目が覚めると、君は全裸になっていた。
「キミどうしたの?!大丈夫?!」
最初に聞こえたのはその声、
最初に感じたのは何だかスースーした感覚と
チクチクとした痛みだった。
「…えっ?!」
スースーするのも当然だ。
自分は一糸纏わぬ姿でつまり裸で
いわゆるヌードで要するにマッパだった。
ここは見知らぬ海岸で、
肌を刺すような痛みは
湿った素肌に張り付いた砂のせいだった。
「ええ〜っニンゲンだって?!
でもキミ、どこから見てもキモリだよ?」
目の前のミズゴロウにそう言われて、
慌てて水面に映る自分の姿を確かめる。
確かに、自分はキモリになっていた。
だがいくら姿がポケモンになっていたからって
心は人間のままなのだ。
うわあああ自分全裸だよ、という意識は消えない。
何故自分はポケモンになっているんだろう、
という疑問はもちろんあったが
数多くのポケモンの中で何故キモリなのか、という疑問は
不思議と湧いてこなかった。
キモリの姿に何となく愛着を感じる理由を
彼女が知るのはまだもっと先の話になるわけだが、
とにかくキモリの姿であるということには
あまり違和感がなかったので
意識はつい全裸的な方向へ流れた。
人間だった頃は(多分)全然気にしていなかったのに、
こうして同じポケモンの姿になってみると
今自分と喋っているこのミズゴロウも全裸なんだよね、
なんてことが気になって仕方なかった。
この子はオスなのかメスなのか?
四つ足で歩くミズゴロウなので肝心な部分はちょっと見えない…
(…って、何を考えてるのわたし!!)
彼女はブンブンと頭を振って、
ミズゴロウの前を歩くことにした。
後から付いていくのでは、気になって気になって
アレな辺りをガン見してしまいそうだ。
全裸全裸全裸全裸、
という単語は常にどこかでぐるぐるしていたが
それからは怒濤の展開だったので
あまり強く意識はせずに済んだ。
が、成り行きで探検隊やろうよということになって
トレジャータウンへ来てみるとまたちょっと事情が違う。
いつ命を奪われるかもしれない
緊張感漂うダンジョンの中とは違って
こう、生活感溢れる穏やかな街中となると
何というか、より全裸感が強まった。
皆、ジロジロと好奇の視線で彼女を見ている。
ポケモンたちに他意は無く、
単純にこの辺りじゃ見ない顔だな、
キモリなんて住んでたっけ、的な意味合いで見ているのだが
彼女からすれば裸の自分を視姦する
舐めるような視線にしか思えない。
彼女がもじもじしているうちに
いつの間にか話は進んでいたようだ。
「ねえ、多分キミのことを言ってるんだと思うよ?」
ギルドの前でミズゴロウにつつかれ、
彼女は我に返った。
『そばにもう一匹いるな。オマエも乗れ』
地面の下から声がした。
「えっ、の、乗るって、アレに…?」
「うん、そうじゃないかな」
地面には木で組まれた格子があって、下には誰かがいるようだ。
足形で訪問者が誰かを見極めているようだが、
あんなところに乗っかって
下から見上げられたら…!!
『そこにいるもう一匹!早く乗らんか!』
地面からの声に急かされて、
彼女は震えながら格子の上に乗った。
きっと自分は気にしすぎなのだ。
現にミズゴロウだって
トレジャータウンで暮らしているらしい他のポケモンたちだって
余裕で全裸じゃないか。
だから、だから、
下から覗かれたらその、丸見えとか
そういうことは考えちゃいけない…。
だれの あしがた?
だれの あしがた?
歌うような声と共に視線が突き刺さるのを感じる。
(や、やだっ)
足の付け根の辺りが少しぬるっ、とした気がした。
きっと気のせいだ、
いやほら、キモリの肌って結構しっとりしてるから
多分それだ。
えーっとぉ…。あしがたはぁ…。
まるで彼女をいたぶるように
地面からの声は間延びして響く。
(まだ…?まだなの…?)
つ、とぬめる滴が伝い落ちた、ような気がした。
(いやっ!)
思わず足を捩るときゅいっ、と格子が軋む音がした。
その音がかえって地中の視線を集めてしまいそうだったので
彼女は健気にふとももに力を入れて、
精一杯内股になって少しでもアソコを隠そうと必死だった。
尻尾をうまく使えば
もうちょっとどうにかなるのかもしれないが、
まだこの身体に慣れない彼女には無理な芸当だった。
ミズゴロウに比べて倍近い時間をかけて
じっくりと吟味された後、
彼女もギルド内へ立ち入ることを許された。
ずっと力を込めていたせいで
未だぷるぷる震えの止まらないふとももを励まし
どうにかこうにか梯子を降りる。
…いや待てよく考えたら全裸で梯子を降りるなんて
ぱっくり開いている所をじっくり御覧下さい状態じゃないか?!
限界に近いふとももを酷使して
なるべく素早く梯子を降り
ペラップとミズゴロウのやりとりを
右から左へ聞き流しつつ
もうはっきりと感じられる割れ目の湿り気を
何とか誤魔化そうともじもじふとももを擦り合わせる。
だがそうするとくちゅっ、と潤んだ音が響いた気がした。
(ああ…もう、わたし、どうしたらいいの…?)
頬を赤らめ身体を震わせ彼女は途方に暮れる。
だが嘆くのはまだ早い。
彼女はこれからただの全裸ではなく
全裸にバッグやリボン、バッチ、スカーフといった
より変態度ランクがアップした格好で
町を闊歩することになるのだから。