「それでは、チームかまいたちのリーダー争奪戦を始めたいと思います!」  
唐突にサンドパンが叫びだした。しかしそれ自体はよくあることなので、ザングースもストライクも対して気にはしなかった。だが、その内容はザングースにとってはとても気になることで……けれどもザングースはあくまで冷静に返す。  
「馬鹿なこと言ってる暇があったら買い出しにでも行ってこい」  
「さて、今回のチームリーダー争奪戦ですが」  
サンドパンはザングースを完全にスルーして説明を始める。  
「俺たち三匹で戦って勝った一匹が1日だけチームリーダーになれるっていう戦いです!ちなみに参加しないとその時点で負けが決定します!」  
「そういうことだから頑張ろうね。リーダー」  
「またお前たちは……」  
ザングースは思わずため息をつく。この二匹が何かを言い出すと絶対に自分が嫌な目に合うからだ。  
だが、参加しないとその時点で負けだというのならば参加するしか選択肢はなかった。サンドパンもストライクもホントにザングースを負けたことにして無茶苦茶するのが目に見えている。  
「とりあえず展開が早すぎるから一旦落ち着け……」  
「そうだね。この早さはちょっとついていけない感があるよね」  
 
ストライクはニコニコ笑いながらそう言った。その言葉を聞いてサンドパンは一度深呼吸をする。  
「まぁ、じゃあ詳しいルール説明をするぜ?さっきも言った通り俺たち三匹で戦って勝ったやつが1日チームリーダーになれるっていう単純なもんだ」  
「チームリーダーの俺が勝ったらどうするんだよ?」  
「そんときはリーダーが俺たちを好きにしていいぜ」  
その条件にザングースは敏感に反応し、こう思った。  
(これは日頃の恨みを晴らすチャンスだ)と。  
いつも二匹から受けている(性的)嫌がらせの恨みを晴らすのにこれほどいい条件はない。自分で決めたルールならサンドパンも受け入れるしかないだろう。  
すでにリーダーとしての地位が危ういザングースはそんなことには気づかずに意気揚々と言い放った。  
「いいだろう。やってやる!」  
「そうこなくっちゃ!」  
「それでこそチームかまいたちのリーダーだぜ。なぁ?」  
サンドパンはそう言ってザングースの肩に腕を回す。  
その不自然な行動にザングースが怪訝に思ったその時、サンドパンはニヤリと笑って唐突に呟いた。  
「じゃ、バトルスタートだ」  
「は?っっ!!」  
 
サンドパンは言うと同時に肩に回していない方の手でザングースの腹を思いっきり殴った。  
「げほっ…げほっ!ひ、卑怯だぞ…お前」  
いきなりの攻撃をマトモに受けたザングースは腹を押さえて呻くように言う。  
だが、そんな声を全く気にしないようにサンドパンは、  
「このバトルにはルールは存在しない。ただ最後に生き残った奴の勝ちだ!じゃあな!」  
と、言って何のつもりなのか走り去って行った。  
そしていつの間にかストライクの姿も見えなくなっている。  
「くっそ、あいつら……覚悟しろよ!チームリーダーの強さを思いしらせてやるからなっ!!」  
ザングースは吠える。  
こうして、チームかまいたちのリーダー争奪戦が始まった。  
 
「……とはいえ、どうするか」  
もう二匹の姿はとっくに消えている。どこに行ったのかはザングースにはわからないが、何かを企んでいることくらいはわかった。  
そこで、さっきのサンドパンの言葉を思い出す。  
「ルールは存在しない……。最後に生き残った奴の勝ち……か。」  
言い換えればなんでもありで、自分が相手を倒さなくても最後に生き残っていればそれでOKということだ。  
(本当にアイツは質が悪いな)  
 
どうせストライクとサンドパンは組んでいるだろう。明らかにザングースが不利な勝負だ。  
けれども、ザングースにも一応チームリーダーとしての意地があり、止めることは出来ない。  
ザングースは深い深いため息をつき、それから辺りをキッと睨みつけた。  
(やるからには絶対に勝ってやる)  
ザングースはそう決意して、どこかに隠れているであろう二匹を探すために走り出した。  
 
太陽はとうに沈み、変わりに出てきた月と星が地上を薄く照らしているなか、ザングースは一匹で住処まで戻ってきていた。  
いくら探しても二匹の姿は全く見当たらなかったのだ。当然住処にも帰ってきていない。  
「ったく、どこに行ったんだあいつらは」  
この戦いはいつまで、とは言われていないのできっと決着がつくまでなのだろう。  
ザングースのやる気はすでに萎えてきていた。  
(とりあえず、今日は終わりにするか)  
そう思い、ザングースは少し休もうと横になった。  
 
誰かの足音で、意識が眠りの底から浮かび上がってきた。けれどもまだ意識はハッキリとせず、寝ぼけたまま目を開いた。  
(? ……なんだ?)  
 
薄暗い中にギラリと光るするどそうな鎌が視界に入ってきた。そしてそれはザングースめがけて大きく振りかぶられている。それが降ろされるとどうなるかを考え、ザングースは一気に目を覚ます。  
そして、その瞬間にそれは勢いよく振り下ろされた。  
「うぉわっ!!」  
反射的にザングースは体を横へと回転させる。見るとザングースがさっきまでいた場所には鎌が深々と突き刺さっていた。  
「おまっ、殺す気かストライク!!」  
夜襲を仕掛けてきた相手に向かって大声で叫ぶ。すると、その相手はニヤニヤと笑いながら、  
「だってそうしたら1日とは言わずにずぅっとリーダーになれるでしょ?」  
と、言いながら地面から鎌を抜いた。それは月明かりに照らされてギラリとなんとも不気味な光を放っていた。ザングースは体を震わせる。  
(こいつら…ガチだな……)  
今のストライクの行動を見て、ザングースの中の余裕が一切消滅した。  
油断していると本気で殺されかねない。  
「いいぜ、やってやるよ」  
ザングースは爪を光らせ、ニヤリと笑う。  
「本気でヤっていいんだな?」  
その目は鋭く、見たものをその場に縫い付けてしまうほどの迫力がある。  
 
「……後悔するなよ?」  
水を一瞬にして凍らせてしまいそうな冷たい言葉を短く吐き、ザングースは動いた。  
低い姿勢で素早くストライクに近づき、下から爪で切り上げる。  
「ぅ…っ!!」  
ザングースの迫力に少し気圧されながらもストライクは素早く反応し、手の鎌で受け止めてすぐさま後ろへ下がる。  
「……チームかまいたちの結成前を思い出すね。リーダー、あの時みたい。すごい迫力だよ」  
「ば〜か。まだマシだろ?あの頃に比べりゃあ丸くなったっての」  
「はは……確かにね。それでも怖いなぁ。死んじゃうかも」  
「死んでも恨むなよ?」  
「ゴーストタイプ付きでまた戻ってくるよ」  
話しながらも二匹は常に警戒を続けている。  
「行くぜぇ!しっかりついて来いよ?」  
「出来たらね」  
またザングースから動き出す。ストライクの前まで走り込み、連続で切りかかる。  
ストライクはそれを受け止めつつ、攻撃を返すがそれは簡単に受け止められる。  
「ってい!!」  
ザングースは身をかがめてストライクの足を払おうとする。  
しかし、ストライクはそれを飛んでかわしてしゃがんでいる状態のザングースめがけて鎌を振り下ろす。  
「くっ!!遅いんだよっ!!」  
 
ザングースはギリギリのところで爪で受け止め、開いている手でストライクの鎌の後ろを掴んで引っ張った。  
「うわっぁ!!」  
ザングースはそのままストライクを地面に叩きつける。ストライクは地面に顔から落ち、土をつけたまま立ち上がった。  
ザングースもすぐさま立ち上がり、構える。  
「いててて……。早いなぁ」  
「別に、普通だろ?」  
その言葉にストライクは呆れたように笑う。  
実際、ストライクはついていくのがやっと、という状態だった。  
それでもザングースは容赦はしない。  
低い姿勢から重い一撃をストライクの腹めがけて叩き込む。  
「く……っ!!」  
その素早い攻撃にストライクは防ぎきれず、まともに喰らってしまい、大きく後ろに下がる。  
ふらつく足でなるべくしっかりと地面を踏み、ストライクは鎌を目の前で交差させた。  
「つるぎのまいっ!!」  
そう叫び、両手を広げ、足でステップを踏む。それに合わせて両手の鎌をカチカチとぶつけ、舞いを続けていく。  
剣と剣をぶつけ合わせるかのような勇ましい舞いはストライクの力を大きく上げていく。  
「チッ、厄介だな……」  
 
「リーダー、大丈夫?押されてるんじゃない?」  
「チッ、全然だ。速さが足りねぇなぁ!!」  
「強がらなくてもいいのに。油断してるからこんなに簡単に形成が逆転しちゃうんだよ。リーダーが言ってたんじゃない」  
初めはザングースが押していたこの戦いだが、ストライクのたった一撃によって状況は真逆になってしまっていた。  
それほど、戦いの流れが変わりやすいということはザングースがストライクに教えたことだった。  
しかしザングースは余裕の笑みを浮かべたままそれを消すことはない。  
「そろそろ決めさせてもらうよっ!!」  
ストライクは急に重い一撃をザングースに叩き込む。  
ザングースはやはりギリギリ防いだが、唐突な重さの変化に体制を崩し、膝をついてしまう。  
そこへストライクは勝負を決めようと、鎌を大きく振り上げた。  
ザングースの頭を目掛けて。  
「じゃあね、リーダー」  
そして、決着がついた。  
ザングースの爪が、ストライクの開いた腹を完璧に捉え、先を少し食い込ませている。そこからは血が一筋流れていた。  
そのまま力を入れればストライクの胴体は切り裂かれることになるであろうことはストライク自身簡単に想像出来た。  
 
「だから遅いって言ってんだよ」  
ストライクが鎌を振り上げる瞬間のスキをザングースは狙っていた。  
ストライクはそのままの体制で、動くことが出来ない。少しでも動けばその爪はきっと命を切り裂いてしまうだろう。  
「だから言っただろ?戦いの流れは変わりやすいってな」  
「あはは……やっぱりリーダーにはかなわないのかなぁ」  
「当たり前だ。俺が、このチームのリーダーなんだからな」  
そして、ザングースはそのままの体制で叫ぶ。  
「見ているんだろ、サンドパン!!早く出てこないとストライクを切り裂くぞ!!」  
「はいはい、わかりましたよ。出てくるから待ってくれって」  
ザングースに答えながらどこからか音もなくサンドパンが姿を現した。  
降参するかのように両手を上げ、薄く笑いながらザングースの元へとやってくる。  
ザングースはそれを見て、ストライクから爪を離した。そしてサンドパンの方へ歩けと指示する。  
「ははは…。ごめん、負けちゃった」  
サンドパンの元へ戻りながらストライクは言った。  
「いやいや、頑張ったよお前は。後は俺に任せろ」  
サンドパンはそう言って、ストライクの鎌と手を合わせる。  
「それじゃ、バトンタッチ。ってことで。僕は観戦させてもらうよ」  
ストライクはそう言って、二匹から距離をとった。  
「じゃ、始めようぜ。リーダー争奪戦を、な」  
「ストライクにも言ったが……死んでも恨むなよ?」  
 

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