両羽で抱かれ、キスをくれる。入ってきた嘴は優しかった、私の嫌がる事はしない そう感じた私は彼に身を預けた。
優しいが、彼は貧欲に私の体を求めてきた
全身を求めるように抱きつかれ、心を通わせたいのか胸が強く接する。"預けるだけじゃだめ"
私は、彼の背中に腕をまわして彼の思いを受け止めた。
彼のキスが舌を交わすまで激しくなる。もう言葉を発する必要は無い。感情はキスで解る
彼とのキスは甘かった。一旦彼の顔が見たくなりキスを中断してゆっくり瞼を開く
どんな絵画の巨匠が描いたポケモンや人間よりも素晴らしい表情をしてる。
こんな雄が女を金で買うのかしら――そう考えて居ると、彼は考えを読んで私に答えをくれた。
「貧困街のある空き家の壁に、大きなこの街の神様の絵を描いたのはお前だろう?」
「え、あー うん」
確かに描いた。一瞬だけ見えたあの青い神様を本能的にスケッチしたんだ
「その空き家を勝手に借りているのだがな、なんだか……こう……
もっと絵を見たくなった、あの絵を描いたお前を知りたくなった
いっそのこと手に入れてしまいたくなった」
「それで……私のパトロンに?」
「ああそうさ、正直体なんて興味は無かったのさ
さて……」
彼は咳払いをして、かなり高く鳴いた。
「このアパートはお前にやる。画家にはアトリエが必要だろう?
それと、人間の金だ。画材は人間の店で質の良いものを買うがいい」
かなりの数の羽音がする。彼のファミリーが集まってきたのだろうか?
「続きは今度な。今は好きな絵を描いてくれ
芸術的なキスだったよ チャオ!」
彼は窓から飛び立って行ってしまった
その金で人間の店からキャンパスをいくつかと、布地と釘を買った。
どうしても拭いきれないもやもやをキャンパスに叩きつけるように尻尾の絵の具を盛ったり、爪で削ったりした。
それを書き終えても、まだ胸のもやもやは晴れない。イーゼルに新しいキャンパスを立ててこみ上げるモノを全て出し切るように尻尾を動かした。
「まだだ。キャンパスだけでは足りない」
キャンパスに描いた二枚の絵を剥がし、額縁もないまま適当に壁に貼る。
二つのキャンパス用の木枠を縦に繋げて釘を打ち、布を貼る。キャンパスに触れるのは初めてだけど、使い方はなんとなくわかる。
パノラマ風味なキャンパスを外用にするつもりだったイーゼルといつものイーゼルを使ってきちんと固定する。
胸から溢れるような、むしろ胸に足りないような感覚をまだ叩きつける。
パノラマと言っても、目に見える限りの風景画を描くわけではない。目の前は真っ白だ。その白を黒の尻尾の絵の具で染めていく。
どんどんキャンパスを染めていく、でも心を染めたあのポケモンは消えない。布のロールが足りなくなる、買いに行く。
もう使い切ったのか?と、気にする店主をよそにキャンパスも大きいものを一つ買い、そのサイズにカットされてる布をキャンパスに重ねた状態で包んでもらいアトリエに持ち帰る。
私は……街のどこかに居ると言われる神様に逆らわなくてはいけない。もしくは私の親から受け継いだ私の血にを絶たなくてはならない。
これが恋だと言うならば、私は選ばなければいけない。
街の神様に背いてあのマフィアに恋し続けるか、彼の絵しか描けぬドーブルなんて死ぬしか無いのではないか
私が描いた百枚近い彼の絵を見て、なにかそんな感じがした。
「ドンカラス……」