数ヵ月ぶりの更新と言う事で、少しおさらいをする必要があるだろう。  
シンオウ最強クラスのトレーナーカップル、コウキとヒカリ。  
ナナカマド博士の要請でホウエンの方へ行くことになった。  
 
そこで出会ったのはホウエンまで船に乗せてくれたシンオウチャンピオン、ユウキ。  
トウカシティで出会った赤いバンダナにツインテールが可愛らしい新米トレーナー、ハルカ。  
ユウキの危険地帯探検を手伝うために呼び出された2人だったが、  
ハルカが1人での旅が不安と言う事で急遽コウキがハルカと一緒に途中まで旅をする事に。  
そしてユウキの手伝いをするために、ヒカリがユウキと行動を共にする事に。  
 
 
こうしてそれぞれの旅が始まった。  
彼氏であるコウキが、彼女であるヒカリが別々になって異性と行動するという事に不安を感じながら。  
 
 
ここからしばらくはコウキ、ハルカペアの方を見ていくことにしよう。  
「ねえ、ハルカちゃん。」  
「…コウキィ。」  
(いきなり呼び捨て!?)  
「一緒に旅することになったんだから、堅苦しいのなしにして欲しいかも。」  
「え?…ああ、それもそうか。じゃあ、ハルカ。」  
「なに?」  
コウキより一回り小さいだけなのに、すごく小さく可愛らしく見える。  
 
「君は、なにになりたいの?」  
「え?うーんと…」  
困った顔をする。迷っている顔ではなく、困った顔をしている。  
「聞いちゃまずかった?」  
「そうじゃないかも。わたし、ポケモンは好きなんだけど、強くなろうとは思わない。  
 ポケモンと一緒に、楽しく旅をしたいだけかも。  
 バトルに命をかけてるポケモンチャンピオンにこんな甘い事言っちゃいけないけど…」  
「いや、無理して夢を見る必要はない。  
 夢は見つけることだからね、それまではのんびり旅を続ければいいと思う。  
 僕も、…ポケモンチャンピオンを夢見たわけじゃなかったけど、  
 ただただヒカ…他の夢を追ってたら、いつのまにかなったって感じで…」  
「え?  
 ポケモンチャンピオンの夢を見てないのに、なれたの?」  
 
実は、ヒカリに振り向いてもらうためにただただがむしゃらに戦い続けたのだが、  
そんな事言えるわけがない。他の夢って?と聞かれた時どうごまかそうか考えていたが、  
「すごい、目指そうと思ったって、慣れない人ばっかりなのに、すごいよ!」  
「へ?あ、ありがとう。」  
予想外の答えに驚く。  
しばらく歩くと、だんだん暗くなってきてきた。  
 
「えっと、コウキ?」  
「ん?どうかした?何でも言ってくれ。」  
「…お腹すいたー。」  
ハルカはおいしいものを食べるためにヒカリでなくコウキを選んだ。  
ある意味、旅の一番の目的かもしれない。  
「そだね、今日はここまでにしよう。ちょうど湖畔だしね。」  
野宿するときは、湖のそばに止まる。これはトレーナーの基本。  
飲み水や、水浴びなどに利用できるからだ。  
シンオウ同様、ホウエンの湖の水も、ポケモンたちのおかげで信じられないくらいきれいな水である。  
 
「ふう、お水がおいしい。」  
「そろそろできるよ。こっちにおいで。」  
「…わあ、おいしそう!」  
ぐつぐつと煮込まれているのは、カレー。どうやらご飯も炊きあがったようで。  
盛り付けて合掌して、一口。  
「おいしいかも、すごいかも!」  
「ハルカちゃんも、すぐにできるようになるさ。(というより、出来ないとまずいんだけど)」  
「明日の朝は、わたしも作る!」  
 
もちろんテントも張る。  
…のだが、ハルカは自分のテントを持っていなかった。  
「えっと、テントは必須なものだと思うんだけど…」  
「だって、なに持っていけばいいかよくわからなかったかも。  
 パパが、可能な限り荷物は少なくって言ってたから。」  
「確かに、ポーチしか無いね。何が入ってるか、見ていい?」  
中には、今着ている服装と同じものがもう1着。よほどこのスタイルが好きらしい。  
袋に包んである下着に、水着、洗面道具、財布。…以上。  
常に数日分の装備をしているコウキと、比較にならないほど違う。不要なほどの重装備よりはマシだが。  
 
「ちょっと待て、いくらなんでも少な過ぎないか!?」  
「ポケモンセンターに行けば、必要な物はすべてそろってると思ったから…」  
「どこにでもあるわけじゃなーい!」  
これは当分は付き添わなければいけないと感じた。  
ポーチ以外にリュックを手に入れ、重くなり過ぎないように必要最低限のものを買いそろえる。  
…それらを使いならせるために、当分は一緒に旅をする事になりそうだ。  
 
湖で水浴びを終えてさっぱりした後、  
1つしかテントはない上、まだ旅慣れてないハルカには体力がないので、  
コウキがテントの外に寝る、と言い出したのだが、  
「わ、わたしが悪いんだから、私が外で寝るかも!」  
「無理だ、旅慣れてないその体に、テントの外は体に悪すぎる。」  
「でも、…それじゃ、一緒に中に入ろうよ!」  
「はああ!?」  
ヒカリと一緒に行動するようになって以来、確かにヒカリと一緒にテントで寝るようにはなった。  
だが、ヒカリと違い、ハルカは彼女と言うわけではない。  
むしろヒカリと言う彼女がいる以上は、ハルカと寝るのはもってのほか。  
 
…だが、ハルカは今日10歳になったばかり。  
異性と一緒の空間で寝る、という事がどう言う事か、わかっていないようだ。  
このまま反対し続けたら、絶対にハルカは外で寝そうなので、  
「(流石にそれはまずいよな…)それじゃ、狭くなるけど、それでいい?  
「わーい、一緒にお泊まりだー!  
 パパとママと弟以外の人と寝るの、初めてかもー!」  
「…ユウキさんとすら一緒に寝たことはないの?」  
幼少期ならお隣の家に泊まりに行く、というのも考えられるが、  
そのユウキとすら一緒に寝たことはないようである。  
…初めてのお泊まりの相手が自分。  
 
お互いドキドキしていたが、コウキはどぎまぎ、ハルカはわくわくと、その内容は全く異なっている。  
 
ハルカの方は、すごくわくわくしている。  
「テントって、いいなあ!  
 暗くって、仲のいい人が隣にいて、ポケモンたちの鳴き声が聞こえて!」  
初めてのキャンプに心が躍っている。  
そんなあどけなさを見ていると、異性と言う感覚もなくなってくる。  
「な、いいもんだろ?  
 僕もずいぶんと旅してきて何百回もテントで寝たけど、やっぱりにぎやかな都会とはまた違って、  
 昼には聞こえなかったポケモンの鳴き声が響いてくるんだ。」  
「へえ、そうなの?」  
「まあ、さすがに何百回もこうやってテントで泊ってるから、  
 最近はさすがに少し飽きると感じることもあるけどね。」  
何も心配することはなかった。  
ハルカは、異性と言う事を全く気にしない、ピュアな10歳の少女だった。  
この子なら、一緒に寝ても、何も起きることはない、そう思って安心し、眠りについた。  
 
 
…のだが。  
(ピピピピピピ…)  
目覚まし時計が鳴り、コウキが目を覚ます。  
最近のコウキは疲労がたまっているおかげでなかなか目を覚まさなかったが、  
ハルカが新人トレーナーと言う事でスローペースで旅しているおかげで疲労はあまりなかった。  
「うーん…今日は起きれたな。  
 最近はヒカリに起こされてばかりだったからなあ。…あれ?」  
目の前に気配がする。  
すぐそばで寝息が聞こえる。まさか、と思ったが、そのまさか以外、ありえなかった。  
 
(すう…すう…)  
「やっぱり。」  
暑い時期なので、寝袋には入らず、敷布団代わりにしている。  
ハルカの顔がコウキの顔に至近距離で迫っていた。  
「もう少し寝かせてあげようか。」  
以前のコウキならあわてていただろうが、ヒカリのおかげである程度の耐性が付いたのだろう。  
なにより、ハルカを異性としてではなく、ピュアで可愛い後輩トレーナーとして捉えているからかもしれない。  
 
パンと手作りのスープで朝食を済ませ、さっそく出発。  
程なくして、トウカの森に差し掛かった。  
「今日中に抜けられるかな?」  
「ホウエンの事は僕もよくわからないから。  
 ホウエン地方の旅、としてなら、僕もハルカもお互い新人トレーナーだ。」  
装備はトウカの森の手前にある町でしっかりと補充しておいた。  
トウカの森がどこまで続くのか、いつカナズミにつくかは分からないが、問題はないだろう。  
 
「わたし、決めていることがあるの。」  
「え?なになに、聞かせてよ。」  
「ポケモンが、欲しいかも!このトウカの森で、新しい仲間を捕まえるんだ!」  
「お、そうか。応援させてもらうよ。」  
「うん!」  
ハルカの初ゲットを楽しみにしつつ、森の中を歩く。  
しかしなかなかポケモンを見つけられず、そろそろお昼時。  
 
「そろそろご飯にする?」  
「ま、まだポケモン捕まえてないかもー!」  
食いしん坊のハルカだが、意地もある。  
コウキにゲットすると言った手前、引き下がれない。  
「でも、まだまだ森からは抜けそうにないから、この後に期待していいんじゃない?」  
「むー…じゃあコウキ、ここでご飯を作ってて、その間に捕まえてくるかも!」  
ちょうどある程度のスペースがある場所を見つけた。  
「そうだね、それじゃここでお昼にするから、ポケモンを見つけておいで。」  
「うん!」  
ハルカが走っていった。  
コウキは腰をおろして、料理の準備に取り掛かる。  
 
…。  
 
「戻ってこないな、大丈夫かな?」  
昼食のおにぎりを作り終わり、片付けもすべて終えた。  
コウキの手際がいいおかげで調理時間が短い事を考慮してもちょっと遅い。  
「…ん?なにか音が…」  
何か騒がしい音が聞こえてくる。  
羽ばたく音と、ポケモンの鳴き声が混じったような音。  
(た、助けてほしいかも〜!)  
「ハ、ハルカ!?」  
幸いおにぎりはタッパーに入れておいたので、すぐにリュックにつめて声のした方へ走り出す。  
「ハルカー、どこだー!」  
(コ、コウキ!助けてー!)  
草むらをかき分け、森の木々をよけながら突き進む。  
そして、結構なスペースのある広場に出た。  
「コ、コウキ!」  
そのスペースの向こう側に生い茂る木々から、ハルカが姿を現した。泣きそうな顔でこっちへと走ってくる。  
よくみると、ハルカがアチャモを手で抱えている。  
「助けて、お願い!」  
「いったい、どうし…た!?」  
 
先ほどハルカが飛び出してきた木々から、今度はドクケイルの大群が姿を現す。  
怒った様子でハルカを追っている。  
ハルカがコウキに抱きつき、すぐさまコウキの背中に回る。  
「一体、何をしたんだ?」  
「ケムッソのたくさんいたところを見つけてね、  
 ゲットしようとしてそこに飛び込んだんだけど、そしたらいきなりドクケイルが…」  
「当たり前だー!  
 ポケモンの巣にいきなり飛び込んでくるやつがいるかー!」  
「ご、ごめんなさい!  
 ドクケイルが1匹出てきて、アチャモで戦ったんだけど、私アチャモの使う技知らなくて…」  
「はいー!?」  
おそらく慣れていないゆえ、バトルをまともにできないのだろう。  
バトルをするにはどうすればいいのかすらまだ知らないのかもしれない。  
「一撃でやられちゃって、  
 さらにそのあと他のドクケイルまでたくさん出てきて…」  
もうドクケイルがすくそこまで来ている。2人に照準を合わせ、突進してきた。  
 
「コウキ、何とかしてー!」  
「バクフーン、火炎放射!」  
すぐさまボールからバクフーンを出し、バクフーンが炎を吐く。  
ドクケイル達に直撃し、退散していった。  
「ふう…ありがとう、バクフーン。」  
バクフーンをねぎらい、ボールに戻す。  
そしてもう一度ハルカの方を見ると、やっぱり泣いていた。  
 
「どうした?とりあえずもう大丈夫だよ。」  
「…ごめんなさい。」  
「え?」  
「1人で、勝手に、無茶なことしてコウキに迷惑をかけて…  
 ちゃんとコウキについていってもらわなきゃいけなかったのに…」  
反省の弁。  
だがもちろん、コウキはそんな事を気にしたりはしない。  
 
「何を言っているんだ。いずれは、ハルカ1人で旅をする事になる。  
 そんなときでも、僕の力を借りるつもりかい?」  
「え?あ…」  
「ポケモンの旅ってのは、強い好奇心が無いと。ハルカがさっきケムッソに対して見せたような、ね。  
 もしそれで危ない事にあっても、ポケモンと一緒に乗り越えていけばいい。」  
「でも、わたし、アチャモとまだ全然息が合ってない…」  
目を回しているアチャモを見て、そう言う。  
 
「大丈夫、それまでは、僕がハルカを守ってあげるよ。さっきみたいに、ね。  
 ハルカの好奇心がさっきのような事を起こしたとしても、僕は気にしない。」  
「コウキ…」  
涙を流しながら、コウキに抱きついた。  
普通なら悩殺されそうだが、コウキは恋心は感じず、自分の妹の様に思い、ハルカの頭をなでる。  
 
ただ、ハルカは、コウキに対して恋心を抱きはじめていた。  
コウキはハルカがそんな事は思わないとずっと思っており、それに気付いていなかった。  
 
「えっと、アチャモが使える技は、つつく、ひのこ、そして、えっと…」  
「きあいだめ。まあ、今はその2つが使えればいいと思うよ。」  
「どんな風に使い分けるの?」  
ポケモン図鑑でアチャモの事を調べながら、歩き続ける。  
わからないことがあれば、その都度コウキに聞く。  
 
「そうだね、相手が鋼タイプや氷タイプなら、ひのこ。格闘タイプならつつくだね。  
 草タイプや虫タイプは、どっちの技も効果抜群だよ。」  
「えっと、それ以外の相手は?」  
「ひのこは炎タイプの技だから、水タイプ、炎タイプのポケモンには使わない方がいいね。  
 つつくは…」  
こうして今日も日が暮れていった。  
 
「あれ、なあにそれ?」  
「バトル・アーマーさ。  
 さっきのドクケイルに襲われるような事がいつあるか分からないからね。  
 僕の手持ちにはバクフーンしかいないし、ある程度戦える力を身につけておかないと…」  
バトルアーマーの説明をハルカにする。  
ハルカも欲しがるが、1つしかないのでさすがにそれはできなかった。  
 
…ハルカに、戦いというものを教えたくなかった、というのが本音だが。  
ポケモンを傷つけ、それによって心が傷つくのは、自分だけで充分だった。  
「うーん、しょうがないかも。」  
「ああ、ごめんな。」  
バトルアーマーを使うときは、たいていコウキは覚醒状態に入る。  
その時のコウキは残忍な性格になるので、ポケモンをやっつけるのに何の躊躇もないが、  
あいてがギンガ団やJのポケモンでない限り、(その時も覚醒する場合がほとんどだが)  
心の優しいコウキにとって、ポケモンに対し技を使う事は出来なかった。  
 
よって大抵の場合は、バトルアーマーを防御に使う。  
(僕は、自分が戦える力があるのに、傷つきたくないから、バクフーンにバトルさせているのかな?  
 …だとしたら僕は、バクフーンや他のポケモン達に嫌な事を押しつけて、  
 自分は傷つかないように陰で隠れて逃げている虫のいい卑怯者なのかな…)  
「…?」  
(さっきハルカを守るって言ったけど、かっこいい事言っといて、  
 実際に守るのはバクフーンなんだよな…  
 他力本願で何バクフーンを裏切るような事を言っているんだ僕は…)  
「コウキ?」  
「ああ、ごめん、なんでもないよ。」  
 
(グ〜…)  
「ん?」  
「あ、えへへ、おなかペコペコで…」  
「そういえば、さっきのドクケイルの事で慌ててて、お昼がまだだったな。  
 ほら、さっきハルカが出かけてる間に作ったおにぎりだ、食べよ?」  
「うん!」  
近くに会った平坦なスペースに敷物を敷き、ランチの時間。  
おにぎりは10数個あったが、年下のハルカが8割方食べてしまった。  
(はは…こりゃ作りがいがあるな…)  
「ごちそーさまー!」  
 
(た、助けてくれー!)  
「ん?こんどはなんだ?」  
「あっちから聞こえてきたかも!」  
また助けを求める声。  
放っておくわけにもいかないので、そこへ向かって走り出す。  
「…あそこだ!」  
細い道に、スーツ姿の男と、海賊のような格好をした連中が数人。  
もしかしたら、読者にはだれだかわかっているかもしれない。  
 
「その荷物を渡してもらいましょうか、フフ。」  
「海底洞窟に行くには、それが必要なのです。  
 すでに位置も確認し、必要な紅色の球も手に入れました。」  
「潜水艦を作るための必要になるであろう部品は揃え、設備も整っています。あとは設計図だけ…」  
「ひいいっ、こ、これは、大事なもの…」  
そこにコウキとハルカがたどり着く。  
コウキはギンガ団と戦ってきた経験からか、何となく状況はつかめた。  
すぐさまスーツ姿の男の前にかばうように立つ。ハルカがそれについていく。  
 
「おや、なんだ貴様は?」  
「こっちのセリフだ。君たち悪人の悪さを放っておくわけにはいかなくってね。」  
「コ、コウキ。何でそう決めつけられるの?」  
「人相で大体分かる。  
 シンオウで、何度もこういう経験をしているからね。」  
「…わかったかも!」  
ハルカも海賊軍団と対峙しようとしてコウキの横に立つ。だが、  
「ハルカはまだ危ない。ここは任せてくれ。  
 僕にはハルカと…を守る義務があるんだ。」  
一瞬何かを言いかけて止めた。  
何かとはヒカリの事であるが、今いない人間の事を言ってもしょうがない。  
 
「ほう、3人がかりでも勝てる自信があるのか?」  
「に、逃げようコウキ!  
 いくらコウキが強くても、コウキには今ポケモンは1体しか…」  
(ハルカ…敵にこちらの情報を渡すなよ…)  
言おうとも思ったが、それを口にして弱気な姿勢を出すと精神的にまで優位に立たれてしまう。  
やれやれと思いつつ、ポーカーフェイス。いざとなったら僕も戦うか。  
 
「1体だけだと?笑わせやがって…」  
「出て来い、おまえら!」  
出てきたポケモンはドククラゲ、ペリッパー、ギャラドス。  
よりによって、コウキ唯一のポケモンであるバクフーンと相性は最悪だ。  
おまけにコウキは、電気や草タイプの技マシンを持っていない、バトルアーマーでも致命傷を与えられない。  
 
「…。」  
「コウキ、今からでも遅くないよ、逃げよ?」  
悪事を目の当たりにしたギンガ団と違い、  
まだコウキの目の前では悪事を働いていない海賊軍団相手では、  
いかにそいつらが悪人であろうとコウキは覚醒状態には入れない。  
「ごめん、ハルカ。僕はポケモン馬鹿でさ。」  
それでも、コウキの海賊軍団に対する闘志は、まぎれもなく本物である。  
 
「出て来い、バクフーン!」  
雄たけびをあげ、ボールから出てくる。  
「ほほう、われわれアクア団に対し、相性最悪の炎ポケモンで挑むとは…」  
「しかもそいつしかポケモンがいない、勝負は決まったな。」  
「勝手に言ってろ。僕のバクフーンは、そうそう負けやしない。」  
「ほざけ!アクアジェットだ!」  
サメハダーがアクアジェットを飛ばす。  
 
「ぎりぎりまで引き付けてかわせ!」  
コウキの指示で、バクフーンはぎりぎりでかわす。その瞬間、サメハダーの背後をとる。  
「スピードスター!」  
そして背後からスピードスターを放つ。  
必中技な上背後を狙われ、それなりのダメージをくらった。  
…だが、やはり肝心のタイプ一致の炎技が半減されるというのは、痛い。  
 
それでも、コウキには勝算があった。  
(ヒカリ、礼を言うよ。  
 テレポートの技マシンを使って以来、ヒカリにシンオウでは手に入らない技マシンを手に入れてもらった。  
 そのおかげで、バクフーンを強くすることが出来たからな。)  
「ドククラゲ、バブル光線!」  
バブル光線を放つが、バクフーンはかわす。  
そしてドククラゲに対し間合いを縮め、  
「いくら至近距離だからって、炎技で倒れると思ったか!?  
 相手の技を適当に受け流し、バブル光線だ!」  
ドククラゲが息を吸い込む。  
だが、バクフーンはその上を言った。  
 
「爆裂パンチだ!」  
「何!?」  
シンオウ、ホウエンではバクフーンに覚えさせられるはずのない技。  
ヒカリが、ジョウトのつてで手に入れてくれた、技マシン1である。  
「おっしゃあ、直撃だ!」  
「だが効果はいま一つだ、ドククラゲ、バブル光線!…あれ?」  
ドククラゲは混乱している。  
これではせっかくバクフーンを引き付けても、意味がない。  
 
だが、その間に、ギャラドスに不意を突かれた。  
「アクアテール!」  
「なに!?ば、バクフーン、かわして」  
指示が通る前に直撃。数m吹っ飛ばされる。  
効果抜群なうえ、ギャラドスの攻撃能力はほかのポケモンと比べても相当高い。  
「よーし、バクフーンは倒れてる、全員で総攻撃だ!」  
3体が一斉に飛びかかる。バクフーンは絶体絶命。だが、  
 
「行け、バクフーン!やつら全員に、かみなりパンチだ!」  
「なんだと!?馬鹿な!」  
これもまたシンオウ、ホウエンでは覚えられないはずの技。  
だが、バクフーンの拳には、電気がまとわれていた。  
 
「ギャアアアアアアア!」  
3体にかみなりパンチが直撃。見事に決まった。  
(これもジョウトから仕入れてもらった、技マシン41さ、ありがとうヒカリ!)  
3体とも倒れ、アクア団の連中はボールにポケモンを戻して走り去っていった。  
「くそ、覚えてろよ!」  
バクフーンにもダメージがたまっており、これ以上ポケモンを出されるとまずかったが、  
連中がそのかみなりパンチの威力に危険を感じ去って行ってくれたので、ひとまず助かった。  
 
とりあえずバクフーンの体力を薬で回復させ、ボールに戻す。  
「ふう、ありがとうございました…  
 わたくし、デボンコーポレーションの、」  
「デボン?たしかホウエンのポケモングッズの生産を一手に担っている…」  
「はい!  
 とりあえず、お礼にスーパーボールをあげちゃいます!」  
「ありがとうござい…ハルカ?」  
物欲しそうな目で見ている。  
本人は気付かれないようにしているつもりかもしれないが、バレバレである。  
 
「ハルカ、あげるよ。」  
「え、いいの?ありがとうコウキ、嬉しいかも!」  
(遠慮も何もあったもんじゃないな…年下だからしょうがないか。  
 それに、旅を始めたばかりのハルカにはスーパーボールは貴重だ、ハルカの方が有意義に使えるだろう。)  
そうだ、助けたお礼をしてもらったついでに、カナズミまで案内してもらおうか。  
そうコウキが想い、言おうとした矢先に、  
 
「あ、キノココかも!」  
「ん?あ、ホントだ。」  
「わお、おじさん、キノココ大好きなのよね!」  
突然3人の目の前に現れたキノココ。どうやらデボンの社員も欲しがっているようだ。  
だが、そんなのお構いなしとばかりに、  
「かわいいかも、欲しいかも、ゲットかも!いっけえ、スーパーボールッ!」  
 
何といきなりスーパーボールを投げた。  
(え!?もうか!?)  
キノココにあたり、ボールの中に吸い込まれる。  
デボンの社員は愕然とするが、どっち道弱らせずにボールを投げて捕まる可能性は低い。  
「やったかも、ゲットかも!」  
「ハルカ、中央に赤いランプが点滅してるだろ。あれが消えない限りはゲットしたことにならない。  
 そもそもバトルして弱らせもせずに捕まるわけが…」  
「…あれ、でも中央のランプの点滅が、止まったかも。」  
「…は?」  
よく見ると、ボールにはもう何の反応もない。  
「ス、スーパーボールはモンスターボールよりも高性能なのよね…」  
あいかわらずしょげた顔をしながら解説。  
確かに、モンスターボールよりも高性能なスーパーボールなら、捕まるのも納得はいく。  
なにはともあれ、  
 
「キノココ、ゲットかも!」  
スーパーボールを高々と掲げ、大喜び。  
コウキはその様子に苦笑いしつつ、落ち込んでいるデボンの社員にカナズミへの道案内を頼んでいた。  
 
デボンの社員が連絡を取って車を準備してくれ、その日のうちにカナズミシティに着くことが出来た。  
デボンコーポレーションの中に案内され、ツワブキ社長からお礼を言われる。  
「いやあ、うちの社員を助けてくれて、本当にありがとう。  
 これはお礼だ、もらってくれ。」  
そう言われて渡されたのは、ポケモンナビゲーション、略してポケナビ。  
トレーナーの必須アイテムにもかかわらず結構高価なので、プレゼントにはぴったりである。  
「ハルカ、あげるよ。」  
「え?でも、コウキがあいつらを」  
「いいからさ、これから長い事旅をするハルカには、ないと困るだろ?」  
「あ、そう、かも。  
 うん、じゃあもらうね!ありがとうコウキ!」  
ハルカが受け取ってさっそく荷物に入れる。  
「それじゃあ、今日はありがとうございます。」  
「いやいや、こちらこそ本当にありがとう。またいつでも立ち寄ってくれ。」  
お互いがお礼を言って、コウキはデボンコーポレーションを出ていった。  
 
ポケモンセンターに戻ると、今後の予定を立てる。  
何と言ってもこんなにも早くカナズミにたどり着けるとは思っていなかったようで、  
「ハルカはジム戦はするの?」  
「え?うーん…」  
ハルカはまだ自分が何をしたいかが見えていない。  
ポケモンと仲良く旅をしたいだけ、と言うのが本音である以上、ジム戦、と言われてもピンと来ないのは確かだ。  
 
「…ポケモンと一緒に何かを頑張る、と言うのは大事な事だと思う。  
 そのために必要な物は、なんだと思う?」  
「え?わかんないかも…」  
「それは、目標と、絆さ。」  
コウキもそうだった。  
目の前に控えるジム戦のためにポケモン達と一緒に強くなり、その時に絆が芽生える。  
まあ、その根幹をなしていたのはヒカリに振り向いてもらいたい、と言う恋心だったのだが。  
 
「ポケモン達と仲良くなりたいのなら、絆を作るための目標があればいい。  
 もちろん、ハルカはやりたいことがまだ見つからないんだろうけど、  
 今言った目標って言うのは、別にそんなに深く考えなくていいものだと思うんだ。」  
「え?」  
「気軽に…って言ったらその目標に対して失礼かもしれないけど、そんなものでいいんだ。」  
「でも、身近なところにそんなものって、あるかなあ…」  
ハルカが考え込む。  
どうも物事を難しく考える傾向があるようだが、コウキは笑って言った。  
 
「あるじゃないか!  
 カナズミジムへの挑戦さ!」  
「ジム?…で、でもわたし…」  
「もちろん、ポケモンリーグを目指しているわけではないのはわかってる。  
 だから、ジムへの挑戦は今回限りでもかまわないよ。」  
「え?」  
「アチャモとキノココとジム戦、という目標に向かって頑張れば、絆が生まれてくる。  
 そして、ポケモンバトルはポケモン達と心を一つにできる瞬間。  
 ポケモン達と仲良くなりたい、もっとポケモン達の事を知りたい、  
 カナズミジム挑戦は、そのためのきっかけづくりの感覚でいいんだと思うよ。」  
「コウキ…」  
ハルカがコウキを見つめる。  
今、ハルカの中で、初めてはっきりとした何かが芽生えた。  
 
「うん、やってみる!アチャモとキノココで、頑張ってみる!」  
「よーし、それじゃ今から特訓だ!僕も喜んで手伝うよ!」  
「コウキ、バトルの事、いろいろ教えてほしいかも!」  
「よっしゃ!  
 カナズミジムのルールは2vs2、アチャモとキノココでバッジゲットだ!」  
さっそく部屋を出て、ポケモンセンターの裏庭で特訓を始めた。  
ハルカの目は、明るく輝いて躍動感のある、夢見る女の子の目をしている。  
 
新人トレーナーの明るい未来を、コウキは温かく見守り続ける。  
 

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