ギンガ団が再び動き出したとの情報が入り、ナナカマド博士の要請で急きょ
ホウエンからシンオウまでとんぼ返りするコウキとヒカリ。
ミクリの用意してくれたチャーター便で大急ぎでコトブキ空港まで向かうのだが…
「…コウキ?」
「…。」
「コウキ。」
「ん?ああ、悪い。ボーッとしてた。」
「…嫌な予感が、するの?」
「まあな。でも、こういうのはもう慣れてる。」
機内食を口に運ぶ2人。
やる事がない以上、戦いに向け栄養補給は大事なことではある。
「…コウキ、昔と少し、変わったね。雰囲気も、目つきも。」
「変わってしまったんだよ。
俺の中に眠る悪魔の人格が、少しずつ俺を支配していってる。
吐き出すのは簡単だが…そんなの、お前が望むことじゃないだろ。」
「…でも、このままじゃ、コンドームなしじゃセックスもできない…」
「別にいいじゃねえか。」
「よくない!
…結婚するんでしょ?あたしたち。コウキの子供が、欲しいのに…」
「…。
じきに、ヒカリのそばにいる時ですら、体が拒否反応を示すことになるかもしれないな。」
ヒカリの目に涙が溜まる。
昔のコウキなら、ヒカリにこんな感情を抱かせる言いまわしはしなかった。
「ごめん。」
「…コウキは悪くないんだけどね。
でも、前は自分の事を僕って言ってたのに、前はあたしが泣きかけた時は必死になって…
あの時に、戻れないの?」
「…戻りたくても、戻れないこともある。」
辛うじて抑えていた感情が、耐えられなくなってすべて吐き出された。
コウキに泣きつき、ありったけの泣き声と涙を流すヒカリ。
(ルネシティで力を出し過ぎた…その反応で、俺の人格が、悪魔に乗り移られかけてる。
カイオーガとの戦いの直後は勢いで何とか抑えていたが…
飛行機に乗って、ギンガ団のいるシンオウに向かっているという実感が沸くと、どうしても完全には抑えきれない。)
「うっ…うっ…
…!?」
いきなりヒカリの胸をさすりはじめるコウキ。
前より少しだけ大きくなってはいるものの、やはりまだまだぺったんこの胸。
「いずれできなくなるのなら…
せめて、出来るうちにやっておきたい。」
「コウキ…んっ…」
口を口でふさぐ。胸をさする。
やっぱり、きもちいい。すこしでも心が安らぐ。
「…ぷはっ…」
「…ヒカリ、俺はお前がすきだ。たとえ人格が悪魔になろうとも、それだけは決して変わらない。
そして今度の戦いは、…下手をしたら伝説のポケモンとの戦いで命を落とすことになるかもしれない。
アカギの言っていた、異次元の空間に吸い込まれ、元の世界に戻れなくなるかもしれない。」
「…うん。」
「何が起ころうと、覚悟しておいてくれ。
…今、機内にはこの客室には俺たちだけ、誰も入ってこない。…これが最後のセックスになるかもしれない。
だが、何があろうと、ヒカリ、お前の命だけは守り切る。」
ヒカリは涙を浮かべてうなずく。
コウキがショーツをずらす、ヒカリはなすがままにされてゆく。
「…でも、コウキ。
何度も言うけど、それはあたしを守ってることにはならない。
あたしの命があるのは、コウキがそばにいるから。ホウエンで、それがよくわかった。」
「…それじゃあ、俺がどんな場所に身を投じようと、ついてくる気か?
仮にもし死ぬ時は、一緒に死ぬ、覚悟があるか?」
「…コウキと一緒なら。」
「…俺はそれをあまり望むことはしない。
だが、ヒカリがそれが一番いいというのなら、俺に命を預けてくれるな。
何かあっても、お前の命を気にしなくてもいいな。お前の事を気にせずに、戦っていいな。
…たとえ俺の悪魔のパワーで、お前を殺すような事があってもいいな。」
悲しかった。
それが望むこととはいえ、ここまで非常な言葉は以前のコウキには考えられなかった。
…でも、もう後戻りはできない。今までたくさん、命をかけて助けてもらった。今度は自分が命をかける番。
「…うん。」
「ご褒美だ。…思いっきり気持ち良くしてやる。」
スルスルと服が脱げてゆき、丸裸になる。
ヒカリの下半身はいまだに毛が生えておらず、すべすべの手触り。
ゆっくりとその感触を右手で楽しみながら、左手は乳房、唇はヒカリの唇に触れる。
「んっ…(きもちいい…コウキに、好きなようにされてる…
ふわふわしてて、きもちいい…すごく、幸せ…)」
天国にいるような感覚だった。
体を好きなようにされている。好きな人にすべてを預ける行為が、こんなにも気持ちいいなんて。
今まで何回もエッチを重ねてきたけど、こんな気分になれるのは、はじめてかも。
…でも、あたしは今まですべてを預けてきた。
裏を返せば、コウキは、全てを背負ってきた、コウキに全てを背負わせていた。…ひどい女だな、あたし。
でも、こんなに気持ちいいと、そんなことですら、まあいいや、って思えちゃう。ごめんね、コウキ。
「はううっ…」
「はっ…ふう…よかった、入った…」
ヒカリを座っているコウキの上にのせる感じに、コンドームがかぶさったペニスを突き刺す。
突き刺した後も、しばらく動かない。この幸せな感覚を味わいたいから。
「ずっと、こうしていたいな。」
「俺もだ。
…たとえ、天国に行っても、誰の手も届かない異次元空間に行っても、それでも一緒なら幸せか?ヒカリ。」
「うん。」
「…わかった。ずっと、一緒だからな、ヒカリ。」
「んあっ!」
腰を動かし始める。射精までのタイマーが始まりを告げる。
2人がこうやって繋がれる時間も、あと少し。そのわずかな時を、必死になって味わう。
コウキも、ヒカリも、これ以上ないくらい激しく腰を振って、
「ん、はああん!コウキ!もっと、もっと!」
「大好きだ、大好きだヒカリ!この世のなかで、誰よりも好きだ!一番、大好きだ!」
「い、イっちゃう、コウキで、イっちゃうよ、あたしぃ!」
「…くっ!」
コウキも、ヒカリも、背中をそらした。
一瞬、意識が真っ白になる、そして脱力感が襲う。
それを何とかこらえ、ヒカリを抱き寄せるコウキ。
そのままペニスを抜いてコンドームを外すと、その中身は黒くなっていた。
…どうやら、自分の性器にも、悪魔の影が忍び込んでいるらしい。生でセックスした時の拒否反応は、それが理由か。
「はあ…はあ…」
「…コトブキに着くまで、寝てていいぞ。
こうやって抱きついていられるのは、飛行機に乗ってる間、あと2時間だけだからな。」
「うん…
でも、それだと寝てる時間がもったいないな。」
「…その寝顔を、見せてくれ。
心から安らげる、可愛い寝顔をさ。ヒカリは、本当に可愛いんだからさ。」
「…ん。」
最後に軽く唇をコウキの頬に触れさせ、そのまま意識は途絶えた。
「着いたよ、2人とも、降りてくれ!」
「はい!」
着く直前に寝ぼけ眼状態で何とか服は着たヒカリだが、ホウエンを立つときからかなり疲れていた。
一度捕われた睡魔からは抜け出せず、結局また寝てしまった。
ヒカリをお姫様だっこで抱えて飛行機から降りると、見覚えのある車があった。
「シロナさん!」
「早く乗って!」
久しぶりに登場。
…あんまりこの人との思い出はいいものはないが、今はそんな事を言ってはいられない。
「急いでミシロタウンに向かうわよ。エムリットはまだとらえられてないけど、急がないと!」
「ええ。」
「相変わらずラブラブみたいね、あなたたち。
…コウキくん?なんか、ずいぶん雰囲気が変わったわね。」
「まあそうですね。
怖がらせてしまったのなら、すみません。」
「…そんな事はないけど、前にあった優しさが、なんかこう…」
「…失われてしまいました。
それでもヒカリは俺の事を好きでいてくれるので、嬉しいです。」
そう言うと胸の中にいるヒカリを見る。誰もが一目ぼれする可愛い寝顔。
…これは自分のものだ、そう思いながら人差し指で頬をなでる。
口元を笑わせながら、くすぐったそうに身をよじる。コウキの顔も自然と微笑む。
「あなたも眠たいんじゃない?
ヒカリちゃんもだけど、ホウエンで相当大仕事をして、そのままここに来たんでしょ?」
「ええ、まあ。」
「これから、またあなたにがんばってもらわなきゃいけない。
フタバまではまだ5時間あるから、あなたも寝てなさい。」
事実、カイオーガと戦ったその身で、一睡もせずにシンオウまで緊急帰着したのである。
ヒカリ以上にコウキは疲れていたが、ギンガ団の存在から自分に寝るまいと言い聞かせてきた。
「…わかりまし…すぅ。」
「寝ちゃった、早いわね。…可愛いわ、寝顔が。」
だが、シロナの言葉に安心して気が緩んだ瞬間に意識を失うくらい、コウキの体力は限界が来ていた。
今はしっかりと休む時。戦いを始めるのは、全快になってからでも遅くない。
ナナカマド研究所のあるマサゴタウンを抜け、シンジこのすぐ近く、
そして、コウキのふるさとである、フタバタウンへ。
マサゴには割と足を運んだが、フタバタウンに帰ってくるのは本当に久しぶりの事である。
ずっと前、チャンピオンとなる前、パルキアと戦うより前、
ギンガ団をやっつけヒカリを助けるためにシンジこに来た、その時に一度帰ってきて以来となる。
(ちなみにパルキアと戦ったあと、エムリットと初めて会ったのはシンジこではなくハクタイの北にある森。
ゲームと少し設定が違うがあしからず。)
「…あれ、どちら様ですか?」
「わたし、コウキくんの知り合いで、シロナと言います。アヤコさんですね?」
「あ、はい。」
コウキはまだ車の中ですやすや寝ている。
シロナが実家まで車を走らせてくれたが、コウキ本人が寝ている以上、懐かしの親子再会、とはいかなかったか。
「…という事なんです。」
「そうですか。うちのコウキでよければ、いくらでも協力させますから。使ってやって下さい。」
「そのコウキくんなんですが、今非常に消耗した状態なんです。
ヒカリちゃんと一緒にすやすや寝ているんですが、2人一緒にコウキくんのベッドに寝かせていいですか?」
「それはもちろん構いませんが…そんなにのんびりしてていいんですか?」
「はい。まだコウキくんの出番まで時間があるので。
何かあったら連絡するので、それまでは休ませてください。」
そういうと、ガブリアスに2人を運ばせ、ベッドに寝かせ布団をかけてあげる。
ちょうど日は暮れかけており、シロナは軽く会釈をして、シンジこの方へと向かっていった。
結局その日はギンガ団の気配はなく、その晩コウキとヒカリはぐっすりと眠り続けた。
結局、2人とも、都合ほぼ丸一日眠り続けていた。
「はーい。」
玄関からチャイム音が聞こえる。
アヤコがパタパタと足音を立てて、ドアを開ける。
「はい、…あら、あなたは?」
「ここはコウキさんのおうちですか?」
「ええ、コウキに何か用?すぐに呼ぶので、あがってちょうだい。」
小さな女の子を家の中にあげ、2階へあがっていく。
コウキとヒカリは、抱き合いながらまだ寝ている。
眠り自体は浅くなっているのか、なにかもごもご動き、そしてさらに強く抱きあう2人。
「ヒカリちゃんのママに聞いたけど、本当にラブラブなのね、この2人。
本当はこのままにしておきたいけど、お客さんが来ている以上は…起きなさい、コウキ。」
「…すぅ…」
「こういう時は。」
おもむろに脇を抱えあげ、そのままベッドから引きずり落とした。すると。
「てっ!…!!??かあさん!?」
「おかえり。お客さんよ。」
「ったく、どこか懐かしいと思ったら、もうその起こし方やめてくれよ。
で、俺にお客さん?」
「ええ。
…シロナさんの言っていた通り、本当に雰囲気が変わったわね、コウキ。」
「まあな。」
「なにがどうなっても、ママはずっとあなたのママよ、それを忘れないでね。先に1階に下りてるわ。」
そう言うと階段を下りていった。
懐かしの自分の部屋。そうか、車の中で寝てて、そのまま家についてベッドに寝かせられてたのか。
で、俺にお客さんだって?なんで俺がこの家にいることを知ってるか知らないが、とりあえず会うか。
「よっと。…。」
ふと後ろを振り向く。ヒカリがすやすやと寝ている。
このまま1階に下りてヒカリを一人にすると、誰かがヒカリを連れていって殺されてしまう。そんな予感がした。
根拠のない予感。それでも、ヒカリのそばにいると約束した。
両手でヒカリをすくいあげ、お姫様だっこの状態で階段を下りていった。
「あ、来たわね。
…って、なにもヒカリちゃんを連れてくることないじゃない。お姫様だっこなんて、恥ずかしい。」
「いいじゃないか。なんとなく、こうしないと落ち着かないんだ、こうしないとダメな気がするんだ。
…え、エリ…?」
「こんにちは!」
「この女の子、知り合いなの?」
「…かあさん、俺、2階に上がってこの子と話すよ。絶対に2階に上がらないでくれ。いいな。」
「えー?ママだって、気になるわよー。」
その瞬間。
覚醒状態に入り、アヤコを睨みつける。
(な、何…!?
この、コウキの威圧感は…)
「ふざけないでくれ。絶対に盗み聞きするんじゃねーぞ。」
「は、はいはい、わかった、わかったから…」
「ああ…」
すぐに覚醒状態はとかれる。
再びヒカリを抱えあげ、エリもその後をついていった。
「…で、感情の神が、なんでこんなところにいるんだ?」
「湖の底から、シンオウを見ていたの。
そしたら、ギンガ団が他の湖にいた2人を再び捕獲して、そしてこっちに向かってきた。
幸い、あなたの知り合いが防衛ラインを張ってくれたけど…」
「ああ。
とにかく、俺も大急ぎで帰ってきた。」
ヒカリはベッドに再び寝かせた。
かれこれ25時間以上眠り続けている。
「よく寝てるね、ヒカリさん。」
「ああ、無理させすぎたからな。ゆっくり休ませないと。
で?ジュンやシロナさんじゃ頼りないから、湖から抜け出して来たとでも言うのか?」
「頼りないから、じゃないけど、抜けだしたのは事実。
でも、あたしが人間の姿になれることはばれているし、人間世界に普通に紛れても意味はない。
かといってエムリットのままシンオウを回り続けても、ギンガ団はしつこく追ってくる。」
「つまり、かくまってもらえる場所が必要だったわけか。
だが、人間の中で自分を守ってもらう上で頼れる奴は、確かに俺しかいないわな。」
「だから、たまたまあなたが帰郷したのを見て、ふと思いついたの。
家の中なら見つかりにくいし、なんといってもコウキさんは強くて頼りになる。
ほとぼりが冷めるまで、かくまってもらう事に決めたの。」
フタバタウンは地形の関係で電波が非常に届きにくいので、エムリットを探査する機械があっても見つかることはない。
ましてや、ポケモンの発する特殊な電波は、建築物の中では遮断されるという特殊な性質を持つ。
つまり、人間の家に泊めてもらえばいいが、当然伝説のポケモンに人間の知り合いはいない。
となれば、コウキに頼るしかない、ということにある。
エムリットが心安らげる建築物は、現状ではコウキの家しか無いのである。
「まあ、いいぜ。
とりあえず、しばらくはここにいろ。俺も母さんに話をつけておくから、安心してくれ。」
「はい!…それじゃ、お礼に…」
「ガキの体にゃ興味ないから。」
「ひどっ!」
「もしもし、シロナさん?」
重要な話を終えて、現在お昼の3時。
おやつの時間という事でアヤコからおやつをもらって2人で食べている。
3時間も経つと、すっかりエリは家になじんでいた。
「やっほー!ベッドトランポリーン!」
「おいおい、ヒカリが起きるぞ。」
ちなみに、ヒカリはまだ寝ている。恐るべき睡眠力。あと1時間で30時間に到達する。
そのヒカリのポケギアを借りて、シロナとの定時連絡をとる。
「こちら、異常なし、そっちは?」
「ええ。」
「でも、万が一あなたの家がかぎつけられてギンガ団が押し掛けてきたら…」
「その時はその時です。万が一の場合は考えがありますから。」
「あら、そう?まあいいわ、それじゃ。」
電話を切る。
エリがベットから降りて、ちょこんとコウキの膝の上に乗る。
「ねえ、考えって?」
「…これだ。ずっとリュックに保管していた、あかいくさり。
エムリッとに手を出させない代わりに、こいつを渡す。」
「そんなことしたら…」
「どうせやりの柱に行ったって異次元の扉なんて開きっこないさ。
それより、ユクシー、アグノム、そしてエリの事を何よりも大事に考えなきゃ。
…それが、俺の最後の仕事だ。」
「ど、どう言う事?」
「ギンガ団は何にもできっこない…とは思ってるけど、それでも嫌な予感がする。
…俺は、もうすぐ死ぬ。ヒカリと共に。」
「!?」
シンオウに着く前からしていた、いやな予感のことをすべて話した。
「エムリット、シンオウを、見守り続けてくれ。」
「やめてよ、ずっと大人しくしてれば、ギンガ団と戦う事も…」
「何もしなくたって、俺の意識は、内に秘める悪魔の力に飲み込まれかけている。
…いずれにせよ、俺は俺でなくなり、悪魔という存在となった俺は、シンオウを滅ぼす。
なら、最後にどでかい仕事をして、…ヒカリと死ぬ。」
「なんで、ヒカリを巻き込まなくたって…」
「あいつがそれを望んだ。
俺がいない世界は、ヒカリのいられる世界じゃない。俺だけが死んでしまったら、ヒカリは生きていけない。
死ぬなら、一緒に天国に行きたい、だそうだ。」
そこまで言われるともう何も言えない。
なんで自分は伝説のポケモンという存在なのか。エムリットは自分を心の中で責めた。
…そして、コウキの覚悟を無駄にしないため、シンオウを見守り続けよう、そう決意した。
少女の姿から、本来の姿に戻る。
「きゅうううん…」
「よしよし、こんな小さな体に、無限の可能性が詰まってるってわけか。
俺の可能性は、もうすぐすべて潰えるわけだが、それでもいいか。」
「きゅうううん…」
ヒカリが寝がえりをうち、ようやく起きる様子を見せた。
だが、それから彼女がむくりと体を起こすまで、結局あと1時間かかった。
「2人とも、今日は泊まっていくの?」
「その事なんだがな、かあさん。当分の間、この2人を家に置いといていいかな?
二人とも2階の俺の部屋で寝かせるから。」
「それは別に構わないけど…」
「着替えとかもちゃんとありますから。」
夕食を4人で食べる。
コウキの父親は長い事家に帰ってきていないので、3人以上で食事をすることが久しぶりだ。
食事とお風呂を済ませるが、寝間着に着替えることはしない。
すぐに出発できる体制を整えておかねばならない。
コウキは上着以外はすべて着用し、ヒカリにいたっては何も脱いでいない。
「また3人一緒に寝られるね。」
「ベッドがこれ1台しかないからな。…こうやって、気持ち良く寝られるのも、」
「そのことは言わないで、コウキ。
死ぬって決まったわけでもないし…やっぱり、あたしも生きるから、コウキも自分の命を最優先に…」
「そして、抑えきれなくなった悪魔のパワーが爆発し、シンオウは滅びる…
だから、そんな甘ったれたことは言うな。
俺が死ねば、悪魔のパワーも消滅するんだ。肉体がなくなれば、それに付随していたものも消え去るからな。」
ヒカリがコウキの胸に顔をうずめる。
しばらくすると、顔をうずめているあたりに濡れる感覚がしてきた。
「あの、コウキさん…お願いです。」
「ん?」
「…わたしも、甘えていいですか?」
「好きにしろ。」
ちょっと重たいけど、あったかくってふわふわした感触。
ヒカリは泣き疲れたのかすぐに眠ったが、コウキはなかなか寝付くことができなかった。
…自分の運命が、そばにいる2人を悲しませることになる。故に苦しんでいた。
(…車の音?騒音?なんだ?)
なにか音がする。大集団がこちらに向かっているような音。
完璧に寝付いた2人を起こさないようにそっとベッドから離れ、窓を見る。
(ギンガ団の大軍団だ!まさか、気付かれたのか!)
ギンガ団の大集団。
小型バイク、大型車両、車の台数から考えても、総勢100人くらいいるかもしれない。
(まずい、食い止めないと!
ヒカリ…は完全に意識が戻るのなんて、待ってらんねえ!)
腰にモンスターボールがついていることを確認し、リュックを背負い、寝たままのヒカリを抱え、階段を降り外へ出る。
間違っても、家を壊されたりアヤコやエリに危害を加えるような事があってはならない。
玄関の前に立ち、眠ったままのヒカリの腰を下ろさせ、ドアに背をもたれさせるように置く。
「起きろ、起きろヒカリ!」
「…ぅ…ぅぅ…」
辛うじて目を覚ましたが、意識はやはりぼんやりしている。
その間に、ギンガ団が到着してしまった。
「この家か!」
「はい!ここからエムリットの生体反応が出てます!
なぜシンジこから生体反応が出ていないのかは謎ですが…あれは?」
「玄関の前に人が!…あ、あいつは!」
「…私が相手をする。」
ギンガ団のボス、アカギ。
消えたはずの男が復活を果たし、コウキの前に現れる。
「…ぇ…ギンガ、団…?」
「ああ、そうだ。いい加減目を覚ませ。」
「コ、コウキ!?何これ、どうなってるの!?」
慌てふためくヒカリを背に対峙するコウキ。
「確かにポケモンの発する電波は建築物内では遮断される。
…だが、その程度で身を隠し切れるとでも思ったか?」
「よく考えりゃ、そっちの科学を駆使すればそう難しい事ではなかったか。
闇討ちとは完全に油断したぜ。普通に考えりゃ、真夜中に一番警戒するべきなのにな。」
「…雰囲気が変わったな。」
「お前こそ、よくもまあ再び俺の前にツラを出したもんだな、アカギ!」
覚醒状態に入る。
体の芯まで怒りで満たされる。
「どういう風の吹きまわしだ?あんた、もう2度とこんな事しないと思ってたんだがな。
まあ、あんたがいなくなってもギンガ団は活動してたがな。
ハードマウンテンしかり、ハクタイの北の森しかり、おかげでこっちは大迷惑だ。」
「…パルキアを復活させても、ダメだった。
そして、何が足りないかを調べていた、それだけだ。
私は、断じて理想の世界をあきらめることなどしない!」
「あ、そう。
で、その研究から出た、結論とやらはどんなもんだったんだ?」
「もう1度あかいくさりを作るために、湖の3匹のポケモンをわがものにする。
そして3匹のパワー全てを結集させ作ったあかいくさりを作り、
わがギンガ団の科学を結集して作った機械とエネルギーであかいくさりを複製させる。」
いかにエムリット達のパワーでも、作れるくさりは1個が限界、らしい。
なので、同じ分だけのエネルギーをギンガ団が用意し、最先端の技術を持ってもう1つ作る。
「で、2つ作ってどうするんだ?
まさか、ディアルガもパルキアも、両方分捕る、なんてこと言うんじゃねえだろうな?」
「…そのまさかだ、私は気付いた、何が足りなかったのか。
理想の世界を作るための異次元の扉を開くためには、パルキアでは不十分。
時間のディアルガ、空間のパルキア、全てをそろえれば、異次元の扉が完全に開く。」
アカギが熱く語る。
ヒカリは完全に目を覚まし、おびえた目をしながらコウキに寄り添う。
「そしてディアルガとパルキアの力で、全く新しい次元空間を作り、そこに理想の世界を作る。
感情などという不完全なものを排除した、完璧な世界をな!」
「そこで理想の世界の王となったお前は、お前の言う不完全な世界、
つまりこの今の世界を潰しにかかる、というわけか。」
「王?そんな階級などと言った、意味のない不必要なものなど、私の理想の世界にはない。
…ただ、それでも私の思っていることとはさほど離れていない。」
「あんたと出会って、わけのわからないことも何となく理解できるようになっちまったからな。」
「どうだ?一緒に理想の世界を作らないか?歓迎しよう。
わたしはすべての人類を世界の空間ごと滅ぼすつもりだが、君はわたしの理想の世界に入れてあげてもいい。」
ここで言うすべての人類とは、もちろんギンガ団も含む。
もっとも、肝心のギンガ団は役立たずの馬鹿どもばかり。自分たちは別だ、と勝手に思っている。
「お断りだ。…と言ったら当然…?」
「力ずくに決まっているだろう。」
「あんた、争いは醜いって言ってなかったか?」
「これは、新たな世界を作るために必要な戦い、正義のための戦いだ。」
「ごたいそう、かつ迷惑な正義だこと。」
「こっちは総勢100人近くいる、いくらチャンピオンでも、100対2では敵うまい。」
ちっ、と舌を鳴らした。
流石に50倍の戦力では、いかにコウキといえども無理がある。シロナやジュンに援軍を頼んでも、
おそらくそれまで持ちこたえることはできまい。
…ふと、コウキにある考えが浮かんだ。
以前のアカギは、異次元の扉を開く、としかいっていなかった。異次元の扉の向こうに何があるかすら言っていなかった。
だが、今回ははっきりと言った。「異次元の扉の向こうの、次元空間に理想世界を作る」と。
つまり、この世界とつながる形で、この世界のと別の空間が出来るという事になる。
この地球上のどこでもない、宇宙空間ですらない、まったく新しい空間が。
…いける、そう感じた。
「なあ、あんた、何がどうあれ争いは醜い、と言っていたよな。
この戦いも、出来ることなら避けたいんだろう?」
「正義の争いに醜いなんてものはないが、まあ、こんな勝負の見えた無駄な争いは、本来なら確かにしたくはないな。
だが、その条件としては、われわれに協力するか、それがだめならエムリットの身柄を渡すか。
しかしどちらも君が条件として飲むはずがない。だから、君をたたきのめして、
この世界を滅ぼすために、その手始めにこのフタバタウンを滅殺する。…ギンガ爆弾でな。」
「そ、そんな…!
ひどい、ひどすぎる!」
「まあまて、ヒカリ。
確かにどちらの条件も飲めないが、あんたらが納得する3つ目の条件を提示しよう。
ただし、その条件を受け入れる場合、すぐにこのフタバタウンから撤退しろ!」
「ほう…一応、君の話を聞こう。
確かにいずれこの世界そのものを滅ぼす以上、今滅ぼしても世界全体を滅ぼす時に一緒に滅ぼしても同じことだからな。
まあ、その撤退条件は受け入れてもいいだろう。」
いくら100人いると言っても、シンオウのチャンピオンを倒すのは相当大変である。
それでもコウキを倒すことはできるだろうが、かなり手こずり警察沙汰にもなると厄介なことにもなりかねない。
故に、納得できる条件を出してくれるというのならアカギもそれに乗ってもいい、というわけである。
そしてアカギの条件を受け入れてもいいというその言葉を聞くと、コウキはリュックからあかいくさりを取り出した。
「よーするに、俺を協力させるにしても、エムリットの身柄を渡すにしても、
あかいくさりをつくれりゃいいんだろ?
…だったら、俺が今持っているあかいくさりそのものを、あんたらにやるよ。
どうだ?俺に対してこいつを力ずくで奪うにゃあ、相当厄介な事なんじゃないのかい?」
「…。」
しばらく口を閉ざすアカギ。返答を待つコウキ。
コウキの中には焦りがあった。なんとしても、この条件で妥協してもらわねば。
だがそれを表情に出してはいけない。そこは今まで何度も修羅場を乗り越えてきた精神力で隠し通した。
「まあ、いいだろう。渡してもらおうか。」
内心ほっとする。
だが、気を緩めてはいけない。少しでも弱みを見せたら、何をされるか分からない。
「ほらよ。」
「…。」
アカギの目の前に立ち、あかいくさりを渡す。
アカギは踵を返して、車に向かう。
(アカギ様、奴は何を考えてるか分かりません、野放しにしたら、何をするか分かりません!)
「…気にするな、行くぞ。」
「は、はい!」
ギンガ団が撤収していく。
姿が見えなくなると、ようやく緊張感から解放された。
「ふう…」
「た、助かったね、コウキ…」
「…さあて、希望が見えてきたぞ。」
「え?」
「もしかしたら、ギンガ団を倒した後も、俺は生きながらえることが出来るかもしれない。
…もちろん、世界に影響を与えず、俺の中にあるすべての悪のエネルギーを放出した状態でな。」
「どど、どう言う事!?」
「とにかく、すぐにテンガン山へ向かうぞ、準備しろ!」
身支度を整え、置き手紙を置き、ムクホークに、トゲキッスに乗ってクロガネシティへ向かった。
置き手紙には『一日、世話になった。 ありがとう。』と書かれていた。