「……」  
 
雪が積もり、樹氷ばかりの森の中で、一匹のピカチュウが雪の舞う空を仰いでいた。  
 
「…これが…一番だよね…」  
 
誰に言うでもなく紡がれた声は、風に掻き消える。  
一度辛そうな表情をした後、振り払うように首を左右に振り、別の場所に待機している仲間の元へと歩いていった。  
 
 
 
――――――  
 
 
 
「お帰り、ピカチュウ!なかなか帰ってこないから、捕まったんじゃないかって心配してたんだよ?」  
 
「ただいま、ヒトカゲ。心配かけてごめん」  
 
笑顔で迎えてくれたヒトカゲに、苦笑してピカチュウは詫びる。  
 
そしてヒトカゲの後ろにいる、アブソルへと視線を向けた。  
 
「……なんだ」  
 
視線に気付いたアブソルが、怪訝そうにピカチュウを見返す。  
鋭い瞳で睨まれ、一度小さく身を震わせたものの、ピカチュウはふわりと微笑んだ。  
 
「ちょっと話したいことがあるんだ。ついてきてもらってもいいかな?」  
 
「ここで話せばいいだろう」  
 
「……」  
 
両耳を下げてヒトカゲを見、再びアブソルへと視線を戻す。  
 
「ヒトカゲには聞かれたくないんだ。だから、お願い」  
 
「え?」  
 
驚きの声を上げたのはヒトカゲ。  
その反応にピカチュウはごめん。と一言だけ告げる。  
一方、アブソルは己のパートナーである者には言えない…ということに怪しさを感じたらしく、尚もピカチュウを睨む。  
 
「…変に思ったかもしれないけど、大事な話なんだ」  
 
「ならば何故その者に聞かれたくないのだ」  
 
「…その理由もちゃんと話す。だから、お願い」  
 
「……いいだろう」  
 
アブソルが了承したことにホッと胸を撫で下ろし、もう一度ヒトカゲに“ごめん”と告げて、二匹は樹氷の森へと入っていった。  
 
「…遅いなぁ…」  
 
尾の炎が消えぬようにしつつも、ガルーラの像の隣へ座りヒトカゲが呟く。  
―――と言っても、二匹が入っていってからまだ五分ほどしか経っていない。  
それでもヒトカゲには長い時が経ったように思えていた。  
 
「一体何の話してるんだろう」  
 
パートナーである自分には話せないということが、何よりヒトカゲの胸に引っかかっていた。  
その頭には、嫌な想像ばかりが浮かんでくる。  
 
フリーザーに襲われそうになった自分達を助けてくれた。  
そんな彼に心ときめいたのではないだろうか。  
その想いを伝えようとしているのではないか――  
 
「ん?」  
 
何か聞こえた気がして、ヒトカゲは耳を澄ませた。  
 
「……」  
 
『…いたか!?』  
『いや、いない。でもこの近くにいるはずだ!探すぞ!』  
『『『おう!!』』』  
 
「まずい!もう追いついてきたんだ!早くふたりに伝えないと…」  
 
そう小声で言って立ち上がり、そこで一度動きを止めた。  
 
「…非常事態だし、仕方ないよね」  
 
言い訳を呟いて、彼は樹氷の森の奥へと入っていった。  
 

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