シンオウリーグで好成績を残し、  
その後も数年間ずっと旅を続け、各地方でその名を残していったサトシ。  
 
しかし、とあるポケモンリーグを終えてマサラタウンに帰る途中。  
トキワシティの郊外にニビ方面とマサラ方面、その2方向に分かれている場所がある。  
ある意味、サトシたちの旅の終わりを告げる象徴と言える、懐かしさを持った場所かもしれない。  
 
その場所にサトシとタケシが向かっている。  
もうすぐその場所に着くのだが、その途中にある渓谷を今通っている最中。  
 
「こんどはどこを旅するんだ?サトシ。」  
「さあ…とにかく、新しい、見たこともないポケモンがいる場所さ!」  
「そうか。俺は…どうなるかなあ。」  
「また一緒に旅をしようぜ!」  
「はは、ジムの事も含め、ゆっくり考えるさ。」  
 
数日前に、仲間の女の子トレーナーと別れを告げて、  
もうすぐママのおいしい料理にありつける、そんな楽しみを胸に秘めながら。  
 
「ん?あの工事現場は?」  
「ああ、この渓谷が観光名所になるから、展望台とレストランを建てるらしい。」  
「へえ。」  
 
崖の上にある工事現場。  
ただ、この広い渓谷に比べれば小さなもので、景色をぶち壊すようなものではなさそうだ。  
 
…そして、その工事現場の真下を通りかかった時、事件は起きた。  
 
「サトシ!危ない!」  
「え?」  
「ピカァ!」  
 
 
落石事故。  
数mにも及ぶ巨大な岩が落下してきた、その大きさと足場の悪さゆえによけられない。  
ピカチュウがとっさにアイアンテールを繰り出し、岩を砕き、  
 
…それでも、砕けた50cmほどの岩が、サトシの右膝の裏に直撃した。  
 
 
「ピカァ…」  
「気にするなよ、ピカチュウ。本当に助かったぜ。」  
「ピカァ…」  
「生きているだけもうけものさ。  
 あの時ピカチュウがアイアンテールをしてくれなかったら、俺は死んでた。本当に助かったぜ。」  
 
ピカチュウはサトシを助け切れなかったことを悔いていた。  
サトシは死ななかっただけマシだ、とは言うものの、タダでは済まなかったのも事実。  
 
病名は膝蓋及び周辺部位粉砕骨折、そして右膝前十字靱帯断裂。  
つまり、右膝が完全に破壊されたのである。  
入院で全治8カ月を言い渡される。  
 
8ヶ月くらいなら待てないことはない。  
だが、全治8カ月と言っても、それは日常生活が出来る程度の回復に過ぎない。  
旅が出来るくらいまでに回復するにはそれ以上の長い時間がかかり、  
下手をすればもう旅が出来る膝に回復することはないかもしれない、とまで言われた。  
 
ポケモンマスターを目指す旅を生きがいとしてきたサトシにとって、それは致命的だった。  
 
 
リハビリを続け、なんとか退院することはできた。  
なのだが、サトシは今も家で療養中。  
 
「…。」  
「ピカァ…。」  
 
ピカチュウも時々オーキド研究所がら見舞いに来るが、  
サトシは決まって窓から外の景色を眺めている。  
昔は平気で肩の上に6キロのピカチュウを乗せていたが、膝の負担を考えそれもできなくなっている。  
 
そんな中。  
 
 
「サトシー。タケシくんが来たわよー!」  
「タケシが?」  
 
前の旅以来のタケシとの再会。  
ピカチュウも含め、3人で仲良く話している。  
 
「俺も暇でさ。ジムの方は次郎が一本立ちしてもう何も心配することもない。  
 この前ちょっと遠くを旅してたんだけど。」  
「へえ、どうだった?」  
「いろんなものが見られたぞ。  
 ただ、やっぱりサトシやピカチュウと旅をした方が楽しい、って改めて分かった。」  
「そうか…」  
 
少しさびしそうな顔をする。そこに、1通の手紙が差し出された。  
 
「これは?」  
「あいつからだよ。  
 旅先でたまたまあって、サトシに渡してほしいって、即席で書いてもらったんだ。  
 絶対に俺には読むな、サトシは誰もいないところで読めって釘を刺されたんだが…」  
 
女の子がそういっていた以上、武にはその意味はしっかり分かっていた。  
一方のサトシにはよく分かっていない。  
とにかくタケシとピカチュウに一度部屋を出て行ってもらい、読んでみる。  
 
 
『久しぶり、サトシ。  
 
 タケシから聞いたよ。大怪我をして、旅に出られないんだってね。  
 ポケモン達と触れ合ったり、修行したり出来ないこと。  
 ずっと旅をしてサトシを見てきたから、そんな姿想像できないし、サトシも元気が出ないよね。  
 
 この手紙がサトシの元に届くころ、こっちも家に到着するから、  
 ねえ、もしまだ旅が出来ないのなら、うちに来ない?  
 ポケモンマスターを目指すサトシにとっていい経験が出来ると思うの。』  
 
「これは…」  
 
続きを読んでみる。  
 
『実は、ちょっと家が大変な状態でさ。どうしても来て欲しいの。  
 親に相談したら、お婿さんが来るって、喜んでてさ…』  
 
「お、お婿さんって…」  
 
サトシにとって、なんともいえない感覚。  
そして、最後にこうつづられていた。  
 
『ねえ、来てくれない?できれば、お婿さんとして…  
 親愛なるサトシへ、』  
 
「…より、か。  
 あいつ、俺の事…」  
 
告白同然の手紙。  
そんな、懐かしの仲間に思いをはせながら、  
 
「…行くか。  
 いつまでもへこんでいたって、しょうがないや!」  
 
旅が出来なくなっていたサトシにとっての、一筋の光。  
ポケモンマスターを目指す上で、大事なのは修行の旅だけではない、  
 
その手紙にそう気付かされ、サトシは決断した。  
自分のため、そして、この手紙を送ってくれた、懐かしいあの仲間のために。  
 

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