっかくのお客さんなんです、わたしの手料理を食べていってください!」
そう言って家の外へ出ていった。
「…これはまた…すごいな。」
「えへへー。料理は得意なんですぅ!」
目の前に豪勢な料理が立ち並ぶ。すごくおいしそう。
ただ1つ、文句をつける点があるとすれば、
「…でも、これ全部デザートの様に見えるんだけど…」
「それはまあ、材料は果物しかありませんからねえ。
でも、味付けはあっさりしてますから、主食のように食べられますよ♪」
「まあ、せっかくなんだから、頂こう、ヒカリ。」
「そだね、いただきまーす!パク。」
モグモグモグ。
「おいしーい!」
「確かにあっさりしてるや、これならいくらでも食べられる。」
「えへへ、果物特有の酸味がきいてるでしょ?たくさんありますからね!」
エリも食べ始める。
両手で両頬を当てて、すごくおいしそうな顔をする。自画自賛、と言うにふさわしい光景である。
「沸きましたよ〜!気持ちいいですから、入ってくださーい!」
そして、楽しく談話をした後は、お風呂の時間。
エリがお風呂場から声をかける。
「先にヒカリが入る?」
「え?一緒に…入れないか。」
普段なら一緒にお風呂に入るところだが、エリがいる手前そんな事は出来ない。
「コウキが先に入って。あたしはあとでエリちゃんとのんびり入りたいから。」
「ああ、なるほど、後ろに風呂に入るやつが控えてない方がゆっくりできるからな。
それじゃ、お先に。」
「いってらっしゃーい。」
コウキが風呂場に入って行った。
入れ替わりにエリがヒカリの座っているソファーに戻ってくる。
「先にコウキさんが入ったんですか?」
「ええ。あとで2人で入りましょ?エリちゃん。」
「…コウキさんと入るんじゃなかったんですか?」
「へ?」
ヒカリが驚く。
確かにコウキといつも一緒にシャワーを浴びているが、そんな事他人に教えられるはずがない。
「ちょ、ちょっとエリちゃん!?
異性同士で、裸で、一緒にお風呂なんて、まずいのは分かってるでしょ!?」
「えー。
でも、一緒に入りたいんじゃないんですか?い・つ・も・ど・お・り・に♪」
「!!!??」
完全にからかわれている。当然ヒカリは慌てる。
「ちょちょちょちょ、ちょーっとタンマ!どーゆーことそれ!?」
「素直に正直にならないんならいいんですけど♪
でも、それならわたしがコウキさんを奪っちゃいますよ?」
そういうと、服を次々脱ぎ始めた。
「ちょっと、エリちゃん!?冗談はやめて!」
「えへへー。かっこいいですよね、コウキさん。惚れちゃいました♪
別にコウキさんとの関係は『仲間』でしか無いんですし、誰とどうしようと関係ないですよね?」
全裸になる。
ヒカリはそれでもまだ冗談だと思っていた。…というか、そう思いたかった。
だが、やはり冗談ではなかった。
「行ってきまーす!」
「エリちゃーん!待って、お願い!」
「んー!
ポケモンセンターにはお風呂なんてないから、お風呂に入るのは入院してた時以来だなー。」
気持ち良くお風呂に使っている。
木でできたお風呂で、非常に広い。3人で使っても超余裕の広さ。
…まさに、これから起こるであろうことを暗示するような広さ。
風呂の引き戸が大きな音を立てて勢いよく開く。
「コウキさーん!」
「…!!??
な、何してんだエリちゃん!何覗いてるんだ!ていうかなんで裸なんだ!」
「わたしも入りまーす!」
「どわあああっ、来るな、飛び込むなー!」
コウキめがけて飛び込むエリ。
目標地点到達の瞬間に抱きつき、2人の体は水底に沈んでいった。
「ブクブク…ぷはあっ!
え、エリちゃん!?」
「えへへー。コウキさんのエッチー!」
「ちがーう!絶対に何か違うぞこれ!」
聞く耳を持つはずのない少女に叫んでいる。
そして、風呂場の戸からさらにもう1人の少女が乱入してきた。
「コウキ!何してるの!」
「な!?ち、ちがーう!これはエリちゃんが」
「コウキさんのエッチー!わたし襲われちゃったよ〜」
「ちがーう!」
「それにヒカリさーん、男の子の前で裸なのはまずいって、さっき言ってませんでした?
コウキさんは誰のものでもないんですから、ヒカリさんの『仲間』なだけなんですから、別に」
「コウキは、あたしのものー!」
半泣きでそう叫んで、ヒカリも走って飛び込んできた。
もちろん、目標地点はコウキ。衝突の瞬間にやはり抱きつき、そして沈んでいった。
風呂場で暴れるのは危険なので、よい子の皆はマネしないでね。
「えへへー、やっぱり2人は恋人だったんだねー。」
「…はあ。」
コウキはため息をついている、一方のヒカリはと言うと、
「…〜!」
コウキの腕をがっちりつかんでいる。
エリには絶対に渡さない、と言った感じととらえて間違いなかろう。
「…なんでこんな事を?」
「さあ、なんででしょう?」
「…ろくでもない理由だろうけど。」
「ブッブー。ちゃーんとした理由がありまーす!」
コウキがまたため息をつく。
そしてエリは天井を見上げて、こう言った。
「コウキくんとヒカリちゃんと、何もかも包み隠さずに、話をしてみたかったんだ。」
「?」
コウキのエリを見る目が変わった。ヒカリは相変わらずふくれているが。
「お互い裸んぼで、いっぱいお話をしたかったの。
包み隠さず、すべてを開いた状態で、ね。ずうっと2人と、そんな風に話をしてみたかった。」
「…あんた、何者だ。」
コウキがエリを睨む。ヒカリもエリを睨む。
もっとも、ヒカリが単純に嫉妬による睨みなのとは対照的に、コウキはまったく違った目をしていた。
「なあに?あたしの名前は」
「そんな事を言っているんじゃない。
…まるで、僕たちの事をずっと見てきたような言い方じゃないか。」
エリがほほ笑んだまま下を向く。
そして、湯船からザパッと上がった。
「…目をそらさないの?コウキさん。」
「今はそんな事はどうでもいい。
裸だと、何も隠すことはできないんだろ?エリちゃん。」
「あっちゃあ、嘘をついちゃだめって事?」
少しだけ舌を出す。
笑った顔をしながら、しまった〜、とでも言いたそうである。
「そうね、それじゃ、1つだけ言っておこうかな。
…コウキさんにとっての、わたしの存在の根本をなす固定概念は、振り払った方がいいかも。」
「どう言う事だ。」
「そうね…ためしに、ここを見てよ。」
湯船につかるコウキに近づき、いきなり目の前に股間を持ってきた。
そして少しだけ脚を開く。
「わわっ!何をする!」
「ちょっと、あたしのコウキに何するの!?
コウキは、あたしのあそこ以外は見ちゃいけないの!」
ヒカリがコウキを目隠しする。
「わわっ!ヒカリ!力を入れるな、目がつぶれる!」
「…見なくてもいい、触るだけでいいから。」
「ダメだって!ていうか、ますます悪…!?」
エリからコウキの手首を持って、自らの陰部に触れさせる。
女の子らしいぷにぷにとした感触。
コウキも男であり、ヒカリのしか触っていないので意思と反して手がその感触に病みつきになる。…が、
「ちょっと、コウキ!何してるの、変態!」
「…ヒカリ、目隠しを解いてくれ。」
「べーだ!絶対に嫌だもーん!コウキは、あたしだけの」
「いいから外せ!そんな問題じゃないんだ!」
ヒカリがびくっとする。
コウキをキレさせたのかと思い、気まずくなる。
「そ、そこまで言わなくたって…」
「…やっぱりだ。見ろ、ヒカリ。…こいつのあそこを。」
「ふん!あたしが見たいのはコウキのおちんちんだけ!
女の子が女の子の大事な場所見たって、それがなんだって…!!??」
エリの股の部分は、気持ちいいくらいのぷにぷに感のある肌に覆われていた。
…だが、その場所に、割れ目はなかった。
「な…なんなんだ、これは…」
「ど、どうなってるの…」
「へへへ、あたしの秘密、教えちゃった♪
コウキさんとヒカリさんのイケナイ関係を教えてくれた、お礼だよ!」
「なっ!俺たちはそんな事言った覚えは」
「さっきからヒカリさん、コウキさんのことについてエッチなことばっかり言ってるよ♪」
「な…あ!」
ヒカリの言葉は一応聞いていたが、流していた。いつもエッチをしているので、別段それらの言葉に違和感を感じなかった。
…今になって、幼い少女の前でそんな事を言った重要性に気付いた。
コウキが混乱している間にエリは風呂場のドアの前まで行っていた。
「それじゃ、ごゆっくり〜♪」
「ま、待て!」
その言葉を無視して、エリは風呂場から出てドアを閉めた。
ヒカリはまだ、コウキの腕にがっしりと抱きつきながら、エリの秘所にショックを受けていた。
「…で、やっぱりこうなるのか。」
「あ、あたしは、その…絶対…やだ…」
ヒカリの尻すぼみな口調。
拒否しないといけないのだが、拒否をしたくないこの状況。
…エリの家には、布団もベッドも1つしかなかった。
幸いベッドには落下防止の柵があったので、密着する形で3人入れそうである。
「ま、ま、遠慮せずに。
コウキさんはわたしを襲う事なんてできないんですから♪」
「…なんなんだよ、その体は。」
「あん、わたしの体に興味をお持ちですかあ?」
「誤解されるような事を言うな。君はいったい何者だ?」
「とりあえずぅ、みんなでお布団に入りましょ?」
エリもヒカリも当然のようにコウキの隣を希望する。
必然的にコウキが真ん中に入った。
その横に2人ともなんとか入り込む。ベッドを囲む柵がぎしぎし鳴る。
「きついな…やっぱり俺床で寝」
「「ダメ!」」
「はい…」
はあ、とため息をつくコウキ。そしてさっきの質問を繰り返す。
「エリちゃん、君はいったい何者だい?」
「…ふわああ…おやすみなさい。」
「狸寝入りをするな!」
「…いつか知ることになりますよぉ。」
「…?
ど、どういうこと…無駄か。」
すやすやと寝息を立てるエリ。
これが狸寝入りであろうとなかろうと、エリは自分の事を話すことはないだろう。そう感じた。
1時間くらいたっただろうか。
エリはすやすやと寝息を立て続けており、コウキはおそらく寝付いたのだろうと感じた。
コウキとヒカリはまだ起きている、狭くて苦しいせいで意外と寝付けない。
「…ヒカリ、寝られるか?こんな状態で…」
「多分、無理…
ていうか、コウキとこんなに密着してたら、変になりそう…」
「あのなあ…昨日の夜したんだから、今日は我慢してくれよ。」
「あ、あれはコウキの夢の中の話でしょ?
からかい半分でおっぱいあげてみたら、それにしゃぶりついて、
しかも夢の中と現実両方であたしのおっぱい吸って、
しかもコウキは1人で腰振ってたのよ?夢の中であたしとセックスしてて…」
「…マジか!?」
コウキは、見ていた夢が現実だと思い込んでいたらしい。
一気に恥ずかしくなった。
「だから、すっごく恥ずかしくなって、
でも、コウキ寝てたから、エッチしてもらえなくって…せ、責任とってよね!?」
「いや、で、でもエリちゃんがすぐ後ろで」
「もう寝てるよ。…よっと。」
「!?」
ヒカリが狭い状態の中うまく寝巻のズボンとショーツを片足だけ脱ぐ。
こうすれば確かに挿入は可能となる。
「ま、待て、ダメだって!」
「前戯とか、激しく動かなければ大丈夫だから、ね?
入れるだけでいいから。」
「で、でも、生はだめってあれだけ…や、やめろ!」
「コウキのあそこ、ゲットー。」
コウキの寝巻のズボンを必要な部分だけずらす。ぴょこんとコウキの陰茎が飛び出てくる。
「だからダメだって…ん?」
亀頭にビニールのようなものが当たる。
「…いつの間にとってきたんだ?
こうなることを予想して、とってきてたのか?」
「ま、いいからいいから、コンドームさえあれば、いいんでしょ?」
どこからかコンドームを取り出し、コウキの亀頭に触れさせた。
これはもう断るわけにはいかないなと感じ、抵抗をやめてコンドームを取り付け始めた。そして、
「…んっ!」
ずぶずぶと入れていく。
だが腰を激しく動かすといつエリが起きて、これに気付くか分からないので、入れるだけにとどめる。
それでも、エリの存在により緊張感が書き立てられ、気分を高揚させてヒカリを感じさせた。
「…んあっ!」
声を押し殺そうとするが、それでもやはり出る。
なんとかボリュームを最小限にとどめる。
「く…締めつけてるなあ…」
「だ、だってぇ…」
2人とも何一つ意識的に動かしている場所はない、ただ挿入したままじっとしているだけ。
だが、ヒカリの膣内が感じることにより勝手に動き、それによりヒカリを感じさせる、ループ効果が生まれていた。
「…んっ」
ここ数日セックスをせずに溜まっていたこともあり、お互い程なくして絶頂を迎えそうである。
そうなると声が出てしまい、それはまずいのでコウキが唇をふさぐ。
「ん…くぅ…ん!」
唇とお互いの秘部がつながったまま、ほぼ同時に絶頂を迎えた。
「ぷはぁ…ふぁ…」
ヒカリは絶頂と眠気で意識がもうろうとしており、まともにしゃべれそうにない。
ただ、そんな状態でも、ヒカリにベッドから出すどころか、陰茎を抜くことすら許そうとしない。
仕方なくコンドームの処理はエリが起きる前に早起きして、気付かれる前にする事にした。
お互いいろんな事で疲れが溜まっていたので、ほどなく眠りについた。
…2人が寝付いた後、エリの口元が笑ったのを、この2人は知る由もない。
「んー!おはよー…って、もうこんな時間!?」
(ぐう…)
早く起きようとお互い決めていたはずなのに、完全にね過ごした。
ヒカリはまあいつもの事だとして、コウキは昨日に続き完全寝坊。
入院の影響がまだ残っているらしい、疲れがなかなかとれないようである。
(な、なんとかエリちゃんに気付かれないように抜いて…いや、もう気付かれてる!?やば…って、あれ?)
ベッドにエリはいない。
というか、周りを見渡してもエリはいない。
ベッドからリビングが見えるが姿は見えず、どこかに居そうな気配もない。
「エリちゃん?」
コウキの陰茎を抜き、急いで身支度をして家のドアを開ける。
「いない…」
しかし、エリの姿は見当たらない。
言ったん家の中に戻る、と、そこに置手紙が置いてあるのを見つけた。
『とりあえず朝食を作っといたので食べて下さい。
好きなだけここにいて構いませんし、好きな時に出てって下さい。』
朝食が置いてある。デザートの山。
あっさりしていて食べやすいのだが、それでもこれはどうかと思う。
(…もしゃもしゃ…)
ヒカリがデザートを食べている。
…エリの事を気にしているうちに、コウキの事を忘れていた。そして…
「…なあヒカリ、起きたのなら起こしてくれよ…」
「あ、コウキ!?…ご、ごめん、忘れてた…」
コウキの存在を一瞬でも忘れていた自分を責める。涙目になりながら。
普通のカップルならそんな事気にとめることもないだろうが、コウキはヒカリに対して本当に優しい。
それ故にヒカリのコウキに対する想いは相当のものである。
「…そこまで泣くこともないんじゃないか?」
「ううん、コウキあれだけ優しいのに、あたし」
「だーもう、なんでそう自分を責めるかなあ。
いいじゃん、僕を好きなだけ寝かせてくれたって事にしてくれればさあ。」
そういうと隣のイスに座って、朝食=デザートをもしゃもしゃと食べ始めた。
「…!?」
ヒカリがいきなり頬にキスをしてきた。
「ヒ、ヒカリ?」
「…大好き。」
唇を離し、再び食べ始めた。コウキはそれを見つめる。
「…コウキ?」
「い、いや、なんでもない。」
再びコウキも食べ始めた。見る見るうちに朝食、もといデザートがなくなっていく。
「…そんな置手紙が?」
「うん。エリちゃん、どこ行ったんだろ。」
「とりあえず探す?調査をしながらさ。…どうも、あの子が気になってしょうがない。」
「あの子…何者なんだろ。」
荷物とモンスターボールをもって、家の外に出てドアを閉めた。
…その時、とんでもないことが起こった。
「…ふう、じゃあ、行こうか。」
「うん。お世話になり…!?」
お世話になりましたと家に話しかけようとして…振り向いた時には、家は消えていた。
「…。」
「…。」
2人とも唖然。たった今、立派な丸太ハウスのドアを閉めたばかりなのに。
「…あの子、何者だ…」
森の中を歩き続ける。
ポケモン達を確認しては記録を取る一方、エリを探し続ける。
(おかしい…本当に妙だ。
この森には確かに、人間は入ったことはないと博士が言ってた。
別段危険な森ではないにしろ、博士の言ってたことが事実でないにしても、)
「…コウキ。」
(それでも、この森に住み着いているなんて、…それも、あんな小さな女の子が?
親は何を考えているんだ?…信じられない…)
「…コウキ?」
(…それに、あの子の家も、僕たちがドアから出た瞬間に消えた…まるで最初から何もなかったかのように…
…最初から?…ま、待てよ、もしかしたら)
「コウキ!」
「わわっ!」
先ほどからヒカリに声をかけられているが、全く気付いていなかった。
「ななな、なんだヒカリ?」
「こっちのセリフよ!何度話しかけても返事ないし。」
「ああ…ごめん。」
「その調子だと、何かを考えてたみたいね。…話してよ。」
コウキは戸惑った。
言うべきか、言わざるべきか…いや、ヒカリなら信じるかはともかく真剣に聞いてくれるだろう。
「1つの…結論に達したんだ。」
「え?結論?」
「エリちゃん、…の事。」
「…あの子の正体?」
「あの子は…存在しないんじゃないかって。
あの家の存在がなくなって、…そう思った。」
「そ、存在しないって、どう言う事?エリちゃんと一晩一緒に過ごしたじゃないの!…あれは夢?」
「夢じゃない。
…だが、あの子は、エリちゃんと言う子は、存在しない、かもしれない。」
「え?…じゃあ、エリちゃんはなんだって言うのよ!」
「エリちゃんは、間違いなく人間じゃない。…昨日見た、…その、エリちゃんの大事な場所を見て。」
コウキの言っていることを真剣に聞きながらも、反発する。
「じゃあ、あの子はいったい何なの?ポケモンとかでも言うの?」
「い、いや、それは流石に…
…?。」
この森に入っての3日間の出来事を並べてみた。
…そして、コウキの中で、全てがつながった…
「…ま、まさか…エ…リ…」
「ど、どうしたの?」
顔が強張っている。コウキが導き出した結論は、本人も信じられないような結論だった。
「エ……リ……」
「ど、どうしたの!?」
「エリちゃん…って…そう言う事、だってのか…!?
ま、まずい、ヒカリ!!」
「な、何!?」
「今すぐにエリちゃんを探すぞ!何としても、一刻も早くだ!」
「な、なんで!?」
「今それを話している暇はない!」
コウキが走り出した。ヒカリが懸命にそれを追う。
だが、広い森故に、そう簡単に見つかるはずもない。
「はぁ…くそ、どこだ!」
「コウキ…す、すぐ見つかるよ!」
ヒカリが元気づけようとするが、そのヒカリを睨みつける。
「見つけなきゃいけねえんだよ!
今あの子を助けられんのは、俺たちしかいねえんだよ!」
(口調が…変わってる、まさか!?)
よく見ると、コウキの瞳が赤くなりかけていた。
Jとの戦いで見られた、闘志で覚醒したコウキである。
ドカーン…
「い、今の音は何!?」
「あっちだ!行くぞヒカリ!…うあっ!」
「コ、コウキ!?」
コウキは相当疲れている。
入院の影響、先ほどから長距離を全力で走り、さらに覚醒しているおかげで体力の消耗にますます拍車がかかる。
「大丈夫だ、行くぞ!」
「うん!」
ヒカリも今の爆発音でようやくコウキが何かに危惧にしているのが伝わったらしい。
「きゃああっ!」
「ほら、さっさとそこをどくのです。」
「いずれにせよ戦闘不能になるのですから、その前にどいた方がいいと思いますよ?」
「い、いや!あんたたちにこれを渡したら…シンオウが滅びる!」
「理想の世界、のためです。それくらいは…」
エリは数匹のポケモンに囲まれていた。そのポケモン達の主である2人の男も立っている。
そのポケモン達に攻撃をくらって、ボロボロになっている。
「ふう、まあ、聞き分けがない子に説得を試みても仕方がありませんね。
ムクバード、燕返しで止めを刺しなさい。」
ムクバードがエリに向かって突進する。
(も、もう、わたし…)
「バクフーン、かえんぐるまだ!」
炎の塊がムクバードに命中。ムクバードは2人の男の方へ吹っ飛ばされた。
「…またあなたですか。昨日といい今日といい、邪魔ばっかり…」
「まあ、ある程度あなたが来ることも予測してましたが。」
「…。」
「ほう、何も言い返す言葉がないのですか?」
コウキはその言葉に対して、静かに言い放った。
「てめえらにムカつきすぎて、言う言葉が見つからねえだけだ。」
瞳の色は完全に赤くなっていた。覚醒状態に入ったのである。
ヒカリが心配そうに見つめるが、エリの方に目をやり、すぐに駆け寄る。
「だ、大丈夫!?こんなに酷い怪我を…」
「ヒカリ…さん…」
「大丈夫、コウキが、ギンガ団をやっつけてくれるから!
…あ、あれって…」
ヒカリがふと前方を見る。…そこには、以前見た、信じられないものがあった。
「あ…あかいくさり!?」
「やつらは…それを狙ってるの…」
「な、なんで、こんなところに…
テンガン山で、あかいくさりは消えたけど、こんなところに飛ばされてたの!?」
「さて、あなたの強さはよく知っています。
見ての通りわれわれ手持ちのポケモン6体をすべてボールから出していますが、
まとめてかかってもあなたには勝てないでしょう。」
「…なら、とっとと失せろ。」
「ですが…ボス、お願いします。」
「ボス?…お前は!」
以前ハードマウンテンでコウキとタイマン勝負した、ギンガ団残党のリーダーだった。
「いかにあなたでも、ボスには相当手こずっていました。
そのボスに私たちも加われば、いかにあなたでも勝てるとは限りませんよ?」
「…ふん。(Jの時と比べれば、ポケモンが使える分、十分すぎるほど勝ち目があるぜ。)」
「まあ、その眼を見る限りでは、どく気もないようですけど。」
「とっとと来いよ、いけ、バクフーン!」
バクフーンが吠え、かえんぐるまを発動してギンガ団に突っ込んでいった。
「…せいぜい戦ってください。…その間にもボスは、君の大切な女の子のところに向かっていますよ。」
「何…?
し、しまった!」
ボスはヘルガーに乗ってヒカリに猛突進。そのままメタグロスを出して、コメットパンチを放つ。
「あ、危ない、ヒカリ!」
「負けるもんですか!イクイップショット、ナンバーセブン!」
「7!?あられなんて、ほとんど意味がないぞ!」
だが、ヒカリはコウキの予想の上をいった。
「電磁砲!」
こだわりスカーフを持っていたため、相当のスピードで間合いを詰めていたメタグロス。
…よって、ヒカリが電磁砲を放った時には、至近距離に迫っていた。
「なに!?人間がポケモンの技を!?」
ボスも予想外の事態に驚く。
メタグロスは麻痺して動きが鈍る。もはやスカーフの意味は全くなかった。
「エンペルト、追撃のハイドロポンプ!」
メタグロスにハイドロポンプが直撃。
その威力に押されメタグロスは吹っ飛ばされ、
「な、く、来るな!」
ついでにボスとヘルガーまで巻き込んだ。550kgの鋼の塊に突っ込まれたら、適う筈もない。
「ぼ、ボス!?」
「人の心配をしていていいのか?」
「な!?彼自身が突っ込んでくるぞ!?」
「返り討ちにしろ、ドクケイル、毒針!」
コウキもヒカリに負けじと、闘志に任せて下っ端を倒しにかかっていた。
「ディスクセットサーティーファイブ!
火炎放射ァ!」
怒涛の火炎放射がドクケイルを突撃。
「とどめだ、フィフティーナイン、龍の波動!」
下っ端のポケモン6体すべてに直撃。
全員戦闘不能になり、
「撤退です!今日はこの辺にしておきましょう!」
ボスのその一声で、ギンガ団3名は去って行った…
「…あかいくさり、か。
なんでこんなところにあるのかは知らないが…」
くるりとエリの方を向くコウキ。
「君の正体には確信を持った。君の名前、エリは、本当の名前の一部に過ぎない。」
「えへへ…ばれちゃったようですね。でもあの名前、コウキさんたちの前でとっさに考えたんですよ?」
ヒカリが両者のやり取りを頭にはてなマークを浮かべながら聞いている。
「一瞬で考えた名前にしては上出来だよ、エムリット。」
「エ、エムリットぉ!?」
「…ふう、そのとおりです。『エ』ム『リ』ット…で、エリって名付けたんですよ、ヒカリさん。」
エリの体からぼんやりと光が放たれる。
そして次第に眩しくなっていき、光を放っているエリの形が変わっていく。
(…そう、わたしは、エムリットなんですよ。どこで気がつきましたか?)
エムリットはテレパシーで話しかけている。
覚醒状態がとっくに覚めているコウキは、持論を展開し始めた。
「まず、人間の、それも女の子がいるという地点で違和感を感じた。未踏の地なのに家もある。
…その家が消えた時、合点が行ったんだ。…これは、僕たちのために一晩だけ作られたもの、だってね。」
(でも、それでわたしの正体が結びつきますか?)
「そして、君には大事な場所に…えっと、その、割れ目がなかった。
もちろん、僕が持ってるものもない。すなわち君には、性別がない、という事になる。」
(性別のないポケモンは、ざらにいますけど?)
「…人間に姿を変えられるポケモンなんて、メタモンを除けば、高等超能力を持ったポケモンだけだ。
性別のない、伝説のポケモンのような、ね。」
(それじゃあ、わたしは単に伝説のポケモン、としか考えることができませんよ。)
コウキは話を続ける。
「だが、この森に伝説のポケモンの言い伝えはない。
そうなれば、シンオウ各地を転々としているモンスターが、偶然この森に足を踏み入れたとしか考えられない。
…そして、この森に、かねてからエムリットの目撃情報があった。…実際、おととい僕も目撃した。」
(はい、エンペルトに乗っていましたね。)
「…だが、もっと確信を持てる根拠がある。
あの家だ。別に消えたとかそんな事は問題じゃない。
…あの家の形、僕たちにとって忘れられないものだからね。」
(…そう言う事です、か。ヒカリさんとの、大事な思い出ですからね。)
「え、なになにコウキ、どう言う事?」
コウキの頬が少し赤くなる。
「僕がヒカリに告白して結ばれた日。
…あの時、225番道路で気絶していたヒカリを見つけて、僕はヒカリをおぶって必死で歩いたよね。」
「あ、…あの時?」
ヒカリの頬もまた赤くなる。
ずいぶんと昔の話だが、この2人が忘れることはない。
忘れている、もしくは初めてこの小説を見る読者は、過去ログを参考にするといいだろう。
「…その時、僕たちの前に現れたエムリットが、僕たちを誘い始めた…」
「あ、うん。」
(そして、連れていった場所は…)
コウキが笑って言い放った。
「木でできた立派な小屋だった。
昨日エリちゃんが泊めてくれた小屋と、まるで一緒だった。」
「あ…あああっ!」
「一応あの時その事に気づいてはいたんだけどね。
だが、その小屋で僕たちを待っているようなエリちゃんの態度を見て、違和感を感じたんだ。」
「そ、それって…」
「中にエリちゃんがいたのは、偶然じゃなかったって事。
最初は、わざわざ思い出の小屋に案内したものだとも思った、
そこにたまたまエリちゃんがいると思ってたけど、エリちゃんの行動を見て違うと感じたんだ。
…エリちゃんとエムリットに何か関係があると思ったけど、まさか同一人物だとは、気付くのに時間がかかったよ。」
しかし、まだ疑問は残っている。
「でもさ、あたし思うんだけど。エムリットは、伝説のポケモンなんでしょ?
さっきだって、昨日だって、ギンガ団が襲ってこようとたたきのめせばよかったのに。」
(…それは、無理です。
私も最初は戦おうとしましたが、サイコキネシスが出せなかったんです…)
「…無理もないな。」
(え?)
「やつら、ESPジャマーを持っていた。」
「いーえすぴーじゃまー?」
ヒカリが何それ、と言った顔で問いかける。
「超能力妨害装置。よーするに、エスパータイプを完全に封じる機械だ。
エスパー技の効果を抑え込むのではなく発動そのものを封じるから、どんなに強力な超能力を持っていようと関係ない。」
(わたし、エスパー技しか使えないから…
奴らから一度逃げ延びた後、ごまかすために人間に変身したのですが、…見つかって…)
「昨日はその場面で僕たちが助けたんだっけね。
…で、家にずっといれば僕たちが守ってあげられたにもかかわらず、君は黙って家を出ていった。」
「なんで?」
(コウキさんは…もうわかっているようですね…)
コウキの方を見るエムリット。
「あかいくさりの存在だけは、僕たちにも知られたくなかったんだろ。
なんでここにあるかは知らないけどね。」
(朝になって、ギンガ団の人たちがあかいくさりのある場所にすぐそこまで来ていました。
あわてて家を飛び出して、…なんとかギンガ団にくさりを奪われる前に到着はしましたが…)
「そりゃまあ、勝てるわけないわな。ESPジャマーがあるんだから。」
(それでも何とかしようと必死にあがいたんですけど…本当に、ありがとうございました。
あのくさりは、もともとまったく別の場所に落ちていたんですけど、
そこじゃいつ見つかるか分からないし、かといってハードマウンテンとか危険な場所だと、
いつ危ない事になるか分かりませんから。)
やりのはしらで消えたあかいくさりは、エムリット、アグノム、ユクシーの3匹で探し、
エムリットが最初に見つけたという事である。
たくさんのエネルギーを抱えている以上、危険な場所だと何らかの衝撃でくさりのエネルギーが解放されるかもしれない。
よって人目に付かない、それでいて閑静なこの未踏の森に隠したというわけである。
もっとも、このまま置いておくわけにはいかないから、コウキが別の場所へ移動させることを提案する。
「と思うんだけど。」
(そうですね。とりあえず、コウキさんが持っていてくれますか?)
「え、…え!?」
(す、すぐに新しい場所を見つけますから。
とりあえず、コウキさんが一時的に持っていれば、ひとまずギンガ団の手に渡ることはないですし。)
「あ、ああ、そ、そうだね。」
(それでは、…案内したい場所があるので、ついてきてください。)
そう言うと、エムリットはゆっくりと進みだした。
コウキとヒカリは、疑問を浮かべつつついていく。
歩き続けるコウキ達。ふと、こんな疑問が浮かんだ。
「…なあ、エムリット。
どうして、時々僕たちの前に現れたり、助けたりしてくれるんだい?」
(…えーっとですねえ。)
「…あれ、元に戻っちゃった。」
「はーい、エリちゃんですよ!」
ヒカリもコウキも苦笑い。構わず話を続ける。
「…コウキさんもヒカリさんも、ずっと昔からシンジこで遊んでた。
湖の中央に沈んでいた洞窟から、いつも見てましたよ。」
「へえ、そうだったのコウキ?」
「よくジュンと遊んでたよ。…ヒカリもそうだったのか?」
「もちろん!
いっつもパパと一緒にマサゴから遊びに来てたよ。」
「…じゃあ、なんで生まれてから10年間は会えなかったんだろう。」
「わたしも不思議でした。
いっつも今日はヒカリさん、その次の日はコウキさん、みたいな感じで。
…でも、確か二人とも、1度だけ湖で会ってるはずですよ。」
「ああ、旅立ちの日の事だね。ナナカマド博士と一緒に湖に来てた。
ヒカリが去った後に僕とジュンはムックルに襲われて…」
「いえ、違うんです。
…それよりもっと昔に、1度だけあってるんです。」
「…そうだったっけ?」
「多分昔の事だから、お互いよく覚えていないだけよ。」
「僕がヒカリの事を、忘れるかなあ…」
ヒカリの可愛さは、コウキの強烈な第一印象を与えた。
初めて会ったのがいつであれ、一度でもあったら、コウキはヒカリの事を2度と忘れることはないはずである。
「おっかしいですねえ…
で、話を元に戻しますよ!」
「あ、ああ。そうだったっけな。」
「あなた方二人を毎日見てると、愛着が湧いちゃって。
そして、ギンガ団から私たちを救ってくれて。
いろいろ助けたり、目の前に現れたりしたのは、そう言うわけです。
2人とも大好きだから、追っかけっこしてるんですよね!」
「まさか…博士も言ってたけど、やっぱりそのためにシンオウ各地を飛び回ってるのか?」
「はい!
…まあ、こうやって面と向かって話せるときが来るとは思いませんでしたけどね。」
「ははは。」
「コウキさんに捕まらない自信があったんだもーん!」
「…なーにー?」
コウキがエリをとっ捕まえて、体をくすぐる。
「きゃはははは!」
「エリちゃん、ゲットだぜ!…なーんてね。」
エリを解放する。
「あ、あれ?もう終わりですか?」
「まだ追っかけっこは続いてるよ。
ポケモンゲットしてないのにこうやってエムリットと話していること自体が不思議だけど、
逆に言うと、僕はエムリットをゲットしていない。」
「…ふふ、そうですね。
この追っかけっこは、コウキさんがわたしをモンスターボールでゲットしたら、勝ち。」
「…あれ?
じゃあ、なんでコウキはゲットしないの?今なら喜んで仲間になってくれるはずじゃ…」
ヒカリがそう言う。
確かに正論だが、逆に怪訝そうな顔でエリとコウキがヒカリを見る。
「「だって、ゲットしたら、追っかけっこおわってしまう」じゃないですか。」
「…へ?」
「「そしたら、楽しみがなくなってしまう」じゃないですか。」
「…はあ。」
どうやら、コウキはエムリットをゲットする気は、永遠に、完全になくなってしまったようである。
友達として、笑いながら追いかけっこを楽しみ続けたいようである。
「つきましたよ。」
「ほう、こんなところが。」
「わああ…」
ヒカリは感激している。
目の前には、モクモクと湯気の立った温泉。
「いっときますけど、あの家と違って、この温泉は最初からこの森にありますよ。」
「…なんであるんだろうなあ。
シンオウはハードマウンテンを除けば温泉が出そうな場所ないはずだけど…」
「さあ、はいりましょ?
昨日はドタバタしてたけど、…私の事知ったのなら、もう平気でしょ?」
「いや、でもヒカリと僕が一緒に入るのは問題が…」
昨日ヒカリがコウキの入る風呂に乱入したことも忘れ、ごまかそうとする。
だが、エリはもっと恥ずかしい事を言って切り返した。
「なーに言ってるんですか。
225番道路でわたしが案内した小屋で、思いっきりセックスしてたじゃないですか。」
「な!?こ、告白はしたけど」
「見てないとでも思ってたんですか?わたしクスクスと笑いながら見てましたよ?
あの小屋、確かにわたしが一時的に作ったものですけど、
…あまりに恥ずかしい思い出を詰め込まれたものだから、…クスクスクス。」
「な…なんだって言うんだよ?」
「あの小屋、今も消さずに残してますよ?
ドアはあれから締め切り状態だから、二人の愛の印もそのままです!」
完全にやられた。ヒカリもコウキも唖然とする。
エリはそんな2人を尻目に、服を脱ぎすて温泉につかった。
「ふいー、あったまるよー。」
「ま、いろいろあったけど、こうやって気持ち良く温泉に入れるから、いいか。」
「えへへ、感謝してくださいよ?コウキさん。」
たわいない会話を楽しむ3人。
「…こうやって3人で入れるなんて、夢のようです。」
「そうだな。」
「そうだね。」
「ずっと夢だったのかもしれませんね。
…友達になりたかったあなたたち2人と、こうやって仲良く一緒の時を過ごすのは。」
「博士には、君の事、なんて伝えておこう?」
「お任せします。すべてをあらいざらい言うもよし、ごまかすもよし。
…やっぱり、友達になったことを、言ってほしいかな。」
「結局それ、あらいざらい言えってことじゃないか。」
3人がぷっと噴き出して、大笑いする。
そして十分に体を温めたところで、温泉からあがることに。
「…。」
「どうしたの?」
服を着ているコウキの顔が、どうもパッとしない。
エリは着替えるのが面倒という事で、そのままエムリットの姿に戻っていた。
「エムリット、さっきも言ってたけど、僕とヒカリがずっと前に1度だけあってたのは、本当かい?」
(はい、さっきもそう言いましたけど。)
「僕…そんな気がしてきた。
…いや、ヒカリと会う前、そんな夢を見た気がする。」
「え?」
「旅立ちの日にヒカリとシンジこで会ったときに、ヒカリに惚れたのは、
…気付かないうちに、記憶のどこかでデジャヴして、運命を感じたからかもしれない…」
「あたしは…そんな夢…あれ?見たような。」
「ヒ、ヒカリもかい?」
お互いが怪訝そうな顔をして見つめあう。
(そういえば…あなたたちが初めて会ったとき、あなたたちは一緒に遊んでましたけど、
…黒い影が見えたような…)
「く、黒い影?エムリット、そんなのが見えたのかい?」
(うーん…ごめんなさい、洞窟の底にいたから、はっきりとは覚えていないんですけど…)
突然、ポケッチが震えだした。
「はい、ヒカリです。博士、どうしました?
…はい…はい…調査はある程度の進展がみられました…
え?今すぐ戻れ?手伝ってほしいことがある?はい、わかりました。」
スイッチを切る。
「召集かい?」
「いったん切りあげて、なるだけ早く戻ってきてくれ、ですって。
こっちの調査は、ある程度進めてくれたら、それでいいから、って。」
「まあ、エムリットのおかげでだいぶ進んだしな。
…それじゃ、エムリット。とりあえずお別れだね。」
(でも、この森からどうやって出るつもりですか?
ポケモンで空を飛ぼうにも、上には木が生い茂ってますよ?)
「あっちゃあ…この森を抜けるまでに大分かかりそうだな。」
(ふふ、そう思って…ちゃーんと森を抜ける最短ルートに案内しますよ。)
エムリットが笑顔でそう伝えた。
「本当かい!?」
(ただし、1つだけ条件が。)
「…ここにきてギブアンドテイクかい?」
一瞬呆れてしまったが、すぐのその考えを撤回した。
(ヒカリさんをおんぶした状態で、私についてきてください。)
「!
…なるほどね。」
エムリットの道案内の時は、かならずコウキはヒカリをおぶっていた。
今回もそうしろという。
コウキはいくらヒカリが軽いと言っても長時間おんぶするのは体力を使うが、それでも構わなかった。
ヒカリを背負って、エムリットについていく。
(ヒカリさん、男の子には、おっぱいをこすりつけてあげると、喜びますよ♪)
「はーい、わかってまーすっ!」
「…いや、別にしなくていい。」
笑いながら、エムリットについていくコウキ。
おんぶしてもらっているコウキを抱きしめるヒカリの両手に、わずかに力が入った。
これからも、エムリットは、ずっとコウキ達を見守ってくれることだろう。
…その姿を、何やら黒い影が追っている。3人は、全く気付く様子はなかった。
(クク…あのカップルの、混合隔離させた精神を、そろそろ止揚すべきかもしれませんね、クク…)