「チーム…MADだっけか。
マニューラ、アーボック、そしてドラピオンで構成された
悪名が名高い盗賊団ってのは」
膝を使いながらザングースはゆっくりと腰を上げ、
ストライクとサンドパンに背を見せるように立ちふさがり
今のように言葉を放ってマニューラを睨みつけた。
「そぉさ。ご存知だとは嬉しいね」
「名前を知っているならMADの恐ろしさも知っているだろぉ?
怪我したくなきゃ、さっさと食料を寄越しな」
ドラピオンが1歩前に踏み出し、腕の先に存在する2本の爪を交差させ
さび付いた刃と刃を擦り合わせたかのような、不快で耳障りな音を出して脅す。
「冗談じゃねー。こっちは復活のタネがもう残ってねーんだよ。
食料が尽きたら今回の探検はパーなんだぜ。
それにさっきも言っただろ。お前らに渡すくらいなら俺が」
「いいからお前は黙ってろ」
サンドパンが背の棘を文字通り逆立てながら、
ドラピオンに突っかかろうと足を踏み出した所を
やや呆れ顔のストライクが止めに入った。
「へぇー…抵抗するってワケねぇ?」
左爪を腰に押し当て、右爪を口元に当ててマニューラは含んだ笑いを見せると
その人をからかった態度に、ザングースは赤い毛が通った左目を細くさせた。
「俺たちは未開の地を切り進むのがメインだが、正義感は強い方でな。
探検隊を襲うような最低な野郎共を見ると反吐が出る」
眉間に皺を寄せ、牙を見せるように、唸る。
「おや、褒めてくれるんだ?
…でも、まぁこういつまでも睨まれてもいても面白くないしさ…」
視線をザングースに保ったまま、首を右斜め後ろに赤い瞳がギリギリ見えるまでかしげ
口元に当てていた鉤爪を胸の前に下げ、手首を上になるように回し
爪の先を軽く、曲げた。
「来なよ。…正義のかまいたちさん?」
かみ合わせた牙を開けずに今のように言い、右目を瞑る。
ザングースのこめかみで、何かが弾けたような音がしたがそれを聞き取れたのは彼自身だけであり
他の5匹に聞き取る事はできなかった。だが、聞き取れなくて良かったのかもしれない。
なぜならこの音は、ザングースがマニューラの手中に嵌ってしまった事を示す物だったからだ。
「…おいお前ら!このいけすかねぇヤローは俺の獲物だからな!」
振り返りもせずに、ザングースは己の背と肩を越して
チームMADを睨んでいるであろうストライクとサンドパンに言い放つ。
322 名前:ゼロの島にて 2/12 投稿日:2009/05/16(土) 01:17:23 ID:aFX2UXID
─乗った!
マニューラは覗かせた牙をさらに剥き出す様に口の端を上げ、声を出さずに笑った。
「お前たち。羽虫と砂鼠はまかせたよ」
体性を整えながら、マニューラはアーボックとドラピオンに命を出す。
「へへへ。お任せ下さいボス」
「やってやりますやぁ」
蛇腹を床に擦りつけ、砂利を踏む音を出しながらアーボックが前に進み
床を踏み砕かせんとしながらドラピオンが足踏む。
「…サンドパン、俺はあのドラピオンをやる」
「……」
「お前はアーボックを…」
「……」
「…サンドパン?」
作戦を持ちかけようと、ストライクは小声でサンドパンに声をかけるが
何故か返事をしないので、横目で見ると彼は正面を向いたまま唸っていた。
その視線はザングースとマニューラを行ったり来たりしている。
痺れを切らしたストライクがサンドパンの腕を肘でつついた。
「おいサンドパン?聞いてるか?」
「…そうか、そう言うことか…」
「は?」
サンドパンはストライクに気づいている素振りを見せもせず
独り言のように呟いて身体を小刻みに震わせた。
そして
「リーダーの毛皮は白い色が多い…そしてあのヤローの毛皮は黒い色。
こ、これが俗に言う…『白黒をつける』って事か!」
輝く瞳をさらに輝かせながら感動にもう一度身体を震わせると
その頭部にストライクの鎌が落とされた。
「先手必勝!」
チームかまいたちが揉めている今をチャンスとし、マニューラは床を蹴り上げ走り出し
右の鉤爪を顔の前で揃えて悪意の念を込め始める。
しかしマニューラの攻撃をそれ容易に受けるザングースではない。
彼は腰を落とし、両手の黒い爪を伸ばしてマニューラめがけて飛び跳ねた。
「裂いてやる!」
重力を利用し、下降速度を上げて飛び掛った。だが─
「……遅いんだよ!」
ザングースが飛び掛るより先に懐に入り込み
鉤爪を彼の左脇腹から右へと切るように叩きつけた。
込めた悪意が黒い光の泡となり、散る。
そのままザングースの腹を蹴り、その反動を利用して後ろに飛び跳ねて
マニューラは彼と距離を保った。
323 名前:ゼロの島にて 3/12 投稿日:2009/05/16(土) 01:21:08 ID:aFX2UXID
「ぐ……」
たまらぬ先制に呻いてしまい、ザングースは身体を崩して切られた胸を押さえた。
血は出ていない。だがマニューラの悪意が爪を通して彼の身体に入り込み
それが痛みとなって襲い来る。
「おい。まさか1回で終わり?正義面してるわりには弱いな」
腕を組み、足を軽く踏み鳴らしてマニューラは笑みを浮かべてザングースを見下す。
「…なっに…をぉ…今の、は、サービス…してやっただけだ」
ザングースは痛みを振り払うように身体を震わせ、
マニューラの言葉を否定するように爪を構えた。
それを聞いたマニューラは目を瞑り
「へぇー…じゃぁ次のもサービスしてよ」
笑顔から一転、目を見開き、鉤爪に黒い悪意の念を再び込めて
ザングースに向って駆け出した。
先ほどのが、ザングースの急所に一撃を与えた事は分かっていた。
これでもう一度、急所でなくとも攻撃を当てれば彼は倒れる事は間違いない。
ザングースは敏捷な動きを持っているとは言え、マニューラよりも遅い。
この攻撃は確実に当たると、マニューラは確信していた。
─だが
「同じ手は通用しないぞ!!」
ザングースがそう叫ぶと同時に自分の胸と顔を覆うように両腕を交差させた。
「むっ!?」
マニューラはザングースのその行動の意図を読み取ったが、その前に身体が動いた。
右腕を振るうと、鉤爪から黒い光が泡となって散る。先ほどと同じだ。
しかし、違う事が2つあった。
まず、マニューラに手ごたえが感じなかった事。
そして…
「…サービスは終わりだ…!」
ザングースが平然としていた事だった。
手ごたえの無さに、ザングースが己の身を守る術(すべ)を持っていた事に
マニューラは一瞬気をとられており
その一瞬が仇となってザングースのチャンスを生んでしまった。
ザングースは交差させた腕を振り払うと、その衝撃で風が起こり埃が舞った。
マニューラはとっさに目を庇ったが、次の瞬間に目を庇った事は失敗だった事を知った。
目を庇った事で動きが止まったマニューラの左肩に
ザングースの爪が叩き込まれたのだ。
伸ばした太い黒い爪は、マニューラの黒い体毛に埋まり同化したかのように見えたが
それはすぐに赤い液体を纏わせて離れた事から、別固体である事を主張した。
「あぐぅあッ!!」
叩き込まれた衝撃により、マニューラは床の上へと落とされ
左肩から伝わる激痛に唸り、身をよじる。
爪を叩き込まれた箇所を鉤爪で押さえ、確認すると燻し銀の色は赤く染まっていた。
己から生えている羽根と同じ色。
もし、マニューラの体毛が白であったなら、
新しい羽根が生えたかと錯覚しただろう。
「どうだ?ゼロの島にここまで来ているなら帰りたくも無いだろ。
倒しはしないから、さっさと俺たちの前から去りやがれ」
マニューラに影が乗り、肩を押さえたまま顔を上げると
ザングースがガルーラの如く立って自分を見下ろしているのが見えた。
「それでも去らないって言うんなら倒して強制的に島から追い出すしか…」
ザングースの説教など耳に入れる気の無いマニューラは
視線を彼の背後に移し、そこで戦う部下たちの姿を確かめた。
ドラピオンが自分の尾をストライクに叩き込んでいたのが見えたが、
その横でアーボックがサンドパンの棘に刺さり、苦しんでいた。
324 名前:ゼロの島にて 4/12 投稿日:2009/05/16(土) 01:23:28 ID:aFX2UXID
このままでは向こうが持たない事を悟ったマニューラは
顎を引いて眉間に皺を寄せると、自分とザングースの距離を目で測り
脳内で生まれた閃きにより、鼻を鳴らしてかすかに笑った。
「どうだ?どうするのかはリーダーのお前が決めろ」
ようやく耳に入ったザングースの言葉がそれであった。
あぁ、とマニューラは軽く返し、上半身を起こして両爪を床につけ、うな垂れた。
「そう…だな…そう。
このままじゃダメなんだよ。このままじゃ…」
左肩から二の腕、鉤爪を伝い床へと血が垂れる。
その赤き液体が床の隙間へと吸収され
そこから黒の影がじわりと溢れ出るのを見て
マニューラはザングースが見ることの出来ない顔を、
邪悪で満ちた笑顔で埋めた。
「じゃぁさっさと俺たちの前から消えても……」
消えてもらう─ザングースがそう言いかけた時、
うな垂れているマニューラの異変に気がついた。
体毛の色と同化して気がつかなかったが、
マニューラの身体から黒いオーラが陽炎のように揺れて出ていたのだ。
その瞬間、ザングースはマニューラの足掻きを理解し
とっさに身体を引いた。─だが
「──遅いと言っただろう!」
顔を上げて叫ぶと同時に
マニューラは身体に溜めた黒き悪意のオーラを一気に放出させた。
それはマニューラを中心に円を描くかのように広がり
逃げ遅れたザングースの身体を包んだ。
「ぐあぁあ!!」
電撃と似た痺れが身体全身に駆け巡り、ザングースは悲鳴を上げる。
オーラが身体を抜けた時、彼は膝を崩して後ろへと腰を地に着けた。
頭では動かねばならないと思っているにもかかわらず、
マニューラの込めた悪意がザングースの恐怖心の本能をかきたててしまい
身体が動こうとしなかった。
「くぅっ…」
ザングースは歯を食いしばり、
動こうとしない身体を必死に持ち上げようとした、が─
そのチャンスを逃さんとばかりに、マニューラが動き
軽く跳ね飛んでは前方に1回転し、ザングースの腹の上へと馬乗りになって
左の鉤爪の関節を彼の額に押し付けて動きを封じる形を取った。
「うぶっ」
腹に乗られた重みに、ザングースは息を吐いた。
マニューラの体重は彼よりも軽いとは言え、無防備な状態で乗られてはたまらない。
胃に食料を含んでいた状態でもあったため、胃の中身を吐き出してしまいそうでもあったが
それはいかんと抑えたが、どうせならばせめてもの反撃として
マニューラに吐瀉物をかけてしまえば良かったと後悔した。
「この一撃でやれると思ったけど、まだ弱かったか。
しっかし…本っ当遅いなぁお前」
ザングースの身体の動きを奪った事で
勝利を確信したマニューラは満悦の表情を浮かべて
右腕の鉤爪を左右に回した。
325 名前:ゼロの島にて 5/12 投稿日:2009/05/16(土) 01:25:57 ID:aFX2UXID
「あと、甘いんだよ。
我らのような悪党に情けをかける所とかも、な。
邪魔物はさっさと消すのみ。それが探検者の鉄則じゃないのか?」
ザングースの額に押し当てた鉤爪を力を強めながら回すと
彼は面白いように苦痛に唸りを上げる。
その光景に一種の快感と支配心を覚えながらも、マニューラは暴言を吐き続ける。
「正義感が強いと言うヤツほど口ばっかりさ。
…まぁ、"あの2匹"は例外だけどな」
上下の睫を触れ合わせるかのように目を細め、マニューラはとある2匹の探検隊を思い浮かべる。
ドラピオンがうっかりゼロの島の存在をしゃべってしまった、あの2匹─
「く…っぅ……」
身体を動かす事のできないザングースは額を押さえつけられたまま
首を横に動かし、上目で仲間たちの姿を見る。
長い尾をだらけさせ、舌を出したまま仰向けで崩れているアーボックの姿と
ストライクがその鎌をドラピオンに切りつけんとしている所が見えた。
だが、"あいつ"の姿が─無い。
何処へ行ったのかと思った次に、もしやと思い首を再び動かして
次は下目で自分の足元を見るとかすかではあるが、床に亀裂が走っているのが見え
そこでザングースは"あいつ"の行動の意図を読んだ。
「ん?ちっ…向こうはそろそろ持ちそうに無いね」
マニューラは自分の正面で繰り広げられいている光景に気がついた。
「でもまぁ…リーダーであるお前を倒しちまえば
お前らはこのゼロの島から強制的に追い出される。
あの砂鼠が復活のタネが残ってない事をベラベラ喋ってくれたしな。
いい部下を持って恵まれているなぁ、お前。
あぁ、でも心配するな。お前らの道具はちゃぁーんと我らチームMADが
有効的に使ってやるからさ」
そう言うと、マニューラはザングースの額を押さえる力を更に増し
右腕を伸ばして背後に回して鉤爪を鈍く、光らせ─
「消えな」
赤い瞳の瞳孔を細く尖らせ、牙を剥き出して、笑った。
326 名前:ゼロの島にて 6/12 投稿日:2009/05/16(土) 01:28:35 ID:aFX2UXID
だが、その笑顔は一瞬にして真顔に戻った。
背後から、大地が砕け散るような音と振動が響き
反射的にそれへと振り返ろうとしたが
首を肩へと回したところでマニューラは左の脇腹に強い衝撃を受けた。
一瞬見えた、脇腹に叩き込まれた物体に見覚えがあった。あれは…。
叩き込まれた勢いでマニューラの身体は横へと吹き飛び、壁へと胸を叩きつけられた。
「はっぐあっ…!」
叩きつけられた壁がへこみ、クモの巣のような亀裂が走る。
その亀裂の衝撃はマニューラの胸にも広がり、
壁を鉤爪で引っかきながら呻き、地に脚と腰を落とした。
肋骨が折れたかと思うほどの激痛が走り
歯を食いしばって顔をしかめると、額から脂汗がどっと流れ出た。
「ふぃー…危ない危ない間に合ってよかった。
大丈夫?リーダー?」
砂煙が徐々に薄れゆく中で、今のように呟いた者の姿が確認できた。
黄土色の身体に茶の棘を背から生やした─サンドパンの姿が。
アーボックを倒した彼は、ザングースの危機に気がつき
マニューラに悟られないよう地中の中に潜り、攻撃のチャンスを窺っていたのだ。
そしてそのチャンスを見事に物にし、リーダーであるザングースの危機を救ったのだ。
「こ…の……はっ…砂鼠が……っ
卑怯だ…ぞ……くぅっ……」
肩で息を繰り返すマニューラが、勝負を邪魔された怒りをサンドパンにぶつけるが
彼はケラケラと笑って爪を軽く揺らす。
「リーダーが負けちまったら元も子もないしぃー。
それに俺はあの蛇を負かせたし、やる事無かったからねー。
いい部下を持って恵まれてるでしょ?ねぇリーダー?」
自分の行動を悪いとも思わないサンドパンが、
マニューラがザングースに吐いた皮肉をわざと口にし、ザングースに同意を求めるが
彼はそれに答えず、首を傾げつつ己の腹を黒い爪の生えた手でさすっていた。
そこはマニューラが乗っていた部位である。
「……うーー…ん…?」
「リーダー?どしたの」
「いや…うーん……?何か違和感があってさ。
乗っかられた時…」
「乗られた時?」
「っと……んー…"無かった"……気がするんだよなぁ……」
「無かったって、何が?」
爪を口元にあてサンドパンが首をかしげた時
ストライクの鎌がトラピオンの顎にヒットし、
ドラピオンはストライクへと毒液を吐き、そのまま後ろへと倒れこんだ。
「あ、ストライク大丈夫か?」
「ぐ…ぅ…毒を喰らった……動けん……」
毒液を頭から被ってしまったストライクは頭を左右に振るい、
ザングースとサンドパンへ今のように言い、
広げた翅を閉じるとドラピオンの腕に乗るように腰を落とした。
327 名前:ゼロの島にて 7/12 投稿日:2009/05/16(土) 01:31:55 ID:aFX2UXID
「ありゃー。モモンの実は残ってなかったなぁ…
まぁそこで座ってれば毒は全身に回らないし
後で階段を探してさっさと次に進めば毒は浄化されるから
しばらくそこで大人しくしててよ」
「あぁ、そうしておく……」
大きなため息を吐き、ストライクは肩を落とした。
それを確認すると、サンドパンはザングースへと視線を戻し
先ほどと同じ疑問を問いかけた。
「でさー、リーダー。
無かったって何がさ?」
「あぁ、そのー…俺にもお前にも、ストライクにもあるハズのモノがさ。
馬乗りになられたら当たるハズだと思うんだけど─」
「あぁ、チンコ?」
「…はっきり言うなよお前…」
わざと暈しながら答えを導いてやったというのに
サンドパンがすんなりとその答えを口に出したので
ザングースは呆れながら自分の額を掌で押さえつけた。
「なぁーんだ、チンコがねぇって言……
え、ちょ!えっ!?えっ!!?えぇっっ!!??」
サンドパンは大慌てでザングースとマニューラを交互に見返し
背の棘を振り回した。
ザングースは腹を擦っていた手と額に押し付けていた手を離し、
腕を組んでマニューラの全身を頭部からつま先までまじまじと眺め、
うなじの左右から1本ずつ生えた赤い羽根に目を留め
1回、大きく瞬きをした。
「…あー。やっぱりそうだ。
おい、お前さ、もしかして…」
「メス?なのか?」
「なっ!?」
ザングースの問いかけに、ストライクまでもが翅を開いて反応した。
マニューラは息を大きく吐き出し、壁に寄りかかったまま
ザングースを睨みつけ
「……それが…どうって言うんだ…?」
くっと歯を食いしばり、彼女は言葉を吐きつけた。
「言葉使いからちょっと妙だとは思っていたが…
うなじの羽根が確かに短い。見分けが付き難くいが、マニューラのメスの証拠だ」
腕を組んだまま、ザングースが軽い戸惑いを上下に降る尾に表わしつつ
感心したかのように呟いた。
「なぁーーんだよ、マジでメスだったのかよ。
俺、てっきりカマなのかと思っていぐぉわあッ!!」
言葉を言い終わる前に、サンドパンの顔面に闇の球体が投げつけられ
彼はそのまま後ろへと吹っ飛び、背の棘を地へと刺した。
「こっの…砂鼠…っつぅ……」
「おいおい、そんな身体でシャドーボール放って平気?」
ひっくり返ったサンドパンを見もせずに、ザングースはマニューラの身体を気遣った。
「ほざけ!まだ勝負は終っていない!!」
だが、マニューラは震える膝を鉤爪で押さえながら、壁を利用して立ち上がる。
だが背は丸まり、腰も落ち気味である所から勝敗を決めるとしたら既に明らかだった。
仕方ない、とザングースは息を吐いて組んだ腕の爪を、マニューラに向けて軽く曲げた。
「じゃ…先制を譲ってやるぜ?お嬢さん?」
328 名前:ゼロの島にて 8/12 投稿日:2009/05/16(土) 01:34:38 ID:aFX2UXID
「っざっけるなああぁ!!」
叫ぶと同時に跳ね飛び、鉤爪に黒き悪意を纏わせるが
その動きに先ほどの敏捷さは全く残っていなかった。
ザングースの懐に飛び込もうとした時、彼が身体を横にそらし
マニューラの背の上に右腕を掲げた。
「─はっ!!」
そのまま腕を残像が見えるくらいの速さで振り下ろし、
マニューラの背へと爪を引いた拳を落とし込むと
彼女は叫び声を上げる間もなく床の上へと叩き落された。
背と胸に強い衝撃が走り、マニューラは牙をむき出して口を開いたが、声は出なかった。
短い息を吐くと、唾液が散った。
「かっ……!はっ……っ…!」
「安心しろ。まだこの島から追い出すマネはしないから。
でもちょっと往生際が悪くないか?お嬢さん」
「…っ…っ……ざ…け……ッ!
このっままで……」
─終らせるか─
マニューラは両肘を曲げて鉤爪を地につけ、ザングースを睨んだ。
立ち上がる力はもう残っていない、ならば動かずにザングースを倒すだけと
黒い体毛から黒い影をゆっくりと生み出させる。
「─!」
マニューラから発せられる黒い影を見て、ザングースは身を引─
「遅いと!」
─言ったはずだ!─
心の中で絶叫し、悪意の黒きオーラを放とうとしたその時、
マニューラは地につけていた鉤爪の両手首を後ろから掴まれ
そのまま上へと持ち上げられ、自分の腰へ手首を交差させる格好で押し当てられ
彼女の身体に纏っていたオーラは虚空へと溶け逃げしまった。
「っ!?」
何が起こったのか、マニューラは理解するまで少し時間がかかった。
だが、自分の左肩に重みを感じ、そこに乗ったモノに気がつき理解した。
「ふー、危ない危ない。リーダー。これで俺への貸し、2つね。
だからリンゴ食ったのは許してね?」
サンドパンがマニューラの腕を奪い、彼女の肩に顎を乗せて自分の懐に入るように彼女を捕らえていた。
「この砂鼠…1度ならず2度もか……!」
「だぁーからさっきも言ったでしょ。リーダーが倒されちゃぁ困るの。分かるでしょ?」
左爪でマニューラの両手首を掴みなおし、右腕を彼女の腹に回して
逃れられないようにと爪で身体を押さえつけた。
329 名前:ゼロの島にて 9/12 投稿日:2009/05/16(土) 01:38:00 ID:aFX2UXID
「なぁリーダー」
「何だ?」
「コイツ、すっげぇ往生際が悪いからさぁ、さっさと追い出しちゃえば?」
「まぁそうだけどな。あとは強盗容疑でジバコイル警部に引き渡すとかか」
「でも何でかお尋ね者として指名手配されてないんだよね?」
「ふん…警察に通報したら復讐してやると脅迫してんだよ」
サンドパンの腕の中で身をよじりながら、マニューラは勝ち誇ったような笑みを浮かべて言う。
「なら、俺たちが通報すればお前らは晴れてお尋ね者の身だな」
「…くっ……」
「っかし、メスだったなんてマジ分からなかったなぁ。
何でオスの振りなんかしてたのよ?」
マニューラの腹の体毛に爪を埋めながら、サンドパンが問うと
彼女は吐き捨てるように答えた。
「…別にオスの振りをしていたわけではない。
お前らが気がつかなかっただけだ」
「あー、まー、そうですけどねー」
「つぅか…メスならチームチャームズやチームフレイムやチームマックローと組めばいい物を」
ザングースが近づき、マニューラの右首の羽根を撫でようとして左腕を伸ばすと
触らせまいとマニューラが首を動かして彼の腕に噛み付こうとしたので
腕を引き、自分の腰にその手をつけた。
「ほざけ!鳥は餌にしかならんし、炎となんざ御免だね。
それにあの、メスの武器に頼るしか能のない者などと組めるものか!」
牙をむき出し、吐き捨てる。するとザングースはマニューラのその行動に
何かが引っかかるのを感じた。
「ん?何、チームチャームズに対してはヤケにつっかかるんだな」
「ふん…あいつらとは昔からの因縁があるんだよ……」
「あー、あと嫉妬とかぁ?」
「ほざけこの砂鼠!!」
サンドパンの言葉がマニューラの怒りの壷を突いたようで
彼女はますます身をよじるが、両手首を押さえつけられた状態ではまさに焼け石に水であった。
「しぃっかし…メスなのに随分攻撃的だよなぁ。…本当にメスなの?
やっぱりカマなんじゃないの?」
マニューラの幾度とない暴言により、彼女の性別に疑問を持ったサンドパンは
腹に当てていた爪を、体毛に埋めたまま彼女の胸元へと滑らせ
赤い付け襟の下へと潜り込ませた。
「なっ!」
「んー、ん?胸あるのか無いのかわからなっいっぎゃっっ!!」
付け襟の下でマニューラの胸を揉みしだしていたサンドパンが
自分の右脛に走った激痛に声を上げた。
胸を触られたマニューラが、脚を後ろに振り下げて彼の脛を蹴ったのだ。
330 名前:ゼロの島にて 10/12 投稿日:2009/05/16(土) 01:41:25 ID:aFX2UXID
「このっ!変態砂鼠めが!!」
胸を触られた怒りか、胸が無いと言われた怒りか、それとも両方の怒りなのかもしれない。
マニューラはサンドパンを罵り、尚も脛を蹴り続ける。
「いてっ!いてっ!いててててててて!!
こ、この黒猫カマ野郎〜つけ上がりやがって!」
脛に与えられる痛みに涙目になったサンドパンは、彼女を抱え込んだまま後ろへと寝転がった。
そして右腕をマニューラの右膝裏へと回しこみ、股を広げさせる格好を取らせた。
「!」
マニューラはサンドパンの行動の意図を読み、左足で股を閉じたが
右足を浮かされた状態では上手く力が入り込まないでいた。
「リーダー。コイツ本当にメスなのかマジ気になるからさぁ。確かめてよ」
「…っの……」
歯を食いしばりながら、牙を剥き出して肩に顎を乗せたサンドパンを睨む。
「確かめるってもなぁ…うなじの羽根が証拠だろ?」
「でも俺にはよくわかんねーよ。オスのマニューラと並べてみないと。
かと言ってもオスのマニューラここにはいねーしよぉ」
「まぁそうだけどなぁ。うーん…」
右頬を軽く掻いてマニューラの身体を眺めるが、
牙を剥き出しながら唸る彼女の形相に気が怯んでしまって仕方ない。
「…おい、お前ら……」
横から声をかけられ、サンドパンとザングースが声の主へと視線を向ける。
「ん?何だストライク」
「それは…あまり…褒められる行動ではない…ぞ……」
ドラピオンの腕に座ったまま、毒の影響で荒くなった息を抑えながら
ストライクが今のように言うと言うと、忠告を受けたサンドパンは不満に頬を膨らませた。
「わー、ストライクってば武人ー」
「真面目だよな。うむ。けどなぁそう言われると…」
ザングースは自分の腰に当てていた手を離し、
マニューラと向かい合わせになるように膝に地をつけて、彼女の左足を掴んだ。
「逆の事したくなるんだよなぁ?」
「く……」
マニューラは顔をしかめて歯を食いしばる力を込めて威嚇するが
それも虚しく、ザングースは易々と彼女の足を開かせた。
右手で足を押さえながら、
豊かな体毛に覆われているせいで見つけにくいのか
左手でマニューラの股下を探り続ける。
その度に、マニューラは軽く身体を震わせては唸った。
ザングースは人差し指に小さな粒が当たった感触を覚え
そこの体毛を指で割ると、1本の筋とその上部に女性における核があるのを見つけた。
それを見て、ザングースは自分の胸の鼓動がやや早くなったのを感じた。
「わ……あー…メスで間違いない。あるわ」
ザングースがそう言いながら割った体毛を指で直すと、サンドパンが声をかけた。
331 名前:ゼロの島にて 11/12 投稿日:2009/05/16(土) 01:45:27 ID:aFX2UXID
「あ、マンコ?マンコあるんだ!?」
「…だーからはっきり言うなって…」
「じゃぁコイツマジメスでカマじゃねーんだ?」
「……もうメスと分かったなら十分だろ。離せ砂鼠野郎」
マニューラは押さえつけられた右足を懸命に動かしながらサンドパンを罵る。
そんな彼女を見て、ザングースは眉を顰めて鼻でため息を吐いた。
「なぁマニューラ」
「…何だ」
「そのさぁ、お前メスならもうちょっとメスらしくしたらどうだよ?
多分俺たち以外にもお前がオスだと勘違いしているヤツはいると思うぞ?」
ザングースのその言葉に、マニューラは鼻を鳴らして嘲笑う。
「はっ。こう言う性格なんでね。今更変える気などもおきないよ。
それにオスと思われたほうが好都合だ。メスだと舐められかねんしな」
「へぇ…勿体無いじゃねぇか」
ザングースは背を伸ばし、マニューラの左足を自分の両足で挟むような格好で
サンドパンが押さえる彼女の身体に乗り上げた。
「…どう言う意味だ?それは」
「いやー、だってよぉ……」
ザングースの"勿体無い"の意味が理解できないマニューラが睨むと
彼は彼女の右のうなじから生えた羽根を、爪と爪の間に挟んで梳くように撫でた。
「結構綺麗じゃん?お前」
時が止まったかのような静寂が訪れた。
ザングースの言葉により、マニューラの思考までもが止まった。
分かるのは、自分の目の前にザングースの顔があると言うだけだ。
ザングースはそんなマニューラの混乱を知らずに、再び羽根を撫でる。
「それがオスと思われてもいいなんて思っちまうなんて本当勿体ねぇ」
なぁ、そう思わないか?と、サンドパンへと同意を求めた時、
マニューラの頭脳で何かが弾け、思考が正常に動き出し─
「……さげるなああ!!」
思い切り、左足を上へと振るい、ザングースを蹴り上げた。
生暖かく柔らかい何かが膝でつぶれる感触が伝わり
それが何かを知っていたマニューラは嫌悪から吐き出しそうになった。
─だが、実際吐き出しそうになったのはマニューラではなく、ザングースの方であった。
332 名前:ゼロの島にて 12/12 投稿日:2009/05/16(土) 01:50:46 ID:aFX2UXID
「…か…が…あ……」
股間を潰され、脳天からつま先まで
ライチュウの雷以上の電撃が駆け巡り
背の毛は逆立ち、マニューラの羽根を撫でていた手を震わせ、
それは手だけでもなく全身に伝わっていた。
目の玉が飛び出んとばかりに目を見開き、瞳孔は小さな点となり
牙を剥きだした口からは、短く浅い息を吐き出し
飲み込めない唾液が溢れ出ていた。
ザングースは震える身体でマニューラから離れ、
自分の股間を右手で押さえながら膝を立てたままうつ伏せになった。
「ぐー…うー…づっ…ううぅぅぅぅ〜〜〜……!!」
左爪で床を叩きながら、痛みに耐え、それが去るのをひたすら待つ。
そんなザングースの情けない痴態を目の当たりにし
サンドパンは(マニューラを抱えながら)文字通り腹を抱えて爆笑した。
「ぶわっはっちょ!リーダー!
何やってん、ぶは、ぶわはははははは!情けなー!!
ぶははは、ぐぇっほ、げぇっほ…ふはっはははっはーはっはははは!!」
馬鹿笑うサンドパンと男のシンボルを砕かれたザングースを見て
ストライクは「あぁ…」と泣き出しそうな声で情けない、と、目頭を押さえた。
「ぐはー…はぁー…こ、この氷猫がぁ…ぁ…」
頬を床に押し付け、ザングースはこの苦痛を与えたマニューラを睨みつけるが
彼女は下目で見下し、失笑した。
「人の性器を見て触っておきながら、自分は触られただけで怒るのかい?
ちっさいオスじゃないか。えぇ?白鼬さん?」
「い…今のは…触れるの限度…を、超え、てん、だ、ろ、おぉぉぉ…」
未だ抜けぬ痛みに耐えながら、彼は息を深く吐き、
ある程度動けるようになった時に上半身を起こし上げ
マニューラが言ったセリフを脳内で反芻し、ニヤリと口の端を上げた。
「ふぅん…そうかぁそれは失礼な事をしたな?」
本当ならば、二度と自分たちの前に姿を現せない事を誓わせた後に
チームMADを解放するつもりではあった。
だが、マニューラのしつこい足掻きと抵抗と、
痛みの怒りで彼の理性はやや焼き切れ掛かっていた。
「そうか、そうーか!つまりは同じ事をしたい上に、されたいんですね?お嬢さん?」
そう言うなり、ザングースはマニューラへの左足を開かせて
その間に自分を挟む格好で彼女へと乗りかかる。
「…どう言う意味だ?」
目を細めながらマニューラが問うが、その答えは知っていたがあえて聞いてみる。
するとザングースは彼女が脳内で思い浮かんだ答えと同じ言葉を─吐いた。
「決まってるんだろ。…犯す…!」
そう言うなり、ザングースはマニューラの付け襟の下へと手を潜らせた。