「ふう、そろそろ着くかな。  
 テンガン山が岩、地面ポケモンばかりで、助かった…」  
 
この少年、キッサキシティに向かっている。  
そのためにテンガン山を抜け、現在216番道路を進行中。  
これからキッサキシティへの百数十キロの厳しい雪道を進むのだ。  
 
「はあ、でも、大丈夫かなあ…」  
 
ただ、この少年、あまり浮かない顔をしている。  
それは、雪の中で体力が持つのかとか、物資は足りるかとか、そう言う問題ではない。  
彼は冒険そのものに対しては自信を持っている。のだが。  
 
「途中に強いポケモンが出てきたら、どうしよう…」  
 
そう、この少年、ポケモントレーナーとしては非常に弱いのだ。  
フタバタウンから新米トレーナーとして旅に出ることになったのだが、いかんせんバトルのセンスがない。  
ジムバッジも、まだ2つしかゲットしていないのである。(冒険に支障はなかったが。)  
それどころか、ポケモンをバランスよく育てることもできず、  
最初に貰ったポッチャマ以外、ほとんどレベルが上がっていない。  
 
…そのポッチャマも、まだポッタイシであり、エンペルトに進化していないのだが。  
とはいえ、テンガン山に生息するのは相性が抜群なゴローン。そこは何とか切り抜けた。  
 
「はあ、仲間を作った方がいいのかなあ…  
 そろそろこの雪道の、最初のロッジタウンにつくはずだ。」  
 
キッサキまでの雪道は非常に険しく、苛酷である。  
よって、そんなトレーナー達の負担を少しでも軽くするために作られたのがロッジタウン。  
数キロおきに置かれる小さな町で、無料でポケモンセンターや宿泊施設を使えたり、  
食料、物資も必要に応じて提供される、そんな場所である。  
 
「そこでだれか強いトレーナーに一緒に行動してもらおうかな…ん?」  
 
目の前に、何かある。銀世界のど真ん中に、何かある。  
一面真っ白だからこそ、その黒い部分がはっきりと見える。  
近付いてみると、そこには…  
 
「なんだろ?  
 …わーっ!ひとが、人が倒れてる!おい、大丈夫か!」  
「うーん…?だれ?」  
「おい、大丈夫か!しっかりしろ!」  
 
どうやら女の子のようである。  
雪の平原のど真ん中で、うつぶせになっている。  
その体を仰向けにして起こし、呼びかけると、返事が返ってきた。  
 
「だーいじょうぶだいじょうぶ。  
 ちょっとお腹すいたし、そのおかげで眠たくなったから、ちょっとここらでひと眠りー。」  
「バカー!  
 雪の中、それもこんなど真ん中で、野ざらし状態で寝てたら、凍死しちまうぞ!」  
「とーし?中のものが見えるの?」  
「ちがーう!!」  
 
これは本当にやばい。寝ぼけてる。つーか死にかけてる。  
ポニータをモンスターボールから出し背中にその女の子を乗せ、急いでロッジタウンへと向かった。  
 
「ふう、そろそろ着くかな。  
 テンガン山が岩、地面ポケモンばかりで、助かった…」  
 
この少年、キッサキシティに向かっている。  
そのためにテンガン山を抜け、現在216番道路を進行中。  
これからキッサキシティへの百数十キロの厳しい雪道を進むのだ。  
 
「はあ、でも、大丈夫かなあ…」  
 
ただ、この少年、あまり浮かない顔をしている。  
それは、雪の中で体力が持つのかとか、物資は足りるかとか、そう言う問題ではない。  
彼は冒険そのものに対しては自信を持っている。のだが。  
 
「途中に強いポケモンが出てきたら、どうしよう…」  
 
そう、この少年、ポケモントレーナーとしては非常に弱いのだ。  
フタバタウンから新米トレーナーとして旅に出ることになったのだが、いかんせんバトルのセンスがない。  
ジムバッジも、まだ2つしかゲットしていないのである。(冒険に支障はなかったが。)  
それどころか、ポケモンをバランスよく育てることもできず、  
最初に貰ったポッチャマ以外、ほとんどレベルが上がっていない。  
 
…そのポッチャマも、まだポッタイシであり、エンペルトに進化していないのだが。  
とはいえ、テンガン山に生息するのは相性が抜群なゴローン。そこは何とか切り抜けた。  
 
「はあ、仲間を作った方がいいのかなあ…  
 そろそろこの雪道の、最初のロッジタウンにつくはずだ。」  
 
キッサキまでの雪道は非常に険しく、苛酷である。  
よって、そんなトレーナー達の負担を少しでも軽くするために作られたのがロッジタウン。  
数キロおきに置かれる小さな町で、無料でポケモンセンターや宿泊施設を使えたり、  
食料、物資も必要に応じて提供される、そんな場所である。  
 
「そこでだれか強いトレーナーに一緒に行動してもらおうかな…ん?」  
 
目の前に、何かある。銀世界のど真ん中に、何かある。  
一面真っ白だからこそ、その黒い部分がはっきりと見える。  
近付いてみると、そこには…  
 
「なんだろ?  
 …わーっ!ひとが、人が倒れてる!おい、大丈夫か!」  
「うーん…?だれ?」  
「おい、大丈夫か!しっかりしろ!」  
 
どうやら女の子のようである。  
雪の平原のど真ん中で、うつぶせになっている。  
その体を仰向けにして起こし、呼びかけると、返事が返ってきた。  
 
「だーいじょうぶだいじょうぶ。  
 ちょっとお腹すいたし、そのおかげで眠たくなったから、ちょっとここらでひと眠りー。」  
「バカー!  
 雪の中、それもこんなど真ん中で、野ざらし状態で寝てたら、凍死しちまうぞ!」  
「とーし?中のものが見えるの?」  
「ちがーう!!」  
 
これは本当にやばい。寝ぼけてる。つーか死にかけてる。  
ポニータをモンスターボールから出し背中にその女の子を乗せ、急いでロッジタウンへと向かった。  
 
「…うーん、ここは?」  
「ああ、起きたか。」  
 
ここは温かいロッジの中。女の子はベッドで寝かされていた。  
女の子が横を見ると、男の子は台所で女の子に背を向けたまま料理をしている。  
 
「こ、ここは?」  
「自分の身に何があったのか、思い出せないの?」  
「えっと…微妙に覚えてないような…」  
 
料理をしながら、背を向けたまま、男の子は今までの事を話す。  
 
「あ、あはは。ちょっと休めば大丈夫だと思ったんだけどー。」  
「荷物を少し見せてもらったんだけど、雪山を軽視してるとしか思えないね。  
 シンオウは比較的気候が穏やかな土地だからほかの場所はそれで行けたかもしれないが、  
 そんな装備じゃキッサキにたどり着く前に凍え死んでしまう。」  
「あうう…」  
「おまけにその服。  
 赤っぽいピンク色の服っつーことはおしゃれを意識してるんだろうが、そんなんじゃ持たない。  
 ていうかそもそも、下着が見える寸前くらい短いミニスカートなんて、いくらなんでも酷過ぎる。」  
「ご、ごめんなさい…」  
 
説教するような声の男の子。反省してしょげる女の子。  
だけどこの男の子は決して暗い性格ではない。  
 
「でも、よかったー!」  
「え?」  
「高熱が出てたらどうしようかと思ったよ。君が寝てからすぐに僕が君を見つけたんだろうね。  
 大事になる前に間に合ってよかったー!」  
 
自分のことのように喜んでくれた。すごく嬉しかった。  
それに引き換え、自分の計画性のない愚かさを嘆く女の子。  
 
(ぐぅ〜。)  
 
突然なる腹の虫。  
ようやく男の子が女の子の方を向いた。  
 
「ん?」  
「あ、あはは。えーと、お腹がすいちゃって…」  
「雪道でも言ってたよ。眠くなるくらいだから、相当お腹がすいてたんだね。」  
「うん…」  
 
涙目になる女の子。  
泣く程の空腹だったらしく、やれやれと男の子は思いながら、  
 
「そうおもって、ちゃんとご飯作ったよ、ほら。」  
「わあー…ありがとう、いただきまーす!」  
「クラムチャウダーって言ってな。まあシチューの様なものさ。そしてほら、付け合わせのパン。」  
「おーいしーい!」  
 
1人で旅をしてきたので、他人に料理を食べさせたことはない。  
思い返せば、最初のころの自分の料理はひどかったなと思いつつ。  
いまや人においしいと言ってもらえる自信がついていた。  
 
「ごちそーさまー!」  
(結構たくさん作ったつもりだったが、俺の分までなくなりそうだったぞ。)  
「ねえねえ、あなた名前は?どこ出身?バッジは?」  
「ああ、そう言えば自己紹介はまだだったね。僕の名前はハキ。フタバタウン出身。  
 バッジは…えーと…き、キミはいくつなの?」  
「あたし?あたしは7つ!あと1つでリーグに挑戦できるんだ!」  
 
7つ。  
この言葉を聞いた瞬間、悲壮感、悔しさ、恥ずかしさが一気にこみあげてきた。  
自分は女の子にこんなにも差が付いているのかと。  
 
「僕…まだ2つ…」  
「へえ、じゃあ、あと6つで挑戦できるんだ!」  
「プラス思考なんは嬉しいけど、今まで6回ジムめぐりして、一度で勝ったことないんだよ…  
 なんどもなんどもジムで再戦を申し込んでさ。  
 4,5回再戦してやっとバッジは2つ。ほかのジムは…結局あきらめて一度飛ばした。」  
 
彼の持っているバッジはクロガネジムのコールバッジとミオシティのマインバッジのみ。  
両方ともポッタイシと相性がよかったので何とか勝てた。4,5回戦ってであるが。  
 
「あ、あたしのポケモン見てみる?  
 出てきて、ゴウカザル!」  
「ウッキーーッ!」  
 
ゴウカザルが雄叫びを上げてボールから出てきた。  
ハキでも、その強さは一目瞭然。鍛え上げられた肉体、燃え盛る炎がそれを現していた。  
 
「ちょっと他のポケモンのモンスターボールも貸して。」  
「え?いいけど、ポケモン出せばいいんじゃ…」  
「これ以上出すと、満員になってロッジが壊れる。」  
「でも、どうやって調べるの?…ああっ!」  
「こいつだ。」  
 
ポケモン図鑑の機能。モンスターボール越しに自分のポケモンの能力を調べられる。  
 
「すっごーい!いーないーな、ポケモン図鑑!」  
「…すごい!どのポケモンも、バランスよく育てられ、しかも強い!」  
 
ハキと違い、バランスよく、しかも強く育てている。  
1体を育てることすらままならないハキにとって、うらやましく感じさせた。  
 
「ねえねえ、図鑑見せて見せて!」  
「え?ああ。  
 でも、僕が捕まえたポケモンの種類は10種類にも満たないんだ…」  
「…ふむふむ…すっごーい!このポケモンここにいたんだ!」  
 
詳しいデータは載っていないが、それでも女の子にとっては魅力的なものだった。  
そんな女の子を見て、ハキは思った。  
 
「(…俺なんかより、この子の方が図鑑を持つべきじゃないのか…?)  
 ねえ、君名前は?」  
「あ、まだ言ってなかったね。あたしはナギサシティ出身、ラナ!」  
「ラナ…ちゃん?」  
「もう、ラナでいいよ!それより今日はありがとうね!  
 それじゃあたし、いろいろ物資を調達してくるから!ハキがあれじゃだめって言ってたし!」  
「あ!」  
 
何かを思い出したような声。  
荷物を取って、ロッジを飛び出そうとするラナの足を止めた。  
 
「なになに?どしたの?」  
「い、一緒に行くよ!何を手に入れればいいか分からないだろうからさ!」  
「本当!?ありがとう、一緒にいこ!」  
「う、うん!」  
 
ハキの顔は赤くなっていた。  
彼女のそのあまりの可愛らしさに好意を持っているのかもしれない。  
 
「綺麗な景色ね…」  
「僕も、ここにきて初めて、雪というものを見たよ。」  
「ナギサもフタバも温暖だからね。」  
 
澄み切った雪の舞いふる夜空の下、仲良く歩く同い年の男女2人。  
どー見てもクリスマスのカップルのようである。  
 
「本当に今日はありがとうね。  
 いろいろ持っていくもののアドバイスくれたり…」  
「あ、うん、どういたしまして。」  
「どうしたの、顔赤いよ?」  
「そ、そうかな、あはは…っ!」  
「?  
 …ご、ゴルバットの大群!」  
 
ロッジタウンに向かって突撃するゴルバットの大群。  
サイレンが鳴り、緊急態勢に入る。ロッジに入っていたトレーナーもぽつぽつ出てきた。  
 
「何!?あれ!」  
「ときどき、人間の食べ物を求めてポケモン達がロッジタウンを襲う事があるんだ。  
 今回もその1つ。ここを利用する人間は宿泊施設を利用させてもらう代わりに、  
 ここの施設を守る義務があるんだ!行け、ポッタイシ!」  
 
ポッタイシが出てくる。ゴルバットの群れもハキの上空に到達。そのうちの1体が襲ってくる。  
 
「ハキ!」  
「あわこうげきだ!!」  
 
ポッタイシのあわが命中。だが、それにひるまず突進してくる。  
そもそも、旅に出てかなりたつのにまだ主力技があわというのには非常に問題がある。  
 
「ポ、ポッタイシ!しっかりしろ!」  
「だ、大丈夫?ポッタイシ!」  
 
つばさでうつで一撃でやられた。  
ポッタイシがボールに戻される。  
その間に、今度は大群で突進してきた。  
 
「わーっ!ラナ、何とかしてくれー!」  
「オッケー、頼むわよエレキブル!かみなり!」  
 
エレキブルの角に電気が集約され、高圧強力電流が群れにヒット。  
これはかなわぬと見たのか、群れは一斉に去っていった。  
 
「すごい…あの大群を、一撃…」  
「ありがと、エレキブル、戻って!」  
 
ボールに戻されるエレキブル。  
警報のサイレンも鳴りやんだ。  
エレキブルを見ていた周りの物は、ラナに視線が集まる。  
 
(すげえな…)  
(なんだあいつは…)  
(男の方はひどい有様だが、パートナーの女の子の方は強いぞ…)  
 
え?パートナー?  
…そうだ、僕はラナに、何かを求めていた。そうだ、ラナに求めていたのは…  
 
「ラナ、ちょっといいかな?こっち来て!」  
「え?う、うん。」  
 
思わずラナの手を引っ張り、自分のロッジまで戻ってきた。  
自分の想いに、気がついた。  
 
 
ラナをソファーに座らせる。  
ラナは驚いた表情で、目の前に立っているハキを見る。  
そんなラナを見て、ハキは両手でラナの両肩をがっちりとつかむ。  
 
「ラナちゃん!」  
「!!?  
 ど、どうしたのハキ。ていうかラナでいいって」  
「えっと、その、あの、た、頼みがあるんだっ!」  
「う、うん、わかったから。落ち着いて。  
 かなえられる願いなら何でも聞くから、ね?」  
 
それを聞いて落ち着いた。  
多分この願いなら、ラナなら聞いてくれる、そう感じた。  
 
「あの、あのさ。  
 キッサキに着くまででいいからさ…僕と、パ、パートナー組まない?」  
 
それを言うならタッグだろう。  
とはいえ、まあいいたいことは通じるからほかの言い間違いよりは比較的マシな部類に入るだろう。  
 
「僕さ、ポケモン弱くて、正直言ってここの凶暴なポケモン相手にキッサキまでたどり着ける自信なくて。  
 でも、だったらいくなって話だけど、  
 ポッタイシ達が、行こう、だらしがない、って聞かなくて…」  
 
ポケモンのせいにしている。本当に最悪のトレーナーだ。  
バッジがまだ2個だというのもうなずける。  
 
「ねえ、お願い。僕を、守って?  
 ラナちゃんに、僕を守って、欲しいんだ。」  
 
そう言ってラナに抱きつく。別に下心で抱きついたわけではない。甘えているだけ。  
しかしどー見てもこれは情けない。性別が逆ならともかく、これはどーなんだ。  
男のプライトはどこへ行った。  
いや、甘えん坊で人恋しい性格のハキに、プライドがあるとも考えにくいが。  
 
守ってほしいと頼んだ後、ラナのおなかに顔をうずめて、じっと返事を待つ。  
…女の子の腹に顔をうずめるという事自体に、相当問題があるが。  
思わずそんな事をやってしまったが、自分のやっていることに気付いたのは十数秒後。  
それまで、ラナはその行為に驚いて言葉が出ず、ハキはただただ返事を待っていた。  
 
「わわっ!ごめん、つい!  
 だ、抱きついちゃってごめん!本当にごめん!ごめん!本当に…?」  
「クスクスクス…」  
「あ、あれ?ラナちゃん?」  
「かっわいー!ハキ、すんごくかわいー!」  
「へ…?」  
 
予想外の反応。いや、この状況でもし女の子がいやがらなかった場合、そう言わざるを得ないだろう。  
かよわい男の子を見て、可愛いと思うのは、女の子なら当然である。  
 
「…むぎゅう!?」  
「かっわいー、ハキ、すっごくかわいー!きゃー!」  
 
今度はラナからハキに抱きつき、またハキの顔はラナのおなかに。  
あまりに想定がいの事態に、腕をベットを叩くような感じでばたつかせる。さらに、  
 
「んー!」  
「…!!!??」  
 
ラナがハキの脇を抱えて体を起こし、なんとキスをしてきた。  
恋愛感情じゃなくて、ただ可愛いから。ハキが可愛くて、キスをした。  
ハキは嫌がっていたわけではないが、このキスで恋愛感情は不思議と生まれなかった。  
あまりにも、ラナに親近感を持ったから。  
 
そして最後は、脇の下に腕を回して、ごく普通にぎゅっと抱きしめた。  
 
「えへへー。かわゆーい。」  
「…。」  
 
なんかもうわけがわからない。  
確かに守ってくれとは言った。だから男のプライドがどれだけ崩れ去ろうと別にいい。  
だけど…それを差し引いても…やっぱり腑に落ちない。なんでだろう。  
 
「いいよ、守ってあげる。」  
「え?」  
「ハキ、一緒に、いこ?あたし、ハキを、守ってあげたい。  
 これからは、一緒、だよ?パートナーだから!」  
「ラナ…ラナ!」  
 
ハキもギュッとラナを抱きしめる。  
その顔は、ラナに包まれているからか、どこか安心感を抱いた顔である。  
 
(あたしが、ハキを、守ってあげるからね。…ずーっと…)  
 
その夜、2人は一緒のベットで寄り添って、いや、きゅっと互いを抱きしめて眠った。  
かたや守るために。かたや甘えるために。  
性的感情や、恋愛感情ではない(後者はあるかもしれないが)、ただ、それだけのために。  
 
「しゅっぱーつ!」  
 
ラナの号令で2人がロッジタウンを出発した。なんだかんだで体力は男であるハキの方があり、  
なによりラナはバトルをこなさなければならないので、ハキの方が荷物多め。  
はぐれないように、互いの体をロープで結んでいる。  
 
「今日はどこまで進むの?」  
「えっとねえ。」  
 
キッサキまでの地図を出して、今いる場所を示す。ハキはポケモン以外の事には自信を持っている。  
ハキはキッサキまでの予定をしっかり組んでこの雪道に挑んでいた。  
 
「今日はここのロッジタウンが目標だ。今9時だから、2時ごろには着くね。」  
「たった5時間しかあるかないの?もっといけない?ほら、その先のこのロッジタウンとか。  
 ハキの言う距離の1,5倍くらい歩くだけでいいんだから、4時半には着くよ。」  
「単純計算ならね。でも、雪道は思いのほか体力を消耗する。  
 1,5倍の距離だからと言っても、消費する体力は2倍にも、3倍にもなる。」  
「でも、少しくらい遅くなったって…」  
「夜に雪道を通るのは危ないからね。  
 何事も用心に越したことはないのさ。」  
 
ラナは首をかしげる。  
とはいえ、ハキがいかに冒険通かということは昨日のハキを見てよく分かっていたので、  
何の文句も言わずにうん、と返事をした。  
 
「それじゃ、今日はそこまで!いっくぞー!」  
「ら、ラナ!あんまりスピードを上げるな!」  
「え?…あ、そっか、そっちの方が荷物重いんだった。」  
「それもあるが、あんまり飛ばし過ぎると体力がもたなくなる。  
 積雪がすごいから、どこかに座って休憩、なんてことはできないんだ。」  
 
雪をかき分けながら進むことになるので、もし腰かけてしまうと柔らかい雪に体をとられてしまう。  
おまけに、ロッジタウンは今日泊まる予定の場所まで途中には1つもない。  
つまり、ずっと歩き続けなければならない。  
 
「でもさ、あったかいねー。この服。」  
「昨日のあのミニスカートはいくらなんでも非常識だ。」  
 
ラナの服装も完全防備。  
一応ハキもおしゃれに気を使ってあげ、ピンク色の冬服を選んであげた。  
 
「なーんか、くやしーなー。ハキにばっかり守ってもらって。」  
(すこしは面目を立たせないと、男としてのプライドが…  
 いや、そんな事言う権利ないか。)  
「でも、あたしは雪山の過ごし方とかそういう事に関しては無知だし、  
 よろしく頼むよ、ハキ!」  
「うん、ラナに守ってもらえるんだ、これくらいしないとね。」  
 
よくよく考えればこのタッグは非常に理想的である。  
ここまで見事に互いの弱点を補っているタッグはそうはいないだろう。  
昨日、『ポケモンに自信がないので』と言われてタッグを申し込まれ、ラナが喜んで受け入れたのも、  
1人で『雪道冒険に自信がないので』キッサキに行ける自信がなかったからである。  
 
「ついたー!ロッジタウンとーちゃーく!」  
「ふう、今日は無事に着いたね。途中ポケモンに会わなくてよかった。」  
「そうかな?ポケモンが襲ってこないと、あたしがいる意味無いじゃない。」  
「…まあ、いいや。予定通り2時だ。とりあえずロッジの予約を取って…」  
 
さっそくロッジを1部屋予約して確保。  
荷物を置いて、今日はあとは自由時間である。  
 
「それじゃあ、6時までは自由時間!  
 何をしてもいいが、何をするかは僕にちゃんと言ってくれ。」  
「ちょっと地図見せて。ロッジタウンの外…このあたりはポケモンの草むらがあるみたいね。  
 ここちょっと行ってきたいんだけど。」  
「え?うーん、あんまりロッジタウンの外には行ってほしくないんだけど…  
 雪山はポケモン以外にも危険がいっぱいだし、単独行動で遭難されたら…」  
 
ロッジタウンの外の行動には渋るハキ。  
いかにポケモンが強くても、やはり目の届くところで行動してほしいのが本音だ。  
 
「そうは行っても、ポケモンを集めておかないと、次のジム戦…  
 それにコウキも図鑑完成させなきゃ。」  
「あ、うーん。  
 …僕には、図鑑なんてどうでもよくなってきたな。」  
「え?何か言った?」  
「い、いや、なんでもない。」  
「…どーしても、だめ?」  
「そうだな、じゃあ、ちゃんと指示通りにしてくれるなら、いいよ。」  
「やったあ、どうすればいいの?」  
「それじゃあ、ちょっと無線を買ってくるね。」  
 
ハキは指示を送る。  
荷物はモンスターボールと無線、携帯食料、カイロ以外一切持って行かないこと。  
10分おきに無線で連絡を取ること。  
体力を消耗するので、絶対に走らないこと。ポケモンを走って追いかけるのもダメ。  
指定したエリア以外では絶対に行動してはいけないこと。  
そして、3時半までに切りあげて4時にはロッジタウンに帰ってくること。  
 
「草むらまで20分ほど歩くことになるから、実質草むらにいられるのは1時間だけだけどね。」  
「うん、ありがとう。それじゃあ、行ってきまーす!」  
 
そう言って元気よく走っていった。さっそく決まりを破っている。  
大声で走るな、と注意すると、ラナは決まりを思い出してスピードを緩め歩いていった。  
 
「やれやれ。まあ、大丈夫だとは思うけど。」  
 
その後、ラナは連絡をこまめにしてきっちりと決まりを守り、4時にロッジタウンにちゃんと戻ってきた。  
そしてレストランで食事を取った後、ロッジに戻って寝た。  
 
 
そんな感じで数日が過ぎた。  
時々ポケモンが襲ってくることもあったが、ラナがそれらを一蹴。  
ポケモンバトルの時必死でラナの後ろにしがみつくハキを見て、ラナはほほ笑んだ。  
弱いハキが、好きだから。  
 
キッサキシティまでもう少し。  
今日も昼過ぎには予定のロッジタウンに到着し、自由時間。  
当然、ラナはロッジタウンのはずれの草むらに向かう。  
ちゃんと出発前にハキの指示を聞いて、  
 
「行ってきまーす!」  
「気をつけてね。ちゃんと連絡も取ってね。」  
 
ラナが見えなくなる。  
その後10分おきに連絡を取り、何事もなく時間が経過。  
そして、そろそろラナが草むらから出発するころの時間。  
…なのだが、その時間に、ラナから連絡が来なかった。  
 
「あれ?この時間になったら連絡することになってるんだけど…  
 そろそろ、向こうの草むらを出るころだよな?」  
 
だが、予定の時間を10分過ぎても連絡がない。  
連絡がないので、こっちから通信を行う。が、  
 
(ヒー…)  
「…返事が無いや、おかしいな。  
 まずい事になる前に、よし、行こう!」  
 
2人分の食料や、ロッジに備え付けられてある救出道具などを持って、重装備で出発。  
ラナの行った草むらへと大急ぎで向かう。  
なにかあったのか、不安を抱えながら、草むらに到着した。  
 
「まずい、雪が降ってきた…下手したら吹雪にあうかもしれない、急がないと…  
 ラナー!いたら返事してくれー!」  
(…。)  
「ラナー!」  
 
いくら呼んでも返事がない。  
どこへ行ったんだ、ラナは今までちゃんと言う事を聞いてくれた。  
ここに来て、身勝手な事をするはずがない。  
となれば、道に迷ったのか?うん、十分にあり得る。  
 
「ポケモン達に手伝ってもらって…いや、バラバラに行動すると危ない。  
 ラナが見つかっても今度はポッタイシとはぐれて…なんて、冗談じゃない。  
 ラナー!」  
 
いくら呼んでも見つからない。  
…そして、代わりに出てきたのは、野生の凶暴なポケモンだった。  
 
「チャー!」  
「わわっ、チャーレムだ!どどど、どーしよー!?」  
「チャー!」  
 
こっちに向かって襲ってきた。  
どうやら、先ほどの大声がまずかったらしい。  
 
「ポ、ポッタイシ頼む!あわこうげき!」  
 
ポッタイシがあわを発射。  
だが命中はするものの、やはりその程度の攻撃では何するものぞといった感じである。  
構うことなく飛びひざ蹴りを喰らわせる。  
 
「ポ、ポッタイシ!」  
 
ポッタイシがぶっ倒れる。  
どうやら戦闘不能の様子で、ハキはボールに戻す。  
…そして、今度はハキに迫ってくる。  
 
「チャー!」  
「ど、どうしよ、どうしよ…」  
 
逃げるしかないと分かっていても、恐怖で体が動かない。自分が無力だから。  
涙が流れてくる。チャーレムは容赦なく飛びひざ蹴りを仕掛けてきた。  
 
 
「た、助けて、誰か!ラナー!」  
 
 
だが、彼の女神は、彼を見捨ててはいなかった。  
 
「ゴウカザル、フレアドライブ!」  
「ウキーッ!」  
 
横からチャーレムを炎の塊が襲う。  
そして直撃、チャーレムは一撃でその場に倒れこんで、よろめきながら逃げていった。  
 
「ラ、ラナ…」  
「戻って、ゴウカザル!…。」  
「え?ど、どこ行くんだ!?」  
「こ、来ないで!」  
「え!?」  
 
正直、甘えられるものだと思っていた。  
だが、ラナはハキの前から逃げ出そうとした。  
 
「な、なんで逃げるのさ!」  
「ちゃんと戻ってくるから、お願い!」  
「だ、だめだ、これから暗くなってくるし、雪が降って来たから、これ以上ここにいるのは危ない!  
 それに、無線でなんで連絡しなかったの?」  
「…。」  
「え?」  
 
ラナが泣きはじめた。  
ハキにはその理由が分からず、問いかける。  
 
「な、なんで無線の事で泣くの?  
 もしかして、無線の連絡忘れて、僕がそれを怒っている、って思ったからとか?」  
「…違う。  
 とにかくあたしは、もう少しここに」  
「だめだ。だって、だって…」  
「危なくないから!あたしには、ポケモンが付いてる!」  
「違う、違うんだ、そんなんじゃない!」  
 
ハキは首を振った。  
雪が降って暗くなるから危ない、というのもあったが、もちろんそれが一番の理由なのだが、  
彼にはもう1つ、すぐにラナと一緒に帰らなければならない理由があった。  
 
「…怖いから。ラナに一緒にいてほしいから。  
 さっきも怖かった。ロッジタウンに1人でいる時も、寂しかった。」  
「ハキ…」  
 
ハキがよたよたとラナの元に駆け寄り、そして甘えるように抱きつく。  
ハキは泣いていた。  
 
「ねえ、僕から離れないで、ラナ…」  
「ハキ…うん、わかった。  
 じゃあハキ、1つだけ、お願い、聞いてくれる?」  
「え…えっと、何?」  
「帰ってから話さなきゃならない事があるんだけど、…怒らない?」  
「怒る?どうして?」  
「そ、それは…」  
 
ラナが口をつぐませる。  
だが、ハキはラナの予想を上回っていた。  
 
「帰ったらラナに思いっきり甘えられる、こんなに嬉しい事、ないじゃないか。  
 怒るなんて、変な事言うなあ。」  
「ハキ…  
 …かっわいー!」  
「わわっ!」  
 
涙が自然と止まり、笑顔に変わり。  
気がついたら、ハキを抱きしめていた。  
 
「無線をなくした?」  
「うん…珍しいポケモンにあって、そのポケモンが逃げたから追いかけてて、  
 …そしたら、無線をいつの間にか落してしまって。」  
 
2人は無事にロッジに帰った。  
ロッジに帰った直後に外が暗くなり、風が強くなって外は吹雪に見舞われた。  
その状況を見て危ういところだったとホッとしながら、二人はソファーに座っている。  
 
「まったく、無線をなくすのは仕方ないにしても、  
 その原因が、体力を消費する全力疾走、しかもその目的はポケモンを追うため。  
 規約違反オンパレードだね、ははは。」  
「ごめんなさい…きゃっ!?」  
「だーかーらーさ、謝らない!  
 こうやって甘えられて、僕はとっても幸せなんだからさ!」  
 
自分の行動を悔いていたが、  
抱きつくハキの、そんな無邪気な笑顔を見て、少しは心が軽くなった。  
 
「僕も言っておくべきだったね、無線が故障するかもしれないって事念頭に置いてなかった。  
 無線が使えなくなるとかで連絡が取れなくなった場合は、  
 直ちにポケモン探しを中止して、ロッジに帰ることって、言えばよかったね。」  
「でね、無線を探してたの、ずっと。  
 本当はハキの呼んでる声は聞こえてたんだけど、隠れてたの。  
 …無線が見つかるまで、ハキには会いたくなかったから。」  
「それは…やっぱり、僕に怒られると思ったから?」  
「それもある、だけど、本当の理由はそんなんじゃない。」  
 
本当の理由、ハキは聞いてみたくなった。  
 
「えっと、どうして?」  
「…ハキが、一番最初にあたしにくれた、プレゼント。  
 あたしの大切な、宝物だから、それをなくした状態で、ハキには会えない。」  
「そっか…  
 プレゼント、ってつもりであげたわけじゃないんだけど、  
 そう思ってくれてたのなら、無理やりロッジに帰らせた僕が、馬鹿だったかな…」  
「そ、そんなことないよ!  
 外、猛吹雪だし、ハキがあたしに帰ろうと言ってくれなかったら、今頃…  
 今頃…無線、大丈夫かな…」  
 
しょんぼりしている。  
どうやら、無線をなくしたことが、相当ショックだったらしい。  
 
「うん、じゃあ明日、探しに行こう、ね?」  
「あ、ありがと…」  
「それじゃ、ご飯作るから、待ってて!」  
「うん!」  
 
こうして今日の夜も、無事に過ぎていった。  
今日もベッドの中でくっついて寝る二人、やはり一緒に寝ると温かい。  
 
「ねえ、唐突に聞くんだけど。」  
「何?ハキ。」  
「ラナってさ、なんか息苦しそうにしてない?  
 普段から呼吸がちょっと荒くってさ、スタミナの減りも微妙に早いような…」  
「あ、あはは、あたし体力ないから…」  
「?」  
 
反応がおかしい、が、あんまり女の子に強く追求するのもまずい。  
膨らむ疑問を無理やり押さえつけるように、ラナをきゅうっと抱いた。  
 
「ん!」  
「ど、どしたの?つ、強く抱きすぎたかな!?」  
「あ、あはは…だ、大丈夫大丈夫。」  
 
「その機械は?」  
「電波の逆探知を行うための機械さ。  
 僕のこの無線でラナの無線に通信をかける。…よし。」  
(ヒー…)  
 
緩やかな風の音が聞こえてくる。  
すなわち、無線は壊れてはいない。  
 
「よし、あとは、この逆探知機で…こっちの方向か!」  
「も、もうわかったの!?すごい!」  
 
逆探知機の指す方向に歩いていく。  
だんだん反応が強くなってきて、そして…  
 
「この下か!よし、掘り起こしてみよう…」  
「あ、あった、すごーい!ありがとう!」  
「えー、こちらハキ。」  
(えー、こちらハキ。)  
 
無線も鮮明な声でハキの声を繰り返す。  
間違いなくラナのもの。そして無線は壊れていない、しっかりと無事だった。  
 
 
2人は再び先へと進んでいる。  
 
「もうなくすなよ。  
 だけど、一番大事なのは、無線じゃなくて、命。これも忘れちゃだめだからね。」  
「うん。とにかく何かあった場合はまずハキのもとに戻る、だね!」  
「…まあ、ポケモンバトルがダメな以上、僕の方に何か起こりそうな確率が高いんだけど。」  
 
ハキは少し不安だった。  
もうすぐキッサキに着く、そうなれば、言ったことをそのまま守ることになったら、  
…キッサキに着いたら、ラナとお別れ。  
そう思うと、歩を進めるスピードが自然と緩んでしまった。  
 
「どうしたのハキ、疲れた?」  
「え?ううん、なんでもないよ。」  
 
…ずっと一緒にいたいな、そう思っていた。  
 
…そして、数日後、無事にキッサキシティについた。  
はあ、とため息をつく。  
 
「あーあ、着いちゃったか…」  
「…どうしたの?ここ数日、なんか様子が変だよ?  
 昨日なんか特に、すんごくあたしに甘えてきたし…」  
「えっと、あのさ、  
 一応僕たちがタッグを組むのは、キッサキまでだったよね、でも…」  
 
ハキは期待していた。  
ラナが、これからもずっと一緒にいてくれるという事を。  
だが、ハキは1つ大きな勘違いをしていた。  
 
ラナは、ハキと行動するのはキッサキまで、という事を完全に忘れていた。  
ハキとこれからもずっと行動するという風に思いこんでいた。  
というより、ハキとはずっと一緒にいた仲間のように思っていた故、  
一緒にいることが無意識に当たり前だと、体が覚えこんでいた。  
 
だから、タッグを組むのはキッサキまで、という事を覚えててしまっていたハキに、ショックを受けていた。  
 
「あ…そ、そうだったよね!あたし、ハキに迷惑ばかりかけてさ!」  
「え?い、いや、そうじゃなくて、これからも一緒に」  
 
ラナはこみあげてきそうな涙を抑えるのに必死だった。  
怖くて、信じられなくて、ショックで、悲しくて。ハキの言ってる事が聞こえなかった。  
いや、何かを言おうとしていることに、気付かなかった。  
 
「うん、ごめんね、あたしのために、迷惑だったのに、いろいろやってくれて!  
 じゃあね、ありがと、ハキ!」  
「ラ、ラナ!?」  
 
泣きそうになるのを何とかこらえ、無理やり笑顔を作って、ラナがハキの前から去っていく。  
その姿にハキもまたショックを受け、途方に暮れて、  
 
…引き留めようとすることすら、できなかった。  
 

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