ゆっくりと射し始めた朝の光に包まれながら、リオルの丹念な後戯はまだ続いていた。  
小さくちろちろと舌を出して、逆立ってしまったヒコザルの毛並みを繕っていく。  
ひとしきりリオルが満足したところで、ヒコザルはずっと気になっていたことを聞いてみることにした。  
「ねえ、リオルはさ、最初はマスターのこと悪い感じはしなかったって言ったよね。  
マスターの心の色はいい色だったって」  
「うん。そうだね。今は印象最悪だけどね」  
そりゃそーだ。  
「じゃあさ、なんであんなに…ゲットされるのに抵抗したの?何がそんなにイヤだったの?」  
「……」  
まるで昨日の夜に戻ってしまったかのように、押し黙ってしまったリオル。  
(まずいこと聞いちゃったかな…)  
しかしその目を見ると、決して心を閉ざしているわけではなく、瞳の奥が揺らいでいるのがわかった。  
リオルは…話をしようか、迷ってる。  
耐えがたい沈黙の時が流れ、そしてついにリオルは重い口を開いた。  
「妹が…、いるんだ」  
「妹…?」  
「うん。ずっと一緒に暮らしてた。でも…。ある日突然…いなくなったんだ。  
多分、いや、きっとニンゲンにゲットされちゃったに違いないんだ。  
ボクは…探さなきゃいけない。妹を。  
だから…今ニンゲンにつかまってる場合じゃあ…ないんだ…けど…」  
(そうだったんだ…)  
リオルにはどうしても果たさなくちゃいけない目的があったんだ。  
――リオルってポケモンはタマゴからオスが生まれやすい――  
あのマスターの言葉からすれば、妹…メスのリオルは、とても大切な、  
種族全体にとって貴重な存在だったに違いないのだ。  
 
しかしもう、リオルは捕まってしまった。  
今ではマスターのポケモンだ。  
(どうすればいいんだろう…)  
悩むヒコザル。しかしリオルはその悩みをずっと抱えていたはずなのだ。  
最初から。そう、マスターやザングースに犯されているその瞬間も…。  
改めてその精神力の強靭さには脱帽だった。  
 
「リオル…」  
これはリオルにとっては辛い決断かもしれない。  
でも、ヒコザルは先にマスターのポケモンになってしまった経験から、  
マスターにはどう足掻いても逆らえないということを、骨身に染みて知っている。  
だから、こう助言せずにはいられなかった。  
「リオル…。それ、マスターに言うべきだよ。じゃないと…リオルだけじゃあどうしようも…」  
「冗談!あんなニンゲン!」  
その瞬間、リオルの目つきがきっと厳しいものに変わる。  
「ゲットされちゃって、でも波紋の色は少しだけ信用できそうだったし、最初はちょっと話してみようかと思ったよ!  
でもさ、夜になったら突然…!なんだよ!自分の性欲を満たすためだけにボクの体をいいようにして…!  
サイテーだ!やっぱりニンゲンなんて…。ヘンタイばっかりなんだ!チンチン入れることしか考えてないんだ!」  
その後に続く人間に対する罵詈雑言の嵐。  
出るわ出るわ…。昨日溜めていた分をいっぺんに吐き出している。  
でも、今まさに妹がニンゲンの毒牙にかけられているかもしれないリオルにとっては、これが正直なところなんだろう。  
(マスターってば、最悪なタイミングでリオルのこと犯しちゃったんだ…)  
普段から計算高いマスターにしては、信じられないようなミスだ。  
やはり自分の思い通りにリオルをゲットできなかった苛立ちや焦りがあったんだろう…とヒコザルは感じた。  
 
それでも!とヒコザルはまだ退く気持ちにはならなかった。  
正直、マスターは信用できないかもしれない。  
リオルに妹がいると聞いたら、嬉々として「じゃあ兄妹丼を…」とか言い出しかねないかもしれない。  
でも、もしマスターが昼間の、純粋な心のままリオルの境遇を聞いてくれるなら…  
探すのを手伝ってくれるかもしれない。  
「マスターは…、もうリオルのマスターなんだ。あの人は、夜はああだけど、  
自分のポケモンのためなら…優しくしてくれる…ニンゲンだよ」  
リオルの心の葛藤を分かった上で、それでも必死に説得を続けるヒコザルに、  
リオルも少しづつ意固地になった心を溶かし始めたようだった。  
「おいらが、一緒にいるから。リオルのためなら、頑張るから!」  
「ヒコザルが…そこまで、どうしてもって言うなら…」  
「うんっ!」  
ついにしぶしぶながらも首を縦に振ったリオル。  
すっかり昇った太陽の光に包まれながら、ヒコザルはその手を引いて寝床へと戻っていった。  
一抹の不安を抱えながら…。  
(神様!どうか…マスターがリオルの話を聞いて、「兄妹丼」とか言い出しませんようにっ!!)  
 
「なんだ、仲良く顔でも洗いに行ってたのか?」  
すでに起きていて、ごはんの支度をしていたマスターが出迎える。  
と、その姿を見るなり、リオルはすすっとヒコザルの後ろへ身を隠してしまった。  
(そーとー嫌われてる。なつき度ゼロ…)  
マスターはといえば、そんなリオルの様子をまるで気にしてないかのように、ごはんをすすめてくる。  
いつもポケモンフーズだけだと面白くないだろうと、少しだけ自分のごはんも食べさせてくれるんだ。  
(こういうところ、優しいんだよね)  
しかも、意外とおいしいし。  
「マスター、今日のごはん…何?」  
「んー。親子丼」  
ぶっ!  
(あーニアミス…)  
聞かなきゃよかった…と思いつつリオルを見ると、  
ちょっとだけ盛られた親子丼にも、ポケモンフーズにも手を出さず、顔を強張らせてうつむき加減で座っていた。  
「どうしたリオル。具合でも悪いのか?」  
よくもまあ、いけしゃあしゃあと…。  
自分で昨日あれだけのことをしといて、どうしたらこんなセリフが出てくるんだと思うけど。  
本当に悪気も何もなく聞いてるように見えるところが、ある意味マスターのすごいところだ。  
と、リオルの手が一瞬、ぴとっとマスターの手の甲に触れ、また元に戻った。  
「?」  
怪訝な顔をするマスター。  
マスターには分からなかったみたいだけど、ヒコザルにはその行動の意味が理解できた。  
波紋を…確認したんだ。  
そしてリオルは、ぽつり、ぽつりと己の境遇をマスターに語り始めた。  
 
「妹…ね。心当たりなら…ある」  
『ほんとっ!?』  
ヒコザルとリオルの言葉が唱和する。  
思ってもない言葉だった。  
もしかしたら、ほんとにあっという間にリオルの心配が解決してしまうかもしれない。  
(やっぱりマスターに言ってみて良かった)  
ヒコザルは小躍りしたいくらいの気分だった。  
…が、その後に続くマスターの言葉は冷たかった。  
「で、妹を取り戻したとして、お前はどうするんだ?」  
「それは…その…」  
考えてなかったわけではないだろう。しかし、マスターの問い掛けは鋭い。  
優しいマスターがリオル兄妹のことを考えて、一緒に暮らせるように放してあげました…  
なんてお伽噺のような展開になるわけはないのだ。  
「俺はなリオル、お前の覚悟を聞いてるんだ。お前の妹を俺が知っていたとして、  
ほいっと簡単に連れ戻してこれるわけではないことはお前にも分かるだろ?  
それに対して、お前は何ができる?全てを捨てても妹を助ける…その覚悟があるのか?」  
マスターの言うことは…正しい。  
まるで駄々っ子を諭すように、淡々とした口調でリオルを誘導していく。  
いつの間にか…マスターのペースに乗せられていた…。  
 
「…妹が…、自由にさえなれば、幸せになれば、ボクは…一生あんたのポケモンとして…」  
「そんなのは当たり前だ」  
切り捨てるように響くマスターの言葉。  
はっと顔を上げたリオルの目を正面から見据えて言葉を続ける。  
「お前を捕まえるのに使ったあのボール。どれだけ貴重なものだと思っている。  
そんじょそこらで売ってるようなものじゃないんだ。…逃がすわけないだろ」  
(一体マスターはリオルに何を求めているんだろう…)  
リオルは自分の身をすべて投げ出している。妹を助けるために。  
これ以上何を差し出せというのか。  
「“波紋の契り”だな」  
「っ!」  
マスターの言葉に、リオルの顔色が変わる。  
ヒコザルがはじめて聞く言葉だ。  
「どうして…それを…」  
「お前は、俺が何も知らないとでも思ってるのか?リオル。  
何でも知っているぞ。疑似性交のことだけじゃない。お前が波紋を使い、心の色を感じ取ることも、  
主従関係を重視する種族であることも。  
そして、真に気に入った相手に対して波紋を使って契りを交わし、強固な主従関係を結ぶこともだ」  
「ほんとなの…リオル?」  
「……」  
じっと押し黙って下を見るリオルの表情が、マスターの言葉を肯定していた。  
 
「ほんとに…妹を見つけ出して、助けてくれるの?」  
「お前にその気があればな」  
キリ…とリオルのまだ小さな犬歯が歯ぎしりの音をたてた。  
(やめた方がいい…)  
ヒコザルの本能が、警鐘を激しく打ち鳴らしている。  
自分のせいで結局リオルをより深く苦しめることになってしまった。  
しかし、事はすでに、ヒコザルが口を挟むことのできる問題ではなくなっていた。  
でも、“波紋の契り”と聞いて、さっきの、リオルとの行為が思い浮かぶ。  
(これだけは、確かめておかないと…)  
「ねえリオル。その、“波紋の契り”って、実際に、どう…するの?」  
恐る恐る質問すると、リオルはまるで何かを読み上げるように滔々と言葉を紡ぎだした。  
「“波紋の契り”を行うもの同士は、互いの間に全く物体を介さない状態で肌を接し、  
主とするものの体の一部を従とするものの内部へと導き入れた状態で心を解放し、波紋を通わす…」  
「ほう…」  
さすがにそこまでは知らなかったのか、マスターが興味深げに嘆息し、そしてその内容に思わず笑みをこぼす。  
(それって…、単にハダカで抱き合ってエッチするってことじゃん…)  
そして…  
(その定義によりますと…。おいらリオルの従者になっちゃわない…?  
さっき思いっきりチンチン入れられて波紋通わされちゃったんですけどー)  
じとっと不安そうに見つめるこっちの視線を感じたのか、  
リオルは「安心して」というように手を握って波紋を送り込んできた。  
「人間としか効果はないんだな?」  
「うん」  
心の底からほっとした。  
 
「念のため…解消する方法も聞いておこうか」  
「解消する気ないんでしょ?必要ないよ」  
「あるさ」  
マスターとリオル。  
互いの間に、突然パチッ…と視線の火花が散ったのが感じられた。  
(そうか、マスターは、リオルの妹のことを言ってるんだ。妹が別な人間と契りを交わしてた場合は、  
それを解消する必要があると。でも、リオルは妹に限ってそんなことはあり得ないと…)  
「言え。命令だ」  
「妹を…馬鹿にしてるの?」  
リオルの瞳の温度がすっと下がる。  
(うわ、ケンカになりそう…)  
一触即発の雰囲気だったけど、隣においらがいたせいか、リオルは数瞬の沈黙の後折れてくれた。  
「…わかったよ。解消の方法は…、別な人間と契りを交わせば…いいんだ」  
「嘘だな」  
眉ひとつ動かさずに断言するマスター。再びリオルとの間に険悪な空気が色濃く立ち込める。  
「いや、嘘と言うより、それだけではないと言うべきか。  
でなければ、次から次に、主が代わるだけで自由になれないということになる」  
「……」  
マスターの言うことはもっともだ。リオルはまだ何かを隠している。  
(まるで化かしあいだ…)  
会話についていくだけで、ぐったりとしてくる。  
そしてついに、マスターがリオルの心の奥底に、王手をかけた…。  
「言いたくないなら言ってやろう。お前の迷い様を見れば容易に推察できる。  
“別なリオルと契りを結んだ”人間との契りが必要なんだろう。違うか?」  
泣きそうな顔でひきつるリオルの表情が、その言葉の正しさを証明していた。  
 
残酷な――定めだった。  
(それって…、もし、もしリオルの妹が別な人間と契りを結んでいたとしたら、  
リオルと契りを結んだマスターによって犯されることが、唯一の助ける手段となるってこと?)  
兄妹丼……もう、冗談では済まなくなっていた。  
「だからって!!まだ、決まったわけじゃない!!」  
目に涙を溜め、握ったこぶしをわなわなと震わせ…  
リオルの口調は悲鳴に近いものになっていた。  
あの強靭なリオルの精神が…崩れていく…。  
ささくれ立ってしまったその心は、容易にマスターの侵入を許していく。  
「――妹が契りなんか結んでるはずがない。だから解消する必要なんかあるわけない――か?」  
「そうだ!」  
「だから、今、お前と俺が契りを結んでおく必要なんかない――と」  
「当たり前だろ!妹が、無事なのが分かってからだ!それまで契りなんか!」  
リオルの言うことは分かる。  
マスターの言葉だけを信用して、確約もなしに契りなんて結べるわけがない。  
だけど…。  
マスターの言葉はゆっくりとリオルを絡め取っていく。  
蔓のようにきつく、イバラのようにその心を突き刺しながら…。  
「お前は妹を苦しめたいのか?」  
「それって、どういう…こと?」  
「お前の言うとおり、妹が契りを交わしてなければ問題はない。しかし…、万が一だ。  
契りを交わしていたらどうする?無理矢理奪って連れて来た挙句、妹はお前と会い、  
自由になるためにお前が犠牲になることを知ったら…。  
苦しむだろうなぁ〜。いや、万が一の話だがな」  
「……っ!!」  
(鬼だ…)  
今リオルがマスターに触れたならば、きっと心の色が急速に濁っていく瞬間を感じたに違いなかった。  
 
「俺は優しいからな。お前とちゃんと“波紋の契り”を交した上で妹と会ったなら、  
心を交わしあったお前の主人として、妹を助けにきた――そう思わせてやるぞ。  
それが兄としての、優しさってもんじゃないのか?」  
「兄としての…優しさ…」  
リオルはうつむき、膝の上でぎゅっと両こぶしを握りしめている。  
その顔からは血の気が引いてしまっている。  
(ダメだっ!リオル、ダメだよ!)  
今にも崩れ落ちそうなリオルを見て、ヒコザルは心の中で悲鳴を上げる。  
第一…ほんとにマスターはリオルの妹を知ってるの?  
『リオルの“不屈の心”が折れる瞬間を見たい』マスターは昨日確かにそう言っていた。  
すべてわざとじゃないのか?計算してのことではないのか?  
昨日ゲットしてすぐ無理矢理に犯し、散々嫌われたのも、単なる迂闊ではなかったのではないか。  
大嫌いな相手に、今度は進んで抱かれ、心を通わせなくてはならないという責め苦を負わせたいがためでは…?  
そう考えると、“波紋の契り”の内容までは知らなかったようにしてたのだって、演技かもしれない。  
――穿ちすぎ。  
そうかもしれない。しかし、マスターに限っては…そうでないかもしれないのだ。  
それをヒコザルは知っている。身に染みている。  
「マスター…」  
「お前は黙っていろ。これは俺と、リオルの問題だ」  
反論しようにも、リオルを思いとどまらせようにも、ヒコザルの考えは全て推論でしかない。  
マスターに一喝されると、すぐにしおしおと気持ちが萎えてしまった。  
そして、その場を沈黙が支配した。  
 
長い、永遠に続くかとも思える長い静寂。  
机の下でそっとリオルが手を握ってきた。  
そして伝えてきたのは…さっきと同じ、決意のこもった凛とした青色。  
(ああ…そうなんだね…)  
そっとその口が開き、ぼそ…ぼそ…と言葉を紡ぎだした。  
「……わかったよ。ボク、あんたと…“波紋の契り”をする」  
「そうか。じゃあ、今夜だな。それまで少し休んでいろ。回復しておいてやる」  
そう言うとマスターはリオルのモンスターボールを取り出し、中へとおさめる。  
そしてそのままくるりと背を向け…  
くくっ…  
(笑い…声?)  
「ヒコザル」  
肩越しに呼びかけるマスター。後ろを向いていて、その表情は分からない。  
「なに?」  
「……よくやった」  
「っ!!?」  
(どういう…意味なの…?)  
ぽんぽんと手の中でボールを躍らせながらマスターは背を向けたたまま歩き去っていく。  
自分の選択はこれでよかったのか。  
いや、これは本当に自分の選択だったのか。  
あのモンスターボールのように、全てはマスターの手の中で踊っていただけなのではないのか。  
ヒコザルはただ煩悶していた。  
 
「なんで…ヒコザルがいるの?」  
夜になってボールから出されたリオルは、その場にマスターだけでなく、  
ヒコザルも待機していたことが意外だったのか、2つの顔を交互に見つめる。  
(それはおいらが聞きたいよ…)  
マスターがリオルと“波紋の契り”を行う。  
そこになぜ自分までボールから出されたのか。意味が分からない。  
「なんだ、イヤだったか?」  
「あ、当たり前だろ!ボクと契りをするんでしょ?なんでヒコザルが…!」  
「気にするな」  
「気にするってば!」  
反抗的な口調で抵抗するリオルの言葉を軽く受け流すマスター。  
「大好きなヒコザルに手伝ってもらったほうが、落ち着くだろ?」  
「っ!」  
意味ありげなマスターの言葉に思わずリオルと目を合わせる。  
(もしかして、おいら達がエッチしたの知ってるんじゃぁ…!?)  
その様子を見て、マスターの口許がにぃっと歪んだ。  
「ふん。波紋を交わしたもの同士、仲良く犯されろよ」  
(やっぱり…)  
もう逆らっても無理なのは分かっていた。  
わざと深い仲にさせておいて、目の前で相手が犯されるのを見せて反応を愉しむ。  
マスターの常套手段だ。  
「ヒコザル。リオルを気持ちよくしてやれ」  
「はい…」  
そう言ってゆっくりと服を脱ぎ始めたマスターの目の前で、  
無言のままのリオルをそっと抱き寄せると、唇を重ねた。  
 
(リオル…)  
ちゅくっ…ぺろ…くにゅ…  
舌を突き込むと、さっきよりも少しぎこちなく、リオルも舌を絡めてきた。  
一度完全に心を交わしあったもの同士、マスターに見られながらではあるものの、  
リオルの体は昨晩とは違い、ヒコザルの愛撫に素直に反応する。  
ぺろっ…ぺろっ…  
「くっ…くぅんっ…ふぅぅっ…!」  
ヒコザルはゆっくりとリオルの首筋を舐め、ぴんと張った耳を撫で上げ…  
時間を十分にかけながら、体をほぐしていく。  
しかしリオルはと言えば、自分からは全く手を出してこない。  
愛撫を全くしてこないリオルの気持ちは理解できた。  
リオルにとってあくまでもこれは儀式なのだ。決して喜んでニンゲンに犯されるわけではない。  
ここでヒコザルを自ら愛撫してしまえば、それは儀式ではなく、自ら望んだ性的な営みへと堕ちてしまうことになる。  
体は快感に囚われようとも、心まで犯されはしない。  
小さく突き出た両方の乳首をゆっくりと撫でられ、つつーっと舌で縦断され…  
はぁっ、はぁっとヒコザルの愛撫に悶えて顔を上気させ、荒い息をつきながらも  
リオルの波紋は揺るがない。  
(すごい。これが“不屈の心”…まるでそびえ立つ青い壁みたいだ)  
肌を合わせ、僅かに漏れ出るリオルの波紋を感じているヒコザルにはその心が痛いほど伝わってきた。  
(でも…でも…)  
ヒコザルの方はそうもいかない。  
「くむっ、んっ、ん…!」  
心地よいリオルの体。全身を愛撫していると、今朝の行為を体が思い出し、自然と反応してしまう。  
再びゆっくりとお互いの口腔内を犯しながら、  
ひくっ、ひくっと元気に立ち上がり始めたヒコザルのオチンチンがちょうどリオルのそこと触れ合い、  
先端同士が擦れあい、徐々にお互いの興奮を高め、起き上がらせていく。  
長い接吻の果てに、唾液を引いてお互いの唇が離れる頃には、その先端同士も淫猥な液を滴らせ、糸を引いていた。  
 
「なかなかいい顔をするじゃないか」  
「あ…くぅっ…!」  
裸になったマスターが、リオルを後ろからぐっと抱きよせる。  
そのまま股の間に同じ向きに座らせると、早くも大きく隆起したマスターの股間が、  
リオルのオシリの間を越え、小さく勃起したオチンチンを袋ごと支えるように持ち上げる。  
「ヒコザル、休むなよ。舐めてやれ」  
突然腕の中から消えてしまったぬくもりに軽い喪失感を味わっていると、  
マスターがすっとリオルの股間を指さす。  
ふらふらとそこに口を近づけ、一息にはむっとくわえ込んだ。  
「ふあっ!」  
びくんっとリオルの体が反応し、舌の動きに合わせてヒクヒクと痙攣する。  
すぐ下にマスターの肉棒がある…。  
期待に膨らむその先端を両手で握りこんで支えにすると、いつにも増して硬くなっているのが感じられた。  
こんなにおっきいのが…入るの…?  
ヒコザルの腕と比べても遜色ない太さ。  
いつも自分の中に受け入れてはいるけれど、こうして目の前でリオルの可愛らしいオチンチンと並んでいると、  
いやでもその凶悪さが際立つ。  
リオルのオシリは昨日散々ザングースに犯され、マスターにも少しだけ犯されていたけれど、  
その時だってすごくきつそうで、ほんの少しだけ先端が入っていただけだった。  
(少しでも…リオルの体をほぐしてあげなくっちゃ。痛くないように…)  
ヒコザルは己の経験の全てを振り絞って、リオルの体を優しく愛撫し、  
性器を刺激し、そして器用な指を駆使して孔をほぐしていく。  
「んんっ…!ヒコザル…気持ち…いいよぉ…」  
献身的とも言えるその性技を一身に受け、リオルは次第に心も、体も溶かされていった。  
 
「ほう…。これが波紋で感じる色というやつか。感じるぞ…昨日と違って。  
どう足掻いても性的快感を覚えている状態で、心を閉ざしきるなんてできるはずがない」  
マスターの言うとおりだった。  
いかにリオルの“不屈の心”と言えど、絶頂に達しようというのに心を閉ざしたままにはできない。  
ましてや“波紋の契り”をするためには、心を解放し、波紋を互いに通わせる必要があるのだから…。  
朝と同じように、自分の中でリオルの色と自分の色が混じり合い、心地よく溶けていくのを感じる。  
ヒコザルとマスター、両方の色が侵入してきているはずのリオルの中では、  
そしてマスターの中では、一体どんな心の色が生まれていることだろう。  
「はぁっ、はぁぁっ…!」  
ビクン、ビクンとリオルの体が快感に震える。  
「気持ちいいんだな?よく分かるぞ。お前も心を開いてると流れ込んできているんだろ?  
俺と、ヒコザルの性的興奮も、快感も。3人分の快楽を受けて、それでも“不屈の心”で耐えられるのかな?」  
オチンチンを咥えたまま上を見ると、リオルの目は霞み、ぼうっと中空を見つめている。  
限界なのだ。  
口の中で剥き上がった亀頭の粘膜の先端からも、今にも崩壊しそうなリオルの心が伝わってくる。  
体をしっかり密着させているマスターも、もちろんそれを感じているのだろう。  
リオルの耳元でしきりに肌越しに伝わってくる快感を囁き、辱めて愉しんでいる。  
そしてついに…  
「さて、挿れてやるか」  
ず…ぐぐっ…にゅるぅっ…!  
「ひっ!あううう…、は…あ…あ…」  
十分にほぐされたリオルの孔に向かって、マスターが侵入を開始した。  
 
「んぐぅっ!!あああっ!ふ、ふと…いぃ…硬、いよぉ〜」  
(すごい…)  
びくんっ!びくんっ!  
リオルの大事なところを口に含んだままのヒコザルには、全ての感触が、感覚が伝わってくる。  
心を解放した状態でニンゲンのペニスを挿入され、その心の快感を奥底で受け取り、  
己自身の体も2人がかりで刺激されて、かつて味わったこともない凌辱感に包まれる。  
いくら“不屈の心”を持つリオルと言えども…  
それまで辛うじて青い壁を維持していたリオルの波紋がひび割れ、崩壊していく。  
「ボク、ボク、もうダメになっちゃうよぉ〜!」  
目の前でリオルが壊れていく…。  
幼い体に耐えきれないほどの快感を浴びせられ、ついに痙攣を始めてしまった。  
「こら、休むなヒコザル」  
「ひゃうっ…!」  
思わずオチンチンから口を離してしまったヒコザルをたしなめるように、  
マスターが指をずんっとオシリにつき込んでくる。  
慌てて口撫を再開した時には、リオルの心の壁は跡形もなく消滅していく瞬間だった…。  
「ほら、リオル、受け取れ」  
「あ…ああ…ん!」  
ずっ…ずぷっ…じゅぷっ…  
マスターの肉棒がリオルを傷つけてしまわないようにゆっくりと前後すると、  
どくんっ、どくんっとその内部に欲望に満ちた液を吐き出す。  
そしてそれに共鳴するように、リオルもヒコザルの口の中で果ててしまった。  
 
その瞬間、リオルを中心にマスターが、そして自分の体までもが薄い白色の燐光に包まれるのを、ヒコザルは確かに見た。  
くわん……  
空間が歪むような音。  
ふ…と意識が緩み、白昼夢にとらわれる。  
 
マスターの目の前にリオルが片膝をついて黙礼をしている…。その隣でヒコザルも自然と片膝をついていた。  
リオルの左手は自らの胸の上に、そしてすっと伸びた右腕はマスターの手をとり…  
これは、臣下の礼だ。  
「ボクの運命は貴方と共に。貴方の道はボクと共に――」  
詠うような調子でリオルの口から流れ出る誓いの言葉。  
(これが…波紋の契り…)  
そして――次の瞬間。  
己の意志と関わりなく、自然とヒコザルの体が動き出す。  
片膝をついたまま左手を胸に、右手はマスターの手をとり…  
(え?え?ちょっと、待ってよ!なにこれ?意味わかんないし!)  
ヒコザルの動揺をよそに、儀式はよどみなく執り行われていく。  
「おいらの運命は貴方と共に。貴方の道はおいらと共に――」  
口から勝手に誓いの言葉が流れ出た。  
“波紋の契り”は完了した。  
 
「ふっ…、くっくっく。これは…面白いことになった」  
力を使い果たしたのか、リオルはぐったりとマスターにしなだれかかっている。  
愕然とするヒコザルの耳に、望外の喜びに興奮したマスターの笑い声が響いた。  
「契りの瞬間、お前にも俺の体の一部である指を入れていた影響か。  
まさかこんなことになってくれるとはな。さすがにこれは、想定外ってやつだな」  
絶望的だ……。  
あまりのショックに、目の焦点が合わない。  
いったいこのニンゲンは…どこまで自分を苦しめれば気が済むんだ。  
「まあ、こっちにこいよ。ヒコザル」  
何気ないマスターの声に今まで以上の強制力を感じながら、ヒコザルはふらふらと歩み寄り、  
リオルと一緒に、マスターの胸の中に抱きよせられていった…。  
 
 
〜続く〜  
 
 

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