「ヒカリ、あとどれくらいだ?」  
「えっとねえ…うん、もうすぐつくよ!」  
「やっぱポケッチは便利だな、ハードマウンテンでアプリの一部が壊れたから、早く直さないと…」  
 
それぞれムクホーク、トゲキッスに乗って、空の旅を満喫している。  
ヒードランとの一件以来、さらに仲睦まじくなったこのカップル。  
お互いに、特にヒカリは、一段と強くなったコウキに、ますます惚れていた。  
知らない人のためにカップルの紹介をしておくと、男の子の名前はコウキ。  
ポケモンリーグのチャンピオンに勝った、シンオウ最強クラスのポケモントレーナー。  
女の子の名前はヒカリ。シンオウでは誰一人知らない人はいない、ナナカマド博士の助手。  
その身分とコーディネイターとしてのポケモンコンテストの実績から、こちらもなかなかの有名人。  
 
この2人、実は一線を越えた仲である。  
もちろんこの事実を知っている人はほぼ皆無(0ではない)であり、  
単にこのカップルは周知ではシンオウ最強クラスのトレーナーチームとして知られているだけである。  
225番道路で初体験をした後、しばらくしてハードマウンテンでチームを組んで、その時また夜を楽しみ、  
ハードマウンテンでの騒動を収束させた後は、ずっと2人は一緒に行動している。  
 
ヒードランの騒動の後は、特にシンオウで事件や伝説ポケモンの目撃情報はなく、  
ナナカマド博士も『いろいろ疲れただろうから』と、とりあえず現時点では調査指令は出さないから、  
ゆっくり休暇をとるなり、遊ぶなりなんなりしてくれ、とのことである。  
とはいえ、そう言われるとやることがない。ポケモンリーグは制覇したし、  
ほかの地方に行くことも考えたがいつまたナナカマド博士の指令が飛ぶかもしれない。  
となるとあとはバトルタワーだが、クロツグにコンドーム購入現場を見られて、そこにも行き辛い。  
 
ある意味軽いスランプ状態だったが、それならばと、ヒカリが自分が行きたい場所がある、と言い出した。  
いままで(まあヒードランの一件だけだが)俺の都合に合わせてきてくれたし、暇なので快く了承。  
 
「ついたー!ヨスガシティ!」  
「しかし、ヨスガで何をするんだ?僕はレリックバッジはもうとっくにゲットしたけど。」  
「ああ、そろそろ教えていいよね。…いや、実際に行った方が早いか。いざ、ポケモンセンター!」  
 
ごつごつしたハードマウンテンから一転、バリアフリーを重視したヨスガシティ。  
ヒカリはここにきたかったわけである。着くや否や、ジョーイさんが出てきた。  
「ヒカリさん、お待ちしてました。お届けものです。」  
「ありがとうございます!楽しみだな〜!」  
「…何が入ってるんだ?…なるほど、そういうことか。」  
 
中にはドレスが入っている。もうこれで何をしたいかは分かるだろう。  
ピンク色の真新しいドレス。試着してくる、といい、走って更衣室に向かっていった。  
あとで聞いた話だが、ヒカリがヨスガに行くと決めた時に、母親に電話したところ、これを送ってもらったらしい。  
 
「あ、そうだ。一つ伝言を言付かってたんだっけ。」  
「はい?なんですか、ジョーイさん?」  
「ナナカマド博士が、ヨスガに着いたら、連絡がほしいって言ってたの。」  
「博士が?なにかあったのかな?」  
大急ぎで電話ボックスに向かう。  
研究所の電話番号を押すと、画面の向こうにはおなじみのナナカマド博士が映る。  
 
「博士、どうしました?新しい情報が入ってきたんですか?」  
「いや、のんびりと休暇中なのに、もうそれを潰す、なんてことはしない。  
 1つ預かってほしいものがあるだけだ。この前、近所からタマゴが届いてな。」  
「ポケモンのタマゴですか?確か、元気に走り回るトレーナーのそばで生まれるって…」  
「うむ。のんびりと休暇を楽しんでほしいが、このタマゴの孵化だけは頼みたいんだ。」  
「はい、わかりました。」  
実はタマゴの孵化はまだやったことがない。うわさでいろいろ聞いていただけである。  
と思っている間に、パソコン通信でタマゴが送られてきた。  
 
「では頼む。タマゴについてはある程度調べたから、生まれたポケモンが何かだけ報告してくれ。  
 生まれてきたポケモンは、コウキに譲ってかまわない。」  
「あ、どうも。」  
「それでは、コンテスト頑張るのだぞ。  
 ヒカリとともに、存分に実力を発揮してくれ。」  
「はい!…ん?ヒカリとともに?」  
 
どういうことですか、という前に電話が切れてしまった。  
まあいいか、と思いつつ、手持ちポケモンが7体になってしまったからだれを預けようか思案する。  
とりあえず、ガブリアスを預けることにした。転送を終えると、漸くあの声が聞こえて来た。  
 
「ごめん、遅くなった。結構複雑でさ、このドレス。」  
「ヒ、ヒカリ…」  
出会ったときから、コウキはすでに「信じられないくらい可愛い」その容姿に一目惚れした。  
そのヒカリが、ピンクの生地に、かわいい装飾品がくっついていたかわいいドレスを着ているのだ。  
コウキの顔は真っ赤になった。あまりにもその変化は一目瞭然、ヒカリもすぐにわかってしまう始末。  
「ん?はっはーん…そんなに私が可愛く見える?」  
「うん…やられた…」  
「ちょ、ちょっと、大丈夫?」  
意識が飛びかけている、まともな返事が出来ていない。  
コウキに似合うと言ってもらえるかどうか心配だったが、まさかここまでの反応とは思っていなかった。  
ただ、ナナカマド博士の言った一言が気になり、何とか意識を戻して尋ねる。  
 
「なあ、博士が言ってたんだけど。  
 ヒカリとともにコンテスト頑張れって、どういうことだ?」  
「ん?ああ、それはねー…」  
 
お届けものから、もう一着服が出てくる。黒い服。  
広げてみると、どうやらタキシードである。  
 
「こ、これ…まさか、僕の?」  
「うん。あなたのお母さんからよ。」  
「母さんから!?…あ。」  
 
実は、コウキはコンテストに出たことがない。ヨスガで母親に会ってコンテストに出ないか、と尋ねられたが、  
当時コウキはジム戦のことで頭がいっぱいで、母親からタキシードももらわずズイタウンに向かっていった。  
それをようやく渡されたのである。  
「とにもかくにも、コンテストに向けて練習よ!」  
「あ、ああ。…僕も出るの?」  
「大丈夫だって!さ、準備準備!」  
 
コウキの場合、二次審査のトーナメントはともかく一次審査は突破は相当困難であろう。  
そして迎えたコンテストの日、コウキはチャンピオンということで優勝候補筆頭だったのだが。  
…練習はしたのだが、いかんせん経験が足りなさすぎた。  
 
「…。」  
「そ、そんな顔しないで!初めてだから、一次審査で負けたってしょうがないよ!」  
「ヒカリ、なんで俺を誘った?」  
「え?あ、えっと、その…ごめんなさい…」  
 
不機嫌になるコウキ、気まずい空気を感じるヒカリ。  
しかし、それはあくまで作られたものに気付かなかった。  
 
「楽しかったよ。」  
「…え?」  
「ははは、ひっかかってやんの。僕がヒカリに対して、怒ったりするわけないだろ?」  
「え?ううう…こ、このー!」  
 
控室でじゃれあう2人。  
まわりはこの有名人2人の行動を呆れながら見ていた。  
「それじゃあ、僕は観客席の方へ行くね。僕の分まで、頑張ってくれ。」  
「うん!…あのさあ、もし優勝したら…」  
耳を貸すように言ってくるヒカリ。そこで聞いた言葉は、  
(あのさ…優勝したら…その…エッチしてよ。)  
周りに聞こえないように注意を払うヒカリ。だが、思えばまだ3回しか体を重ねていないこの2人。  
コウキは必要以上の反応を示してしまった。  
「な、なあっ!?ヒカリ!?」  
 
その大声は、周りの注目を浴びることに。  
「ちょ、コウキ!?」  
「あわわわわ、ごめん。ぼ、僕、観客席に言ってるよ!」  
タキシードのまま、ダッシュでその場を立ち去った。  
残されたヒカリには、恥ずかしさだけが残ってしまった。  
 
第2審査コンテストバトル決勝。  
ヒカリは決勝まで勝ち進み、そして決勝戦の相手は、  
「お待たせしました決勝戦!ヒカリさんvs…ミカンさん!」  
一部の読者は知っているかもしれない。アサギシティのジムリーダーである。  
もっとも、ここはシンオウ。会場のほぼ全員がその事実を知らない。  
 
「それでは…バトル、スタート!」  
「おねがいします…ハガネール。」  
「頑張って、トゲキッス!」  
ヒカリがトゲキッス、ミカンはハガネール、2体が対峙し、5分のタイマーが動き始めた。  
 
「(相性はあまり良くないけど…でも、トゲキッスは大文字を覚えている!)  
 トゲキッス!エアスラッシュ!」  
大文字が使えるのは5回。そのうち1回は当てないと、間違いなく負ける。  
ほかの技で動きを封じるのが、一番早いのだが…  
「ストーンエッジです。」  
ハガネールはストーンエッジで対抗。空気の波動と岩の刃、  
勝敗は明らかで、エアスラッシュを粉砕しなおもトゲキッスを襲う。  
「かわして!」  
 
何とかかわすが、その隙に後ろを取られた。  
「アイアンテール。」  
「ト、トゲキッス、かわし」  
だが、遅かった。アイアンテールが直撃。叩きつけられ地面に落ちていく。  
「だ、大文字!」  
振り向いて大文字をするように指令。トゲキッスが大文字を打つ。  
だが、あえなくかわされる。  
「と、トゲキッス!」  
そして地面にたたきつけられる。  
さらに、叩きつけられてから体勢を立て直す前に、ハガネールは容赦なく攻撃を加える。  
「アイアンヘッドです。」  
「(だめ、間に合わない!)大文字!」  
大文字で迎え撃つ。ハガネールがそれをかわす間に、なんとか体勢を立て直し再び飛ぶ。  
しかし、大文字はあと3回しか使えない。  
そして一方的にやられており、ポイントも半分近くまで減らされた。  
 
「(まずい、ポイントが!早めに何とかしないと…)トゲキッス!大文字!」  
もう一発大文字を発射。  
「何っ!焦るな、ヒカリ!」  
コウキが思わず声を出すが、その声は早々届くことはない。  
一方のミカンは落ち着いていた。  
「かわして下さい。」  
ハガネールがかわす。だが、その隙に今度はトゲキッスが後ろに回る。  
「よし今よ!大文字!」  
(いや、だめだヒカリ!)  
「ハガネール、守るを。」  
水色のバリアがハガネールを覆う。大文字によるダメージは、0にされる。  
「そんな…あと1回しか大文字が使えないのに…」  
 
その事実により、バトルの流れが大きく変わる。  
技を出しづらくなり、防戦一方。2分を切ったころには、ポイントが2割に満たなかった。  
もちろん、ハガネールのポイントはまだ無傷。  
大勢が決し、盛り上がりに欠ける展開に、静けさが増す会場。  
(どうしよう…どうしよう…コウキも見てるのに…)  
体にしびれを感じる、自分は何をやっているんだ、その焦燥感、からであろう。  
立つのも精一杯、トゲキッスのまともな指示が出来ない。  
「か、かわして、かわして!」  
なんとかトゲキッスもかわすが、その消極的なバトルからポイントがじわじわ減っていく。  
(どうすれば…どうすれば…)  
完全に冷静さを失っていた。残り1分半、もう勝負は決まった…  
 
「あきらめるな!最後まで戦え!」  
大声が聞こえた。会場が静かだったため、ヒカリの耳にも届いた。  
「全力でやらなきゃ、道は開けないよ!」  
コウキも何を言おうかと考える余裕もなく、思いついた言葉を適当に叫んだだけ。  
だが、その思いは通じるはずである。  
「…コウキ…」  
「ハガネール、すてみタックルでとどめです。」  
ハガネールがトゲキッスめがけて突進する。  
だが、ヒカリの闘志も、ここでようやく戻った。  
 
「トゲキッス!草結び!」  
猛突するハガネールの体に、草がからみつく。  
そして、大きな音と揺れとともに、ハガネールが倒れこんだ。  
「やった!ポイントが激減した!」  
ポイントが3割ほど減った。400kgのハガネールには、草結びは大ダメージになる。  
ミカンも、流石に動揺を隠せない。  
笑顔のヒカリを見て、トゲキッスも闘志を取り戻した。  
(そうよ、何勝ち負けで自分にプレッシャーかけてるのよ!コンテストは、思いっきり楽しまなきゃ!)  
「は、ハガネール、ストーンエッジ!」  
 
またストーンエッジが飛んでくる。  
しかし、ヒカリはまたかわすように指示。  
(同じ轍を2度踏むつもりか?…いや、違うな。)  
だが、ヒカリの眼はさっきとまったく違っていた。  
ハガネールがそのすきに後ろに回り、  
「アイアンテールです。」  
尻尾でたたきつける。  
だが、すべてヒカリの思うつぼだった。  
「神速!」  
 
トゲキッスの姿が一瞬にして消えた。  
そして、ハガネールのすぐ後ろをとる。時間は、残り30秒。  
「(もう時間がない!)ここで決めるよ、トゲキッス!  
 最大パワーで…」  
(ま、まずい!今大文字を使ったら、それくらい相手は読んでる、守るで防がれるぞ!)  
トゲキッスが大きく息を吸ったその瞬間、ヒカリが指示を出すその瞬間に同時に、最高のタイミングで、  
「ハガネール、守るです。」  
 
「フェイント!」  
 
時が、止まった。  
完全にバトルに集中していたヒカリの、渾身の指示。  
しかもそれは、トゲキッスが覚えられるはずのない、技だった。  
「え?」  
「うまい!」  
トゲキッスもヒカリと心を1つにしていた。流石にフェイントは出せないが、何もせずに宙を浮いたまま。  
そして、ハガネールはそのバトルの突然の異変についていけず、守るを発動した。  
「しまった!」  
「ナイス、トゲキッス!」  
力をためるトゲキッス。守るを発動したポケモンは、どんな技も防ぐ代わりに、  
自らもそのバリアによってその場を動くことができない。  
そして守るは決定的な弱点がある。連続して使えない。  
 
相当のダメージを受けていたトゲキッスも、もうほとんど体力がない。  
おまけに、時間はわずかで残りポイントには大きな差がある。  
勝つには、戦闘不能にしてバトルオフをさせるしかない。この一撃にすべてをかける。  
「よーしトゲキッス!ありったけのパワーをハガネールにぶつけるのよ!」  
大きく息を吸い込む。  
そして、すべての力を体内のどこか一点に集め、発射準備完了。  
 
ハガネールを包んでいた水色のバリアが、消える。  
「今よトゲキッス!最大パワーで、大文字!」  
残された最後の1回の攻撃。炎技最強の技を、効果抜群のハガネールにたたきこむ。  
フルパワーなだけあり、普通の大文字と比べても威力が尋常じゃない。  
そして、ハガネールの後頭部に、直撃する。  
 
「ウガッ、ガネエエエエエエル!」  
「は、ハガネール!」  
必死に抵抗するが、あまりに威力の大きさについに地面にたたきつけられる。  
そして、爆発した。  
「わ、わあああああああっ!」  
「くっ!」  
「ヒカリ、大丈夫か!」  
ヒカリとミカンにも、強風が当たる。観客席にまで強力な風が襲う。とんでもない威力の爆発。  
その瞬間、タイムアップ。  
ポイントは大幅に削るものの、やはりハガネールのポイントには届いていない。  
仮に時間無制限だったとしても、もうトゲキッスはすべての力を使いきり、立っているのがやっとの状態である。  
 
立ち込めていた煙が消えかかり、ハガネールの姿が見え始めた。  
「なにっ!」  
「そんな!」  
ハガネールが、苦しそうな顔で立ち上がり始めていた。  
だが、相当のダメージで、一瞬倒れかかる。が、それに耐え、また立ち上がり始める。  
会場は歓声に包まれる。ハガネールは立ち上がるのか、その一点に集中していた。  
 
そして、  
「ガネエエエエエエエル!」  
立ち上がった。この瞬間、ミカンの優勝が決まった。  
ヒカリは立ち尽くす。トゲキッスはよたよたとヒカリのもとへ行く。  
「ううん、あなたのせいじゃない、あたしが、最初から、ちゃんとやってれば…」  
トゲキッスは首を振るが、ヒカリはぼうぜんと立ち尽くし、それに気づいていない。  
目の前の様子も、完全にぼやけていた。ただ、口だけは、うれしそうに笑っていた。  
 
コンテストの優勝セレモニーが始まるころ、ヒカリはステージから離れ廊下を歩いていた。  
ステージから歓声が聞こえる。ため息をつきながら、更衣室に向かって歩く。  
 
目の前に人が立っている。タキシードを身にまとった、コウキである。  
「ヒカリ…」  
最高のバトルだったとか、気にするなとか言っても、ヒカリは笑いはしないだろう。  
そう思うと、何を言おうか戸惑う。ヒカリの所に来た事を、今更ながら後悔する。  
「…ごめんね。あんなにはしたないバトルして…」  
「そんな事…」  
といったところでコウキはまた後悔。言うべき言葉じゃないと自分に言い聞かせたばかりなのに。  
「でも、負けちゃったよ。…勝ちたかったのに、絶対。」  
「ヒカリ…」  
「コウキはポケモンリーグのチャンピオンになって、  
 コウキに追いつこうとしてエムリットを追っかけてたら怪我して助けてもらって、  
 それでも追いつこうと、優勝して喜んでもらおうと思ったのに、優勝できなくて!」  
大粒の涙をぼろぼろ流す。  
コウキも必死になって慰める。  
「で、でも、僕に持ってないものをヒカリはたくさん…」  
「でも、でも!これじゃあたしは納得できない!一緒に並んで、歩いていけない!  
 こんな女の子が、ポケモンリーグのチャンピオンと一緒に肩を並べて歩いてなんて…  
 いつも劣等感をコウキに対して持つことになって…」  
「そ、そんなもの持つ必要は…」  
「持ってしまうよ!  
 何も出来ないんだよ、あたしは!コウキのパートナーなのに、何のとりえもない女の子なんだよ!」  
 
いきなりコウキがうつむくヒカリの元に寄っていき、優しく抱く。  
「それでも僕は、ヒカリが好きだ。」  
「!」  
「ずっと前から、そしてこれからもずっと、可愛くて、明るくて、大好きな女の子。  
 僕には、ヒカリしか、いないんだ。」  
涙は止まないが、悲しみやいら立ちを含んでいた瞳は、コウキの優しさに触れ徐々に落ち着いていった。  
そして涙もようやく止まりかけ、  
「とりあえず、ポケモンセンターに、戻ろ?」  
「…ありがと。」  
コウキの左腕にしがみつき、まだ優勝のセレモニーが終わってないゆえにがら空きのロビーを通って外に出た。  
急いで出るのを見るところ、人ごみにつかまったらいろんな意味で厄介なのはわかっているらしい。  
 
ようやくヒカリも1人で歩けるようになり、ポケモンセンターに到着したときには泣きやんでいた。  
ポケモンセンターに入ろうとする直前、ヒカリは笑ってこう言った。  
「ありがと」  
その言葉に照れつつ、中に入ると、ジョーイさんがこっちに向かってきた。  
「あのー、お母さんから電話ですよ、ヒカリさん。」  
「…ママから、ですか?」  
正直、あまり乗り気ではなかった。  
ただ、コウキの慰めで何とか立ち直った今なら、母親ともなんとか話せる気はした。  
傷ついたトゲキッスを預けた後、家の電話番号を押す。普通の顔の母親が画面に映った。  
 
「二人とも、お疲れさま。」  
「…うん。」  
「そっか、元気ないか。  
 ま、あえて元気出してとか、次頑張れとか、準優勝でもいいじゃない、とは言わないわ。」  
「!」  
「これからも、コウキくんの力になれる様にね。  
 二人は、想い想われる仲なんでしょ?」  
「なっ!?」  
2人同時にそう叫んだ。  
おもわずコウキがヒカリの肩を掴んで、一度画面から離れる。  
 
「ちょ、ヒカリ!シロナさん以外には話してないって…」  
「あ、あたし、ママにも何も話していないよ!  
 …でも、そういえば、本当に一番最初にコウキと行動、って事を言ってたのは…」  
「え!?ナナカマド博士やお父さんじゃなかったの!?」  
確かにハードマウンテンに出かける前にヒカリと再会した時には、  
博士やヒカリの父親と相談して決めた、と言っていた。  
「あの、実はね、ママがさり気無く言ったその言葉が気にかかって、  
 私から博士やパパに、コウキとタッグを組むという話を持ち込んで、いろいろ相談したの。」  
「それじゃあ…」  
 
画面に戻ると、さっきよりヒカリの母親は笑っていた。  
2人は起こりつつも顔が赤くなる。  
「…。」  
「な、なんで黙ってるのよ!?ちょっと、ママ!?」  
「もしまだ告白していないのなら、拒否して電話を切ってる。  
 コウキくんがああいう行動をとるってことは…」  
「で、でもママ、じゃあ、なんで想い想われる仲だなんて…」  
「少なくとも、ヒカリはコウキくんの事がずっと好きだったからね。  
 2人が今どれだけ進展しているのか、カマかけてみたの。」  
「な…ちょっと、ヒカリ…ちゃんのお母さん!?」  
「その様子だと、誰にも言ってはいないみたいだけど、相当お互いが好きみたいね。」  
 
2人の顔がますます赤くなる。  
完全にあたってる。さすがヒカリを母親として育てた人間だ。何も言えなくなる。  
が、さらに2人に爆弾発言が追い打ちをかける。  
 
「このままコウキくんがヒカリと結婚してくれたら、あたしも安心できるんだけどな〜。」  
 
2人が一瞬固まった。そして、  
「け、けっこんん!?」  
「ちょっとママ!あたしたちまだ…」  
「あら、シンオウでは15才になればもう結婚できるのよ?  
 もうあと2,3年で」  
「か、かん…冗談はよして下さい!」  
あやうく、勘弁してくれ、と言いかけた。  
が、ヒカリにひっぱたかれる未来を高速の速さで察知し、別の言葉に言い換えた。  
なお、シンオウでは少子化に伴い男女ともに15歳で結婚できる事になっている。  
「そうよママ、も、もう切るねママ!じゃあね!」  
 
プチン、と通信が切れる。  
何も映っていない画面をヒカリのママがやれやれといった表情で見る。  
「ま、これでコンテストのショックから立ち直るでしょ。  
 …やっとヒカリはコウキくんに打ち明けたのね。いつまでかかるやらと思ってたけど。  
 いっつも私と電話するときは、コウキくんの話ばっかり。」  
ソファーに寄り掛かり、そして、こうつぶやいた。  
 
「でも、ヒカリとコウキくんの結婚は、決して冗談じゃなかったんだけどな。」  
くすくすと笑いながら、紅茶をすする。  
 
 
「…なんか、疲れたね。」  
「…そうだね。とりあえず、部屋に戻って着替えよう。」  
そう言って部屋に戻る。2人はまだタキシードにドレスのままである。  
「ん?」  
「どうしたの?…ってあれ、荷物が光ってるよ。」  
「なんだろう…ってあああああああっ!」  
「な、なに?急に…」  
「博士から、タマゴ貰ったの、完全に忘れてた!  
 ていうか、何!?もらったの数時間前なのに、もう生まれるのか!?」  
鞄を急いで開けると、タマゴが入ったカプセルが出てくる。  
そしてタマゴは、白く光り輝いている。幸いここはポケモンセンター。  
「ちょ、ちょっと!どうするの!?」  
「と、とりあえず、ジョーイさんのところへ急ごう!」  
 
あわててジョーイさんのところへ行く。  
「ジョ、ジョーイさん!ポ、ポケモンのタマゴが!」  
「ええ?さっき届いたばかりじゃ…  
 至急、新生児室へ!ラッキー!タマゴ用のストレッチャーを!」  
「ラッキー。」  
 
新生児室にタマゴが送り込まれると、まずは心電図を作るために聴診器を当てる。  
「大丈夫ですか?もしかしたら、タマゴが光るまで相当放っておいたかも…」  
「大丈夫、脈拍は異常ないわ。」  
ほっと一安心。生命にかかわることの大切さを知った。  
そういう意味では、こういう心持ちになるのはヒカリを225番道路で助けた時以来だろう。  
「ラッキー。」  
産湯とタオル、そしてコンデスクミルクを持ってくるラッキー。  
「ごくろうさま。  
 …あ、そろそろ生まれるわよ。」  
「ええ?」  
「も、もうすぐなの!?」  
タマゴがますます激しく光る。2人がその様子を見つめる。  
…その様子は、父親と母親にどこか被るものがあった。  
 
そして、卵の丸い形から、徐々にポケモンの形へと変わっていく。  
丸っこく、頭のあたりには3つの何かが付いている。  
 
「…チャモ?」  
「あっ!アチャモよ!」  
アチャモが生まれた瞬間、アチャモの目の前にはヒカリとコウキがいた。  
ヒカリがうれしそうに笑い、抱きかかえた。  
「チャモ!チャモチャモ!」  
「アチャモか!かわいいな、ヒカリ!」  
「うん!」  
「チャモ、チャモチャモ!」  
生まれたばかりで、まだ体長はは普通のアチャモの半分、20cmくらいである。  
ヒカリとコウキの顔を見て、うれしそうに笑っている。  
 
ちょうどいい感じの産湯につけてやると、アチャモは気持ちよさそうにする。  
「それじゃ、体洗うから、ちょっと貸して。」  
「はい、お願いします。」  
「…チャモー!チャモチャモー!」  
「え?あれ?」  
「そういや、ポケモンって生まれた瞬間に見た生き物を親と思いこむ習性が…」  
 
あわててヒカリに交代すると、泣きやんだ。  
「あの、わたしじゃ無理見たいだから、代わりにお願いできるかしら?」  
「はい、わかりました。」  
幸いドレスは半袖なので、濡れる心配はない。  
丁寧に洗ってあげると、アチャモは気持ちよさそうにする。  
「こちょこちょこちょ…」  
「チャモ!チャモチャモチャモ!チャモー!」  
いたずらでくすぐってみると、アチャモには効果抜群のようである。  
一通り洗い終わり、体をふいたとき、ふと疑問が浮かぶ。  
 
「ねえ、このアチャモ、…どっちのポケモンにする?」  
「へ?ああ、ヒカリが育てるか、俺が育てるか…」  
シンオウ本土には炎タイプのポケモンは少なく、実は2人とも炎タイプを持っていない。  
ハードマウンテンの頃に遡れば、見た目明らかに炎タイプを持っていそうなバクも持っていない。  
2人の知っている中で炎タイプを持つ知り合いといえば、ゴウカザルを所持するジュンくらいである。  
しかも、アチャモ自体非常に珍しいポケモンで、進化すればあのバシャーモになるのだ。  
 
とはいえ、2人ともお互いの事が大好きだから、あまり我を張るわけにはいかない。  
だが、念願の炎タイプ、ということで、譲ろうにも譲ることができない。  
「うーん、できればあたし、炎タイプ持ってないから欲しいんだけど…」  
「えっと、実は僕も持ってないんだ。どうしようか…」  
火花が散る、なんてことは無いが、譲り合いの精神と欲望の精神が2人の中を交錯する。  
「と、とりあえずさ、どっちのポケモンになってもいいように、ポケモンを1体パソコンに預けたら?  
 僕さっきさ、タマゴを手に入れたから、ガブリアス預けたんだよね。」  
「う、うん、わかった。」  
とりあえずロビーにもどり、コンテストが終わったということでミミロップを預けることに。  
同時にジョーイさんから体力回復を済ませたトゲキッスが届けられた。  
 
「アチャモもすっかりなついてるわね。」  
とりあえず、女の子であるヒカリの方が抱き心地がいいだろうということで、ヒカリが抱くことに。  
「そうね、せっかくなら、ふれあい広場で散歩してきたら?  
 まだ3時40分だし、外は明るいわよ。」  
「そうだな…よし、いくか!」  
「うん!」  
実は前にもふれあい広場に行こうとしたが、手持ちポケモンがどれもダメ、と言われたこの2人。  
アチャモはふれあい広場で遊べるポケモンなので、今回は何の問題もなく入れる。  
 
「チャモチャモチャモー!」  
広場につくと、アチャモが勢いよく走り出す。  
それをあわてて追いかけるヒカリ。その様子を優しく見守るコウキ。  
 
しばらく遊んでいると、何かアチャモが拾ってきた。  
「…あ、これかわいい!ポケモンコンテストで、ポケモンのおめかしに使えるかも!」  
「へえ…やるなあ、アチャモ。」  
「チャモ、チャモチャモ!」  
しかし、遊びすぎたか、少々疲れた様子で、草むらに座った。  
地面をくちばしで突っついている。  
「なんか、ポッチャマを博士からもらった時のことを思い出すなあ…」  
「今は立派なエンペルトになってるじゃないか。こいつもじきに立派なバシャーモになるさ。」  
「へへ、なんかこうしていると、あたし達本物のパパとママみたい。」  
確かにその通りである。  
…が、その言葉で、再びヒカリの母親の爆弾発言が脳裏によみがえる。  
「ああ、いや、そのさ!  
 あくまで、母親『みたい』っていうだけでさ!」  
「う、うんうん、わかるよ、心配しなくていいさ!」  
ふう、とため息をつく。  
…するとどこかから腹の虫が鳴る。  
 
「チャモー…」  
「…アチャモ?お腹すいたの?」  
「えっと、…あ、ミルクポケモンセンターに荷物と一緒に置いてきたんだった。」  
「それじゃあさ、レストラン行かない?  
 ポケモンも入れるレストランは、ヨスガにたくさんあるからさ!」  
ヒカリの発案でレストランに行くことに。  
幸い財布は持っており、ハードマウンテンで大量に資金を投入した後も、  
数々とのトレーナーとの戦いで得た賞金はまだまだ底を突く様子はない。  
 
ちょっぴり高級感のあるレストラン。アチャモがテーブルの上にちょこんと乗り、料理を待つ。  
遊び疲れたのか、お腹がすいても泣く様子はない。割とおとなしいアチャモである。  
「お待たせしました。」  
料理がくる。と言っても小皿なので、これはアチャモの料理である。  
「かなりトロトロになった料理だな。」  
「市販の赤ちゃん用ポケモンフーズは水に溶かして作るけど、こんな感じの出来上がりだよ。  
 レストランも基本的に同じだと思う、市販のよりおいしく、手作りってことくらいかな、違いは。」  
アチャモは夢中で皿を突っついている、相当気に入っているようだ。  
そうしているうちに、ヒカリの前にはオムライス、コウキの前にはステーキが運ばれてきた。  
とある記憶が脳裏をかすめる。  
 
「どうしたの?」  
「いや、ステーキを食い損ねたことがあったなって。マニューラに取られてさ。」  
「一瞬のすきを突かれて辻斬りにでもあったの?」  
「いや、明らかにずっと隙だらけだったな。  
 ヒカリがファイトエリアの港に到着したとき、僕たちにディスクを届けたことがあったよね?」  
ずいぶん昔の話になるが、覚えている人は覚えているかもしれない。  
ディスクを届けた後、コウキはヒカリを食事にでも誘おうとしたのだが、  
ヒカリはエムリットを捕まえるため…いや、コウキのために、逃げるように225番道路に去っていったのだ。  
まあ、あのまま食事に行ってたら、仮に告白できたとしても今ほどは仲良くはなってないだろう。  
「ああ、あの時は、ごめんなさい。」  
「ううん、言ったろ?ケガの功名だって。  
 あの時断ってくれたから、225番道路で、ヒカリを助けることができ、2人で小屋の中で…  
 本当に、あの時、あんな形で恋人同士になれるなんて、夢みたいだった。本当に、嬉しかった…」  
「うん、本当に、今でも思い出したら涙が出そう…」  
「お、おいおい、料理が冷めるよ、早く食べよ。」  
ようやく料理があることを思い出したようで、2人は料理に口を運んだ。  
なかなかおいしい。2人で食べる携帯食料も2人で一緒に食べたからおいしかったが、  
やはりレストランの料理は携帯食料と一緒にすべきではない。  
とまあ、こんなこっぱずかしい話をしていた2人だが、話の途中隣にアチャモがいることを完全に忘れていた。  
とはいえ、アチャモは生まれたてでそんな話に興味を持つこともなく、そもそも料理に夢中で聞いていなかった。  
 
料理を食べ終わると、アチャモはヒカリの腕でぐっすり眠っていた。  
「なあ、ヒカリ。いつまでも外に出すわけにもいかないから、モンスターボールに入れたいんだけど…」  
「あ、そういや、まだどっちのポケモンか決まってなかったね…」  
「うん。ヒカリがもらってくれない?」  
「え?あ、あたしが?」  
「ああ。やっぱり、アチャモはヒカリになついているし。」  
「そ、そんな事は…博士はいいって言ってたの?」  
「ああ、うん。譲ってかまわないって。」  
実際はヒカリに譲ってもいい、とは言っていないが、  
まあコウキに所有権があるのだから別に構わないだろう。  
 
さっきは遠回しながらも悪いけど自分に譲ってくれと言っていたが、  
いざ譲るといわれると、今度は逆にもらいにくくなる。  
「…。」  
「…シンオウには、炎タイプは少ないからね。」  
(うっ。)  
その一言が、決定打になった。  
「ううう…いい、のかな。本当に。」  
ゆっくりとうなずくコウキ。そしてタマゴを覆っていたカプセルに付属したモンスターボールを渡す。  
「…ごめんね、わがまま言って。」  
「また別の炎ポケモンを探すよ。いざとなったらアチャモの力も借りるかもしれないけど。」  
「もちろん!必要な時は、いつでも言って!」  
そして、アチャモにモンスターボールを向ける。  
ゆっくりとアチャモに当てると、ボールの中に吸い込まれていった。  
「アチャモ、ゲット。」  
モンスターボールをスタンバイモードからキャリーモードにし、ベルトに装着する。  
「ありがとう」  
「どういたしまして」  
感謝の言葉を交わして、レストランを後にし、ポケモンセンターへ向かった。  
すっかり日が暮れる。  
 
途中、ヨスガで一度も目にしたことがない建物を目にした。  
「あれ?こんな建物がヨスガにあったの?」  
「僕も見たことがないな…」  
周辺に人通りは殆どない。静かな場所である。  
コウキが建てられた看板に目を通す。  
「何かの教会かしら」  
「ええっと、なになに…  
 『異文化の建物 異なる文化が行きかう場所』だってさ。」  
「とりあえず、入ってみない?どうやらあいてるみたいよ。」  
 
ちなみにこの建物、受付とかはなく、24時間いつでも入れる。  
とはいえ入る人はほんのわずか。石造りの建物で時々ボランティアが掃除するおかげで中はいたって綺麗。  
ヨスガ…縁を象徴する建物なのだが、この2人は建物の存在すら知らなかった。  
 
「わあ…きれいなステンドグラス…」  
「椅子や机を見ても、やっぱり教会なんじゃないか、これ。」  
月の光に照らされて、なんともいえない美しさを醸し出すステンドグラス。  
椅子や机などを見回ると、ステンドグラスに見とれるヒカリを横にたった。  
「ただ、ステンドグラスの美しさも、ヒカリの前では霞むね。」  
嘘は言っていないが、かっこをつけるためのお約束の冗談で言ったつもりのコウキ。  
「もう、急に変なこと言わないでよ!」  
くるっと向きを変え、コウキの方を見るヒカリ。  
そのとき、からかい半分だったコウキの顔が、急に真顔になった。  
「…。」  
「…ど、どうしたの?」  
ゆっくりと近づく。そして、ゆっくりと口を開く。  
 
「ヒカリ…ちゃん。」  
「え?え?ちょっと、どうしたの、コウキ?」  
225番道路の小屋の中で告白して以来、距離を近づけるためお互いを呼び捨てするようになった2人。  
それをコウキは、いきなりちゃん付けした。ゆっくりと、小さなかすれるような声で。  
「よ、様子が、おかしいよ。どうしたの?」  
「か、かわいい…ヒカリちゃん。」  
「こ、コウキくん?…あ。」  
つられてヒカリまで君付け。すぐに修正する。  
なおもコウキは小さな声でつづける。  
「ど、どうしたの、コウキ。」  
「ステンドグラスなんかより、ずっと、ずっと、かわいい…」  
「ちょ、ちょっと!なに同じ冗談を2度も…繰り…かえし…て…」  
さっきはカッコをつけるために言った。  
だが、今度は、本当に、心から、そう言っているのである。  
もちろん普段からステンドグラスよりかわいいと思っているのだが、意味合いが全然違う。  
 
「僕…き、君の事が…えっと、その…うわあああああっ!」  
「こ、コウキ!?」  
頭を抱えてうずくまるコウキ。  
「し、しっかりして、どうしたの!?」  
「はあ…はあ…う、ううう…ヒ、ヒカリ…」  
ちゃん付けが抜けた。とりあえず元に戻ったらしい。  
とりあえずは一安心と、ひとつため息をつく。  
「どうしたの?何があったか、覚えてる?」  
「ああ…記憶は、あるよ。その…ごめん。  
 なんか、ヒカリに、好きだって言ってほしかった、僕が…いるんだ。」  
「え…。」  
「僕、告白したとき言ったよね。始めて出会った時から、信じられないくらい可愛くて、ずっと気になってたって。  
 …さっきの、ヒカリがこっちを振り向いたときに、初めてであった時の僕が…戻った気がしたんだ。  
 初めて会った時の、あの時が、場所が違うけど、また戻ってきた感じが…」  
ステンドグラスを通した月の光をあびたヒカリ。  
それはコウキにとって、初めてであったときと同じような感覚を受けた姿だった。  
「…そんなに、あたしは、可愛かったの?」  
こくりとうなづく。  
「…。」  
「も、もちろん、可愛いだけで好きになったわけじゃないけど、  
 その、最初に受けた印象が…シンジこで君と会ったときの、ヒカリの可愛さが…  
 こんな子にもし好きだって言ってもらえたら…」  
瞳にはまだ完全に輝きが残っていない。叶わない筈の願望、そんな感じにとらえている眼である。  
ヒカリにはコウキの身になにが起こっているかまだ完全には分からなかったが、  
それでもヒカリは、コウキの想いにこたえたかった。  
 
「大好きだよ…コウキくん。」  
穏やかな瞳で、静かにそう語りかけた。  
ヒカリは何となく、君付けしたほうが喜ぶ気がした。それは正しかった。  
「え…?ヒカリちゃん…」  
「大好き、だよ。コウキくん。」  
お互いの距離を縮めるために呼び捨てすることにした過去を持つ2人。  
だが今回は、ちゃん付けしたほうが、距離がぐっと近付いた。  
コウキは、信じられないような顔をしている。  
「コウキくん…キス」  
「え…え!?」  
 
コウキがうんという前に、初恋の相手がキスしてきた。  
唇だけが触れた、優しいキス。それが数十秒続いた後、ゆっくりと唇を離した。  
コウキの瞳の色は、元に戻っていた。  
「ヒカリ…」  
「初恋の相手に、大好きと言われて、キスまでした気分は?」  
「…!」  
「それとも、シンジこでしてあげた方が良かったかな?」  
「…あ、そうかも。」  
「欲張り。」  
二人が静かに笑いあう。  
「マサゴに帰ってきたら、シンジこでまたやってあげよっか?  
 あ、でも、二番煎じであんまり感動しないかな。」  
「ううん。  
 出会って、一目惚れして、叶わぬ願いを抱いて、それがすぐに叶って…」  
コウキの息が荒くなる。  
仕方ないなあという顔で、もう一度キスをするヒカリ。  
 
 
ようやくコウキの意識も落ち着いた。  
二人は椅子に座って、ステンドグラスを眺めている。  
「なあ、ヒカリ。」  
「どうしたの?コウキ。」  
「…えっとさ、ここ、教会にも…見えるよね。」  
「え?うん。」  
「でさ、僕たち…タキシードにドレス、着てるよね。」  
「そうだね。」  
「そして、今…いや、これからも、僕にとって、君以外考えられない。」  
「…?」  
「出会ったときから、そしてこれからも、ずっと、ずっと、大好きだ。」  
「あたしも。ありがと。」  
「だから、その…」  
言おうかどうしようか迷う。  
だが、彼の中では、今の、このシュチュエーションでしか、言えない気がした。  
 
「今から言うこと、冗談と思わないでほしい。  
 そして、真面目に、本気で、ヒカリの想いを答えてほしい。…今しか、言えないから。」  
「…!」  
「…。」  
目が真剣だった。ここまで真剣に話しかけてきたのは、初めてだった。  
コウキが自分の全てを賭けて話してきている、そんな気がした。  
そして、コウキは、本当にヒカリと出会ってから今までの、そしてこれからの人生すべてを、ヒカリにぶつけた。  
 
「僕と…結婚してほしい。」  
「!!??  
 で、でも、ママとの電話の時とかは」  
「あの時は冗談と感じた。でも、僕の中で、どうしてもあの言葉が離れなかった。  
 今は、本気だ。決して、ヒカリのお母さんに流されたわけじゃない、あの人はきっかけに過ぎない。  
 ヒカリのお母さんの言葉でふっとそんな考えが浮かんで、アチャモが自分の心に気付かせてくれた。」  
流石に焦った。まさか本気で言ってくるとは思わなかった。  
まだ二人とも15才にはなっていないし、本当に人生が懸かった事である。  
母親に冗談として言われからかわれたこともあり、簡単には受け入れられなかった。  
「結婚なんて…そんな、無茶苦茶だよ!  
 まだ子供なのに、そりゃエッチはしたけどさ、そんな大事なこと、決められないよ!」  
「でも…でも!僕にもう、ヒカリのことしか考えられないんだ!  
 ヒカリと結婚できたらどれだけいいか、僕には、ヒカリしかいないんだ!」  
「あたしだって…コウキが好き!コウキのことしか考えられない!」  
「じゃあ…なんで?  
 …数年後に、僕かヒカリが、他の人に取られていくかもしれないという不安?」  
「そんなんじゃない!あたしにはコウキ以外の人はありえない!  
 コウキだって、あたし以外の人の所に行くなんて、絶対にない!」  
「…だったら、どうして?」  
ヒカリが、涙ぐむ。  
そして、口をひらいだ。  
 
「なんて…なんて答えればいいのか、わからないの!頭の中が、真っ白なの!」  
「!」  
「うれしいのに、すごくうれしいのに、  
 …素直に受け止められない悲しさ!コウキの期待に応えられない悔しさ!  
 なんで?本当に、本当にコウキのことが大好きなのに!ねえ、なんで…」  
すがるような目で見るヒカリ。  
コウキは、軽はずみで『結婚したい』とは言っていない。数年後を想像し、言った言葉である。  
だからこそ、ヒカリはどうすればいいのか、わからない。  
素直に『ありがとう』と言えばいいのに、それが出来ない。  
「ごめん…あたし、ひどいよね。何で言えないんだろ。」  
「気にしないで…僕が、悪いんだ。  
 酷いよね、僕って…だから、無理して僕なんかと」  
「絶対に断りたくない、絶対に、断らない!  
 コウキだけ、コウキだけを、あたしは…考えて…いたい…うわあああああああん!」  
大声で泣き付くヒカリ。  
石造りの静かな建物なだけに、その鳴き声は余計に響く。  
 
ヒカリは泣き続けた。  
自分が、ヒカリを傷つけてしまった、その罪悪感が、コウキから離れない。  
だから、精一杯泣き続けるヒカリを受け止めて、抱き続けた。  
結婚したいよ、一緒に結ばれないよ、そう叫びながら、ヒカリは泣き続けた。  
どれくらいの時がたっただろか。漸くヒカリが落ち着き始めた。  
 
「…ねえ。」  
「…え、えっと…なあに?」  
「1つ、1つだけでいいから、質問に答えてほしいの。」  
「あ、ああ、100でも、200でも、いくらでも聞いてくれ。」  
「さっき言ってた。今しか言えないからって。…どうして?」  
ヒカリはまだ涙をこぼしていた。  
コウキはゆっくりと口を開いて、そして言った。  
 
「その前に、僕は、ここが教会みたいなところで、  
 …そして僕らはドレスに、タキシードを着てるって言ったよね。」  
「う…うん。」  
「今しか言えないって言ったのはね。  
 …それが理由なんだ。」  
「それが理由って…教会にドレスに、タキシードが?」  
「うん。」  
「…どうして?」  
不思議そうな眼で見る。その眼には悲しみとか、怒りとかといった感情はない。純粋にただ答えを求める瞳。  
ヒカリのその可愛らしい表情に少し安心し、  
 
そして、笑顔で答えた。  
 
「ここで、結婚式を挙げたいんだ。」  
 
すべての理由が、ここにあった。  
コウキがタキシードを着て、ヒカリがドレスを着て、ステンドグラスの前で永遠の愛を誓う。  
結婚という言葉が脳裏に焼きつき、偶然にも舞台も整っていた。  
そして、初恋の相手、ヒカリとのキスで、その想いがあふれだしたのだ。  
 
「コウキ…」  
「ごめんね、黙ってたつもりじゃなかったんだけど…」  
「コウキ…コウキ!」  
「わわっ!」  
抱きしめが緩くなっていたが、再びヒカリが強く抱きしめる。  
女の子があこがれる、結婚式の花嫁。大好きな人の前で、その憧れの人になれる。  
もうヒカリには、何の迷いもなくなった。  
 
「ありがとう!ありがとう、コウキ!  
 け…あ、えーっと、その…」  
「ヒカリ、君からその言葉、聞きたいな。」  
「う、うん、…頑張る。」  
流石に恥ずかしくて言う勇気がすぐには出なかった。  
一呼吸おいて、そして口を開いた。  
 
「あたし、コウキと、結婚したい!」  
「ヒカリ…やったあ!僕も…僕も、結婚したい!」  
また二人が抱きつく。タキシードもドレスも、ずいぶんしわができていた。  
 
 
2人が入口から入ってくる。腕を組み、一歩ずつ、足を踏み入れる。  
いろいろぎこちないが、2人はまだ結婚式を見たことがない。イメージだけで、懸命に頑張っている。  
ヨスガに知り合いはおらず、そもそも教会の周りには人すらいない。だが、招待客はいた。  
ポケモンたちである。ドダイトスも、ユキメノコも、エンペルトも。  
そして2人が歩くすぐ後ろを、アチャモがヒカリのドレスをついばみながら懸命についてくる。  
何か違う気がするけど、でも、最高の結婚式であることに、変わりはない。  
 
「できれば、パソコン通信でみんなを呼びたかったけど…」  
「あはは、まあ、即興だからね。15才になったら、また結婚式、しよ。」  
教会からポケモンセンターまで結構ある。  
いったん戻って、なんてことをやっていたら、いつになるかわかったものじゃない。  
ジョーイさんに怒られることも考え、仕方なくあきらめた。  
 
そして、奥で待っているのは、しゅくふくポケモン・トゲキッス。  
神父の役割を任せることにしたが、確かに、これ以上の適任はない。  
とはいえ人間の言葉は喋れないので、『永遠の愛を誓いますか?』といったやり取りは省くことに。  
トゲキッスの目の前で、その愛を誓う印として、キスをする。  
ウェディングドレスではないので、無論ヒカリの顔をおおうレースはない。  
ので、代わりにヒカリの長い髪を両手で救い上げた。そして誓いのキス。  
ポケモンたちが拍手をする。  
もっとも、ドダイトスだけは巨体故何が起こるか分かったものではないので、あらかじめ何もせぬよう指示していた。  
仕方なく、背中の木をゆさゆさと揺らす。  
 
こうして、2人で考えた、2人らしい、2人なりの結婚式は、幕を閉じた。  
 
ポケモンたちをすべてボールに戻す。ポケッチを見ると、ちょうど9時を指していた。  
一応ポケモンセンターには12時までに戻ればいいが、肝心の事はしたので、もう帰ろう。  
…と思っていた。  
 
「ねえ、…結婚式の後、えっと、2人はホテルで…その…」  
「うん。じゃあ、ポケモンセンターの部屋で…する?」  
「…えっとさ、さっきさ、様子がおかしくなった時あったよね。」  
「え。あはは…はあ。あれは自分でも情けない。」  
「そ、そんな風に言わないでよ!そ、その…うれしかったし。」  
「あ、ありがとう。」  
お互いの言葉が口ごもる。  
「でさ、たぶん、よくわからないけど、いつもコウキはあたしを見てるからさ。  
 だから、さっきあんな状態になったのは、いつもよりもっとあたしに惚れてたのはさ、  
 …このステンドグラス越しの月明かりにあたってただからじゃない?」  
「…多分、そうだと思う。なんで月明かりであそこまで変わったかは、自分でもよくわからないけど。  
 いつもとのヒカリの姿との決定的な違いは、月の光だったからね。」  
「それに加えて、最初見た時に見惚れてたこのドレス姿、ってのもあったのかも。」  
くすくすと笑うヒカリに対して、  
顔を赤くし何も言えないのはコウキ。  
ふと、ヒカリが立ち上がり、2,3歩コウキから離れた。  
 
「だからさ…  
 この月明かりに照らされたあたしの裸見たら、すごくうれしいんじゃない?」  
「え…ま、まさか!」  
コウキが止めようとする前に、ヒカリがドレスを脱ぎ始めた。  
まずはドレスの上半身を脱ぐ。  
その脱ぎ姿に見惚れていたが、上半身が脱ぎ終わったところで我に返る。  
 
「い、いくらなんでもここは…だ、だれか来たりしたら…」  
「こんな場所、こんな時間にだれも来ないよ。」  
優しい口調でコウキに語りかけ、今度はスカートを脱ぐ。  
「い、いや、でも…」  
「いいの。あたしのこと、もっと好きになってくれれば。」  
次にブラウスに手をかける。  
1つ1つ、ゆっくりとボタンをはずし、するりと脱ぐ。  
「で、でもそんな、僕のためにそんな…」  
「コウキのために、それだけで十分。」  
ブラのホックに手をかけ、それがするりと脱げる。  
思わず目をそらす。もはやコウキが静止できる状態ではなくなっていた。  
またさっきの様に自分が保てなくなってしまいかねない。いや、間違いなくそうなる。  
さっきはヒカリと初めて会った時の『コウキ』だからよかったが、  
 
「だ、だめだ!」  
「どうして?」  
月明かりを浴びたヒカリでさえ気がおかしくなりかけた。  
月明かりを浴びた、裸のヒカリを見たら、間違いなくとんでもないことを起こすに決まっている。  
想像するだけで、理性が吹っ飛びそうなコウキ。  
「ヒ、ヒカリを、悲しませるような事は…したく…ない…」  
「今までエッチするときは、本当にやさしくしてくれた。あたしの事を懸命に考えてくれた。  
 だから、今日はコウキが、気持ち良くなることだけを、考えて。」  
それでもコウキは目をそらす。ヒカリは一呼吸を置いて、間をとった。  
 
「見て。」  
見ての言葉に、反射的に顔を向けるコウキ。  
そこには、想像をはるかに超えた、ヒカリの姿があった。  
 
瑠璃色の夜の月明かり。それがステンドグラスを通って、数色の光に変化する。  
その、淡いぼんやりとした、それでいて鮮やかな光が教会の中に差し込む。  
そしてその光を浴びているのは、初恋の相手、ヒカリの一糸まとわぬ姿だった。  
 
発育途上の小ぶりな胸、きゅっと引き締まった括れ、バランス良く、大胆に膨らむ下半身。  
下腹部には薄く生えている陰毛、そしてくっきりと見える割れ目。  
そして、コウキが一目惚れした、優しく微笑む、信じられないくらいに可愛い顔。  
とどめは、ヒカリの魅力を最大限に引き立てる、月の光。ヒカリのすべてが、コウキの視界に収まっている、  
 
だが、それでもコウキは理性を保ち、こらえていた。  
別に一線を越えた仲、襲ったって構いやしなのだが、再びコウキはヒカリと初めて会った時のコウキになっていた。  
いくら裸でも、どれだけ可愛くても、初対面の女の子を襲うなんて、犯罪である。  
…しかし、とどめの一言で、ついに完全にコウキの理性は吹っ飛んだ。  
 
「して、いいよ。」  
 
コウキがすっと立ち上がり、早足でヒカリに迫り、抱き倒した。  
「いてっ!ちょっと、下は石なんだよ!」  
ヒカリはうまいこと倒れたため、ダメージは最小限で済んだ。  
だが、コウキはヒカリの心配をすることはなく、胸を触り出した。  
目つきが違う。ヒカリは一瞬おびえた。  
(いつもと違う…さっきだって、いつものコウキなら、あたしに一言心配の声をかけるはず…)  
だが、あれだけ魅力的なものを見せられたら、そうなってもおかしくない。  
しかし、ヒカリはそうなる事態を予想していなかった。  
「は、激しい…あっ!」  
それでも、いつもは優しく控えめにヒカリを抱くコウキ。  
心のどこかで、大胆にせめるようになったコウキをうれしく思った。  
コウキもこれで4度目、最初と比べればかなり上達していた。  
「…チュ、チュパッ、チュパ、チュッ!」  
「んあ、ああうっ、ああん、んあああああああっ!」  
 
乳首やその周辺に激しくキスを続けるコウキ。実はヒカリに見つからないようにこっそり勉強していた。  
理性が吹き飛んでも、そのあたりの記憶はしっかりと残っている。  
「んんんんんんんんんんっ!」  
そして、今度は深い、深いキス。  
舌を激しく動かすコウキ。ヒカリはなんとかその動きについていく。  
しかし、あまりにも激しく、長い。ヒカリはなんとか唇を離そうとするが、コウキはキスに夢中で離れない。  
「んんん!んっ…」  
息が続かない。だがようやくコウキが唇を離す。  
新鮮な空気を取り入れようと肩で大きく息をするヒカリだったが、一息つく暇なく彼は陰部に手を伸ばす。  
 
「んっ!」  
コウキが陰唇にしゃぶりつく。あまりにも激しく、下半身にしびれが来始めた。  
そして今度は指を入れ始める。だが、コウキの理性はなくなっている。  
いきなり3本の指を突っこんだ。  
「つうっ!」  
いつもゆっくり愛撫していることになれており、またまだ幼いことから、苦痛を感じる。  
それでも、いままで自分の体や心を大事にし、自分の事を考えながら愛撫してくれたコウキ。  
今回は、コウキに、思う存分楽しんでもらおう。コウキが楽しんでくれれば、それでいい。  
唇をかみしめ、コウキに気付かれないように堪え続ける。  
 
そう思ってはいたが、それでも苦痛はだんだん大きくなって行く。  
続けているうちに快楽の方が大きくなるだろうと思っていたが、それは間違っていた。  
痛みが激しくなる。コウキの手の動きもますます激しくなる。  
そしてコウキは、4本目の指を入れた。その無茶に、ヒカリは遂に耐えられなくなった。  
 
「つうううううううっ!」  
明らかに悲痛ととれる叫び声。思わず陰部をコウキの指から移動させてしまった。  
ヒカリは無意識にしてしまったその行動を、後悔した。  
自分は何をやってるんだ。コウキはいつも自分のためによくしてくれている。  
そのコウキに、応えられなかった。コウキの好きなように好きなだけ、自分を楽しんでもらおうと思ったのに。  
 
だが、その瞬間、コウキに理性が戻った。  
大好きなヒカリの、悲痛の叫びが、彼をよみがえらせた。  
目の前で、ヒカリが泣いている。痛みに耐えられなくて泣いている、そう思った。  
もっともヒカリは、コウキに応えられなかった自分の浅ましさ、情けなさで泣いていたのだが。  
 
(僕は…僕は…何をやってるんだ。  
 自分を好きでいてくれる、ヒカリを、傷つけて、泣かせて、…こんなに悲しませて。  
 あれだけ僕によくしてくれる、可愛くて、優しい、大好きな、ヒカリを…)  
震えが止まらなかった。また、2人の関係が225番道路の一件の時と同じ…  
いや、もう口をきいてもらえないかもしれない。  
怖くなった。自分を嫌うヒカリと、同じ空間に、コウキはもういられなかった。  
あわてて走り出した。教会の出入り口に向かって。幸い、彼は服を脱いでいなかったので、何の支障もなかった。  
 
「待って!」  
ヒカリが、コウキをとめるため、力がほとんど残ってない中で懸命に叫ぶ。  
コウキはそれに気付き、走るのをやめた。心のどこかで、そう言ってもらうのを期待していたのかもしれない。  
ヒカリの声は、心の底からの怒りを抱えた声ではない、コウキはそう感じた。  
もしかしたら、必死に謝ったら許してもらえるかもしれない。そう期待していた、が。  
 
「ご…ごめんなさい!」  
「……え?なんで…」  
「コウキの好きなように、あたしの体で遊んでもらいたかった…  
 なのに…それを拒否して…コウキは優しいから…あたしのせいでその優しい心を傷つけて…」  
コウキはゆっくりとヒカリのところに向かう。  
コウキには、わけがわからなかった。なんで誤っているのが、自分じゃないのか。  
「だから…コウキはもう、あたしに嫌気がさして…  
 そんなのいや!お願い、ごめんなさい!コウキ、コウキィ…」  
泣きすがるような顔で見るヒカリ。こんなことになったのも自分のせいだ。たまらなくなった。  
全力で駆けよる、ヒカリの心を救い、安心させるために。  
 
「ヒカリっ!」  
ヒカリが泣いている理由が、ようやく分かった。  
ヒカリは、優しい女の子だから。だから泣いているんだ。  
「ヒカリっ!」  
2度と手放さない、そんな意志を感じられるほどに、強く、強く、抱きしめた。  
「誰が、誰が…君を見捨てたりするもんか!」  
「コウキっ!コウキっ!」  
ヒカリは大泣きした。  
戻ってきたうれしさ、自分への情けなさ。コウキへの感謝。すべてを涙にかえて、コウキにぶつけた。  
 
だいぶ落ち着くと、今度はコウキが誤った。  
「ヒカリ…本当にごめん。」  
「え?」  
「ヒカリの裸を見て…僕がヒカリを好きになった理由、すべてが見えた気がして…  
 それで、なんだか変な気持ちになって、おかしくなって…」  
「…コウキ…」  
「それで、ヒカリのすべてを欲しくなって、自分のことしか考えてなくって、  
 無理矢理に、ヒカリを滅茶苦茶にしてしまって、そして、ヒカリを傷つけて…  
 ずっと痛みに耐えてたはずなのに、それに気付かなくって…」  
ヒカリも、コウキが逃げ出した本当の理由にようやく気付いた。  
コウキが逃げ出した理由もまた、コウキが優しい男の子だから。  
いつも自分を傷つけないよう、愛撫する。その優しさが、完全にコウキに戻っていた。  
 
「…もう、大丈夫だよ。痛くないよ。」  
「え…」  
「平気だよ。なんともないよ。…いつでも、いいよ。」  
ヒカリもまた、優しくそう語りかける。  
ただ、ヒカリに痛みを与えてしまったのは事実。さすがにコウキは躊躇していた。  
「いや、でも…」  
それでも、ヒカリの優しさは、コウキに再び勇気を与えた。  
「コウキが、欲しいな。」  
「ヒ、ヒカリ…」  
涙ぐみながらキスを交わす。そして、ゆっくりとヒカリの体を倒した。  
そして、いつも以上に、ゆっくりと、陰唇を舐めはじめる。さっきの苦痛を、忘れさせるように。  
さっきの分を取り返そうと、必死に、だが傷つけないよう、ゆっくりと。  
 
「き、気持ちいいよ、コウキ。」  
「ほ、本当に?」  
「優しいね。本当に、優しいね、コウキは。」  
ヒカリがまた涙を流す。  
「…痛かったら、言ってね?」  
ヒカリの、禁断の世界に、小指を入れる。  
まずは細い小指から、ゆっくりと。  
「…んっ」  
「い、痛かった!?」  
思わず小指を抜く。ヒカリが、クスクスとあわてた表情のコウキを見て笑う。  
「優しいね、コウキは。すごく気持ちいいよ。  
 …痛かったら言うから。何も気にしないで、ね?」  
「うん、わかった。  
 でも、少しでも、ほんの少しでも痛かったら、言ってね、ね!?」  
コウキが必死になってそう言った。  
「うん、ありがとう。あたしのために、そこまで気を遣って…  
 …本当にコウキは、優しいね。」  
ここまで相手のことを気遣う人間は、そうはいないだろう。  
それだけヒカリが好きで、大事にしようとする。その優しさが、ヒカリは一番好きだった。  
 
入れる指を太くしていく。もう片方の手でその周りを愛撫する。  
225番道路でやったやり方と同じ…いや、それ以上に優しく、ゆっくりかもしれない。  
ヒカリは今まで、コウキは自分の性欲の、快感のために、エッチをしていると思った。  
だが、あくまでヒカリのために、ヒカリのために気持ち良く。愛する初恋の女の子のために。  
ヒカリは、コウキのために体をコウキに預けた行為を、深く悔やんでいた。  
 
だからこそ、コウキの思いに応えるために、思い切り気持ち良くなろう。  
それが、コウキにとっての喜びである、ということに、ようやく気付いた。  
恥ずかしくなった。それが彼女をさらに敏感にする。  
「んああっ、あんっ!」  
「ヒカリ?」  
「き、気持ち、い…はあんっ!」  
ゆっくりと入れる指の数を増やしていき、三本が楽々入るようになった。  
(もっとヒカリを気持ちよくさせたいな…でも…)  
「どうしたの?」  
コウキが迷っている。ヒカリはいち早くそれを察知した。  
「あ、いや、えーと…」  
「…お願い。」  
「え…」  
「お願い、して欲しいな。」  
ヒカリはコウキが何をしようとしてるかはわかってはいない。  
それでも、コウキは自分を気持ちよくするために考えてることには間違いない。それに応えたい。  
「…うん、わかった。」  
 
そしてコウキは、入れる指をさらに一本。  
合計四本の指が、ヒカリの中を蹂躙する。  
「!?…ひゃあああんっ!」  
未知の世界と未知の快感に、ヒカリが喘ぐ。  
「い、痛かった?」  
「いい、すごくいい!お願い!もっと、もっとお!」  
意識が飛び始めた。  
ヒカリはコウキに対しする性欲だけしか、考えられなくなっていた。  
「うん…わかった!」  
ゆっくりと、それでいて激しく。  
感じそうなところを擦っては喘ぎ、つついては叫ぶ。絶頂に近付いてゆく。  
 
「ヒカリ、いくよ!」  
指の出し入れのスピードをフルにする。  
ヒカリの意識は飛ぶ寸前。それでも少しでも長く、コウキからの快感を得ようとする。  
意識を保つために力を入れると、ますます内部が敏感になる。  
それでもコウキはスピードを緩めない。ヒカリについに限界が訪れる。  
「コ、コウキ、コウキ、コウキいいいいっ!」  
潮を大量に噴射する。コウキに飛び散った後、ヒカリの意識は飛んで行った。  
 
「ヒカリ?」  
「…ふ…あう…」  
「…ちょっと、やりすぎたかな。」  
「そんなこと…ない…」  
だが、ヒカリは懸命に意識を回復させようとしていた。  
まだ、やることが残っている。それを終えるまでは、コウキと一つになれるまでは…  
「大丈夫?もう体力は残ってないはずじゃ…  
 下手すると、当分動けなくなるよ?」  
「それでも、いい…コウキにも、気持ち良くなってほしい…」  
ヒカリのその言葉に、胸を打たれた。  
「あたしも、気持ち良くなりたい。  
 それに何より、1つになりたい…」  
「…わかった!」  
 
ヒカリとのやり取りで、コウキは、初めての生をしたくなった。  
だが、一時の感情で、一生の後悔をするわけにはいかない。  
そこもやはり彼の根幹を成す優しさである。コンドームを取り付け、先端を当てる。  
「いくよ?」  
「うん…あっ、あっ、あっ…」  
ゆっくりと侵入させていく。ゆっくり、少しずつ、少しずつ。  
「…一気に入れて。」  
「え…でも、そんなことしたら…」  
「絶対に、痛くない。一気に、来て欲しいの、お願い…」  
「…わかった!」  
意を決し、一気に貫いた。  
 
「あああっ!あん、あん、あん!」  
一気に貫いた瞬間、ヒカリは快楽で喘いだ。  
そのまま腰を強く振ってきて、その度に喘ぐ。  
「くっ!うあ…」  
コウキも腰を強く振る。  
「コウキ!コウキ!もっと!」  
「ヒカリ!大好きだ!ヒカリ!」  
互いを求めあう。お互いの名前を呼び合う。  
そして、コウキの下半身を射精感が一気に襲う。  
「ふあ、ああああああん!」  
「くっ、出る!」  
 
コンドーム内を大量の精液が駆け巡る。溜まっていた数日分の精子は、想像以上に多かった。  
コンドームを介しても、ヒカリは精液が勢いよく出るのを、感じ取る。  
そして、再び絶頂が訪れたヒカリは、コウキと1つになれたことに満足し、  
再び、今度こそ完全に気を失った…  
 
「…あれ、ここは?」  
「あ、きがついた!」  
大きなベッドが1つ。横を向くと、コウキも同じように横になり、こちらを見つめていた。  
「ごめん、重かったでしょ。  
 あ、そっか。ポケモンに頼んだんだね。」  
「…何があったか感じ取れる状態だから、ポケモンには頼めないよ。  
 ヒカリはすごくスレンダーだから、お姫様だっこでもすごく軽かったよ。」  
「…もっと胸がほしいな。」  
「あ、いや、そういう意味じゃなくって…」  
スレンダーは失言だったか、そう感じた。  
「ふふ、冗談…って、ヨスガの街をお姫様だっこで!?」  
「周りにはあまり人はいなかったし…それに、その、道端には俺たち以外のカップルも沢山…」  
「…。」  
顔が赤くなる2人。  
 
「え、えっとさ、えーっと…」  
「ど、どうしたの?」  
何か話題を振ろうとするが、急には思いつかない。  
「と、とりあえず、シャワー浴びる?  
 僕はもう浴びたけど…」  
「あ、うん、そうだね。じゃあ、浴びる…あうっ。」  
体力を相当消耗しているヒカリ。1人で立つこともままならない。  
「ごめん、1人じゃ無理っぽい。」  
「1人で立てないなら…2人で立とう。  
 1人で歩けないなら、二人で歩こう。…これからも、ずっと。」  
「う、うん。……ひゃっ!」  
すごく恥ずかしい言葉を言うコウキ。恥ずかしくなるヒカリ。  
照れるコウキ。だが気にせず、ヒカリの左脇を右肩で抱え、右腕でもう片方の脇を支える。  
 
「ね、ねえ。シャワーを浴び終わったら、その…」  
「…うん、いいよ。」  
「ほ、本当に?」  
「…うん。お願い。」  
「やった!じゃあ、さっそくシャワーを浴びよう!」  
「わわっ!」  
 
急激に動いたので、バランスを崩すヒカリ。  
それをあわてて支えるコウキ。お互いの目線が合う。お互いがほほ笑む。キスをする。  
「行こうか」  
「うん」  
 
きゅっとコウキの右手を握るヒカリ。優しく握り返すコウキ。  
これからの、シャワーを浴びた後の事を想像して、嬉しくなるコウキ。  
そんなコウキを見て、クスクスと微笑むヒカリ。  
2人は、手を握る力を、そっと、ほんの少しだけ強くした。  
 
これからも一緒に同じ旅路を歩むであろう2人の姿を、窓からそっとエムリットが見守っていた。  
 

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