「キクコちゃ〜ん」
おれは背後からコッソリと忍び寄り、キクコちゃんのことを抱きしめる。
「きゃっ!?」
突然の出来事に驚いたのか、小さく体を跳ねさせるキクコちゃん。
その拍子に包丁がキクコちゃんの手から離れ、
人研ぎ(コンクリート製)流し台へと落ちていった。
初々しい反応に、思わずおれの鼻息も荒くなる。
「もう〜。包丁持ってるときに危ないじゃない」
肩越しにおれの顔を見つめながら、風船ポケモンのように頬を膨らませるキクコちゃん。
その姿があまりにも可愛らしかったため、自然とキクコちゃんを抱きしめる手に力が入る。
おれは自分の体がいつになく昂っていることに改めて気付かされた。
「――あ、あの……。お尻に……なにか当たってるんだけど……」
キクコちゃんは正面に顔を戻し、体をよじりながら呟いた。
もちろん、おれ自身も気付いている。先ほどから下着の中で暴れ続けている分身が、
早く外界の空気に触れたいと主張していた。だが、ここですんなり離れても面白く無い。
「――『なにか』……ってなんだよ?」
おれはキクコちゃんの意図が掴めないフリをしながら尋ねてみた。
尋ねている間も、自分の下腹部をキクコちゃんのお尻に押し付けることをやめず、
ひたすら彼女の心を煽り続けてみる。
すでにキクコちゃんは顔を真っ赤に染め、小さくうつむいていた。
「だから……その……。おとこのひとの……」
「なんだよ? ハッキリ言ってくれねぇと、わかんねぇなぁ……」
口元を歪めながらキクコちゃんへの追及を続ける。
おれの口調はいつのまにか、とぼけていることがバレバレのモノへと変化していたが、
今さらそんなことは意に介さない。
キクコちゃんだって自分が何を言わされようとしているかくらい、
とっくに気付いているハズだ。
「い、いじわるしないでよぉ……」
今にも泣き出しそうな声で、そんなことを言われた日には、
理性なんぞワタッコのように吹き飛んでしまう。
「キ、キクコちゃん!」
「あっ!」
おれは辛抱たまらず、キクコちゃんの胸元へと手を伸ばした。
左手はキクコちゃんの体を押さえ続け、右手は胸をわしづかみにしている。
――おれの大きな手のひらにキクコちゃんの温もりが伝わってきた。
服越しに触っただけでも分かるが、キクコちゃんは年齢のわりに小振りなほうだ。
だが、それがいい。
「ほら。なにが当たってるのか教えてくれよ」
キクコちゃんは、なおも口を閉ざしたまま、言葉を紡ごうとはしない。
ここまで抵抗を示されると、
余計にキクコちゃんの口から聞きたくなるのが人情ってものだ。
「ナ、ナナカマドさんの……」
胸をわしづかみにしているおれの手に、自分の手を重ねながら、
首筋まで真っ赤にしたキクコちゃんが絞り出すような声で呟く。
「おれの?」
「お……ん……」
「そんな小さい声じゃ聞こえねぇなァ」
おれの煽りにキクコちゃんは再び顔をうつむけ、黙りこくってしまう。
だが、しばらくの間を置いたのち、そのみずみずしい唇がゆっくりと開かれた。
「――お……おちんちん……」
か細い声で呟いたあと、恥ずかしさのあまりか体を小刻みに震わせるキクコちゃん。
瞬間、おれの心に愉悦の感情が荒波のごとく押し寄せてきた。
今のキクコちゃんの台詞で、おれの怒張はさらなる躍進をとげる。
窮屈な下着の中だけに痛くてたまらない。
男子寮には似つかわしくない可憐な美少女を辱めているという事実が、
これほどまでに男を興奮させるものだったとは……。
「――も、もう我慢できねェ!」
「きゃっ!?」
決壊寸前の場所で押しとどまっていた残りの理性が、せきを切ったように溢れ出す。
おれは自分のズボンを下着ごと片手で器用に引き降ろすと、
スパッツに包まれたキクコちゃんの臀部へとなすりつけた。
「うおっ! この肌触りたまんねェ!」
体を上下に動かすたび、ナイロンのすべすべとした肌触りが肉棒を刺激し、
それが独特の快感となっておれの感度を高めてゆく。
「あっ! ちょ……、ナナカマドさん!」
お尻でうごめくモノの感触に戸惑っているのだろう。
キクコちゃんは太ももを擦り合わせながら、戸惑いの声を漏らし続けている。
その様子を見ているうちに、さらなる欲求が首をもたげてきた。
――これだけじゃあ足りない――。
「キ、キクコちゃん! 挟んでくれ!」
「え?」
すでに大量の先走りで濡れそぼっている分身を、キクコちゃんの太ももの間に突き立てる。
「ひゃあっ!」
先走りが潤滑油となったのだろうか。
思っていたほどの抵抗も無く、すんなりとキクコちゃんの股間に滑り込んでいった。
充実した太ももの間に挟まれ、おれの怒張は喜びを誇示するかのように幾度も跳ねる。
「ひゃんっ! ヌルヌルするよぉっ!」
体をガクガクと震わせ、涙声になるキクコちゃんはあまりにも魅力的だ。
おれはそのまま激しく腰を動かし始めた。
「うおぉっ! スパッツの感触たまんねぇっ!」
腰を前後に動かせば断続的に襲い来る未知の肌触り。
その快感に、おれの脳髄は早くもオーバーヒート寸前だ。
キクコちゃんのほうも、ひと突きごとに甘い吐息を漏らし、感嘆の声をあげている。
「や、やべっ! もう出ちまいそう!」
こんな短時間で果ててしまっては、ハッキリ言って早漏と言わざるを得ない。
しかし、以前から夢にまで見ていた、スパッツを履かせたままでの素股だ。
1人でするときとは比べ物にならないほどの快感に身を焼かれ、
耐えることが不可能なまでに体を侵食されていた。
――すでに限界は目前まで迫っているのだ――。
「キクコちゃん! もうダメだ! おれ、もう――」
「いいよ、きて! ナナカマドさん! スパッツに、いっぱいかけてっ!」
キクコちゃんがひときわ高い声を放ち、
洗面台に両手をつきながら、お尻をグイっと突き出してきた。
刹那、おれの下腹部に熱い感覚。続けざま、煮えたぎるマグマがせり上がってくる。
「くッ……、ああアぁあァッ!! キクコォォォッ!!」
「ナナカマドさぁぁんッ!!」
おれはギャラドスのような咆哮を放ちつつ、
先端から噴出した白い欲望を惜しげもなくキクコちゃんのスパッツにぶちまけた。
とどまるところを知らぬ奔流は、ハイドロポンプのごとき勢いで噴射され、
みるみるうちに黒いスパッツを白く染め上げてゆく。
おれは体を痙攣させるキクコちゃんの腰をしっかりとつかみ、
いつ果てるとも知れない究極の快感に、ひたすら身を任せ続けていた――。
◆
「うオぉぉォォッ!!」
「うわっ!?」
なんの前触れもなく、両手を振り上げながら獣のような雄たけびをあげたナナカマド先輩。
その尋常ではない咆哮に、僕は思わず身をすくめる。――なんだ!? 進化か!?
「もう我慢できねェ! ちょっくら抜いてくるッ!」
叫んだ刹那、先輩は突然立ち上がり、マッスグマのごとく一直線にカワヤへと駆け出した。
途中で足を引っ掛けられた扇風機が勢いよく壁に叩きつけられる。
「ちょ、ちょっと先輩!?」
状況を把握しきれず、片手を前に突き出す僕を尻目に、
カワヤの扉が大きな音をたてながら閉ざされた。
その衝撃で立てかけてあった額縁がガタンと傾く。
「――え……あ……」
片手を突き出したままの体勢で硬直し続ける僕。
それは傍から見れば、間の抜けたモノとして写ることだろう。
――予期せぬ沈黙が部屋を満たす――。
「――あー……。もうこんな時間かぁ……」
気がつけば茜色の光が部屋の中へと差し込んできており、
けたたましく喚いていたテッカニンの鳴き声は、
物寂しげなヌケニンのモノへと代わっていた。
開けっ放しの窓からご近所の夕食の匂いが漂ってくる。
豆腐屋の笛の音とともに聞こえてくる子供たちのはしゃぎ声は、
どこか切ないものを感じさせた。
――憲法9条が制定されてから、すでに10年という月日が経つ。
平和な日々はガラスのように繊細で、
ほんの僅かな刺激で砕け散ってしまうことを僕は知っている。
仮に僕に孫が出来たとして、今のような穏やかな日々を過ごせる保証はどこにも無いのだ。
――だからこそ願いたい。この国の平和を――。
「もうすぐ……テレビ放送が始まるのか……」
夕日に照らされ赤く染まる木々を眺めながら、ポツリと呟いた。
――これからこの国はどんどん変わる――。
現在あるものは淘汰され、新しいものが世に溢れ出てくるだろう。
もしかしたら今よりも優れたモンスターボールが開発されるかもしれないし、
車だってタイヤが無くなり、宙を走るようになるのかもしれない。
そんな中で時代に取り残されたような気分になり、
他の者に劣等感を抱くようになる可能性は大いにある。
「だけど……」
僕は拳を握り締める。
「最後に息を引き取る瞬間まで、悔いのない人生を……」
ポケモン図鑑――。未来へ繋がる1つの希望――。
それが完成を迎えるその日まで、僕は決して終わらない――。
夕暮れ時の空を見上げながら、自分自身に誓いを立てた――。
終