この世界には、ポケモンという不思議な生き物がいる。我々の「動物」という概念とは大きく異なるが、かといって  
極端に離れているわけではない。人とポケモンは近くて遠い、しかし切っても切れない特殊な関係で結ばれてい  
た。故に古来より、人々は彼らと多種多様な交流をしてきた。友達、仲間、信仰、家畜、道具。それは今でも変わ  
らず、十人十色の付き合い方がある。これはその世界、とある田舎町に住む人とポケモンの話。  
 
 空は雲一つない快晴。夏場には珍しく良いお天気だった。少々蒸すが、先日の雨のおかげで大分涼しい。ザ  
ングースは、洗濯籠を運びながら空を見上げた。心地よさげに目を細めて、深呼吸する。  
 「絶好のお洗濯日和だねぇ……やっと外干しが出来て良かった!」  
 今洗濯物を干し始めたのは、この家のポケモン「ザングース」である。まだ卵の時に主人に拾われて、それ以来  
お世話になっているのだ。卵を拾った頃、この家の主人は一人ぼっちだった。高校を卒業したのと同時に、両親  
が交通事故で他界。それを機に働き出して、実家で一人暮らしをしていた最中の出会いだったそうである。  
 道端にポツンと転がる不憫な卵に何とも言えぬ共感を得て、ついつい家に持ち帰ってしまったのだと、後にザ  
ングースに語ってくれた。ペット感覚で飼い始めたものの、今では家族のような付き合いなのだろう。家事の多く  
を任せて、会社勤めの毎日だ。二人にとっては何とも平穏な、落ち着いた生活だった。  
 「お洗濯が終わったら……掃除と庭の手入れ……後は服が乾くまで待たないと」  
 ふさふさと豊かな尻尾がゆっくりと振られる。晴天に恵まれてご機嫌のようだ。ほくほく顔で部屋に戻ると、掃除  
機を器用に使って掃除を始めた。少し拍子の外れた鼻歌を奏でながら、軽快に事をこなしていく。洗濯もそうで  
だったが、随分慣れた手つきだった。  
 この後もザングースはさくさくと事をこなしていった。鋭い爪を使って枝を切ったり、小器用に草をむしったり、洗  
い物を済ませたり、洗濯物を取り込んで畳んだり……どれもこれも、専業主婦顔負けの動きで。彼にとっては、そ  
うして夕方の主人の帰宅までに、細々した家事を片付けておくのが日課なのだ。  
 そして、全てを終えると人並みに読書をして過ごす。主人の趣味で、彼は本が好きだった。特に冒険活劇や現  
代小説が好きで、選んで主人の書棚から持ち出す。世間一般のポケモンというイメージからは遠く離れた生活ぶ  
りだが、彼はそれに満足している。  
 ポケモンバトル、というものもあるらしいことは知っているが、主人も本人も興味がなかった。温厚で諍いを好ま  
ない性格に育ったのは、ひとえに主人の教育の賜物だ。  
 結局この日もいつもと同じ。変わらぬ午後の昼下がりを過ごして、主人の帰宅を待った。  
 
 「ただいまぁ……ふぅ……結構早く帰れたかな」  
 「おかえりなさい、マスター。お疲れ様でしたぁ」  
 鞄を受け取り、居間へと向かう主人について行く。彼の主人は男だ。あまり活動的とは言えないが、人当たりの  
いい落ち着いた雰囲気の人間だった。帰ってくると必ず、「ザングもご苦労様」と言いながら彼の頭を撫でてくれ  
る。それが一日で一番幸せな時だった。ついついニヤけてしまう。時にはぼうっと突っ立ってしまうから、そんな  
時は慌てて後ろについていくのだ。  
 主人は手早く部屋着に着替えて、厨房に向かっていった。その背中を眺めながら、ザングースはちょこちょこと  
ついて行く。傍から見れば、まるで鴨の親子のような微笑ましい光景だった。ザングースは踏み台なしでは覗き  
込めない流しの前に立ち、主人は少し考え込む。そして、向き直った。  
 「それじゃあ、今日はハンバーグでも作ろうか」  
 「ハイ! 僕は先に食器出してますねー」  
 家事の中でも、食事の支度だけは主人の仕事だ。ザングースという種族柄毛が多いので、それだけは必ず主  
人が取り仕切っている。いつからか、それが不文律になっていた。ザングースだって勿論手伝いはするのだが、  
人間用に作られた家具は少し大きい。必死に背伸びしながら、危なっかしく皿を取り出していくのが常だった。  
主人も最初は冷や冷やしたものだが、今では慣れた光景である。  
 ちゃっちゃと皿を並べ、料理の材料を出したり、使った食器を洗ったり……息のあった連携で効率的に進める。  
誰だったか、料理はブレインだと言う人が居たが、これはまさに理想形だった。  
 そうして、二人は同じテーブルで食事を取るのだ。  
 「ハンバーグっ! ハンバーグっ!」  
 「おいおい、落とすなよ?」  
 「へへっ! ハンバーグって久しぶりですよね!?」  
 八重歯を剥き出しにしたはにかみを見て、主人は苦笑した。考え方や行動はヒトの大人にも勝るのに、相棒は  
酷く子供っぽい。自分よりも背が低いところやふくよかな体型も相成って、益々幼く見える。本人に言うと憤慨す  
るので沈黙しているが、誰が見ても親子のように見えるんじゃないかと彼は思っていた。そしてついでとばかりに、  
もう一つ考える。ザングースは、人間より人間臭い相棒だ。  
 食事をしながらテレビを見たり、今日読んだ本の話や仕事の話をしていると、ついヒトとポケモンの境界が曖昧  
になる。人並みに喋って、考えて、笑って……それでも違う生き物だなんて、さっぱり忘れてしまうのだ。  
 「それじゃあ、寝るか」  
 「は〜い!」  
 風呂からあがって暫しの歓談の後、同じベッドに入る。クーラーのある寝室は快適そのものだ。天然毛布と抱き  
合って寝ていたって苦じゃない。柔らかくて、暖かい抱き枕は最高の寝具だ。  
 「ザング、寝ちゃった?」  
 「……」  
 小さな呼吸。上下する腹。寝てしまったようだ。  
 何だか寝付けなくって、主人は一人先ほどのことを考えた。ポケモンとヒトの線引きは何処にあるのだろうかとい  
うことを。様々な要因……歴史的・生物学的な違い、一般論、現実で明確に人が上に立っているパワーバランス。  
それでも結局、そんなものはないんじゃないかと言うのが彼の持論だ。この日も全く同じことを考えて、同じ結論  
に達した。彼にとっては、眠れない夜の癖だった。  
 
 彼の思索は更に続く。いつも通りの流れで。自分がこういった結論を出すのは、多分間違った劣情を抱いてい  
るせいでもあるのだということ。ヒトとポケモンの恋愛関係。禁忌であるとは知っている。でも彼自身、情動を止め  
られなくなってしまう。隣の生き物が、こんなにも暖かいから。唯一無二の、大切なものだから。  
 「んぁ……!」  
 そんな風に考えていたら、胸ばかりでなく下半身まで熱くなってしまった。隣のザングースを起こさないように、  
そうっとベッドを抜け出す。忍び足でリビングまで行って、ズボンとパンツを脱いだ。思えば、ここのところ満足に  
処理していない。  
 「ふっ……!」  
 必死で息を殺しながら、熱くたぎる一物を扱く。とろりとした先走りが溢れ、指先を汚した。こんなところは、ザン  
グースに見せられない。それでも生活が密着しているから、隠れてするのも難しい。相棒が寝入ったこんな真夜  
中にしか、出来ない。更に念には念を入れる。更なるリスクを回避するため、手早く速やかに済ませるのだ。  
 「くっ……!」  
 脳内に描くのは、彼とベッドで絡み合う姿。自らのオスが、同じくオスである彼を貫き悶えさせる。涙目になった  
ザングースが、何とか唇を合わせようと背伸びする。お互いに紅潮し、強く求める。そんな風景。  
 終わってしまえば絶対に後悔すると知りながら、それでも止められない。この感情は苦しいけど、表に出すべき  
でない。分かっているからこそ、虚しく辛い気持ちは今だけでも忘れたい。  
 絶頂に上り詰めそうになった、その時だった。  
 「くぁあ……!」  
 「ますたぁ……?」  
 「なっ……!」  
 慌てて目線をやると、眠そうに目を擦る彼の姿があった。主人は今までの快楽も忘れて硬直してしまう。言葉が  
継げず、脂汗が湧き出してくる。暑い夜だから、寒気も一塩だった。酸素を求めるように、口を何度も開閉させた。  
ぐるぐると色々な記憶が思い出され、まるで走馬灯のように流れていく。  
 ザングースはそんな主人の心情も知らずに、不思議そうに寄ってくる。寝ぼけてはいたが、不思議そうに足元  
へやってきた。  
 「マスター、こんな夜に何やってるんです?」  
 「え、ああ……えっと……」  
 何も知らないのか。それもそうかもしれないが。教えた覚えも、教えてくれるような人もなかったから。  
 どちらも沈黙した真夏の深夜。主人の時間感覚は鈍っていた。もう牛三つは過ぎただろうか。自分自身が拡散  
していく。何が何だか分からなくなりそうだ。  
 ぐるぐると思いが巡る中で、良心の阿責に潰されそうになった主人は一つだけ決断した。  
 腹をくくって、全てを話すのだと。  
 
 夜の帳の中、長い沈黙が二人の間に微妙な距離感を作っていた。蝉の声と梢が擦れあう音だけが、静寂を破  
る。蝉は焦燥を、梢は感情の波を奏でているような錯覚を覚えた。二人分用意されたコップの中の氷が、きぃんと  
高い音を立てて割れた。刹那、「破綻」という言葉が脳裏を掠めた。  
 全て吐露した、と思う。言葉に出来る限界まで伝えきった、と思う。思慕についても、性についても、一から銃ま  
で全て説明したはずだ。後は、何処まで分かってくれるか。それはもう、どうしようもないことだ。  
 いざとなれば。もし、破綻するのなら。相棒が居づらくなるのだとすれば。あとは彼が望むように、自分は応対す  
るだけだ。例えば、野生に戻る。例えば、他の人の世話になる。例えば……。辛くなって、考えるのを止めた。  
 でも、それがどんなに苦しかろうと、辛かろうと、そうすべきなのだ。  
 ──本当は。  
 本当は主従の力を盾に、ザングースに無理やり迫るという考え方もあった。実際、幾度か考えたこともあった。  
実行しようとする寸前まで、思いが膨れ上がったこともあった。その時はそれではいけないのだと、何とか踏みと  
どまった。その時は、引き返せば明日からも同じ日常が待っていた。  
 だが、ここで自分を拒否されたなら。最悪、自分がどうなってしまうのか分からなかった。暴走しそうな気がしな  
いでもない。狂気に駆られて、壊してしまう可能性を否定出来ない。それを思うと手の震えが抑えきれない。  
 肝心の彼は俯いて黙りこくっていた。両の爪に挟んだグラスの氷を見つめ、飲むでもなく話すでもなく、動かな  
いでいる。表情は、見えない。主人のほうも、長く直視していられない。  
 結局、耐え切れずに空気を破ったのは主人のほうだった。  
 「……よ」  
 「……はい?」  
 「もう、いいんだよ」  
 「何が」「どう」いいのか。それは自分でも分からない。ただ何となく、口から出てきた。  
 待てなくなった、と言うべきか。その顔は妙に晴れやかで、にこやかで、でも何処か分からぬ場所に影がある。  
 主人は口に出してから、頭が真っ白になってしまった。今日までの日々を繰り返したい、忘れてほしいという意  
味だったのかも知れぬ。これから無理やりにでも我が物にしてやる、という意味であったのかも知れぬ。お前の  
好きにしていい、という意味であったのかも知れぬ。どれも合っているのかも知れぬ。  
 もう全身が脱力して、何かしたわけでもないのに疲れきっていた。それだけは確かだった。  
 その時、ザングースが両の手のひらをついて立ち上がった。  
 「よくないです」  
 「いいんだ」  
 「よくないっ!」  
 「……」  
 耳鳴りがするほどの大声で、ザングースが怒鳴った。主人は唖然として、間抜けに大口を開けてしまう。そのま  
ま再び硬直した主人の足元に、ザングースは寄っていった。  
 恐る恐る見下ろした主人の頬に、暖かいものが触れた。ついさっきまで抱いていたものの、手のひらだ。思わ  
ずびくっと跳ね上がった主人の唇に、ザングースの唇が重ねられる。隙だらけの主人に、防ぐ手立てなどない。  
 そっと重なった唇は、同じくそっと離れた。呻くばかりの主人に向かって、ザングースは言い放ってやる。  
 「え……う……あ……?」  
 「いいです」  
 「え、あの、え?」  
 「マスターなら、いいです」  
 今度の「いいです」は、「何が」「どう」良いのか。混乱しきった主人の頭では、理解に数十秒を要することになっ  
た。  
 
 毎日触れている。でも、今日ばかりは触れて良いのか分からぬ。  
 真っ白な被毛にも、ピンと立った大きな耳にも。今しがた許可を貰ったはずなのに、戸惑ってしまう。  
 「本当に、いいの……?」  
 この確認は、何度目だろうか。  
 「は、はい……」  
 上ずった声の返答も、何度目だろうか。  
 ようやく主人が心を決めた。壊れ物に触るかのように、頭をそっと撫でる。帰ってきた時と変わらぬ、ぐしゃぐしゃ  
と掻き混ぜるような手つきに、ザングースは幾分緊張がほぐれた。それでもやっぱり、怖いものは怖いのだけれど  
も。今まで自慰も知らず、それこそ性欲などというものとは無縁で生きてきて、急にセックスとは。けれど、主人の  
今までの鬱積したものを考えると、今夜中にことを進めたかった。だから、無理言って閨を共にした。  
 同じような戸惑いは、主人にもあった。無垢なものを汚していいのかという不安。そこには、まっさらなキャンパ  
スに一本目の線を引くような緊張を何倍にも増幅したようなぎこちなさがあった。待ち望んでいたのも確かだが、  
いざとなるとちょっと怖い。ザングースが気遣ってくれたのは嬉しいが、無理しているのも分かってしまう。  
 お互いの気持ちを慮って、進めない。膠着状態そのもの。それが先ほどまでの状況だった。  
 だが、頭を撫でた主人はザングースの緊張を察し、ザングースも主人の顔色を冷静に見れるようになって、理  
解した。似たようなことを考えているのは、一緒にいた時間が長いからだろう。そして、二人で失笑してしまった。  
 「ぷ、くくく……」  
 「へ、へへへ……」  
 やっと、前に進めた。今度は主人から、唇を重ねた。ただし今度は、長い長いディープキス。  
 「ん……ふ……」  
 「ふっ……あっ……!」  
 隅々まで歯列をなぞり、舌を絡めとる。慣れないザングースは息をつく暇もなく、体を竦めて蹂躙されるしかな  
い。一方で、主人のほうは多少の余裕があった。鋭い獣の牙を舌で撫でながら、味わうようにして深くに進んでい  
く。薄目できつく目を閉じるザングースを見て、これではどちらが獣なのか分からないなと皮肉に思えた。  
 ザングースは息苦しそうに、助けを求めるがごとく主人の首に腕を回す。鋭い爪で傷つけないように、ゆっくりと。  
上手く鼻で呼吸が出来ず、酸欠気味になっているのか、頬はますます赤く染まり、目は潤み始める。煽っている  
ようにしか見えない。主人は自分の本能が、喰らえと言ってきかないのを自制しなくてはならなかった。  
 そして唇が離れると、緊張はもう無い。メスとオスだけ、そこに居る。  
 「一応言っとくけど……止まらないからな」  
 「……覚悟しときます」  
 主人は先ほどのキスで勃ちあがったザングースのペニスを、いきなり口に含む。初めての刺激に、嬌声が抑え  
きれずに溢れ出る。すぐに先走りが口に流れ込み、うっすらと獣臭い粘液が舌に広がった。もっと声が聞きたくて、  
自分のものとは違うソレを舌先でくすぐる様に責めていく。ぴちゃぴちゃと液体が跳ねる音が、寝室を満たした。  
 「ふぁあっ! ひ、ぅ……! んぅう!」  
 見上げたザングースの顔は、あんまりにも卑猥だった。声を殺すために片手で口を押さえ、もう片方が目元を  
隠している。しかし目元からは光る雫が見え、覆いきれない口元からはトレードマークの八重歯を除かせている。  
本来獲物を捕らえるための人よりも大きな口角からは、涎が漏れている。  
 「エロい顔だな」  
 つい、声に出してしまいたくなるほどに。聞き取ったザングースは怒ったような、でも蕩けてしまいそうな顔で否  
定しようとしている。  
 「いっちゃやですぅっ……! はぁっ……! そんなの……! 言わないでぇ……!」  
 そんなこと言われても、止められるわけがない。主人は言葉で優しく虐めながら、舌では器用に雄を嬲った。根  
元から先端へと舌を這わせたり、自分が出した先走りで糸を引いているのを見せ付けたりと。ザングースはその  
度に、過剰なまでに反応する。  
 「ひっ……! やだぁっ……! 僕ぅ……おかし……!」  
 「んん? こんなにトロトロな顔して言っても説得力ないな」  
 「ますっ……たぁのぉ……! イジワル……!」  
 「じゃあ、交代する?」  
 「うぇ……?」  
 自分の手で鳴いてくれるのは嬉しいし、もう少し喘ぐ姿を見ていたいのだが、こちらも限界だった。股間が痛い  
ほどに張り詰め、自己主張している。少しヒートダウンしないと、見境もなく襲ってしまいそうだ。初めてなんだから、  
ゆっくりちゃんとしたいというのも本音だった。  
 
 服を脱ぐと、跳ね上がるように飛び出てくる。ザングースはそれに釘付けだった。人間としては普通の大きさだ  
が、ザングースから見れば威圧的だろう。それでも、怖々それに触れた。  
 「え、えっと……」  
 「いいよ、好きにしてみて」  
 「ん、はい……」  
 ザングースはこの時も、傷つけないようにそっと手で触れる。それから柔らかい舌で舐めてみた。舌先だけ突き  
出して、先っぽの液を舐めとるように。少しだけ。けれども主人は大きな反応をした。  
 「んぁあっ!?」  
 「だ、大丈夫ですか?」  
 「ん、うん……」  
 ザングースは別名ネコイタチ。生物学上はネコ科のポケモンだ。そしてネコ科のポケモンに共通する一点。舌  
がザラついていること。強がってみたものの、人間には刺激が強すぎる。折角だから、もう少し味わってみたいの  
だが。  
 「うぁあっ! くひっ! ストップ! ストップゥ!」  
 「え、あ、はい……」  
 僅かな間に味に陶酔してでもしていたのだろうか。牙で噛んでしまわないように、先走りを舐めとっていたザン  
グースに静止を求めた。初めてだというのに、強力な武器を持っているとは主人には想定外だった。あっという  
間に達してしまいそうになる。今のは危なかった。大きく深呼吸した主人は、早々に次に進む。  
 いや、進むというより、我慢出来なくなった。本来なら軽くで済ませるつもりだったのに、あんまりにも淫らに行為  
をするものだから、最後まで行ってしまいたくてしょうがない。呆然と固まってしまったザングースを押し倒し、主  
人は後ろの穴を舐る。  
 「あっ! ますたっ! そこはっ! き、きたないですぅっ!」  
 「良いんだよ、ザングのだから」  
 「そんなぁっ……! ひぁあっ!? く、くすぐったいぃ……!」  
 ばたばたと両手を動かして、体勢を立て直そうとしているが無視。両足を押さえ込んで、本能のままに舌を挿し  
込む。ザングースは堪らず鳴くが、それでも止めたりしない。べちょべちょにほぐれるまで、それは続く。  
 「ひ……ぁ……!」  
 「まだまだ準備だぞ」  
 「む、無理ですよぉ……! ますたぁ……許して……!」  
 「止まらない、と言ったはずだが」  
 言い切る前に指を挿れる。大分柔らかくなってはいたが、流石に締まりは強い。異物感に呻くザングースには  
申し訳ないが、しばらく耐えてもらうことにしよう。  
 「く……ぅ……! な、に……してぇ……!」  
 痛くないようにしているのだ、と教えてやる余裕など無い。こちらは必死だった。ザングースの中を掻き回すよう  
に、指を動かす。押し広げたり、時折キスで誤魔化したり。その間、ザングースはずっと腰を捻って悶えていた。  
苦しそうにベッドの裾を掴む。あまりに強く掴むから、破れてしまいそうだ。だが、ある一点に触れると声の質が変  
わる。  
 「んひぃ!? にゃぁあっ!? そこは駄目ですぅっ! 駄目っ……!」  
 「ここか」  
 前立腺を捕らえたらしい。主人は執拗なまでに、幾分固いそこを押す。ザングースは跳ね上がる。今までに無  
い高く艶っぽい声で、泣き喚いた。バタンバタンと絶え間なくベッドを軋ませながら、前立腺を弄られて叫ぶ。  
 「ふにゃああっ!? ひ、いぁあああっ!? にゅうううっ!」  
 それからの準備は簡単だった。前立腺を捕らえたあたりから、力が入りづらくなったらしい。二本、三本と指を増  
やしても、痛みを訴えることも無かった。快感に流されて、そんな猶予も与えられなかったのだ。丁度四本目がス  
ムーズに入るようになった時、弄るのをやめた。ようやく解放されたザングースは息も絶え絶えという様子だ。けれ  
ど、ペニスは固く勃ちあがっている。  
 「おいおい。今からそんなんじゃ、本番で気を失うぞ?」  
 
 「ほ……んば……? え……?」  
 もうまともに頭が回らないらしい。淫らに鳴いている間に、頭の芯が痺れきっていたようだ。主人は完全に脱力  
した両足を持って、自分自身の先端をあてがった。  
 「え、え……?」  
 「いくぞ?」  
 「あ、待って……! ひぁああああっ!?」  
 ずぶりと挿し込む。ザングースの中は熱い。ザングースは十分に解されたので痛みはないようだったが、圧迫  
感に荒い息を吐いた。本来用途が違う穴である上に、人間のモノをザングースに挿れるには大きすぎる。けほけ  
ほと咳き込みながら、主人に助けを求めるのも当たり前だ。  
 「はっ……待って……! おっきいんです……! 助け……!」  
 「ごめん、我慢出来ない」  
 「い、いや……! できないっ!」  
 主人は声を最後まで聞かずに動き出す。堪えに堪えてきた欲望が完全に解放されてしまった今、主人とはなっ  
ばかりの野獣だった。ベッドに仰向けで寝転がるザングースに、深いストロークでペニスを突き入れた。  
 「ひぎゃあああっ!? 無理っ! 無理ですっ!」  
 「はっ……はっ……!」  
 「いひぃっ!? いぁああっ!? にゃぁうううっ!? やぁああ! 出ちゃううっ!」  
 とてつもない快感が、ザングースを襲った。先ほどまでの前戯で溜めに溜めたモノを一気に解き放った。精液  
がザングースの顔まで飛び、主人の腹を汚す。しかし、それで主人が止まってくれはしなかった。  
 「ひっ! 出たっ! 出たからっ!? 許してくださいっ! 離してぇっ!」  
 「あ……! ふぅっ……!」  
 律動は一定のリズムで続く。ペニスは容赦なくぐちゅりぐちゅりとザングースの穴を抉り、悲鳴とも嬌声ともつか  
ない悲痛な声をあげさせた。快楽はあるのだが、それが生半可なものではない。一度イってしまったザングース  
はより敏感になり、何度も何度も先端から白濁を漏らす。狂ってしまいそうな快感。何度も達してしまう苦痛。イヤ  
イヤと首を左右に振りながら、ザングースはただされるがままになるしかない。  
 「壊れちゃうぅっ!? やだぁああっ! ごめんなさいっ! ますたぁっ! ますたぁああっ!?」  
 「はっ……! うあぁああっ!」  
 そして。  
 やっと主人が達した。中で熱い迸りが噴出し、満たしていく。収まりきらない精液が二人の結合部から零れ落ち、  
シーツと尻尾を汚した。どろどろと満ちていく精液は、しかしザングースには感じることが出来ない。この時ザングー  
スは、既に気を失っていた。  
 
 「何か、言う事がありますよね?」  
 「ごめんなさい……」  
 ジャパニーズ土下座。ここ日本という国における最大の謝意の示し方。そのスタイルは奇抜にして屈辱的。頭  
を地べたに擦り付けるこの姿勢は、これ以上ないほどに無防備極まりない。降参していると相手に知らせるのに  
はうってつけである。白旗なんぞよりよっぽど分かりやすい。時には、ほのかな哀愁すら感じさせる。しかしながら、  
主人は椅子に腰掛けるザングースに平謝りするしかなかったのだ。  
 あの後、ザングースが意識を失っていることを知った主人は深く後悔した。性欲に任せてついつい行き過ぎて  
しまったと、誰にともなく懺悔した。とりあえずは風呂場で軽く洗ってやったものの、それで許されるわけがない。  
翌日起きたザングースは、穏やかな寝顔の主人に昨日の仕打ちを忘れかけたが、立ち上ろうとしたときの腰の痛  
みで思い出した。その場で主人を叩き起こし、説教をし、今に至るというわけだ。  
 「もう『せっくす』はしません」  
 「そ、それは勘弁してくれ……」  
 「……周福堂の和菓子」  
 「分かった。今日買ってこよう」  
 「……フワ・イモータルのミルクレープ」  
 「今すぐ買ってこよう」  
 「……次からは、手加減出来ます?」  
 「もっちろん!」  
 「……週に、一回までですからね」  
 小躍りして喜ぶ主人を見て呆れつつも、ザングースは今日も一日頑張ろうと思った。  
 そうそう、余談ではあるが、この週末。結局腰痛が治まらなかったザングースは、その日のセックスを拒否した。  
しょげ返った主人ではあるが、翌週で取り返そうと意気込み、翌週には再びザングースを腰痛にしてしまったそう  
な。めでたしめでたし。  
 
  この世界には、ポケモンという不思議な生き物がいる。我々の「動物」という概念とは大きく異なるが、かといっ  
て極端に離れているわけではない。人とポケモンは近くて遠い、しかし切っても切れない特殊な関係で結ばれて  
いた。故に古来より、人々は彼らと多種多様な交流をしてきた。友達、仲間、信仰、家畜、道具。それは今でも変  
わらず、十人十色の付き合い方がある。  
 中には「恋人」という交流だって、あるかもしれない……。  
 
 

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