月に一回、満月の夜に合うのが、俺達の約束だった。今日は珍しく俺が先に約束の地に着いた。  
いつもは俺がここに来ると、あいつが首を長くして待っているのだ。  
周りには、誰もいない。穏やかな風に吹かれながら、天を仰いだ。  
雲一つない空には無数の星が散りばめられ、その中で一際大きく光る、月。  
月は、太陽の輝きを映す。しかしそれはただの鏡ではない。太陽の輝きを受けた月は、眩しさを落ち着いた光にかえて、俺達にその光を届ける。  
太陽の輝きを受け、進化した俺にはわかる。  
月が発しているように見えるこの淡い光は、確かに太陽の輝きだったが、月に映される事によって全く別のものになっているのだ。  
 
「・・・なーんて、な」  
俺はいつの間にロマンチストになったんだ。上に向けていた首を下げる。  
さて、あいつはまだ来な・・・  
「なにがなーんてな、なの?」  
「ふぎゃッ!」  
突然背後から話し掛けられ、全身の毛が逆立った。  
聞き慣れた声のはずなのに、こうもビックリしてしまうとは・・・。  
「お、おま、いつのまに・・・」  
「さっきからずっと居たよ。エーフィたら、ずっと空を見てて、話し掛けても返事してくれないし・・・」  
彼女の言うずっとは、多分相当長かったんだろう。そういえば見上げてた首が痛い・・・。  
「悪かった、ブラッキー。ちょっとぼんやりしてた」  
「もう・・・、嫌われちゃったのかと思ったよ」  
「そ、そんなオーバーな・・・」  
「ふふ、冗談よ」  
からかわれてしまった。  
「それにしても、いくら突然話し掛けられたからってふぎゃっ、はないわよ」  
う、そこをあまりいじらないでくれよ・・・本当にビックリしたんだからな。  
「あ、そうそう、遅れちゃってごめんね。抜け出すのに時間かかっちゃった」  
「ああ、別に気にしてないぜ。普段は俺が遅れてるんだから」  
「私が来るのが早過ぎるだけよ」  
まあ、きっかり何時に来るかなんて決めてないしな。  
ブラッキーは、ある金持ちのニンゲンに飼われているのだか、ひょんなことから彼女と出会い、仲良くなった。  
それから月に一度、ここで会うと約束したのだ。  
・・・俺?俺はごく普通の野性だけど。  
 
「今日も月が綺麗だな」  
「ええ、本当に」  
二人で寄り添い、一緒に満天の星空を見上げた。互いの尻尾を交わらせ、仲良く座る。  
穏やかな風に吹かれ、草たちがさわさわと音を奏でる。それがまた、心地よい。  
月の光に照らされ、ブラッキーの綺麗に整えられた黒い体毛は鈍く、でも艶やかに輝いて見えた。  
ブラッキーなら、この月の光がどういうものなのか分かるのだろうか。  
「月の光?うーん、そうね・・・  
 エーフィみたいな、優しい光だよ」  
問うと、そう返ってきた。  
「なんだよ、それ」  
ふふふ、とブラッキーは笑った。  
「私を優しく包んでくれるってことよ」  
そう言うと、ブラッキーは俺に寄り掛かった。彼女の体は軽く、まるで羽が触れたようだった。  
一月ぶりに彼女の温もりを感じる。胸が、高鳴る。もっと彼女の温もりが欲しくなった。  
「ブラッキー・・・」  
仰いでいたブラッキーを呼び、こちらに向かせてすかさず押し倒し、彼女の唇を奪う。  
「んっ・・・」  
突然のキスのつもりだったが、彼女は慣れていた。すぐに俺の舌を受け入れてくれる。  
くちゅ、くちゅと厭らしい水音を立てながら、体をくねらせ、抱きあう。彼女の温もりが、体中に広まっていく。  
・・・この温もりが自分だけのものにならないと思うと空しくなる。そのせいで、いま与えられるそれを貪ってしまう。  
そんな自分に歯止めをかけ、彼女から口を放した。銀に煌めく糸が二人を繋ぎ、やがて落ちて消えていった。  
「はぁ、はぁ・・・エーフィ・・・」  
愛しの雌が、真っすぐこちらを見ながら俺の名を呼ぶ。  
「はじめようか、ブラッキー」  
彼女は静かに頷いた。  
顔をブラッキーの胸にうずめ、彼女の体を舐めだした。同時に、彼女の香りも愉しむ。  
「あっ・・・エーフィ・・・ひゃあっ」  
彼女の体にある複数の突起の一つを舐めると、一際大きな声が上がった。  
俺は、複数の突起を一つずつ刺激した。その度に彼女が喘ぎ声をあげる。  
全ての突起を刺激した後、舌を這わせながらブラッキーの下に向かう。  
「可愛いよ、ブラッキー」  
「ん・・・もう、エーフィたら・・・」  
顔を赤らめ、細くした目でこちらを眺める彼女は、とても可愛かった。  
 
目的のものは、そこにあった。さっきとはまた違う突起と、甘い香りが溢れる湿った割れ目。  
エーフィはそっと手を伸ばし、その湿った割れ目に触れた。  
あっ・・・、と声を漏らすブラッキー。触れた手に生暖かい愛汁が付いた。  
「エーフィ・・・じらさないでよ・・・」  
快楽を求めるブラッキーに応え、俺は甘い香りのする秘所を舐める。口のなかに甘酸っぱい彼女の味が広がった。  
「あっ・・・。気持ち、いいよ・・・」  
手で彼女のクリトリスを弄りつつ、口で秘所を覆い、舌を割れ目の奥へ侵入させる。さらに舌を動かし、彼女の内部すら舐める。  
「エーフィっ・・・あぁ!」  
強い快感がブラッキーに襲い掛かる。ビクン、ビクンと身体が小さく跳ねている。  
 
やがて、彼女はその快感にのまれ絶頂をむかえた。  
「はあっ、エーフィっ!イ、イっちゃう・・・イっちゃうよぉ!」  
俺の名を叫びながら、ブラッキーはイった。潮を噴く寸前に口を離したお陰で、顔中に彼女の愛汁を浴びてしまった。  
「はあっ、はあっ・・・エーフィ・・・」  
「ふぅ・・・気持ち良かったか?ブラッキー」  
彼女はコクンと頷いた。  
「・・・今度は、私の番ね」  
彼女はそういうと、寝そべっていた身体を起こし、俺にさっきと同じ体制をとらせた。  
「あんまり無茶しなくて良いんだぞ?」  
「無茶なんか、してないよ」  
言葉を交わすと、ブラッキーは俺の大きくなったモノを口に含んだ。  
「んっ!」  
敏感になっていたためか、思わず声を漏らしてしまった。  
ブラッキーは舌をモノに這わせたり、吸ったり、両手で弄ったりする。彼女も、フェラには慣れていた。  
先走りの汁が俺のモノからどんどん彼女に吸い出されて・・・とても、気持ちがいい・・・。  
「はぁ、はぁ、ブラッキー・・・っ!」  
強い刺激を受けた身体は、ビクッ、と大きく揺れる。どうやら、甘噛みされたみたいだった。  
「ブラッキー・・・!もう、イきそうだ・・・ッ」  
それを聞いたブラッキーは口に含んだまま、ん、と返事をし、顔を前後させて一気に吸いだそうとする。  
「あぐっ・・・ブラッキー・・・はぁっ!」  
彼女の口の中で、絶頂を迎える。俺の欲望を吐き出す。  
喉を鳴らし、飲み込むブラッキー。口の中の精を全て飲み終え、モノから口を離した。  
 
「ふぅ・・・エーフィ・・・」  
「ん・・・ブラッキー、気持ちよかった」  
彼女の、にっこりとした可愛らしい笑顔が返ってきた。  
「エーフィ、そろそろ・・・」  
「あぁ、分かってるよ」  
ブラッキーがこちらに腰を向ける。俺は、彼女に腰を重ねた。  
「エーフィの・・・ちょうだい・・・」  
もちろんさ、ブラッキー。  
ゆっくりと、腰と腰とを近づける。ブラッキーに、俺が沈んでゆく。やがて、ぴったりと重なり合った。  
「動くよ、ブラッキー・・・」  
「うん・・・」  
そっと、腰を動かし始めた。彼女から引き抜き、再び沈める。だんだんと速くなり、結合部からはじゅぷ、じゅぷと厭らしい水音があふれた。  
二人の腰が、二人の尾が、二人の喘ぎ声が重なり合って、一緒に絶頂へと駆け上る。  
「はぁっ・・・はぁっ、エーフィッ」  
「ブラッキー、俺は、ここに、いる・・・ッ」  
ピストン運動は最高速に達し、俺は激しく腰を打ち付ける。  
ビクビクと、俺のモノが絶頂が近いことを告げる。  
「ブラッキー・・・もう、イくッ・・・!」  
「エー、フィ・・・お願い、中に・・・出して・・・」  
ブラッキーとは、幾度と身体を交えた。が、彼女はニンゲンに飼われていて、俺は、野生。俺が彼女を孕ませる訳にはいかないのだ・・・。  
「エーフィ・・・私、エーフィと・・・一緒に居たいの・・・」  
「だ、ダメだ・・・ブラッキー、君は・・・」  
俺の中で、俺自身と葛藤する。彼女をものにしろ!いいや、ちゃんと帰すんだ・・・!彼女を孕ませろ!中に出しては、いけない!  
 
・・・本当の俺は、何処にいる・・・?俺は、ブラッキーを・・・どう想っている?  
そんなこと、考えたこと無かった。・・・いや、考える必要なんて無いじゃないか。俺の気持ちは、心は・・・  
 
「あぐっ・・・あっ・・・がぁっ!」  
「エー、フィ・・・あぁっ!」  
そして、二人で絶頂に達した。ブラッキーに、挿入したまま。  
「はぁっ・・・はぁっ・・・」  
ブラッキーから、自分のモノを抜く。呼吸が、未だ整わない。  
「はあ、はあ・・・エーフィ・・・」  
なんとか、呼吸を整えた。さあ、彼女に伝えるんだ。本当の、俺を。  
「ブラッキー・・・  
 俺と一緒に、来てくれるか・・・?」  
この言葉は、今まで言えなかったものだった。この前の、さらにその前の満月の夜も伝えられなかった、言葉。本当の俺。本当の気持ち。  
「エーフィ・・・。ずっと、ずっと待ってたんだから・・・」  
「すまなかった、ブラッキー。今まで、自分に素直になれなかった。でも、ようやく自分に素直になれた」  
「もう・・・遅すぎよ・・・。でも、よかった。  
 これからは、ずっと・・・一緒だからね・・・?」  
あぁ、もちろんだ。そんな意味も込めて、彼女にキスをした。  
 
今日の月は、一段と輝いて見えた。さっきの俺の空しさは、月の光に浄化されたみたいだった。  
 

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