不気味に赤く光る玉、それを包むゼラチンの塊みたいな傘、そんな生き物がギロリとした目をこちらに向けている。  
ああ、おしまいなんだ、って私は理解した。  
 
 
私はキルリア。ヒトと共に旅をしているポケモンだ。  
私は野生出身ではなくタマゴから生まれたそうなので、ずっとご主人と生活していることになる。  
今の生活に不満はなく、むしろ目一杯の幸せを感じている。  
ご主人はいつも私に優しくてとてもいいヒトだ。  
彼のポケモンは私だけだから尚更そうなのかもしれない。  
私は彼を当然の伴侶として今まで思ってきた。  
だが、私がある1匹のポケモンと出会ったことによって、その均衡は崩れ去ることとなった。  
 
 
旅の途中、私達はとても美しい海岸を見つけた。  
鬱蒼とした樹海を抜けると、目に映ったのはコバルトブルーの海と真っ白な砂浜。  
長い長い樹海を歩き続けてきた疲れたなんてすぐに吹き飛んだ。  
「こんな綺麗な海岸は見たことがないな」  
とご主人が溜息を吐いた。  
周りはまだ草木が生い茂っているのに、海岸は半月のようにそこだけ存在していた。  
そして、砂浜と草木の間には何本か果樹が生えていた。  
ご主人は地図を取り出し、場所を確認する。  
「ここの近くに村があるはずだけど…」  
向こうはカーブになっていて見えなかったけど、行ってみると彼の言った通り、この先は開拓されていて家々が建っていた。  
私達はそこで暫く滞在することにし、村人さん達のご好意で小さな小屋を貸してもらった。  
 
ご主人は村長さんと話があるみたいだから、私に向こうで木の実でも食べてくるように言った。  
私は砂浜へ行き、海に入って遊んだ後に木の実を取りに行った。  
お腹はぺこぺこで木に近づくと、とてもいい匂いがする。  
木の実も何種類かあってどれを先に食べようか迷う。  
見定めをしてから一番お気に入りの木の実を1つ、背伸びをしてもぎ取る。  
そのことに夢中で全く気が付かなかった。  
砂浜に座って海を眺めながら食べようとくるりと振り返った時、海から覗くポケモンの存在に気付いた。  
 
一目見て凶暴そうなポケモンということは分かった。  
相性やレベルによるかもしれないけど全く歯が立ちそうにない。  
私の体は鉛になった。  
一瞬の沈黙の後、そのポケモンがこちらへ向かってやって来る。  
浅瀬に近づくにつれ、徐々に顕になる体を見てゾッとした。  
大きな傘の下には濁った色をした何十もの触手が束ねられていた。  
体長はご主人よりも低く見えるが、横に広がっているせいでかなり大きい。  
ずりずりと音を立て砂を巻き込んで前進し、体を引きずるために動かしている触手は波打ち蠢く。  
ああ、もう本当にダメだ。  
ご主人を呼ぶ声も出ないし、果たして出たとしても助けが間に合うだろうか。  
じっとして抵抗しなければ、それほど酷い目に遭わずに済むかもしれない。  
昔メノクラゲっていうポケモンに刺されて一日中のた打ち回って泣いた苦い思い出がある。  
メノクラゲはもっと小さかったけど、多分そいつの進化系だと思う。  
刺されたらもっと痛いだろうなぁ…。  
選択の余地が無い葛藤を繰り広げていると、ポケモンは遂に私の前へ来た。  
そのポケモンが触手を私の方へと伸ばす。  
覚悟を決めて目をぎゅっと閉じて顎を引いた。  
 
「こんにちは」  
 
綺麗な声に思わず顔を上げると、その声に相応しい柔和な目が見えた。  
「もし木の実が余ってたら分けてくれませんか?」  
触手は私の背後に向けられていた。  
 
「あ…あ、は、はい!」  
想像していたことが大きく外れて不意を突かれた私は、手に持っていたオレンの実を急いで手渡す。  
何とか一安心……いや、でも。オレンは私も好きだし無難な木の実だとも思う。  
だけどこのポケモンもそうとは限らないし、第一これじゃなくて後ろの木の実を指していたんだから。  
もしオレンが嫌いだったら…八つ裂きにされちゃうとか食べられちゃうとか海に引きずり込まれちゃうとか。  
「いや、あああの、嫌いだったらごめんさい!」  
「いえ、何でもいいですよ。ありがとうございます」  
そう言うとポケモンはとても美味しそうにオレンを食べた。  
…なんだか拍子抜けだ。悪いポケモンではないらしい。  
「ん?何か可笑しいですか?」  
「だって、すごく美味しそうな顔してるから」  
私は少しだけ笑った。  
 
 
食べている光景を一部始終見たあと、背後の木から木の実を幾つか取った。  
私もお腹が空いているし、彼女も1個じゃ足りないだろうからたくさん。  
「そんなにいいんですか?」  
「私のじゃないから分かんないけど、多分大丈夫ですよ」  
 
そのポケモンの名前はドククラゲというらしく、外見からオスだと思ったけどメスだった。  
ドククラゲさんは世界中の海を旅しているらしく、丁度私と同じくこの海岸に着いたのだと言う。  
実際彼女は陸地にいるのが苦手で、気を付けないと干からびてしまうらしい。  
だからごはんの後、ドククラゲさんは海に浸かって、私は波打ち際ギリギリの所で座っていた。  
そんな話をしていた時、ご主人が様子を見に来た。  
彼は私がドククラゲさんと一緒にいるのを見てとても驚いていた。  
「ど、ドククラゲ!?キルリア、ねんりき!」  
攻撃命令されたのを聞いて、私は少し腹が立った。  
私はドククラゲさんにくっ付いて、大げさなくらい首を振り、命令を拒否した。  
「え?ああ、大丈夫なの?」  
その様子を見てドククラゲさんに懐いていることが分かった彼は、少し安心したようだ。  
「もう少しここにいるの?」  
頷いて返事をすると、  
「遅くならないうちに帰ってくるんだよ」  
と言って村へ戻っていった。  
 
見送って、ご主人の姿が見えなくなってから、溜息を吐いて体の力を抜いた。  
「今のはご主人様ですか?」  
「まぁ、はい…」  
彼の対応には軽くショックだった。た、確かに私もドククラゲさんのことをちょっと不気味だと思っていたけど…。  
でも!今は良いポケモンだって分かってるからそうは思わなくなった。  
目は吸い込まれちゃいそうな位素敵な黒。  
赤い玉は水晶玉みたいに丸くてルビーみたいに赤いし、この傘に至っては水色に透き通っていて綺麗で、その上ぷにぷにしてひんやりして…。  
「あ…」  
ずっと海にまで浸かってドククラゲさんに抱きついていたことに気が付いた。  
「っ!!申し訳ございません!」  
離れることだけを考えて飛び退いたせいで、砂浜にダイブしてしまった。  
砂に顔面を埋めるドジな私に波は追い討ちをかけた。  
「大丈夫ですか?」  
「ごめんなさい…」  
「別にいいじゃないですか。キルリアちゃんは女の子で私もメスなんですから」  
その言葉に心臓が射抜かれた。  
予想外の方向からギガインパクトを喰らったような…経験は無いけど。  
「ところで、もしかして私ご迷惑でしたか?」  
「ぜ、全然!」  
私も一緒にいられるのは嬉しいし、今日会って初めてのポケモンにこんなこと思うなんて自分でも驚いている。  
ただ、込み上げてくる不思議な感情だけはずっと燻っていた。  
 
私は海に対して、あまりいいイメージを持っていなかった。  
街の港近くの海は泥水の色と死んだ魚の臭い。空は淡い水色なのに海はどこまでも暗い。  
そんな海を見るたびに、落ちたらそのまま地獄まで引きずりこまれるじゃないかと思った。  
だけどドククラゲさんの旅の話は尽きることが無くて、私はずっと飽きなかった。  
幻の島の話、火山の島の話、巨大なポケモンの話、海底に眠る伝説のポケモンの話…。  
確かにこの海も素晴らしくて、私もいろんな所を回ってみたくなった。  
私も自分の旅の話をして、ドククラゲさんも羨ましそうにしていた。  
「一緒に冒険とか出来たらいいですね」  
そんなことを言われて私の胸はまた高鳴った。  
本当に行けたらいいのに。  
「ですねぇ」  
私も冗談のつもりで答えたけど、じゃあ行きましょうなんて言われることを期待していた。  
会って1日も経ってないのに何思ってるんだろう。  
当然その後冒険をする約束をすることには至らなかった。  
 
そんなことをしていたらあっという間に時間は過ぎて、彼女の傘が透き通ったオレンジに変わっていた。  
「そろそろご主人様の所に戻らないといけないんじゃないですか?」  
自分の中では久しぶりに友達が出来たと思っていたのに。いきなり友達っていうのも失礼かもしれないけど。  
「うーん、そうですね…」  
別れるのが惜しくて腰を上げるのが億劫になった。  
「キルリアちゃんってもう出発するんですか?」  
「ううん、主人は暫くここにいるって言ってました」  
「じゃあ、私も出発するのはいつでもいいので…また一緒にいてもいいですか?」  
「本当に!?」  
そんな言葉が聞けるだなんて思ってもみないことだった。  
約束を交わした後、おやすみなさいと言ってドククラゲさんは海へ潜っていった。  
見えなくなるまで手を振って、村にある小屋へと戻った。  
 
夕食の時に、ご主人がいろいろとドククラゲさんのことについて聞いてきた。  
仲良くなったのかとか、何をしてたんだとか。  
言葉は通じないから踊って表現する。私は感情をダンスで表すポケモンなのだ。  
「こらこら、今は食事中だよ」  
彼は笑って私に注意した。  
だって明日も会えることを考えたら嬉しくて、すごくドキドキしていたんだから楽しくてしょうがなかった。  
でも、笑っていた彼の顔はどこか悲しそうでもあった。  
 
…熱い。  
 
「ん、はぁ…」  
 
体が熱くて眠れない。  
いつもご主人とは一緒の布団で寝ているけど、今日ばかりはボールに入れられたい。  
さっきからずっとドククラゲさんのことしか考えられなくて、変な感情が今になって再び込み上げてきた。  
胸が苦しくて体がなんだか寂しい。  
手持ち無沙汰からご主人と共有している毛布を引っ手繰ってそれを抱きしめる。  
余計に暑くなってしまうけど、こうでもしないと体がどうにかなりそうだった。  
 
「いや…ふぅ…」  
 
このままじゃ、ご主人が起きちゃうよ…。それにこの声がどういう時に出るものかも知っている。  
遂に下腹まで熱を持ってじくじくと疼く。  
原因として考えられることなんて1つしか無かった。だけど信じられない。  
私は…今までに恋をしたことが無いからその感覚が一体どのようなものなのか分からない。  
そもそもメスがメスに恋をするなんてことは有り得ない、はずだ。しかもたった1日でここまで…。  
でもそれを認めないと見えてこない感情が怖かった。  
 
「…………」  
 
下腹の、更に下に手を伸ばしてみる。  
「ぁ…」  
話では聞いたことのある、自分の秘部にこのような形で触れるのは初めてだった。  
しっとりと濡れている部分に指をやり、それからを手探りで見つけた小さな突起に軽く触れる。  
「あっ…!」  
「う…ん」  
「!!」  
ご主人の声が聞こえた。  
急いでそこから手を外して体を毛布で隠すように押し付ける。  
血の気が一気に引き、体なんて嘘みたいに冷たくなった。  
 
「…………」  
「………………」  
良かった、ただの寝言だ。それにしても、ご主人の横でこんなこと…。  
ドククラゲさんのことを考えてこんないやらしいことをするなんて、私はどうかしている。  
ただ毛布に顔を埋めて罪悪感を感じていた。  
 
胸から喉まで詰まりそうなくらいの緊張が取れていくに従い、体は再び熱を帯びていく。  
感情にずっと苛まれながら、毛布を掴んで体が動かないようにして朝が来るのをひたすら待つ。  
眠れない夜ほど嫌なものは無いって改めて知らされた。  
 
フライパンのジュージューいう音に気付くと、既に朝になっていた。結局は眠っていたらしい。  
「おはよう」  
「きるぅ」  
挨拶をしてベッドから降りると、体の異変に気付いた。急いで小屋の扉を開け、外へと出て行く。  
「キルリア!」  
ご主人の声が聞こえたが、構わずに海へと突っ切った。  
朝の海は少し冷たい。体を微かに震わせながらゆっくりと海に腰まで浸かっていく。  
そして秘部から零れそうになっていた愛液を洗い取った。  
昨日の夜はこんなになってなかったのに…。  
ご主人がやって来て、  
「どうしたの?ああ、ごはん前にこんなにしちゃって…」  
と言って小屋に私を戻し、彼はタオルで丁寧に体を拭いてくれた。  
 
 
朝食を食べた後ご主人は、  
「今日はゆっくりとここにいようか」  
と言ったが、私は首を横に振った。  
「もしかして、今日もあのドククラゲの所に行くの?」  
私は首を縦に振った。  
彼はばつが悪そうな顔をして、  
「本当はあんまり仲良くしてほしくないんだけど…」  
と言った。  
またこのヒトはドククラゲさんのことを悪く言う。  
「きるっ!きるー!」  
私もムキになって反抗すると、彼は驚いていた。  
「わ、分かったよ…じゃあ、気を付けるんだよ」  
よく思えば、彼に反抗したことなんてあまりなかった。居心地が悪くて一目散に小屋を出た。  
 
約束した場所近くまで来て、ピタリと足が止まった。  
約束通りなら向こうでドククラゲさんが待っててくれているはず、だけど今になって急に会うのが恥ずかしくなってきた。  
会ってからのことは想像に難くない、それまでの過程が難しい。  
行く決心がつかないで途方に暮れる。とりあえず息を整えてから、と深呼吸をすると、海に赤と黒の影が見えた。  
「おはようございます」  
「きゃあ!」  
ドククラゲさんが勢いよく海中から出てきて、飛沫が体にかかった。  
「いきなりびっくりしたじゃないですか!」  
「ごめんなさいね、待ちながら海を泳いでると姿が見えたので」  
ドククラゲさんは触手を一本伸ばして頭を掻いた。  
「とにかく、今日も会えて良かったです」  
忘れていた気持ちを思い出して、心が甘く犯されていくのを感じた。  
「そう、ですね…」  
また体が熱くなる。胸がドキドキして苦しい。  
「じゃあ、あっちに行きましょうか」  
「はい」  
特に何処にいても構わないんだけど、いつの間にか果樹の前が席となっていた。  
ドククラゲさんが木の方へ泳ぎ、私もそれについて歩いて行く。  
 
「ところで、どうしてそんなに顔が赤いんですか?」  
「あ、赤くなんてないですよっ」  
本当にこのポケモンは――。優しかったり、真面目になったり、意地悪したり、無邪気だったり。  
「何を焦っちゃって…可愛いですねぇキルリアちゃんは」  
「ちょっと!」  
「その分かりやすい反応が可愛いですよ」  
それも全部含めて、やっぱり本当にドククラゲさんが大好きだ。  
彼女と私との間は打ち寄せる波で隔てられていたけど、それでも良かった。  
 
それからは昨日の話の続きをしたり、眠くなったから一緒にお昼寝したり、ドククラゲさんから技も教えてもらって練習したり。  
私にとって最も重要な話は全くしなかった。  
夕日が見えたところでご主人が迎えに来て、お別れしてまた明日。  
彼がぎゅっと手を握ったので、手を繋いで一緒に帰った。  
夕食時、彼は楽しそうに今日の出来事を一方的に話して、私のことは何も聞こうとしなかった。  
でも、楽しそうな顔の裏には酷く悲しい内面がある。知りたくもなかったのに勝手に負の感情を感じ取ってしまった。  
ご主人の他愛もない話は上の空だったので、あまり覚えていない。そして今夜も暑かった。  
 
 
翌朝も出ようとしたときに、  
「今日も?」  
とご主人は尋ねた。  
頷くと彼はいってらっしゃい、と優しく微笑んだ。  
 
今日はなんとドククラゲさんと冒険しに行くことになった。昨日とても素敵な場所を見つけたらしい。  
ただその場所は陸に繋がってないそうなので、私はドククラゲさんの傘に乗せてもらった。  
その間は緊張しっぱなしで、密着していることにすごくドキドキしていた。  
暫くすると、小さな入り口のある岩窟に着いた。  
短いトンネルをくぐると、更に透き通った海と小さな島が現れた。  
海は七色に輝き、ぽっかりと浮かんだ島には短い草が生え、たくさんの果樹がある。  
「素敵な所だと思いませんか?」  
「確かに」  
ドククラゲさんの言う素敵な場所とは、海がとても綺麗で食べ物がたくさんある所だったのだ。  
彼女らしくて私は笑いながら答えた。  
 
木の実は見たこともない珍しいものばかりで、どれも美味しい。  
たらふく食べた後にまた話をした。  
「いつもの所もいいですけど、ここはすごく綺麗ですね。なんだかドククラゲさんとちょっと旅ができて楽しいです」  
「ちょっと近いですけどね、まぁ、遠くに行くわけにもいきませんしね。私もキルリアちゃんと来ることができて嬉しいですよ」  
ドククラゲさんは私を悪くは思っていないと思う。  
でないとこんなこと言ったり、一緒に遊んでくれたりはしないはずだ。  
大きく深呼吸をする。  
この会話からタイミングから繋ぐのは不自然だとは思うけど、自分の中では言わないわけにはいかなかった。  
「あの…」  
面映いけどしっかり目を見て話す。  
「私、ドククラゲさんのことが好きです…」  
今すぐにでも穴があったら入りたかった。こんなこと言ってドン引きされるかもしれないし、嫌われるかもしれない。  
だけど、ドククラゲさんはニコリと微笑んで、  
「私もキルリアちゃんのことが好きです」  
と言ってくれた。  
それを聞いて、安堵の胸を撫で下ろした。  
「勿論。だってもう友達じゃないですか、って勝手に思っているんですけど」  
ドククラゲさんが私のことをそう思ってくれていたのはとても嬉しい。  
「私も友達だったらいいなって思ってました…」  
「わぁ、良かったー。じゃあ、私達友達ですね!」  
 
よく考えてみると、ドククラゲさんの対応がなんだか予想していたものと違う。  
私が恋愛対象として好きだという意味ではなく、友達として好きだと捉えているのかもしれない。  
ドククラゲさんは私と友達になったことにすごく喜んではいるけど、肝心な所に言及はしなかった。  
彼女は、私も大好きですよと何度も言ってくれたけど、恋心からのものではないというのは顕然だった。  
ドククラゲさんと私が異性だったら、言わんとすることは分かってもらえただろう。  
まさか私が自分に恋しているだなんて、思うはずがなかったのかもしれない。  
 
日が暮れ始め、そろそろ帰ることにした。  
移動するには幾分時間が必要だし、ご主人も待っているかもしれない。  
ちょっと失敗したけど、まぁ告白して気持ちが大分楽になった。  
また明日も行きましょうと言って、村の方へと向かう。  
遠くに砂浜が見え、ご主人らしき人が見える。  
しかし近づくと何やら様子が変だ。何だか慌てているように見える。  
砂浜に着いてドククラゲさんから降りると、急にご主人に抱きしめられた。  
「無事で良かった…」  
彼がそう言うと、後ろでドククラゲさんが、  
「もしかして、勝手に連れていって不味かったんでしょうか」  
と心配そうに言った。  
まさにその通りで、  
「明日の朝にもうここから出よう」  
と彼は言った。  
「今日の朝に決めて、買い物や準備をしている間にこんなことになってるとは思わなかったよ」  
私が嫌がっても、彼は考えを決して曲げてくれない。  
 
「ほら、今日でお別れだからさよならしておいで」  
ご主人から下ろされ、私はドククラゲさんの方へと歩きだす。  
「その通りみたいです…。明日、旅に出るって」  
「ごめんなさい、勝手にこんなことしちゃったから…」  
ドククラゲさんは全然悪くないのに、そんなこというのは悲しかった。  
「ドククラゲさんとはお別れしたくないです」  
「そうですね…」  
私の中ではもう考えが固まっていた。  
私は優しくドククラゲさんを抱きしめる。ご主人から見たら、別れの挨拶に見えているだろう。  
「ドククラゲさん、目を閉じて、さっきの場所を思い出してください」  
「?…はい」  
「体の力を抜いて…」  
私もぎゅっと目を瞑る。  
キルリア!というご主人の声が聞こえたような気がした。  
瞼の力を抜いてゆっくり瞼を開けると、ドククラゲさんを抱きしめたまま、小さな島の上に立っていた。  
 
 
「あれ…?」  
「テレポートを使って戻ってきたんです」  
「そうなんですか…」  
私は腕を緩めてドククラゲさんを離した。  
 
「でも、ご主人様の所に帰らないと」  
ドククラゲさんがそう言ったけど、私はもうそんなことよかった。  
「…ご主人様と何かあったんですか?」  
私はこの村に来てからのことを喋った。ドククラゲさんにはあまりいい話でなかったけど。  
「ご主人様がそんなこと言うのも、キルリアちゃんを大切に思っているからこそだと思いますよ」  
「でも!」  
「だから、野生の私が信用されないのも仕方がないです。外見もこんなですしね」  
「そんなわけない、私はドククラゲさんとこれからもずっと一緒にいたいです」  
そして、さっきの告白をもう一度。  
「私、わたしは…ドククラゲさんのことが本当に好きです」  
ドククラゲさんは少し驚いているようだった。でも、ちゃんと伝わったということでもある。  
「ありがとうございます。なんか照れますね…」  
ドククラゲさんは満面の笑みを浮かべた。だけど、私も好きです、とは言ってくれなかった。  
「だから私、お願いです、私も旅に連れて行ってください!」  
「ふむぅ、なるほど…」  
そう言ったきり、次の言葉を考えているようだ。私は彼女をじっと見つめて返答を待った。  
 
 
日も沈みかけた頃、ドククラゲさんはようやく言葉を発した。  
「キルリアちゃんが私を想ってくれているその気持ちはとても嬉しいです。でも、私達は住む場所も体つきもまるで違う。  
旅の途中では困難もあるでしょう。私はそれを乗り越え守っていける自身がありません」  
その時点で、ダメだということを諒解した。  
「私なんかより同じ環境を共に生きていけるご主人様といてください。まだ若いキルリアちゃんに不自由させたくはないですから」  
そうですよね、ありがとうございます。  
まぁ、私のことを何とも思ってないのは分かりきったことだった。  
独り言みたいに呟いて、少しだけ泣いた。  
「私はメスですけど、告白してもらえたのは本当に嬉しいですよ」  
ドククラゲさんは私をふわりと抱きしめた。  
背中に回された2本の触手は、思ったよりもずっと柔らかく、女の子らしかった。  
 
 
ドククラゲさんに会ってから3日しか経っていないけど、こうしてもらえるのをずっと待ち焦がれていた。  
私も腕を背中に回した。寂しさを埋め合わせるように、強く。  
「んっ…」  
傘――体は柔らかくてひんやりしていて気持ちいい。火照った私の体を冷ましていく。  
だけど私の胸の中は絶えず熱く、熱く滾った血が全身に流れ込む。  
「ドククラゲさん…」  
弾力のある体に押し返されそうになるも、満たされたくて体を押し付ける。  
欲情に駆られての行為だということも、これ以上の私の望みも、ドククラゲさんは分かっているようだった。  
「明日帰りますから、今日は一緒にいてもいいですか?」  
「ええ」  
ご主人が心配しているかもしれないけど、ドククラゲさんといられるのは今夜だけ。  
勿論、ご主人も好きです。でも、今回だけは目を瞑っていてほしい。  
今は彼女しか見えないから。  
 
私は腕の力を抜き、触手の間を潜って彼女の頬に軽くキスを落とす。  
正確には目の下辺り。口は鋭く長い毒針と触手で狭まれていたのでとても届きそうにはなかった。  
ドククラゲさんの体がピクリと反応した。  
そして再び触手で私を捕らえ、優しく覆い被さり、触手で地面を支えながらゆっくりと私を倒した。  
薄暗い中で、彼女の目が私を覗き込み、しっかりと視線を合わせる。  
一方的にキスなんてしてしまったのに。私は恥ずかしくなって視線を逸らした。  
「ん、でも…」  
「あんまり我慢してると体に良くないですよ」  
そう言って、私の頬に触手を軽く触れ合わせた。まるでさっきのキスを返してくれたかのように。  
不意に別の触手伸び、私の腹を撫でた。  
「ひぁっ!」  
私の体は大きく跳ね、反射的に手足が縮こまる。  
「まだお腹を触っただけじゃないですか」  
ドククラゲさんがケラケラ笑って、もしかして初めてですかと私に意地悪な目を向けた。  
今のは緊張していたのといきなりだったからで…という言い訳をしている最中に、  
「ゃあぁっ!」  
触手が私の脇腹にうねり潜り込む。私は更に大きく反応した。  
「この様子じゃあ最後まで持ちそうにないですね…」  
「お腹の横は反則ですっ!」  
 
…ずっとこのままでいられたらどんなにいいだろう。  
終わりなんて来ないで、ひたすらイチャイチャしていたい。  
 
「あっ、だめですってば!いやぁ!そこ、ばっかり!」  
私の弱点を見つけたドククラゲさんは、執拗に脇腹ばかりを捏ねくり回した。  
くすぐったくて体を捩って逃げても、彼女の体に狭まれて袋小路になってしまう。  
「可愛いなぁ、キルリアちゃんは」  
触手の動きが止まり、次に体の上部へと移動された。  
 
触手が鎖骨を撫でる。  
最も激しく動く場所に近づき緊張もするが、敏感な部分を弄られた後なので、まだ呼吸を整えることが出来た。  
――が、  
「きゃっ、ぁああん!」  
そうと見せかけて、差し伸ばした触手がまたも脇腹を捕らえる。  
「ふ、ひどい…。あ、ドククラゲさんっていわゆる…Sってやつでしょう?」  
「私はSじゃないです。キルリアちゃんがMなだけです」  
「ち、違いますから!」  
ドククラゲさんの目がやたらとにこやかだ。熱くなる分彼女に余計火を点けているのかもしれない。  
「…ドククラゲさんのえっち」  
こっちが負けて目を逸らし大人しくしていると、腹の触手を外し、上の方の愛撫が再開された。  
「ぁ…」  
少し解れたとはいえ、彼女が何処かに触れる度にくすぐったい感覚に苛まれる。  
 
優しくくねる触手が、徐々に下がっていく。  
私の胸へと到達し、鼓動と触手が連動しているような気がした。  
「すごい…私の所まで響いてますよ」  
とドククラゲさんは言った。その言葉は恥ずかしくもあるけど、繋がっているという一体感が嬉しい。  
「恥ずかしい…」  
白いドレス状の体越しに伝わる動きにもどかしさを感じる。  
 
少し撫でた後に触手は再び腹を通過し、ドレスの中へと入り込んだ。  
無いに等しい胸を認識出来る、唯一の部分を探り当てられた。  
「ひっあ!あぁん!」  
今までとは違う刺激に体はビクッと反り返った。触手は構わずにドレスの中を踊り続ける。  
驚きで埋め尽くされた脳内が、徐々にそれを快感であると認知していく。  
「や、やめっ!はぁっ!あ!」。  
横からやってきた触手がもう1本入り込み、中で2本の触手が暴れ回った。  
更にもう1本が私の体の首、背中、腹、腰…あらゆる部分を踊り狂う。  
「だめっ!だめっ!いやぁん、んぁ!」  
呼吸が乱れ、息継ぎもままならない。快感の波が確実に私を蝕んでいく。  
 
 
暫くして触手の動きが緩慢になってきた。  
そのうちに動きは止まって2本は撤収し、1本だけが残った。  
「はぁ、はぁ…」  
「大丈夫ですか?」  
息が絶えて余裕は無かったが、ドククラゲさんに微笑んで返事をした。  
「じゃあ、もう少しいきますよ…」  
触手が動き出し、這っていった部分がくすぐったい。そして私の下腹に触手が近づいてくる。  
興奮は最高潮まで達し、緊張から足をきつく閉じて彼女の侵入を防いだが、いとも簡単に太腿を抉じ開けられ、私に拒む権利なんて無かった。  
いざとなってみると恐怖を感じる。  
強張った私をドククラゲさんは体を擦りつけて宥める。  
「んっ…」  
触手が私の秘部に触れる。  
くちゅっ、と微かに音がした。  
「分かりますか?キルリアちゃんのここ、すごく濡れてる」  
「いや…」  
恥ずかしくて今すぐ止めたい、だけどもっと気持ちよくしてもらいたくて堪らない。  
私の願い通り、触手は少し上の方を向いた。  
「っ!」  
耐え難い刺激が全身を駆け巡る。  
自分ではほとんど触れられなかった所を、ドククラゲさんは大胆に刺激を与えていく。  
「ひっっ!ああっあん!やぁあ!」  
ぐちゃぐちゃといやらしい音を立てて、私はこんなに…。  
下腹の痺れは私の…クリトリス、に集中して集まり、触手はいやらしい私を虐げる。  
 
ドククラゲさんは、クリトリスを突付いたり、擦ったりしながら様々な感触を与える。  
「ん、ふっ…。はっぁ、ああぁあやぁ…」  
私の体が痙攣を始め、頭はそのことで一杯だ。そこも私の準備は出来ている、と思う。  
ドククラゲさんは動きを一向に止めないでいたので、自ら催促することにした。  
「ドククラゲさぁん…待って…」  
彼女の体を腕でつっかえる。状況を理解したのか、触手の動きが止まった。  
「もう、限界です…。お願いします…」  
ドククラゲさんを求めている秘部はひくつき、彼女欲しさにそこを押し付ける。  
「ねぇ、ドククラゲさん」  
ところが、彼女は何も言わずにただそこをゆっくりと掻き回す。行為を渋っているようだ。  
誰かに聞いたことのある話によると、初めてはとても痛いらしい。  
本当は少し怖いけど、彼女にしてもらえるのなら構わない。それが私の本望だ。  
「早く」  
「ごめんなさい…」  
「え…?」  
一瞬何を言ったのか分からなかった。  
もう一度お願いしようとすると、別の触手が私の頭を撫でる。  
今になって、彼女が触手を丸めていたことと、体を少し浮かせていることに気が付いた。  
 
 
「ご存知の通り、私の触手の先端には毒針が仕込まれています。目の間に付いているこれもそうです。  
私の体は毒だらけなんですよ。今はこうして先端を曲げて触っていますけど、これをキルリアちゃんの大事な所に入れるわけにはいきません」  
 
確かに先端を触れずして、中に入れることなんて出来っこない。  
「私は構いませんから…」  
「ダメです。特に粘膜は傷つき易いですので」  
過去に刺された痛みを思い出し、身震いした。  
私はドククラゲさんで埋まる視界から隙間を見つけ、島にある木の実を確認する。  
「ほら、あそこにモモンの実もなってるし、オボンの実だって…」  
「そういう問題じゃないんですよ」  
ドククラゲさんは私を抱き寄せた。鋭い毒針が刺さらぬように。  
「それに、キルリアちゃんにはこれから出来る、私なんかよりも大切な男の子のためにとっておいてほしいんです」  
何故今になって言うのか、他のポケモンの話が出てくるのか分からない。  
だけど文句を言ってもどうしようもなかった。  
種族の違い、異性同士との違い、最初から私達はその垣根を越えられるはずなんてなかったのだ。  
愛さえあれば、かもしれないけど、愛してるのは私の一方通行だというのが事実。  
そして彼女の意図はよく理解出来ない。これはどれだけ人生を経験しても分かるものではないのかもしれない。  
 
 
「分かりました…」  
これ以上のことは諦める。ちっとも分かってはないのに、早く続きが欲しいから私が折れることにした。  
「さっきの、ください」  
ドククラゲさんは頷いて再び私を地面に寝かせる。  
私の足を開かせ、先端を丸めたぬるりとした触手が入り込んだ。  
失われていく感覚が息を吹き込み、私の体を侵していく。  
「ふぅう、あっ、は」  
少しでも繋がっていたくて、彼女に腕を伸ばして抱きしめ強引に引き寄せた。  
触れ合った際に一瞬電撃が走った。  
「危ないじゃないですか!」  
「ふはぁ、ドククラゲさんっ。今の、気持ちいい…」  
「え?」  
ドククラゲさんが体を離すと、その端に愛液が付着して、てかっているように見えた。  
彼女は体を下の方へずらし、触手をそこから外した。  
「ちょっとこの体勢は…恥ずかしいですね」  
と言った彼女の声は、少しはにかんでいる。  
顔から足の方まで体が被さり、秘部にはゼリー体が密着している形になった。ひんやりしていた所がいつの間にか熱を帯び、温かい。  
 
ドククラゲさんが上下に動き出し、全身が彼女と擦れる。  
存在を感じつつも、私は熱く滑った部分に集中した。  
そこの部分は擦れる度に愛液を絡め取り、より滑らかになったそれはただ一点の官能をより高めていく。  
「や…やぁっ、あふぅ…ん」  
「キルリアちゃん…」  
私を呼ぶ声がいつもになく甘美に揺れている。  
不思議な感じはしたものの、声はより私の興奮を高めた。  
 
動きが一層速くなり、ぐちゅぐちゅという卑猥な音は大きさを増す。  
未だ経験したことのない絶頂とやらも、すぐそこまで来ているのかもしれない。  
ぞくぞくと腰に火柱が立ち、自らも腰を振る。  
「やああっ!ああんっ!」  
「はっ…あ…」  
ドククラゲさんからも喘ぎが聞こえる。  
彼女にも何処かに触れている部分があるのだろうか、と考えたが、頭を埋め尽くす快感に取り払われた。  
「ひっ、は、わ、私…もう…」  
頭がぐらぐらする。  
何かが来る恐怖と興奮に慄き、ドククラゲさんを抱きしめる。  
腕の中で激しく動く彼女を止めることが出来ない。  
痺れが下腹に集結し、内部から自分が崩れてしまうような感覚がした。  
「もうっ、だめぇ!ああっ、壊れちゃう…」  
「どうぞ、お嬢様っ…!」  
「ああんっ!ふ、ふああっ!」  
その瞬間頭が真っ白になり、直後に私の体は大きく震え仰け反った。  
「…あ、あ、いやぁ…」  
浮いた背中をドククラゲさんがしっかりと支えてくれ、そのまま地面に戻される。  
私の秘部はビクビクと痙攣し、彼女の体が数回擦れた後にゆっくりと離された。  
 
 
私は暫く余韻に浸り、ドククラゲさんの乱れた息遣いを聞いた。  
お互い懇ろに抱きしめ合い、私は彼女の体にキスをした。体は熱くなっており、愛液が頬に滑った。  
「ふ…はぁ…」  
「大丈夫ですか?」  
「はい…」  
あんなことでここまで疲労するとは思わなかった。行為の後の時間がこんなにも恥ずかしいとは。  
「それにしてもあんなに感じちゃうなんて、キルリアちゃんたら」  
「なっ、ドククラゲさんがあんなにするから…ていうか最後のお嬢様ってなんです!?」  
「たまにはお嬢様も可愛いかなぁと思いまして」  
本当はお嬢様と言われて嬉しかったりドキッとしたり。  
 
これ以上の恥ずかしいことは御免だったけど、決心してドククラゲさんに尋ねてみた。  
「ドククラゲさんのって何処にありますか?あの、お返ししてあげたいなと思って」  
見る限り、彼女のらしきものはなさそうだった。  
口みたいに触手や毒針で隠されているのかもしれないけど。  
「いや、私は…いいですよ。ありがとうございます」  
うう、断られたら気まずい。汗をかいた所に変な汗も混じった。  
「でも、ちょっとだけ声出していたじゃないですか…」  
「う、うぅん…」  
ドククラゲさんも少し気まずそうに、でも少し悩んだ後に、  
「じゃあ、お願いします」  
と言って、私から触手を離して仰向けになった。  
 
私はドククラゲさんの上にそっと乗った。  
「傘の裏側が、まぁ、その…」  
自分の番になった途端、恥ずかしがっているのが可愛らしい。  
傘状の体に触る時にしっかりと彼女の目を見る。  
体の内側に手をかけ、持ち上げるようにして触った。  
すっかり暗くなって構造は見えないが、なにやら溝か管のようなものが手に感じられる。  
指でツーっとなぞると、体が揺れ動いた。  
「…っ」  
少しだけど反応あり。  
私をあんなに虐めたドククラゲさんに何を差しあげましょうか。  
ゆっくりと丁寧にするのもいいけど…。  
内側に顔を埋め舌を這わせる。  
「あっ」  
ちょっと潮の味がした。  
ゆったりと這わせたり、小刻みに動かしたりして緩急をつけ、そうすると反応が顕著になっていく。  
「くっ、ふ…」  
自分でもこんなことをしているのは恥ずかしいが、ドククラゲさんが気持ち良くなってくれているのなら嬉しい。  
 
「はぁ、はっ…」  
「ほら、もうちょっと声を出してくださいよ?」  
あああ、もうこんなことまで言っちゃって!  
嬉々としている私の背後に、闇と同化している影が迫っているなんて知る由もなかった。  
触手の束の上にちょこんと座っている私の足首に何かが絡みついた。  
「――あ?」  
時既に遅し、足は後ろへと引っ張られて、私は前のめりになって倒れた。  
彼女がクッションとなり何ともなかった。  
しかし、足に絡まった何かが両足を外に引っ張り、大きく股を開く形に。  
勿論、それはドククラゲさんの触手。  
開いた所にやってきた触手が私の秘部で暴れだした。  
「きゃあ!?ああっ!ひぁぁん」  
ぐりぐりと押し付けられ、細かく擦られ…。  
「止めて!だめぇっ!」  
「キルリアちゃんも強気に出たものですねぇ。でもこっちの方が合ってますよ」  
達してから時間も経ち沈静したが、それが再び込み上げてきた。  
「だめですって!いや、いやぁあ」  
「ほら、動きが止まってますよ?」  
意地悪く囁くドククラゲさんに胸が高鳴る。私は彼女に弱い…。  
 
傘を支えて痺れ震えた舌で突付く。  
下から来る快感に溺れ没頭したいけど、動きが止まると触手の動きも止まってしまう。  
だけど舌が思うように動かない。  
このジレンマの中で私はどうすればいいのだろうか。  
「ほんっと、ん、あ、い、いじわるですね!あんっ!」  
息も絶えそうになりながらも振り絞ると、ドククラゲさんは嬉しそうな声で、  
「それは褒め言葉ですか?」  
と言った。  
 
「はぁ…むぅ…」  
「気持ちいいですよ、キルリアちゃん」  
早く終わってほしいけど、気持ちいいと言いながらドククラゲさんはまだ余裕そうだ。  
むしろ私の方が先に限界が来そうな程。  
必死に舌を這わせ、指でもあちこち刺激する。  
「気持ちいいですか?」  
「…………」  
ドククラゲさんが尋ねるが、恥ずかしくて喋る余裕もなくて返答はしない。  
本当は私の反応を見て楽しんでいるんでしょう?  
「気持ち良くないんですか?」  
「さ、あ、どうでしょうね…」  
「じゃあ、もう少し刺激を強くしましょう」  
「すごく気持ちいいです!」  
ドククラゲさんのキャラがどんどん崩壊している気がする。  
いや、感情豊かな彼女は元々こうなのかもしれない。  
…何にせよ彼女が好きで堪らないことに困ってしまう。  
 
「嬉しいお言葉をくださったご褒美をあげましょう」  
後ろから気配を感じた。  
もう1本の触手が来て加わり、合計2本によってぐちゃぐちゃと掻き回される。  
「…っ!ふぅ」  
そうかと思えば後から来た1本はすぐに離れた。  
「お尻を持ち上げてください」  
足に絡む触手が緩み、膝を立てる格好となることが出来た。  
触手でお尻を撫でられそれを確認した後、触手がお尻に分け入った。  
「!?」  
内側を触手が優しく撫でる。  
「あっ!?な、やぁん!」  
クリトリスや胸とは違う感覚に戸惑い、刺激に驚いた。  
敏感な所を2ヵ所も探られて頭が混乱する。  
「ほら、止まってますよ?」  
「じゃあ、止めてくださいぃ、ふあっ!」  
膝がガクガクと震える。立てていることもやっとだが、倒れることは触手が許さない。  
「んむぅ…ふにゃぁ」  
「はぁ、キルリアちゃん…」  
ドククラゲさんもちょっとずつ来ているのかもしれない。それを願うばかりだ。  
 
 
ドククラゲさんは少し動きを緩めてくれ、何とかやっていくことが出来た。  
彼女の体の内側は私の唾液でどろどろに濡れている。  
喘ぎ声も気持ち大きくなった気がする。  
「はぁ、ん、もうそろそろ…」  
彼女の体はビクビク震え、今まで妨害されてきたのがようやく終わりに近づいたようだ。  
ここから一気に終わらせようとしたが、終わりにつれて触手の動きの激しさも再開された。  
「ちょっ!ああ!ひゃふぅ…」  
力が入らなくなってくるが、とにかくいい加減にでも刺激し続ける。  
それでも最後には私が追い詰められ、腰が立たなくなってしまう。  
頭がぼうっとして、あの絶頂の感覚が再来する。  
「やぁ、もう、わたしぃ…ああっ」  
達してしまう、という瞬間に触手の動きが止まった。  
 
直前に止められてしまい、助かったと思う気持ちより、不満の方が圧倒的に大きい。  
「なん、で?あっ…」  
「どうせなら、ん、一緒に…」  
ドククラゲさんも余裕がなくなってきたようだ。  
もどかしさを必死に耐えながらも、自分の作業を行う。  
少しずつ、そうしているうちに、触手がクリトリスとお尻を突いた。  
「あっ、あっああ!」  
私の声と自身の限界を考え、同時に達するように突くタイミングを調整しているようだ。  
「はっ、あ、ドククラゲさんっ!好きっ、すきぃ…!」  
「キルリアちゃん…!」  
時々止め、少しの間を置いてから突かれ、優しくしたり強くしたりされる。  
何時来るのか分からない感覚がより私を興奮させた。  
声を出すのも止めて、彼女の体に吸い付く。  
その瞬間、ドククラゲさんが私の所を思いっきり押しつぶした。  
「やぁああっ!」  
「……っあ!」  
彼女の体もビクンと震え、そのまま触手をだらんと下げた。  
「ん、は、ドククラゲさん…」  
足から触手が外れ、私は彼女から崩れるように落ちた。  
 
 
暫くして平常に戻り、勿論最初に行ったことは海で汚れを流すこと、それからドククラゲさんに文句を言うことだった。  
「もうっ、酷いじゃないですか!」  
「ごめんなさい、つい…」  
「ドククラゲさんなんて嫌いです!」  
彼女は意地悪なドククラゲさんに戻り、  
「んん?最後に好きだって声が聞こえた気がしたんですが?」  
と言った。  
――私が好きって言っても返してくれないのに。好きだと思うだけ悲しい。  
「私もキルリアちゃんが好きですよ」  
え?  
「こういうの初めてだったのに、やりすぎちゃいましたね。ごめんなさい」  
予想に反して彼女に悪びれていない様子はなかった。  
「……嘘」  
「嘘じゃないですよ。好きじゃない人にこんなことはしません」  
そんなこと、意外だったから、  
「……私も好きですって言うタイミングを逃しちゃったじゃないですか」  
「いつでも言ってくださって結構ですよ」  
じゃあ好きです、と呟いてドククラゲさんに抱きついた。  
 
 
翌日、起きるとドククラゲさんに寄りかかっていた。  
「おはようございます」  
「おはようございます…」  
ドククラゲさんは先に起きていたようだ。  
よく見ると、今日の彼女には何やら艶がない。  
「…もしかしてずっと一緒にいてくれたんですか?」  
「まぁ、そういうことです」  
彼女の体を摘んでみる。  
「かぴかぴ…」  
「水に浸かればすぐに戻りますよ」  
そう言って彼女は海に浸かった。  
 
それにしても、遂に今日が来てしまった。  
気持ちは満たされたものの、やっぱり離れたくはない。  
ドククラゲさんが送りましょうか?と言ってくれたが、断ってテレポートで帰ることにした。  
「そろそろ帰ろうかな」  
「朝ごはんを食べてからにしましょう」  
彼女の提案で木の実をゆっくりと食べた。  
その後に少し話をしたけれど、それも続かなかった。  
 
もうそろそろ…とは思うが、腰が重い。  
ドククラゲさんは私を抱きしめて、お別れの挨拶とした。  
「…………」  
「…………」  
 
ドククラゲさんが私とは旅が出来ないと言ったのに、私に触手を絡めてずっと離さなかった。  
 
 
 
―end  
 

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