砂浜に点々と残る小さなそれを見ている間、彼女は僕になんと語りかけるかが楽しみで仕方なかった。  
ポケモン大会社の企画室でさえおいそれとは克服できない言葉の壁!  
それをやすやすと乗り越える博士がいるというのだから、いっぱしのポケモントレーナーである身としては行かないわけにはいかない。  
大切な相方のミミロップが砂浜に残していた足跡はようやく途切れる。  
僕と同じように彼女も興奮しているのだろう、熱に浮かされたような目で家の扉を見つめていた。  
 
 
「ごめんください。この子がなんと言っているか知りたいのですが」  
 
室内へ入り込むと、けして小さくはない彼女の体だったが、かまわず僕は抱き上げた。  
長くしなやかな脚を抱え込んで胴体ごと抱き抱えてやるとミミロップが驚きの声を上げる。  
残念ながらその声も人間である僕の耳には「みゅう!」としか聞こえなかった。  
状況を考えればなんとなく「きゃあ!」とでも言ったんだろうとわかるけど、僕は真実の意味が知りたかったのだ。  
 
この道の権威であるという、……フトマキ博士は、名は体を表すというか、なかなか恰幅のいい男だった。  
白いシャツにデニムのオーバーオールという出で立ちで、姿はその辺にいるトレーナーとなんら変わらない。  
急に訪れるなりミミロップを抱え上げた僕を見て彼は目を丸くしていたが、小さい子に排尿を促すように抱え上げられたミミロップが小さく震えているのを見るとすぐににやりと笑った。  
 
「ポケモンの気持ちが知りたくなったんですな?けれど鳴き声だけではわかりません、  
君のミミロップをここで歩かせてごらんなさい。その足跡から気持ちを私が読み取ってみせましょう!」  
 
わかりました、と一礼をしてミミロップを床に降ろすと限界を迎えた膝ががくがくと笑っていた。  
脚を内股気味にして腰を落とし、両手は股間の前へ、もともとあまり活発に動かないふわふわのしっぽが引き下げられて後ろから「そこ」を隠している。  
大きな耳は力無く垂れふるふると震えていた。  
寄せられた脚と脚の間から透明な雫がぽたりと落ちて、あしあと博士の家が汚れる。  
 
 
「み、みゅう……」  
「ダメじゃないか、人のうちを汚して」  
「いえいえかまいません、どうせ私は床についた足跡から気持ちを読み取るのですから」  
 
あしあと博士は笑ってそう言い、腕を組んで見物の体勢を作った。  
 
 
「さあ、歩かせてごらんなさい」  
「そうだよミミロップ、歩くんだ。足跡がないと、君の気持ちがわからないよ」  
「み、……みゃ、んっ…みみいぃ!!」  
 
 
ガクガクと震える体に鞭打って一歩を踏み出したミミロップだったけど、それきり自分の体を抱きしめるようにして動かない。  
前のめりになって腰を突き出し、むちむちとしたお尻がゆるく円を描くように揺らめいている。  
海沿いの砂浜に建てられたこの家屋では波の音に掻き消されそうになるけれど、  
耳を澄ませばヴヴヴ、と携帯機器のマナーモードにも似た振動音が聞こえてくる。  
隠した豊満な胸のさきっぽは毛皮じゃ隠し切れないほど綺麗なピンクになってぴんぴんに尖っているだろう。  
 
先程までとはうって変わって粘度のある液体が糸を引いて床に伝った。  
ぐちゃぐちゃと掻き回され、取ることも落とすことも許されず、  
動けば抜け落ちそうな感覚や、足と足とで余計に挟み込んでしまい、より奥までぐりぐり当たる感覚に悩まされる。  
僕にはわからないけど、女の子の大切なところをそんな風にされたらどんな気分なんだろう。  
ミミロップは小さな鳴き声を漏らしながら、涙で潤んだ目で僕を振り返った。  
 
 
「つらいだろうねミミロップ、けどこれも僕らのためなんだよ」  
「背筋を伸ばしてまっすぐ歩いてください。でないと正確な結果が出ないのです」  
「ふっ、…みゅ、…あん……」  
 
 
博士があんまり嬉しそうににやにやと笑うから、つられて僕も口元に笑みが浮かんでしまう。  
ごめんねミミロップ、君は一生懸命頑張ってるのに。  
時間をかけて選んだ新品、少しどぎついショッキングピンクのプレゼントは気に入ってもらえたか聞きたいんだ。  
ねえ、歩いてよミミロップ。  
 
頑張って、と頭を撫でてやる。ミミロップの大好きな耳を撫でて、それからぐにぐにとこねてやる。  
彼女が一際大きく身を震わせると、ぐしょぐしょに濡れた毛皮から覗くクレバスがうれしい涙が噴き出したのを僕は見逃さなかった。  
 
 
 
―――……と ミミロップは このように かんがえて おりますな!  
 

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