ちょっと判りづらいところがあるので先に説明すると、
ゲーム内にて、カナズミシティでの「デボンの荷物がひったくられる」イベントが発生するときに
(何故か)主人公がツツジと一緒にいた……というシーンから始まっています
ゲームのイベントとは異なるシーンですが、上記を前提にしたSSであることをご了承ください
ジムリーダーとは何でしょう?
ジムリーダーの素質とは何か、ジムリーダーの務めとは何か……それを私は考えるようになっていました。
私はポケモントレーナーズスクールを……自分で言うのは恥ずかしいのですが……首席で卒業いたしました。
その成果を、ポケモンバトルに活かしたい。その為に私はジムの門を叩き、いつしかリーダーになっていました。
ジム生やスクールの皆さんは、皆私のことを慕ってくださいます。
とても立派なジムリーダーだと。
ですが……私は本当に立派なリーダーなのでしょうか?
バトルの腕はそれ相応にはあると自負しております。岩タイプポケモンへのこだわりにも、自信があります。
ですが……私が自信を持てるのはポケモンの育成とバトルだけ。
それだけで、私は人に慕われるだけの資質と資格があると言えるのでしょうか?
人に慕われる、人の上に立つ……ジムリーダーとしての責任。
私はもっと何か、何かをしなければならないのではないか……
そんなことを考えるようになっていた、矢先でした。
「その荷物を返してぇぇぇぇぇぇ!」
挑戦者とのバトルを終え、私はその方に誘われるまま食事をご一緒することになりました。
二人でジムを出たところ、男の方が走り去る人影に向かって叫んでいます。
あれは……アクア団!?
何が目的なのか……どうやらアクア団が男性の荷物を強奪し逃げているよう……ああ、なんということでしょう!
こんな時、まず何を……大変な状況であることはキチンと理解しているのですが、考えがまとまらない……
「おいオッサン、ひったくられたのか?」
オロオロするばかりの私に代わり、同伴していた挑戦者の方が声を掛けている
「ああ、君は! そうなんだ、荷物をいきなりアクア団に! お願い、取り返してきて!」
懇願する男性に、その方は眉をひそめながらも頷いた。
「ったくこんな時に……ええい、仕方ない。ツツジさん、すまないが食事はまた後で」
「あっ、はい……」
私はといえば、ただ返事を返すのが精一杯。この状況に立ちすくんで何も出来ない……
彼はさっそうと逃げるアクア団を追いかけていく……ただただ、私はそれを見送っていた。
「ああ困った……おっと、これはツツジさん。いやはや、お見苦しいところをお見せしてしまって……」
「いえ……災難でしたね」
どうにか声を掛けるのが精一杯。
私は結局何も出来なかった事に後悔するばかりで、男性の顔をまともに見ることも出来ないでいる。
「ええ、本当に困りました……ですが、あの人なら取り返してくれる……そんな気がします」
妙な確信。何故そのようなことが言えるのか……
気になる私の視線に気付いたのか、それとも単にこの方がおしゃべりなのか、彼はその確信の核を話してくださった。
「いや実はね、先ほどもトウカの森で大切な書類を奪われそうになったんですよ。それをさっきの人が助けてくれましてね」
なるほど……この方は既に一度助けられていたのですね。だからこそ、彼に期待しているようです。
「いやぁ、あの人は強かったですよ! アクア団の繰り出すポチエナを、それはもう凄い勢いで……」
興奮気味にバトルの模様を語り出す男性。彼の強さは……私も先ほど身をもって知ったばかり。
男性の話す状況は、手に取るように伝わり感じることが出来ます。
ですから……尚更感じるのです。バトルに強い事はすなわち、その強さに期待することも大きいのだと。
なのに私は……先ほど何も出来なかった。
ジムリーダーとして慕われている私は、それだけ期待されている……なのに私は……
男性が一度社に戻ると立ち去られた後も、私はその場で……どうすべきだったのか、その事ばかりを考えていました。
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「すまなかったね。俺からデートに誘ったくせにほったらかしたりして」
意気揚々と戻られた彼は、立ちつくしていた私に声を掛けてくださった。
「いえそんな……私こそ、何も出来なくて」
実際、私は何もしていない。彼は私が「待っていてくれた」と思っているようですが
実際は……立ちつくしていただけ。どうすべきだったのか、その事ばかりをうじうじと考えていた、それだけで……
「はは、女性を危険なことに巻き込むわけにはいかないからね」
「でも、私はジムリーダーなのに……街の為に何も出来なかったなんて……」
口にしてしまってから、私は自分の言葉に驚いた。
初めて……私は自分の悩みを口にした。それを口にした事にも、それに気づいた事にも、驚いている。
何故こんな事を……彼がこの街の人ではないから、どこか安心しているのでしょうか?
「いや、ジムリーダーってのはあくまでポケモンのジムをまかなうリーダーであって、街の治安は本来警察が担うべきだからな。君が無理矢理危険なところへ飛び込む必要はない」
「でも……」
彼の言うことは正論です。ですが……街の皆さんはそれだけではない何かを期待しているはずです。
その期待に、私は答えることが出来ない……それを痛感してしまったばかり。
そんな私に、正論はただの飾り言葉でしかなかった。
「適材適所ってことさ。俺はどうも、こーいう事に慣れちまってるからな。君はこんな危ない目にいつも合う訳じゃないだろう? すぐ対処しろって方が無理な話さ」
適材適所……だとしたら、やはり私はジムリーダー失格なのでしょうか?
リーダーとしての適材に至らない私は、リーダーという地位は適所ではない……そういうことなのでしょうか。
悲しかった。悔しかった。私はただ、俯いて黙って、それに耐えるしかなかった。
もしかしたら、涙があふれ出すかも……そんな矢先、不意に俯いていた私の顔は上へと引き上げられた。
彼が私の顎を軽く引き上げ、そして彼は私に顔を近づけてくる……えっ? なっ、何を彼はしようと……
「あっ、あの……」
もしかして、彼は私の唇を……えっ、でもどうして? こんな時に?
私の思考は、またパニックを引き起こしている。
こんな状況、多少のあこがれはあったかも知れませんが、しかしそんな急に……慣れないこの状況に、私はただ流されていくだけ……
「……ね。こんな事経験もないでしょ? いきなり訳のわからないことをされると、人は固まってしまうものさ。だからさっきのことは気にすること無いの。君がそうやって落ち込むのは似合わないな」
……どうやら彼は、「こんな事」も場慣れしているようです。
頬が火傷したかのように熱い。さぞ私の顔は真っ赤になっているのでしょうね……。
「あの……はっ、はい……」
彼の言わんとしていることは判ります。それが正しいことも。
ですが……それでも私は期待されている。期待される以上、慕われる以上、私はそれに応える義務が……
また繰り返そうとしていた、私のネガティブな悩みは、不意に、強引に、止められた。
「んっ!」
唇に、彼の唇が……触れた。
キス……これ、キス……ですよね?
異性の方の唇が、私に……えっ、どうして……
「これはジムリーダーに代わって事件を解決した俺への、君からのご褒美。これで、君は君の役割を果たした……って事に、しないか?」
微笑む彼を、私は直視できない。火傷所ではなく、火が出てもおかしくはないだろう、私の頬……
それを隠すように、うつむき、そして頷くことしかできなかった。
「この荷物、デボン社に届けてくるから。デートはまた今度ね」
立ち去ろうとする彼。私は顔を上げ、彼の背中に向け声を掛けていた。半ば無意識に。
「あの、後でまた……立ち寄ってくださいね」
彼は軽く後ろを振り返り、手をヒラヒラと振ってそのままデボン社へと向かっていった。
私はといえば、いそいそとジムへと戻っていく。
彼がまた来る。
後で……と約束はしましたが、すぐにとは言っていません。
ですが……何故か私は、彼がすぐに立ち寄ってくれると期待しています。
胸躍らせながら。
小走りで帰っているからでしょうか……胸の鼓動がとても速いのを実感しております。
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気付けば、私は二人分の食事を用意していました。
食事の約束をしていたから……という言い訳は、彼が再び訪れてくれた直前に思いつきました。
「うわ、これツツジさんが全部?」
「ええ……お口に合えばよろしいのですが」
私の心配をよそに、彼は私の料理を美味しい美味しいと食べてくださいます。
なんでしょう……人のために料理を作り、それを褒められるのは先ほどの事件と違い何度も経験しておりますが
これほど私まで嬉しくなったのは……初めてです。
「いや美味しかったよ。ご馳走様」
「お粗末様でした」
食事を済ませた後は、他愛もない会話。ポケモンの育成やバトルに関する話が中心でしたが……
その内容がどれほど頭に入っていたのかは、正直疑わしいです。
そんな上の空で続けられる会話では、不意に話が途切れてしまうもの。
意図しない沈黙が、二人の間に漂ってしまう。
何か話題を……焦ったのでしょうか、私はとんでもないことを口にしていました。
「あの……私、あれがその……ファースト、キス……だったんです」
自分で切り出しておきながら、私はまたうつむき頬を赤く染める。
何でこんな事を今……
「あー、やっぱりそうだったか……いや、すまなかったね」
罰悪そうに、眉を寄せ頭を掻く彼。
ファーストキス……誰もが憧れる、初めてのキス。
その相手や場所、シチュエーションには色々と憧れ思うことは多かったけれども……
経験したそれは、思っていた物とは全く違う、それでいて……
「いえ、いいんです。というか、その……あなたで、良かった……って、いえ、あの、なんでもありません……から」
私の中で、とても素敵なものになっていた。
彼とは、今日出会ったばかり。そんな彼と、初めてのキスを……あんな形で……
自分でも本当に驚いています。自分の恋愛観を自分で揺るがしている。
でもそれは、彼あっての揺らぎ……その彼は、うつむき恥ずかしがっている私の方へ、席を立ち近づいてきた。
まともに顔を上げられない。彼が何故私の方へ近づいてきたのか……その理由、それを予感しながらも、私は自分から顔を上げられない。
「俺で本当に良かった? そう言って貰えて嬉しいよ。良ければもう少し、その「良かった」を共有したいな……」
あの時のように、私の顔を強引に上げる彼。顎に触れる彼の手が優しい……
「えっ!? あの……んっ……」
驚きながら、でも期待していた……セカンドキス。
唇はすぐに離れ……でもまた、彼の方から近づいてくる。
まるで小鳥が餌をついばむように、軽く触れては離れる唇。何度も繰り返す唇。
彼から近づく唇。そしていつの間にか、私も唇を積極的に寄せていく。
何度も何度も繰り返され……その感覚は、徐々に長くなる。
触れあう時間が、長くなっていく。
「あの……こんな事、私初めてだから……」
この先どうなるか……初めてでも、予感はある。そして期待している。
「全部任せて。君の初めて、全部俺に」
彼は私の期待に、応えてくれる人……私と違って、期待に応えられる人。
彼が私を抱きしめる。私もそれに応えるよう、彼の背に腕を回す。
触れた唇から、するりと舌が伸びてきた。驚きながらも、私はそれを受け入れる。
初めてのに……何をすればいいのか、私は理解しているよう。私も舌を伸ばし、彼の舌に絡みつく。
「んっ……クチュ、チュ……チュパ……んっ、ん……チュク……」
湿った音がする。互いの唾液が絡まり、それを舌がかき混ぜる。
唇や舌の感触はもちろん、その音が耳に届くことが、心地好い。
とてもいやらしい……でも素敵な事。私は今日知ったばかりのキスに、夢中になっていた。
「あの……続きは……」
夢中になっていたからこそ、続きを期待し……私は、「それ」を行うべく場所へと彼を誘った。
今日ほど、自分の几帳面さに感謝した事はないかも知れない。
初めて男の人を迎え入れた私のベッドルームは、ちゃんと清掃が行き届いていた。
シーツも洗ったばかり。おろしたてのような白さを保っている。
彼は私をそのシーツが敷かれたベッドへ誘導し、二人は腰掛ける。
そしてまたキス……でも彼は、先ほどのような甘く濃厚なキスをしてくれない。
代わりに……彼は私のネクタイに手を掛け、するりとほどいてしまう。
そしてワンピースの裾に手を掛け持ち上げる……申し合わせたかのように、私は腰を上げ腕を上へ伸ばす。
初めてなのに……こんなことに手慣れていると思われていないだろうか?
私は自分が今下着姿である恥ずかしさより、その事の心配が上回っていた。
「綺麗だ……」
魔法の言葉が投げかけられ、私の心配が消え去る。
同時に気恥ずかしさが心を占め、白く飾り気のない下着を選んでいる自分の生真面目さを少し恨んだ。
「あまり見ないで……恥ずかしいの」
「綺麗なものに魅せられてしまうのは、男の性なんでね」
再び近づく唇。彼の手は私の背に回り、ホックへと。キスをしながら器用に、彼は私の下着を脱がせていった。
「小さい……ですよね」
「胸は大きさじゃないさ。君の胸が、俺を感じてくれるかどうか……重要なのはそこさ」
彼の手が私の胸に触れる、さわる。
「んっ……」
優しく私の胸を、彼の指が、掌が、優しく撫で回す。こそばゆい感触に、私は思わず声を上げてしまう。
異性が私の胸に触れている……それだけでその胸は息と共に上下する。
「あっ、股……そこはふっ、太いから、恥ずかしくて……」
「締まっているのに弾力があって……素敵じゃないか。魅力的だよ、君の太股は」
ストッキングの上から触れられる内股……胸同様、さわさわとこそばゆさが伝わり、そして触れられているという実感が心を満たす。
「そん……あっ! 舐めない……で、んっ!」
彼は腰掛けていた私をベッドに倒すと、太股に顔を埋めて来た。
そして彼は手で、舌で、太股を撫で回す、嘗め回す。
「君は……胸よりこっちの方が感じるのかな?」
「そんな、わからな……んっ! そこ、くすぐっ、あっ!」
判るのは、自分の手で触れるよりも敏感に感じ、そして心地好くなっている事。
彼の舌は徐々に上へと上がってくる。その舌が目指すところを察し、私は彼の頭を手で押さえてしまう。
それ以上は恥ずかしすぎる……でも、力が入らない。本気で抵抗は、出来ない。
「やっ、ダメ!」
とうとう、彼の舌は私の淫唇に触れた。下着の上からでも、舌の感触が深く伝わってくる。
「いやぁ……んっ、ダメ、そんなところ……いやぁあ!」
下着をずらされ、とうとう彼の舌が直に……
敏感な部分を突かれ、大切な部分を嘗め回され、私は拒絶の言葉を吐き出し、心で彼を求め続けた。
「嬉しいよ……感じてくれているんだね?」
ビチャビチャと湿った音が私の耳にまで伝わってくる。
それは彼の唾液だけではなく……私の、下の唾液までもが入り交じっているのを、私は実感していた。
それはつまり、彼の言うとおり……私は感じているとう、証。
「恥ずかしいです……もう、これ以上は……」
言葉とは裏腹な、期待。彼はその期待を、キチンとくみ取ってくれる方。
「怖がらないで……俺を信じて」
彼は顔を上げ、ベッドの上で半身を起こしている。いよいよ、いよいよなのね……
期待と同時に、抱える不安。その不安を、彼は笑顔と言葉で取り除こうとしている。
それでも私の不安は、彼の腰が私に近づくにつれ増すばかり。引けてしまう腰を、彼は力ずくで押さえてしまう。
強引な……でもそれが、頼もしい。
「あっ!……いぎっ!……んっ、あっ……いた……い……」
話には聞いていたけど……こんなにも痛いものだったなんて。堪えるつもりだったけど、私は悲鳴を上げてしまった。
でも私は……こうして彼を自分の中へと迎えられた。それがとても、嬉しい。
「ありがとう……君は俺の「期待」に応えてくれたんだね」
えっ? 彼の言っている意味が判らない……彼が寄せてくれた期待って? 痛みを堪えながら、私は彼の真意を探っていた。
「君とこうして、一つになりたかった。素敵な君と……その「期待」に応えてくれて、ありがとう」
そんな……それは私の……言い返そうとする私の言葉を、痛みが塞ぐ。彼が腰をゆっくりと動かし始めたから。
「辛いだろうけど……我慢してくれ」
そう、これで終わった訳じゃない……彼の期待は、まだこの先……男の人の期待は、もっと先にあるはず。
期待……されているんだ。私はそれに応えようと、痛みと闘った。
「いっ、あ……んっ、んっ! あ……」
耐えかねて、声が出てしまう。でも出てしまう声は……痛みによるものばかりではない。
痛みはまだある。でもそれは徐々に薄まりつつある。
痛みに覆い被さるのは、彼の期待に応えようとする私の心と、私の期待に応えてくれる彼の心意気。
漏れ出る声は、その結果を示し始めていた。
「あっ、なんだ、か……いっ、あ、ん……」
「もう少し、もう少しだから……」
早まる彼の腰。速度が上がれば上がるほどに痛みも増すが、それ以上に痺れるような感触……快楽が、私を包んでいく。
「くっ!」
不意に彼の腰が引け、彼が私の中から出て行ってしまった。
程なくして、私の腹部に熱いものが降り注がれる……彼が放った、「期待」の結果が。
私は、彼の期待に応えられたんだ……それが嬉しくて、嬉しくて……
「ゴメンね、痛かったろ?」
彼の指が、私の目元に触れる。私は涙ぐんでいたようだ。
「いえ……嬉しかったんです」
「え?」
「私……あなたの期待に応えられたんですよね」
思わず「期待」という言葉を口にしてしまった……
普通、こんな状況で使う言葉ではない事くらい、初めてだった私にだって……
ちょっと驚いた顔をした彼は、しかしすぐ笑顔を取り戻して私に語りかける。
「でも、俺は君の期待にまだ応えていないよな」
え?
「まだ、君を満足させてないからね……」
そんな……私は満足しています。あなたとこうして一つに慣れた事を……
「えっ? やっ、まだそこは……んっ!」
「敏感になってるね……怖がらないで、逝ってごらん」
彼の指が、先ほどまで彼がいた場所を……そしてその近くにある敏感な突起にも、触れてくる。
「ダメ、私そん、やぁあ!」
恥ずかしい……背筋に電気が走るような、そんな感触に身体を震わせる。
私今どんな顔をしているだろう……その顔をじっと見つめられるのは、とても恥ずかしい。
「ダメだか……んっ、ん……クチュ、チュ……」
恥ずかしいから、私は彼に抱きついて唇を重ねた。
何で私、こんなに積極的になっているのでしょうか……はしたない女だと、思われてるでしょうね。
それでも……私は自分を止められなかった。
キスの甘い交わりと、刺激的な感触が全身を包み、私は身も心も溶かされていく。
「ん、チュ……チュパ、チュク……んっ、やっ、あっ! も、んあっ、あぁああ!」
大きく身体が震える……私は心も身体も、彼に満たされていた……。
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彼の腕に抱かれながら、私は自分の悩みを全て明かしていた。
彼なら、彼だから、私は全てを話し、託せると思って。
初めて会って、初めてのキスをして……初めて、好きになった人だから。
「慕うっていうのはさ、期待だけじゃなくて憧れだってあるだろ? ジムリーダーとか四天王とか、チャンピオンとか……君だって憧れていた頃があったろ」
そう……言われてみればそう。私はかつてのジムリーダーに、あこがれを抱いていた。私はそのあこがれの存在となり、そんな自分に……戸惑っている。
「君が慕ったり憧れたりしていたジムリーダーや先輩達に、君は何かを期待していたかい?」
……言われてみればそう、そんなに難しい話ではなかったはず。
私は偉大な先輩方に、何かをして欲しいと思って慕っていたわけでも憧れていたわけでもない……そう、確かにその通り。
でも……
「私は……いつも周囲に、期待され続けていました。スクールきっての優等生だって……」
それはプレッシャーであると同時に、私の支えだった。
期待されているからこそ、がんばれた。そうして私は、ジムリーダーになれたのだと思う。
でも今は……どうだろう。ジムリーダーになった事で、周囲の期待には応えられた。次に私は……何をすれば良いの?
「立派なジムリーダーで居続ければいいのさ。今の君は、そんな素敵なお姉さんなんじゃないか? 慕われているのがその証拠だろ」
そう……なんでしょうか? 私には実感がありません。
「焦らなくて良いんじゃないかな。とりあえず、無理してされてもいない期待に応えようとしなくったっていいさ」
されてもいない……なんでしょう、私は今、一抹の寂しさを感じています。
「期待される事に慣れすぎて、それが当然になっちゃってたんだな……」
ああ、そういう事ですか……彼の言葉は私の悩みを少しずつ解きほぐしてくれます。
ですが……頭で判っていても、私の不安はなかなか晴れてくれません。
「私は……どうすれば良いのでしょうか?」
「君のままであり続ければいい。後は人生の経験を積む度にそんな自分に馴染んでいくさ……って、なんか年寄り臭いな俺」
笑う彼に釣られ、私も笑みをこぼしてしまう。
ああ……そうか。この人の笑顔。初めて会った、あのバトルの時から、この人は笑っていたっけ。
強くてたくましくて、頼れる人……そしてこの、安心させてくれる笑顔。
私がこの人に惹かれた理由が今、判った。
この人は私の……
「とりあえず……目標は出来ました」
私が私に、期待してみる。その目標に到達できるようにと。
「なに?」
「……ふふ、秘密です」
まずはそう……素敵な笑顔を作れるように。私は満面の笑みを、彼に向けた。