「えー!?分からないって!」  
「ゴメン…」  
もうほんとに不本意としか言いようがない。  
リオルとマスターの“波紋の契り”の儀式に巻き込まれ、  
結果的にヒコザルまでマスターと契りを交わすことになってしまった。  
これからどうなってしまうのか…。不安だらけだ。  
しかし、表面的にはマスターの言葉に少し強制力を感じる程度で、あまり変ったことは感じない。  
(まあ、元がアレだからってのもあるんだろうけどね…)  
でも、“波紋の契り”なんて大層な名前がついてるほどだ。  
実は何も変わりません――なんてことがあるわけない。  
次の日になってリオルを問いただし…、答えがこれだった。  
「だって、リオルの種族の一大事でしょ?それをしたらどうなるか、分かんないわけないじゃん!」  
「うん、そうなんだけどね。でも…」  
昨日までと打って変わって自信無さげな表情を浮かべるリオル  
他人事じゃないんだよ?リオルだって契り交わしちゃってるんだし…。  
「いや、分かんないってのは、知らないってことじゃなくって、その、どうやら各々で違うらしいんだ」  
「違うって…効果が?」  
こくっと肯くリオル。  
よくよく聞いてみると、リオルが「何が起こるか分かんない」って言った理由が理解できた。  
 
“波紋の契り”の効果を知る者は少ない。  
元々その性質として、人間にゲットされ、深く心を通わせたごく限られたものがする行為であるため、  
リオルやその進化形のルカリオたちの間でも伝説のように語り継がれているにすぎないが…。  
あるものは遠くにいても互いがどこにいるかわかるようになったと言われ、  
またあるものは人間と一時的に感覚を共有することで、バトルで無類の強さを誇るようになったとか。  
「どうやら、契りを結ぶもの同士の嗜好とか、性格とか、そういうので変わるみたいなんだ」  
「ふぅーん」  
だとすると…どんな効果があるのか、体験してみるまでわかんないってことか…。  
結局不安は不安のままだ。  
「ボクは聞きたくないけどさ。あのニンゲン、マスターに聞いてみたら何か変わったことがあるかもね」  
「……やめとく」  
(世の中って…知らない方がいいことってのもあるのかもね…)  
ヒコザルはなんだか悟ったような気分になってきた。  
 
「おい、リオル。お前だいぶ素直になったんだって?今日はオレに犯されてみるか?」  
「ハァ?またバトルで倒されたいの?この色狂いネコが」  
「何だとこのくそガキが!」  
眉ひとつ動かさず吐き捨てるリオルの言葉に、  
普段から血の気の多い結膜を真っ赤に染め上げてザングースが立ち上がる。  
(ああ…始まったよ…)  
この2体。分かってはいたけど、徹底的に合わない。  
プライドがテンガン山より高いリオルは、ザングースのくだらない挑発を受け流すということを知らないんだ。  
ケンカになる前に結局「うるさい」と言われて2体ともボールに戻されるんだけど…。  
結局夜になってザングースの怒りの矛先がおいらに向いちゃうんだよね。  
(もううんざり。落ち着いてごはんも食べられないよ)  
今回もやっぱりというかザングースもリオルもボールに戻され、  
マスターは手の中で2つのボールを遊ばせながら、「ふぅ…」とため息をついた。  
さすがのマスターもちょっと困ってる…気がする。  
 
マスターとリオルが(おいらもだけど)契りを交わしてから数日たった。  
その間マスターは何かを確かめるかのようにバトルの練習をしたり、  
調べ物をしてみたり、誰かと電話してたり、町に行ってみたり。  
つまり、リオルとの約束を果たそうという気配が全く感じられない。  
リオルが苛立ってるのだって、そこらへんに原因がありそうだ。  
これだけやる気がなさそうなところを見せられると、  
最悪の状況…実はマスターがリオルを騙して契りをするために  
「妹を知っている」って嘘をついたって可能性も…あるかもしれない。  
もし、もしそうだったら、リオルはどういう反応をするのか。  
ヒコザルの背筋にぞくぞくっと悪寒が走った。  
 
「ねえ、マスター。リオルの妹のところには…行くの?」  
マスターと2人きりになったところで、遠慮がちに聞いてみる。  
実はここ数日間、何度か同じ質問をしている。  
そしていつも、「まだだ」とか、「お前には関係ない」とかにべもない感じだった。  
だが今日は…  
「そうだな。行ってみるか」  
普段と変わらないトーンでそう答えるマスター。  
「えっ!?ほんとっ!」  
(よかった…、妹を知ってるってのは嘘じゃなかったんだ!)  
安堵がヒコザルの全身を包んだ。  
 
「――で、なんでここなの?」  
広々とした庭のある、見慣れた建物。  
マスターに連れられて来たのは、もう何度かお世話になった育てやだった。  
今ピカチュウとコリンクが預けられているところでもある。  
隣にいるリオルは、人間の街が珍しいのか緊張しながらきょろきょろと辺りを見回している。  
(先にピカチュウとコリンクを仲間に加えてからってことなのかな?)  
マスターは、不思議そうに自分を見るヒコザルの問いを完全に無視して、何やら店の人と話し込んでいる。  
「あの――を受け取りに――」  
「――もうすぐ――ですが――」  
カウンターの上で交わされる会話が断片的に聞こえてくる。  
どうやらしばらく待つことになったようだ。  
黙ってしまったマスターの横で、リオルにここがどういうところなのか説明をしてあげた。  
もちろん、ピカチュウに犯されたとか、そーゆーのは抜きにして…。  
「ポケモンを預かったり、育てたりしてくれるところ」というヒコザルの言葉に、  
リオルの表情が強張る。  
「ってことは、やっぱり妹はニンゲンの手に…」  
「あ、いや、まだここにリオルの妹がいるとはマスターは言ってないけど…」  
慌てて取り繕おうとした、その時…  
 
「あ、来られましたよ」  
マスターを呼ぶ他の人間の声。  
それに鋭く反応すると、マスターは今店内へと入って来た別な人間に近寄って行き、声をかけた。  
まだ若い…女の人だ。ポケモントレーナーみたいだけど。  
急速に不安感が募る。まさか…  
隣でリオルも全く同じ気持ちのようだ。ひくひくと全身を緊張させている。  
「――さん。やっと――。実は――」  
「え?じゃあ――それはよかった――」  
ヒコザルとリオルと距離を置き、小声で話す2人の会話がまたもや断片的にしか聞き取れない。  
あのトレーナーは誰なのか。  
本当にリオルの妹と関係があるのだろうか。  
様子を見ながらずっと待たされているヒコザルとリオルには数分間の彼らの会話が、数十分にも、数時間にも感じられた。  
やがてその女トレーナーがすっとこちらを向き、やってくる。  
一歩。二歩。  
そして、リオルの前で立ち止まり、笑顔を浮かべて会釈する。  
「初めまして、リオル。私、キミの妹のトレーナーだよ」  
「妹の…トレーナー…」  
やはり妹はニンゲンに捕まっていた。こいつが…妹を捕らえ、苦しめた…ニンゲン…  
隣でリオルの腕を握るヒコザルに、その波紋が怒りに染まっていくのが分かる。  
(まずいよ、マスター。止めないと…)  
 
「あれ?お兄ちゃん!?」  
建物の奥から響いてきたその声が、リオルの正気を取り戻させた。  
駆け寄ってくるそのポケモンは…  
「ルカ…リオ…?」  
リオルが己の主人であるポケモントレーナーに深い信頼を置き進化するという…。  
「お前…なのか?」  
「うん、そうだよ。へぇ〜。お兄ちゃんも人間にゲットされたんだね。  
しかも…。もしかしてお兄ちゃんも“波紋の契り”を?  
いいトレーナーを見つけたんだね。良かったぁ〜」  
目の前で早口でまくしたてるルカリオ。  
リオルは…愕然としている。  
ヒコザルだってそうだ。混乱で頭が回らない。  
(意味が…わからない)  
お兄ちゃん“も”と確かにルカリオは言った。  
つまり、つまりだ。  
リオルの妹はこの女トレーナーに無理やり捕まった…かどうかは分かんないけど、  
今では強固な信頼関係を結び、十分に懐いており、“波紋の契り”まで交してしまっているということに…  
「お兄ちゃんのトレーナー、すっごく優秀でいい人そうだね。  
お兄ちゃんが“波紋の契り”までしたくなるの分かっちゃうなぁ」  
「あ…うん…」  
「ゴメンね、何も言わずに行っちゃって。でもこうして会えて良かったぁ。  
私ここでよく他のポケモンと一緒に預けられてるからさ。また会えそうだね」  
「そう…なんだ…」  
ルカリオに相槌を打ちながら、リオルの耳には全くその言葉は届いていないように見えた。  
 
「どういう…ことなの?」  
そっとマスターに尋ねるヒコザル。  
「ふん。どういうも何も、見たとおりだ。あれがリオルの妹だ。メスは珍しいからな。。  
ここにリオルのメスが預けられたという話を聞いた時期と、  
リオルが言っていた妹の消えた時期が近かった。それだけのことだ」  
いつもながら淡々と説明するマスター。今はその口調がヒコザルを苛立たせた。  
「違うよ!そんなこと聞きたいんじゃない!分かってるでしょ?どこまで…知ってたのかってことだよ!」  
「お前、うるさいぞ。今いいところなんだ。少し黙っていろ。後で説明してやる」  
聞きたいことは山ほどあった。言いたいことも山ほど…。  
でも、マスターの眼光はヒコザルがこれ以上口を挟むことを許さなかった。  
 
「じゃ、トレーナーが呼んでるから」  
「あ…、うん、その…」  
「何?お兄ちゃん」  
再会の喜びもつかの間、あっさりとトレーナーの方へと進もうとするルカリオ。  
それを呼び止め、すっと伸ばしたリオルの手の平に、ルカリオの手の平が重なった。  
互いの間に波紋が流れていくのが…分かった。  
「……元気で…な」  
「うん。お兄ちゃんもね!」  
曇りのない笑顔を浮かべ、ルカリオは歩き去っていく。  
 
「リオル…」  
言葉がないとはまさにこういう状況のことを言うのだろう。  
妹を見送り背を向けて立ちつくすリオルを、ただ見ていることしかできない。  
ルカリオは…幸せそうだった。  
今の境遇に満足そうだった。  
……人間のトレーナーのもとで。  
 
リオルは今何を考えているんだろう。  
何はともあれ妹が無事で、幸せであったことへの安堵か…  
己の想像を裏切り、人間に懐き、契りまでも交わしていた妹への失望か…  
自分の決意が、人間と交わした契りが無意味なものであったことへの怒りか…  
それとも――  
「リオル。感動の再会は終わったか?」  
心なしか嗤いを含んだようなマスターの声。  
それに反応しリオルが振り向いた。  
マスターの隣にいたヒコザルにまでも畏怖を抱かせる鋭さをその目を宿して。  
「マスター。話があります」  
「くっくっく。いいだろう。また…夜にな」  
 
そしてその夜――。  
「俺がどこまで知っていたか。それを聞いてどうする?」  
「どうって…!」  
詰め寄るリオルに、マスターの返答は事実上の無回答だ。  
「知ってたんだろ!妹が…あんな状態になってること…。  
ボクを騙して“波紋の契り”を結ばせたんだろう!あんたは…卑怯だ!」  
リオルの言い分は分かる。  
ヒコザルだって、言いたいことは同じだった。  
まるでリオルの怒りが伝わってくるようだ。  
しかし、マスターは顔色を全く変えないままに、ついにその悪意を剥き出しにした。  
「卑怯…だと?何を言うかと思えば…。本当にお前はガキだな。  
逆境に置かれながらもヒコザルに一番に目をつけて手懐けた手口から、  
もう少し利口でいじめがいがあるかと思ってたんだがな。単に小賢しいだけか」  
「っ!」  
「俺がもし正直に、お前の妹が人間に懐いて幸せにやってるぞと言ったとして…  
お前は信じたか?確かめずにいられたか?  
もし俺に捕まえられたままの状態で妹の目の前に現れてみろ。自分がみじめだったと思わないか?  
俺と“波紋の契り”をしてたお陰で、今日の再会だって少しは格好がついただろう。  
よく考えろ。感謝されこそすれ、お前に卑怯だなどと…言われる筋合いはない」  
「ううっ…!」  
冷酷で、厳しく…淡々と。  
マスターの言葉はまるで詰め将棋のようにリオルを追い詰めていく。  
「大体…だ。なぜ俺がリオルの習性、特性、そして最大の秘密とも言える“波紋の契り”まで  
詳しく知っていたと思うんだ。“波紋の契り”を実際にしたトレーナーから聞いたと考えるのが普通だろう。  
もう少しそこら辺から類推してもよさそうなもんだがな。  
それとも…うすうす感づいてはいても、どうしようもなかった…か?それなら取り乱すな」  
「うっ、くっ、ち、ちくしょう…」  
「リオルっ!」  
マスターの言葉は厳しいけど、理不尽なことを強要しているわけでは決してない。  
だからこそ、突き刺さるのだ。真実が。  
「いつまでも妹、妹と…。現実を見ろ。お前の妹の方がよほど自立しているぞ」  
「うっ、ううっ…あうううっ…」  
リオルはついに…泣き出していた。  
(“不屈の心”が…完全に折れてしまった…)  
リオルの体を支えるその横で、ヒコザルは悲しいほどに崩れさったその波紋を感じ取っていた…。  
 
「少しは落ち着いたか。リオル」  
「……はい」  
しばらくの間、止め処なく嗚咽を漏らしていたリオルだったが、  
次第に落ちつきを取り戻し、その精神を回復させていく。  
(やっぱり、リオルはすごい…)  
その強靭な心には驚嘆せずにはいられない。  
「お前達はもう俺と契りで結ばれた従者なんだ。いちいち俺の行動に疑問を持つな」  
隣でこくんと頷くリオル。  
つられてヒコザルも小さく頷いてしまった。  
 
「ところで…だ。従者で思い出したが。お前たちと交わした“波紋の契り”の効果が分かってきた。教えてやろう」  
「えっ!?」  
すっかり忘れていた。  
契りを交わして数日。全く何の変化もなかったのだ。  
(一体どんな効果なんだろう…?)  
「どうやらお前ら2体と同時に契りをしたことで、普通はあり得ない状態になったようだな。  
それを言うなら、元々2体と同時に契りを結ぶなど不可能なはずらしいんだがな…。  
お前らが既にお互いに波紋で通じ合ってたのも影響しているのかもしれんな」  
いつになくマスターの言葉の歯切れが悪い。  
何か悪いことでもあるんだろうか。  
「効果は2つある。1つは…俺が僅かだが波紋を感じることができるようになったこと」  
(うげ。最悪)  
「そしてもう1つは…、俺が意識した間だけ、お前らが感覚を共有するようにできることだ」  
「……は?マスターとの間じゃなく、おいらと、リオルの間で?」  
またもや…目が点だ。  
「これはまだ確定ではないがな。ヒコザル。お前、今日妙にリオルと共感することが多かっただろ」  
言われてみれば…。  
リオルと同じように苦しんだり、マスターに憤慨したり、なんだかすごく身近に感じることが何度かあった。  
「それは、俺が試していたからだ。実際お前らはその時だけ行動がシンクロしていた」  
(勝手に実験しないでよ…)  
ほんとにこのニンゲンは…。ちょっとは相手の気持ちとかプライバシーとか考えてよね。  
思わず目をじとっとさせてマスターを睨むヒコザルだったが、リオルは冷静だ。  
いや、さっきあれだけのことがあった後だ。努めて冷静に振舞っているのかもしれない。  
「ヒコザルと感覚を共有できる…ということは、  
ボクとヒコザルが一緒にバトルするような時はかなり優位な状況になるってことだね」  
「ああ、そういうことだ」  
(ほんとに…それだけ?)  
あのマスターが考えてることが、そんな単純なことだけであるはずがない。  
早くもヒコザルの頭で警告が鳴っている。  
(この感覚をリオルと共有したいよ…)  
そんなヒコザルの危惧を証明するかのように、マスターの言葉が続く。  
「だがな、実戦で使う前に、まだまだ試しておく必要がある。どのくらい感覚を共有するのかを…だ。  
しかも、俺の目に見える形でな」  
(ほらきた…)  
いつもと同じように装うマスターの目の奥で、意地悪な光が輝いているのがヒコザルには分かった。  
 
「マスターに見える形…?どうやって…」  
「ヒコザル。こっちに来い」  
リオルの言葉を遮って響くマスターの言葉。抵抗することはもちろんできない。  
ふらふらと腕の中にやってきたヒコザルの体を、そっとマスターが撫で始めた…。  
 
「あんっ、ふあっ、ああん…」  
耳の先、首筋の裏側、腋窩から乳首の先端にかけて、内腿からすっかり敏感になってしまった粘膜のスボミまで…  
ヒコザルの弱点を知り尽くしたその指先の刺激を受けて、あっという間に体の力が抜けていく。  
そして同時に…  
「くぅっ…ん、あ…!なに…これ…?」  
何もされてないはずのリオルの口から、明らかに愛撫を受けているものの発する声が漏れ出た。  
ヒコザルを抱き、愛撫を続けながら、マスターの心が…漏れ出る波紋が狂喜に染まっているのが分かる。  
「やはりな。快感も共有するか。リオル、喘いでるだけじゃ分からんだろう。  
どこが、どれくらい感じているか言ってみろぉ。こいつ、どうされるのが一番感じてるんだ?」  
「ふっ、ざける…な……あっ…くぅっ…」  
体を触られての快感ならば、心を閉ざして耐えればいい。  
しかし心に直接共有させられる快感は…いかに強靭な精神力を誇るリオルとて防ぎようがない。  
「ふあぁぁっ…!あんっ!そこは…あんっ!」  
(ゴメン、リオル。だって、気持ちいいんだもん…。こんなの我慢できないよ…)  
ヒコザルには必死で耐えようとするリオルの感覚も伝わって来ているが、  
マスターの指先や舌先によって呼び起こされる快感のほうが圧倒的に強く、  
嵐に舞う木の葉のようにその心は翻弄され、飲み込まれていく。  
「ほら、じゃあこれはどうだ?」  
オチンチンの先をくにゅっと指で摘まれたまま、口腔内を犯される。  
大きく幅広なマスターの舌がぐいっと突き込まれ、粘膜の隆起を撫で、圧迫し、体温を伝えてくる。  
くぅんっと音を立てて鼻から息を吐きながら、ヒコザルの性感があっという間に高まる。  
マスターの指の中で、ひくんっひくんっと小さなツボミのようだったそこが、指と同じくらいの大きさになって立ち上がった。  
「ふうっ、んっ…、ん…」  
そのままちら…と横目で確認するマスターの前で、  
リオルは思わず股間を押さえてうずくまってしまった。  
「ふん。分かりやすいやつだ」  
勃起…しているのだ。リオルのそこも。ヒコザルが感じているのと同じくらい勢いよく。  
 
「まあ、感覚がどれくらい共有できるのかは大体分かったな。  
リオル。『ボクおちんちん立っちゃいました』って言えばこれで許してやるぞ」  
(サイテーだ…)  
サディスティックなマスターの言葉。  
プライドの高いリオルがそんなこと言えるはずがない。  
実際、リオルの全身から拒否感が伝わってきていた。  
「ふざけるな!ボクは…あんたの実験台じゃ…ない!」  
「ふぅん。そうかぁ。それは残念だなぁ」  
リオルがそう答えることは、100%分かっていたはずだ。  
「それじゃあ仕方ない。立場を逆にするまでだ」  
(え……?)  
余裕の表情のまま、腰につけたモンスターボールに手を伸ばすマスター。  
まずい。それは…それだけは…!  
「ま、待って!」  
共有したヒコザルの心が伝わったんだろう。リオルが珍しく動揺した声を出したが、時既に遅し。  
顔を上気させ、股間を押さえるリオルを囲むようにして、  
ザングース、ピカチュウ、コリンクが姿を現していた…。  
「ピカチュウ、コリンク。新入りのリオルだ。仲良くしてやれよ」  
「はーい、マスター。よろしくねリオル」  
にこやかに話しかけるピカチュウ。しかしリオルはそれどころではない。  
ヒコザルの股間を愛撫し続けるマスターの、その刺激が体を襲い続けているのだ。  
「ふぅっ…あっ、んんっ…」  
実際には手すら触れられていないというのに、突きあげるような快感を伝えながら上を向くオチンチン。  
必死で股間を押さえたまま、助けを求めるように顔をあげるその前に…  
「へへっ。てめぇ、なに勝手に発情しまくってんだよ。そんなに…コレが欲しいのか?」  
マスターに負けず劣らずサディスティックな表情を浮かべるザングースの股間は、  
既に天に向けてぐいっとその威容をそびえ立たせていた…。  
 
パチィッ!  
「くぅっ!あっ…!」  
「あれ?ごめんね。勝手に特性の“静電気”がでちゃった」  
「リオルくん、緊張しないで。ボクご奉仕するの慣れてるから…」  
「なんだこいつ、素直な体になりやがって。チンチン立ちまくりじゃねーか」  
寄ってたかって…。  
快感に耐えるだけで精一杯だったリオルに、抵抗することなど出来るはずもなかった。  
「ああんっ!やだっ!やだぁっ!」  
あふれ出る拒絶の言葉。  
しかしそれは、すでにリオルが快感に負けていることを示していた。  
そして感覚を共有するヒコザルにも…  
「はっうう…あっ、すっごい、すご…い…!」  
もうマスターはそんなに強い刺激を加えているわけではない。  
ただ愛おしそうに、ゆっくりとヒコザルの毛皮を撫でているだけだ。  
しかし…リオルから伝わってくる感覚が、心の中から体へと伝わり、痺れさせる。  
(心から直接伝わる快感が…。こんなに…すごいなんて…)  
マヒした体を撫でまわす複数の手足の感触も、  
オチンチンの皮を剥きあげ、先端の粘膜をゆっくりと舐めまわすその舌の動きも、  
そして早くも孔に突きいれられ、前後運動を始めたその肉茎の動きも…  
全てがリアルに、ぐちゅぐちゅと擦れあう肉感を伴うほどに、伝わってくるのだ。  
「さすがに抱いているとよくわかるな。ほとんど愛撫してないのに体中がヒクついてやがる。  
涎も先走り液もドロドロだな。入れられてもないのにオシリの孔まで開いてるぞ」  
「あ…んん…」  
馬鹿にするようにそう言われても、もう恥ずかしさすら感じることができなかった。  
そんなヒコザルを見て満足そうに笑みを浮かべるマスター。  
その歪んだ愛情に囚われたまま、ヒコザルはリオルと共に絶頂へと駆け上がっていた。  
 
「リオルがザングースのを挿れられている感覚を共有しながら、  
お前が俺のを挿れられると…どうなるかな?どんな感覚だと思う?」  
「ひっ…」  
昆虫をいたぶる子供のような、無邪気なマスターの笑み。  
ヒコザルと、それにリンクしてリオルの心が恐怖におののく。  
「お願い、マスター。もう、もう許し…」  
「何言ってんだ。嬉しいくせに。波紋もそう言ってるぞ」  
「ウソ…うそだ…」  
快感にうち震えながらも涙声になって懇願するヒコザルの姿は、マスターの性欲を高める結果にしかならなかった。  
かつてないほどに大きく、太く膨れ上がったその肉棒が、ゆっくりと押しあてられ、侵入を開始する。  
ずんっ…!  
「ふぐぅっ!」  
既に挿入され、肉茎を出し入れされていたはずのその孔に、新たにより太いモノを突きたてられるその感覚。  
十分に拡げられていたはずの内腔が再び押し広げられていく。  
そして…出すと同時に入れられ、入れられると同時に出されていく。  
同時に2か所が刺激される。現実ではあり得ない動き…。  
「ふああぁん、ああっ、んっ…もうヤだよぉ……ひうっ…」  
ヒコザルとリオル。  
もうどちらの体が何をされ、どう反応しているのか。何に興奮し、絶頂を求めているのか。  
お互いに全く分からなくなっていった…。  
「分かる。分かるぞお前らの快感が…!感じるぞ、波紋を通じて!」  
倒錯しきったマスターの声。  
体をぎゅうっと抱きしめられ、体を貫く肉茎がぐぐっとその太さを増す。  
既にリオルの体に何度かザングースの液が流れ込んでいるのは感じていた。  
その更に奥底に、びくんっびくんっと肉棒を震わせながら熱さを感じるほどの迸りが解放される。  
それが…限界だった。  
ついに絶頂を迎え、今までで一番というほどの大量の液をまだ幼い性器の先から同時にだくだくと滴らせながら、  
2体の意識は闇へと飲み込まれていった…。  
 
「まさか失神するほど気持ちよかったとはな。俺もそんな感覚を共有してみたいもんだ」  
目を覚ましたヒコザルにうそぶくマスター。  
(ウソばっかり…)  
――“波紋の契り”の効果はお互いの嗜好や性格で変わる。  
そうリオルは言っていた。  
マスターとではなく、ヒコザルがリオルと感覚を共有する結果になったのは、  
マスターが、直接的な快感に酔うことよりも、快感に狂う2体を見ることの方に  
より歪んだ、精神的快楽を覚える趣向であったからに他ならない。  
(この…どヘンタイ人間…!)  
深く交われば交わるほど、この人間の異常な性癖がヒコザルを苦しめる。  
 
「さあ、出発するぞ」  
朝日の中歩きだしたマスターの背中を見ながら、  
ヒコザルの心にあの誓いの言葉が浮かんできた。  
――おいらの運命は貴方と共に、貴方の道はおいらと共に。  
どう足掻いたところで、自分の運命は決まってしまった。  
リオルと違い波紋を扱えないヒコザルには、“波紋の契り”を解消する方法すらない。  
このニンゲンと…マスターと、道を共にしていくしかないのだ。  
つかず、離れず…後ろをついて歩みを進めながら、  
まだヒコザルはマスターとの距離を掴みかねていた。  
 
 
 
 
おーわり  
 
 

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