「あれ、もう終わり?」
嘲笑を含んだ声が投げ掛けられる。やっとのことで霞む視界の中に奴を映すことが出来た
が、それまでだった。最早立ち上がる体力さえ残されていない。
「ぐ……っそ……!」
喉の奥から声を搾り出したところで、状況は何も変わらない。四肢に絡みついた草を振り
解くことも出来ず、目の前で仁王立ちするゴウカザルのことを睨み上げた。
最近になって渓谷に盗賊が出現するようになったという。その盗賊の討伐の依頼を受けた
のが、彼、ラグラージであった。目撃情報から恐らく賊は炎タイプと分かっていたから、相
性の有利もあるだろうし、と気軽に請け負った結果がこのザマだ。ゴウカザルの素早い動き
に翻弄され続け、たったの一撃さえ食らわせることも出来ず、繰り出される草結びの前に
あっという間に倒れ伏してしまった。
「盗賊の分際で……、この……!」
日が高い。丁度目の前のゴウカザルが太陽を背負うような形になって、その表情は窺えな
い。だが、その口元から漏れる噛み殺したような笑いは、嘲りの表情を想像させるに十分だ。
「その盗賊の分際のヤローに、あっさり負けちゃったのはどこの誰だっけ? なあ?」
侮蔑を隠そうともしないその口調。頭に血が昇っていくのを感じられずには居られない。
無駄だと分かっていながらももがいてみるが、どうしても体に力が入らない。――草タイプ
の攻撃は、種族上最も苦手なのだ。
「まぁーいいや。オラ……よ、っと!」
「ぐっ……!?」
ゴウカザルが脇に回り、その脚を脇腹へと寄せてくる。そのまま一気に蹴り上げられると、
手足を絡め取っていた草を引き千切りながら体が横転、仰向けにされてしまった。
「何を――――!」
直ぐに体を起こそうと手を地面に突くが、ゴウカザルが指を鳴らす方が早い。パチン、と
乾いた音が響き渡ると同時、おぞましい草の束が地面を突き破って生えてきて、再び四肢に
絡みついてきた。力でどうこう出来るものではない、生き物としての本能ごと縛られてしまっ
たような拘束感が体を走る。
地面に、磔にされてしまった。
「やー、良い格好だねえ。ミョーに体の艶も良いし、どっかイイトコのお坊ちゃんって感じ?」
ゴウカザルが、顔の直ぐ隣でヤクザなうんこ座りをする。嘲りの色を顕にこちらを見下ろ
してきて、おうち教えてくんない? 今度盗みに入るからさー、と歯を見せながら笑った。
「うるさいっ! 早く解け……っ、この」
「おーっと」
その憎たらしい顔目掛けて、思いっきり水鉄砲でも発射してやろうと口を窄めた。だが、
そこを狙い済ましたかのように平べったい葉が地面から伸びて、口をぴったりと塞がれてし
まう。
「んむっ……ぐぅ、うー!」
「ケケケ。やろうとしてることバレバレなんだよ。お前みてーな甘ちゃんとは潜り抜けてき
た場数が違うの。分かるー?」
こちらの顔を覗き込みながら、ゴウカザルが右手の指で自分の頭をトントンと叩く。その
挑発に声を荒げようとするが、草結びで口まで塞がれた今では僅かな呻き声しか出せない。
「さーってと。まあせっかくだしー……」
そう言いながらゴウカザルは立ち上がって、こちらの足の方へと歩を進めて行った。微か
に顔を上げて見てみれば、まるで覗き込むような姿勢で腹の下の辺りを観察している姿が目
に映る。
「んんんんー!」
何を、という声は言葉にならない。時折悩むように首を傾げるゴウカザルは、その呻き声
すら耳に入れていないようだ。実に頭に来るが、実際のところ既に抵抗の手段は残されてい
なかった。
「あー、なるほど。スリットって奴なのねー」
ぽん、と手を叩きながら、愉しそうにゴウカザルが続ける。
「いやー俺初めて見たかも。そっかそっかー、お前あれだろ、リョーセールイだか何だか知
らねーけど、そんな感じの。いやーちんこ付いてないから一瞬メスかと思ったわー」
体つやつやしてるし。そう言って、再び高圧的な笑みをこちらに向けてきた。
微かに沸き起こった羞恥心のせいで、更に頭に血が昇る。ゴウカザルの言うことは事実で、
自分達の種族の雄は体外に露出した性器を持たない。代わりに雌のような下腹部の割れ目の
中に収納されていて、興奮すると外へ肉が飛び出す仕組みになっている。
「んじゃ、ちょっと見せてもらおうか」
「んっ……!」
何の躊躇いもなく、ゴウカザルがその足を下腹部へと乗せてきた。白い下腹部に隠れるよ
うに入った一本の筋。そこに奴の汚い足からの圧力を感じる。嫌悪感に顔を顰めるが、
つつーっと筋を這い上がる、その焦らすような刺激に、生き物の――雄として当然の感覚を
覚えずにはいられない。
「あれ、何気なくイイ顔すんじゃん。お坊ちゃんかーわいー」
その一言に目を大きく見開き、全身に力を篭める。だが磔になった体はぴくりとも動かず、
悪戯に体力を消耗させるのみだった。
「おー……、綺麗なピンク色してんのね。ホントメスみてー」
「っ……!」
ゴウカザルが、器用にその足の指でスリットの縁を摘まみ、捲るようにして内部を露出させ
た。普段生活する上では絶対に外界に晒されることの無い部分が空気に触れて、ひんやり
とした感覚が体内を駆け巡る。止めろ、と大声を張り上げたいが、口を塞がれたままで呻き声
しか出せない。怒りと羞恥心が綯い交ぜになった瞳を強く向けるが、ゴウカザルはイヤらしく
舌なめずりをしながら嘲りの笑みを向けてくるだけだった。
「どれどれー。お、何かピクピクしてる。何お前ー、感じちゃってんのー?」
ゴウカザルが一旦足を離して、今度はその手で直接スリットを撫で上げてきた。足の指とは
比べ物にならないくらい繊細で的確な刺激が送り込まれてくる。スリットの縁を触れるか触れ
ないかの絶妙なタッチ、その指の刺激を数度繰り返されるだけで、自分の下腹部の何かが大き
く盛り上がっていくのが分かってしまう。
「んっ……、んんんー!!」
ぷるん、と音が立ちそうな勢いで、自分のペニスが体外に露出してしまったのが分かった。
見てみれば、ゴウカザルの口元の歪みも一層深くなっていた。
「あーあ。やーだねー、『盗賊の分際』に体弄られて感じちゃう変態お坊ちゃんなんてなー」
自分で感覚も分からなくなるほど、顔が熱くなっているのが分かる。ゴウカザルのその器用
な指先が、自身の根元から先端に向けてゆっくりと這い登っていく。意識していないのに呻き
声が漏れてしまった。反抗ではない、別の感情から生まれた呻き声が――
何で、こんな奴に……!
「悔しい……でも感じちゃうビクンビクンってかー?」
「ん、ふぅっ!」
ペニスの先端を指先で弾かれ、その痛くてくすぐったい刺激に変な声を出してしまった。腹の上
に湿った何かが降り掛かるのを感じる。
「あれ、こんだけで先走っちゃってんの?」
今度こそ自分の顔が真っ赤になったのが分かった。
「つーか随分ギンギンだよなー、ふつーもうちょっと時間掛かるもんなんだけど。あれれ、も
しかして素質ありありですかー?」
無い。そんなものあるわけないと言い返したい。だが、どうしようもなく興奮させられて、大
きく胸が上下するほどに息が荒くなってしまっているのも事実だった。
よく見れば、ゴウカザルの雄もその白い毛皮の中から顔を見せ始めている。自分達とは形が
違う。先端に出っ張ったような膨らみがあるのが見えた。
「くっくっく……」
気がつけば、ゴウカザルが押し殺すように笑っていた。そこで初めて、自分がゴウカザルの股
間をずっと凝視していることに気づいたのだが、もう遅い。
「何、そんなに気になっちゃう?」
慌てて視線を逸らすが、自身の雄は言うことを聞かずにピクピクと脈動を繰り返している。そ
れは見ようによっては頷いているようにも見えるだろう。
「はいはいわーったわーった。んじゃー俺が特別にイイことしてやるからなー?」
実に愉しそうに笑いながら、ゴウカザルが再びその指をペニスに這わせ始めた。それと同時、
もう片方の手が根元に添えられ、ゆっくり尾びれの方へと動いていく。
「ん……、んん……っ」
器用な指で先っぽを捏ね繰り回される感覚に、どうしても熱に浮いたような声を出してしまう。
自分で出したその声が堪らなく恥ずかしくて、それが余計に羞恥心を刺激して――最悪なループ
に陥ってしまっていた。
「んぐっ……!!」
だから、突然の体内への異物感に襲われるまで、ゴウカザルの『もう片方の手』がどこを目指
していたのか全く意識出来なかった。
水タイプを併せ持つ自分は、体が乾かないように常にある程度の湿り気を体表に帯びている。
それを良いことに、何の予告も無く……ゴウカザルは、その指を肛門に突き立ててきたのだ。
一体何を、と考える間も無く、体内へと侵入した指がずぶずぶと奥へ入り込んでいく。体格で
言えばゴウカザルより自分の方が大きいから、彼の細い指を呑み込むにはある程度の余裕はある
のだろう。
だが、そこは決してそのような異物を挿入するために作られた器官ではない。全身を駆け巡る
鈍痛と下腹部を襲う圧迫感。思わず顔を苦痛に歪めるが、
「んん、んっ!」
そこを狙ったように、ゴウカザルの指が先端を柔らかく撫で上げてきた。体を巡っていた苦痛
が一瞬で快感に置き換わり、地面に縫い付けられた体が微かに跳ねる。五本の指が縦横無尽に動
き回り、くすぐったさの混じった快感を露出したペニスに叩き込まれ、まるで腰から下が痺れた
ような錯覚に襲われた。
そしてその錯覚のおかげで、肛門から広がる鈍痛も幾分か和らいできた。
「いやー、最初っから濡れてるケツってもの面白れえな。面倒な準備とか必要なさそうだし……。
やっぱお前素質あんじゃね?」
「んっ……! ぅ……」
そう笑いながら、ゴウカザルが体内に埋め込んだ指を折り曲げてきた。炎タイプの指だからか、
そこを中心にじわりと熱が広がっていくように感じる。
「どれどれー?」
ゴウカザルの指に、尻の中を探られる。入り口から深いところまで、熱を持った指に余すとこ
ろなく撫で回され、圧迫されて。そこで初めて、頭の中に『犯されている』という単語が浮かび
上がった。
今度は頭だけではない。全身がカァっと熱くなった。
「…………!」
ゴウカザルが、『そこ』を指先で撫で回した瞬間だった。勝手に体が反応して、やわやわと指
で揉まれていたペニスが、更に大きく伸び上がるような感覚を得る。
全く理解が及ばず、慌ててゴウカザルの顔を見る。そこには悪タイプを名乗っても良さそうな
醜悪な笑みが浮かんでいた。
「見ィーつけたー、っと。ほら、何か良い感じだろ?」
「っ……! んんぅ……!」
ゴウカザルの指が、尻の中のとある一箇所を執拗に圧迫してくる。快感――とは少し違う、痺
れるような感覚が、体内を通じてペニスにまで伝わってくるのだ。味わったことの無い刺激に、
ぐっぐっと指で圧される度に小さく声が漏れてしまう。
「あららー、涎まで垂らしちゃって。そんなに良いのかなー?」
まるで小馬鹿にするように言いながら、ゴウカザルは愛撫を続けてくる。尻の中の急所への刺
激、それと同時、焦らすようにペニスを撫でては離れる指先からの刺激。自分の胸の中に切ない
感情が、欲望が膨れ上がっていて、口を覆った葉の隙間からは唾液が染み出していた。
「ほれ……、イっちまえー」
ゴウカザルは笑ったまま、何事も無かったかのような口調でそう言って。ぐぷぐぷと尻に突っ
込んだ指を前後させながら、ペニスを温かな手の平全体で柔らかく包み込み、そしてすっすっと
上下に擦り上げてきた。
「んっ……く、ぐぅっ……!!」
その刺激が最後の一押しとなって、限界まで溜め込まれた欲望がゴウカザルの手の中で爆発し
てしまった。全身が収縮するように強張って、体内に入り込んだ指を押さえつけるように締め付け
てしまう。その狭い空間の中にあってもその指はぐにぐにと蠢いて、体内から精液を搾り出そう
とそこに圧迫感を与え続けてきた。
自分で慰めたときでは考えられないような量の精液が、自分の胸元からお腹に掛けて飛び散っ
ていた。それは受けた快感の大きさも物語っているのだろう。
「うっへぇー……、量は体の通りって感じかねー」
ゴウカザルが、手の平にべっとりついた精液を繁々と眺めながら意地悪そうに笑う。ぬぽん、
とわざわざ尻孔の入り口を広げるようにしながら指を引き抜いて、代わりにその入り口に今しが
た自分が出した精液を塗りつけてきた。
文句を言えるほどの余裕も残されていなかった。
たっぷりと精液を搾り取られた疲労感と脱力感が全身を襲っている。快感の波は未だに尾を引
いていて、まともに頭を働かせることが出来ずにいた。
「……随分呆けた顔してやがんなー」
突然視界が暗くなる。曇ったわけでもないのに――と視線を上げてみれば、ゴウカザルが顔を
跨ぐようにして仁王立ちしていた。
「そんなに良かったのか? ちんことケツ弄られんのが。しかも『盗賊の分際』に」
「…………っ」
何も言い返すことが出来ない。最初は嫌悪感を感じていたと思う。でもそれは本当に最初だけで、
途中からはゴウカザルの淫技にされるがまま、途方も無い快感を味わわされてよがり狂っていた
のだから。
「そんなんじゃ、ケツ大好きになっちまうぞー? 指じゃなくて、コイツを突っ込まれたりしたら、な」
口元を吊り上げながら、ゴウカザルがこちらの胸元に腰を下ろした。胸元に柔らかい重量感を
感じると、目の前に映るのは、
「……うぐ」
今にも湯気立ちそうな、ゴウカザルの欲情し切ったペニス。赤黒い竿は軽く反り上がって、複
雑に割れた先端から透明な粘液を滴らせている。
「視線釘付け……って感じだぞ? くっくっく……」
侮蔑を顕にしたゴウカザルの言葉。――普段なら怒って相手を睨み上げていたところだろう。
だが、目の先二十センチにあるゴウカザルのペニスから、目を離すことが出来ない。
しかも怒るどころか、体の奥底に妙な熱い疼きを感じてしまっているのはどういうことだろう。
目の前にあるこの欲に塗れた肉棒が、独特の膨らみを持ったこのペニスの先端が、自分の尻の中に
――そこまで考えて、自分の体が再び熱を帯びてきているのに気づいてしまった。
ゴウカザルが右手をこちらの顔に伸ばしてくる。先ほどこびりついた自分の精液は、未だに独特
の雄臭を纏わり付かせていた。その手の平が後頭部に添えられて、頭を軽く持ち上げられる。
「……う、うぅぅっ」
起こされた顔の真正面、ペニスの砲口がこちらを向いていた。ゴウカザルの左手が、その禍々し
い形のペニスに添えられる。未だに体は草に縛られたままで、体を起こして逃げることも、ゴウカ
ザルを突き飛ばすことも、まともに声を上げることすら出来ない。
なのに。
それなのに、心のどこかでこの状況を受け入れてしまっている自分がいた。湯気立ちそうなほど
熱いペニスから放たれるものは、一体どれほど熱いのだろうか。
――それが自分の中に注がれるとは、一体どんな感覚なのだろうか。
「おーおー、また何かハァハァ言ってきたなー?」
愉しそうに笑いながら、ゴウカザルが目の前で自身を慰め始める。その手の平が前後する度に、
皮のようなものが伸び縮みしているところまではっきり見える。
胸が高まり、呼吸が荒くなっているのを認めないわけにはいかなかった。
「安心しろよ。今日はこれ以上しねーから」
ゴウカザルのペニスがピクンと跳ねて、透明な先走りが鼻先に飛んできた。
「……もし、万が一、絶対ねーと思うけど、俺に会いたくなったら、俺の討伐依頼を受けるといい。
『盗賊の分際』に負けっ放しで良いなんて奴は早々居ないだろうし、周りから見ても極自然なことだろ?」
しゅっ、しゅっ、と微かな摩擦音と共にゴウカザルがペニスを扱き続けている。彼の口から紡がれ
る言葉に、思わず生唾を飲んでしまっていた。
「まあ、そん時にゃ……、何盗まれても、知らねーけど、なっ……!」
ピクッと目の前でゴウカザルの体が跳ねる。それと同時、大量の精液がこちらを向いたペニスの先
端から飛び出して、今度こそ目の前が真っ白になった。
“賢い盗人は最初から全てを盗まない。”
Take a little, leave a lot. ――Steal forever.